一般講演

2-001

絶縁樹脂基板上の部分放電発光取得の基礎的検討

◎濵砂享平・山田大智・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）

シリコンゲルは、部品や接続部を保護し、空気中の高電圧で発生する放電を抑制するために、パワーモジュールの封止に一般的に使用されている。モジュール内では、電極の形状や誘電体材料の特性（誘電率、導電率）によって非常に高い電界が発生し、部分放電（PD）と呼ばれる誘電体材料の局所的で不可逆的な故障を引き起こす可能性がある。このような局所的な高電界は、半導体を保持し、放熱された熱を逃がすために使用されるセラミック基板の表面のメタライズされたトラックの端に存在する。この場所では、金属、セラミック、および周囲の封止材料の間に「トリプルジャンクション」が存在し、セラミックとシリコンゲルの誘電率のミスマッチはゲル内に最大電界を誘導し、この材料ではまずPDが発生すると考えられている。本研究室では、シリコンゲルに代わる封止剤として液体の熱対流による放熱に着目している。本報では、モジュールを模した試料を用いて気中、フロリナート中で発生する部分放電の発光強度Iと放電電荷量qの相関について，調査した。

2-002

部分放電検出用の過渡接地電圧センサの最適化に関する一考察

○柿本康朝・城後達紀・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・陳 敏（SE Technology）・Hari Wibowo Satya・Umar Khayam・ Suwarno（バンドン工科大学）

筆者らは，これまでに過渡接地電圧(TEV)センサーを用いた電力機器の部分放電検出による診断技術開発を進めると同時に，数値シミュレーションによるTEVセンサ特性解析，部分放電信号伝搬について検討を行ってきた(1,2)。本論文では、TEVセンサーの最適化を目的として，3次元有限差分時間領域（FDTD）モデリングを使用したセンサ特性および電磁波伝搬シミュレーションを行い，さらに，センサ感度特性の実験も含めて検討した結果について報告する。

2-003

立ち上がり時間が異なる繰り返しインパルス電圧印加時のエナメル線ツイストペアのRPDIVに対する温度の影響

◎西垣安貴・竹之内 将・善田優希・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・岡本徹志・孫 進通・泉 碧人・柄沢一成（東芝三菱電機産業システム）

筆者らは，これまでインバータ駆動モータのエナメル巻線皮膜における絶縁性能評価のために，相間やターン間の絶縁を模擬できるモータレット試料を使用して，高温環境下での部分放電開始電圧（PDIV）および繰り返しインパルス電圧印加での部分放電開始電圧（RPDIV）が低下することを示した。今回，室温から155℃までの高温領域における巻線間が形成する楔ギャップの微小ボイドの放電特性について更に検討するため，パルスの立ち上がり時間が異なる繰り返しインパルス電圧印加時のエナメル線ツイストペア試料におけるRPDIVを測定し，その結果について検討したので報告する。

2-004

電力線搬送通信を用いたオンライン部分放電監視システムの模擬放電信号検出感度の検討

◎寳代彬人・柿本康朝・城後達紀・脇坂俊幸・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・里 秀文・田頭秀樹・副田正裕（九州電力）

筆者らは，これまでに安価な電力線搬送通信( PLC)とフェライトコア(FC)を用いて，部分放電(PD)信号を外乱として検出する原理を利用した，オンラインPD監視システム(PLC-PDMS)の構築・実証につき検討を行ってきた。本報では，模擬放電信号によるPLC-PDMSの放電検出感度について検討した結果について報告する。

2-005

電力用油浸フィルムコンデンサを模擬した油ギャップ電極系の部分放電によるフィルム表面劣化

◎竹元雄大・勝谷怜央・加藤丈佳・栗本宗明（名古屋大学）・鈴置保雄（愛知工業大学）・浜田信吉・笹谷幸生（日新電機）

筆者らは、電力用油浸コンデンサフィルムの部分放電(PD)劣化メカニズムの解明に取り組んでいる。本報告では、PDによるPPフィルムの表面劣化を調べることを目的とし、PPフィルム間をコンデンサオイルで満たした電極系（油ギャップ電極系）を構築し、正弦波交流ランプ電圧を印加した時のPD特性とフィルムの表面劣化を評価した。印加試験後のPPフィルムの表面を観察すると、球電極直下に直径0.8 mm程度の劣化痕が確認された。この劣化痕は、油中または油分解ガス中のPDがフィルム表面を劣化させた痕であると考えられる。

2-006

ポリプロピレンフィルム間油ギャップの部分放電開始電圧にギャップ内気体量が及ぼす影響

◎勝谷怜央・竹元雄大・加藤丈佳・栗本宗明（名古屋大学）・鈴置保雄（愛知工業大学）・佐野侑也・浜田信吉・笹谷幸生（日新電機）

電力用油浸フィルムコンデンサの部分放電劣化機構の解明に向けて、ポリプロピレン（PP)フィルム間の油ギャップにおける部分放電（PD）発生特性を調べている。本報告では、絶縁油が分解されてガスが発生した状況を想定し、その気体量がPD開始電圧（PDIV）に与える影響を調べた。なお、基礎的検討として、油分解ガスの代わりに空気をギャップ内に封入した油-ガスギャップ電極系を作製し、PDIVと発光像の観点からPD発生箇所を考察した。

2-007

電極ー樹脂界面の欠陥を模擬したボイド放電によるエポキシ樹脂複合体の劣化

◎野村和正・青木裕介・飯田和生・梅村時博（三重大学）・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）・前田照彦・中前哲夫（東芝産業機器システム）

本報告では、剥離型欠陥に由来する部分放電による樹脂劣化を観察するために剥離型欠陥を模擬した試料を作製し、長期課電による部分放電特性の変化と樹脂劣化について観測した結果を報告する。課電試験はボイドのない電極を接地して行い、部分放電開始電圧（PDIV）の1.1倍の交流電圧を120分印加した。PDIV, 放電電荷量の推定値がそれぞれ2.25kV、1800pCであり、測定結果は2.25kV、4000pCとなった。このことから模擬ボイド由来の放電が観測されていると考えらえる。120分で絶縁破壊に至らなかったが、試験後に試料を分解してボイドに接していた樹脂表面を観察すると樹脂の分解が確認できた。今後は、さらに長時間の課電試験を行い、絶縁破壊に至るまでの部分放電に関する研究を進める予定である。

2-008

電極のサンドブラスト処理がエポキシ複合体の部分放電開始電圧に与える影響

◎東 龍之介・青木裕介・飯田和生・梅村時博（三重大学）・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）・前田照彦・中前哲夫（東芝産業機器システム）

固体絶縁体には欠点があり、絶縁物内部にボイドや剥離などの欠陥が存在すると、部分放電(PD)により電気トリーが発生し、機器の寿命が短くなる。そのためPDと絶縁破壊の関係の解明を課題としている。PD測定のための実験試料において、樹脂中に導体を埋め込む際、電極界面と樹脂との接着性を上げるために電極にサンドブラスト処理を行い電極表面に凹凸を作る手法がある。今回はサンドブラスト処理のPDに与える影響を調査した。サンドブラスト処理を行った試料と処理を行っていない試料のPDIVを比較すると、サンドブラスト処理を行った試料の方がPDIVは低めだが、ばらつきは少ない傾向が見られた。

2-009

ポリイミド皮膜エナメルツイストペアにおける繰り返しインパルス印加での部分放電開始電圧の湿度依存性

◎竹之内 将・善田優希・西垣安貴・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・池田佳祐・武藤大介（エセックス古河マグネットワイヤジャパン）・冨澤恵一（古河電気工業）

筆者らはこれまで，エナメルツイストペアにおける繰り返しインパルス電圧印加での部分放電開始電圧（PDIV）の環境依存性について研究してきた。本研究では，ポリイミド(PI)絶縁皮膜内の水分量と空気中水分量の影響を考慮した両極性繰り返しインパルス印加に対するPDIVの湿度依存性を調査し，その結果より部分放電開始電圧に及ぼす水分効果のメカニズムについて検討した。

2-010

アルミ箔/油浸紙複合絶縁系における部分放電および絶縁破壊特性

◎脇田周太・小島寛樹（名古屋大学）・吉田昌展（中部電力）・早川直樹（名古屋大学）

油浸紙コンデンサにおいて部分放電(PD)は絶縁劣化の要因であるが，PDの発生から絶縁破壊(BD)に至るまでのPD特性は未解明な部分が多い．本稿では，基礎的なアルミ箔油浸紙複合絶縁系の部分放電開始電界(PDIE)と絶縁破壊電界(BDE)について検討した．結果として，アルミ箔端部は部分放電の起点であるが，絶縁破壊の起点ではなく，絶縁破壊は平板電極間の平等電界部で発生したと考えられる．

2-011

模擬トリー管の形状と材質が部分放電の波形特徴量に与える影響

◎武田修幸・川島朋裕・村上義信・穂積直裕（豊橋技術科学大学）・栗本宗明（名古屋大学）

電気トリーは，部分放電(PD)を伴った局所的な絶縁破壊現象であり，絶縁劣化の最終段階である。筆者らは，電気トリー中のPD波形を時系列計測し，波形の特徴量とフィラー添加の関係を調査してきた(1)。電気トリーは複数のトリー管(放電点)を有するため，形状が複雑である。フィラーを添加した場合には，トリー管内の電子なだれ過程も変化する。PD波形の特徴量はトリー形状の効果とフィラーの効果の両方の情報を反映するが，それらを分離することは困難であったため，模擬トリー管を用いて放電点を限定し，両者を分離して議論する試みを行った。

2-012

架橋度の小さいシリコーンゲル中に発生する電気トリーの消失と絶縁性の回復

川相有佑・全 現九・藤井雅治・○井堀春生（愛媛大学）

絶縁性の回復が見込まれる材料／システムの開発は、絶縁設計者にとっては非常に魅力的なものである。しかしながら、例えば、液体絶縁体は絶縁自己回復特性を持つことが知られているが、絶縁の自己回復特性自体については詳細な検討があまり行われていない。 近年、我々はパワーモジュールの封止材や緩衝材として使用されているシリコーンゲル中の高電界現象の1つである電気トリーの発生・進展に関する研究をおこなっている。本研究では、トリーの進展メカニズムの解明に対する興味のほか、液体絶縁体中の高電界現象との関連性についても着目しており、そのため、架橋度を変えてより液体に近いシリコーンゲル中でのトリーの観察をおこなった結果を報告する。特に今回は、この架橋度が小さいシリコーンゲル中に発生するトリーの消失と絶縁回復について検討した。

2-013

シリコーンゲル中を進展したパールチェーン型トリー内での放電発光の観察

◎薮内 渉・石坂太志・全 現九・井堀春生（愛媛大学）

我々はこれまでシリコーンゲル中を進展する電気トリーの発生や進展機構について研究してきた。また、電気トリーは電気トリーの発生・進展の要因の一つに部分放電が挙げられる。部分放電は発光を伴う場合があり、その発光とトリー現象の関係についてはいくつかの報告があるが、詳細なことは明らかになっていない。本研究では、パールチェーン型トリー進展中における放電発光の時系列観測を行った。その結果、再度電圧印加した際に発生した発光の分岐箇所は進展したトリーの分岐箇所に対応していることが確認された。また時系列観測によって発光の分岐箇所が異なることから、トリー全体が発光するのではなく枝分かれしたトリーが進展に応じて局所的に発光していると考えられる。

2-014

高熱伝導充填剤によるトリー劣化抑制効果

◎山田雄大・飯田和生・青木裕介（三重大学）

電力機器の絶縁材料として高分子絶縁体であるエポキシ樹脂は広く利用されている。絶縁体内にボイド等の微小空間が存在すると部分放電によりトリーが発生し、機器の寿命が極端に短くなるという問題がある。先行研究においてトリーによりエポキシ中のMg(OH)₂が局所的な領域で酸化物に変化しトリー劣化抑制効果が得られた。トリー先端温度を抑制できればトリー劣化効果が期待できると考え、エポキシ樹脂に熱伝導率の高い Al₂O₃, AlN, BN を充填し、課電寿命試験を行った。結果 Al₂O₃は13倍、AlNは16倍、BN (粒径1µm)は17倍、BN (粒径5µm)は76倍に延びた。

2-015

電界整列法によるダイヤモンドフィラー伝熱シートに関する熱伝導率向上の検討

◎神村 尊・李 赫男・稲葉優文・中野道彦・末廣純也（九州大学）

近年、パワーデバイスの小型化、高集積化が要求され、その発熱を効率よく放熱することができる複合材料のTIMが注目されている。我々の研究グループは、ダイヤモンド微粒子をフィラーとして用い、電界整列によって伝熱シートを作製し、熱伝導率評価を行った。伝熱シートの作製には櫛歯状のアレイ電極を用いた。ダイヤモンド微粒子と樹脂間の接触熱抵抗を低減することを目的として、ダイヤモンド表面にシランカップリング剤を導入した。電圧印加およびシランカップリング剤の導入によって熱伝導率は向上した。作製した伝熱シートの断面をSEMで観察し、シミュレーションと比較した結果、粒子の沈降によるアクリル樹脂層の形成が熱伝導率の低下を招いていることが分かった。

2-016

静電吸着法を用いた放熱性tpPI/h-BN複合絶縁材料の大面積化

◎橘 建（豊橋技術科学大学）

車載用パワーモジュール等への適用を目指した放熱性と許容可能な電気絶縁性をもつコンポジット材料が開発されている。本研究室では静電吸着法を用いて高い熱伝導率かつ許容できる電気絶縁性をもつ熱可塑性ポリイミド(tpPI)/配向六方晶窒化ホウ素(h-BN)コンポジット絶縁材料の開発を実施している。本論文では材料の大面積化を目的とし、面内位置の差異が電気的・熱的特性に与える影響を調査したので報告する。

2-017

機械学習を用いた無機高熱伝導絶縁材料の探索

◎後藤後藤・河野翔也・小迫雅裕・松平和之（九州工業大学）

本研究では機械学習を用いて無機の高熱伝導率な絶縁基板材料の探索を行った。公開されている材料データベースを用いることで、熱伝導率と相関のある体積弾性率を予測することができる学習結果を得た。学習結果の精度を示す決定係数は0.83であり、精度よく体積弾性率を予測できる結果となった。また、体積弾性率と熱伝導率の相関を確認できた。この学習結果を用いて様々な物質の体積弾性率を予測し、予測した体積弾性率より、高い熱伝導率の物質を選抜できる。絶縁性は第一原理計算より求まるバンドギャップにより評価する。講演では機械学習結果及び、機械学習より得られた無機高熱伝導率絶縁材料の候補を報告する。

2-018

導電性カーボンナノコンポジットの陽子線描画による微細加工

◎野原悠暉（芝浦工業大学）・林 秀臣（エコデザイン推進機構）・西川宏之（芝浦工業大学）

近年、高性能、安価で小型なセンサの開発が求められている。本研究は、微細な高アスペクト比構造形成に優れた陽子線描画[1]を用い、各種センサの高機能化を目指した導電性カーボンナノコンポジット材料による微細加工を目的とする。本報告では、導電性カーボンブラックを添加したエポキシ系ネガ型レジストのパターニングを行い、カーボン添加前のレジストパターニングと比較した。その結果、コンポジット化による陽子線に対する感度低下やパターニングサイズの変化はみられないこと、現像後の残存物が多く現像特性が低下していることや意図しないパターン剥がれが生じることがあり、現像処理程を見直す必要があることを確認した。

2-019

電流積分電荷法によるエポキシ樹脂中の劣化初期の電気トリーの検出

○藤井雅之（大島商船高等専門学校）・福間眞澄（松江工業高等専門学校）・光本真一（豊田工業高等専門学校）

再生可能エネルギーの大量導入に伴い，高電圧直流送電への関心が高まっている。絶縁材料はこうした送配電技術を支えているが，電気トリーの発生などにより絶縁劣化が進行すると電力の安定供給が脅かされることになる。絶縁劣化の状態を正確に把握するためには，劣化診断の精度向上が求められる。電流積分電荷法を用いて，直流不平等電界下においてエポキシ樹脂の劣化診断に取り組んできた結果，積分電荷の変化と電気トリーには相関があることが分かった。本研究では電流積分電荷法により劣化初期の電気トリーの検出について検討した。

2-020

三角波電圧印加時の空間電荷分布とQ(t)の測定

○福間眞澄（松江工業高等専門学校）・関口洋逸（住友電気工業）

PEA法を利用した空間電荷分布測定装置とQ(t)メータを並列接続した測定系を構成し，三角波電圧を試料に印加した場合の空間電荷分布とQ(t)の測定結果を報告する。本報告では，低密度ポリエチレン（LDPE）フィルムついて，30℃から85℃までの測定を行い，Q(t)の変位電流と伝導電流の成分について考察を行ったので報告する。

2-021

電荷量比による繰り返し課電時のQ(t)の整理

○関口洋逸・細水康平・山崎孝則（住友電気工業）・高田達雄・田中康寛（東京都市大学）

AC-およびDC-XLPEに一回当たり8hの課電を繰り返し行い、その時のQ(t)特性の変化を調べた。電荷量比によるデータ解析を行った結果、AC-XLPEと比較してDC-XLPEは電荷量比の変化が小さいことが示された。長時間の課電により空間電荷の影響が薄れ、理想的な伝導現象のみの定常状態になると考えられるが、DC-XLPEは課電当初から定常状態に近い状態になっていると考えられる。

2-022

空隙を介して直流電圧を印加したポリイミド中に蓄積する空間電荷分布の観測

◎田中駿也・成田迅宏・田中康寛・三宅弘晃（東京都市大学）

 絶縁材料に蓄積する空間電荷が部分放電に与える影響を調査するために、PEA(Pulsed Electro-Acoustic)法を用いて、絶縁材料に高電圧を印加することにより材料内部に蓄積する空間電荷分布を観測してきたが、今回は、部分放電が発生する状態に近い環境において、絶縁材料内部に蓄積する空間電荷の影響を観測するために、空隙を介して電圧を印加することにより、絶縁体内部に蓄積する空間電荷分布の計測を試みた。  その結果、空隙を設けて電圧印加することにより、試料内部に空間電荷が蓄積しやすくなり、試料に印加される電圧が変化し、相対的に、空隙に加わる電圧も変化する可能性があることが分かった。このことは、空間電荷の蓄積が部分放電開始電圧に影響を与える可能性があることを示唆している。

2-023

PVDFフィルムで検出される圧力波信号のFDTDシミュレーション

◎荒木海斗・弓達新治・尾崎良太郎・門脇一則（愛媛大学）

更なる絶縁性能の向上へ向け，絶縁体内部の空間電荷の挙動や蓄積に関してパルス静電応力法 (PEA法) を用いた研究が広く行われている。しかし，PEA法では，PVDFセンサーの周波数特性により，圧力波を誘起するために印加するパルス電圧とPVDFセンサーで実際に検出される波形が異なる場合がある。本報告では，PVDFセンサーの周波数特性を調べるため，波動方程式と圧電基本式に基づき，PVDF中を伝搬する圧力波のシミュレーションを行った。計算の結果，一般的な圧電素子の周波数特性を得ることができた。また，実際のパルス電圧を入力信号としたシミュレーションでは，計算結果と実験結果が良い一致を示し，実験で検出された信号が理論的に妥当であることが示せた。

2-024

電子線照射直後におけるフッ素系絶縁材料内の電子正孔対生成量の評価

◎福原大輝・遠藤和樹・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

近年、宇宙機搭載機器の動作電圧の低電圧化傾向があり、これまで考慮する必要のなかった微小な帯電が機器の誤作動の原因となる可能性がある。そのため本研究では電位変動の要因の一つである電子正孔対による空間電荷分極に着目している。先行研究では電子線照射後にブロック層を挿入することで電極からの電荷注入を抑制し、大気圧下で直流電界とパルス電界を印加して空間電荷分布測定を行い電子正孔対の生成量評価を行ってきた。本研究では試料照射面側の電極を試料に接触させずに空間容量をブロック層とした電界印加法によって電子線照射直後に真空下において2種のフッ素系絶縁材料内の電子正孔対の生成量評価を行った。

2-025

電子線照射下におけるフッ素系絶縁材料の電荷蓄積挙動

◎上田 薫・榎 海星・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

宇宙機表面に用いられる絶縁材料の電子線による帯放電現象が宇宙機の運用異常の一因となっている。そこで、我々は電子線照射による宇宙機表面絶縁材料の電荷蓄積特性に注目し、パルス静電応力法を用いて運用環境を模擬した宇宙機絶縁材料の帯電評価を行うため、試料に真空ギャップを介してパルス電圧を印加可能な電極構造を開発した。本研究では、電子線照射下においてフッ素系絶縁材料の空間電荷密度分布を測定し、電荷蓄積傾向の調査を行った。その結果、各絶縁材料において試料内への負電荷蓄積傾向及び蓄積量に差異が見られた。また、照射中に放電と思われる、蓄積負電荷の急激な減少が観測されたため、報告する。

2-026

A Study on Space Charge Properties of Insulators for HVDC Eco-friendly Power Cables

○Chul-Ho Kim・Yeong-Guk An・Quang Ho・June-Ho Lee（Hoseo university）

As interest in HVDC transmission and environment-friendliness increases, the demand for HVDC transmission using polypropylene power cables is increasing . Therefore, space charge accumulation is receiving much attention as one of the important issues .  In this paper, the space charge of XLPE and eco -friendly insulators was measured and analyzed for comparison. In addition, the interfacial charge characteristics of LSR / XLPE and LSR / PP were compared and evaluated.

2-027

エポキシ樹脂中に残存する不純物が空間電荷蓄積特性に与える影響

◎斉藤奈穂・佐藤孔亮・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

近年、高温・高電界下でも動作が可能なSiCやGaN等を用いたワイドギャップ半導体素子が登場しており、これらの素子の絶縁には耐熱性の高いエポキシ樹脂が用いられている。しかし、それらの半導体が用いられるような高温高電界下ではエポキシ樹脂中に空間電荷の蓄積が生じ、絶縁破壊に至る危険性があることが報告されている。エポキシ樹脂内の空間電荷の蓄積要因としては、材料中の不純物のイオン化が原因の一つであると考えられ、中でも、エポキシ樹脂の重合の際に発生する塩素系の不純物が主なイオン源であると考えられる。そのため本研究では、残留塩素化合物量が異なる2種類のエポキシ樹脂を作製し、両試料について、高温高電界下における空間電荷分布測定を行った。その結果、残留塩素化合物の量が少ないエポキシ樹脂では、一般的なエポキシ樹脂と比較して、空間電荷の蓄積量が減少することが分かった。

2-028

MEMS-PZT薄膜による高温PEA法用圧力波センサの開発

◎小林美穂・小林史也・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）・神田健介（兵庫県立大学）

小型化・高性能化された電気機器に用いられている薄膜絶縁材料の空間電荷蓄積特性を評価するため、本研究では測定装置の高分解能化を行ってきた。測定装置のセンサとして使用しているPVDFの代用として、より音速の速いチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に注目し、評価を行った。PZT素子に異なる温度条件で分極処理を施した際の圧電性については、温度が高いほど高い圧電性を有していることが確認された。次に、80 ℃下におけるPZTからの出力信号の測定を行ったところ、高温によりPZT試験素子の出力は低下するが圧電性を保持していることが確認できた。また、昇温後室温に戻した際、同程度の出力が確認できたことから、高温により圧電性は失うことはなかった。

2-029

PEA測定における接触媒質の影響

◎門脇和丈・塩田裕基・田尻邦彦（三菱電機）

絶縁材料の帯電分布評価手法であるPEA法（パルス静電応力法）を簡単かつ高い信頼性で実施するため、サンプルとサンプルを設置する電極との間に塗布する接触媒質に注目した試験を行った。PMMA板を試料とし、接触媒質として一般的に用いられるSiオイルの他、水を使用した際のPEA信号を取得して比較したところ、Siオイルを使用した際には下部電極周辺のPEA信号が時間的に変化したのに対し、水を使用した場合には変化が見られなかった。変化に要する時間を、試料と接触媒質の等価回路から見積もったところ、Siオイルでは実測値と同じオーダとなった。また水では変化に要する時間が0.7msと非常に短く実測できないことを説明できる結果が得られた。

2-030

温度勾配条件を付与する空間電荷測定装置における温度分布計測

○布施則一・森田翔亮（電力中央研究所）・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

高電圧直流電界下では，絶縁体内部の電界分布が導電率に依存し，温度が決定因子の1つとなる。空間電荷分布測定に基づいて温度勾配条件下での絶縁体シート内の電界を評価した報告は既にあるが，著者らもその検討を開始した。本稿では，構築した装置内の温度分布を検討した。

2-031

半導体チップ終端部におけるシリコーンゲルの空間電荷分布シミュレーション

◎岸本幸樹・門脇和丈・田尻邦彦・塩田裕基（三菱電機）

パワーモジュールに搭載される半導体チップでは、絶縁信頼性試験（HTRB：High Temperature Reverse Bias、THB：Temperature Humidity Bias）時の半導体チップ終端部における封止樹脂の空間電荷の蓄積による影響が報告されている。そのため、パワーモジュールの絶縁信頼性向上のためには、半導体チップ終端部における封止樹脂の空間電荷分布の解明が求められている。本研究では、半導体チップのデバイスシミュレーションソフトTCAD（Technology Computer Aided Design）を用いて半導体チップ終端部におけるシリコーンゲルの空間電荷分布を調査したので報告する。

2-032

矩形波電圧下における環動高分子材料の空間電荷特性Ⅱ

◎増井旺雅（豊橋技術科学大学）

誘電エラストマーは優れた伸縮性を示す材料であり、各種アクチュエータ等へ適用が期待されている。本研究では誘電エラストマーの一種である環動高分子材料の電気特性の把握を実施しおり、矩形波中の正負電圧の大きさのバランスが空間電荷特性に影響を与えることなどを報告してきた。今回は矩形波中の同一電圧印加中における測定タイミングの差が空間電荷分布に与える影響をPEA法を用いて調査した。結果として電荷の極性に係わらず印加時間が長いほうが電荷量のピーク値は大きくなる傾向が見られた。結論としては矩形波印加時においも空間電荷は時間的に変化していることが分かった。

2-033

Examination of two-dimensional space charge measurement of DC cable junction box reduction model

◎Shafira Zahra・歌川真生・川島朋裕・村上義信・穂積直裕（Toyohashi University of Technology）・Peter Morshuis（Solid Dielectric Solutions）・Young-il Cho・Yoon-hyoung Kim（LS Cable & System）

Space charge measurement is being recognized as an essential matter in the development process of an HVDC cable system. A particular care is required to the accessories, which often becomes the weakest point of the whole cable line. Therefore, space charge measurement for the cable joint. In this report the result of a trial by. Is required to create a reliable joint and avoid failure. The measurement of the joint box that is composed of multiple insulation layers as three-dimensional structures like deflector and stress control electrode is still out of reach. using a scaled joint model will be exhibited.

2-034

電界と複合層界面の方向が一致する場合の界面付近における電荷挙動測定Ⅱ

◎保子純一・川島朋裕・穂積直裕・村上義信（豊橋技術科学大学）・塩田裕基・門脇和丈（三菱電機）

各種電力機器においては製造上の理由などから複合絶縁系がよく用いられるが、この複合絶縁系は絶縁体界面が電気的弱点となり易いため、界面が存在する複合層の電気的特性を把握することは重要である。本研究では、電界と複合層界面の方向が一致する場合の界面付近における電荷挙動測定を電流積分電荷法を用いて実施した。 界面が存在する複合層試料の方が単層試料より積分電荷量が大きくなる傾向が見られた。これは複合層試料における界面が電気的弱点として作用し、その界面に電荷がより多く蓄積・移動したためと考えられる。電流積分電荷法は低電界においても電荷挙動を把握できる可能性があるため、この方法は有益な測定法になる可能性があると考えられる。

2-035

超音波顕微鏡を利用した三次元空間電荷観測の基礎検討

◎李 暁欣・川島朋裕・村上義信・穂積直裕（豊橋技術科学大学）

パルス静電応力(PEA)法は電極に接する絶縁物中の空間電荷を測定できるが，電気的計測であるため物理的な内部構造を見ることはできない。筆者らが提案する超音波顕微鏡は高分子基板に接する試料に対し基板背面から超音波を送受して二次元・三次元の音響物性プロファイリングを行うものであり，上記両者を組合せるとエコーで内部構造を観察しながら空間電荷測定を行うことができる。観測系を構築し基礎検討を行ったので報告する。

2-036

低電界領域における原子炉照射LDPEの充電電荷計測

○光本真一（豊田工業高等専門学校）・藤井雅之（大島商船高等専門学校）・福間眞澄（松江工業高等専門学校）・栗本宗明（名古屋大学）・芳原新也（近畿大学）

電力ケーブルの電気絶縁材料としてポリエチレンが広く用いられている。一方，原子力発電所や宇宙環境において使用される制御系電気ケーブルに，ポリエチレン材料が使用される場合，放射線がポリエチレンに絶えず照射される。本稿では放射線照射LDPEにおいて低電界印加領域の充電電荷を電流積分電荷法により評価した実験結果について報告する。

2-037

McKeown電極を用いた炭化水素系熱硬化樹脂の絶縁破壊強度評価

◎松木孝聡・井上好之・大角浩太郎・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・福本直記・亀井伸人（RIMTEC）

筆者らは、エポキシ樹脂(EP)とジシクロペンタジエン(DCP)をMcKeown電極系を用いて交流電圧における絶縁破壊強度E_bを測定した。その結果エポキシ樹脂とジシクロペンタジエンのE_bは同等であることが実証された。

2-038

動的光散乱法によるエポキシ溶液中フラーレンの分散状態評価に関する一考察

○毛利恵美子・大角浩太郎・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・五十嵐威史・加治亘章（昭和電工）

筆者らは，フラーレン(FL)をエポキシ樹脂(EP)に0.6wt%添加することでEP/FL複合材の絶縁破壊強度Ebが約30%向上することを報告してきた。このメカニズム解明の一考察として，動的光散乱測定によるEP内に添加したC60と種々の高次FLの分散状態を評価し，検討した結果を報告する。

2-039

二相混合窒素冷媒の絶縁破壊特性に及ぼす固体窒素粒子の影響

◎川島朋裕・山田和輝（豊橋技術科学大学）・尾花哲浩（核融合科学研究所）・村上義信・穂積直裕（豊橋技術科学大学）

スラッシュ窒素は，液体窒素(LN2)と固体窒素粒子の混合冷媒であり，LN2の顕熱だけでなく固体窒素の融解潜熱も利用できるため，優れた冷却特性を有する。筆者らは，スラッシュ窒素の絶縁破壊特性がLN2単体に比べて低下することを示した。本研究では，部分放電(PD)波形の特徴量を解析し，固体窒素が絶縁破壊を助長した要因を考察した。

2-040

各種電極材料を用いた直流電圧印加時における純水の抵抗率変化

◎土谷和輝・高村紀充・荒岡信隆・美山正樹（福岡大学）・松田樹也・王 斗艶・浪平隆男（熊本大学）・花井正広（福岡大学）

著者らは環境に優しい液体絶縁材料として純水に着目した。しかし，純水には周囲の物質が溶解しやすいため，液体絶縁材料として使用するには対策が必要である。本稿では，純水に直流電圧を印加した場合に抵抗率の維持に適した電極材料を調査することを目的とし，チタン製電極，ステンレス鋼製電極，黒鉛製電極，およびDLCを1 μm被覆したチタン製電極を用いて，純水に直流電圧を印加した。電圧印加時間の増加と印加電圧の上昇に伴い純水の抵抗率は低下した。チタン製電極とステンレス鋼製電極が他の2つの電極と比べ高い抵抗率を維持したことから，純水の抵抗率の維持に適した電極材料はチタン製電極とステンレス鋼製電極であるということが分かった。

2-041

超電導パンケーキコイルの対地絶縁モデルにおける液体窒素の動的絶縁破壊特性

森 優次・◎村上雅紀・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）

ロシアで220 kV抵抗型超電導限流器が実導入されるなど，超電導限流器は実用化されつつある．筆者らは，抵抗型超電導限流器の限流動作時における液体窒素の動的絶縁破壊特性について研究しており，これまで超電導パンケーキコイルモデルのターン間絶縁特性について検討してきた．本稿では，超電導パンケーキコイルモデルの対地絶縁特性について報告する．結果として，対地間とターン間の絶縁性能はほぼ等しいことがわかった．以上より，抵抗型超電導限流器の絶縁設計においては，対地絶縁およびターン間絶縁における超電導テープエッジ周辺の高電界空間を考慮した液体窒素の静的および動的絶縁破壊特性が重要であると言うことができる．

2-042

親水基と親油基の割合が異なる非イオン性界面活性剤添加鉱油の体積抵抗率

◎藤村仁大・高村紀充・荒岡信隆・堤 友浩・花井正広（福岡大学）

吸湿した鉱油に非イオン性の界面活性剤を添加すると，絶縁耐力が向上することが報告されているが，体積抵抗率に関する報告は少ない。本稿では，親水基と親油基の割合（HLB値）が異なる非イオン性界面活性剤のパーソフトNH-90CとノニオンS-202を使用した。各界面活性剤を鉱油に添加して，濃度が1から110 ppmの鉱油を作製し，体積抵抗率を超絶縁計にて測定した。その結果，界面活性剤添加鉱油は濃度が高くなるにつれ，体積抵抗率がべき関数的に低下することが確認された。今回測定した範囲では，HLB値が小さいノニオンを添加した鉱油のほうが，濃度上昇による体積抵抗率の変化率は小さいという結果が得られた。

2-043

IECライン電極における表面抵抗率測定法の改良

○前田孝夫（絶縁テクノ工房）・山野芳昭（千葉大学）

ライン電極を用いて絶縁材料の表面抵抗率を求める際には、実測抵抗を平行電極間に挟まれた長方形の面積で除して算出するのがIEC 62631-3-2：2015の規定であるが、主電極の両端にガード電極を配置することによって測定精度が改善されることを検証した。測定はベークライト、表面に帯電防止処理が施されたポリカーボネートおよび半導電性のポリアセタールの3種類の試料で行った。ガード電極へ流れる電流は主電極の電流よりも電極長さの比を超えて多いことから、測定精度が向上していることを確認した。

2-044

GEO環境電子線劣化によるポリイミド系材料の二次電子放出係数の変化

◎天水皐輔・小森あかね・永田浩二郎・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

宇宙機の長期運用上の帯放電リスク軽減ため、本研究では宇宙機絶縁材料の二次電子放出係数(SEEY)の測定を行っている。今回ポリイミド系材料にGEO環境で1年間の運用時に相当する電子線を照射した結果、電子線照射から30分後ではSEEYが上昇し未照射より高い値を取り、12時間後ではSEEYが減少したことで未照射より低い値が得られた。SEEYが上昇した理由としては、電子線照射により分子鎖が切断されたことで、二次電子が放出されやすくなったためと考えられる。一方で、SEEYが減少した理由としては、時間経過により分子鎖が再結合され、その際に近接する分子との架橋現象により分子構造的に未照射より電子が放出されづらい状況になった可能性が考えられる。

2-045

電子線照射されたETFEの吸光度測定によるエネルギーギャップの推定

◎兵頭康平・堀口嘉弘・佐藤孔亮・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

宇宙機の帯電放電現象を事前に把握し、対策をするためには、宇宙環境で一定期間運用した状況を模擬した材料の物性値が必要となる。本研究では電子線照射後の放射線劣化による、宇宙機用絶縁材料であるフッ素系絶縁材料の吸光度を測定し、エネルギーギャップfgの変化を推定した。静止軌道高度上で宇宙機が受ける3年間運用し劣化した状態を模擬した試料と未照射の試料を比較した。その結果、未劣化試料ではφ_g=7.70 eV、3年劣化した試料ではφ_g=6.05 eVとそれぞれ求まり、電子線劣化によってφ_gが低下することが分かった。すなわち、宇宙機の実用環境における帯電解析には、放射線による材料の劣化を考慮した物性値の選定が必要となる。

2-046

電子線励起によるTOF法を用いた絶縁材料中のキャリア移動度測定システムの構築及び実測

◎田中千可良・武田岳大・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

現代、量子化学計算により絶縁材料開発のため、キャリア移動度の推定が行われている。電気物性値を把握する事は必須であり、キャリア移動度は絶縁材料の電気伝導や絶縁破壊機構を解明するための最も重要な物性値の一つである。しかし、キャリアの移動度が非常に小さいことや、寿命が短いことから量子化学計算により推定した値を実測する方法はごく少ない報告に留まっている。本研究ではTime of Flight (TOF) 法を用いた電子線により試料内部にキャリアを励起させることで微小な電流を観測し、キャリア移動度の測定を試みている。本報告ではLDPEのキャリア移動度の測定を行った。その結果、正孔と電子の移動度が10-9オーダーで得られることがわかった。

2-047

量子化学計算によるエポキシ/フラーレンナノコンポジットの電子エネルギー準位評価

◎井上好之・大角浩太郎・濵砂享平・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）・五十嵐威史・加治亘章（昭和電工）

筆者らはこれまでに，エポキシ樹脂にフラーレン（FL）を0.6wt%添加することで絶縁破壊強度が約30％向上することを報告してきた。本論文では，FLの絶縁破壊強度向上メカニズムの検討をするため，量子化学計算を用いて，異なるFL充填剤C₆₀およびC₇₀と硬化剤を用いたエポキシ樹脂の電子状態を評価した。その結果，C₆₀およびC₇₀のLUMOとHOMOはこれまでに報告されてきた値とほぼ一致し，FL粒子の局所的なLUMO及びHOMOレベルが，それぞれ電子および正孔トラップサイトとして機能することがわかった。

2-048

エポキシ樹脂内のボイドサイズにおけるテラヘルツ反射波の数値解析的検討

◎城後達紀・柿本康朝・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・水内理映子・久里裕二・長 広明・中村勇介・角本雄一・和田国彦（東芝インフラシステムズ）

筆者らは，簡便な樹脂内部の検査方法の確立を目指し，テラヘルツ（THz）波（約0.1～10 THz の電磁波）を用いた非破壊検査技術の開発を進めている。本報では，樹脂中の空気異物を模擬したモデルを用いて数値解析シミュレーションを行い，ボイドサイズの違いによるTHz反射波の応答に関して検討した。検討結果としては，樹脂中のボイドによる影響で，観測点では2つの反射波が得られ，この2つの反射波の時間差を測定することでボイドサイズの評価ができると結論づけた。これまでに蓄積した基本理論を応用してこれからの診断技術の高精度化に活用したい。

2-049

高電界下における低密度ポリエチレンの移動度の変化に関する研究

○尾崎良太郎・武田和也・三原貴大・弓達新治・門脇一則（愛媛大学）

LDPEに直流高電圧を印加すると、LDPE内部に電荷が侵入するため、電界が歪むことで局所的に高電界が形成され、絶縁性能の低下を引き起こすことがある。また、直流高電圧下において、高い電圧より低い電圧の方が、空間電荷が電極から材料奥深くまで侵入するなど、興味深い結果が報告されている。本研究では、LDPEの高電界下での移動度の変化に着目し、空間電荷シミュレーションを行った。

2-050

受配電機器絶縁物の新規診断サービスにおける温湿度測定の短時間化

◎藤原宗一郎・西川哲司・中井遼司・三木伸介（三菱電機）

当社では、受配電機器絶縁物の劣化診断時に設備の停電や現地での測定作業が不要となる、簡易で低コストの新規絶縁劣化診断サービスを開発してきた。このサービスでは、絶縁物の種類や使用年数、6ヶ月間の温湿度データ等と、表面抵抗率算出モデルから絶縁物の劣化度を簡易に推定可能であるが、診断に要する期間が長い（6ヶ月間）という問題がある。6ヶ月間要する理由は、温湿度の季節依存性の影響（診断開始時期による診断結果の差）を考慮するためであるが、より短期間での診断が求められている。本報告では、新規診断サービスにおける温湿度測定の短時間化を目的に、短期間（3ヶ月間）の測定データを用いた場合においても、精度良く診断するために実施した温湿度補正方法検討結果について報告する。

2-051

鉱油と天然エステル油のインパルス絶縁破壊特性の比較

◎山田大智・濱砂享平・松木孝聡・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・吉田成是・濱田陽紀・梅本貴弘（三菱電機）

近年，環境負荷低減への意識の高まりから，環境に優しい植物油を使用した変圧器へのニーズが高まっている。これまで著者らは，植物油として天然エステル油を使用し，球-球電極や球-平板電極といった各種電極系を用いて交流電圧印加時の絶縁破壊電圧を取得してきた。そこで本稿では，インパルス電圧印加時の絶縁破壊電圧を測定し，鉱油での特性と比較検討を行った。その結果，天然エステル油と鉱油のインパルス電圧印加時の絶縁破壊電圧概ね一致することを確認した。また，絶縁破壊電界のSOV依存性についても比較検討を行ったので，これについても報告をする。

2-052

ポリイミド／ベーマイト系エナメル巻線の高温領域までの誘電特性の評価

◎善田優希・竹之内 将・西垣安貴・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・藤本信貴・林坂徳之・加藤俊彦（住友精化）・菊池英行（Hyde Technology）

これまで中・小型回転電機において従来の絶縁寿命を超える耐インバータサージ用巻線開発に向け，ベーマイトアルミナ(BA)ナノフィラーに着目し，そのポリイミド(PI)樹脂ナノコンポジット(NC)巻線における電気絶縁特性を検討してきた。実用化の観点では開発したNCとニート樹脂の積層構造を有した巻線が有効な場合もあり，その電気絶縁特性評価も必要となる。そこで本稿では，PIニート，NC，および両者の二層構造の3者における巻線における高温誘電特性を評価し，比較検討した結果を報告する。

2-053

22kVモールド変圧器の部分放電特性に基づく長期課電試験方法の決定に関する一検討

○小迫雅裕・柿本康朝・花田 渉・匹田政幸（九州工業大学）・佐藤正春・立木 潮・二川和弘・佐藤英章（東京電力パワーグリッド）

近年，電力設備の更新時期を決定すべく，オンライン絶縁診断技術の確立が求められている。本研究では，絶縁破壊の前駆現象である部分放電(partial discharge: PD)に着目し，配電用モールド変圧器の絶縁状態を，配電盤外から安全に診断する手法の確立を目指している。前報では，現場活線状態における経年22kVモールド変圧器が配置された配電盤の内・外に複数の過渡接地電圧 (transient earth voltage: TEV)センサを配置し，その取得信号の長期経時変化を分析した。本報では，その部分放電特性の長期トレンドを評価すべく，実験室にて経年変圧器の長期課電試験の条件を決定すべく，部分放電特性を評価した結果を報告する。

2-054

モールド変圧器における部分放電検出の周波数スペクトラムに関する一考察

○花田 渉・柿本康朝・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・青木裕介・飯田和生・梅村時博（三重大学）・中前哲夫・前田照彦・尾崎多文（東芝産業機器システム）

筆者らは, モールド変圧器（cast resin transformer: CRTr）である33 kV VT（計器用変成器）の部分放電検出波形特性解明のため，巻線間のインピーダンスZfの周波数特性に基づく高周波等価回路を提案し，Zfの極小値を与える周波数frzrが部分放電パルス波形の支配周波数frpdとよく一致することを示してきた。今回，内部構造が異なる6.6 kV VTにて，33 kV VT と同様にZfの高周波特性と部分放電信号の支配周波数の関係につき検討したので報告する。

2-055

CTを用いた小型高電圧トランスの部分放電評価

○鈴木光芳・中谷隆雄（中遠電子工業）・石田隆弘（静岡理工科大学）

小型高圧トランスの部分放電評価で、従来の商用周波数による電流検出法では、高圧電源の実動作状態とは異なる条件での評価となる。そこで、小型高圧トランスを実機電源の実負荷状態で動作させ、漏れ電流波形をカレントトランスで検出することにより、実動作状態における小型高圧トランスの部分放電評価の可能性について検討を行った。結果、簡易的に部分放電開始電圧の評価が可能となることが明らかとなった。また、従来法に比べ、オシロスコープのみで評価が可能となり、更に回路基板にCT検出用端子を準備しておけば、使い方が異なる個々のケースにおいても実動作評価が可能となるものと考えられる。

2-056

エポキシナノコンポジットの誘電率及び電気トリー破壊強度にナノ粒子空孔が及ぼす影響

◎紫村未来・田河和真・杉本重幸・加藤丈佳・栗本宗明（名古屋大学）・鈴置保雄（愛知工業大学）

中空シリカナノ粒子（以下，中空ナノシリカ）は、エポキシ樹脂を低誘電率化し(1,2)、その内部のナノサイズ空孔は平等電界下のエポキシ樹脂の交流絶縁破壊強度の欠陥にならない(3)。本報告では，中空ナノシリカを添加したエポキシ樹脂（エポキシ／中空シリカナノコンポジット：中空NC）の誘電率および電気トリー貫通破壊強度を、空孔を持たないシリカナノ粒子（以下，中実ナノシリカ）を添加したエポキシ樹脂（中実NC）と比較し、ナノ空孔が及ぼす影響を検討した。

2-057

エポキシ/シリカナノコンポジットにおけるナノフィラーの分散性評価と電気トリーの進展特性

◎中野燎平（東京電機大学）

エポキシ/シリカナノコンポジット中電気トリーの進展特性の解明を目的にして, エポキシ樹脂やナノフィラーを変化させたサンプルに電圧を印加し, トリー進展長の観察を行った。最初に小角散乱法を用いた粒径分布測定を行い平均値, 最頻値を求めたがそれぞれのサンプルに差はなかった。その後サンプルに15 kVp, 18 kVp, 21 kVpを印加した。エポキシ樹脂 A では, シリカ粒子の表面処理剤を変えたが, いずれの電圧においてもトリーが進展し, 形状も branch 状になった。一方, フィラー分散性を改良したエポキシ B は 18 kVp 以下ではトリー抑制効果が確認できた。以上より, エポキシ樹脂Bは同じwt%の充填量でAに比べ粘度が低く,可使寿命が長くなり, 実機応用上, 有利である。

2-058

シリコーンエラストマーコンポジットのTiO₂フィラー電界配向による高誘電率化と配向要因の理論的裏付け

◎藤原亮介・久田 優・杉本重幸・加藤丈佳・栗本宗明（名古屋大学）・鈴置保雄（愛知工業大学）

誘電エラストマーを用いた電気-機械エネルギー変換デバイスの出力を増加させる方法の一つは，エラストマーの高誘電率化である。本論文では、交流電界を印加しながら棒状TiO₂/シリコーンエラストマーコンポジットを成形することで、フィラーの配向を誘起し、その高誘電率化効果を調べた。さらに、フィラー配向が電界印加によって起こったことを、顕微鏡画像を用いて測定した配向時間をもとに理論的に裏付けた。その結果、電界強度が高いほど、エラストマーコンポジットの比誘電率は高くなった。また、フィラーの傾斜角度の時間変化の実測値と、理論式によって導出された計算値は概ね一致しており、電界によってフィラーの配向が誘起されたことが確認できた。

2-059

静電吸着法を用いたPMMA/SiO₂ナノコンポジット絶縁材料の開発

◎一場悠仁（豊橋技術科学大学）

静電吸着法は、任意形状・形態の集積構造体を調製することが可能であり、ナノコンポジット材料において一番の問題となる充填剤の凝集を極力抑えることが可能である。これらを背景に、静電吸着法を用いてポリメタクリル酸メチル(PMMA)/ナノシリカ(nSiO₂)コンポジット材料を作製し、直流絶縁破壊試験を実施した。 高分子電解質を用いてPMMA粒子とnSiO₂粒子の表面電荷の極性が相反するよう調製し静電吸着させることでナノコンポジット試料を作製した。 結果、PMMA/SiO₂ナノコンポジット試料の直流絶縁破壊の強さはPMMA試料のそれと比べ上昇した。 以上より、静電吸着法を用いて作製したPMMA/SiO₂ナノコンポジット材料においても電気的特性を向上させることが可能であることが分かった。

2-060

カードハウス構造窒化ホウ素の添加がエポキシコンポジット材料の電気伝導に与える影響

◎野田剛志・川島朋裕・穂積直裕・村上義信（豊橋技術科学大学）

パワーモジュールの性能劣化等を防ぐため、許容できる絶縁性と高い熱伝導性を備えた放熱性コンポジット絶縁材料の開発が行われている。本研究室では、フィラーとして窒化ホウ素(BN)を連続的に結晶成長させた、異方性がなく高い熱伝導率をもつカードハウス構造の球状BN(sBNch) をエポキシ樹脂(EP)に添加することにより、トリ―イング特性や熱伝導率が向上することを報告してきた。今回は、カードハウス構造窒化ホウ素の添加がEPコンポジットの電気特性に与える影響を更に調査するため、EP/sBNchコンポジット材料の伝導電流を測定した。EP/sBNchコンポジットの体積抵抗率はEP単体試料のそれに比べて高くなった。

2-061

ナノサイズMg(OH)₂の添加量がエポキシ樹脂のトリ―イング絶縁破壊電圧に与える影響

◎菊池晃生・川島朋裕・穂積直裕・村上義信（豊橋技術科学大学）・吉田成是・梅本貴弘・馬渕貴裕・武藤浩隆（三菱電機）

本論文では、ナノサイズの水酸化マグネシウム(nMg(OH)₂)の添加がEP樹脂のトリーイング特性に与える影響を把握するため、トリーイング絶縁破壊電圧のnMg(OH)₂添加量依存性を調査した。EP/nMg(OH)₂試料のトリ―イング絶縁破壊電圧はnMg(OH)₂添加量の増加とともに上昇する傾向を示した。nMg(OH)₂の電子の捕獲または散乱作用による電子雪崩の成長確率の低下効果などが影響したと考えられる。

2-062

エポキシ樹脂ナノコンポジットの交流高電界電界発光Ⅲ～分散性の影響～

○遠山和之（沼津工業高等専門学校）・吉田成是・梅本貴弘・馬渕貴裕・武藤浩隆（三菱電機）

エポキシ/酸化チタンナノコンポジット樹脂の持つ耐圧向上効果とフィラー分散状態の関係について、電界発光開始・消滅電界から評価し、凝集体最大サイズが小さく、充填率が少ないほど、耐圧が向上する傾向にあることを報告している。今回、ナノフィラーの希釈の有無が高電界電界発光に及ぼす影響について調査した。その結果、ナノフィラーを1 vol%充填した試料のばらつきが小さいことやナノフィラー充填量5 vol%を1 vol%に希釈した試料の方が若干開始・消滅電界が高くなる結果を得た。

2-063

MBE法によるZnMgTe薄膜の分子線強度変化に対する表面平坦性評価

◎細井菜々乃・小林昇太郎・坪井海人・安藤達也・坂本悠哉・杉本昴大・小林正和（早稲田大学）

我々は人体間通信素子の応用に向け、MBE法を用いたZnTe基板上ZnMgTe/ZnTe導波路の作製を行っている。導波路の結晶品質はZnMgTe層のⅡ族(Zn,Mg)とⅥ族(Te)の分子線強度によっても大きく変化する。また、導波路界面の平坦性はEO効果に重要であり、表面凹凸は光閉じ込めに大きな影響を与えると考えられている。 そこで今回は、分子線強度比(J_Ⅵ/J_Ⅱ)を変化させてGaAs基板上ZnMgTe薄膜成長を行い、X線回折とAFMにより表面平坦性の評価を行った。その結果、導波路界面に適した表面凹凸の少ない薄膜となる分子線強度比はJ_Ⅵ/J_Ⅱ=2.6であった。また、J_Ⅵ/J_Ⅱ＜2.6の場合に比べてJ_Ⅵ/J_Ⅱ＞2.6の場合の方が表面凹凸の平坦性を保ちやすいことが明らかとなった。

2-064

サファイアr,S面ナノファセット基板上ZnTe成長核のS面選択的形成条件の探査

◎安藤達也・小林昇太郎・杉本昂大・坪井海人・細井菜々乃・坂本悠哉・小林正和（早稲田大学）

テラヘルツ波検出素子への応用に向けてZnTe(110)/サファイア構造に注目している。S面方向に17.66°傾斜をつけたr.S面ナノファセット基板上に(111)配向のZnTe薄膜を作製することで上記構造の実現を目指している。今回S面バルク基板ではr面バルク基板に比べてバッファ層の脱離温度が高いことを利用し,成長初期段階であるアニール温度を高温にすることにより成長核のS面選択形成を試みた。また,Zn照射の導入によるバッファ層の脱離抑制も試みた。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることで成長核の観察を行なったところ,高温でのアニール処理かつr面上バッファ層が脱離するタイミングでZn照射を行うことで成長核のS面選択形成が可能になることが明らかとなった。

2-065

成長初期工程のZn照射によるサファイアr,S面ナノファセット基板上の(110)配向ZnTe薄膜の双晶抑制

◎坂本悠哉・小林昇太郎・細井菜々乃・安藤達也・杉本昂大・坪井海人・小林正和（早稲田大学）

テラヘルツ波デバイスへの応用に向け、サファイア基板上に(110)配向のZnTe薄膜の作製を目指し、傾斜角をつけたサファイアr,S面ナノファセット基板上にMBE法を用いてZnTe薄膜を作製した。今回、成長初期工程にZn照射を導入し、基板上に形成された ZnTe 成長核の脱離を抑制しつつ、成長核の終端原子をZnに統一することにより、Sナノファセット面上に形成されたZnTe(111)の双晶抑制を試みた。また、極点図法によりサファイアS面上のZnTe薄膜の配向の種類や程度を評価した。その結果、成長初期工程のZn照射がSナノファセット面上に形成されたZnTe(111)の双晶抑制に有効である可能性が明らかとなった。

2-066

磁性ナノ粒子を添加した高温超電導バルク体の臨界電流密度評価

○山田 博（大島商船高等専門学校）・森重一馬（北陸先端科学技術大学院大学）・和田あかり・竹中杏奈（大島商船高等専門学校）

磁性をもつ2種類のナノ粒子を添加したBi系2223相、及びY系123相バルク高温超電導体を固相焼成法により作製した．液体窒素温度 (77.3 K) における臨界電流密度J_Cは，Bi系2223相高温超電導バルク試料では，NiOナノ粒子を0.05 wt%添加した試料で添加量に対する増大のピークを示し，J_Cは最大で4.2倍に増加した．一方で，Y系123相高温超電導バルク試料においても磁性ナノ粒子の添加によるJ_Cの増加がみられ，Fe₂O₃ナノ粒子を0.1 wt%添加した試料で増加のピークを示し，J_Cは最大で2.5倍に増加した．

2-067

AgGaTe₂薄膜作製におけるAg₂Te中間層の膜質がAgGaTe₂のストイキオメトリに与える影響

◎辻 杏奈（早稲田大学）

我々はAgGaTe₂太陽電池の開発に向けMo電極膜上に近接昇華法によってAgGaTe₂薄膜を作製してきた。過去の研究より第1段階としてMo電極膜上にスパッタ法によってAg₂Te中間層を堆積させ、第2段階目に近接昇華法によってAg₂TeとGa₂Te₃の混合粉末原料を堆積させることによって高品質なAgGaTe₂薄膜が得られることが確認されている。本研究では第1段階目のAg₂Te中間層作製時の放電圧力を制御することでAgGaTe₂からストイキオメトリがずれた副生成物の形成を抑えることを試みた。X線回折θ-2θ法で評価を行った結果Ar圧力5Paで作製した時に副生成物の形成を抑えられることが明らかとなった。

2-068

低抵抗コロナ防止テープのオゾン劣化に関する基礎検討

◎安田拓実・馬渕貴裕（三菱電機）・池田竜志・櫻井孝幸・木崎原智仁・岡本徹志（東芝三菱電機産業システム）

高電圧回転機では、鉄心と固定子コイルとの微小ボイドで発生する部分放電を抑制するため、コイル絶縁材の外層に低抵抗テープを配置している。本研究では、オゾンによる低抵抗テープのカーボン樹脂劣化現象のメカニズムについて調査したので報告する。エアポンプから供給された乾燥空気を一定流速で無声放電式オゾナイザに通過させ、オゾン化空気を試験槽内に流入させた。低抵抗テープをオゾン化空気で劣化させ、テープ抵抗値の経時変化を測定した。高濃度なオゾン曝露によりテープのカーボン樹脂の劣化は促進され、抵抗値の上昇を示した。また、高温雰囲気下においてもカーボン樹脂のオゾン劣化は促進され、抵抗値の上昇を示した。以上の結果から、低抵抗テープのカーボン樹脂は、高濃度なオゾン曝露または高温雰囲気によるオゾン自己分解反応の促進によって、劣化が加速される可能性を明らかにした。

2-069

ナノ粒子塗布法で作製したCZTSSe光吸収層へのNa添加および太陽電池構造の作製

◎竹嶋祐香・禰宜田聖国・小林正和（早稲田大学）

我々は、Cu₂ZnSn(S,Se)₄太陽電池の特性向上を目指している。そのためには光吸収層の結晶性向上が求められるが、CZTS系ではアルカリ金属の添加により結晶粒径が増大し結晶性が向上することが知られている。本研究では、0nm〜50nmのNaF真空蒸着によるNa添加が結晶粒径をどう変化させるのか探査した。主にX線回折を用いて評価を行った。その結果、20nmのNa添加を行った際に最も結晶性が改善されていることが分かった。また、問題としていたNa層の染み出しも抑制できた。しかし、結晶性改善の程度はまだ不十分であり、Naの拡散を促進するためにアニール温度の調節や大気中でのプレアニールを行っていく予定である。

2-070

スクリーン印刷法によるSWCNTショットキーダイオードの試作と特性評価

◎西澤貴史・Kukobat Radovan・田村圭吾・浦上法之・曽根原 誠・佐藤敏郎・金子克美（信州大学）

単層カーボンナノチューブ(SWCNT) は，極めて優れた電気伝導性や熱伝導性，機械的特性を有しており，実用化されれば，過酷環境下で使用できるデバイスや，フレキシブルなセンサ，Siよりも高耐圧な半導体素子などが期待されている．SWCNT一本を用いて作製した半導体デバイスの報告はあるが，いまだ実用化までは至っていない．筆者らは，Zn/Al分散剤を用いて汎用性の高いSWCNTインクを開発し，スクリーン印刷法によりSWCNT薄膜を作製した．この薄膜に不純物ドーピングを行い，n型SWCNTを得た．さらに，Auをショットキーコンタクトに用いて，SWCNTショットキーダイオードを試作した．本報告では，J-V特性の測定結果，および理想係数などの解析結果について述べる．

2-071

ケルビンプローブフォース顕微鏡を用いたフタロシアニン誘導体塗布薄膜の界面物性評価

◎正能拓馬・石裏 遼（大阪大学）・有田 誠（九州大学）・須藤孝一・藤井彰彦・尾﨑雅則（大阪大学）

溶液プロセスによって作製された有機半導体薄膜と電極材料との界面物性の解明のため，安定性に優れたn-Si及びHOPG基板上に分子ステップ・テラス構造を有するアルキルフタロシアニン(C6PcH₂)単結晶塗布薄膜を作製し，ケルビンプローブ顕微鏡を用いて分子層ごとの表面電位を測定した．n-Siとの表面電位差は膜厚と共に増大し，C6PcH₂のフェルミ準位は−4.7 eVと推定された. また，n-Siと等価な仕事関数を示すHOPG基板を用いたところ，同様の表面電位変化を示した．このことから，有機半導体塗布薄膜と電極との界面物性には，有機半導体と電極材料のフェルミ準位差が寄与していることが示唆された．

2-072

PDMS-シリカ複合膜における乾燥過程の形態変化を利用した撥水表面形成

永沼良太・坂本 健・○青木裕介（三重大学）

著者らは、太陽電池受光面やマイクロ流路デバイスあるいは燃料電池用の流路向けの超撥水表面の簡易な作製技術の確立を目指して研究を行っている。超撥水表面の形成法としては、低い表面エネルギー材料で凹凸構造を形成することが知られる。ポリジメチルシロキサン（PDMS）、シリカ、有機溶媒からなる懸濁液を用いたドロップコーティングにおいては、堆積膜の乾燥過程での相分離現象や凝集現象により表面に凹凸構造が形成される。本報告では、PDMSに対して溶解性の異なる有機溶媒を分散媒として用いて堆積膜を作製し、表面構造およびその表面の撥水性について調べた結果を報告する。

2-073

一軸掃引塗布によるπ共役高分子の配向制御：製膜条件と分子配向状態の関係

◎籔内湧太・箕輪 裕・梶井博武（大阪大学）・永野修作（立教大学）・藤井彰彦・尾﨑雅則（大阪大学）

一軸掃引塗布法の一つであるバーコート法を用いて，高度に配向したドナー・アクセプタ型π共役高分子PDPP-DTT薄膜の作製に成功した．配向状態の製膜条件依存性を調べ， 100 μm/s以下の低速製膜では，溶液濃度によって配向方向が変化する特異的な高配向状態が得られることを見出した．低速製膜時には，溶液濃度が1 g/Lのとき製膜方向に平行に高分子主鎖が配向し，溶液濃度が3 g/Lのとき製膜方向に垂直に高分子主鎖が配向した．原子間力顕微鏡により薄膜の表面微細構造を調べ，高分子が薄膜中において棒状の凝集体を形成していることを明らかにした．薄膜の電気的異方性を評価し，薄膜の電気特性向上に対する高分子の配向方向制御の有効性を示した．

2-074

Tuning the Luminescence Intensity by Controlling the Distance Between Gold Quantum Dots and Silver Nanoprisms

○Chutiparn Lertvachirapaiboon・Wataru Sato・Akira Baba・Kazunari Shinbo・Keizo Kato（Niigata University）

The luminescent intensity of gold quantum dots (AuQDs) was controlled by the localized surface plasmon resonance of silver nanoprisms (AgNPrs). Since the quenching effect of this system depended on the distance between AuQDs and AgNPrs, the difference chain lengths of alkanedithiol molecules were used to control the distance between those nanomaterials. The 69% quenching of AuQDs was observed when 1,6-hexanedithiol-functionalized AgNPrs acted as a quencher. When AgNPrs with a longer chain length of alkanedithiol was used as a quencher, the decrease in quenching efficiency was observed.

2-075

パルスレーザアブレーション法による局在表面プラズモン共鳴を担持した基板開発

◎吉野 航・鈴木 薫・松田健一・胡桃 聡（日本大学）

金ナノ微粒子が起こす局在表面プラズモン共鳴は著しい光電場増強を及ぼす事が知られており、これをバイオセンシングや局在表面ラマン分光などへ応用する研究が進められている。 現在、金の局在表面プラズモン共鳴を担持する基板の生成には電子線リソグラフィーを始めとしたナノレベルの高度な材料加工技術を含む多重プロセスが必要とされている。 それに対し、我々はパルスレーザアブレーション法によって1プロセスで直接的に基板へ金ナノ微粒子の生成を行った。本稿では生成した粒子の物性特性について報告する。

2-076

バーコート法を用いた(100)面に高配向したCH₃NH₃PbI₃薄膜の作製と太陽電池特性

◎大泉朋久・村田将司・鶉野弦也・桑原 直・斎藤智樹・藤井彰彦・尾﨑雅則（大阪大学）

大面積で一様に塗布可能なバーコート法によってCH₃NH₃PbI₃（MAPbI₃）の製膜を行った．作製したMAPbI₃薄膜は，添加物を加えることで，表面の均一性が向上し，より高度に配向した結晶から成る．また，結晶方位は(100)面が基板面外方向に配向していた．この薄膜を用いた太陽電池では変換効率の向上が確認できた．

2-077

エレクトロスピニング法における針の最適配置のための電界解析による基礎検討

◎竹中佑太朗・大塚信也（九州工業大学）・臼井 惠（メック）

ナノファイバー繊維の紡糸技術の一つとしてエレクトロスピニング法がある。エレクトロスピニングに針電極を用いる場合、大量紡糸には針本数を増やすことが検討されている。また、安定的にスピニングを行うためには針電極先端の電界制御が重要であることが指摘されている。このような観点から、本研究では針電極本数を変化させて電極間距離を変えた時の電界強度分布を検討した。さらに5本針の場合で先端電界を同一とする手法を検討した結果、各針電極の接地電極との距離を変化させることで先端電界強度を同一とできる配置条件を明らかにした。

2-078

ポリアクリル酸ナトリウムを使用した固体電解質キャパシタの作製と電気化学特性

◎龍 東明・田島大輔（福岡工業大学）・川畑俊彦（BlueForce）

昨今、社会では再生エネルギーを意識しており、様々な蓄電デバイスが注目を浴びている。電気二重層キャパシタもそのうちの一つであり、高速充放電、半永久に使用可能であるものの、エネルギー密度が小さいという欠点がある。本研究では、ポリアクリル酸ナトリウム]を使用したゲル状の固体電解質を使用することで、耐電圧を向上させることについて検討を行った。

2-079

Ni_1-xM_xMoO₄ [M: Mn, Co]の電気化学キャパシタ特性

◎福本 輝・小原 学（明治大学）

NiMoO₄に注目し、Mn及びCo置換が電気化学キャパシタ特性に与える影響を明らかにすることを目的として、実験・検討を行った。 クロノポテンショメトリーによりキャパシタンスを算出した。Mn、Co置換のいずれも置換量の増加に伴い、キャパシタンスは減少した。 また、クロノポテンショメトリーを1サイクル行い、不可逆な反応を取り除いた後、クロノアンペロメトリーを行い各電圧におけるリーク電流を測定した。測定したリーク電流から電位窓0.3～0.4 [V]におけるリーク抵抗を求めたところ、Mn、Co置換において置換量の増加に伴いリーク抵抗は増加した。

2-080

伝送線モデル素子を組み込んだ等価回路を用いたSi系リチウムイオンキャパシタの劣化進行に関するインピーダンス解析

◎江口卓弥・沢田圭一郎・富岡雅弘・熊谷誠治（秋田大学）

本研究では，Si負極にLiイオンが挿入された状態とLiイオンが脱離した状態のリチウムイオンキャパシタ（LIC）に対して電気化学インピーダンス法（EIS）を適用し，固体電解質界面（SEI）膜の抵抗と電極の電荷移動抵抗の関連について調査した。また，Si系LICのサイクル劣化に伴うインピーダンススペクトル変化について伝送線モデルを組み込んだ等価回路を用いて解析した。そして，Si系LICの劣化に対しての当該等価回路を用いたEIS解析の有効性について検討し、Si系LICの劣化進行に対する当該等価回路の有効性を確認できた。Si負極にLiイオンが挿入された状態で，負極のSEI膜の抵抗成分を確認することができた。

2-081

電気二重層キャパシタのサイクル劣化挙動の交流インピーダンス分析

◎金本雄吾・富岡雅弘・熊谷誠治（秋田大学）

電気二重層キャパシタ（EDLC）は電極・電解液界面に形成される電気二重層を利用して蓄電するデバイスである。EDLCは急速充放電が可能，長寿命という特徴がある。そのため，メンテナンスフリーな補助電源として期待されているが，実際は充放電の繰り返しに起因する劣化は避けることができない。したがって，充放電による劣化特性を十分に把握する必要がある。本研究では，EDLCセルに対して高電圧の充放電サイクル試験を実施し，セルを加速的に劣化させた際のインピーダンス特性について調査を行った。その結果，充放電を繰り返すことにより，電極へのイオンの吸脱着が減少しつつ電荷移動抵抗が増加することが分かった。

2-082

水・空気中環境下における水素吸蔵合金の水素放出性能の比較

◎下川潤之介・苗 山・三崎千春・原 大介・片山 昇・堂脇清志（東京理科大学）

水素の貯蔵方法として水素吸蔵合金を利用する際，課題となるのが反応における熱の制御である。本研究では水素吸蔵合金容器の周辺環境が空気の場合と水の場合で水素放出反応に生じる違いについて，実験によって測定した。実験は円筒状のシングルエンド合金容器に水素吸蔵合金LmNi_4.73Mn_0.12Al_0.15を充填し行った。合金に吸収させた約80NLの水素を大気圧で放出させたときの，放出流量と容器内9点の温度を測定した。実験の結果水中での放出は空気中と比較して約2倍の放出性能を持つことが分かり，その要因が容器外部から容器への熱の伝わりやすさの差であることが確認できた。この結果は伝熱の数値シミュレーションのパラメータとして利用することができると考える。

2-083

タンパク質溶液の電位分布測定

◎草野清重・豊島 晋（福島工業高等専門学校）

現在、タンパク質を解析する研究が行われている。解析にはタンパク質の結晶が必要であるが結晶を作ること自体が難しい。そのためタンパク質の結晶化技術について研究が行われており、電場印加法という手法が存在する。本研究では電場印加法における結晶核形成の因子を明らかにするため、結晶化で用いられるタンパク質溶液で電位分布の測定を行った。  結果として、結晶化で用いられるタンパク質溶液の電位分布は、電極近傍の48μmの領域に大きな電位の変化があることが確認できた。よって、結晶化セル内部でも電極と溶液の界面近傍に大きな電位変化が生じていることが推測でき、結晶化を促す要因になっている可能性が考えられる。