一般講演

5-001

磁極対向同期リニアモータの磁石多極化および磁気回路設計による推力密度向上

○青山康明・中津川潤之介・志村 樹（日立製作所）

省エネ，制御性向上を目的に産業機器や自動車の電動化が進んでいる。これに伴い，高性能なリニアモータの要求が高まってきている。そこで筆者らは，磁気回路を3次元的に構成し，小型で高推力を実現する高加速リニアモータを開発してきた。今回，高推力密度化を目的に磁極対向リニアモータの多極化および磁気回路の検討を実施した。

5-002

横磁束・縦磁束ハイブリッド型リニアモータの磁極間ブリッジ積層方向の変更による推力向上

◎志村 樹・中津川潤之介・青山康明（日立製作所）

リニアモータ搭載機器の高加速度化を目的に，筆者らは磁極を平板状の可動子永久磁石の両側に配置したリニアモータの開発を進めている。このリニアモータは，コア側面のアーム部を通じて可動子進行方向と直交してモータ内を循環する横磁束と，磁極間のブリッジを通じてモータ内を循環する縦磁束の双方を利用する，横磁束・縦磁束ハイブリッド型のリニアモータである。一方で，コア及びブリッジを構成する積層鋼板は，製造の容易性から可動子進行方向に積層するが，これによるブリッジ部の磁気抵抗増加および推力低下が懸念されていた。本報告では，ブリッジの積層方向を変更した際の推力の向上効果をFEM解析で評価する。

5-003

MRFダンパを用いた新構成2重かごエレベータの地震時における有効性検証

◎山田真輝・川瀬圭祐・工藤慎也・中川聡子（東京都市大学）

近年、ビルの高層化に伴い、高速かつ安全なエレベータが求められている。しかし、現在のエレベータは事故時の非常停止時に生じる衝撃、通常運行時の乗り心地、地震発生時に代表されるかご振動など各状況で安全・快適性に対する課題が残っている。そこで、我々はこの課題を解決するためにMR流体ダンパとバネを用いた新構成の2重かご構造のエレベータを提案している。本稿では、地震時における提案システムの有効性の検証を行った。 MR流体ダンパをパッシブダンパとして用い、停止時のエレベータワイヤの各ワイヤ長それぞれで減衰比を変化させてシミュレーションを行った。その結果、従来のエレベータと比較して最大で90%の振動緩和効果を確認した。

5-004

リニア誘導モータを用いた精密位置決めシステムにおける外乱に対する安定性の検証

◎中内 俊・石渡真文・中川聡子（東京都市大学）

現在の永久磁石リニア同期モータを用いた精密位置決めシステムはそのコストの高さが問題となっており、この問題に対するために我々は構造が簡素で安価なリニア誘導モータをアクチュエータとして用いた精密位置決めシステムを提案している。本稿では、産業界において使用することを想定し、システムに対する各種外乱に対する安定性の検証を行った。アクチュエータへの荷重の変化および、位置決め制定後に外力を加えた際の位置決め性能を確認した。その結果、システムはこれらの外乱に対して安定であるが厳しい条件によっては発散してしまうことが確認できた。

5-005

電流形インバータ駆動リニアスイッチトリラクタンスモータの推力脈動低減法の検討

○平山 斉・川畑秋馬（鹿児島大学）

リニアスイッチトリラクタンスモータ（LSRM）の推力脈動低減法として，Force Distribution Function（FDF）を用いて電流を制御する方法がある。また，LSRMを電流形インバータ（CSI）で駆動することで効率が向上する。しかし，CSIによる駆動では各相の電流波形を独立して制御できないため，FDFを用いた電流制御が適用できない。そこで本論文では，効率の向上が可能なCSI駆動LSRMにFDFを適用するための方法および駆動回路を提案する。磁場－回路連携解析を用いたシミュレーションにより電流と推力波形を算出した結果，本提案手法によりCSI駆動LSRMにFDFを適用できることが示せた。

5-006

Differential Evolutionと電磁界解析シミュレータを用いたサーフェスモータの最適設計

○土屋淳一・安田恵一郎（首都大学東京）

近年、数値解析技術と計算機性能の向上により，シミュレータは種々の機器の設計に用いられている。しかし，シミュレータは形状等を与えその特性を求める事は可能だが，所望の特性となる最適形状を求めるという逆問題を解くことは困難である。筆者らは，シミュレータとメタヒューリスティクス等の最適化手法とモデリング手法を組み合わせた統合的最適化を提案し，実用的な時間で最適設計を可能とした。今回，最適化手法にDifferential Evolutionを用い，サーフェスモータの磁極形状の最適設計を行い，良好な結果が得られたので報告する。

5-007

リニアサーボモータの位置決め制御に適した2自由度PID制御器の簡易設計法の検討

○平原英明・田中 晃・山本 修（職業能力開発総合大学校）

リニアサーボモータ（LSM）は，垂直力やベアリング摩擦などの影響を直接受けるため，高精度な位置決め制御の実現には外乱や負荷変動にロバストな制御器の導入が有効である．そこで本研究では，LSMの位置決め制御器として2自由度PID制御器の適用を提案している．この制御器は一般的なPID制御器と同等の少ない演算量でありながら比較的ロバストな性能を得られる制御器として知られている．これまでの研究では，システムの極配置の極の角度の設定を行うだけで2自由度PID制御器の5つの制御ゲインを一義的に決定できる簡易設計法について検討してきた．今般，電流リミット値，位置指令値，モータ定数に対して適切な位置制御系のカットオフ角周波数を設定する方法についての検討を行ったので報告する．

5-008

自動車駆動用IPMSMの出力密度向上と高効率化に適したロータ構造に関する検討

◎井本涼太・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

近年，地球環境への配慮としてハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などのエコカーが注目されている。これら自動車駆動用モータの大きさは搭載スペースや重量に影響するため，同出力では小型・軽量かつ高効率であることが望まれている。そこで，こうした要求を満たすモータとして埋込磁石同期モータ(IPMSM)が広く用いられている。これまでHEV用IPMSMはより高速回転にすることで小型化が図られており，今後も更なる出力密度向上が求められている。本研究の目的は，小型・高速回転化に適したモータ構造を模索し，高効率化を図ることである。本論文では，小型化した2種類のロータ構造がHEV用IPMSMの損失に及ぼす影響について評価し，出力密度向上と高効率化に適したロータ構造を検討している。

5-009

焼結ネオジム磁石形状の最適化による集中巻IPMモータの全駆動領域高トルク化に関する検討

◎近藤涼太・山崎克巳・成島広樹（千葉工業大学）

本稿では，焼結ネオジム磁石の形状が自由に取れる前提の基，集中巻IPMモータにおける全運転領域のトルク増加を達成する回転子形状を提案し，増加メカニズムを検討した。

5-010

永久磁石同期機における電機子巻線循環電流損及び全損失の低減に関する検討

山崎克巳・◎古橋享大（千葉工業大学）・大口英樹・首藤雅夫（富士電機）

永久磁石同期機の電機子巻線においては，高速領域の運転特性の改善，および製作上の容易さなどから，多数の素線を並列化して束ねて構成する場合がある。一方，スロット漏れ磁束の影響により，各素線の誘導起電力が異なってくることから，並列巻線間で循環電流が少なからず発生し，損失が増加する恐れがある。そこで本稿では，並列素線数を減少させることよる損失低減について検討する。

5-011

A high power density PM motor for electric vehicle application

◎RAMA LAKSHMI SURESH NIMMANA・Akira Chiba（Tokyo Institute of Technology）

A high power IPMSM is proposed in this paper with a rated output power of 250kW and torque of 400N-m. The power density of this machine is calculated to be 45kW/L. The proposed design is realized for a drive system driven by inverter with 355V DC input. The current density is taken to be 21A(rms)/mm2. The current and voltage behavior is studied and owing to the low voltage design, the parallel paths in each phase is evaluated to be eight. The efficiency of this machine is found to be very high at 98.3% for low load and high speed range.

5-012

永久磁石同期モータの高効率化に適した最適化アルゴリズムの検討

◎安藤隆裕・高木茂行（東京工科大学）

現在、国内で消費されているエネルギーのうち約57%がモータによって消費されている。そのため、モータを高効率化し省エネ化を図ることでサステイナブルな社会を実現できる。ここで、永久磁石同期モータの高効率化の一つに、最適な電流値を高速で決定し入力する方法がある。その時の入力電流値の決定方法について、最急勾配山登り法、逐次勾配山登り法、ランダム勾配山登り法、遺伝的アルゴリズムの4種の最適化アルゴリズムを用いて検証したものである。

5-013

IPMSMのブリッジ幅変更による電気特性の改善

今給黎明大・匹田政幸（九州工業大学）・○篠原勝次（元鹿児島大学）

著者らは，これまでに電気学会DモデルIPMSMの磁気等価回路の導出を行い，有限要素法を用いた電磁界解析と磁気回路法の比較を行ってきた。 本稿では，実際に導出したDモデルIPMSMの磁気等価回路を使用して，電気特性改善のための詳細な設計を検討するため，先に，一般に用いられる有限要素法を用いた電磁界解析によってDモデルIPMSMの形状変更を行い電気特性の改善を検討した。検討した結果，DモデルIPMSMについて，回転子のブリッジ幅変更および固定子のスロット形状を変更することで，磁気飽和を緩和して，電気特性の改善を行うことができたので報告する。

5-014

自動設計システムを用いた集中巻IPMSMトルクリプル低減構造の検討

◎浦 聡洋・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

埋込磁石同期モータ(IPMSM)は高効率，高出力であることから幅広い用途に用いられている。特に，集中巻ステータを用いたIPMSMは，コイルエンドを小さくできるため小型であり，また巻線抵抗が低くなり高効率化が可能となるため近年多く用いられるようになっている。一方，集中巻IPMSMは分布巻ステータを用いたIPMSMと比較してトルクリプルが大きい傾向がある。トルクリプルはモータの振動や騒音の原因となるため，低減させることが望ましいとされている。本論文では，遺伝的アルゴリズム(GA)を用いたIPMSM構造の自動設計システムにより集中巻IPMSMの低トルクリプル化を目標とした構造の設計を行う。また得られた複数の構造について考察を行い，トルクリプル低減に効果のある構造設計手法の検討を行う。

5-015

希土類ボンド磁石を用いたIPMSMにおける減磁抑制のためのフラックスバリア形状の検討

◎梅田崇志・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

埋込磁石同期モータ(IPMSM)は，高出力・高効率なモータであり，幅広い用途で使用されている。現在IPMSMでは，ジスプロシウム(Dy)が添加された希土類焼結磁石が用いられている。Dyは輸入の依存度が高く，高価である。そのため，使用量削減が望まれている。この解決策の1つとして，希土類ボンド磁石を用いたIPMSMの適用が考えられる。しかし，希土類ボンド磁石は磁気特性が低く，不可逆減磁が生じる可能性が高まる。そこで本研究では，希土類ボンド磁石を用いたIPMSMにおいて，不可逆減磁の発生を抑制するロータ構造の検討を行う。本稿では，基本モデルおよび異なるフラックスバリア形状を有する耐減磁モデルについて不可逆減磁の評価を行う。そして，フラックスバリア形状が不可逆減磁抑制効果に及ぼす影響について検討する。

5-016

ネオジムボンド磁石を用いたインホイル型アキシャルギャップモータにおける先減磁による不可逆減磁の抑制に関する検討

◎永野翔也・竹本真紹・小笠原悟司・折川幸司（北海道大学）・日野 弥・竹崎謙一（ダイナックス）

ネオジムボンド磁石の長所の一つに渦電流損が発生しない点がある。この長所により，冷却が難しい回転子の発熱を抑制することができる。また，ネオジムボンド磁石は射出成形が可能であるため，回転子を簡単に製作できるという長所も持っている。しかし，ネオジムボンド磁石は角型性が悪いという短所を持っており，通常運転下においても不可逆減磁が発生してしまう。このため，運転状況によって不可逆減磁の発生度合に差が生じ，モータ性能にばらつきが出やすくなる。本稿では，回転子製造時に磁石を着磁すると同時に，予め逆磁界をかけて不可逆減磁させることで，見かけ上の磁石の角型性を向上し，モータ運転時の不可逆減磁を抑制できないか検討を行ったので報告する。

5-017

希土類ボンド磁石を用いた自動車駆動用PMASynRMにおける不可逆減磁の影響

◎小林眞莉香・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪府立大学）

近年，希土類焼結磁石に含まれるジスプロシウム（Dy）等の重希土類元素は，価格高騰や安定供給への懸念などの課題を抱えており，使用量の削減が求められている。このような背景から，筆者らは比較的安価なDyフリー希土類ボンド磁石を用いた永久磁石補助形同期リラクタンスモータ（PMASynRM）を検討している。しかし，ボンド磁石は焼結磁石と比べて保磁力が低く減磁しやすいとった欠点があり，大電流で駆動する自動車駆動用モータへ適用するためには詳細な減磁特性評価が必須である。そこで本稿では，ボンド磁石の減磁特性評価方法を示し，不可逆減磁が運転特性に及ぼす影響を磁界解析により検討した。

5-018

インバータ駆動モータの電磁力計算法

○星野勝洋・蘆田明広（日立オートモティブシステムズ）

モータの振動・騒音の解析には複数の物理現象を取り扱う必要があり、工数が非常に大きくなる。そこで本研究は近年の制御シミュレーションに多く用いられているモータのビヘイビアモデルにギャップ磁束密度の情報を追加し、ギャップ磁束密度からマクスウェル応力を求め制御シミュレーション上でモータ電磁力を計算する方法を検討した。

5-019

2極高速IPMモータの磁石損失評価

○笠井信吾・下田敏章（神戸製鋼所）

2極高速回転モータとして、表面貼付式モータ（SPMM）と埋込式永久磁石モータ(IPMM)を設計し、それぞれの磁石損失を解析比較した結果、IPMMの方が磁石損失が小さくなる結果を得たので詳細を報告する

5-020

キャリア高調波によるマイナーヒステリシスループを考慮した埋込磁石同期電動機の鉄損解析に関する検討

山崎克巳・◎髙木悠太郎・宇都宮竜馬（千葉工業大学）

本稿では，マイナーヒステリシスループを考慮してインバータ駆動時の埋込磁石同期電動機で発生する鉄損を算定する。また，実験結果及び従来の鉄損計算手法と比較することにより，妥当性と有用性を検証する。

5-021

高速IPM分割コアモータの損失解析

◎宮崎 烈・下田敏章・笠井信吾（神戸製鋼所）

環境問題などの社会的な背景から、省エネ性能が求められるようになり、高出力・高効率なモータであるネオジム磁石を用いた埋込式永久磁石モータ(IPMM)が注目されている。このモータの製作方法として一部で採用されているステータコアを分割することで組立て性の向上と巻線の占積率向上を目的とした工法の適用を考えているが、磁気抵抗が増えることにより損失の増加が懸念される。電磁気解析ソフト(JMAG)にて、コアを分割することで上記の効果も狙いつつ、分割によってステータのバックヨークに流れる磁束を均一化することで鉄損を低減することを見出し、モータ全体としての損失も低減できる条件及びメカニズムを見出したので、報告する。

5-022

ネオジム焼結磁石の導電率の異方性が交流磁気損失に与える影響に関する基礎的検討

◎習田祐作・阿古裕弥・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）・北尾純士・山田正樹（三菱電機）

モータの主要な構成要素の一つであるネオジム焼結磁石は，モータの高出力化に伴い，温度上昇に起因する熱減磁が懸念される．したがって，永久磁石の交流損失および導電率を正確に把握し，損失が低減できれば，熱減磁を抑制できる可能性がある．そこで本稿では，3種類のグレードにおいて配向方向が異なる永久磁石の交流損失および導電率を測定した．導電率については，着磁の有無による差異の検討も行った．その結果，配向方向と平行方向の導電率は，直角方向の導電率より小さく，その影響が損失特性に現れていることを確認した．また，導電率は，着磁の有無に依存せず，導電率測定には未着磁の試料を使用すればよいことが確認できた．

5-023

Cauer回路に基づく後処理鉄損評価法の埋込磁石同期モータへの適用

◎蓑輪直紀・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

近年，モータの駆動制御にはPWMが用いられることが一般的となっている．PWM波形には高次の高調波成分が含まれているため，鉄損を正確に評価するためには，表皮効果の影響を考慮する必要がある．しかし，鉄損評価に広く用いられている有限要素法では，細かい有限要素分割が必要となるため，計算コストの増大が問題となっている．そこで注目を集めているのが，Cauer回路とプレイモデルを組み合わせることにより鉄芯材料の動的ヒステリシス特性を効率良く表現する手法である．本稿では，本手法を埋込磁石同期モータの鉄損評価に適用し，有限要素法との比較を行うことでその有用性を検討した．

5-024

キャリア周波数がIPMモータの特性に及ぼす影響の検討

河瀬順洋・山口 忠・◎笠井幹也（岐阜大学）

IPMモータをPWMインバータで駆動する際、入力となるPWM電圧波形には高調波が含まれる。そのため、正弦波電圧を入力したときと比較して、電流、トルク、損失にキャリア高調波の影響が表れる。本報告では、三次元並列有限要素法を用いて、キャリア周波数を変化させたPWM電圧波形を印加した磁界解析を行う。その後、正弦波電圧を印加した場合と比較して、キャリア高調波が電流、トルク、損失に及ぼす影響を明らかにする。解析対象としては電気学会調査専門委員会で提案されているIPMモータのベンチマークモデル（Gモデル）を用いる。

5-025

埋込磁石同期電動機におけるインバータキャリアを考慮した特性評価の高速化に関する検討

山崎克巳・◎寺井雄磨・富樫優介（千葉工業大学）

本稿では，鉄心の磁気特性の非線形性を考慮した静磁界解析と複素数近似解析を組み合わせて，キャリア高調波を考慮した効率マップを高速かつ高精度に求める計算手法を提案・検討する。

5-026

ネオジム系新磁石を適用したdモデル

○新 政憲・田中大介・進士智一・眞保信之・志賀大祐（TDK）

近年の地球温暖化や，環境問題の深刻化に対応するため，産業用機器，建設機器，輸送機器等で高効率化が重要となっている。小型・高効率・高出力という特長を持つ永久磁石モータには，これらの機器への適用拡大が期待されている。このような背景から，磁石メーカーでは高性能，新機能磁石の開発が鋭意進められており，磁石単体の性能にあわせて新磁石を搭載した場合のモータ性能の改善量，さらにモータ搭載時の磁石性能，例えば，運転時減磁量の把握が重要となっている。TDKでも，モータ試験ベンチを整備し，磁石変更時のモータ特性，モータ搭載時の高温運転による磁石減磁の状況について把握を開始した。 本論文では，ネオジム系新磁石と，新磁石を搭載したTDK版dモデルのモータ性能を紹介する。

5-027

コンシクエントポール形自動的可変界磁PMモータの駆動特性

◎青山真大（スズキ）・野口季彦（静岡大学）

本稿では空間高調波を可変界磁に利用した受動的可変界磁PM技術がもたらす利点について、ベンチマーク（従来の固定界磁タイプ）と基本的な駆動特性を比較することで明らかにした。結果、電機子起磁力で界磁磁束を調整できるため、ベンチマークよりも電機子鎖交磁束の微調整が可能になり、基底回転速度以上で可変速特性を拡大できることがわかった。さらに直列磁気回路の鉄極部における磁化量は受動的な強め界磁となっているため、基底回転速度以上の弱め界磁領域において従来よりも低い電機子起磁力で駆動しながら出力の向上が可能になることがわかった。

5-028

45度回転型デュアルハルバッハ界磁をもつコアレス同期電動機の開発

◎森村暢夫・森下明平（工学院大学）

埋込磁石型同期電動機はリラクタンストルクの利用により高トルク化が実現できるが，エアギャップ部の磁束密度分布に高調波を多く含むため，トルクリップルを発生させる。トルクリップルは振動や騒音の原因となるだけでなく，機械系や制御系との共振によってシステム全体に悪影響を及ぼすこともある。そこで，筆者らはPMSMのトルクリップルに対して抜本的な解決を図るため，界磁にハルバッハ配列を用いたコアレス電動機の研究を進めてきた。今回，出力10kW，回転数10,000rpmのブロワ用同期電動機を製作するにあたり，デュアルハルバッハ配列の採用と，着磁方向の回転角度の工夫によって，正弦波電流駆動時にトルクリップルの極めて少ないモータを開発したので，これを報告する。

5-029

多極多スロットモータにおける相順および極数に関する検討

◎鈴木寛章・森下明平（工学院大学）

近年，ドローンは幅広い分野でその応用が広がっている。ドローン用モータに求められる性能は，軽量であること，V/F制御でも始動できるよう同期引き込みしやすいことなどが挙げられる。このとき多極であれば小型化する際に磁石一つあたりの矢高を小さくできるので，直方体の磁石をロータ側面に，密着に近い状態で配置することができる。この多極多スロット構造における相順および極数について，磁石とスロットの位相差に着目して検討を行った。その結果，任意の空間高調波を突出して内在させることのできる相順の選定方法と，極数およびスロット数の制約条件を明らかにすることができた。

5-030

アウターロータモータのロータ構造がモータ特性に及ぼす影響

河瀬順洋・山口 忠・森北将大・◎松田弘志郎（岐阜大学）・森永圭一（東洋電機製造）

我々はこれまでにアウターロータ型IPMモータを解析対象として三次元並列有限要素法を用いて磁界解析を行った。IPM構造の目的のひとつとして，遠心力によって永久磁石が剥がれる危険性を減らすことが挙げられる。しかし，アウターロータの場合，永久磁石は遠心力でロータに押し付けられるため，SPM構造でも問題がないと考えられる。そこで本稿では，アウターロータモータを解析対象として三次元並列有限要素法を用いて磁界解析を行い，ロータ構造がモータ特性に及ぼす影響を明らかにする。

5-031

モータと発電の同時動作永久磁石同期モータ

◎石井涼太郎・堺 和人（東洋大学）

近年、モータの高性能化の研究が進められる中で、広い運転領域での高性能化が一つの課題になっている。本研究は二つの独立した巻線を持つモータと二つの独立したインバータから構成し、モータと発電機動作を同時に行う独立制御のモータシステムを提案し、その基本特性の検討を行っている。本検討によりモータと発電機の同時駆動による新型高性能モータの基本特性の確認を行った。従来モデルより力率の改善を期待でき、同時に負荷時の電圧の低減が期待できる。今後はさらに高力率、低電圧とする最適位相の検討とバッテリーを入れた場合の制御の検討を行う。

5-032

表面磁石形バーニア発電機の解析について

○片岡康浩（秋田県立大学）・松島由太郎（元静岡大学）・穴澤義久（秋田県立大学）

低速で大トルクを発生する表面磁石形バーニアモータが研究されているが，本論文では低速で動作する表面磁石形バーニア発電機として解析されている。本解析では，界磁側の永久磁石は等価コイルに置き換えられ，等価コイルと電機子巻線に対してインダクタンス行列が導出されている。特に，界磁側永久磁石，すなわち，等価コイルを励磁したときに発生する磁束が，ギャップパーミアンスの脈動成分により変調されて磁束密度分布の基本波成分となり，これが電機子巻線に鎖交することにより誘導起電力が発生して発電機として動作する原理が，理論的に明らかにされている。さらに，回転座標系であるγ－δ軸上の電圧方程式と出力式も導出されている。

5-033

磁界共振を用いた超軽量モータの等価回路による設計法と運転特性

◎瀧嶋健太・堺 和人（東洋大学）

電気飛行機駆動用の電動機には軽量化が求められている。我々は、超軽量モータ創出のため、ワイヤレス電力伝送の磁界共振結合と誘導モータの技術を応用した無鉄心の新しい電気機器の基礎研究を行っている。無鉄心でモータを構成できれば、軽量化に加え、鉄損が存在しない利点がある。本稿では、新方式モータの等価回路を用いた設計法を提案し、設計法を用いたモータ特性結果について述べている。さらに本手法と磁界解析の特性結果を比較し、両者がほぼ同一の値となることを確認している。本検討によって、無鉄心で構成される新方式モータの等価回路を用いた設計法を確立できたことに加え、モータ特性の物理的現象の理解ができた。

5-034

巻線型磁界共振結合モータにおける素線の渦電流を考慮したモータ特性

◎五味政裕・瀧嶋健太・堺 和人（東洋大学）

電気飛行機、燃料電池飛行機実現のためにはモータの高効率化・軽量化が求められる。そこで本研究室ではワイヤレス電力伝送の磁界共振結合の技術を誘導機に導入し、鉄心の無いモータの基礎研究を行っている。我々は新方式のモータを磁界共振結合モータ（MRC-モータ）と名付けている。MRCモータは高周波で駆動するため、素線で発生する渦電流の影響が大きいと思われる。そこでモータの素線で発生する渦電流による損失を考慮したモデルで磁界解析を行った。その結果、MRCモータは表皮効果の一般式から求めた表皮厚を考慮して設計しても、渦電流の影響が無視できないことがわかった。また、共振によって磁界が高くなり、渦電流が増加すると推測される。

5-035

中型航空機用磁気粘性流体ブレーキの基礎研究

◎角 太一郎・佐藤紀裕・曽根原 誠・佐藤敏郎・脇若弘之・菊池良巳（信州大学）

中型航空機用磁気粘性流体ブレーキの基礎研究について報告する．実験装置は，モータ，トルクメータ，ブレーキ本体，変速ギアをシャフトで繋いだ構造である．電流による制動トルク特性実験，温度の時間変化特性実験の結果を報告する．制動トルクの回転数による差は微小であり，電流に比例していた．本実験装置における温度の時間変化特性の時定数は21.6minであり，飽和温度は135℃であった．

5-036

中型航空機用渦電流ブレーキの直流と交流の励磁方式の基礎検討

◎佐藤紀裕・角 太一郎・曽根原 誠・佐藤敏郎・脇若弘之・菊池良巳（信州大学）

中型航空機用渦電流ブレーキの直流及び交流の励磁方式の基礎的な検討を行った．本実験機はアルミニウム円盤（半径30mm, 厚さ1mm）を馬蹄型ヨーク（S45C, 断面; 10mm×20mm）のギャップ部分（1.8mm）に挿入し，モータにより円盤を一定速度で回転させる．回転円盤に直流磁界または交流磁界を印加することで渦電流による制動トルクを得る．交流磁界を印加する場合は直流電流0.8A相当の磁界を印加した．直流磁界の場合，制動トルクは回転速度に比例し，励磁電流の二乗に比例した．交流磁界の場合，制動トルクには励磁周波数によるピークが存在した．

5-037

銀黒鉛質ブラシの銀含有率変化によるブラシ摩耗への影響に関する一考察

◎福田直紀・笠原功太郎・清野和也・澤 孝一郎・上野貴博（日本工業大学）

電機用ブラシは古くから直流機の整流機構や交流機の励磁機構等に用いられ、今日においても電力、産業、インフラを主とした幅広い分野で活躍する。近年ではブラシの多様化が著しく、前述の事例に加えてCTやセキュリティカメラといった電気信号伝達用途にまで及び、ブラシにはこれまでにない使用条件が課せられるようになった。このような背景から接触電圧降下、温度上昇とも極めて低とされる銀系材料を用いたブラシに注目が集まりつつあるものの、その基本特性、特にブラシ摩耗特性に関する文献が存在しない現状がある。 本稿では、銀黒鉛質ブラシの銀含有率変化におけるブラシ摩耗特性に重点を置き、そのメカニズムを考察した。

5-038

天然黒鉛質および銀黒鉛質ブラシを用いた銅スリップリングシステムにおける潤滑オイルの影響

◎天田友樹・上野貴博・澤 孝一郎（日本工業大学）

電気摺動接触通電機構は, 静止物体と移動物体間の電力伝達等に利用されており,異常摩耗や火花によって通電が停止した場合影響が大きいことから,長寿命化, 信頼性・安定性の向上が求められている.本論文では,ブラシ長寿命化を目的として摩耗低減を考慮して潤滑オイルに着目し、2種類のブラシと2種類の潤滑オイルを使用し、オイル有無による接触抵抗変化分について検討を行った. 結論として、潤滑オイルが接触面に介在した場合でも,材質によっては接触抵抗を低く抑える可能性を見出した.

5-039

固体潤滑剤を用いた摺動通電電極の検討

◎大塚智晴・渡辺克忠・澤 孝一郎・上野貴博（日本工業大学）

機器の摺動とは小型のモータから電気鉄道、人工衛星にも関係する幅広い分野に関する題材である。給電をするにあたり、摺動部分では良好な潤滑性と接触抵抗の低い潤滑剤を選択する必要性がある。本研究はピンオンディスク接触の摺動通電試験機を用い、摩擦係数と接触抵抗値の同時測定を行なった。試験は銅ディスク対中心が空洞の銅ピン(Cu-Cu)試験片で低速度の摺動実験の測定を行い、純銅同士の摺動特性を求めた。加えて、Greenwoodの多点接触の理論と常に潤滑剤を摺動面に供給するため、二硫化モリブデンと導電性のあるAgペーストの混合物をピンの中心部に入れたものを作製した。そして同様の実験をし、比較・検討をした。

5-040

界磁巻線型同期電動機の始動用回路の回転状態における動作検証

○郡 大祐・小山貴之・飯塚元信（日立製作所）

巻線型同期電動機は設備コストを抑えるため，商用電源にて自己始動する。同期電動機の自己始動方法は界磁電流を供給する励磁回路から界磁巻線を切り離し短絡させる方式となる。この場合，定格運転時に励磁回路を組み込むために，専用の始動用回路(コントロールモジュール)が必要となる。コントロールモジュールは回転子内部に搭載されるため，過大な遠心力が加わり回転中での動作検証が必要となる。本報告ではコントロールモジュールを単体で定格回転速度の1.2倍となる2160min-1で回転させ状態での動作を検証について報告する。

5-041

タービン発電機の過渡特性解析のための有限要素モデリング法の検討

◎佐藤孝洋・高橋則雄・藤田真史（東芝）・長倉 謙・十川和真・中村英之・大高 徹（東芝エネルギーシステムズ）

事故時にタービン発電機に生じる過渡的挙動を正確に求めることが系統安定度の検討や発電機の保護の面から重要となっている。タービン発電機の過渡現象を磁気飽和の影響を考慮して求めるには有限要素法による数値解析が有効であるが、回転子部材全てを詳細に有限要素メッシュで模擬すると要素数が増加し，解析に膨大な時間がかかる。そこで本研究では，回転子のモデリング方法の違いが有限要素解析の結果に与える影響を調査する。有限要素法にて，三相突発短絡時の過渡解析を行い，解析結果を実測の過渡電流波形と比較することで，モデリング方法の違いが計算結果に与える影響を調査する。

5-042

有限要素解析によるEV用高出力誘導電動機・埋込磁石同期電動機の性能比較

◎竹内啓祐・千葉 明（東京工業大学）

本稿では，固定子外径および鉄心積厚を揃えた最大出力251 kWの誘導電動機，埋込磁石同期電動機の主要動作点における損失および効率を比較した．損失は有限要素解析により評価し，銅損と鉄損を考慮した．比較を行った結果，2400 rpm, 50 Nmの都市走行動作点および4800 rpm, 500 Nmの全開加速で埋込磁石同期電動機が，8000 rpm, 30 Nmの郊外走行動作点で誘導電動機の効率が高かった．全ての動作点において銅損は誘導電動機の方が，鉄損は埋込磁石同期電動機の方が大きく，特に銅損が支配的な全開加速動作点においては，埋込磁石同期電動機の損失が非常に小さくなっており，効率に顕著な差が表れた．

5-043

三相かご形誘導電動機の損失に及ぼすポストヒーティングの効果

◎村松智章・渡邉徳宏・廣塚 功・中村雅憲（中部大学）・鶴見祐輔・米谷晴之・亀山正樹（三菱電機）

近年，三相かご形誘導電動機の高効率化への関心が高まっている。かご形回転子の場合，導体と鉄心とが導通することによって，隣接する回転子バー間に横流が流れるといわれている。この横流は始動特性の悪化や効率低下などを招くがいまだ不明瞭な点がある。そこで，本稿では，横流を模擬した回転子を試作し，回転子にポストヒーティングを施した場合における三相かご形誘導電動機の特性に及ぼす影響を実験的に検討した。その結果，ポストヒーティングにより，始動時のトルクが増加し，一次銅損，二次銅損および漂遊負荷損が低減できること，並びに短絡環状の加工により横流を模擬できる可能性があることなどを実験的に示した。

5-044

積層鉄芯の溶接条件が磁気特性劣化に与える影響

◎三谷 怜・河口幸平・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）・松下真琴（東芝）・徳増 正・安室 慧（東芝インフラシステムズ）

モータ効率改善に向け，その製造過程で生ずる電磁鋼板の磁気特性劣化評価や，それを考慮した磁界解析による鉄損予測は重要な課題となっている．筆者らは，溶接で結束された積層鉄芯の溶接影響について検討を進めている．本稿では，溶接条件を変更した試料を，実機ステータ抜板を用いて製作し，磁気特性の劣化度合いを検討した．その結果，ヒステリシス損に関しては，溶接層数および溶接電流の影響度が大きく，溶接棒径についても影響を与えている可能性があることを確認した．これは，磁気特性劣化の少ない実用的な溶接方法開発への手掛かりとなり，モータの高効率化につながると考えられる．

5-045

切削加工および酸エッチング処理が圧粉磁芯の磁気特性に与える影響

◎東川勇登・高橋康人・藤原耕二（同志社大学）・青山真大・赤木亮介（スズキ）

形状自由度に優れ，渦電流損の低減が可能であると言った特長を有する圧粉磁心は，切削加工によって磁気特性が劣化することが知られている．その原因としては，切削加工により試料表面の絶縁が破壊されることが考えられる．そこで本稿では，切削加工済みの圧粉磁芯に酸エッチング処理を施し，磁気特性の改善の程度を検討した．その結果，切削加工後，酸エッチング処理時間が約60分で抵抗率は最大になったが，切削加工後の酸エッチング処理による磁界の強さの増加（透磁率特性の劣化），および渦電流損係数が浸漬時間にほとんど依存しないことを考慮すると，酸エッチング処理は最小限で差し支えないと考えられる．

5-046

ナノ結晶軟磁性材料を用いたIPMSMのコア損特性に関する一検討

◎杉本昂也・八尾 惇・藤崎敬介（豊田工業大学）

モータコア損の低減方法として、従来の無方向性電磁鋼板（NO：Non-Oriented steel sheets）の代わりにアモルファス金属材料（AMM：Amorphous Magnetic Material）やナノ結晶軟磁性材料（NMM：Nanocrystalline Magnetic Material）をモータコア材として使用することが提案されている。本研究では、NMMステータを使用したIPMSMのコア損の測定を行い、NOステータおよびAMMステータを使用したIPMSMのコア損と比較した。その結果、AMMステータを使用したIPMSMのコア損はNOステータを使用したIPMSMよりも約31%低減されているのに対し、NMMステータを使用したIPMSMの場合は約43%の低減となり、AMMステータよりもコア損の低減率が大きくなる結果となった。したがって、鉄損低減の観点から、ナノ結晶軟磁性材料をモータコアに使用することは有効であるといえる。

5-047

電磁石を利用した無方向性電磁鋼板の飽和磁化測定

◎芝滝拓哉・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

モータの動作特性解析の精度改善には，高磁束密度領域における適切な磁化特性が必要となる．測定範囲を超える磁化特性を外挿する場合，飽和磁化に関する情報は有用であると考えられる．そこで，本稿では現在検討中の電磁石を用いた測定法により，各種無方向性鋼板の飽和磁化を測定した．その結果から，高効率モータに使用される高グレードの無方向性電磁鋼板の飽和磁化については，「規格に記載された関係式を用い，抵抗率から密度を算出し，Bozorth 氏の著書中のデータに基づいて宮田氏が提案した関係式を用いて飽和磁化を算出する．」という手順が，簡易的で有効性が高いと考えられる．この手順が適用できない材料については，実測が必要となる．

5-048

外転型モータの高冷却化に関する検討

◎堀 雅寛・野澤勇貴（日立製作所）・三好 努・税所亮平（日立産機システム）

外転型永久磁石同期モータの小型化のため、新たな冷却構造を考案した。外転型永久磁石モータのコイルの冷却性能を強化するため、内径側に設けられた空間にファンとフィンを配置する構造とした。熱流体解析の結果、フィンのみでの冷却の効果はコイル温度上昇1.7K低減と小さかったが、ファンを設けることで16.1K低減できることがわかった。実測により冷却構造の性能を評価した結果、コイル温度上昇を13.9K低減でき、解析値とよく一致した。

5-049

水車発電機の風損低減技術の開発(第4報)

◎横江晴佳・加幡安雄・猪亦麻子・谷山賀浩（東芝）・佐々木 彩・牧野駿介（東芝エネルギーシステムズ）

水車発電機の効率向上には、電気損や機械損の低減が有効で、本研究では、発電機全損失の20〜30%を占める風損を対象に低減施策を開発している。この風損は、機内を冷却する冷却ガス循環に伴い発生するもので、冷却ガス経路の形状改良や機内風量配分を最適化することにより、改善が期待される。本研究では、水車発電機の実機1／3モックアップ試験装置を用い、ロータを回転させた運転状態を模擬した通風試験を開始するにあたり、CFDによる再現解析を開始、その結果を報告する。

5-050

水車発電機の風損低減技術の開発(第3報)

◎佐々木 彩・牧野駿介（東芝エネルギーシステムズ）・横江晴佳・加幡安雄・猪亦麻子・谷山賀浩（東芝）

再生可能エネルギーの普及拡大に伴い、水力発電の需要が増加するなか、更なる高効率化が期待されている。水車発電機の効率向上には、電気損や機械損の低減が有効で、本研究では、発電機全損失の20〜30%を占める風損を対象に低減施策を開発している。この風損は、機内を冷却する冷却ガス循環に伴い発生するもので、冷却ガス経路の形状改良や機内風量配分を最適化することにより、改善が期待される。これまで、ステータ単体を対象とした実機1/3スケールモックアップや大規模CFDにて、ステータダクトにおける風損特性評価、および風損低減施策の効果検証を進めてきた。本報では、先述のモックアップにロータ部を追設、ロータを回転した運転状態を模擬した通風試験を開始したので、その結果を報告する。

5-051

ラジアル電磁力を利用する永久磁石型アクチュエータの動解析

◎星 遼佑・Lingyu Chen・千葉 明（東京工業大学）・永野正雄・中村公昭（本田技術研究所）

近年，高齢者人口の増加で人間の動作を補助するため，体に装着するアクチュエータの需要が高まっている。このようなアクチュエータに対する要求として，高トルクでありながら軽量かつ小型，すなわち高トルク密度であることが求められる。一般的なモータは高トルクを出力するために減速機と組み合わせて使用される。このため，モータだけでなく減速機の分だけ体積と重量が増加するという問題がある。筆者らはモータと減速機を構造的に一体化したアクチュエータを提案している。これは発生するラジアル力による揺動運動を歯車等でトルクに変換するものである。本報告では，タンブラを駆動させた際のラジアル電磁力と磁束密度分布について報告する。

5-052

三次元磁束分布の考察に基づく自動車用オルタネータの特性改善に関する検討

山崎克巳・◎土佐和也（千葉工業大学）・額 素明・柵木 一（SIGMA & HEARTS）

本稿では，クローポールオルタネータの出力向上を目的とした二つの提案機について，出力増加メカニズムを考察・比較し，更なる出力向上の指針を得ることを試みる。

5-053

集中巻三相かご形誘導電動機の特性に及ぼす相間磁極の影響に関する一考察

◎渡邉徳宏・和田安理・中村雅憲・廣塚 功（中部大学）

産業機器として多く用いられている三相かご形誘導電動機(以下，IMと略記)はその固定子巻線構造を集中巻にすることで，銅損低減およびコストダウンなどが見込める。しかし，集中巻IMにはギャップ中の磁束密度に低次の偶数調波をふくんでいることが過去の研究で明らかとなっている。そこで本稿では，偶数調波低減を目的として，集中巻IMの固定子スロットの中心にスロットを分割するティースおよび巻線を設けた場合(以下，相間磁極と称する)の集中巻IMの特性に対する影響について磁界解析を用いて検討を行った。その結果，集中巻IMの固定子スロットに相間磁極を設けると低次高調波を低減でき，トルクを増大することができる可能性を示した。

5-054

集中巻誘導電動機の特性に及ぼすギャップ長の影響に関する一考察

◎和田安理・渡邉徳宏・中村雅憲・廣塚 功（中部大学）

誘導電動機は電動機の中でも特に多く用いられており，さらなる低コスト化や高効率化が要求されている。誘導電動機に集中巻を用いた場合，コストダウンが見込まれるが，特性の悪化は避けられない。したがって，磁界解析ソフトウェア(JMAG)を用いて集中巻誘導電動機の特性改善について検討を行う。本稿では，汎用誘導電動機の回転子に集中巻固定子を組合せ，ギャップ長に対するトルクおよびギャップ中の高調波磁束密度成分について，JMAGを用いて検討を行った。その結果，ギャップを広げることでトルクは僅かであるが減少し，高調波も減少した。このことから，高調波の影響を小さくするため，集中巻誘導電動機においてギャップを広くとることは有効であることを示した。

5-055

超高速誘導電動機における交流抵抗損を考慮した温度評価法

◎七種宏昭・坪井雄一・津田敏宏（東芝三菱電機産業システム）

大容量コンプレッサの駆動方式として、ギアレスによる高効率等の利点から、超高速誘導電動機（以下、超高速IMと略記）が適用されている(1)。一方、大容量で高速回転する製品の巻線温度試験には、大容量高周波電源や負荷試験設備に多額の費用を要している。このような背景から、著者らは超高速IMの実負荷温度試験を省力化できる温度推定法の確立を検討している。本稿では超高速IMの温度推定法に関し、一次側の交流抵抗損が巻線温度の推定値に与える影響について報告する。

5-056

キャンドポンプ用誘導電動機の効率向上

◎鈴木柚花・千葉 明（東京工業大学）

キャンドポンプは完全無漏洩ポンプとして危険な化学薬品や医薬品，放射性の液体など，液漏れが許されない液体を輸送するときに利用されてきた。キャンドポンプは軸シールを必要とせず密閉状態を作ることができる。しかしながら，ポンプ部と電動機部が一体化していることにより，取り扱う液体が電動機内に侵入するため，キャンドポンプ用電動機は固定子，回転子をキャンで覆い，取り扱う液体から保護している。 日本において誘導電動機には効率規制がかかっているが，キャンドポンプ用誘導電動機はその特殊性より規制対象外である。しかし，効率向上は重要な課題であることから本報告では現状のキャンドポンプ用誘導電動機を解析し，実験結果と比較したうえで効率向上の検討を示す。

5-057

誘導モータの負荷特性並びに鉄損解析

○榎園正人（ベクトル磁気特性技術研究所）・國廣直希（大分大学）

近年、欧米ではEV駆動用並びに高速回転用として誘導モータが注目されている。それは永久磁石モータに比べて滑らかで安定した乗り心地性能にある。その一方で詳細な実験的並びに解析的検討には不十分さがある。そこで、われわれは、誘導モータの解析上の座標系を用いて、誘導モータの負荷特性ならびに鉄損解析を行った。特に本論文では、誘導モータ鉄心内のX方向B-H特性、ベクトル軌跡とヒステリシスループ、ベクトル磁気特性解析の測定結果、誘導モータの負荷特性解析結果について報告を行う。

5-058

二次導体と積層鋼板との間の接触抵抗を考慮したV形スキュー付きかご形誘導電動機の横流解析

河瀬順洋・山口 忠・浅井啓史・◎柴田昌秀（岐阜大学）・古川智康・河野 寛（豊田自動織機）

かご形誘導電動機の二次導体と積層鋼板との間の接触具合は横流に影響を与える。これまで我々は接触抵抗を考慮して通常スキューを施したかご形誘導電動機の横流解析を行い，接触抵抗が横流に及ぼす影響についての検討を行った。本報告では，回転子にV形スキューを施したかご形誘導電動機を解析対象とし，三次元並列有限要素法を用いて横流解析を行い，接触抵抗が横流に及ぼす影響を明らかにした。

5-059

かご型磁界共振結合回転電機の周波数特性

○秋山貴伸・滝嶋健太・堺 和人（東洋大学）

近年、新しい用途や省エネのため、電気飛行機の実用化や旅客機のハイブリッド化に向け研究が進められている。実現するには、推進装置であるモータの軽量化、高出力化が鍵となる。そこで、重い鉄心が不要になるワイヤレス電力伝送の磁界共振結合による電気エネルギー変換技術をベースに新しいモータの研究を行っている。本稿では、かご型磁界共振結合回転電機の原理と基本構成、解析による基本特性について述べる。解析法は、汎用電磁界ソフトJMAGを用いて電磁界解析にて行う。基本特性を検討し、新方式のかご型磁界共振結合回転電気の成立性を確認され、今後は運転特性について検討を行っていく予定である。

5-060

SRGを用いた小型風力発電システムの磁化特性解析

◎林 健太郎・水谷太紀・山村直紀・石田宗秋（三重大学）

著者らは低コスト，高効率の面からSRMを発電機SRGとして使用する小型風力発電システムについて検討している。これまでに寸法と材質の特性のみで構築が可能な磁気回路を用いたSRGのモデルを提案し，シミュレーションによって妥当性を確認した[1]。しかし，SRGは磁化特性が非線形かつ磁路が複雑であることから，磁気回路から各相に流れる磁束の数式化が行えていない。

5-061

電気自動車用高出力SRMの検討

◎河田なな穂・千葉 明（東京工業大学）

近年の世界的な温室効果ガス削減の取り組みにより，電気自動車(EV)の需要が高まっている。現在の主流EVに用いられるモータは埋込永久磁石型同期電動機(IPMSM)であるが，IPMSMは供給不安や価格高騰が懸念されるレアアースを使用している。本稿ではIPMSMに代わる脱レアアースモータとしてスイッチトリラクタンスモータ(SRM)を提案し，小型で高出力なEV用SRMについて検討した。 提案SRMは52.5 Nm/Lと高トルク密度であり，永久磁石による逆起電力がないため、最大出力は高速域で増加する。さらに電流連続制御を用いているため、基底速度での最大出力165kWに対し、最高回転数において419 kWを電圧電流制限値内で出力可能であることを明らかにした。

5-062

同期リラクタンスモータのフラックスバリアの位置と角度がトルクリプルに及ぼす影響

◎山本裕斗・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪府立大学）・玉村周平・前谷達男（WOLONGモーター制御技術）

高出力，高効率特性を有する永久磁石同期モータ(PMSM)には一般に用いられる希土類磁石に含まれているレアアースは使用量の削減が求められている。この問題を解決する脱レアアースモータの1つとして，同期リラクタンスモータ(SynRM)がある。しかし，SynRMはトルクや効率がPMSMに比べて劣るといった問題点がある。更に，リラクタンストルクを利用するモータは，他のモータに比べトルクリプルが大きくなる傾向にあり，高トルク化，高効率化だけでなく低トルクリプル化の検討が必要不可欠である。 本論文では，マルチフラックスバリア形SynRMについてフラックスバリアの位置と角度を調整することで，トルクや効率の低下なく低トルクリプル化を実現するロータ構造の検討を行っている。

5-063

スイッチトリラクタンスモータのインダクタンスに及ぼす巻線角度の影響

◎高橋勇人・新宅勇一・高安亮紀・高橋 徹（筑波大学）

本研究では，トルクリップルを低減させるための予備的検討として，インダクタンス値の変化を見越し，固定子突極にまく巻線に角度を設けることによって固定子突極にまく巻線の角度がインダクタンスに及ぼす影響を数値解析により調査した。その結果，固定子突極にまく巻線に角度を与えることで，インダクタンスの値に変化が生じることがわかった。このことから，巻線に角度を設けることによってインダクタンス値を調整することができ，トルクリップルを低減できる可能性があると考えられる。

5-064

特定高調波消去法によるインバータ駆動同期リラクタンスモータの損失低減に関する検討

◎首藤大輔・高橋康人・藤原耕二（同志社大学）・樋口真伍（三菱ロジスネクスト）

インバータ駆動の同期モータでは，高速回転時において，出力電圧を最大化可能な1パルス波形を用いる場合があるが，多数の低次高調波成分に起因した損失が発生する．本稿では，同期リラクタンスモータ（SynRM）を対象として，パルスの数や幅の調整により特定次数の高調波成分を消去する特定高調波消去（SHE：Selective Harmonic Elimination）法を用いて作成したインバータ電圧波形で駆動し，その損失低減効果を検討した．特定次数の高調波成分の消去により，その成分に対応した銅損は低減可能であったが，消去する次数以外の成分の増大により鉄損が増加するケースもあった．結果として，本稿で検討したSynRMでは，第7次調波成分を消去した3パルス波形が検討例の中で最も損失が少なかった．

5-065

18/12極SRMの振動・騒音低減制御の効率改善

◎河 正周・Furqani Jihad・千葉 明（東京工業大学）

近年，スイッチトリラクタンスモータ(SRM)がレアアースを使用せず，安価に製作可能なモータとして注目されている。しかし，SRMには振動・騒音が大きいという欠点を抱えている。著者らは既に，固定子ヨークに働くラジアル力の和を一定にする事で振動・騒音を抑える制御法を提案している(1)。また，提案電流波形の次数を増やすことによって，ラジアル力の和を一定にしつつ電流実効値を低下，あるいはトルクリプルを最小化する手法を示した(2)。本稿では高効率SRMを用いてその実験結果を示し，従来矩形波電流駆動に対して効率を低下させずに騒音を大幅に低減可能であることを示す。さらに正弦波重畳電流波形を用いることにより，ラジアル力脈動が大きくても振動・騒音がある程度低減可能であり，さらに効率が向上することも示す。

5-066

三角波電流を使用した12/8極SRMの効率低下を抑制した騒音低減

◎清田恭平・飴井賢治・大路貴久（富山大学）・地崎 潤・中井正信（不二越）

SRMの騒音低減手法として，電流波形を方形波状の電流から騒音低減可能な波形にする手法が知られている。特に高調波成分を正弦波電流に重畳する手法では，励磁に起因する騒音の低減効果が顕著である。しかし，電流波形を生成するために個々のパラメータを同定する必要がある。また，生成された電流波形を正確に指令するためには高速かつ高機能なコントローラが必要である。このため，コスト要求が厳しい一般的な産業用SRMでは適用が困難である。本稿では産業用12/8極SRMにおいて，電流指令テーブルを予め用意し，三角波状の電流波形にすることで，効率が低下することなく，3.1 dBAの騒音の低減が可能であることを示す。

5-067

Implementation of Inverter Using Regenerative Power under Motoring Mode for SRM Drive

◎Shuangfei Wang・Kazuhiro Ohyama（Fukuoka Institute of Technology）・Hiroaki Fujii・Kazusi Uehara・Yasusi Hyakutake（MEIWA MFG. CO., LTD.）

The performance of SRM drive system directly depends on the capability of inverter. In general, an asymmetrical half bridge structure is the most common inverter used for SRM. However, a loss occurs when regenerative energy returns to the power supply from the asymmetrical half bridge circuit, which hinders improvement in efficiency of SRMs’ motoring operations. Therefore, a new inverter structure using the regenerative power under motoring mode is introduced in the paper.At the end, the experiment results are shown to verify the proposed inverter, and they suggest the additional works which should be done for the further research.

5-068

操作量飽和情報を利用したPMSMのインダクタンス同定

◎松本 純・山田隆広（中部大学）

永久磁石同期モータ(PMSM)は家電，産業および自動車分野等，幅広く利用されている。PMSMを高効率に駆動するためにはモータの電気的なパラメータが必要不可欠であるが，近年のモータでは特にインダクタンスが変動するため，ファインチューニングを行わなければ制御性能が劣化する。しかしながら，ファインチューニングは煩雑であることから好ましくない。そこで，本稿では著者らが提案してきた操作量飽和情報を利用したフィードバック型の弱め磁束制御を応用した新たなインダクタンス同定法を提案し，シミュレーションにより検証したので報告する。提案法はインダクタンス同定が行える駆動領域に制限があるものの，信号重畳を行なわない点に違いがある。

5-069

座標変換を考慮した離散モータモデルに基づく電流制御系の離散設計法

◎井上雅理・道木慎二（名古屋大学）

本稿では，座標変換器の動作を考慮したdq座標系上の新しい離散モータモデルに対する電流ベクトル制御系の設計法について述べる．近年，モータの高速駆動化が進む一方で，キャリア周波数やそれに従う制御周波数を駆動周波数に対応して高く設定することが困難なため，電流制御系を構成しようとすると，電流制御器を離散化実装することによる離散化誤差が顕著に現れる恐れがある．そこで筆者らは，座標変換器の動作を考慮した離散モータモデルを提案し，そのモデルの妥当性について検証を行ってきた．そして，この離散モータモデルを基に電流制御系を設計することで離散化誤差が顕著に表れる状況においても設計通りの電流制御が可能であることを実機実験にて示す．

5-070

電機子鎖交磁束に同期した座標系での直接トルク制御におけるSPMSMの最大トルク／電流制御法

◎伊藤銀平・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪府立大学）

本研究では，電機子鎖交磁束に同期した座標系(M-T座標)を用いて，最大トルク／電流(MTPA)制御のための数式モデルを用いた制御法について検討している。M-T座標をDTCに適用することで，トルクや磁束の算出が容易になりシステムが簡潔になるといった利点がある。 本論文では，M-T座標でのDTCにおける表面磁石同期モータ(SPMSM)のMTPA制御法を提案する。SPMSMは磁気飽和の影響が小さいことから，より簡潔な MTPA制御のための数式モデルが適用できると考えられる。MTPA制御のための数式モデルを用いたDTCによるSPMSMの駆動システムを示し，シミュレーションによってその妥当性を示す。

5-071

永久磁石同期モータにおける固定子巻線の中性点電位の数式モデル

◎原 崇文・青柳滋久・安島俊幸・岩路善尚・高畑良一（日立製作所）・杉山吉隆（日立オートモティブシステムズ）

PMSMの固定子巻線の中性点電位の変動から回転子位置を推定する位置センサレス制御は，表面磁石型同期モータでも零速から正弦波駆動できるメリットがあるが，PWMパルスによって変動する中性点電位の数式モデルがなく，PMSMのパラメータのうち中性点電位の変動に効くパラメータについて検討できていなった。本報告では，PWMパルスによって変動する中性点電位の数式モデルを構築し，中性点電位の変動に効くパラメータについて検討したので報告する。

5-072

永久磁石同期モータのモデル予測制御のための演算量削減手法

◎管 勃・道木慎二（名古屋大学）

PMSMの高性能駆動法として、PWMインバータ駆動された電流ベクトル制御が一般的な手法である。しかしながら、PI制御器の帯域制限や飽和などの問題により、変調・矩形波駆動など高い電圧利用を実現するには様々な工夫が必要となる。これに替わる制御手法の一つとして、PMSMの高性能駆動にモデル予測制御（MPC）が期待されている。モデル予測制御では、あらゆる入力電圧に対して応答電流を予測し、評価関数に基づき最適な入力電圧を決める。このため、高出力・高応答のPMSM制御が実現できる。 MPCにおいて，定常・過渡状態のいずれにおいてもPWMインバータ駆動された電流ベクトル制御に劣らない性能を実現するためには，十分な電圧位相分解能で電圧ベクトルの時系列の組合せを探索する必要があり、この際の計算量はMPCの実用化における重要な課題の一つである。探索空間と実現される性能にはトレードオフの関係あり、現状、onlineで実現可能なMPCでは探査空間、すなわち性能が制約され、性能を重視すればofflineでの探索結果をLook-Up-Tableを用いて実現するしかない。 本稿では、onlineで実現するMPCを目標として、MPCの演算量削減について検討し、新しい探索手法を提案する。提案手法では、およそ2万通りの電圧ベクトルを持つ探索空間を46回の探索演算で評価し、最適な電圧ベクトルを得ることを可能にする。本稿では、この探索手法を用いて、onlineで実現可能なMPCのシミュレーションを行ったので報告する。

5-073

最大トルク制御座標上におけるトルク変動を抑制する弱め磁束制御

○山本拓也・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）・道木慎二（名古屋大学）

IPMSMを制御する際には逆突極性を考慮したd-q軸電流を与える必要がある。本研究室では、これを容易に実現する最大トルク制御座標系(f-t軸)を提案している。昨年度の発表では、負のf軸電流を与えることでf-t軸上で弱め磁束制御を実現できることをシミュレーションで示した。本稿では、提案しているf-t軸弱め磁束制御手法について実機実験を行い、その結果d-q軸上における弱め磁束制御に比べトルクの変動が小さい弱め磁束制御が実現できた事を示す。

5-074

PMSM過変調駆動時における制御性能改善のための電圧補償型高調波対策法

◎中山陽介・道木慎二（名古屋大学）

本稿では過変調駆動時の制御性能を改善するための電圧補償型高調波対策法を提案する。提案手法では，電流制御系の積分器に加え，新たに電圧補償用の積分器を追加し，その積分器出力を補償電圧として電圧指令値に加算することにより，高調波成分に対する電流制御系の感度低下を図る。さらに，重み係数を用いて補償電圧を調節することにより，過補償による電流追従性の劣化を防止する。重み係数は回転速度と電圧振幅指令情報を用いて線形駆動時や過渡状態において電圧補償を停止するよう設定する。以上の構成により，提案手法はモータパラメータを用いることなく過変調駆動時の制御性能を向上できる。シミュレーションにより提案法の有効性を示す。

5-075

低分解能ホールセンサを用いたPMSMのベクトル制御法の実機検証

◎古泉一樹・新中新二（神奈川大学）

ベクトル制御に必要な位相情報を得るため、従来、高分解能の位相・速度センサが利用されてきた。 しかし、コスト低減、容積増大等の問題が誘起される。そこで近年では、低分解能であるホールセンサを利用した研究がおこなわれてきた。ホールセンサを利用したベクトル制御の文献の1つに、新中が提案した耐故障性を備えたホールセンサ利用のベクトル制御法がある。この文献では、実機による検証が行われていない。そこで、本論文ではこの文献で提案されたホールセンサ利用のベクトル制御法について実機による検証を行ったので結果を報告する。高速時および低速時において良好な性能が確認された。さらに、高い耐故障性を有することが確認された。

5-076

脈動負荷を持つPMSM駆動システムにおける制御法が速度リプルに与える影響

◎小丸祐磨・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪府立大学）

永久磁石同期モータ(PMSM)は，家電用モータから自動車駆動用モータまで多岐にわたる分野で利用されている。身の回りで使用されることが多いため，振動と騒音の原因となる速度リプルを低減することが求められている。 本研究では，回転子位置に応じてトルクが変化する負荷により生じる速度リプルの低減効果について，電圧／電流位相差制御，電流ベクトル制御および直接トルク制御 (DTC) の3 つの制御法による運転特性の比較検討を行っている。

5-077

最大トルク制御座標上におけるIPMSMの電流制御系の構築

◎鈴木昭義・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

IPMモータの制御手法の一つである最大トルク制御座標系(f-t軸)での電流制御を提案する。f-t軸を用いることにより、トルクと電流に関して非線形性を持つIPMモータにも、電流をトルクと磁束に分離する、従来の電流ベクトル制御の考え方を適用することができる。f-t軸電流制御系の特性を生かし、トルク制御系を組むことで、過渡的な電圧飽和領域を含むトルク制御を容易に行うことができる。

5-078

FPGAを用いた永久磁石同期モータの外乱補償型2自由度デッドビート制御

◎高倉祥太郎・横山智紀（東京電機大学）

サーボシステムにおいて高精度速度制御，位置制御が要求されており，これらを実現するためには電流制御系の高い安定性・応答性が必要である．従来研究にてデッドビート制御を適用したモータドライブシステムにおいて，指令値電流への良好な応答性が確認されている．しかし，デッドビート制御則の課題として，パラメータ変動に対するロバスト性が挙げられる．本論文では外乱補償型2自由度デッドビート制御則を提案し，実験により有効性の検証を行ったので報告する．

5-079

モデル予測制御に基づくPMSM電流制御系の周波数設計法による過渡応答特性の検証

◎嶋岡雅浩・道木慎二・横山静香（名古屋大学）

我々はモータ駆動システムの高出力化・高応答化を実現する方法としてモデル予測制御の適用を検討している．将来の電流挙動の予測と評価により印加電圧を決定するモデル予測制御に基づくPMSM電流制御系は非線形制御系であり，その特性を伝達関数等の線形制御理論の枠組みで表現することができず，線形制御理論で記述される上位の制御系との親和性に支障をきたすこととなる．これに対し我々はモデル予測制御に基づくPMSM電流制御系の近似伝達関数を実験的に導出可能であることを確認し，プリフィルタによる周波数設計法を提案している．そこで本稿では提案する周波数設計法により過渡応答性能を検証したので報告する．

5-080

SynRMの停止時における磁気飽和を考慮したインダクタンス同定法

◎藤原俊吾・森本茂雄・井上征則・真田雅之（大坂府立大学）

近年，同期リラクタンスモータ (SynRM) は，永久磁石を用いないため安価な可変速なモータとして期待されている。モータの高性能制御システムはモータパラメータの値を必要とするため，モータ性能を十分に発揮するためにはモータパラメータの把握が重要となるが，インダクタンスは磁気飽和の影響によって変化する。 本研究では，磁気飽和の影響を考慮したSynRMの停止時におけるパラメータ同定法を検討する。まず，モータ停止時におけるパラメータ同定法を示し，磁気飽和の影響が大きいd軸インダクタンスの同定法を提案する。

5-081

ステッピングモータのハーフステップ形駆動による振動抑制

○松尾健史・三浦 武・田島克文（秋田大学）

ステッピングモータの共振現象の対策として，基本ステップ角を細分化して駆動するマイクロステップ駆動がある。一方，フルステップ形駆動でも，駆動時に与えるパルス列指令の調整のみで，基本ステップ角を細分化する方法が先行研究で提案されているが，本研究では，さらにマイクロステップ駆動と同等のトルクが発生可能な方法にするため，ハーフステップ形の新たな駆動法を提案する。これは，モータの機械的時定数より十分に小さい周期で，各相への励磁をハーフステップ駆動に基づいて適当に切替える方法である。最後に，速度振動特性で評価し，本提案法は，マイクロステップ駆動よりやや振動が多くなるが，速度に関しては同様の振動特性を示した。

5-082

SRモータの駆動電流の立ち下がり波形が騒音に与える影響についての実験的検証

◎本多 圭・岡林晃司・松岡達也・柿ヶ野浩明（立命館大学）

スイッチトリラクタンスモータ（SRM）はレアアースフリーのモータとして注目されている。SRMは安価で軽量，堅牢といった特徴がある。しかし，固定子に発生するラジアル力の変動による振動・騒音がSRMを実用化する際に大きな障害となっている。筆者らは過去にラジアル力の変動を抑える制御を行い，騒音を測定したが大きく抑制することはできなかった。また，ラジアル力の変動を抑えるには複雑な計算や制御を必要とする。本研究では，三相SRMの駆動電流の立ち下がり波形に注目することで，シンプルな制御で騒音が著しく低減される駆動電流波形を実験的に発見した。また，この電流波形について実験結果をもとに騒音低減効果の要因を検討した。

5-083

スイッチトリラクタンスモータのラジアル力の立ち下げ時に着目した電流指令値生成法

◎川崎康平・星 伸一（東京理科大学）

レアアースを用いないモータとしてスイッチトリラクタンスモータが注目を集めている。しかし、低速域における騒音が実用化の課題となっている。原因の一つとして、半径方向の力が急峻に立ち下がることによって高調波成分が生じてしまうことが挙げられる。本稿ではデッドビートタイプのコントローラを用いて制御を行い、固定子に働く半径方向の力を緩やかに立ち下げるような電流指令値を、電流波形補正係数を用いて算出した。500 rpmにおける実機検証の結果、矩形波指令値を入力した場合と比較して、800 Hz、1000 Hz成分をそれぞれ4.8 dB、16.2dB低減することができた。

5-084

磁化特性の数式モデルに基づくSRM のトルクリプル低減と電流実効値最小化手法

◎熊谷崇宏・伊東淳一（長岡技術科学大学）

Switched Reluctance Motor (SRM)において，トルクリプルゼロを達成できる範囲で，電流実効値を最小化する手法を提案し(3)，実機検証にて提案法の有用性について確認したので報告する。

5-085

単相電圧形インバータを用いたSRMの両極性電流駆動

◎櫻井聖也・上杉優真・石川裕記（岐阜大学）

本論文では，両極性電流によるSRM駆動方式を実現するための新しい駆動回路を提案する。提案駆動回路では，巻線電圧を制御する単相電圧形インバータと電圧印加相を切り替えるスイッチ群を縦続接続した構成としスイッチング素子の汎用モジュールを適用できるようにしている。 本稿では，シミュレーションにより，提案駆動回路で両極性電流駆動が可能であり，従来の非対称Hブリッジ駆動回路による単極性電流駆動の場合と同等の速度・トルク特性が得られることを確認した。

5-086

スイッチトリラクタンスモータ用昇圧型駆動回路のMOSFETによる構成方法

◎山本紗英・星 伸一・内田晃介（東京理科大学）

レアアースを使用しないモータとして注目されているスイッチトリラクタンスモータの駆動には、一般的に、非対称Hブリッジ駆動回路(従来回路)が用いられている。また、従来回路に比べ、高出力域での運転が可能となる、リアクトルレス昇圧駆動回路(提案回路)がこれまでに提案されており、過去の研究では、スイッチング素子にIGBTが使用されてきた。本稿では、新たにMOSFETを用いた提案回路を製作し、一部のMOSFETのボディダイオードに流れるリカバリ電流によって正常な昇圧動作が妨げられること、また、この問題を解決するために、直列と逆並列それぞれにSBDを追加する必要があることを、実験により明らかにした。

5-087

FRITによるSRモータ／発電機の制御器ゲイン設計に関する基礎研究

◎後藤一也・齊藤 滉・池田英広（西日本工業大学）

SRモータは，レアアースを使用しない機器であり，堅牢・安価・可変速モータなどの利点がある。SRモータを制御する時には，ステータ-ロータ間のインダクタンステーブルやトルクテーブルを用い，さらに制御パターンを複数用意してステータコイルの励磁タイミングを調整する手法が主として用いられるが，モータ内部のインダクタンスやトルク分布，また電気系・機械系のパラメータが未知であるモデルに対する制御手法の報告例は少ない。そこで本研究では，モータのインダクタンスやトルクの情報を用いることなく，初期実験データのみで制御器ゲインの設計を行う手法をSRモータの速度制御およびSR発電機の出力電流制御へ導入する基礎検証を実施した。

5-088

高周波電流制御システムを用いた零速度を含む極低速時におけるSynRMの位置センサレス制御

◎畑中孝斗・馬渕俊弥・冨田睦雄（岐阜工業高等専門学校）・近藤翔太（名古屋大学）・長谷川 勝（中部大学）・道木慎二（名古屋大学）・加藤真二（岐阜工業高等専門学校）

発生トルクが、リラクタンストルクのみで、永久磁石を持たないシンクロナスリラクタンスモータ(SynRM) が注目されている。SynRM のトルク制御のためには、回転子の位置情報が必要であるが、位置センサを用いず、位置情報を推定することによる位置センサレス制御が望まれている。しかし、低速駆動時の位置センサレス制御は困難であり、これまで低速時の同期モータの位置センサレス制御法として、幾つかの、高周波電圧を重畳する手法が提案されてきた。しかしながら、これらの手法では、高周波電流の大きさが変化し、モータの使用状況により、大きな高周波電流が流れることが生じる。それに対して、本稿では、「高周波電流制御システム」を用いて、高周波電流の大きさを小さい一定の値に制御して重畳し、これによって電流及び電圧にそれぞれ重畳される高周波電流及び高周波電圧のみをBPF(Band Pass Filter) を用いて抽出する。そして、拡張誘起電圧（EEMF)に重畳されて現れる「高周波拡張誘起電圧(高周波EEMF)」を外乱オブザーバにより推定し、推定した高周波EEMF から、同期検波の方法を用いて、位置情報を抽出することによる低速時におけるSynRM の位置センサレス制御法を提案する。本稿では、零速度を含む低速時の位置センサレス制御において、トルク制御が可能なことを実機実験により確認したので報告する。

5-089

磁気飽和を有する同期リラクタンスモータの高周波電圧印加法によるセンサレス制御

◎近藤輝朋・新中新二（神奈川大学）

同期リラクタンスモータ(SynRM)は、他の交流モータと比較し、強い磁気飽和特性を有している。同モータは、回転子構造に起因した磁気的突極性を利用してトルクを発生する。一方で、回転子位相推定のための、高周波電圧印加法もまた、同じく突極性を利用して、回転子位相を推定する。これは、同法がSynRMに適した位相推定法である可能性を示唆している。 本論文では、磁気飽和特性を持つことを前提としたSynRMに対して、高周波電圧印加法の適用可能性を検討する。 本論文は、以下のように構成されている。2章で，磁気飽和を考慮したSynRMの数学モデルを示す。3章で、高周波電圧印加法による位相推定法を示す。4章では、数値検証を通じて、磁気飽和特性を持つSynRMに対する、高周波電圧印加法の適応可能性を検討する。5章で、本論文を総括する。

5-090

センサレス永久磁石同期モータのための同相低減高周波電流相関を用いた離散時間搬送高周波電圧印加法

◎細岡 竜・新中新二（神奈川大学）

高周波電圧印加法の主要残置課題として，位相推定の速応性の向上，印加電圧に起因する可聴音響ノイズの低減がある。本課題の有力な候補が，PWM搬送波と同程度の高周波を印加する搬送高周波電圧印加法である。搬送高周波電圧印加法を実現する上で，最も簡易性に優れる方法が，高周波電流の各軸要素から直接的に正相関信号を生成する高周波電流相関法である。本法の実現は非常に簡易である反面で，正相関信号の特性はあまりよくない。 本論文では，正相関特性の改良機能を備えた高周波電流相関信号を用いた新規な位相推定法を提案する。

5-091

信号重畳起因拡張誘起電圧を利用したPMSMの位置センサレス始動

◎二村拓未・近藤翔太・道木慎二（名古屋大学）

中高速域のPMSM位置センサレス制御の手法として拡張誘起電圧（EEMF）を推定する方法が存在する。EEMFとしては速度に起因する成分がよく知られているが、高周波信号重畳に起因する成分（EEMF_h）も存在し、これを利用した停止・低速域での位置推定も提案されている。EEMF_hを利用した位置推定では、特定位相への信号重畳によりモータパラメータ誤差の影響を受けないことが報告されているが、位置センサレス制御時には特定位相自体も推定対象となるため、EEMF_h位相推定において誤差が生じた際の誤差収束性が問題となるが、これは明らかにされていない。 本稿では、EEMF _hによる位置推定が位置誤差に対して収束性を持つことを示し、これを利用した停止時からの位置センサレス始動が可能であることを示す。

5-092

PMSMの位置センサレス制御に向けたq軸インダクタンスを用いず推定可能な仮想的な磁束とd軸との位相関係の検討

◎近藤翔太・道木慎二（名古屋大学）・冨田睦雄（岐阜工業高等専門学校）

高出力密度化が要求されるPMSMは，位置センサレス制御の実現が望まれているが，磁気飽和の影響からq軸インダクタンス変動の影響が懸念される。本稿では，q軸インダクタンスを用いず推定できる仮想的な磁束に着目し，その仮想的な磁束ベクトルとd軸の位相関係を考察する。そして，その位相関係を利用することでq軸インダクタンスを用いず位置センサレス制御が行えることを報告する。

5-093

拡張誘起電圧モデルに基づく位置センサレス制御時における最大トルク制御座標系の位相誤差解析

◎太田和希・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

埋込磁石同期モータ(IPMSM)の位置センサレス制御手法の一つに拡張誘起電圧モデルを用いた方法がある。全速度域での位置センサレス制御が可能なポテンシャルを有しているが、モータパラメータをモデルに含むためパラメータ設定誤差が位置推定誤差につながる。一方筆者らはIPMSMの制御に適した座標系として最大トルク制御座標系を提案している。この座標系もまたモータパラメータの設定誤差が座標系の推定に影響を与える。インダクタンス設定誤差に対し拡張誘起電圧の位置推定誤差と最大トルク制御座標系の推定誤差が相殺する方向に発生し、位置センサレス制御時に最大トルク制御座標系を採用することでインダクタンス変動にロバストになることを示す。

5-094

位置センサレス制御技術を利用した永久磁石同期モータ電流制御系のフェイルセーフ化についての検討

◎近藤史弥・道木慎二（名古屋大学）

永久磁石同期モータ(PMSM)は様々な移動体の動力源として利用されている．近年では，自動運転など用途の高度化や航空宇宙分野などへの適用拡大から，PMSMの故障に対して厳しい要求が課せられる場合が増えている．PMSM電流ベクトル制御系において耐故障性を考慮すべき点の一つに位置センサがある．一般にPMSMは位置センサが故障すると制御不可となるといった問題が生じるためである．本稿では，位置センサレス制御等のために研究・開発されてきた状態推定技術を活用することによって，位置センサ系のフェイルセーフ化の可能性についてシミュレーションを用いて検討を行い，その結果，状態推定技術を用いてフェイルセーフ化する有効性を確認したので報告する．

5-095

埋込磁石同期電動機の真円形高周波電圧重畳法を用いた磁気飽和にロバストな低速域における位置センサレス最大トルク制御

◎尾崎 真・松本 純・長谷川 勝（中部大学）

埋込磁石同期電動機(IPMSM)の位置センサレス制御が盛んに研究され，様々な手法が提案されている。IPMSMの位置センサレス制御における大きな課題として，磁気飽和による制御性の劣化，停止・低速域での位置推定精度の低下の2つが挙げられる。そこで，本稿では磁気飽和にロバストなIPMSMのLdモデルに基づく高周波電圧を重畳する手法を用いた位置センサレス最大トルク制御法を提案する。提案法は位置センサレス制御系全体で磁気飽和に大きく影響されるLqを用いない構成となるため，磁気飽和にロバストであると言える。また，実機実験により提案法の有用性を検証する。

5-096

高周波キャリアを用いた拡張誘起電圧と電圧重畳によるIPMSMの静音化

○山下大貴・石井雄己・久保田寿夫（明治大学）

一般にPMSMのセンサレス制御法は速度領域によって異なる。通常、低速領域では高周波信号重畳による位置推定が主流であり、中高速領域においては十分な起電力を得ることが可能なことで、この誘起電圧を用いた磁極位置推定法が利用されている。著者らは高周波信号重畳と、拡張誘起電圧による方法を組み合わせ、必要な時のみ信号を重畳する制御によって全速度領域で同一の方法での制御を可能にしている。本論文では騒音が発生する問題を回避するために20kHzという可聴領域外のキャリア周波数を用いることで人間に聞こえてしまう騒音を除去し、高周波キャリアにおいても制御法が可能であることを検証している。

5-097

対称型キャリアを用いたIPMSMの低速用センサレス制御時の静音化

◎松本和久・久保田寿夫（明治大学）

埋込型永久磁石同期電動機（IPMSM）の低速領域でのセンサレス制御に関して、突極性による位置推定法がある。この手法を用いる場合、高周波電圧の印加が必要となり、騒音が発生する。そこで本論文では、PWM（Pulse Width Modulation）の生成方法を変更することで、高周波電圧を印加することなく騒音を低減する手法を提案する。この手法では、キャリア周波数成分の騒音が発生するため、キャリア周波数を20kHzにすることで可聴領域内での騒音を除去する。

5-098

PMSMに適した磁束オブザーバにおける電機子抵抗誤差起因の磁束推定誤差の解析的検討

◎篠原篤志・山本吉朗（鹿児島大学）

永久磁石同期モータの駆動法の1つである直接トルク制御は，制御の際に回転子位置情報を必要としないため，本質的には位置センサレス制御である。磁束を推定する際に用いる磁束オブザーバでは，誘起電圧または電流とインダクタンスから推定した磁束を速度に応じて使い分けるが，インダクタンスには位置情報が含まれており，直接トルク制御が位置センサレス制御系を保つ場合，磁束オブザーバは位置推定を内包する。位置センサレス制御の課題にパラメータ誤差に対するロバスト性があるが，磁束オブザーバのパラメータ誤差の影響についての報告は少ない。ここで電機子抵抗誤差の影響について解析的な検討を行ったため，本発表にて報告する。

5-099

拡張誘起電圧に基づく同一次元オブザーバを用いたIPMSMの位置センサレス制御

◎馬渕俊弥・冨田睦雄（岐阜工業高等専門学校）・近藤翔太（名古屋大学）・長谷川 勝（中部大学）・道木慎二（名古屋大学）・加藤真二（岐阜工業高等専門学校）

埋込磁石型同期モータ(IPMSM : Interior Permanent-Magnet Synchronous Motor)は回転子に永久磁石が埋め込まれたモータで、その突極性を利用することで、他のモータに比べ小型化が可能であり、高効率・高トルクを実現しているモータである。このモータのトルク制御を行うためには回転子の位置情報が必要である。しかし、位置センサのコストや配線の複雑化などを抑えるため、位置センサレス制御が望まれている。本稿では、回転子位置情報をもつ拡張誘起電圧モデルを採用した同一次元オブザーバによって位置を推定することにより、IPMSMの位置センサレス制御を実現する。同一次元オブザーバはH_∞制御理論を用いて速度推定誤差にロバストな拡張誘起電圧推定が可能になるように設計を行った。位置センサレス制御の実機実験によってオブザーバの設計法の有効性を確認したので報告する。

5-100

電流制御系を考慮した永久磁石同期モータのセンサレス速度制御の安定性解析

○前川佐理・杉本麻梨子（東芝）・石田圭一・野木雅也・金森正樹（東芝キヤリヤ）

永久磁石同期モータを位置センサ無しで駆動するセンサレス制御技術に関しては様々な研究がされているが，制御系を構成する「電流制御」，「速度制御」，「位置推定」の各制御ゲインの帯域（応答性）と，制御の安定性の関連について，各々の制御単体で示された例は多いが，複合的な要因を含む系全体の関連性について研究された例は少ない。本論文では，3つの制御の帯域が安定性へ及ぼす影響について，閉ループ伝達関数の特性方程式の根軌跡の解析により安定性判別を行った結果について報告する。

5-101

ILQ設計法によるSPMSMの2自由度最適速度・位置センサレス制御

○小林大晃・高見 弘（芝浦工業大学）・柴崎康司・谷口 学・江原拓未（丸和電機）

永久磁石同期モータ(PMSM)は効率が良くメンテナンスフリーのため近年その利用が拡大している。基本的にPMSMの駆動では回転子の位置が必要である。回転子位置検出をエンコーダやホールセンサなどを用いた場合, 温度上昇や振動による劣化の問題や配線増によるシステム全体の信頼性の低下につながることが指摘されており, 位置センサを用いないセンサレスへの要求が高まっている。センサレス制御では, モータのパラメータを用いて, 角速度を推定するため, パラメータ変動に対するロバスト性を向上させることは特に重要なことである。ILQ(Inverse Linear Quadratic)設計法は最適レギュレータ(LQ)問題の逆問題を用いた最適サーボ系設計であり, LQ問題の解を重みを与えずに簡単な極配置計算から導出できる。ILQ設計法を三相誘導モータの電流制御, 速度制御に適用することでパラメータ誤差に対してロバストであることが明らかになっており, 1自由度ILQ最適速度制御を2自由度ILQ最適速度制御に拡張しシミュレーション, 実験により検証を行ってきた。 本稿はSPMSMの制御系に2自由度ILQ最適速度制御を適用し, ゲインの決定が容易でシンプルなILQ制御によってSPMSMのセンサレス制御についてシミュレーションにより検討する。

5-102

パターンマッチング手法に基づく位置センサレス制御における位置制御誤差改善のためのテンプレートデータ作成法の提案

○宋 河珉・道木慎二（名古屋大学）

非正弦波状に変化するインダクタンス空間分布を持つ埋込型永久磁石同期モータの位置センサレス手法としてパターンマッチング手法が提案されている。パターンマッチング手法を用いてクローズドループ位置センサレス制御を行うと特定の磁極位置で位置制御誤差が発生する。その位置誤差を改善するために，発生原因であるテンプレートデータの電流位相角依存性を考慮してテンプレートデータを作成する手法を提案する．提案法では位置センサレス制御時に印加される様々な電流位相角の特徴量の重心をテンプレートデータとして使用することにより位置制御誤差を改善することが可能となる．シミュレーションと実機実験結果から提案法の有効性を示す．

5-103

デュアルインバータ駆動オープン巻線誘導機の低変調率時における電圧波形改善と実験検証

◎水越彰仁・芳賀 仁（長岡技術科学大学）

これまでに著者らは，低変調率時における巻線電圧波形改善を目的に，デュアルインバータのそれぞれの変換器が出力する電圧の差をモータに印加することでPWMの波高値を低減する手法を提案している。本稿では提案法の実験検証の結果を報告する。

5-104

デュアルインバータシステムにおける同相同時スイッチング動作の補償法

◎大音慶明・野口季彦（静岡大学）・笹谷卓也（デンソー）

近年、ハイブリッド車の燃費向上や自動運転技術に注目が集まる中、筆者らはマルチレベル電圧波形を出力できフェールセーフの点でも有利なデュアルインバータ方式を検討してきた。これまでの検討により、両インバータの同相を同時オン、同時オフするシーケンスのデッドタイム期間中に誤差電圧ベクトルが発生しマルチレベル波形形成に悪影響を及ぼすことがわかっている。この対策として特殊なデッドタイム付加方法が紹介されているが、IGBTのターンオン、ターンオフ時間の差やダイオードのリカバリー回復時間が考慮されておらず依然として誤差電圧が発生する可能性がある。 そこで本稿では従来法に対する補償法を提案し、提案法によりデッドタイム期間中の誤差電圧ベクトルを回避することができ巻線間に形成される電圧波形のdν/dtを約60%低減できたので報告する。

5-105

オープン巻線IPMSMの零相電流リプル低減に向けたPWMパルス生成法の基礎検討

◎荒木隆宏（日立製作所）・三井利貞・宮崎英樹（日立オートモティブシステムズ）

近年，埋込磁石同期モータ(IPMSM)の高出力化や冗長性向上を目的としてオープン巻線型の適用が検討されている。本稿では，単一電源を用いてオープン巻線IPMSMを駆動するシステムにおいて，パルス周期中の零相電圧極性を単一化するPWMパルス生成法を提案し，シミュレーションにおいて零相電流リプルが44%低減されることを確認した。また，電流リプルの低減に伴いモータ電流の高調波ひずみ率(THD)が19.3%から12.8%に低減される見通しを得た。

5-106

独立二重三相巻線永久磁石同期モータのための4モード電流の独立・安定・高速制御

○新中新二・中村直人（神奈川大学）

近年，永久磁石同期モータ(PMSM)を駆動対象としたモータ駆動システムの高性能化，高機能化の一環として，モータ固定子に独立の二重三相巻線を施し，各巻線に独立のインバータを配した独立二重駆動システムの開発が進められている。魅力的な特徴を有する独立二重巻線PMSMではあるが，概して安定な電流制御が困難という難点も有する。本論文は，異なる巻線起因特性をもつ独立二重巻線PMSMのための新たな電流制御法を確立したので，この要点を報告する。

5-107

電圧制限下における異なる巻線起因特性をもつ独立二重巻線PMSMの最小銅損駆動法

○梅野和希・岡村彰紘・新中新二（神奈川大学）

近年，駆動システムに対して，広い速度での高トルク駆動が要求されている。同要求を満たし得る高効率な電動機の一つとして，永久磁石同期モータが知られている。同モータの固定子に二重巻線を施し，2つのインバータを用いて駆動する独立二重巻線PMSMは，耐故障性，効率の向上等が期待されている。 著者らは同モータの効率駆動に関し，独立二重巻線PMSMの最小銅損電流指令法を提案した。しかし，本法は非電圧制限下のものであり，電圧制限を超える速度では，本指令法より得た電流解を採用することはできない。 本研究では，電圧制限下における独立二重巻線PMSMの最小銅損電流指令法を提案する。

5-108

二重三相巻線永久磁石モータ用簡易過変調駆動法

○森 辰也・古川 晃（三菱電機）・山本吉朗（鹿児島大学）

高出力化，信頼性向上，低トルクリップル化を主な目的として，30度の位相差を有する2組の三相巻線を1つの固定子に収めた二重三相巻線モータに関する研究が盛んに行われている。本稿では，二重三相巻線モータを対象とした過変調駆動について述べる。従来の過変調駆動では，モータの電圧・電流に，それらの基本波に対し主に5，7，11，および13次成分が生じる。これを二重三相巻線モータへ適用した場合，5および7次成分は三相巻線間の30度位相差によるキャンセル効果によってリプルとならないが，11および13次成分はキャンセルされずリプルとなる。そこで，二重三相巻線モータ向けに11および13次成分を簡素な演算で低減する過変調手法を提案する。実機試験結果により，提案手法によって11および13次成分を低減できること示す。

5-109

マルチインバータモータの極数変換の制御特性

◎矢野秀征・堺 和人（東洋大学）

現在、電気自動車や電車などに使われているモータや制御システムは高効率・省エネなどの高性能化が求められている。マルチインバータモータシステムは複数の3相インバータと複数の巻線グループからなるモータで構成されている。各インバータの相順を切り換えることでモータの極数を変換して可変速運転を可能になる。本稿では回路シミュレータPSIMを用いてPID制御下でマルチインバータの極数を変換した時の無負荷、負荷時の過渡回転特性のシミュレーションを行い、極数変換時の特性を明らかにした。また、極数変換時の4極、8極が混在している状態をシミュレーション上において極数変換前後に設けてシミュレーションを行い、その状態の制御特性を明らかにした。

5-110

電解コンデンサレスインバータのゼロ出力電圧時の銅損極小化

◎阿部晃大・加田晴也・赤間洋祐・大石 潔・芳賀 仁・横倉勇希（長岡技術科学大学）

産業・家電系において，AC‒DC‒ACシステムを用いたモータの可変速駆動技術が広く普及している。AC‒DC‒ACシステムに関する研究の中でも，ローコスト・小型化を実現するものとして電解コンデンサレスインバータで構成されたモータドライブシステムが提案されている。このシステムでは直流リンク電圧が電源電圧の絶対値波形となるため，出力電圧がゼロになる領域が周期的に存在する。本稿では，この領域における銅損抑制するために，モータ電流の初期値応答を利用した銅損極小化手法を検討する。提案制御系の動作特性はシミュレーションにより確認する。

5-111

自動車搭載用動吸振型エネルギーハーベスタの開発

◎髙村康之・平田勝弘・新口 昇・加藤雅之（大阪大学）・戸嶋裕基・東條威士・髙口大樹・牛田啓介（アイシン精機）

自動車の駆動系においては，エンジントルクの脈動が駆動系を伝達することでドライブシャフトにおけるねじれ振動が発生し，ドライバーに不快感を与える．加えて，現状の振動対策として，駆動系にダンパ等を組み込むことによりねじれ振動を減衰させるのが一般的であるが，この手法では振動エネルギーは熱や音といった損失として消費されている．それに対して本稿では，自動車駆動系におけるねじれ振動の低減とエネルギー回生を目的とする動吸振型エネルギーハーベスタを提案し，発電原理を示したうえで，簡易発電シミュレーションによってその有効性を確認する．

5-112

モデルベースによる並列化コード自動生成ツールをモータ制御に適用した際の有用性評価

◎深谷周平（日立交通テクノロジー）・井上雅理・横山静香・竹松慎弥・鍾 兆前・本田晋也・枝廣正人・道木慎二（名古屋大学）・小島流石・安積卓也（大阪大学）

著者近藤真己コンドウ／マサキ Kondo/Masaki 4 中本幸一ナカモト／ユキカズ Nakamoto/Yukikazu 5 抄録モータ制御において，位置センサレスやモデル予測制御など計算量が多い制御が登場し，今後も高品質化による計算量の増加が予想されることから，シングルコアマイコンでは性能不足を招く可能性がある．そこで，マルチコアマイコンでの制御が必須となることが予想される．しかしながら，現状は制御器設計の段階ではマルチコアを意識せずに設計するため，マルチコアによる並列処理を行うと制御性能の劣化や制御の不安定化が発生する危険がある．本稿では，モデルベースによる並列化コード自動生成ツールを120度通電方式のモータ制御に適用した事例を報告した．実験の結果，ツールを使用した場合においても，設計通りの制御性能を持つことを確認し，有効性を示した．

5-113

構造と配電線路が誘導電動機に及ぼす影響－従来型電動機およびプレミアムモータにおける周波数特性変化－

○一柳龍伸（日本大学）

2015年よりプレミアムモータとして利用されるようになった誘導電動機は、JIS4034に基づき2次抵抗の回転子抵抗を小さくすることにより運転時の熱損失が低減され、効率アップが図られている。ただ、現状では、システムの改善に伴い電動機を置き換えた場合に、2次抵抗の低減に対する始動トルクが十分に得られず、始動不能や焼損事故の発生事例が一部で報告されている。 このため、これまで始動装置を組み込まずに始動可能であったシステムが、電源容量の制限や新たに始動時に必要とされる電源容量調整のため、始動装置を必要とされるようになっている。

5-114

時間周期有限要素法から得られる非対称行列に対するEisenstat技法を援用した前処理付きKrylov部分空間法の検討

◎熊谷 真・鎌仲留香・谷仲祐輝・岡本吉史（法政大学）

時間周期有限要素法から得られる係数行列は，大規模非対称行列となる．この線形方程式に対し，不完全LU分解前処付きBiCGStab2法の使用が報告されているが，その他の前処理付きKrylov部分空間の性能を論じた報告はないようである．本論文では，時間周期有限要素法から得られる巨大な非対称行列に対し，ガウスザイデル前処理とEisenstat技法を援用した非対称ソルバーについて検討したので，報告する．

5-115

Cauer回路を用いた圧粉磁芯の磁気特性モデリング法の有効性検証

◎渡邉直也・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

著者らは，圧粉磁芯の磁気特性が有するヒステリシス特性および周波数依存性をプレイモデルおよびCauer回路によって表現するモデリング法を提案した．提案法におけるCauer回路の回路素子値は，最適化手法により複数の測定周波数における磁気特性を再現できるように導出する．したがって，モデル化法の精度は，回路素子値算出時に使用する周波数範囲に大きく依存する．そこで本稿では，回路素子値算出時の測定周波数範囲を拡大し，インダクタンス値の周波数特性を対象としてCauer回路と有限要素法の連成解析を行い，測定結果との比較を行った．また，磁気特性モデリングに静的ヒステリシスとしてChuaモデルを用いた場合の問題点を明らかにした．

5-116

高周波電磁界解析における反復法の収束性に関する検討

◎桝井晃基・荻野正雄（名古屋大学）

辺要素有限要素法による時間調和渦電流解析や高周波電磁場解析などで得られる複素対称線形方程式の求解において，倍精度よりも高精度な，倍々精度複素数演算などを用いることで反復法の収束性改善に成功した．一方で，悪条件問題においては，反復法の残差ノルムが収束判定条件を満たしたとしても，得られた近似解が真の解と大きな誤差を持つ場合がある．そこで今回は，開発システムを用いて高周波電磁界解析で得られる複素対称線形方程式に対して数値実験を行い，残差ノルムと真の解との誤差との関係を調べた．また反復法や精度を変えて実行した際の影響を調査し，その結果を報告する．

5-117

展開点付きCLN法に関する検討

◎栗山健太・藤原嵩之（京都大学）・亀有昭久（サイエンスソリューションズ）・菅原賢悟（近畿大学）・進藤裕司（川崎重工業）・松尾哲司（京都大学）

最近、はしご型のCauerの等価回路を用いて電磁界を効率的に表現する手法であるCLN法が提案されている。この方法は少ない計算量で広い周波数領域に対応できることが特徴の一つとして挙げられるが、本稿ではCLN法の基礎方程式に展開点を導入し、必要な周波数領域を最小限の段数で表現する手法を開発する。はじめに、電流ベクトルポテンシャルを用いた定式化を行い、後に簡単な渦電流解析によって展開点付きのCLN法の有効性を検証する。

5-118

行列連分数を用いた2ポートCLN法に関する検討

○藤原嵩之・栗山健太（京都大学）・菅原賢悟（近畿大学）・亀有昭久（サイエンスソリューションズ）・徳増 正（東芝インフラシステムズ）・新藤裕司（川崎重工業）・松尾哲司（京都大学）

有限要素法に代わる効率的な渦電流解析の手法として開発されているCauer Ladder Network法(CLN法)を拡張し,行列連分数を用いて,複数電源が存在する場合のCLN法を定式化した. 行列連分数型CLN法はコンダクタンス行列とインダクタンス行列からなる梯子型回路で構成されている.導体平板に対して適用した結果,梯子型回路の段数の増加に伴い厳密解に近づいており, 適切に磁界解析ができているといえる.

5-119

均質化有限要素法とインピーダンス境界条件を用いた渦電流変位センサの電磁界解析

◎藤田祥伍・五十嵐 一（北海道大学）

渦電流変位センサ(ECセンサ)の設計の際に，渦電流を考慮した有限要素法を適用すると，膨大な未知数の方程式を解く必要がある．本発表においては，有限要素数の増加を抑えたECセンサの準数値電磁界解析法を提案する．コイル素線においては，マクロ実効透磁率を用いた均質化有限要素法でモデリングする．一方，金属ターゲットに対しては，インピーダンス境界条件を課し，線境界に置換することで，金属ターゲット中の有限要素分割を回避する．本報告においては，提案手法と従来の有限要素解析を用いてECセンサの解析を行い，精度が高いことを示す．また，実測値とも概ね一致した値が得られることも示す．

5-120

補間点数の増加によるプレイモデルの高精度化

○阿波根 明（JSOL）・髙橋康人（同志社大学）・北尾純士（三菱電機）

磁性体のヒステリシス特性を表現できるプレイモデルの研究が盛んに行われ，有限要素法などの数値解析にも適用されている．プレイモデルは実測データに基づいたモデルであるため，その実測データの再現性は非常に高いという特長がある．しかし，従来提案されているプレイヒステロンの同定方法は実測された一部の磁化特性に依存しているため，プレイモデルの精度を高めるためには，対称磁化曲線の本数を増やさなければならない．本文では従来利用されていない対称磁化曲線のデータをより多く利用することにより，対称磁化曲線を増やすことなく，モデルの高精度化を行う方法を提案する．

5-121

時間領域随伴変数法を用いた誘導加熱装置の設計感度解析

◎増田 弘・岡本吉史（法政大学）・若尾真治（早稲田大学）

誘導加熱装置のトポロジー最適化を行う場合，順解析では，渦電流を考慮した時間領域電磁界解析が必要となる．その場合の感度解析手法として，高速な感度解析を実現できる時間領域随伴変数法（AVM）が有効である．本論文では，二次元軸対称場における誘導加熱装置問題に時間領域随伴変数法を適用し，磁気抵抗率・導電率を統括する媒介変数に関する感度解析を行ったので，その結果を報告する．

5-122

非適合接続を導入した有限要素法による渦電流損解析に関する検討

◎早津政人・岡本吉史（法政大学）

電磁界解析において，計算精度を維持しながら，計算規模の縮減を可能とする手法として，非適合接続を導入した有限要素法がある．本手法は，サイズが異なる有限要素メッシュを平面的に接続できるため，物体の回転・メッシュ規模の削減に効果的である．本論文では，非適合接続を導入した有限要素法において，機器外部の空気層の厚みが，渦電流損の計算精度へ与える影響を検討したので報告する．

5-123

二次元静磁界における磁気シールドの多層構造に関する検討

◎髙橋良彰・鈴木澪也・増田 弘・岡本吉史（法政大学）・若尾真治（早稲田大学）

核磁気共鳴画像法（MRI）等，強力な磁界から電子機器を守るため，磁気シールドは有用な電磁機器である．磁気遮蔽性能を向上させる方法として磁気シールドの多層化が挙げられるが，シールドを固定するボルト等の増加があり，設計コストの観点から限界がある．一方，トポロジー最適化は，既存構造に囚われない新たな形状を生成できる．本論文では，人工的に設計した多層磁気シールドとトポロジー最適化から得られた磁気シールド性能の比較検討を行う．

5-124

構造解析に基づく磁気シールドモデルのトポロジー最適化に関する検討

◎澤田浩幸・増田 弘・岡本吉史（法政大学）・若尾真治（早稲田大学）

トポロジー最適化は，既存の概念にとらわれない構造を獲得できる最適化手法である．この手法は，電磁気学問題にも適用されており，磁気エネルギー最小化を目的とした誘導加熱装置の構造最適化等が報告されている．さらに実用的な構造を模索するうえで，電磁気学的観点のほかに，構造力学的観点からも最適化を行う必要がある．そこで本論文では，2次元場における平面応力問題として，材料体積の制約条件を考慮し，力学的物理量である平均コンプライアンスの最小化を目的とした2次元磁気シールドモデルの最適化を行ったので，その結果を報告する．

5-125

非接触給電装置の磁気コアの3次元トポロジー最適化

◎大友佳嗣・五十嵐 一（北海道大学）

近年，非接触給電は電気自動車の普及に伴い，更なる伝送効率の向上が求められている．このため，送受電コイル近傍の磁性体形状のパラメータ最適化が行われている．しかし，最適な設計変数の組み合わせを探索するには，経験と知見が必要となる．一方，新しい形状最適化技術として，トポロジー最適化が注目されている．トポロジー最適化は設計変数による制約を受けず，穴の生成消滅を含めた自由変形により形状を探索するため，従来の発想とは異なる，新たな形状を得られる可能性がある．本研究では，トポロジー最適化手法のひとつである，正規化ガウス基底関数を用いたon/off法を，非接触給電装置の磁気コアのトポロジー最適化に適用し，従来形状と比較を行ったので報告する．

5-126

ワイヤレス給電装置に及ぼす遮蔽物の影響に関する研究

◎下川原 佑・李 暁楊・高梨雄希・熊野照久（明治大学）

電力を非接触で伝送するワイヤレス給電技術では伝送空間に発生した障害物が及ぼす電力伝送への影響を考慮する必要がある。本研究では解析及び実験によって伝送空間に配置した遮蔽物がそれがない場合と比較して周辺磁界分布にどのような影響を及ぼすかについて検討を行った。 送受電用コイルの断面モデルを用いた解析では、何もない場合と比較して銅を配置した時にコイル周辺の磁束密度分布が弱くなった。一方実験でワイヤレス給電用コイルの周囲に発生する磁束密度を実測した所、金属板で遮蔽したときは周囲の磁束密度が増加した。この結果から金属遮蔽物には磁束が発生し、送電システムとしての損失が増加することが明らかになった。

5-127

格子状三相-単相平面形非接触給電システムのシミュレーション

◎松永大平・岡部和磨・椎原悠太・井川祐介・永田竜馬・柴戸洋次郎・松本洋和・根葉保彦（福岡大学）

近年FA化にともない、自動搬送車(AGV)への注目が集まっている。これまで、筆者らは三相-単相平面形非接触給電システムを提案し、その有効性を明らかにしてきた。本論文では格子状の送電部をもつシステムを提案し、その特性のシミュレーションを行った。その結果、AGV駆動に必要な電力を一様に送電できることを確認した。

5-128

磁性粉をランダムに充填したソレノイドコイルの三次元有限要素解析

河瀬順洋・山口 忠（岐阜大学）・○伊藤一洋・高橋政幸・池 寛子（東光）・三舩洋嗣（村田製作所）

鉄心を挿入したコイルは，高周波で利用すると鉄心中に多大な渦電流損が発生することから，損失低減のために磁性粉を材料とした鉄心を用いる場合がある。我々は過去に鉄球を充填したトロイダルコイルの解析や，磁性粉を充填したソレノイドコイルの解析を行ってきたが，それらの解析では，鉄球や磁性粉が規則的に配置された理想化モデルを使用した。本研究では，より現物に近づけた解析として，磁性粉をランダムに充填したソレノイドコイルに対してスーパーコンピュータ「京」による三次元有限要素解析を行い，構造の不規則性が特性に及ぼす影響を明らかにする。

5-129

圧粉磁心の複素透磁率の粒子形状依存性

○丸尾昭人・五十嵐 一（北海道大学）

圧粉磁心は高周波における渦電流損失が小さいことから，近年電子機器へ用いられるようになってきている．圧粉磁心の電磁気的特性の解析ではマクロな複素透磁率を導入することが有効である．本報告では粒子形状が複素透磁率による解析結果に与える影響について議論する．

5-130

Hybrid並列計算システムによる磁界解析

山口 忠・河瀬順洋・◎長瀬敦義・石村祥太（岐阜大学）

我々はこれまでに有限要素法の並列化手法として、領域分割法を用いた並列計算手法を適用し、分散メモリ型の並列計算システムを運用してきた。近年、CPUはマルチコア化、メニーコア化の傾向にある。共有メモリ型の計算機向けの並列計算手法として、マルチカラーオーダリング（MC法）など、係数行列にオーダリングを施すことでICCG法の主要な計算である前進・後退代入において、スレッドセーフな並列計算を可能とする手法が開発されている。そこで本稿では、有限要素法に領域分割法とMC法を用いたMPIとOpenMPによるHybrid並列計算手法を適用し、並列計算システムの効率的な運用を検討する。

5-131

「京」コンピュータを用いた磁界解析におけるHybrid並列計算の性能評価

河瀬順洋・山口 忠・◎石村祥太・長瀬敦義（岐阜大学）・太田智浩・山本竹志（パナソニック）

我々はこれまでに「京」コンピュータを用いた三次元有限要素法による大規模磁界解析が実用的な時間で解析可能であることを示した。また，PCクラスタを使って，領域分割法とマルチカラーオーダリングを用いたMPI/OpenMPによるHybrid並列の性能評価も行った。 本稿では，扁平コイルを用いたEV非接触給電システムを解析対象とし，上記のHybrid並列の「京」コンピュータにおける性能評価を行う。

5-132

渦電流解析の部分領域問題に向けた直接解法の基礎検討

◎水間健仁・武居 周（宮崎大学）

本研究では、領域分割法に基づく渦電流解析の部分領域問題の直接解法に関する検討を進めている。本問題は、部分領域問題において解かれる方程式が複素対称特異行列となることから、ICCOCG法などの反復法が選択されることが一般的である。一方で、反復法に基づき求解する部分領域境界間のつり合い解析の収束性は、部分領域問題の解の高精度化により改善可能であるが、反復法の打ち切り誤差により困難である。そこで本研究では、部分領域問題に対し特異値分解法に基づく直接解法を適用することに関する検討を進めている。本講演では、部分領域問題への直接解法の適用手法、部分領域サイズの最適化や収束性などの基礎検討に関して発表する。

5-133

GPUを用いた並列計算による大形三相変圧器の三次元電磁界解析に関する検討

◎宇都宮竜馬・山崎克巳（千葉工業大学）

本稿では，まず並列計算手法について述べた後，PCにGPUボードを装着して大形三相変圧器の電磁界解析を実施する。また，同じPCのCPU単独による解析と計算時間を比較することにより，GPUによって実用規模の三次元電磁界解析を並列化する有効性を明らかにすることを試みる。

5-134

植物油系絶縁油における耐熱絶縁紙劣化特性

◎久住政喜・山中 功・上野倫幸・橋爪 優・辻 真名美・西川精一（かんでんエンジニアリング）

従来、変圧器には鉱油系絶縁油が用いられてきたが、環境への意識の高まりから、植物油系絶縁油の使用が盛んになっている。また、トップランナー制度改正以降、変圧器の絶縁材料として、耐熱絶縁紙の使用が求められているが、植物油系絶縁油との関係に関する知見はまだ少ない。そこで本稿では、植物系絶縁油中での耐熱絶縁紙の劣化特性とその生成物との関係を実験的に求め、これまでの変圧器診断手法の適用性も含めた検証結果を報告する。

5-135

油入変圧器シール材の経年劣化調査

○佐藤 学・小西義則・長谷川真之（ユカインダストリーズ）・村上純一・柳 拓也（東北電力）

油入変圧器には各所にゴム製シール材が用いられている。シール材は長期間の使用により劣化が進行し，密閉性が低下すると漏れが発生する可能性が高くなることから適切な時期にシール材を交換することが必要である。実際には機器のオーバーホールや大規模修繕に合わせた取替えを行っており，機器メーカ交換推奨時期よりも長期間使用しているのが現状である。このため高経年機器ではシール材の劣化が原因の不具合がしばしば生じており，今後その件数は増加していくものと予想されることから，シール材の劣化様相を把握することが重要となる。そこで，本研究では撤去変圧器からシール材を採取し，その劣化様相を調査した結果を報告する。

5-136

特高用変圧器のタンク振動に及ぼす油温の影響

○小西義則・加藤雅道・長谷川真之（ユカインダストリーズ）・北川 寛・田中拓実・松本 聡（芝浦工業大学）・青山 光・小貫素彦・鈴木秀康（東日本旅客鉄道）

変圧器の異常診断や劣化診断の技術開発を目的に我々は変圧器タンク振動を測定解析している。変圧器のタンク振動は油温の影響を受けることが指摘されており、稼働中に診断することを考えれば、油温の影響を把握しておく必要がある。今回、振動特性に及ぼす油温の影響を検討したので報告する。 電源系周波数成分は測定位置により異なる傾向の温度依存性を示した。変圧器診断指標が仮に温度変化がある場合は、診断時に温度補正を必要とするが、電源系振動成分の大きさや比を指標とする場合の補正は容易ではないことが分かった。その一方、機械系振動の固有振動数はそれほど大きな変化は無いことから変圧器診断指標として適していると考えられる。

5-137

特高用変圧器加速劣化手法に関する研究

○青山 光・小貫素彦・鈴木秀康（東日本旅客鉄道）

特高用変圧器の計測データから統計分析手法を用い、設備状態の変化から劣化傾向を推定するが、この手法による劣化傾向の把握の精度を検証するため、変圧器を加速劣化させる試験を実施した。その結果、変圧器内部に何らかの変化が発生している可能性があることがわかったため、これらについて報告する。

5-138

油中ガスセンサの油温・水分測定機能を用いた巻線絶縁紙劣化診断実用化に関する検討

◎小川賢治・大橋優一・栗原二三夫（東光高岳）

受変電機器のメンテナンスの効率化を目的とした油中ガスセンサを用いた劣化診断技術が望まれている。筆者らは油中ガスセンサ用いた変圧器の劣化診断手法の研究に取り組んおり、油温に対する油中水分量の変化傾向から劣化の定量化を検討している。今回、変圧器を模擬した検証装置において、劣化度の異なる絶縁紙に対し、変圧器負荷による油温変動を模擬した油温変動パターン（温度・保持時間）を用いて検証を行った。その結果、絶縁紙の劣化度に応じた油温に対する油中水分量の変化傾向の差異が見られ、変化傾向から得られる単位温度当たりの油中水分量を1サイクル分積算した値と絶縁紙の劣化度に相関がみられた。これにより、オンラインセンサを用いた変圧器の劣化診断の可能性と、具体的劣化診断手法について確度の高い手法を明らかにできた。

5-139

Ag修飾SnO₂ナノ粒子ガスセンサを用いたエチレンの検出

○古本 匠・前之園大地・中野道彦・末廣純也（九州大学）

油入変圧器内部に充填された絶縁油中で放電や過熱が起きると、絶縁油が分解され、炭化水素系ガスが発生する。主な分解ガスは水素、アセチレン、メタン、エチレン、一酸化炭素、二酸化炭素などであり、これらが絶縁油中に溶けることで絶縁性能が低下し、変圧器の故障をもたらす。本稿では、誘電泳動集積法によって酸化すず（SnO₂）ナノ粒子を櫛歯電極上に集積することで作製したガスセンサを用いて、エチレンガスの検出を行った。その結果から変圧器の初期異常を検出するセンサとして応用できる可能性が示唆された。また、作製したSnO₂ナノ粒子ガスセンサに銀修飾を施すことによって、センサ応答の向上を試みた。

5-140

循環電流を利用した変圧器の劣化診断の基礎研究

◎斎藤純平・塩谷厚志・関島志郎・林屋 均（東日本旅客鉄道）・中嶋 高・平出眞也・腰塚 正（東京電機大学）

変電設備の故障は電力供給支障・輸送障害につながることから設備の長期運用には適切な判断が求められる。変圧器内部の健全性の判断は、油中ガス分析等により行われているが、試料の採取・分析に時間を要するため、現地で測定可能な電気的手法による診断技術が注目されている。 本研究では変圧器の健全性を判断する周波数応答測定（FRA）について、変圧器のデルタ結線に発生する循環電流に着目し、運用中変圧器の劣化診断に有意な特性が得られるか考察を行った。 変圧器の状態監視として、Δ結線を循環する電流に着目した。鉄心に異常が発生すると、循環電流に含まれる基本波と第3調波の比率が変化することが確認できた。

5-141

模擬変圧器におけるUHF 波を用いた部分放電測定結果

○四蔵達之・富岡 章・磯崎 優・恩地俊行（富士電機）

UHF 波を用いた部分放電検出技術が注目されており，これまでに，放電源をアンテナとみなした模擬変圧器内の電波伝搬特性の解析結果及び実測結果を報告した。本報告では，実放電から発生するUHF の測定結果について報告する。

5-142

直流電圧印加時の絶縁油-プレスボード複合絶縁構成における電界分布変化の時間特性

◎中根龍一・高林享平（愛知工業大学）・加藤克巳（新居浜工業高等専門学校）・大久保 仁（愛知工業大学）

近年，直流電力システムの中でも主要電力機器である交直変換器用油入変圧器内における直流電界分布および電荷挙動の現象究明が重要である．本論文では有限要素法を用いて，変圧器内の絶縁油-プレスボード(PB)複合絶縁構成における時定数を考慮した電界分布変化および蓄積電荷密度分布の解析を行う．さらに電極の先端曲率半径を変化させ，平行平板モデルと電界の不平等性ηの観点から比較することで，定量的な直流電界分布の時間的変化の検討を行う．その結果，絶縁油-PB複合絶縁構成において，直流電界分布の不平等性ηと箇所によって直流電界分布の変化時定数が異なり，極性反転時の電界に大きく影響していることが明らかになった．

5-143

ガス絶縁変圧器の自冷性能評価

◎高野 啓・野口直樹・松下正樹・吉田 聡・千切健史・山田 慎（東芝エネルギーシステムズ）

ガス絶縁変圧器に使用されているSF6は地球温暖化係数の高いガスであり，取り扱いが煩雑であることから，ガスブロワを使用しない自冷式で，かつ代替ガスを用いた変圧器へのニーズが高まっている。我々は3次元熱流体解析を用い，同一形状同一定格の自冷式変圧器のモデルに対し， SF6とドライエアの2種類を冷却媒体とした場合の各部の温度上昇を求めることで，ガス絶縁変圧器において冷却媒体を変えた場合の自冷性能を評価した。結果，自冷時の上下配管温度差はガスの熱容量の0.7乗に逆比例することがわかった。この関係式を使い，ガス種を変えた場合でも，SF6ガスの設計値を補正して使用できる可能性がある。

5-144

解析技術を用いた油入全装輸送配電用変圧器の開発

◎原田 聡・脇本 聖・櫛木一寿（明電舎）

近年配電用変圧器に対する要求事項は，低騒音，低損失，コンパクト，メンテナンス簡素化，現地工事簡略化，工期短縮などがあげられる。そんなユーザーニーズに対応すべく，今回は当社主力製品である配電用変圧器において，現地作業の簡素化による工期短縮・現地試験簡略化をねらい油入全装輸送の配電用変圧器の開発を行った。最新の解析技術を駆使しながら中身・外装の構造を合理化することで変圧器体格の大幅なコンパクト化と質量の軽量化を実現した。さらに検証器を製作し，JEC-2200-2014準拠の試験を実施することで，基本仕様を満足した油入全装輸送の製品化の目途が立った。

5-145

大形三相変圧器におけるステップラップ接合部のパッチ鋼板による特性改善に関する検討

山崎克巳・◎向山弘文（千葉工業大学）

本稿では，鉄心端部にセグメントギャップを覆うサイズの電磁鋼板（パッチ鋼板）を追加して貼り付けることにより、磁束密度の局所的集中を避けて変圧器の特性改善を行うことを提案する。また，実験と電磁界解析の両面から効果を検証する目的で，積層鉄心を考慮して変圧器の諸特性を高速に算出する手法も提案する。

5-146

三相三脚鉄心変圧器の消磁についての検討

○中嶋 高・平出眞也・日俣幸彦・腰塚 正（東京電機大学）

変圧器鉄心内に大きな残留磁束があると、再投入の際、過大な励磁突入電流が流れ、瞬時電圧低下や保護リレーの誤動作が発生することがある。また変圧器内部異常を診断する周波数応答解析（FRA）の開放試験では、残留磁束があると再現性よく測定できない。このため各種鉄心消磁方法が提案されているが、三相変圧器を消磁するには、三相個別に消磁するのがよいと論じている論文もある。しかしデルタ巻線がある場合は一相のみ消磁で三相とも消磁されると予想されるため、実験的に確認した。その結果三相三脚鉄心を使用したY－Δ結線変圧器の場合、一相を消磁することで、三相とも残留磁束が最大磁束の5%以内に消磁できることを確認したので報告する。

5-147

方形波印加による三相変圧器の消磁の検討

◎平出眞也・中嶋 高・腰塚 正（東京電機大学）

周波数応答解析(FRA)の開放測定において残留磁束があると、インピーダンスが小さく測定されるとともに、共振周波数は高くなる。従って再現性よく測定するには変圧器を消磁する必要がある。しかし、高電圧・大容量変圧器を現地で消磁するには、設備面での課題があった。 筆者らはこれまでに、印加する方形波の周期を変化させ、単相変圧器や三相三脚鉄心変圧器の消磁を行う方法を検討してきた。提案法は従来法と比較して、簡単な電源で消磁を行うことができ、現地での安全性を確保しやすい。本論文では、提案法による消磁が、単相変圧器を3台用いて三相回路を構成した三相変圧器でも有効であることを確認したので、結果を報告する。

5-148

275kV 変圧器用ポリマーガスブッシングの開発

加川博明・多藝彰規（東京電力パワーグリッド）・田中直樹・◎辻 和宏（日本ガイシ）

電気協同研究会「ポリマーがい管の設計標準・試験法の標準化専門委員会」において長期信頼性の見通しも得られ,超高圧クラス以上については経済的優位性も確認されたことから,今後国内においてもポリマーがい管が本格適用される状況にある。これは，変圧器用ブッシングも例外では無い。ポリマーブッシングには，優れた耐震性,既設互換性,吸湿制御による長寿命化，ポリマー損傷時の迅速交換性が求められる。昨年度まで我々は窒素ガスを使用した同製品の開発を行い実用化の見通しを得ているが,今年度は，レジン含浸紙コンデンサブッシングの電界制御効果を最大限生かし低圧SF6ガスと組み合わせ，ガス機器用ポリマーがい管より，小型化した変圧器用ポリマーガスブッシングを開発しているので現況を紹介する。

5-149

類焼防止装置・がいし活線洗浄装置からの注水に対する変圧器用ポリマーブッシングの外被ゴムへの影響

◎多藝彰規・加川博明（東京電力パワーグリッド）・楫野宏樹・木佐貫 治・笹森健次（三菱電機）

変圧器用ポリマーブッシングについて，変圧器類焼防止装置およびがいし洗浄装置からの注水による外被ゴムへの影響を評価するため，両装置の注水仕様を包含した注水試験を実施し，変圧器用ポリマーブッシングの外被ゴムへの影響を評価した結果，新品時かつ今回試験条件においては，外被ゴムの損傷は発生しない見通しを得た。

5-150

真空バルブ式負荷時タップ切換の完成

◎宮本泰志・篠田昌幸・鹿子木 修（東芝エネルギーシステムズ）

負荷時タップ切換器は、運転状態の変圧器において電圧調整のために巻線接続を切換える装置である。従来から使用されている油中アーク切換式負荷時タップ切換器は、タップ切換え時に油中で発生するアークにより切換接点を消耗するため、定期的な保守が必要となる。また、アークにより汚染された絶縁油をろ過するため、活線浄油機が必要となる。一方、真空バルブ式負荷時タップ切換器は、油中にアークが発生しないため絶縁油が汚染されないこと、切換接点の消耗が非常に少ないことから、保守インターバルの延伸化や機器の長寿命化が可能である。この度VI-LTCについて小容量形、中容量形、大容量形の3器種のラインナップが完成した。

5-151

マルチパンケーキコイルで構成されるHTSマグネットの線の最大許容欠陥長さMAD

◎鳥山飛史・松尾竜太・松田直大・小島あかね・渕田佳稀・野本明宏・高尾智明・塚本修巳（上智大学）

複数のサブパンケーキコイルで構成されるHTSマグネットでは、両端のコイルが最初にクエンチするという実験結果がある。また、HTSコイルにおけるクエンチの主な原因は線材に含まれる欠陥であると考えられる。本研究では、8個のダブルパンケーキコイルを想定し、各サブパンケーキコイルにおける垂直磁場と熱暴走せずにコイルの運転が継続できる欠陥の最大許容値（Maximum allowable defect：MAD）を求めた。欠陥の長さがMAD以下ではクエンチせず、MADより長い場合はいずれクエンチによる熱暴走に至るため、クエンチ保護が必要になる。また、コイルの抵抗領域での発熱量について検討を行った。

5-152

模擬実験による抵抗ショート法を用いたクエンチ保護法の有効性検討

◎野本尭宏・松田直大・渕田佳稀・松尾竜太・小島あかね・鳥山飛史・高尾智明・塚本修巳（上智大学）

HTSコイルのクエンチ保護が実用化にあたっての課題となっている。従来のdetect&dump方式によるクエンチ保護法では、大型マグネットでは耐電圧により、クエンチ保護時におけるマグネット電流の減衰時定数τ= L / R1（L: マグネットインダクタンス、R1: ダンプ抵抗）の低減に限界があり、クエンチ検出電圧を小さくしても熱暴走が起きるという問題がある。これに対して、我々は抵抗ショートによるクエンチ保護法を提案している。本研究では、その方法の有用性を模擬実験により検討した。

5-153

導電性樹脂を用いたREBCOコイルの保護

○宮崎寛史・岩井貞憲・宇都達郎・草野貴史・小柳 圭・石井祐介・野村俊自（東芝エネルギーシステムズ）

高電流密度設計の高温超電導コイルは、クエンチすると焼損する危険性が極めて高いため、コイル保護設計が重要となる。高温超電導コイルの保護方法として、ターン間の絶縁をなくした無絶縁コイルの開発が進められているが、ターン間抵抗が小さすぎると励磁時の磁場遅れが問題となる。また、伝導冷却コイルでは、冷凍機と線材を適切な冷却パスでつなぐために、コイルは樹脂含浸する必要があるが、樹脂含浸されたコイルの内部ではターン間の電気的な接続が難しいだけでなく、冷却時の熱応力で超電導特性が劣化してしまう。そこで、熱応力を低減しつつターン間を電気的に接続する方法として、コイル側面を導電性樹脂で含浸する保護方法を開発したので報告する。

5-154

HTSコイル用機能材料に向けた高熱伝導プラスチックの低温基礎特性（その2）

◎窪木和哉・菅 祥大・高野太郎・高尾智明（上智大学）・山中淳彦（名古屋大学）

HTSコイルの冷却方式として注目されている伝導冷却方式は浸漬冷却方式に比べ温度変化に不安定であり、熱的安定性の向上が急務である。そこで我々はコイル構造材料に、熱伝導率が高く、負膨張特性、電気絶縁性をもつ材料を使用することによってこの課題を解決しようと考えた。本研究では材料メーカーより電気絶縁性を持つ高熱伝導プラスチックを提供していただき、低温下で短尺ヒータクエンチ試験を行った。同条件でGFRPとの比較を行いコイル応用への有用性を検討した。結果としてGFRPを用いたときに比べクエンチ時間が伸びる傾向が見られた。よって今回提供していただいた材料は、HTSコイルの熱的安定性の向上に有用な材料になると考えられる。

5-155

超電導磁気エネルギー貯蔵装置用MgB₂コイルの製作および励磁試験結果

○駒込敏弘・塚田謙一・濱島高太郎（前川製作所）・新冨孝和・槇田康博（高エネルギー加速器研究機構）・谷貝 剛・高尾智明（上智大学）・平野直樹（中部電力）・富田 優・恩地太紀（鉄道総合技術研究所）

液体水素温度域で利用可能で、将来の価格低減が期待される、MgB2導体を使用した超電導磁気エネルギー貯蔵装置SMESシステム技術の開発を目指している。主要な開発課題は、MgB2素線の大電流導体化、コイル化および液体水素による冷却技術の開発である。大電流導体化、コイル化の際は、製作の各工程において、素線歪みが許容値を上回らないよう慎重に、加工条件を決定する必要がある。今回、複数の素線を撚り合わせて大電流導体を製作し、導体で巻線したコイルの励磁試験に世界で初めて成功したので、報告する。

5-156

MgB2ラザフォード導体とSMES用パンケーキコイルの設計・製作及び安定性試験

◎平 萌人・谷貝 剛・高尾智明（上智大学）・平野直樹（中部電力）・槙田康博・新冨孝和（高エネルギー加速器研究機構）・塚田謙一（前川製作所）・恩地太紀・富田 優（鉄道総合技術研究所）・濱島高太郎（前川製作所）

再生可能エネルギー導入促進と、その際問題となる供給電圧の安定化の実証を目的に、SMES、燃料電池、電気分解装置から構成される先進超伝導電力変換装置を提案し、Bi線材を用いたSMESで直流電圧の安定化を実証した。より液体水素との親和性の良いMgB2線材を用いたSMES実現に向け、小型の試作コイルを製作し、Ic-B-T特性および常電導伝播試験を行ったので、伝熱解析の結果と併せて報告を行う。

5-157

JT-60SA中心ソレノイドにおける過渡応答による導体間電圧の評価

◎目黒博嵩・藤山 奨・那須京介・中村一也・高尾智明（上智大学）・村上陽之・夏目恭平・木津 要（量子科学技術研究開発機構）

JT-60SA中心ソレノイドに用いられる電源はコントロールシステムや電圧のスパイクなどにより電源電圧が変動する可能性がある。そのため中心ソレノイド内部に不均一な電圧分布が生じ、局所的に過電圧がかかるため導体間の絶縁が破壊される可能性がある。先行研究にてCSモデルコイルより得た物性値をもとに、CSモジュール52層の回路解析モデルを作成し電源電圧が変化した際の過渡応答を解析し評価した。解析結果より、実機CSモジュールの動作条件において過渡応答による導体間電圧への影響は極めて小さく、導体間絶縁は破壊されないことが示された。

5-158

抵抗型超電導限流器を模擬したパンケーキコイルモデルの動的絶縁破壊特性

◎民部昌孝・山上浩輝・小島寛樹（名古屋大学）・磯嶋茂樹（住友電気工業）・桑田 稔（日新電機）・早川直樹（名古屋大学）

これまでに，抵抗型超電導限流器の限流動作時の絶縁環境を模擬し，球‐平板電極を用いて液体窒素の動的絶縁破壊特性を検討してきた．今回，実器形状を模擬したパンケーキコイルモデルを用いて検討を行った結果，同じギャップ長において，パンケーキコイルモデルの動的絶縁破壊電圧(BDV_dyn)/ 静的絶縁破壊電圧(BDV_sta)が，球‐平板電極のBDV_dyn/BDV_staよりも上昇することを示した．また，パンケーキコイルモデルのBDV_dyn/BDV_staが，球‐平板電極と同様にギャップ長の増加に伴い上昇することを明らかにし，不平等電界下においても，ギャップ長の確保が抵抗型超電導限流器の動的絶縁性能向上に資することを示した．

5-159

多数個並列MOSFET充電回路を用いた超電導コイル励磁電流の安定化

◎山浦 彬・野村新一・二ノ宮 晃（明治大学）

先行研究として多数個並列MOSFETを用いたジュール損失と熱侵入を抑えた超電導コイル充電回路の研究を進めてきた。本研究では、この充電回路をMRIへ適用することを目的に、小型高温超電導コイルを用いた実験を行い、1 ppmの電流安定化を達成させる可能性について実験的に検討を行った。遮蔽電流などの影響考慮しない場合、スイッチのタイミング、周波数の上昇、超電導コイルの自己インダクタンスを変化させることにより目標値を達成できる見通しを得た。

5-160

サイクロトロン用高温超電導マグネットの遮蔽電流磁場評価

◎粟津佑太・金 錫範・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）・石山敦士（早稲田大学）・渡部智則・長屋重夫（中部電力）・吉田 潤・鶴留武尚・高橋伸明・三上行雄（住友重機械）・福田光宏（大阪大学）

我々は加速器の医療機器としての普及のためには、高温超電導技術の適用が有効であると考え、新しい空芯型サイクロトロン（スケルトンサイクロトロン）を提案している。しかし、高温超電導コイルでは遮蔽電流による不整磁場が発生し、発生磁場における空間的均一性及び時間的安定性の低下を引き起こす原因となる。加速器応用には非常に高い磁場精度が求められるため、設計段階においてこの遮蔽電流磁場を考慮し、補正及び抑制等の検討を行う必要がある。今回は設計を行った高温超電導サイクロトロンに対し遮蔽電流磁場の影響について開発した電磁場数値解析を用いて評価を行ったので報告する。

5-161

9.4T-MRIにおけるREBCO線材の細線化による遮蔽電流磁場への影響の解析

◎稲垣善太・伊東慶太・小曽根裕一・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は9.4T級ヒト全身用MRIの開発を目指した研究を行ってきた。MRI用マグネットにREBCO線材を使用すると、変動磁場によって遮蔽電流が顕著に誘導される。その遮蔽電流が作る磁場(以下、遮蔽電流磁場)がMRIの撮像空間における磁場の時間的安定性と空間的均一度を悪化させてしまう。この遮蔽電流磁場の低減方法の1つとして線材の細線化処理が知られている。MRIを構成するコイルにおいて、全てのコイルを細線化する場合、特定のコイルを細線化する場合、コイルの一部分のみを細線化する場合について解析を行った。Coil1のみを細線化した場合とCoil1の一部分を細線化した場合では通常励磁の場合に比べ、不整磁場の2次の項において均一度の上昇がみられた。

5-162

無絶縁REBCOパンケーキコイルの電力貯蔵装置への応用可能性に関する検討

◎金原徹郎・矢代聡佳・鄭 斉一・市川哲理・柿本雄太・石山敦士（早稲田大学）

無絶縁コイル（以下、NIコイル）は、高電流密度化と高熱的安定化の両立を可能とする巻線方式として期待されている。NIコイルは、主にMRIなどの直流での応用を想定されているが、貯蔵密度が小さいという欠点を持つ超電導電力貯蔵装置（以下、SMES）にも応用できれば、高電流密度化により高貯蔵密度を達成できる。しかし、NIコイルでは充放電の際に電流が径方向に流れることによるジュール損失が発生し、それはコイルの層間電気抵抗の大きさに依存する。そこで、一定電力での充放電動作を仮定のもと、電流解析により損失を算出して効率を定量的に求めることで、SMESへの適用性を評価したので、それを報告する。

5-163

Multi-Stacked 無絶縁REBCOパンケーキコイルにおける熱的安定性の特性評価実験

◎尾下 遥・矢代聡佳・鄭 斉一・市川哲理・柿本雄太・石山敦士（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）・渡部智則・長屋重夫（中部電力）

無絶縁コイル(以下NIコイル)では，電流が常電導転移した部分を避け隣接ターンへ転流することでホットスポットの形成を抑制できることが示唆されている。これにより，従来の絶縁コイルでは二律背反の関係であった高電流密度化と高熱的安定化が両立できるとして期待されている。今回はNIダブルパンケーキコイルを3個作製してスタックし，NIコイルへのヒーター入熱によって局所的常電導転移を模擬した実験を行い，電磁的および熱的な振る舞いについて検討した。その結果，コイルには磁場の減少を妨げる誘導電流が流れること，ヒーター入熱を止めるとコイル内の電流分布が局所的常電導転移前の状態に戻ることが確認できた。

5-164

No-Insulation (NI)レイヤー巻コイルにおける磁場遅れの短縮

○高橋俊二（上智大学）・末富 佑（千葉大学）・高尾智明（上智大学）・柳澤吉紀・前田秀明（理化学研究所）

No-insulation(NI)法は、HTSコイルにおける熱暴走の抑制・保護技術として有効である。しかし、磁場精度と永久電流運転の観点から望ましいとされるレイヤー巻コイルにNI法を用いると、隣接した層同士が電気的に結合し、大きな二次回路が形成される事で磁場遅れが著しく長くなり、実用的でない。本報では、NIレイヤー巻コイルにおける磁場遅れを短縮するために、コイル層間のコンタクトを切ることで長い磁場遅れの原因となる二次回路を切りつつ、さらに層内のショートを促進することで自己保護性を得る手法を提案した。コイル実験により、自己保護性を保持しながら、磁場遅れが数桁短くなることを実証した。

5-165

高冷却能力を有する2段GM冷凍機を用いたバルク磁石の着磁特性の評価

○横山和哉・香月 淳・三浦敦朗（足利工業大学）・岡 徹雄（新潟大学）

超伝導バルク磁石は小型な装置で大きな磁場を発生でき，消費電力も小さいため様々な産業応用が検討されている。これまでに1段GM冷凍機， 2段GM冷凍機，スターリング冷凍機を用いたバルク磁石装置を開発してきた。上記のシステムは取り扱い易さを優先して，GM冷凍機ではチラー設備を必要としない空冷コンプレッサを選択してきた。一方で冷却性能は水冷コンプレッサ式と比較して若干劣ってしまう。本年度，新たに水冷コンプレッサ式の2段GM冷凍機を用いたバルク磁石装置を開発した。本文はφ60 mmのGdBCOバルク体をパルス着磁した時の着磁特性を評価した。その結果，20 Kにおいて約3.6 Tの捕捉磁場を達成した。

5-166

バルク超伝導ホウ化マグネシウムのパルス着磁における磁束散逸現象

○岡 徹雄・武田 晃・沖 隼光・小川 純・福井 聡・佐藤孝雄（新潟大学）・Haessler Wolfgang（IFWドレスデン）・横山和哉（足利工業大学）

低い比熱による低い磁場捕捉を改良して最適な磁場を捕捉させるため、パルス着磁法による磁場捕捉のふるまいを明らかにすることを目的に、試料の厚さを変えた場合の捕捉磁場性能を調べ、この際の磁束量子の侵入挙動を詳細な時間経過として調べ、磁束運動と発熱とにかかわる現象の明確化を狙った。その侵入磁場の変化は磁場領域で異なっており、ピーク後の全時間帯にわたる大幅な減衰であるフラックスフローと、短時間の急峻な低下を呈するフラックスジャンプによって特徴づけられる。

5-167

強磁場着磁したQMG^®リングのクエンチ挙動

◎森田 充（新日鐵住金）

高い臨界電流密度を有するQMG ®（単結晶状の123相中に211相が微細分散したバルク状酸化物超電導材料）は、10T級の強磁場を捕捉することができる。リング形状のQMGに関し、前回、強磁場着磁時の大きなフープ力による試料の割れおよび補強方法に関し報告した。今回は、機械的応力以外に着磁後の昇温時のクエンチにより割れが発生する場合があることを明らかにしたので報告する。

5-168

超電導コイル, バルク及び強磁性体レールを用いた磁気浮上システムの浮上力特性その3

◎金子泰人・根岸直広・藤田裕貴・高尾智明（上智大学）・上條弘貴（鉄道総合技術研究所）

先行研究として永久磁石、HTSバルク、強磁性体レールを上から順に並べた永久磁石モデルの吸引浮上システムの研究を行ってきた。HTSバルクの磁場遮蔽効果により磁場経路が調整されるため、垂直方向に対して無制御で安定浮上が実現できる。本研究では浮上力向上のため永久磁石の代わりに超電導コイルを用いた「超電導コイルモデル」を導入した。しかし先行研究にて最適化された永久磁石の配置場所に、超電導コイルを配置した場合、先行研究にて使用してきたバルクでは安定浮上が不可能であった。そこでコイル-バルク間距離変化時の浮上力を解析し最適化した結果、永久磁石モデルと比べ大幅に向上した浮上力にて安定浮上を実現できた。

5-169

磁気浮上への超電導コイルの永久電流の適用とその特性評価

簑田 輝・○小森望充・浅海賢一・坂井伸朗（九州工業大学）

超電導コイルを用いた磁気浮上を実現するために永久電流を用いている。永久電流を磁気浮上に用いた例は殆どなく，適用時の特性評価などについて発表する。

5-170

医薬用タンパク質の高勾配磁気分離用磁性フィルターの周囲の磁性粒子の挙動解析

◎森 優輝・窪田幹久・金 錫範・植田浩史（岡山大学）

バイオ医薬品はガンや糖尿病などの重篤な病気の治療に必要不可欠な医薬品であり国内外でバイオ医薬品の研究開発が盛んに行われている．その中でも免疫機能を使う抗体医薬は高い効能が期待でき，副作用も比較的少ないため，今後の医薬品の主流になると考えられる．この抗体医薬の開発に欠かせない技術が医薬用タンパク質の連続・大量・高速の分離精製技術である．そこで，我々は医薬用タンパク質の超電導高勾配磁気分離装置を提案している．これまでの研究で，プロトタイプ装置を開発したが，懸濁液の種類によっては，磁性フィルターの目詰まりや磁性ビーズが捕獲されない現象が確認されている．今回は，フィルター内の磁性ビーズの挙動を解析したので報告する

5-171

ホットプレス法で作製された銀シース(Ba, K)Fe₂As₂テープ線材のX線マイクロCTによる内部構造観察

○井上昌睦・玉江航稀・モハンシャム・坊地修平・東川甲平（九州大学）・黄 河・姚 超・馬 衍偉（中国科学院）・木須隆暢（九州大学）

ホットプレス法により作製されたBa-122超伝導テープ線材の超伝導特性の面内分布を磁気顕微法により明らかとするとともに、その内部構造をX線CTを用いて非破壊に観察した。その結果、単一フィラメント構造で作製された同線材が長手方向に亘り2つに分断していること、また、局在する金属組成が線材の臨界電流の制限因子となっていることを明らかとした。

5-172

熱処理前に施す凹みがMgB2素線の臨界電流に及ぼす影響

◎桑原優介・水落 空・神保茉那・上林昌弘・高尾智明・谷貝 剛（上智大学）・新冨孝和・槇田康博（高エネルギー加速器研究機構）・濱島高太郎・駒込敏弘（前川製作所）

MgB2の応用例のひとつであるSMESコイルはMW級の入出力を行うため，それを用いた素線は撚り線加工による多芯化が必要である。本研究では，ラザフォードケーブル作製時の撚線加工における撚りピッチ(58 , 69 , 82mm )に対応するような素線間交差角度(22 , 18 , 14度)でMgB2素線を互いに交差させ，上部から荷重を印加する装置を作製し、MgB2素線のIC劣化率を調査した。その結果，加えた荷重が大きくなると臨界電流の劣化も大きくなった。また，規格化臨界電流で95%が劣化の基準だと考えると，撚りピッチ58 mmのラザフォードケーブルを作製する際に与えても問題ないとされる荷重と凹み量は，それぞれ600 N , 0.25 mm以下であると考えられる。

5-173

液体水素浸漬冷却MgB2超伝導線に関する常伝導伝搬現象のシミュレーションによる検討

◎松本太斗・白井康之・塩津正博（京都大学）・小林弘明・成尾芳博・稲谷芳文・野中 聡（JAXA）・田中秀樹・児玉一宗・鈴木孝明（日立製作所）

液体水素浸漬冷却下での多芯MgB2線材の常伝導伝搬についての実験を行った結果より，ANSYSを用いて常伝導伝搬のシミュレーションを行った結果について報告する．シミュレーションに用いたモデルでは，断面は一様な線材として，各物性値の平均値等を物性データとして使用した．実験結果と解析結果について，常伝導伝搬速度より比較検討を行った．上記二つの結果はよい精度で一致し，超電導線材に対してANSYSによる電気-伝熱の連成解析は有効であることが分かった．また，最小クエンチエネルギーに関しても実験結果と解析結果の比較を行った．

5-174

RHQT法Nb₃Al線材の急熱急冷処理条件の最適化

◎古川 大・内田 聖・則本知哉・高尾智明（上智大学）・菊池章弘・飯嶋安男・桜井義博（物質・材料研究機構）・土屋清澄（高エネルギー加速器研究機構）・西岡美紀（上智大学）

Nb₃Al線材は、既にキロメートルを超える長尺化に成功し実用化が待望されるが、プロセスの汎用性の向上や一層の臨界電流密度(Jc)の向上等が求められている。本研究では、急熱急冷処理条件の最適化を図るため、高真空中で行うことが通例だった急熱急冷処理を、はじめて大気中で試みた。懸念された激しい酸化による線材の溶断もなく、連続的な通電加熱及びGa急冷に成功した。また、高真空中及び大気中処理とで線材の臨界温度(Tc)及びJcの磁場依存性の比較を行ったところ、雰囲気によらず両者ともほぼ同等の超伝導特性が得られることがわかった。本研究で製造プロセスの簡素化・低コスト化に対して、非常に有益な知見が得られた。

5-175

REBCO線材の4.2 K，垂直および平行磁場下における臨界電流測定

◎西岡美紀・則本知哉・内田 聖・古川 大・高尾智明（上智大学）・土屋清澄・寺島昭男・王 旭東（高エネルギー加速器研究機構）・菊池章弘（物質・材料研究機構）

現在、世界最大の円形加速器は欧州のLHC（衝突エネルギー14 TeV）である。しかし最近、LHCの約7倍のエネルギーである100 TeV領域での物理実験を可能とする超大型加速器Future Circular Collider (FCC) の概念設計が始まっている。この加速器の主要2極マグネットとしては16 Tマグネット(Nb₃Sn)と20 Tマグネット(HTS)が候補として検討されている。我々は、そのマグネット開発の第一歩として、4.2 K、垂直磁場下および平行磁場下でIc測定ができるサンプルホルダーを製作し、住友電工製REBCO線材の測定を行った。結果として、平行磁場下Ic値は垂直磁場下の値に比べ、10 T~18 Tにおいて3~3.4倍、高い値であることが分かった。

5-176

Y系超伝導テープを用いた転位並列導体の付加的交流損失（1）

◎古川琢馬（九州大学）

転位並列導体は電力機器に応用する際、大電流容量かつ低損失という要求を満たすことができる。しかし最適位置からずれた位置で転位を施すと、鎖交磁束が打ち消されず、遮蔽電流が誘起され、付加的交流損失が発生する。設計の要求から最適な位置で転位が施せるとは限らないため、そのずれに伴う損失を見積もる必要がある。これまで素線の通電特性として、素線に流れる遮蔽電流がIcに達しない場合 (非飽和条件下)と、達する場合(飽和条件下)に分けた臨界状態モデルを仮定してきた。本研究では、素線の通電特性としてn値モデルを採用し、超伝導転位並列導体で構成したコイルに不均一外部磁界を印加した際の付加的交流損失特性に関して検討した。

5-177

垂直磁場下におけるREBCO超伝導テープ線材の交流損失の分割数依存性および積層枚数依存性

◎佐々滉太・伊藤哲也・岩熊成卓・三浦 峻（九州大学）・和泉輝郎・町 敬人・衣斐 顕（産業技術総合研究所）

超伝導線材を交流電力機器に応用する際、交流損失は機器の全熱負荷の大部分を占め、その低減と特性の把握が重要である。超伝導テープ線材の交流損失特性は、線材の温度、分割数、積層枚数、外部磁場の印加角度に依存する。特に分割数依存性と積層枚数依存性に着目し、異なる分割数、積層枚数について交流損失を測定し、比較および評価を行った。鞍型ピックアップコイルを用いて、ピンニングセンターとしてBaHfO₃がドープされ、レーザースクライビング技術により長手方向に分割されたEuBa₂Cu₃O_y超伝導テープ線材の交流磁場下における交流損失を測定した。交流損失を低減するにあたり、外部磁場が大きい場合には分割を増やすこと、外部磁場が小さい場合には積層枚数を増やすことが有効であることを明らかにした。

5-178

欠陥を含むRE-123コート線材のFace-to-Face Double Stack (FFDS)構造における電流輸送特性に関する考察

西宮悠平・東川甲平・鈴木 匠・井上昌睦（九州大学）・衣斐 顕・町 敬人・和泉輝郎（産業技術総合研究所）・Valery Petrykin・Sergey Lee（SuperOx Japan）・○木須隆暢（九州大学）

希土類系高温超電導(RE-123)コート線材は、磁場下における優れた臨界電流特性により、マグネットを主とした各種応用が期待される。一方、その急峻な超電導転移に伴い局所的な不均一性の影響を顕著に受ける事から、RE-123線材に適した導体構成の検討によって、ロバスト性や信頼性を改善する試みは極めて重要である。筆者等は、RE-123コート線材の超電導層同士を対向させて低抵抗接続を行うFace-to-Face Double Stack: FFDS構造によって、局所的な電界集中を低減でき、素線のロバスト性向上に有効である事を示した。本研究では、精度の高い数値モデルを確立すると共に、局所欠陥と電流遷移距離の関係、接合抵抗の影響などについてより詳細な検討を行った。

5-179

BaHfO3人工ピンを導入した長尺REBCO線材の磁界中局所臨界電流分布の評価

◎野田将平・鈴木 匠・山内勇輝・東川甲平・井上昌睦（九州大学）・柿本一臣・五十嵐光則・飯島康裕（フジクラ）・木須隆暢（九州大学）

人工ピンを導入した長尺希土類系高温超伝導線材(EuBCO線材)の局所臨界電流分布の外部磁界依存性と温度依存性の評価をリール式連続磁化測定装置を用いて行い、従来の人工ピン入りGdBCO線材との比較を行った。その結果、高磁界中でEuBCO線材はより高い平均Jcを持ち、更に、均一性においても優れた線材が作製できていることが分かった。

5-180

ハードウェア閉ループ試験による異なる安定化材厚さを有するRE-123線材の限流特性評価

田島正博・◎梅原三紀雄・東川甲平・井上昌睦（九州大学）・福本祐介・富田 優（鉄道総合技術研究所）・木須隆暢（九州大学）

超電導限流器（SFCL）は、既存系統の保護のみならず機能性の向上に大きく貢献することが期待されている。中でも、RE-123線材は電流容量や安定化層などの設計自由度が高い点から、SFCLへの応用が期待されている。特に、安定化材の厚さは、事故時の電流の大きさや抵抗、最高到達温度を決定する重要なパラメータであり、その設計は注意深く行う必要がある。一方、限流動作は、系統とSFCLの相互作用によるものであるため、相互作用を把握した上で設計することが求められる。そこで、我々はリアルタイムデジタルシミュレータ（RTDS）を用いたハードウェア閉ループ試験（HILS）により、HILSにより、異なる安定化材厚さを有するRE-123線材の限流特性を評価した。

5-181

高温超電導ケーブルの実系統連系試験進捗

◎山口博史・棚澤正幸・三村智男（東京電力ホールディングス）・増田孝人（住友電気工業）・矢口広晴（前川製作所）

高温超電導ケーブルの実系統連系試験については、平成19年度より新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）から受託し、住友電気工業株式会社、株式会社前川製作所および東京電力ホールディングス株式会社の3社体制で開始した。本稿ではこれらの課題検証のうち、冷却システムの効率化を検証するために、旭変電所の冷却システムの大容量・高効率冷凍機に置き換えて平成29年3月末から再度系統連系試験を実施しており、取得した特性データならびに超電導ケーブルの冷却システムの挙動について報告する。

5-182

超電導ケーブルの熱収縮対策

○廣瀬正幸・増田孝人（住友電気工業）

超電導ケーブルの主流である低温絶縁型の絶縁層はOFケーブルと同様の絶縁紙積層構造であり、かつ「常温〜液体窒素温度」の温度変化がOFケーブルの約3倍と大きく、OFケーブルの設計や実績の範疇とは言い難く、熱収縮対策が超電導ケーブル固有の課題として挙げられる。本発表では、超電導ケーブルと従来ケーブルの熱挙動に関する比較を行い、課題を整理するとともに、不十分で合理性に欠ける方策については、信頼性、長期特性の面でまだ検証が不十分であることを示す。

5-183

22kV級高温超電導ケーブルの過電流特性

◎森村俊也・南野忠彦・斎藤高廣・伊藤秀樹・芦辺祐一・増田孝人（住友電気工業）・山口博史・棚澤昌幸・三村智男（東京電力ホールディングス）

超電導ケーブル適用先のひとつとして発電機引出線(発電機〜昇圧変圧器間)への適用を検討している。発電機引出線を超電導化することにより、省スペース化による建設費削減や送電損失の削減などのメリットが期待される。 超電導ケーブルを実系統へ適用した場合、系統事故が発生した際にケーブルに定格を大きく超える事故電流が流れる。その際、液体窒素のガス化によるシステム内の急激な圧力上昇やケーブルコアの焼損が生じ得ること等が懸念される。今回、22kV/12kA級、長さ10m級の超電導ケーブルシステムを構築し、事故電流を模擬した過電流試験を実施した。ケーブルシステムの温度や圧力の過度な上昇は確認されず、試験前後でケーブルコアIcにも変化は無かった。よって、ケーブルコアの健全性が保たれると考えた。

5-184

エネルギー貯蔵機能を有する超電導ケーブルの可能性

○東川甲平・木須隆暢（九州大学）

化石燃料の枯渇・地球環境問題への配慮・我が国の極めて低いエネルギー自給率を考えれば、太陽光や風力に代表される再生可能エネルギーの導入拡大は喫緊の課題であるが、これらの発電量は天候による時間変化が大きく、設備容量や周波数変動の問題から、現状の電力系統の受け入れ許容量はごく限られたものになっている(1)。特に、再生可能エネルギーの大半を占めていくと考えられる太陽光発電では、曇りの日などの日射量の変化が急激であり、その変動の吸収には同容量程度の電池類が必要となるなど、再生可能エネルギー導入拡大の大きなボトルネックとなる可能性がある。そこで本研究では、超電導ケーブルによる電力系統へのエネルギー貯蔵機能の付与の可能性を検討する。

5-185

熱解析に基づく熱侵入低減のための高温超電導ケーブル用電流リード形状の検討

◎三浦裕太・寺尾 悠・大崎博之（東京大学）・石原 篤・福本祐介・富田 優（鉄道総合技術研究所）

多くの超電導機器では, 熱侵入の多くを占めるのが電流リードからの侵入熱である超電導機器の冷却に必要な電力を低減するためには侵入熱の少ない電流リードの設計が必要となる。また, 超電導ケーブル等への電流リードの場合は高温端部の霜付着による絶縁耐力の低下が生じないようにする必要があるため, 無通電時においても高温端温度が0 ℃ 以上に保たれるようなリード設計が求められる。本稿では, 高温超電導ケーブル用電流リードにおける熱侵入低減のためのリード形状を, 電流リード断面積を長さ方向で変化させるテーパ型電流リードを3分割した設計モデルを用いて検討した結果について報告する。

5-186

電気推進用航空旅客機のための高出力密度全超電導モータの電磁設計

◎寺尾 悠・大崎博之（東京大学）

本研究は、将来の電気推進用航空旅客機に求められる20 kW/kg以上を達成する高出力密度な全超電導モータの電磁設計に関するものである。近年、航空旅客機はB787やA380の実用化をきっかけに電気化が進んでおり、推進機構に関してはジェットエンジンを電気モータに置き換えるもしくはハイブリッドとして利用するための研究が盛んに行われている。現在、永久磁石型同期モータで出力密度5.2 kW/kgが達成されているが、将来的には16 kW/kg以上が求められている。そこで、高電流密度の通電が可能な超電導技術を用いたモータに注目が集まっている。本研究では、解析式を用いて16, 20 kW/kgの全超電導モータの電磁設計を行い、特に交流損失の低減に伴う効率向上に関して考察を行った。

5-187

航空機用5MW級Y系全超伝導同期電動機の設計検討

◎相川拓也・福田翔吾・岩熊成卓・三浦 峻・佐藤誠樹・吉田幸市（九州大学）・長谷吉二・富岡 章・今野雅行（富士電機）・和泉輝郎（産業技術総合研究所）

同期電動機を超伝導化することで、同一体格での高出力化、鉄心レスによる軽量化、高効率化が可能である。これまで超伝導電動機の研究は、界磁巻線のみを超伝導化する半超伝導電動機が主流であった。しかし、半超伝導電動機では回転子外周上に真空断熱層が必要になるため、界磁巻線と電機子巻線のエアギャップが増大する問題があった。そこで、電機子巻線も超伝導化することで、界磁巻線と電機子巻線の双方を同一の冷媒空間に配置することによる特性向上、および小型化や軽量化が可能である。本研究では、航空機用5MW級Y系全超伝導同期電動機において、各巻線に発生する交流損失を明らかにし、全超伝導同期電動機の設計開発の方向性を提示する。

5-188

航空機用10MW級Y級全超電導同期発電機の設計検討

◎小宮匡貴・岩熊成卓・三浦 峻・福田翔吾・佐藤誠樹・吉田幸市（九州大学）・長谷吉二・富岡 章・今野雅行（富士電機）・和泉輝郎（産業技術総合研究所）

環境への配慮、燃費等の向上などの理由から電気推進式による航空機の開発が進められている。そこで使用される発電機は建設コスト、設置スペースの面から小型軽量化が求められている。常電導発電機については、磁気装荷は鉄心の磁気飽和で値が制限されているが、これを界磁巻線、電気子巻線ともに超電導化し、空心構造にすることで磁気装荷の制限がなくなり、発電機全体の大容量化、もしくは出力を保ったままで小型化軽量化することが可能である。本研究ではギャップの磁束密度を1.5T、2T、さらにそれぞれで動作温度を20K、65Kとした4種類のモデルを想定し、ギャップの磁束密度や動作温度が発電機の損失、効率、使用線材長、コスト等に与える影響を比較検討した。

5-189

DESIGN OF A MINIATURIZED SINGLE-DRIVE AXIALLY CONTROLLED BEARINGLESS MOTOR

◎Guilherme Rubio・Hiroya Sugimoto・Akira Chiba（Tokyo Institute of Technology）

Bearingless motors have applications where mechanical contact should be avoided and highly reliable operation is a must. This paper presents results obtained through Finite Element Analysis (FEA) of a single-drive axially controlled bearingless motor with high torque density and high radial stability when compared to other publications that fall in the same category. Two model types are presented. One that excels in torque density and another one that excels in passive radial stability. The tradeoff between passive stability and torque density will be thoroughly analyzed.

5-190

BPM型ベアリングレスモータ最適な極数の検討

◎劉 宗威・千葉 明（東京工業大学）

機械ベアリングを使わずに磁気軸受で回転子を浮上させるために、ベアリングレスモータは超高速回転・低騒音・長寿命・メンテナンスフリーなどの特徴を持ち、世界中に注目され開発されている。ベアリングレスモータは一つの固定子にトルク巻線と支持巻線の二種類の巻線を施し、トルクと支持力を別々に発生させる。トルク巻線と支持巻線の極数は重要なパラメータである。不適当な極数は大きなトルクリプル・支持力脈動・渦電流をもたらす可能性がある。著者はBearingless Permanent Magnet (BPM) 型ベアリングレスモータを例にし、JMAGの二次元解析によって異なる極数のパターンでトルク・支持力・渦電流特性を比較し最適な極数を見つけ出した。トルク性能・支持力特性・渦電流の面で比べ、出力が69.3kWであり、回転速度が45000rpmであるBPM型ベアリングレスモータにとって4-6の組み合わせは最も適当な極数パターンである。

5-191

Improvement of Active Axial Force at Flux Intensifying Region in Single-Drive Bearingless Motor

◎Theeraphong Srichiangsa・Hiroya Sugimoto・Akira Chiba（Tokyo Institute of Technology）

This paper presents a design and enhancing active axial force at flux intensifying region in a single-drive bearingless motor. The single-drive bearingless motor design requires only one 3-phase inverter and one displacement sensor. The active axial force (Fz) and Torque (T) are generated by d-and q-axis currents, respectively. Radial and tilting directions are passively stabilized by the repulsive passive magnetic bearings (RPMB). Owing to magnetic saturation in stator teeth at flux intensifying region lead to a non-linearity in current-force factor. Consequently, the motor design was not able to overcome the target axial force suspension. The proposed design, the stator teeth are tapered and taper angle (γ) including the width of tip stator teeth are optimized to tackle the saturation problem. Finally, the motor design has been achieved the target axial force and the rotor can start up from the touch-down condition. Evaluation of the proposed design is carried out by Three-Dimensional Finite Element Method (3D-FEM) analysis.

5-192

零相電流を用いた磁気浮上モータシステムにおける分圧コンデンサ電位の電圧センサレス制御

◎藤井勇介・朝間淳一・大岩孝彰（静岡大学）

磁気浮上モータシステムの小形化・簡素化を目指し，著者らは1自由度制御形磁気浮上モータ（モータ+スラスト磁気軸受）を三相インバータ1台のみで制御する方法を提案している。本方式では，磁気浮上用巻線をモータ用三相Y結線の中性点と電源中間点との間に結線する（零相）。システムのさらなる簡素化のため，本研究では，2個のコンデンサを用いて直流電圧を分圧する。この分圧電位はフローティングであるため，磁気浮上制御の零相バイアス電流，および電流センサのオフセット検出誤差起因の零相直流成分により不平衡となる。過去に，電圧検出によりこの分圧電位の不平衡を抑制する方法が提案されている。本稿では，電圧センサレスで分圧コンデンサ電位の不平衡を抑制する方法を提案・実証する。

5-193

コンシクエントポール型とリラクタンス型のベアリングレスバーニアモータの比較

◎多田夏実・南 香夏子・土方規実雄・田中康寛（東京都市大学）

従来のベアリングレスモータは機械的接点を持たないことにより、フレッティング（早期摩耗）の発生を防ぐことができる利点がある。その一方で、ギヤを利用できないため低速高トルクでの運転は不得手である。本研究では、低速高トルクでの運転に適しているバーニアモータをベアリングレス化することで、磁気浮上による完全非接触と低速高トルク駆動の両立を目的としたベアリングレスバーニアモータの開発を行っている。本稿では、本研究で新たに設計したコンシクエントポール型のベアリングレスバーニアモータと、先行研究におけるリラクタンス型のベアリングレスバーニアモータについて、トルク及び軸支持力の点から性能の比較を行う。

5-194

加工誤差補償による高出力磁気軸受の安定制御

◎下田敏章・笠井信吾・小川徹也・鈴木雄太（神戸製鋼所）・竹本真紹（北海道大学）

磁気軸受において発生する磁気吸引力は、軸と固定子間の距離の二乗に反比例する非線形性を示すため、安定制御に向けては、内部仕様を明確にした上で、事前シミュレーションにより制御性を確認する。しかし、実機では、加工、組立による寸法誤差、電流、位置センサのセンサ誤差等により、シミュレーションモデルとは異なる特性を示す。特に、高出力磁気軸受では、その影響が顕著に現れ、安定制御に支障をきたす。本発表では、実際の磁気軸受に於いて、寸法誤差（磁気中心の位置、磁気吸引力作用点、軸真円度）、及び、センサ誤差（電流センサ、位置センサ）等について、それぞれの誤差抽出、制御への影響、及び、補正方法について報告する。

5-195

四角コア形状による磁気軸受の高出力化

◎鈴木雄太・笠井信吾・下田敏章（神戸製鋼所）・竹本真紹（北海道大学）

メカロス低減を実現する磁気軸受は、回転機器の効率向上に対してのひとつのソリューションである。磁気軸受では面圧（磁気吸引力／（軸受内径*軸長））に限界があるとされ、高出力化には装置の大型化が伴う。そこで、限られたスペースにおいて，磁気軸受の高出力化の検討を行った。一般的なラジアル磁気軸受は、回転軸に垂直な面の断面形状が円型上であるが、円型が内接する四角形状を持つステータコアを考えた。これにより四角コアの四隅部分の磁気抵抗の低減が可能であり、磁気吸引力の向上を見込むことができる。有限要素法による解析の結果、同じ起磁力の場合、設計した円型コアと四角コアでの最大磁気吸引力が約21%向上する結果を得た。

5-196

四脚磁石ユニットを用いた一点支持式磁気浮上搬送車両の浮上確認試験

◎新井彗太・樋田祥吾・森下明平（工学院大学）

U字型磁石ユニットを用いた一点支持式磁気浮上搬送車両では，車両に外力が作用するとピッチング運動やローリング運動が発生する。両運動は鉄板や鉄心に発生する渦電流損失によって次第に減衰していくが，発生する渦電流量が異なるため収束時間に大きな差が生じる。安定した浮上・走行状態を維持するために，車両に発生する回転運動は早期に収束させる必要がある。そこで，我々は両回転運動の渦電流損失が同程度で早期に収束可能な四客磁石ユニットを製作した。磁石ユニット中心に配置した渦電流式ギャップセンサが磁石ユニットの磁束に影響を受けず浮上可能なことを確認したのでそれについて報告する。

5-197

表面の錆画像と腐食深さの関係性の研究

◎難波勇也（東日本電気エンジニアリング）

弊社では鉄道電気設備のメンテナンスを業務としている。電気転てつ機や信号機等の電気設備だけではなく、設備を収容している器具箱、踏切警報機柱等の構造物のメンテナンスも行っている。メンテナンスは目視点検を行っており、構造物の錆・腐食状態を確認している。一般的に構造物の錆・腐食状態判断基準は錆による構造物内部欠陥の10％が基準となっているが、点検員により良否判断が異なる、良否判断には熟練したノウハウが必要、定量的判断が出来ない問題点がある。本研究では表面の錆画像に着目した。基礎的検討として鉄板に電気分解で錆を発生させ錆の進行具合と画像解析結果（RGB成分解析）の関係性の検証を行ったので報告する。

5-198

車両妻面への測域センサ設置による建築限界判定装置の開発

◎大森達也・長峯 望・遠山 喬・北尾憲一・中曽根隆太（鉄道総合技術研究所）・松山智彦・久永雅子（九州旅客鉄道）

鉄道において車両走行の安全を確保するために，建造物等が支障してはならない領域として，建築限界が定められている。建築限界の測定では，検査対象となる設備点数が膨大であり，手検測では非常に多くの労力と期間を要するという問題がある。専用の建築限界測定車についても導入コストが問題となる。 そこで我々は比較的低価格な測域センサを既存車両上に設置し，建築限界支障の有無を判定する実用化装置の開発を進めている。本稿では，建築限界判定装置のこれまでの検討・検証結果を概要として整理すると共に，本システムを既存車両へ搭載した上で，車両動揺補正に活用するレール検出データの精度確認を行った結果について報告する。

5-199

建築限界判定装置における測定データと列車前方映像の対応付け

○長峯 望・遠山 喬・大森達也・北尾憲一・中曽根隆太（鉄道総合技術研究所）・松山智彦・久永雅子・原田宗幸（九州旅客鉄道）

鉄道において車両走行の安全を確保するために，建造物等が支障してはならない領域として，建築限界を定めている。建築限界は車両動揺等を考慮して，車両限界との間隔が車両の走行や旅客及び係員の安全に支障を及ぼすおそれのないように定期的に測定・管理が必要である。しかし，建築限界測定は，対象設備点数が膨大であることから，専用の建築限界測定車を用いた測定も実用化されているが導入コストが問題となっている。そこで我々は比較的低価格なセンサを既存車両上に設置し，建築限界支障の有無を判定する実用化装置の開発を進めている。本稿では，開発システムにおける建築限界測定データと列車前方映像の対応付け方法として，画像処理を用いたキロ程算出によるマッチング手法について述べる。

5-200

踏切警報機柱の診断方法と判断基準について

○堀内亮介（東日本電気エンジニアリング）

鉄道信号で使われている踏切警報機柱は鋼管柱で構成されているものがあり、列車運行中に折損事故が起こると大事故につながる可能性が高い。踏切警報機柱が長年の使用により劣化してきても、現在は塗装の剥離や表面上のサビを確認するだけで、鋼管柱としての残存耐力を検証できていないことが課題である。そこで、過去の折損事故等から腐食によって肉厚が減少する減肉が強度に影響を及ぼしていると推察し、工事撤去品等を用いて減肉状況を調査した。本研究では、鋼管の減肉具合から強度低下の傾向を示し、腐食状態に応じた残存耐力を評価する方法について提言する。

5-201

鉄筋コンクリート信号機柱の経年評価法の開発

○潮見俊輔・大森達也・沼田紘司・常本瑞樹・飯島 亨（鉄道総合技術研究所）・渡辺 晃・川崎直樹（東日本旅客鉄道）

鉄道の信号機柱の交換計画策定の一つの基準である製造年の標記について，判読が困難な状態となり外観上判別できない課題に対して，製造時期を直径の変化率（テーパ）と内部の鉄筋本数から判定する手法，および鉄筋本数を非破壊で計数する装置の開発を行った。前者については，内部の鉄筋本数とテーパから4種類の製造年代に分類する手法を提案した。後者については，実設備における検証を実施し，良好な結果を得た。本検討で得られたセンサ出力は，鉄筋の存在以外に，センサの姿勢やコンクリートのかぶり等に対しても変動した。今後は，センサの測定感度と出力に関する検討が課題である。

5-202

銅テルミット溶接ボンド健全性判定手法の検討

難波勇也・◎斎藤諒太（東日本電気エンジニアリング）

現在鉄道の信号保安装置として軌道回路が使われている。軌道回路はレールを用いた電気回路であり、列車車軸でレールが短絡されることにより列車検知を行っている。軌道回路には電気機器とレールを接続する部分が必要となる。この部分はボンドと呼ばれており、主に銅テルミット溶接ボンドが用いられている。銅テルミット溶接ボンドは溶けた銅で導線とレールを接続する方式であり固着力は非常に高いが、施工不良が原因で溶接部内部に空洞・巣が生じる場合があり、ボンド溶接部脱落の原因となる。目視点検ではボンド溶接部内部状態の判断は困難である。本取り組みでは打音試験時の音響・振動データを取得し解析を行うことで健全なボンドと施工不良ボンドの解析結果の違いを検証した。

5-203

鉄道沿線信号設備における電子機器の寿命評価手法に関する検討

◎藤田浩由・野村拓也・竜本ジョ・国崎愛子・小野雄人・新井英樹（鉄道総合技術研究所）

鉄道沿線信号設備における電子機器は，劣化傾向の把握が困難であることが多く，導入された電子機器の更新時期の適切な設定が課題となっている。著者らは過去に，屋内機器である電子連動装置の寿命評価手法の構築を行い，導入数に応じた摩耗故障数の経年変化，ならびに現行装置で目安とされている耐用年数に対する故障率の増加割合を当該装置導入事業者に示すことを可能とした。本稿では，鉄道沿線環境へ展開するにあたり，沿線電子機器のストレス要因を整理するとともに，評価アプローチ方法について検討を行った結果について示す。また，鉄道沿線環境を反映した電子部品の評価結果について一例を示す。

5-204

鉄道沿線信号器具箱の温度環境における地域依存性の検討－温暖地と中間地の比較－

◎野村拓也・藤田浩由・竜本ジョ・国崎愛子（鉄道総合技術研究所）・河野 勉（四国旅客鉄道）

近年，鉄道信号設備への電子機器の導入が進められている。一方，電子機器の劣化傾向の把握が困難であることが多いため、電子機器の更新時期を適切に設定することが課題となっている。鉄道信号設備における電子機器の設置環境は多種多様であるが，大きく屋内と屋外にわけることができる。著者らはこれまでに，屋内設備である電子連動装置に対して，更新時期を明確にする寿命評価手法を開発した。現在著者らは，鉄道沿線環境で劣化に関係するストレス要因のうち温度変化に着目し，日間および年間の温度サイクルの把握を実施している。今回，温暖地と中間地の設置形態における温度環境の比較結果について報告する。

5-205

沿線電子機器の結露発生に関する実験的検討

◎国崎愛子・竜本ジョ・野村拓也・藤田浩由（鉄道総合技術研究所）

本研究では結露による沿線電子機器への影響を調べるために，恒温槽内で実環境の温度変化を再現して基板や部品の温度測定を行い，結露発生の有無を調査した。通電時には基板温度が恒温槽内温度を下回らない結果が得られたため，結露が生じないと考えられる。無通電時には基板温度が恒温槽内温度を下回る区間がある。この区間について恒温槽内の水蒸気量が基板表面で許容される水蒸気量以下に収まる環境下（本実験結果の場合は相対湿度75%以下）では，結露は生じないと考えられる。以上から，一般的な沿線機器の使用環境下において結露が生じる可能性は低いと考えられる。一方，高湿環境下については結露を考慮する必要がある。

5-206

鉄道沿線電子機器における振動の実態調査

◎竜本ジョ・藤田浩由・野村拓也・潮見俊輔（鉄道総合技術研究所）・河野 勉（四国旅客鉄道）

これまでに筆者らは、屋内環境に設置されている電子連動装置を対象に劣化・寿命評価を行ってきた。現在、引き続き、鉄道沿線環境下で使用される信号用電子機器の劣化・寿命評価を実施している。沿線環境は、空調の整備された屋内環境と比べ、多くのストレスにさらされていると考えられる。 そこで、鉄道沿線のストレス要因を把握するために、鉄道沿線の機器設置箇所における、環境調査を実施した。本論文では、その環境調査の一環として実施した、沿線器具箱設置機器における振動測定方法および結果について示す。

5-207

落雷時に信号設備に発生する雷過電圧のFDTD法による解析

◎小野雄人・藤田浩由・大森達也・新井英樹（鉄道総合技術研究所）

鉄道信号設備を雷から保護する方法を検討するために必要な事柄の一つとして、信号設備が接続される信号用ケーブル等に発生する雷過電圧を定量的に把握することがある。著者らはFDTD法を用いて、鉄道信号用ケーブル等に誘導雷現象によって発生する雷過電圧の解析を行うことで、任意の条件下において発生する雷過電圧を推定する手法の確立を試みている。本論文では、解析によって算出された雷過電圧と、著者らが過去に取得した、実際の落雷時に実設備に発生した雷過電圧との比較対照を行い、解析精度の検証を行った結果について述べる。

5-208

STAMP/STPAを利用したSafetyとAvailabilityの両立設計手法の提案

山本祐亮・◎石川桂多・深山靖典・若井翔平（京三製作所）・水間 毅（東京大学）

鉄道信号システムの設計では、安全性(Safety)が特に重要視されている。さらに、近年ではSafetyだけでなく可用性(Availability)の重要性も注目されてきている。多くの場合、鉄道信号システムが満足すべきSafetyとAvailabilityは、要求仕様に基づき決定される。設計者はその要求を満足すべく設計を行うが、一般に知られているFMEAやFTAでは、SafetyとAvailabilityを同時に評価できない問題点がある。そこで、本稿では、両立する設計手法を確立するために、STAMP/STPAを利用した設計手法を提案し考察した。

5-209

遠赤外線画像を用いた踏切障害物検知装置の開発

◎中曽根隆太・新井英樹・長峯 望・竜本ジョ・大森達也（鉄道総合技術研究所）

平成28年度に発生した鉄道運転事故の内，踏切事故の件数および死亡者数は，それぞれ全体の3割以上を占めており，踏切事故の低減は鉄道の安全確保において大きな課題である。本稿では，遠赤外線画像を用いた踏切障害物検知装置の開発にあたり，必要となる機能と性能に関する基礎検討および，基本的な検知アルゴリズムの概要と検証を行なった。所内にて踏切および遠赤外線カメラを用いた検証の結果，学習型の識別器や背景，時間差分を用いることで，限られた条件下ではあるが，一定の検知性能を有していることを確認した。

5-210

踏切定時間制御装置（モデムレス伝送方式）の開発

◎永野浩貴・久保田恭嗣・山下拓郎（東海旅客鉄道）・日野貴裕（京三製作所）

踏切においては定められた鳴動時間を確保するため、「列車の最高速度」×「鳴動時間」以上離れた地点に列車検知するためのセンサを設けている。接近する列車を検知すると踏切を鳴動させるが、何らかの要因で最高速度より遅い速度で進行した場合、踏切鳴動時間は所定よりも長くなる。特にこの傾向が顕著なのは駅を通過する列車と停車する列車が混在する駅近傍の進出側踏切であり、停車列車に対して鳴動時間が長くなる。この対策として、踏切定時間制御装置を導入したが、老朽取り換えに伴う新型開発にあたって、信号ケーブルを用いたモデムレス伝送を実現したため紹介する。

5-211

無線デバイスの受信信号強度を用いた列車測位技術に関する基礎検討

◎伊藤草太・望月 寛（日本大学）・工藤 希・竹内俊裕（交通安全環境研究所）

近年,路面電車ではメンテナンスコストや景観の改善などの問題から架線レス車両への期待があるが,その場合,架線に複数配置され位置情報検知に使用されているトロリーコンタクターと代替可能な機器を用意する必要がある. 一方で,ワイヤレスセンサネットワークで利用されている通信モジュールは低コストで複数の機体が設置されることを前提として設計されており,将来的に駅構内や線路付近にも設置されることが想定されるため,それらを利用して少ないコストで現行システムの代替となるシステムを設計可能ではないかと考えた.本研究では無線通信モジュールで計測可能な受信信号強度（Received Signal Strength Indicator：RSSI）を利用した列車の位置情報検知技術の提案,及びその基礎的な検証を行った

5-212

状態監視用無線センサへのLoRa無線技術の適用検討

○田中 実・高橋紀之・依田裕史（鉄道総合技術研究所）

無線センサを用いた鉄道設備の状態監視は，データに基づく故障の早期発見や，故障に至る予兆の検知が期待される。使用無線には長時間のバッテリ駆動が可能な低消費電力や，長距離通信が求められる。新たな周波数拡散方式を用いたLoRa無線技術は，免許不要となる特定小電力でも長距離通信が可能で，無線センサに適用すると，広範囲にある鉄道設備を中継器無しで監視できる可能性がある。そこで，状態監視用無線センサへのLoRa無線技術の適用を目指して、宮崎実験線とその周辺で通信試験を実施したので報告する。

5-213

鉄道信号システムへのGNSS活用に向けた安全性の検証

◎佐々木裕史・高野友佑・杉浦弘人・川野 卓（東日本旅客鉄道）・中村英夫（日本大学）

近年、GNSSの鉄道信号システムへの活用が注目されており、2017年3月、「鉄道分野におけるGNSS利活用に関するガイドライン」が制定されている。GNSSの鉄道信号システムへの活用は、地上設備が削減できる点で有効である。実用化にはGNSSの保安制御としての安全性要件を満たす必要がある。GNSSの鉄道信号システムへの活用に際し、STAMP/STPA解析によってハザード要因を抽出し、その対策を安全性要件と定義する。JR東日本が使用開始した列車制御システムATACSの位置検知機能とGNSSの位置検知機能を比較し、GNSSの安全性要件を満たすことで、ATACSと同等の基準に達することが可能であることを示す。また、ガイドラインの規定が安全性要件に有効であることを確認する。

5-214

車載カメラを用いた特殊信号発光機の明滅検知に関する検討

◎向嶋宏記・長峯 望・野村拓也・中曽根隆太（鉄道総合技術研究所）・石月正明・田中雄也（東日本旅客鉄道）

列車の運転は、現示される信号の条件に基づきなされるものである。地上信号方式の運行形態については、信号現示によって運転士に制限速度の情報を伝達することで、安全を保っている。主信号機はATSなどによって防護されるシステムが確立しているが、特殊信号発光機については未だ多くの路線で運転士の目視によって安全が確保されている。このことから運転士の負担軽減や見落し防止などの安全性向上のために、特殊信号発光機の明滅を運転士に知らせる支援技術が求められている。本稿では、車載カメラを利用した特殊信号発光機の明滅検知手法について検討した結果について報告する。

5-215

列車運行実績データに基づく移動閉そく導入効果の一検討

◎福田卓海・渋谷明矢・高橋 聖・中村英夫（日本大学）・是沢正人・米元和重・足立茂章（東京地下鉄）

移動閉そくは，固定閉そくに比べ，列車の運行間隔の短縮などの効果が見込まれる．しかし，実績データに基づいた移動閉そくの効果についての検証はほとんどない．本研究では，大都市における列車運行の実績データに基づき，シミュレーションにより移動閉そくの導入効果を検証し，日々の遅延に対して有効であることを示す.

5-216

PI制御を用いた地上設置型蓄電装置の充放電制御パラメータ自動調整の改良

◎仲俣友貴・高木 亮（工学院大学）

近年，直流電気鉄道において回生失効や電圧降下等の対策として地上設置型蓄電装置 (Stationary Energy Storage System: SESS) の導入が進んでいる。SESSの充放電は，一般的にその端子電圧に基づき充放電電流が決定されるI-V特性制御が用いられるが，充放電開始電圧閾値などの制御パラメータの調整は困難な作業である。これまで筆者らはPI制御を用いてこれらの電圧閾値を自動調整し，さらにRMS電流に基づく調整を同時に行う手法を提案してきた。しかし，RMS電流に基づく調整においてRMS電流が目標値を下回ると制御が停止する機構となっていたため，RMS電流が大きく振動してしまう現象が見られた。本研究ではその現象を解消する手法を提案し，その机上検討結果を報告する。

5-217

直流電鉄用超分散形地上設置蓄電装置のV-SOE充放電制御による利用率向上

◎中島寛貴・大竹康平・高木 亮（工学院大学）

近年導入が進む直流電気鉄道向け地上設置型蓄電装置（Energy Storage System: ESS）は1路線あたり1〜数か所程度の集約設置が一般的である。これに対し，小容量ESSを極めて多数設置する超分散設置とすれば列車のそばにESSが存在する確率が高まり饋電特性改善につながると考えられる。しかし，これまでのシミュレーション結果によると一部ESSで利用率の極端な低下が生じることが明らかになった。 そこで筆者らは，超分散設置ESSの充放電制御をエネルギー充電状態（State of Energy: SOE）により制御の電圧閾値パラメータを変化させるV-SOE制御に変更した場合の検討を行っている。今回は， V-SOE制御におけるSOEと電圧閾値の関係（V-SOE特性）を変更した場合の検討を行ったので報告する。

5-218

電力貯蔵装置の充放電効率及び補機負荷電力

○飯野友記・阿部正太朗・内藤広輝・國井大輔・塩川浩太・関島志郎（東日本旅客鉄道）

鉄道における運転電力量削減に寄与する方策の一つとして、電力貯蔵装置の導入が進められている。本稿では、当社に導入されたリチウムイオン電池及びニッケル水素電池を用いた電力貯蔵装置に対し、導入後の実データにより算出した充放電効率及び補機負荷電力の実情について述べる。

5-219

列車位置情報を用いた回生電力貯蔵装置の制御

◎南之園弘太・橋本 慎・高橋洋陽・戸田啓仁・川井聡大（東日本旅客鉄道）・安河内 大（日立製作所）

東日本旅客鉄道株式会社では回生電力の有効利用を目的に、電鉄用直流SSに回生電力貯蔵装置を導入している。また、過去の研究では車両パンタ点電圧の低下を補償するために貯蔵装置を導入する検討、および蓄電池の小型化・高寿命化を目的に列車位置情報による貯蔵装置の制御方法の検討を実施している。今回、過去の研究結果の検証として、フィールド試験を行うこととした。本論文ではフィールド試験にうち、位置情報による貯蔵装置の制御試験の結果を示し、考案した制御の蓄電池容量への影響を考察・報告する。

5-220

直流き電末端における電力貯蔵装置を活用した電圧補償試験

◎金子勝弘・犬塚浩平・京泉 勉・川原敬治（西日本旅客鉄道）

き電末端区間で電車が力行する際、架線に大きな電圧降下を生じる。国鉄時代からき電末端区間にき電を行う変電所にはき電電圧補償装置を設置して、この電圧降下を補償してきた。しかしながら、DCVRの生産は終了しており、今度は他の手法で電圧補償を行う必要がある。 電力貯蔵装置（Energy Storage System: ESS）は任意に設定した動作電圧値に応じて充放電を行う装置である。このESSをき電末端区間に設置することで、DCVRの代替装置として電圧補償を行える可能性がある。今回はDCVRを停止させた状態でESSを稼働させ、電圧補償試験を行ったので、その結果を報告する。

5-221

直流変電所の電力損失低減の検討

○高橋弘隆・小高英明・今 伸一郎・角谷彰宏・藤田敬喜（日立製作所）

現在鉄道における様々な省エネルギー技術について鉄道事業者および各メーカにて検討しその結果を実路線で実行している。その中で電力設備の省エネルギー技術の一つとして実際に直流電気鉄道における直流変電所の電力損失を低減する検討を実施した。直流変電所の電力損失を考えた場合、大半の電力損失量が大きいのは主要設備である整流設備である。直流変電所の電力損失は、整流設備の電力損失と付帯用変圧器の電力損失、所内負荷消費電力とスイッチギア内の主回路導体の電力損失の構成となるが、このうち整流設備の電力損失70%以上となっている。直流電圧変動率と電力損失の関係について各メーカの設計値をもとに考察する。

5-222

電鉄用直流変電所の更新方法に関する検討

◎佐藤栄徳・堀口 晃・岡本英敏・阿部智美・亀島健司（東日本旅客鉄道）・安河内 大・加藤哲也（日立製作所）

更新変電所に隣接するき電区分所等へ電力貯蔵装置や高圧受電変電所を新設し、列車の電圧降下を救済する更新方法を検討した。今回検討したシミュレーションモデルにおいては、電力貯蔵装置と高圧受電変電所を組み合わせることで、車両の最低パンタ電圧を約100V救済できることが分かった。なお本更新方法は、列車の最低電圧を検討した上で計画する必要がある。更に高圧受電変電所の実現には、周辺地域の電源状況も大きく関係することや、変電所の送り出し電圧を下げ最高出力を抑制する対策等を考慮する必要がある。

5-223

電鉄用変圧器の解体調査結果に関する考察

◎甘利 智・中村岳彦・尾仲幸恵・越 康彦・斎藤直樹・内藤広輝・輿石知三・小口紀男・関島志郎（東日本旅客鉄道）・山岸 明（日立製作所）

本報告では、変圧器の寿命を決める大きな要素となる巻線絶縁紙の劣化度について、解体調査を行う事で把握した。 その結果、概ね45 年程度の寿命を有していると考えられる。ただし、一部の調査結果において推定寿命が低い値を示したことから、寿命延伸には、更に検証が必要であると考える。また、フルフラール等から絶縁紙の寿命を推定する手法については、適切な補正が必要であると考えられる結果となった。

5-224

電化区間末端の電圧補償手法に関する一考察

◎犬塚浩平・京泉 勉・小佐々哲成・佐々木俊英・武内 紳（西日本旅客鉄道）

本稿にて検討対象とする草津線は、電化区間末端駅である柘植駅へ向かって甲賀変電所からの片送りき電としている。そのため、柘植駅発車時には定常的に大きな電圧降下の発生が懸念されたことから、直流き電電圧補償装置（DCVR）を甲賀変電所に設置している。今回、DCVRが老朽取換となるのを期に、草津線のより効率的な電圧補償手法について実験・検討を行なったので報告する。

5-225

不均一なレール漏れ抵抗に対するレール電位特性

◎田口正和・中道好信（永楽電気）・森本大観・重枝秀紀（鉄道総合技術研究所）

直流電気鉄道におけるレールから大地に漏れる漏れ電流に起因するレール漏れ抵抗に関し、漏れ抵抗が不均一な場合についてシミュレーションを行いその特性を明らかにした。レール電位に関しては、海外では重要な要素となっており、今後ますますレール電位の評価は重要視されることが想定される。また、シミュレーションプログラムが複雑な漏れ抵抗構成の場合も使用できることも報告する。

5-226

並列12相整流器使用変電所の電車線路雑音評価

◎今村英樹・池田侑平・宮口浩一（西日本旅客鉄道）

直流電鉄用変電所の老朽化取替工事に伴い、高調波対策のため整流器の12相化をおこなっている。一昨年の設備更新時、電力ろ波器Q-FLの直列リアクトル部と12次分路の共振現象により、電力ろ波器に6次高調波が流入したことから、Q-FLに6次分路を追加する仕様見直しの検討を行った。弊社が使用するもう一つの電力ろ波器N-FLに関しては、直列リアクトル部が無いため仕様見直しの対象を外したが、並列12相整流器から6次高調波が発生するメカニズムはわかっており、電車線路への6次高調波による雑音が懸念される。そこで本件では、並列12相整流器に設備更新されN-FLを使用している変電所における、高調波電流の測定および雑音評価を行ったので紹介する。

5-227

電鉄用変電所に於ける高調波測定記録装置の開発

◎北川正博・片山幸作・石倉定幸・奥田 誠・山本康弘（日新電機）

近年，電力品質の要求の高まりから系統状態を記録する電力用記録装置が求められている。自営電力系統においても系統状態を測定する機会が増加しており，その都度煩雑なセッティング作業を要している。 今回，高調波を含む電力品質をリアルタイムに把握することができる高調波測定記録装置とデータの受信や解析，長時間の記録と日報・月報等の集計，さらに高調波ガイドライン判定機能を有する親局端末を開発した。

5-228

新幹線電圧変動抑制制御における無効電力補償量の適正化

◎清水俊匡・甲斐正彦・久野村 健（東海旅客鉄道）・住吉 治（東芝インフラシステムズ）・鳥羽廣次（東芝）

東海道新幹線に導入しているき電側電力融通方式電力補償装置（RPC）を電源電圧変動抑制装置として運転する場合、M座とT座のき電母線間で有効電力の平衡化を行うとともに、それぞれの座の無効電力補償を行う。RPC各座インバータの有効電力融通と無効電力補償の出力比率を決める方式として、東海道新幹線では理想補償の有効電力及び無効電力の出力比率と同じ比率でインバータの定格容量内に出力を制限する方式を採用してきた。 しかし、負荷電力が比較的大きい変電所においてRPCの定格容量内で電源電圧変動率を最小化するためには、有効電力融通に対し無効電力補償を優先的に行う制御方法が適していることがわかった。今回、この検討内容の報告を行う。

5-229

交流ATき電シミュレーションモデルの開発

○宮内 努・鈴木基也・加藤哲也（日立製作所）・北島 工・小島慶太・柴田直樹（九州旅客鉄道）

九州新幹線における車両運行エネルギーの実態調査を行うために，新鳥栖変電所と新玉東変電所における供給および逆潮流電力の調査を実施した。また，そのデータを活用して，交流ATき電システムにおける鉄道システムのエネルギー分析・評価を行うために開発したシミュレーションモデルの精度検証を実施した。精度検証の結果，誤差3.7-6.5%の精度で供給電力量と逆潮流電力量を評価できることを確認した。

5-230

既存車両搭載用架線状態監視装置の開発

○甲斐知彦・黒川剛士・下原光幸（東日本旅客鉄道）

現在トロリ線CBMの実現に向けて、山手線で運用しているE235系量産先行車に架線状態監視装置を搭載し、高頻度で架線状態データの収集を行っている。今回は、山手線以外の線区に架線状態監視装置を導入することを想定した場合の課題と検討内容、開発中の装置について紹介する。

5-231

レーザセンサを用いた電車線路設備診断手法の検証試験

◎本田誠彦・黒川剛士（東日本旅客鉄道）

電気鉄道では営業列車の運転台に保守係員が添乗し、架線や柱などの電車線路設備の巡視を定期的に実施している。この巡視を列車巡視とよぶ。列車巡視は人間の目視により設備の変化や異常を捉えるため、見逃しや巡視者の技術力により判定にばらつきが生じるなどの課題がある。 これらの課題を解決するため、当社ではレーザセンサで線路周辺の設備を点群として捉え、過去と現在の差分にて変化や異常を検出する手法を開発し訓練設備での基礎試験にて有効性を確認している。今回、多目的試験電車（MUETrain）の走行試験にて実際の電車線設備の変化を模擬した仮設物や工事等による変化の検出試験を実施したので報告する。

5-232

画像処理による架線測定手法の開発その2

貴村康人・金安一也・○根岸英雄（東日本電気エンジニアリング）

電気鉄道において、架線の高さ偏位はパンタグラフが安定的に集電するため、常に一定の範囲に設備されていなければならない。側線や車両基地では「ゲージ棒」という器具で手測定しているが、より正確にかつ簡易に測定ができるよう画像処理技術（三角測量法）を適用した架線測定手法を開発した。 既に一般箇所の測定については報告したが、今回は「わたり線」「オーバーラップ」での架線測定をできるように開発を進めたので報告する。

5-233

新幹線360km/h化に向けた電車線の開発

○池田国夫（東日本旅客鉄道）

JR東日本では、新幹線の延伸に当たり、到達時分の短縮のため、試験車ALFA-Xを作成し、高速化(360km/h)を検討している。これまで(現在320km/h)は、山陽新幹線以来伝統のヘビーコンパウンドカテナリの改良で対処してきたが、更なる高速化を図るには、軽量なトロリ線の適用を始めとする、電車線の構造改良が必須である。また、これに要する費用削減も欠かせない。これら課題の克服に向け、筆者は、新たな電車線を提案し、運動シミュレーションを行って、360km/h化に向けた効果を確認した。更に、これを実設備に敷設して、現処で検証可能な320km/hまでの試験を行った。その結果、シミュレーションと同様な結果を得て、実用可と期待できることを確認した。

5-234

東北新幹線白石蔵王駅構内高速わたり線化工事における架線構成の最適化

◎石川浩平・井筒智之・藤本 聡・小泉奈緒美・長谷川宏一・西 健太郎（東日本旅客鉄道）

郡山駅構内で発生したトロリ線断線事故の対策として、無交差式のわたり線（高速わたり線）の整備を進め、2017年11月に完了した。2017年6〜7月に東北新幹線白石蔵王駅構内北部において、高速わたり線切換工事を行ったが、当該箇所は、本線の架線区分であるオーバーラップ、上り本線と上り1番線のわたり線、上下わたり線、第一白石トンネル出口が存在し、架線構造が複雑であった。そこで切換工事では高速わたり線の構成確保、OLの最適な構成確保、本線のプレサグ低減の三点に留意した。 切換工事の結果、適切な高速わたり線の構成を確保しつつ、最適なオーバーラップの高低差確保、本線のプレサグ低減を実現し、トロリ線の摩耗抑制の効果を得た。

5-235

新幹線高速わたり線の保全に関する一考察

◎大友祐一・佐藤卓磨・中澤凌太・吉野太地・高橋由和・寺川英克・加藤 彰・高山信也・國分憲夫・津嶋英晴（東日本旅客鉄道）

平成27年4月29日、東北新幹線郡山構内交差式わたり線箇所において、320km/hで本線を通過するパンタグラフが側線のトロリ線の摺面に接触し、切削を伴って摩耗が進行したことにより断線に至った。本事象を受け、当社では東北新幹線の320km/h走行区間において、わたり線通過時にパンタグラフが側線のトロリ線に接触する可能性が極めて低い、無交差式わたり線（以下、高速わたり線）への改良を進めている。 本研究では、改良後1年間にわたり、高速わたり線の架線測定を行うことで、高速わたり線の温度変化等による構成変化を把握してきた。この結果に基づいて、高速わたり線の管理値を見直す等、保全手法について検討を行ったので報告する。

5-236

東北新幹線福島駅構内12番分岐器における高速わたり線構成の検討

◎長山健太郎・佐竹涼汰・工藤直樹・長谷川宏一・服部正樹（東日本旅客鉄道）

郡山駅構内トロリ線断線事象を踏まえ、東北新幹線の本線を高速で通過する駅構内において高速わたり線を導入した。対象箇所のうち福島駅構内北部上下わたり線に限り、分岐器の全長が短い12番分岐器が敷設されている。本稿では12番分岐器において、高速わたり線が構成可能なカテナリの条件について検討した。初期検討として、通常のトロリ線摩耗管理値（残存径11mm）の条件で検討した結果、高速わたり線が構成不可能である事が確認できた。そこで、トロリ線の張替周期を考慮し摩耗管理値を13mmまで緩和し、直近の支持点に引上力が働かない程度にカテナリの引上側を一部吊上げることで、高速わたり線が構成可能であることを確認した。

5-237

アーク放電が及ぼすトロリ線とすり板間に生じる短ギャップアーク姿態のシミュレーション

◎小久保翔太・真栄田義史・山本真司・岩尾 徹（東京都市大学）・早坂高雅（鉄道総合技術研究所）

電気鉄道における離線アークによるトロリ線の断線事故を低減させるためには，アーク放電によるトロリ線の損耗現象の解明が求められている。しかし，アーク放電現象とこれに伴うトロリ線の溶損は1 sオーダーの時間で変化するため，実験による現象解明は難しい。このため，数値解析による理論的な物理現象の解明のための解析手法の開発が求められる。以上の背景の下，本論文では，アーク放電が及ぼすトロリ線とすり板間に生じる短ギャップアーク姿態のシミュレーション開発を目的とし，計算を行った。

5-238

き電圧縮部における接触抵抗に関する一考察

◎武内 紳・宮崎修造・宮口浩一・川原敬治（西日本旅客鉄道）・臼木理倫・早坂高雅（鉄道総合技術研究所）・功刀厚志（JSOL）

直流き電鉄道のき電線に使用される硬アルミより線の圧縮箇所は弱点箇所となり易く、素線切れやき電線が断線する事象が問題となっている。当社においても対策の検討を行なってきたが、異常の未然防止には至っておらず、その対策は十分とはいえない。そこで、断線に至る進行速度の解明による未然防止等を目的に圧縮管内部の異常（腐食などによる発熱）を予測するシミュレータの開発に着手した。これまでに圧縮接続部のモデル化を行い、圧縮部の断面形状が実機試験結果と概ね近似した結果が得られている。本稿では、実測及びシミュレータを用いて接触面圧と単位面積当たりの接触抵抗値を算出した。

5-239

防護管付き2線条の自励的振動挙動の基礎検討

◎中村 琢・光用 剛・常本瑞樹・池田 充（鉄道総合技術研究所）

電車線において、強風による自励的振動の発生が支持点破壊等の一因となっている。 本研究では、工事等に伴い防護管を装着したツインシンプル架線を想定して、防護管付き2線条の自励的振動特性のについて簡易な試験を行った。 今回使用した防護管（内径25mm、ヒレ長さ16mm）において、防護管付き線条単体では顕著な振動特性を持たないが、防護管付き2線条が線条間距離100mmと近接して設置された場合には、特定の風向範囲において自励的振動特性を示すことを確認した。また、この振動現象は、防護管のヒレの設置角度によっても発生の有無が変化すること、および、防護管を取り外した場合には顕著な振動は発生しないことがわかった。

5-240

低線膨張線条を電車線設備に適用した場合の諸特性の検証

◎出川定弘・藤倉英聡・道本武泰・加藤 洋（東日本旅客鉄道）・小林武弘（三和テッキ）

JR東日本では、電路設備の簡素・統合化の施策において、き電ちょう架線方式の架線（以下インテグレート架線）を導入している。現在施工を進めているインテグレート架線はき電ちょう架線（PH356mm2）2条を使用しているために、線条の重量と張力の関係から施工に時間がかかり施工コスト低減は難しい。また、硬銅より線を利用しているため材料費も高価である。このため、銅線よりも安価かつ軽量なアルミ線への変更も考えられるが、線膨張係数が大きいため、既存の銅線と比べて架線性能が低下する恐れがある。そこで、線膨張係数が低い新たなアルミ線条を開発して、その線条を適用させた架線構成の性能を評価した。

5-241

ハイブリッドSKがいしの汚損絶縁性能

◎近藤優一・川原敬治（西日本旅客鉄道）・中山 勇・喜多守幸（日本ネットワークサポート）

定期的な作業が削減できる新幹線用長幹がいしとして，ハイブリッドSKがいしの導入を検討している。芯部は磁器がいしと同じ構造であり，笠部はポリマーがいしと同じ材質のシリコーンゴムを用いている。これらはゴム自体が持つ圧縮力と絶縁性を有する接着剤により接合させている。以上により，ハイブリッドSKがいしは磁器がいしと同等の機械強度を有し，塩分等の付着による絶縁性能の低下が発生しにくい特性を有している。しかしながら，ハイブリッドSKがいしは経年や環境によって絶縁性能が低下すると考えられる。そこで，本論文ではハイブリッドSKがいしの汚損やその清掃による絶縁性能への影響について検討した。

5-242

電車線材料の腐食に関する研究

○友田裕也（東日本電気エンジニアリング）

電車線路設備は亜鉛めっきを施した鉄鋼材料を使用している。亜鉛めっき鋼材の腐食は保守、管理上の大きな課題の1つとなっている。その中でもトンネル内の電車線路設備は暗所ということもあり、目視検査を行っても、詳細部分が見えにくいため、腐食を見落としてしまう恐れがある。金属材料の腐食は、気温、湿度、大気中の海塩粒子等の成分などといった様々な周辺環境により、進行度合いが異なる。そこで本研究ではトンネル内にて亜鉛めっき鋼材の暴露試験を実施し、腐食量の進行度を測定することで、トンネル内電車線材料の取替時期策定精度を上げることを目的とし、その結果を報告する。

5-243

ダンパハンガの経年劣化の影響確認試験

◎佐藤宏紀・清水政利・常本瑞樹（鉄道総合技術研究所）

在来線高速区間の合成シンプル架線は現在経年が20年以上となり、今後金具類の計画的取替が必要になると考えられる。しかし、合成シンプル架線に使用されているダンパハンガの取替指標や保全管理方法は明確にされていない。そこで、経年25年の撤去品ダンパハンガに対し、単体での試験を行い、新品との特性差や部材の摩耗状況を確認した。次に試験結果に基づきダンパハンガの特性変化が集電性能へ与える影響を架線・パンタグラフ系のシミュレーションを用いて予測した。

5-244

電車線路設備における接地抵抗値の管理に関する研究

◎岩嶋啓太・髙見雅人・吉池 勉・御子柴正也・齋藤勇大・伊藤富佐子（東日本旅客鉄道）

電車線路では架空地線や避雷器を接地し、雷や誘導雷が発生した際の人体や設備の保護を行っている。また保護の効果を十分発揮させるため、当社では接地抵抗値を30Ω以下として管理し、直読式接地抵抗計（以下接地抵抗計）を用いて測定している。しかしながら、過去の測定の中で同じ測定対象を接地抵抗計にて複数回測定すると20％程度の差異が生している。そこで、電圧降下法にて接地抵抗の真値を求め、接地抵抗計の精度を確認するとともに、接地抵抗計での測定における留意事項を提案することを目的とし研究を行った。

5-245

駅内配電システムの直流化に関する一考察

◎薗田洋平・小林慶彦・森 貞雄・川原敬治（西日本旅客鉄道）・竹内勇人・大塚省三・福島勇児・藤田敬喜（三菱電機）

駅内配電は変圧や保護が容易な交流配電を採用している。近年、駅では営業時間内の停電がサービス上許容されない出改札機器やエスカレータ等の交直変換を多用する電機設備が増備され、配電設備が複雑化するとともに交直変換による電力損失が増加する傾向にある。また、無停電電源装置や電源切替器等の高価な停電対策が整備されていない駅に停電リスクが残存している。 そこで、安価な停電対策、配電設備の簡素化、交直変換の電力損失抑制の実現に向けて直流配電技術に着目した。本稿では、その技術を駅内配電システムに適用することで期待される3つの効果について報告する。

5-246

火山灰が付着した電気鉄道用がいしの性能検証

○平川慎太郎・小西武史・西金佑一郎（鉄道総合技術研究所）

近年、火山灰による降灰に起因した停電が発生する事象が報告されている。鉄道においても火山灰の影響が懸念される地域が点在してあるが、不具合の報告例は少ない。しかしながら、将来大規模な火災噴火が生じた場合、電気設備に降灰による多大な影響を及ぼす可能性が考えられることから、火山灰の付着量とがいしの絶縁性能低下の相関を得ることが重要である。本稿では、鉄道電力設備に多く用いられる複数種のがいしに対して、火山灰の付着状態が絶縁性能に与える影響について実験による調査を行い、その結果について報告する。

5-247

蓄電池電車の走行距離評価のための永久磁石同期機駆動モデル

◎野﨑亮哉・宮武昌史（上智大学）

蓄電池電車では蓄電池搭載容量に対して省エネルギーかつ多くの走行可能距離を捻出することが最大の課題である。本研究では，鉄道車両用電動機に永久磁石同期電動機(PMSM)を採用した場合，搭載した蓄電池にどれだけの残量があるのかを示す充電率を評価する。研究方法としては，実在する路線長30.4[km]に対して，最大力行後に惰行し制動する運転パターンとし，各速度における鉄損・銅損，機械出力および勾配を考慮し計算する。ただし，惰行時に各駅間での最大力行時の速度から10[km/h]低下したら再力行するものとする。 結果として，本論文で示す車両性能で走行した場合，出発時には初期充電率が94.5[%]のところ，終点駅到着時には充電率が30.617[%]であった。

5-248

フライングキャパシタ方式3レベルチョッパの定電流負荷における共振抑制制御

◎長尾宜晃・三浦友史・伊瀬敏史（大阪大学）

近年，鉄道分野，再生可能エネルギーの蓄電池，直流送配電などのさまざまな分野で高電圧大容量のDC-DCコンバータ適用が検討されている．その一つとしてフライングキャパシタ方式3レベルチョッパ (FCC) がある．実際の鉄道分野などへの適用を考えた場合，定電流負荷における双方向動作の検討が重要である．FCC回路動作中において，インダクタとキャパシタによる共振が大きい場合，スイッチ素子に過電圧が加わり，インダクタのリプル電流が大きくなってしまう．このため，定電流負荷におけるFCCの共振抑制制御方式として，極配置法に基づくフィードバック制御を検討した．

5-249

ソフト連結を用いた超高頻度列車運行における時隔の計算

◎角濱文隆・高木 亮（工学院大学）

ソフト連結とは、純移動閉塞での最小列車間距離を下回る範囲で2列車を超近接走行させることであり、2つの列車はさも連結されているかのようにも見える。ソフト連結によれば、現状と比較にならないほど超高頻度な列車運行の実現する可能性がある。その一方で、ソフト連結した車両同士の衝突も懸念される。そこで、本研究では列車の減速度を条件に応じて適切に設定し、さらに車両側や地上側に求められる設備を提示する。衝突の危険を回避しつつ高頻度化を行う可能性について、列車運動の計算により検討する。また、2列車の最接近場面において、ソフト連結が従来方式よりも極めて効果的なことを示す。

5-250

機械学習と実績データを用いた運転曲線作成

◎小澤優太・阿邊優一・若江智秀・小熊 信・久保田和人（東芝）・服部陽平（東芝インフラシステムズ）

列車の走行を表す運転曲線は運転支援システムや自動運転システムで活用される一方で、列車の運動を計算するシミュレータにおいてモータの効率設定、走行に必要な各種パラメータの調整などに専門知識を有する設計者の試行錯誤を要し、負担となっている。そこで、設計者の負担を軽減しつつ高精度な運転曲線を作成するため、列車の実績データから得られるデータを用いて、列車機器を考慮した方式と深層学習を用いた方式の2方式での運転曲線の比較を行った。結果、両モデルともに力行時のエネルギー推定精度が94%以上得られる一方で、データの偏りが深層学習モデルの誤差精度に影響を与えることを確認した。