2012年度 日本物理学会 第8回Jr.セッション
Jr.セッションは中高生による物理的内容を含む理科の研究発表の場です。
2012年度 日本物理学会 第8回Jr.セッション
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(回答) ダークマターは宇宙の大きな謎の一つですね。近年,いろいろな観測事実が積み重ねられ,最近では,その候補がかなり絞られてきました。最有力候補は,電気(電荷)をもたずほとんど物質と相互作用をしない重い素粒子です。この粒子も巨大加速器LHCで発見されるかも知れません。ダークマター候補の素粒子にもいくつかの可能性が提唱されています。一番有力と思われているのは,超対称性に伴う粒子です。もしこの世界で「超対称性」という対称性が成り立っていると,ダークマターの候補となる素粒子も必ず存在します。また最近では,余剰次元に伴って存在する粒子もダークマターの有力候補になりうることが指摘されています。ここ数年のうちにダークマターの謎が解かれるかも知れません。これも世紀の大発見になるでしょう。(渡邊靖志)
(回答) 実現したい「宇宙空間」を「空気がほとんどない空間」+「非常に弱い重力場となっている空間」と捉えてお答えします。私たちは地球大気の底で生活しており、そこには約3×1019個/㎝3の分子があります。現在販売されている超高真空装置の到達圧力は10-11Paですので、1㎝3あたりの分子の数は3000〜4000個程度です。この真空度は、スペースシャトルの軌道である高度300㎞〜400㎞の環境より高真空です。
また重力は1/r2に比例しているのでなかなかゼロにはならず、高度300㎞にあるスペースシャトルの重力も地上と重力と比べて8%ほど弱くなっているにすぎません。でも、無重力(無重量)区間となっているのは何故でしょう。これは等価原理によって説明できます。等価原理は、重力の効果は、加速度運動することによる見かけの力の効果と区別がつかないとの主張です(アインシュタインの一般相対性理論の基本原理となっています)。スペースシャトルは地球に自由落下しているために、船内では重力を感じなくなっているわけです。宇宙空間のような弱い重力場は、それに見合う加速度運動をすることによってつくることができます。(並木雅俊)
(回答) 人工衛星を地球の衛星軌道にのせるために必要な速さは約7.9km/sです。これを宇宙第1速度といいます。しかし、地球の自転を利用すると、この速さ以下でも軌道にのせることができます。自転を最大限に利用できるのは赤道上での打ち上げです。ここでは約0.5km/sの速さを減じることができます。ですから、赤道近傍で東向きに約7.4km/sの速さ(以上)で打ち上げれば地球の軌道にのります。
また、地球の衛星軌道にのせるのではなく地球からはるか遠くに離れるに必要な速さは約11.2km/sです(√2×7.9)。これを宇宙第2速度といいます。これも自転を利用するなら約10.7km/sで大丈夫です。
しかしながら、宇宙第1速度も、宇宙第2速度も、地球の引力だけを考慮した概念です。太陽の引力も考慮すると宇宙第2速度では太陽系外に脱出することはできません。地球は約30km/sの速さで公転しているので、この√2倍の約42.4km/sが地球軌道からの脱出速さとなります。自転の場合と同じように、公転を利用すると約12.4km/sと減じられます。この値とエネルギー保存法則を使うと、宇宙第3速度である約16.6km/sが求まります。これが太陽系脱出速度となります。海王星や冥王星の軌道まで達するには、通常、木星や土星の重力効果を用いて軌道と速度を変えるスイングバイ(フライバイ)をします。
さて太陽系脱出の探査機のことですが、これはすでに実現されています。パイオニア10号というアメリカの外惑星探査機が1972年3月2日に打ち上げられ、1973年12月3日に木星に接近、1983年6月13日に海王星軌道(1999年までは冥王星軌道の外にある)を通過し、惑星圏を脱出しました。地上では2003年1月23日に弱々しい信号を受信したのを最後に、パイオニア10号の信号を受信することはできなくなってしまいました。計算によると、 60光年の距離にあるアルデバラン近傍に向かっています。1977年8月20日に打ち上げられたボイジャー1号、1977年9月5日に打ち上げられたボイジャー2号も多くの映像を送ってくれました。これらも冥王星軌道の外にあって、カイパーベルト天体の影響を受けるまで、そのままの軌道(いずれかの円錐曲線軌道)を保って遠く彼方へ向かっています。
(並木雅俊)