一般講演

5-001

電動注湯鋳造システムを想定したクローポール鉄心フラックストランスバース形三相電磁ポンプの実機検証

○青山真大（静岡大学）・小堀幸伸（ヤマハモータエンジニアリング）・西村浩治（ヤマハ発動機）

本稿では鋳造システム向けのアルミ溶湯揚程用電磁ポンプの高揚程性能化を実現する新しい磁気回路の提案と実機検証結果の報告を行う。今日、アニュラリニア誘導形が主流であるが、軸長が長くヘッドシリンダが大型、ポンプ下部の負圧で溶湯溶存水素が蒸発してピンホールが発生しやすいという課題がある。それらの課題に鑑みて、高電磁力を実現する磁気回路トポロジーによる小型化・高揚程性能化を検討した。クローポールによって意図的にギャップ磁束の空間分布に高調波磁束を発生させ、導電性液体内に渦電流を誘導しやすい磁気回路とする点に特長を有する。小型試作機を製作し、アルミパイプ揚程代替実験によって、従来よりも電磁力を約2倍向上させながら、外径28%縮小、軸長13%短縮、重量3kg軽量化を実現した。

5-002

LCラダー回路上で励起される磁気ソリトンによる回転磁界の生成

◎加藤雅之（茨城大学）・Sanggook Lee・平田勝弘（大阪大学）

非線形素子で構成されるLCラダー回路において磁気ソリトン（電流の波）が回路中を一定速度で移動することが知られている。これは一種の回転磁界と解釈でき、一般的な回転磁界の生成法（PWMインバータ）に比べて、スイッチング素子や制御系の簡素化が期待できる。本稿では、キャパシタと非線形なインダクタから構成されるLCラダー回路上で生成される磁気ソリトンについて述べる。永久磁石により磁気回路の動作点をバイアスさせることでインダクタンスが電流の指数関数となるインダクタを提案する。このインダクタを適用したLCラダー回路の回路方程式を数値的に解き、磁気ソリトンがあたかも回転磁界のように一定速度で運動することを明らかにする。

5-003

ギヤシフト用リニアアクチュエータの特性検証

◎阪本脩斗・部矢 明・新口 昇・平田勝弘（大阪大学）・栗田峰生（アイシン精機）

従来のマニュアルトランスミッションでは、ボールねじを用いてスリーブを左右に直線運動させ、ギヤを切り替えている。このスリーブをダイレクトドライブ可能なリニアアクチュエータで操作することにより、応答性の向上や摩耗による劣化を防止することができる。そこで原点位置を安定点として3点で保持可能なギヤシフト用リニアアクチュエータを提案する。 本稿では、3次元有限要素法を用いた磁場解析により、提案アクチュエータの推力特性・インダクタンス特性・鎖交磁束特性を明らかにする。そして、提案する構造・動作原理により3点保持と駆動が可能であることを示す。

5-004

空間充填可能な多角形断面を有する磁気ねじの静特性解析

◎藤木宥江・酒井昌彦（神戸市立工業高等専門学校）

磁気ねじとは、磁力を用いて非接触で動力伝達を行う送りねじ機構の一つであり、これに回転型モータを組み合わせることで、柔軟かつ堅牢なアクチュエータとして利用できる。このアクチュエータを並列駆動させると、冗長性の確保や可変磁気ばね特性の実現が可能になるが、円筒形状であるため並列配置時に空間充填率が低くなるという問題点がある。 そこで本研究では、空間充填を可能にする非円筒型磁気ねじについて検討し、3D-FEMによる磁気解析を用いて評価を行った。結果、非円筒型磁気ねじを最密充填した際の推力密度は、従来構造に比べ最大で39%の向上することが確認できた。

5-005

高精度粒子法を用いたボンド磁石の射出成形プロセス連成解析

◎北村塔也・平田勝弘・宮坂史和・西田圭佑（大阪大学）・山本 哲・伊藤正敏・川添政宜（ダイキン工業）

磁石材料と樹脂を混ぜ合わせて成形したボンド磁石は，小型・複雑形状に成形できる利点があるが，成形品の密度や磁気特性にばらつきが生じる欠点がある．その原因として，射出成形プロセスの挙動の把握を困難であることが挙げられる．そこで，数値解析によるボンド磁石の成形プロセスシミュレーションを行い，成形過程における支配的なパラメータを明らかにすることが重要だと考えられる．過去の解析事例では射出速度が遅くなるほど，磁石に引き付けられながら溶融樹脂が充填されていくため，先端部分の粒子数密度が高くなり，その結果計算が破綻するという問題が生じた．そこで本報告では，従来の手法に粒子数密度の安定性を向上させた誤差補正生成項を導入し，温度解析および磁界解析との連成解析が必要となる計算条件下において，従来との比較を行い粒子数密度の安定性を明らかにする．

5-006

磁気浮上ロボットの低消費電力化を実現する磁気車輪の開発に向けた特性調査

◎埴村紀至・中村勇太・中村壮亮（法政大学）

LSI等の製造を全自動化するため，クリーンルーム内における搬送装置の開発はかねてより行われており，磁気浮上ロボットは低発塵という点で優れている．磁気浮上ロボットの低消費電力化を目的とし，磁気車輪を回転させたときの特性を調査する．電力効率（N/W）に注目して評価をし，磁気浮上ロボットの低電力化を実現する磁気車輪の設計論について述べる．解析には電磁界解析ソフトウェアJMAGを用いる．調査の結果，磁気浮上ロボットの低消費電力化は，要求仕様として与えられる浮上力の制御範囲とgap長に合わせて適切な大きさの永久磁石を選択したのち，電力効率が最大化する半径に配置することで実現できると考えられる．

5-007

消費電力の低減を可能とする電磁コイル型磁気浮上に関する基礎特性の調査

◎髙山直都・中村勇太・埴村紀至・岡本吉史・中村壮亮（法政大学）

磁気浮上技術は物体を非接触で搬送することができる為，車輪を用いた搬送装置に比べて低発塵性に優れる．そのためLSIの製造ラインなどの工業の分野における応用も期待されている．筆者らは反発型磁気浮上の中でも設置コストの低減が見込める磁気車輪回転型磁気浮上に注目をした．本稿では，磁気車輪回転型磁気浮上における電力損失・騒音・発塵といった問題を解決する新たな方法として，磁気車輪を電磁コイルに置き換えた磁気浮上方式を提案し，単一コイルでの浮上特性について電磁界解析ソフトウェアであるJMAGを用いて解析した結果を報告する．

5-008

電磁吸引方式と誘導反発方式を兼ねた双方向磁気支持の面積変化による特性検証

◎藤田 僚・鳥居 粛（東京都市大学）

非接触搬送方式として，常電導電磁石と強磁性体との間に働く吸引力を利用する電磁吸引方式(EMS)と，渦電流による磁束で反発し浮上する誘導反発方式(EDS)がある。本研究ではこの2つの方式を1つのE字型交流電磁石で実現した磁気支持方式の特性を，有限要素解析を用いて検証した。低周波域ではEMSの原理で吸引し，鉄板の面積は磁路の磁気抵抗に影響し吸引力が変化した。高周波域では表皮効果によってEDSの原理で反発し，渦電流を流れるアルミニウム板の面積は渦電流路に影響し反発力が変化した。

5-009

反磁性体を用いた完全受動型ベアリングレスSPMモータの提案

◎大澤圭輝・藤井勇介・千葉 明（東京工業大学）

ベアリングレスモータは，回転子を電磁力で支持することで，非接触で回転させることができるモータであり，無摩擦、無摩耗などの利点を持つが，回転子の能動制御にはインバータやセンサが必要で消費電力の増加や大型化につながる。永久磁石のみを用いた場合，能動制御自由度を0にはできないが，反磁性体を用いることによって完全受動型磁気浮上モータが実現されている。ただし，その中で27rpsを超えるものは報告されていない。本研究では，より高速回転を実現するために先行研究で製作されたリングハルバッハ配列永久磁石と反磁性体円板を用いた磁気軸受を使用した完全受動型磁気浮上コアレスモータを提案し，磁気軸受の発生させる浮上力，モータのトルク解析を行った。

5-010

Experimental Validation of Passive Electrodynamic Axial Force on a Bearingless Motor

◎カヴァルカンテルビオギリェルメ・藤井勇介・千葉 明（東京工業大学）

This paper presents experimental results of a proposed bearingless motor with passive axial electrodynamic suspension. During the experiment, the axial electrodynamic force on the stator was measured at constant rotational speed and constant axial displacement. Experimental results were compared to finite element analysis and a theoretical equation.

5-011

突極形反磁性体回転子を用いた5軸受動安定形ベアリングレスモータのトルク発生原理および理論計算

◎橋本琢朗・杉元紘也（東京電機大学）

ベアリングレスモータは磁気軸受と電動機の機能が磁気的に一体化されたモータであり，非接触で回転軸を磁気支持すると同時に，トルクを発生させることができるため，無摩擦，長寿命，高効率などの特長がある。一方，現状は回転軸を磁気支持するために電力が必要であるため，磁気支持電力の低減が課題の一つである。磁気支持に電力を必要としない方式の一つに，反磁性体を用いた磁気浮上が提案されている。 本稿では，提案構造の突極形の反磁性グラファイト板回転子とアキシャルギャップ形固定子を用いて，電磁力により回転トルクを発生させるベアリングレスモータのトルク発生原理について明らかにし，トルクの理論計算法を提案する。

5-012

Development of Transcutaneous Signal Transmission Technology for Artificial Heart

◎倉井駿也・栗田伸幸（群馬大学）

We developed a wireless signal transfer system of a rotary encoder and a position sensor for an artificial heart to reduce the wire’s diameter, which penetrates the human skin. We have developed a digital signal transfer device to transfer the rotary encoder signal, consisting of a microcomputer and a Raspberry Pi, and an analog transfer device to communicate the position sensor signal, consisting of an AD converter, a DA converter, and two Raspberry Pi. Both signals were wirelessly transmitted using Wi-Fi. The resulting transfer time of the digital and analog signal transfer systems was 3.4 ms and 50.2 ms.

5-013

Acoustic Noise Reduction by Bearingless Drive at No-Load Test

○Theeraphong Srichiangsa（東京工業大学）・杉元紘也（東京電機大学）・千葉 明（東京工業大学）

This paper presents the experimental verification of the acoustic noise reduction by the proposed bearingless motor drive compared with a ball bearing supported motor drive at no-load test. In the experiment, the acoustic noises of both motors are measured with respect to the rotational speed of 1000 to 19000 r/min. It was confirmed that the measured acoustic noise of the proposed bearingless motor is significantly lower than that of the ball bearing supported motor at every rotational speed. Moreover, it was found that there is 16.5 dB maximum acoustic noise reduction at the rotational speed of 11 000 r/min.

5-014

モータ巻線並列形コンシクエントポールベアリングレスモータの静止浮上試験

◎野口孝浩（東京工業大学）・杉元紘也（東京電機大学）・藤井勇介・千葉 明（東京工業大学）

本稿では，20極24スロットのモータ巻線並列形コンシクエントポールベアリングレスモータにおいて，空気領域メッシュの解析条件と磁気支持力の関係を明らかにする。空気領域を十分に設けない場合と十分に確保した場合の解析結果を比較し，スタートアップに必要な電流値の相違点を示す。また，製作した試作機を用いて，磁気支持電流の最大値を3.6 A，7.0 Aとした時の静止浮上試験時の変位と電流波形を示し，スタートアップに必要な電流を実験によって明らかにする。さらに，z軸方向の空気領域を十分に確保することで，漏れ磁束を考慮して解析することができ，磁気支持力の解析値が実験に近い値となることを明らかにする。

5-015

ホモポーラ・コンシクエントポール形ベアリングレスモータにおける回転子ヨーク幅と半径方向磁気支持力の関係

◎寺嶋 雅・杉元紘也（東京電機大学）

ベアリングレスモータは磁気軸受と電動機が磁気的に一体化しており，電磁力により回転子を磁気支持しながらトルクを発生させることができる。 半径方向x及びyを能動的に磁気支持制御する2軸制御ベアリングレスモータは，ポンプ，コンプレッサ，回転ステージ，撹拌機などの産業応用に向けた研究開発が行われている。 本稿では，3D-FEM解析にてホモポーラ・コンシクエントポール形ベアリングレスモータの半径方向の磁気支持力が最大となる回転子ヨーク幅を明らかにする。

5-016

反磁性体グラファイト板回転子とデュアルステータを持つ5軸受動安定形アキシャルギャップベアリングレスモータの磁気浮上力の計算

◎森 光正・杉元紘也（東京電機大学）

ベアリングレスモータは磁気軸受と電動機の機能が磁気的に一体化されたモータであり，非接触で回転軸を磁気支持しながらトルクを発生させることが可能で，従来のボールベアリング付きモータと比較して，高効率，メンテナンスフリー，長寿命である。現状のベアリングレスモータは，回転軸を磁気支持するため変位センサを取り付け，そのフィードバック信号を用いて支持巻線に流す電流を能動的に制御しなければならない。能動的な磁気支持制御を必要とせず，磁気支持で電力が不要なベアリングレスモータの研究が行われている。本稿ではデュアルステータ形のアキシャルギャップ構造を提案し，3D-FEM磁界解析と数式を用いて磁気浮上力の計算結果を示す。

5-017

異形断面平角線を用いた集中巻構造の高出力密度IPMSMの検討と実験（その1）-実験的検証-

○竹本真紹（岡山大学）・梶井伸之介・小笠原悟司・折川幸司（北海道大学）・軸丸武弘・鈴木史典（IHI）

近年，環境意識への高まりによって，航空機業界に対し，環境負荷低減が求められている。このような状況の中，航空機の電動化に関する研究が盛んに行われており，小型高出力密度化が実現可能なIPMSMが注目されている。 そこで，集中巻構造を用いた小型高出力密度IPMSMの検討を行った。小型高出力密度化のために，異形断面を持つ平角線を適用した体積0.78 Lの小型モータを提案し，電磁場および熱解析によって，回転子と固定子に加えて巻線の形状について詳細に検討した。そして，検討結果に基づいて製作した小型モータが回転数15000 rpmにおいて，出力密度26.0 kW/Lの高出力密度で連続運転が可能であることを実機試験により検証したので報告する。

5-018

異形断面平角線を用いた集中巻構造の高出力密度IPMSMの検討と実験（その2）-非対称固定子先端の検討-

◎梶井伸之介（北海道大学）・竹本真紹（岡山大学）・小笠原悟司・折川幸司（北海道大学）・軸丸武弘・鈴木史典（IHI）

近年，航空機の電動化に関する研究が盛んに行われており，小型高出力密度化が実現可能なIPMSMが注目されている。 小型高出力化のために，異形断面平角線を用いた集中巻IPMSMを設計し，実機試験により，期待する性能を有することを「その1」において確認した。 「その1」では，モータ損失の多くを占める平角線での渦電流損を低減するために，逆円弧形状の固定子歯部先端を取り入れた。一方，一般的な円弧先端と比較して，逆円弧先端はトルクが低下する欠点がある。これらの特徴を踏まえ，左右の固定子つばの先端形状が異なる非対称先端形状の導入により，巻線損失の抑制とトルク向上の両立が可能であることを2D-FEM解析により明らかにしたので報告する。

5-019

集中巻固定子を用いた4極，100,000 rpm超高速PMモータの実機運転特性

◎飯田貴之（北海道大学）・竹本真紹（岡山大学）・小笠原悟司・折川幸司（北海道大学）・佐藤以久也・國分博之・鳥羽章夫・首藤雅夫（富士電機）

超高速PMモータでは，インバータの駆動周波数が高くなるため，一般的には2極機が採用される。しかし，近年，次世代パワー半導体の登場によって，より高周波でのモータ駆動が可能となってきており，超高速PMモータを4極化することで，更なる高出力密度化を図ることは有効であると考えられるが，モータ内部の損失が大幅に増加してしまう。そこで，筆者らは，4極化によって増加する損失を4つの工夫を施すことで抑制し，強制空冷環境下で連続運転可能な4極，100,000 rpmの超高速モータを提案した。本稿では，提案する超高速PMモータの試作機を用いて幅広い運転範囲で実負荷試験を行ったので，その詳細な運転特性を報告する。

5-020

電機子巻線に並列素線が用いられた永久磁石同期機における損失低減に関する検討

山崎克巳・◎波良駿希（千葉工業大学）・大口英樹（東海大学）・今森 聡・首藤雅夫（富士電機）

本稿では，スロット形状や巻線構成を変更することによる永久磁石同期機の損失低減について検討する。

5-021

分布巻埋込磁石同期電動機の固定子ティース先端形状最適化に関する検討

山崎克巳・◎植松大我（千葉工業大学）・田中章博・仲田 徹（日産自動車）

本稿では，過去に提案した分布巻IPMSMをベースとして，これまで分布巻電動機では行っていなかった固定子ティース先端部の形状最適化を実施し，さらなる特性改善について検討する。

5-022

高速ロータが磁気浮上する磁気ギアードモータにおける支持力と構造の関係の調査

◎熊代 明・千葉 明（東京工業大学）・Wolfgang Gruber・Wolfgang Amrhein（Johannes Kepler University Linz）・Gerald Jungmayr（Linz Center of Mechatronics GmbH）

近年，小型かつ高トルクのモータの需要が増加しており，磁気ギアードモータなどの様々な新しいモータが提案されている．しかしながら，磁気ギアードモータは構造が複雑であることから，製造誤差により特性の悪化や振動が発生するといった問題が存在する．そこでこれらの問題を解決するために筆者らは高速ロータを磁気支持した磁気ギアードモータを提案した．しかし提案モータの解析結果は大きな支持力の変動を示し，制御が難しいと予想される．そこで本稿では高速ロータを磁気浮上させた磁気ギアードモータについて，支持力と構造の関係性を調査したので，報告する．

5-023

零相電流重畳によるIPMモータの6次ラジアル力低減

◎藤井勇介・Wang Leping・千葉 明（東京工業大学）・朝間淳一（静岡大学）

IPMモータの電磁加振力に起因した振動騒音が問題となっている。電磁加振力の半径方向成分であるラジアル力が，固定子の円環0次モードの固有振動数と一致する時に大きな振動騒音が発生する。上記問題に対し，dq軸高調波電流重畳によるラジアル力低減が行われ，ラジアル力低減に成功したとの報告がある。しかし，トルクリプル増加などのモータ性能の低下が懸念される。本稿では，零相電流重畳によるIPMモータの6次ラジアル力低減法を提案する。具体的には，モータ電気角周波数の3倍である3次零相電流を重畳する。提案手法は，モータ性能を低下させることなくラジアル力を低減可能であることを，有限要素法解析により明らかにする。

5-024

エアコン用集中巻IPMSMの半径方向力低減を目的としたステータ構造の検討

◎松田 翼・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

近年，さらなる小型・高効率化の実現のために検討されている集中巻IPMSMでは，磁束集中によりロータとステータ極間に発生する半径方向力を起因とする振動・騒音が問題となっている。筆者らはこれまでにロータに5つあるいは6つのホールを設けることで半径方向力・トルクリプルを低減できることを示した。そこではステータにホールを設けた時の諸特性への影響について検討していないため，検討が必要と考えられる。本報告では，エアコン用集中巻IPMSMの半径方向力低減を目的として，ステータティースに設けたホールが諸特性に及ぼす影響についてホールの位置を変更して検討を行っている。

5-025

小型高速化IPMSMの減磁改善設計によるモータ特性への影響

◎柏原ひとみ・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

EV, HEV駆動用モータは小型で高出力，高効率であることが求められており，筆者らはこれまでに低鉄損材料と強磁力磁石を適用して性能を改善した小型高速化IPMSMを検討してきた。しかし本モータで使用している強磁力磁石は開発目標の性能を仮定した磁石であり，保磁力が目標値よりも低い磁石となることが考えられるためその場合を想定する必要がある。そこで本論文では，強磁力磁石における保磁力が十分でない場合の小型高速化IPMSMの減磁改善構造の設計指針を得ることを目的として，磁石厚さおよびフラックスバリア先端幅の減磁改善効果およびそれに伴うモータ特性への影響について検討している。

5-026

永久磁石同期機における面内渦電流損の機械的寸法の影響に関する研究

◎平山武尚・川上光太朗・大口英樹（東海大学）

漂游負荷損の1つであるある鉄心端部で発生する面内渦電流損を定格出力5.2 kWと52 kW、104 kWのそれぞれ機械的寸法の異なる3つの永久磁石同期機で比較し、機械的寸法が面内渦電流損へ与える影響を明らかにする。面内渦電流損を解析するにあたり、正弦波電流とPWMインバータ駆動のシミュレーション電流を通電した際の三次元解析を行った。結果、同一機械においては、正弦波電流の面内渦電流損より、PWMインバータ駆動の方が大きくなることが明らかになった。また、出力が大きくなると面内渦電流損は定格出力比よりも大きくなることが明らかになった。面内渦電流損の増加する割合につき、機械的寸法と表皮厚さが影響すると考えられる。

5-027

アキシャルギャップ型永久磁石同期モータの高効率化および薄型化の検討

◎天野雄晴・祖田直也（茨城大学）・堀江直輝（日本ピストンリング）

電気自動車にはモータの高効率化や車載スペースの制限といった課題がある。車載スペースの対応策としてモータの薄型化が挙げられる。そこで、薄型化に有効なアキシャルギャップ型永久磁石同期モータに着目した。アキシャルギャップ型モータの鉄心には形状の設計自由度が高い圧粉鉄心を採用している。圧粉鉄心は渦電流損を抑えることが出来るため高回転数および高周波励磁に有効であるため，極数およびスロット数の増加で高出力化および高効率化が可能であると考えた。本研究では，基準のモータモデルに対して極数およびスロット数を増やすことで高出力化・高効率化・薄型化の実現を検討した。

5-028

静的偏心した永久磁石同期モータのギャップ磁束密度の理論式の高精度化

◎伊藤史晃・竹内活徳・小番拓也・松下真琴（東芝インフラシステムズ）

モータの振動・騒音悪化の原因の一つとして回転子の偏心が挙げられる。回転子の偏心は，ギャップ磁束密度の側帯波を誘起し，付加的な電磁力モードが生じる。これまでの検討で，回転子の偏心に起因するギャップパーミアンスの変化のみを考慮したギャップ磁束密度の式が定式化されている。しかし，側帯波の振幅を算出するには精度が不十分であった。そのため，偏心を考慮したフルモデルでの磁界解析を行い，側帯波を評価する必要があった。 本研究では，回転子が偏心したPMSMのギャップ磁束密度を簡易，且つ高精度に算出できる理論式を検討した。 回転子偏心に起因して，下記の効果(1)～効果(3)が生じると仮定してギャップ磁束密度を定式化した。 効果(1)：ギャップパーミアンスが変化すること。 効果(2)：ギャップ部の起磁力が変化すること。 効果(3)：ギャップ磁束密度分布の空間次数変調が生じること。 効果(1)～効果(3)を考慮したギャップ磁束密度の理論式から算出した磁束密度が，磁界解析で算出した磁束密度とよく一致したことから，精度が高いことを確かめることができた。 本理論式を用いることで，偏心量が異なる条件毎のギャップ磁束密度を，磁界解析よりも簡易に計算できるようになった。

5-029

Measurement of Electromagnetic Radial Force of a Swirling Actuator with SPM Structure

◎Lingyu Chen・千葉 明（東京工業大学）

The swirling actuator is a low-speed high-torque actuator that is driven by electromagnetic radial force. This paper introduces the radial force measurement of a swirling actuator with SPM structure. The measured results show good agreement with the 3D Finite Element Analysis (FEA) results. This indicates that the radial force is generated as expected in the swirling actuator.

5-030

Radial Force Sum Harmonic Reduction by Harmonic current Injection in IPM Motor

◎王 楽平・藤井勇介・千葉 明（東京工業大学）

High order harmonic current is used to reduce the radial force sum harmonic. The harmonics of the radial force sum can cause severe noise when they hit the mode 0 natural frequency of the stator. With the proposed method, the radial force sum harmonic is reduced efficiently by harmonic in iq current as small as 1.71% of the DC component. The Back EMF of the proposed method is also checked to verify the feasibility.

5-031

空間高調波を利用した受動可変界磁PMモータへのLC共振利用による可変速特性の拡大

◎熊井 巧・青山真大（静岡大学）

本稿は，空間高調波を利用した受動可変界磁PMモータの更なる性能向上を企図する内容である。先行研究から自励による電磁石起磁力と磁石起磁力のバランス設計指針が明らかになったので，本稿では低速域性能向上を目的に，ロータ巻線整流回路にLC共振を適用して最適化を行う。電磁界解析にて各起磁力のバランス設計と共振回路の最適化を行った。その結果，ロータ巻線整流回路の起電力を得るコイルにコンデンサを並列接続することで，Ψm≒LdIam の関係を受動的に実現でき，新たな可変界磁技術の可能性を示した。

5-032

ワイドエアギャップ構造と不均一巻線を併用した超低トルクリプルPMモータの検討

◎松浦皓平・野口季彦（静岡大学）

精密ロボットの駆動に使われるモータでは，要求仕様を満たす平均トルク出力と同時に0.1 %未満の超低トルクリプルが求められる。従来は低コギングトルクと低トルクリプルを実現しやすいスロットレスモータが用いられてきたが，複雑な構造とコストがかかるという問題がある。そのため，インナースロットをもち高トルク密度かつ低トルクリプルを両立する永久磁石（PM）モータの開発が求められている。本稿ではワイドエアギャップと不均一巻線を併用し，集中巻でありながら高トルク密度と超低トルクリプルを実現するPMモータを検討したので報告する。

5-033

透磁率変調に基づく可変界磁IPMモータの無負荷特性

◎Kiyohiro Iwama・Toshihiko Noguchi（静岡大学）

近年，運転領域の拡大を目的とした可変界磁永久磁石（PM）モータの研究が盛んに行われている。そこで筆者らは磁性材料の磁気飽和現象に着目し，可変界磁に応用する新しい手法を提案してきた。さらに，磁気飽和現象を引き起こすための磁束（変調磁束）の起磁力源として，三相4線式インバータで制御可能な0軸電流を利用する駆動方式を提案した。これら可変界磁の手法と駆動方式を併用することで，1台のインバータで電機子および界磁の独立制御が可能となる。本稿では提案する手法を施したモータの実機を試作し，無負荷誘起電圧測定試験により提案法の妥当性を検証したので報告する。

5-034

永久磁石モータの2段ダミースロット構造に対する磁気回路モデルの検討

◎中村雄一朗・坂本裕介・十時詠吾・山口信一（三菱電機）

近年、FA機器を駆動するサーボモータは、駆動装置の小型化・高精度化に伴い、小型化と低トルク脈動化の要求が高まっている。小型化には、ステータとロータの間の空隙長短縮が有効であるが、コギングトルクが増大する。従来、コギングトルク低減の手法として、ステータのダミースロット構造や、これを応用した2段ダミースロット構造が報告されている。本論文では、2段ダミースロットの有限要素解析（以下、FEA）の設計パラメータ数削減に有効な、磁気回路モデル（以下、MCM）について述べる。

5-035

ハイブリッド界磁形IPMモータの基礎検討

◎鈴木寛隆・井出隆二・大内康司・佐橋俊介・大口英樹（東海大学）

近年，自動車用PMモータの高効率化を実現するためモータ内の磁束を調整できる可変磁束モータの研究が進められている。可変磁束モータの1つであるハイブリッド界磁形同期機は，永久磁石と直流界磁巻線により界磁磁束を得ることができモータ運転中に電機子鎖交磁束を調整可能となる利点がある。そこで，電気学会調査専門委員会のベンチマークモデルであるDモデルモータをベースにしたハイブリッド界磁形IPMモータの回転子の永久磁石を一層配置と二層配置とした解析モデルを構築し基礎検討を行った。結果，永久磁石を二層配置にしたハイブリッド界磁形IPMモータのトルクは，ベースとしたDモデルモータと同等となることが明らかとなった。

5-036

自己始動形永久磁石同期モータの一始動法：構造の提案と原理検証

○津田敏宏・加藤史也（金沢工業大学）

本研究では，自己始動形永久磁石同期モータ(LS-PMSM)の構造をより簡単化するため，かご形導体無しでの自己始動が実現できるモータ構造を提案した。提案機の固定子巻線は，P極及び2P極の二重巻線で構成し，回転子は鉄部と永久磁石(PM)を交互に配置したコンシクエント極とする。これにより，起動時はP極巻線と磁気突極性を持つ回転子の間で誘導機トルクが発生し，PMロータでありながら始動トルクが得られる。本稿では，この動作を2次元有限要素解析(2-D FEA)により明らかにした結果を示す。

5-037

自己始動形永久磁石同期モータの一始動法：回転子形状が始動トルクに与える影響

◎加藤史也・津田敏宏（金沢工業大学）

自己始動永久磁石同期モータ(LSPMSM)は，回転子内部にかご形導体と永久磁石(PM)を設けており，インバータを用いずに自己始動できる。同期速度に到達した後は永久磁石同期モータとして動作するため，高い力率・効率が得られる。しかし，LSPMSMの始動時にはPMによるブレーキトルクが発生するため，始動トルクは従来の誘導機と比べると小さい。著者らは，LSPMSMの一始動法としてゲルゲス現象に似た原理を応用し，かご形導体がなくとも始動トルクが得られることを二次元有限要素解析で明らかにした。本研究では，提案したLSPMSMにおける回転子形状が始動トルクに及ぼす影響について明らかにした。その結果，PMが作る空隙磁束密度分布の高調波成分を抑制することで始動トルクを大きくできることを示した。

5-038

可変磁力メモリーモータにおける二層構造による着磁電流の対称性の実現と実験的検証

◎綱田 錬（北海道大学）・竹本真紹（岡山大学）・小笠原悟司・折川幸司（北海道大学）

永久磁石同期モータは様々な用途に使用されているが，近年，パルス電流を入力し磁石の磁化状態を変更することで更なる高効率化を実現できる可能性があるとして，可変磁力メモリーモータ(VFMM)が注目されている。一方で，従来のVFMMには磁石の磁化状態を変えるための正負の着磁電流の大きさが異なり，非対称になっているという課題がある。その結果，正負の大きい方の着磁電流に合わせたインバータが必要となり，インバータの容量が大きくなってしまう。 そこで本稿では，常に一定の磁化状態である固定磁束磁石を二層構造にすることにで着磁電流の非対称性を改善した。提案モータの試作機を用いて，正負の着磁電流の対称性を実証するとともに，想定する可変界磁特性が得られていることを確認したので，報告する。

5-039

複合鉄心によるPMモータの低鉄損化

◎味八木萌音・佐藤輝一・内山 翔・沖津隆志（明電舎）

近年，エネルギー効率・環境問題の観点からモータ効率の改善が重要視されている。鉄心に用いる磁性材料も種々高性能化開発が行われ，モータへの適用検討が進められており，また磁気特性の応力依存性についても多くの報告がされている。本稿では，低損失で注目されているアモルファス金属のリング試料を用いて，加工時の残留応力および圧縮応力による磁気特性への影響を確認した。そして，アモルファス金属と電磁鋼板を併用した複合鉄心を考案し，リング試料により得られた磁気特性を用いて磁界解析を行い，複合鉄心方式のモータ特性および実用運転域での損失低減の有効性を確認した。

5-040

新規Si傾斜磁性材料を適用したIPMモータの数値解析

○財前善彰・千田邦浩・尾田善彦・吉崎聡一郎・大久保智幸・宮本幸乃（JFEスチール）

近年，電気機器の小型・高効率化の観点から高周波化が進展しており、コア材料として使用される電磁鋼板には高周波鉄損に優れた材料が求められている。一方、モータの高出力化の観点から高磁束密度化の要求も強くなっており，モータの高出力化・高効率化の両立を図るためには，高周波鉄損と高磁束密度を両立した材料が必要となる。そこで，板厚方向のSi濃度分布制御、および結晶方位制御によって，高周波低鉄損と高磁束密度を両立した新規Si傾斜磁性材料（JNRF）を開発した。本報告では，高磁束密度・高周波低鉄損特性を有する新規Si傾斜磁性材料（JNRF）をIPMモータに適用した場合のモータ特性解析結果について報告する。

5-041

Si傾斜磁性材料を使用した焼き嵌めIPMモータの広域効率評価

◎吉﨑聡一郎・千田邦浩・財前善彰・尾田善彦（JFEスチール）

モータ高効率化のためモータ鉄損の改善が要求されている。モータ鉄損の改善には、低鉄損な無方向性電磁鋼板の使用と共に、焼き嵌めなどのモータ製造工程が鉄損に及ぼす影響の理解と改善技術も必要である。本報告では、圧縮応力付与による鉄損増大が小さいSi傾斜磁性材料と一般の無方向性電磁鋼板を用い、焼き嵌め有り無し条件でIPMモータを製作し効率マップを実測評価した。焼き嵌めによるモータ効率の低下は、広い駆動領域において、一般の無方向性電磁鋼板で0.5ポイント程度以上、Si傾斜磁性材料で0.25ポイント程度以下であった。以上から、焼き嵌め構造モータで高効率が求められる場合にSi傾斜磁性材料が有効な鉄心材料であることが確認された。

5-042

低鉄損で高磁束密度特性を有する無方向性電磁鋼板が誘導機の性能に及ぼす効果

○上川畑正仁・市江 毅・松井伸一・村上史展（日本製鉄）

日本製鉄では、誘導機の効率改善に寄与する材料として新しい高磁束密度-低鉄損無方向性電磁鋼板を開発した。本報では、開発材を誘導機に適用評価し、鉄損同等の従来JISグレード比較材に対する効率改善効果を実験的に評価した結果について述べる。

5-043

圧粉鉄心を用いたFSPMMにおける効率改善のための構造の検討

◎宮本尚輝・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

モータ鉄心材料には主に電磁鋼板が用いられるが，新たな材料として圧粉鉄心が注目されている。圧粉鉄心は電磁鋼板と比べて渦電流損は小さいが，ヒステリシス損は大きい。したがって，圧粉鉄心を用いたモータの効率向上にはヒステリシス損の低減が必要だと考えられる。筆者らはこれまでに，永久磁石型フラックススイッチングモータ（FSPMM）において，ステータ内のほぼ全域において磁束密度がユニポーラ変化し，ヒステリシス損の低減効果が得られる構造を提案した。 本報告ではステータ内のヒステリシス損の低減効果を維持しつつ，トルクの改善が可能なFSPMMの磁石配置を提案し，モータ特性および損失を先行研究モデルと比較し，効率改善に適した磁石配置を検討している。

5-044

純鉄系細線を適用したアキシャルギャップモータ試作と特性評価

◎松本拓也・森田晋也・笠井信吾（神戸製鋼所）

純鉄系軟磁性材料は磁束密度が高いことから、ソレノイド部品などの直流用途で広く用いられている。一方、モータのような高周波・交流用途では、材料の電気抵抗率が小さく渦電流損が大きいため不向きとされている。そこで筆者らは、磁性材断面を小さくして渦電流経路を短くすることにより損失低減が可能であることに着目、細線を束ねて固定子コアとするアキシャルギャップモータ（AGM）を考案・試作検証した。本稿では、固定子コアに純鉄系細線束を用いたAGMの構造や特性評価試験の結果について報告する。

5-045

磁性線材と磁性薄帯を適用したシングルステータダブルアキシャルギャップPMモータの検討

◎宇佐美和明・野口季彦（静岡大学）

筆者らはシングルステータダブルアキシャルギャップPMモータのコア材料と構造について検討してきた。このようなモータは磁路が三次元となるため，一般的に磁性材料としてSMC（Soft Magnetic Composite）が用いられている。しかし，SMCは電気絶縁被覆を施した磁性鉄粉の製造に高度な技術を必要とするため，一般に高価でコア製造時に大型プレス機も必要とする。そこで，シングルステータダブルアキシャルギャップPMモータのステータ内磁束が軸方向に交番することとロータ内の磁束方向に着目し，針状の磁性線材を用いたステータコアと渦状に磁性薄帯を巻いたロータコアを有するモータ構造を提案する。本稿では，同一構造同一寸法のモータに提案した構造を適用し，運転特性に与える影響を検討したので報告する。

5-046

フラックススイッチングモータの鉄損解析における鋼板内渦電流による影響の検討

◎安盛貴之・日高勇気・水田貴裕（三菱電機）

固定子に磁石、回転子に凹凸を有するフラックススイッチングモータ（以降、FSMと呼ぶ）は磁石磁束を回転子が変調させているため、高調波磁束が数多く発生する。そのため、モータの効率を精度良く計算するためには高調波磁束により発生する鉄損の解析精度が必要となるが，スタインメッツの実験式によるFSMの鉄損解析精度は明らかではない。そこで本研究では高調波磁束の表皮効果が渦電流損に与える影響に着目し、その影響を調査した。解析による調査の結果、FSMは表皮効果により鋼板内に渦電流分布が生じており、スタインメッツの実験式では表皮効果の影響を考慮していないため、鉄損が過大に計算されている可能性があることを明らかにした。

5-047

固定子電流解析による水ポンプ駆動用電動機の外周振れ診断技術の開発

◎開田 健・金丸 誠・宮内俊彦（三菱電機）

工場では電動機の突発的な故障停止を回避するために定期的にメンテナンスをしている。しかしながら，経営効率化の要求のためメンテナンスの省力化が求められている。電流兆候解析技術は設備から離れた場所で電動機を診断可能であり，省力化を実現する状態監視技術として期待されている。今回，工場内の水ポンプ設備の電動機の外周振れ検知を目的に，メンテナンス前後の電流データを取得し解析した。その結果，固定子電流パワースペクトルの回転周波数成分と外周振れ量の間に正の相関があることを明らかにした。本結果から，固定子電流パワースペクトルの回転周波数成分に着目することで外周振れおよび動的偏心を検知できる見込みを得た。

5-048

ディスク型渦電流ブレーキの直流/交流励磁の制動トルクの検討

◎北原広大（信州大学）

航空機用ディスク型渦電流ブレーキの研究を著者らは行っている。現代の接触式ディスクブレーキの欠点であるディスクの摩耗を削減するためである。著者らは、渦電流ブレーキの制動トルクに着目して研究を行っている。著者らの研究室では、制動トルクを高めるために3層構造のクラッド材ディスクを採用している。ディスクは、中心層にSPCC，表面層にCuで構成されている。これにより、ディスクの磁気抵抗を小さくすることができる。最大制動トルクの検討として、著者らは直流励磁方式と交流励磁方式を組み合わせて研究を行った。研究結果は、直流電圧が大きいほど最大制動トルクが小さくなった。直流成分の制動トルクが交流成分の制動トルクに勝ったからだと著者は結論づけた。

5-049

三相交流励磁渦電流ブレーキの制動トルクにディスク材料が与える影響

◎堀 健太郎・望月大地・菊池良巳・脇若弘之・曽根原 誠・佐藤敏郎（信州大学）

地球環境への意識の高まりの中、二酸化炭素を低減するため航空機の電動化の実用化が世界中で進められている。そこで筆者らは航空機の電動化に対して、電子制御が容易な渦電流ブレーキ(ECB: Eddy Current Brake)と磁気粘性流体ブレーキを組み合わせた非接触式のハイブリットブレーキを提案している。本稿ではハイブリット化の前段階として三相交流励磁時のECBの特性とディスク材料が制動トルクに与える影響について述べる。

5-050

6コイルを有する3相駆動2自由度アクチュエータのトルク特性

◎栗林隼輔・部矢 明・平田勝弘（大阪大学）

EV自動車の登場により車の「音」が重視されており、自動車の接近に伴う車外への警告などに用いるための車載スピーカ等の姿勢制御の需要が見込まれる。しかし、従来の多自由度機構はサイズが大きく構造が複雑であるという課題がある。そこで2自由度アクチュエータに着目した。従来提案されているアクチュエータは製作の困難な球殻永久磁石を多数用いるとともに、車載用アクチュエータとして適用するためには駆動装置の簡素化が必要である。そこで、3相インバータ1つで駆動可能かつ少数部品で構成可能な新しい2自由度アクチュエータを提案する。また3次元有限要素法を用いた磁場解析により提案したアクチュエータのトルク特性を明らかにする。

5-051

パラレルリンク機構を用いた球面アクチュエータのトルク測定

◎瀧 恵多・平田勝弘・新口 昇・高原一晶（大阪大学）

現在、ロボットアームに代表されるリンク機構は、回転モータやリニアモータといった1自由度対偶を複数用いることで、多自由度駆動を行っている。これらの対偶を球対偶で置換することによる利点は多く、リンク及び対偶の個数削減による小型・軽量化、制御の簡素化による高速化と高精度化が期待できる。以上の点から、球面アクチュエータが注目されている。しかし、球面アクチュエータには、実機のトルク特性を測定する方法が確立されていないという課題がある。本稿では、多自由度球面アクチュエータの実機によるトルク測定を行う方法として、6軸力覚センサと摩擦を用いない強制回転装置としてパラレルリンク機構を用いた測定方法について述べる。

5-052

表面磁石形バーニアモータの永久磁石の厚さと逆起電力の関係について

○片岡康浩・穴澤義久（秋田県立大学）

低速回転で大トルクを発生する表面磁石形バーニアモータ(SPM-VM)が開発されており，これまでの研究において回転子直径が179.4mmとなるSPM-VMの永久磁石を厚くする設計により逆起電力が低下する現象が，有限要素法を用いた解析により明らかにされている。本報告では，回転子直径が66mmとなるSPM-VMを用いて，永久磁石の厚さが逆起電力に与える影響について有限要素法を用いた解析により明らかにされており，さらに，永久磁石の厚さが4mmと7mmの2種類の実機を製作することにより，逆起電力が低下する現象が実験的に確認されている。

5-053

自動接続モジュールロボットの鉤爪型接続機構の提案

◎東 優・山田祐己・内田敬久（愛知⼯業⼤学）

本論文では，モジュールロボットの自動接続を実現する接続機構として，鉤爪型接続機構を提案する．二つの内歯車付きカムを回転させることで3つの鉤爪を開閉させ，突起状のパーツに引っ掛けることで固定可能なコネクタ機構である．鉛直方向のずれ，水平方向のずれ，Yaw角傾斜のずれ，これら三点において接続可能な許容範囲を計測した．結果，自動接続を実現するための接続機構として，鉤爪型接続機構では垂直方向は1.5mm以下，水平方向は6mm以下，Yaw角傾斜では12°以下程度までは安定した接続が行えるという計測結果が得られた．この許容誤差内に収まるような精密な位置合わせが可能なアプローチ方法で接続を行うことが必要である．

5-054

単相整流回路を有する自励式巻線界磁モータの等価回路検討

◎水田貴裕・伊藤一将（三菱電機）・青山真大（静岡大学）

近年，電気機器の省エネルギー化の観点からモータの効率化が求められている。モータの方式としては主に埋め込み磁石型同期モータ（IPMSM）が用いられており，磁石としては耐熱性確保のためDyやTbを添加した高価なネオジム磁石が一般的に用いられている。しかし，DyやTbといった重希土類は産地が偏在しており枯渇の懸念があるだけでなく，今後IPMSMの生産台数が増加すると資源供給の不安定性がますます顕在化すると考えられる。そのようなコストと資源供給面の懸念から，自励式巻線界磁モータ（SEWFM）が注目されている。自励方式としては，回転子に三相整流回路を用いる方式と，単相整流回路を用いる方式があるが，巻線構造の簡易性及びリラクタンストルクを活用できる点から，近年は単相整流回路方式の研究が盛んに行われている。上記のSEWFMにおいては，電機子巻線に加え誘導巻線と界磁巻線があり，効率を最大化する最適な巻数の組合せを見出すためには等価回路の考え方が必須となる。しかし，三相整流回路方式のSEWFMの等価回路については研究事例があるものの，単相整流回路方式のSEWFMの等価回路の検討及びその精度検証を行った事例は見当たらない。そこで筆者らは，単相整流回路方式のSEWFMの等価回路導出及び解析との比較による精度検証を行ったので，本稿で報告する。

5-055

磁束変調ハイブリッド界磁コンシクエント極モータの実機製作及び評価

◎満田宇宙・伊藤一将（三菱電機）・山本慎太郎・飛永泰輝・深見 正・小山正人（金沢工業大学）

筆者らは，界磁極を永久磁石（PM）と鉄極及びリング状界磁巻線で構成し，界磁磁束を調整することで動作範囲を拡大できる，磁束変調ハイブリッド界磁コンシクエント極モータ（FHCM）を検討している。このFHCM は，磁束変調原理を利用して界磁極を固定子に配置するため，ブラシレス構造であり，冷却も容易になる。また界磁巻線を電機子巻線及び界磁極の内径側に配置できるため，モータ体積を有効に活用できる事が特徴である。本稿では，FHCMの実機を製作し電磁気特性を評価した結果について報告する。

5-056

ハイブリッド磁界共振結合モータのハルバッハ配列によるトルク特性

◎森 聖也・堺 和人（東洋大学）

電気飛行機や空飛ぶ自動車の研究が行われている。実現にはモータの大幅な出力密度の向上が必要である。そこで、超軽量化のためワイヤレス電力伝送の磁界共振結合と、誘導機の技術を基にして、新規の電磁界共振回転機(MRCM)の基礎研究を進めてきた。本研究ではさらなる出力向上のため永久磁石を併用したハイブリッド型の磁界共振結合回転機を検討している。 本稿では、ハイブリッド磁界共振結合モータの概要、トルク発生の原理、ハルバッハ配列にした時の出力向上について述べる。 無鉄心状態のモータでも従来の表面磁石配列と比較すると、ハルバッハ配列にすることにより2次電流を増加させることができ、出力の特性向上がみられた。

5-057

トロイダル巻線方式アキシャルギャップ誘導モータの高出力密度化に関する基礎検討

○保田富夫（ワィティー）

電動航空機駆動用モータとして求められる高出力密度化及び高信頼化への対応として、固定子を回転子で挟み込む構造のトロイダル巻線方式アキシャルギャップ誘導モータのコアレス化対応についての基礎検討を行った。コアレス化に伴う出力、効率低下を防止する共振補償要素であるコンデンサを式固定子側のみ実装する場合でも、固定子及び回転子両側に実装した場合と同等の効率を維持する条件を明らかにした。

5-058

円筒型磁気粘性流体ブレーキの過渡特性測定

◎志賀大樹・菊池良巳・脇若弘之・曽根原 誠・佐藤敏郎（信州大学）

航空機の車軸ブレーキには、着陸時に車輪がロックされて横滑りが起きるのを防ぐためにアンチスキッドブレーキシステムを搭載していてブレーキの応答性が重要である。本研究では、円筒型磁気粘性流体ブレーキを用いて磁気粘性流体の種類や温度変化など、いくつかの条件下で過渡特性測定を行った。2種類の磁気粘性流体を用いて時定数を比較すると30ms差があった。これは磁気粘性流体中の粒子材料と粒径が異なったことが原因と考えている。

5-059

高磁場下における航空機用円筒型磁気粘性流体ブレーキのせん断応力

◎長島和希（信州大学）

著者らは航空機用の次世代のブレーキとして渦電流ブレーキと磁気粘性流体ブレーキを組み合わせた非接触型ハイブリッドブレーキを研究開発している．本稿では、磁気粘性流体ブレーキの高磁場におけるせん断応力の基礎検討について述べる．回転ロッドをサーボモータにより回転させコイルに電流を印加し，発生した磁界を受けたMRFの粘度変化により，回転ロッドにかかるブレーキトルクを測定し，せん断応力を評価した．回転ロッド周辺の温度を300℃，磁束密度を1.26Tまで変化させたときのせん断応力を検討した．実験結果として，V-Co-Fe MRFは高磁場条件下でもせん断応力が温度変化により急激な増減をしないため航空機に適していることが分かった．

5-060

渦電流ブレーキ稼働中のエネルギー蓄積方法の検討

◎横山哲也（信州大学）

現在，航空機用のブレーキにおいて主に接触式ブレーキが使用されているが，著者らは渦電流ブレーキと磁性粘性流体ブレーキを組み合わせた非接触式ハイブリットブレーキを提案している．今回，渦電流ブレーキ稼働中にエネルギーを蓄積する方法について検討した．整流ダイオードとスーパーキャパシタを用いた回路で，時定数τに依存される抵抗Rを変化させたときのキャパシタ電圧V_Cの時間特性を測定した．負荷抵抗の変化により，キャパシタ電圧V_Cが増加した．また，ブレーキトルクを発生させるための励磁コイルから磁気エネルギーを蓄電エネルギーに変換できることが分かった．

5-061

2相ステッピングモータのセンサレス共振周波数推定に関する検討

中野祥也・○松尾健史・三浦 武・田島克文（秋田大学）

ステッピングモータはセンサ不要で速度および位置制御可能なモータであるが，駆動時に特定の速度域で回転子振動が増大する共振現象が問題となる。このため，センサを用いず共振周波数を知ることは重要である。先行研究では，5相モータにおいて巻線電圧波形をフーリエ変換したとき，その高調波成分の情報からセンサレスで共振周波数を推定する方法が提案されている。しかし，2相モータでは同様の研究は行われていない。そこで本研究では，2相モータにおいてもモータの巻線情報から共振周波数が推定可能か検討する。実験より，共振が発生し回転子振動が大きくなる速度域では3次あるいは5次高調波成分が大きくなり，結果推定可能であることが分かった。

5-062

誘導電動機の漂遊負荷損を考慮した電圧と電流の計測に基づくトルク推定法の検討

◎本杉雅行・平原英明・山本 修（職業能力開発総合大学校）

トルク検出器を用いることなく，運転中の電圧と電流からトルクを高精度に推定できれば，電動機の工場内試験において有用である．著者らは，固定子磁束鎖交数と電流の外積によってトルクを演算する手法をベースに各種損失（一般的な銅損のみならず鉄損，機械損および漂遊負荷損）を考慮した高精度なトルク推定法を検討している．本稿では，この方法における漂遊負荷損を考慮するためのトルク計算式を新たに提案する．かご形誘導電動機（0.33kW，167V，4極，50Hz）に対する運転時のトルク推定を実施するとともに，その時のトルク実測値との比較から，トルクの推定精度が負荷率によらず向上したこと，およびトルクの2乗に対する漂遊負荷損が比例する傾向を再現できたことを述べている．

5-063

簡易三次元モデル化法を用いた回転子スキュー角がかご形誘導電動機の機器特性に与える影響に関する検討

◎安井昌輝・藤原耕二・髙橋康人（同志社大学）

かご形誘導電動機にはトルク脈動，高調波損失および騒音などの影響を軽減するため，一般的にスキューが施される．そこで，簡便かつ高精度なスキューおよび端部構造の考慮方法の1つとして簡易3次元モデル化法が報告されている．しかし，その有効性については不明瞭な点も残されている．本稿では，スキューされたかご形誘導電動機の機器特性を，2次元多断面法（2D multislice），3次元多層法（3D multilayer），簡易3次元モデル化法（simplified 3D），および通常の3次元モデル（full 3D）で評価し，スキュー角がトルク波形および損失の算出精度に与える影響を検証する．

5-064

アウターロータ固定形三相かご形誘導電動機の回転子バー電流の周波数分析結果

○廣塚 功・中村雅憲（中部大学）・杉本英久（昭和電機）

三相かご形誘導電動機（IM）は多数用いられており，さらなる高効率化が要求されている。そこで，筆者らは，IMの回転子電流を詳細に検討するために，アウターロータ固定形IM（Fixed Outer Rotor-IM，FOR-IM）を製作し，主として回転子のバー電流の測定および検討を行ってきている。本稿では，FOR-IMの回転子バー電流を分流器を用いて測定した結果を報告する。

5-065

多相誘導電動機における空間高調波が二次側電流に与える影響の検討

◎Hector San Juan Juanchi・藤井勇介・千葉 明（東京工業大学）

多相誘導電動機は負荷が大きくなるに連れ，二次側銅損の減少率が低下することが報告されている。本稿では，低負荷と高負荷の動作点における回転子の導体バーの電流に発生する高調波成分について考察を行う。固定子と回転子の座標系での空隙磁束密度から二次側電流に発生する時間高調波の原理を示し，3相と9相の誘導電動機を有限要素法によって評価する。結果として，多相化による二次側電流時間高調波および全高調波歪を算出し，両動作点における影響について考察を行う。

5-066

有限要素法を用いた二重キャンド誘導機の解析精度に関する調査

◎倉越 望・千葉 明・清田恭平・藤井勇介（東京工業大学）

二重キャンド誘導機は，固定子と回転子の両方がキャンに覆われている特殊な誘導機であるが，特殊な構造がゆえに，一般的な誘導機に比べ効率が低下するという問題がある。 本研究では，二重キャンド誘導機の効率向上のために必要となる解析精度を，キャンの影響や磁気回路の非線形性を考慮出来る3次元有限要素法を用いて調査する。 モータの簡易的な特性算出法として，負荷試験を行わず拘束試験時・無負荷試験時の結果のみを用いて等価回路により近似的に特性を算出する円線図法がしばしば用いられる。本研究では，その背景から，拘束試験時・無負荷試験時の解析精度について調査を行なった。

5-067

電磁界解析とトルクリプル理論式による誘導電動機の最適スロットコンビネーションに関する検討

山崎克巳・◎島田晃汰（千葉工業大学）

本稿では，トルクリプルの理論式を誘導電動機に適用し，最適スロットコンビネーションを考察する。

5-068

磁気非線形性を考慮した時間領域随伴変数法による誘導電動機の感度解析に関する検討

◎山野眞輝・山下祐輝・片山一哉・岡本吉史（法政大学）

近年，環境・省エネ問題を背景に，モータの高効率化が要求されている．効率向上の一方策として，電磁界解析とトポロジー最適化（TO）を併用した設計最適化手法がある．TOは，構造最適化手法の一つで，既存の機器形状にとらわれない設計案が導出される可能性がある手法として，積極的に活用されている．その中でも，目的関数の勾配を利用した最急降下法（SDM）等が報告されている．．しかし，誘導電動機（IM）の過渡電磁界特性を考慮したTOに関する報告はない．そこで本論文では，IMにTOを導入する前段階として，磁気非線形性を考慮した時間領域随伴変数法（TDAVM）によるIMの感度解析手法を提案し，その妥当性を評価する．

5-069

固定子電流による複数電動機の一括監視の基礎検討

◎松井良樹・金丸 誠・大久保拓哉・佐野壮太（三菱電機）

電動機は高ストレス環境下での稼働が多く、突発的な故障によって停止に至る危険性を有する。昨今、設備保全費用の削減や保守の省力化、熟練保守作業員の退職によって電動機の安定的な連続運転が見込めない状況になりつつあるため、保守作業員の能力に依存しない電動機の状態監視技術が求められている。これまで、1台の電動機の固定子電流に着目した研究が進められてきたが、複数台の電動機の固定子電流が合流する箇所の総和電流の解析で状態監視する技術については検討が行われていない事から、今回は正常電動機と異常電動機を組合せて1台のインバータで並列運転した時の総和電流を取得・解析し、異常検知の可能性を検証する事を目的とする。

5-070

異なる鉄心材料を用いたスイッチトリラクタンスモータの鉄心と磁歪による騒音に関する研究

◎祖父江悠気・千葉 明・清田恭平・藤井勇介（東京工業大学）・千田邦浩・吉崎聡一郎（JFEスチール）

スイッチトリラクタンスモータ(SRM)は構造が単純でレアアースを用いないことから安価という特徴がある。一方、固定子・回転子ともに突極構造であることから磁気的吸引力に起因する騒音が大きいと言った短所が存在する。本研究では、鉄心材料の異なるモータ2つを試作し、負荷試験によりそれぞれのモータの振動・騒音の違いを計測した。それにより、材料が異なると騒音にも影響を及ぼすことが確認された。有限要素法解析による電磁力のみを加振力とした場合の騒音解析では騒音に大きな違いが見受けらなかったが、さらに磁歪による騒音解析を行うことにより、磁歪が重要であることを明らかにした。

5-071

Effectiveness of Flattening Radial Force Sum for Mode 0 Vibration and Noise Reduction in Traction Switched Reluctance Motor

◎ウィグナチャンドラアディ・蔡 一飛・千葉 明（東京工業大学）

This paper presents the reason why radial force sum flattening concept is effective to reduce the vibration mode 0 and noise of high-pole number SRM. It is found that the 18-12 pole SRM has dominant vibration mode 0 at 1000 rpm. In addition, the radial force sum flattening is identical to flattening the radial force density in spatial order 0. Since the variation of radial force density is small, the vibration mode 0 is limited. Therefore, the acoustic noise can be limited. The experimental result verifies the effectiveness of radial force sum flattening with the maximum reduction of 22.11 dB.

5-072

ひずみゲージによるリラクタンスモータのラジアル力測定の可能性

◎蔡 一飛・Candra Wiguna Adi・祖父江悠気・千葉 明（東京工業大学）

スイッチドリラクタンスモータ（SRM）の騒音低減に有効な手法は発表されているが、導かれた最適な電流波形や力波形はすべて解析に基づくものであるため、実験中の力との一致性が懸念される。 本研究ではひずみゲージを用いたSRM固定子に作用するラジアル力を測定する方法の可能性について議論した。 先行研究では、スイッチドリラクタンスモータの固定子と回転子の一部に似せたE形積層コアにひずみゲージを接着して測定を行ったが、ラジアル力の実験値と解析値の間はおよそ2倍の誤差が確認された。 本稿では、先行研究で生じた誤差を説明するために、固定子に作用するラジアル力の実験・解析比較ではなく、モータに接着されたひずみゲージが測定したひずみと構造有限要素解析法で計算されたひずみを比較する。そして、その両者間の誤差の理由について考察する。 結論として、ひずみゲージをモータに接着して実測したひずみを3次元有限要素解析法で算出されたひずみと比較したところ、先行研究と同様に2倍程度の誤差が確認された。 この誤差は別のモデルを測定対象とした先行研究にも表れたため、測定対象の構造は原因ではなく、磁性材料の磁化時の磁歪によるものと考えられる。今後は磁歪を測定値から分離することは課題となる。

5-073

Frame Effects on the Acoustic Noise of Switched Reluctance Motors

◎Sarah Lilian Lim・Candra Adi Wiguna・千葉 明（東京工業大学）

In this paper, acoustic noise characteristics of a leg-mounted and wall-mounted SRM system are compared. Both motors have identical stator and rotor structure. Differences are the shape of frame and fixed surface used to mount the frame. FEM analysis is carried out in ANSYS Mechanical to compare the acoustic noise of the two systems over 100rpm to 3000rpm. Simulation results show that with identical current excitation, there is significant noise only in the 3rd, 6th and 9th harmonics in the wall-mounted system. In the leg-mounted system, noise in the 2nd, 4th, 5th and 7th harmonics is also significant.

5-074

永久磁石補助スイッチトリラクタンスモータの可変界磁駆動の実現に向けたパルス着磁・脱磁特性および回転特性に関する検討

◎岡本侑己・中村武恒（京都大学）・Fuat Kucuk（京都先端科学大学）

我々は、スイッチトリラクタンスモータの効率向上を目的として、固定子にAlNiCo磁石を配した永久磁石補助スイッチトリラクタンスモータ(PM-SRM)の研究開発を行っている。AlNiCo磁石は保磁力が低いため、PM-SRMの固定子巻線にパルス電流を印加することで着磁量を操作することができる。回転中に着磁量を操作する「可変界磁駆動」により、運転条件の変動に対して常に高効率を維持したPM-SRMの駆動が可能になると期待される。本報告では、可変界磁駆動の実現に向けた検討として、モータが静止した状態でのAlNiCo磁石の着脱, 脱磁操作や、磁化状態に応じた回転特性の差異について検討した内容を報告する。

5-075

デュアルモードリラクタンスモータの低速領域における実験的検証

◎清田恭平（東京工業大学）・磯貝 遥・飴井賢治・大路貴久（富山大学）

著者らは，電流の通電方向を変えることのみにより，スイッチトリラクタンスモータ（SRM）とシンクロナスリラクタンスモータ（SynRM）の，2種類の電動機特性を実現可能であるデュアルモードリラクタンスモータ（以下，DRM）を提案している。本稿では鉄心長を縮小した小型DRMを試作し，低速領域における実機検証を行ったので，その結果について報告する。

5-076

アキシャルギャップ型シングルドライブベアリングレスリラクタンスモータの実機と解析の静特性比較における課題検討

◎安藤脩亮（富山大学）

本論文では機械的な接触がなくメンテナンスが不要なベアリングレスモータのうち、制御軸数を1軸のみでその他軸を軸受を用いて受動安定させるモータの試作機の基礎試験の結果について述べる。具体的には回転に必要なトルク試験と浮上に必要なスラスト力の試験を行い、解析と比較を行い課題について考察を行った。実機と解析の比較において数十パーセントほどの解析値と実測値の違いが生じた。この原因については解析によって固定子のコイルの歯の部分での磁束漏れによってトルク発生部での低磁束密度化を引き起こしている。それによって実測値が理論値より減少する原因であると結論づけた。

5-077

IE5効率の同期リラクタンスモータにおける高回転化に向けた設計手法と試作評価

◎竹内活徳・松下真琴（東芝インフラシステムズ）・大石浩司・森山雄介（東芝三菱電機産業システム）

エネルギー問題や環境問題への関心の高まりから，モータの高効率化と省資源化が強く要求されている。同期リラクタンスモータは，回転子が鉄心のみで構成されるため省資源であり，また，同期運転による高効率な特性を有していることから，次世代の産業用モータとして大きく期待されている。本検討では，効率規格（IEC 60034-30-1）のIE5基準を達成する90 kW出力の同期リラクタンスモータにおいて，高回転化を実現するための設計手法と，試作機の評価結果を報告する。

5-078

同期リラクタンスモータのトルク向上を目指した回転子構造の形状最適化に関する一考察

◎重松宏希・若尾真治（早稲田大学）・牧野宏明・竹内活徳・松下真琴（東芝インフラシステムズ）

リラクタンストルクを活用するモータにおける回転子の形状最適化は、フラックスバリアの形状において対称性を考慮して行われることが多い。本論文では最適化にレベルセット法を用い、新たな対称性の考慮方法を検討するとともに、従来法との比較を通じてその有効性について報告する。

5-079

二重巻線式リラクタンスモータの始動及び同期運転時における特性

◎得田直紀・津田敏宏（金沢工業大学）

二重巻線式リラクタンスモータ(DWRM)は，極数の異なる2つの固定子巻線とリラクタンス回転子から構成される。このDWRMは，固定子に備えた二巻線間の磁気結合を回転子の磁気突極性により実現し，ブラシレス構造でありながら誘導モータのような直入始動を可能としている。本研究では，DWRMを直入始動可能な同期モータとして運用するため，その始動及び同期運転時における過渡特性を二次元有限要素解析により明らかにした。その結果，解析対象機は直入始動可能であることに加え，同期速度到達後に同期引き入れ可能であることが確認できた。また，始動及び同期運転時の特性を両立するには，運転状況に応じた巻線切替が有効であると分かった。

5-080

直流励磁リラクタンスモータの発電特性

◎平山祥悟・髙木茂行（東京工科大学）

分散型電源の発電機としてのリラクタンスモータの開発を行った。 これまでに、アウターロータのセグメント型SRMを提案してきた。インナーロータのSRMとアウターロータのSRMを比較したところ、アウターロータのSRMの方が発電効率が7%高いことが分かった。今回はそのアウターロータのセグメント型SRMのティース突起長とセグメント長に着目し、ティース突起長を0~30[deg]、セグメント長を9~69[deg]の範囲で最適化を行った。その結果を報告する。最適化には、遺伝的アルゴリズムを使用し、集団サイズ20、世代数を25とし、計460ケース解析した。結果、セグメント長は51.15[deg]、ティース突起長は20.57[deg]の時が最も効率が良く、発電効率は最適化を行う前と比べると3%向上し、95%となった。

5-081

直流励磁型リラクタンスモータにおける非正弦波駆動の検討

◎山口暁斗・後藤博樹（宇都宮大学）

近年、世界市場の成長に伴うレアアース使用量増加によって、レアアース価格の高騰化による不安定供給の影響が懸念されている。こういった背景からレアアースを用いない、レアアースレスモータの研究開発が活発化している。レアースレスモータの一つである直流励磁型リラクタンスモータ(Direct Current excited Reluctance Motor :DCRM)は、固定子極鉄心を通過する磁束が双方向となるように巻線を結線することで鉄心利用率を向上し、トルク密度向上を狙ったものである。 本稿では、DCRM が集中巻線構造であることから巻線鎖交磁束に空間高調波が含まれることに着目し非正弦波駆動によるトルク向上の検討を行い、正弦波駆動時と比較して同一電流実効値の平均トルクが向上することを明らかにした。

5-082

固定子ヨークに主巻線を有するスイッチトリラクタンスモータにおける駆動方法の検討

◎幸若晃弘・高橋 徹（筑波大学）

本研究は，運転条件の広域化に向けた予備的検討として，主巻線の位置を固定子ティースから固定子ヨークに変更するスイッチトリラクタンスモータの駆動方法を検討することが目的である。固定子ヨークに主巻線を有するSRモータの駆動方法の一例として，励磁するコイルが4個の場合と6個の場合において，従来の固定子ティースに主巻線を有するSRモータと同様の方法を検討する。この方法により，励磁するコイルが4個の場合と6個の場合ともに駆動が可能であることを解析によって確認した。励磁するコイルが4個の場合は固定子ティースに主巻線を有するSRモータと同程度の出力トルクが得られ，6個の場合は2倍程度の出力トルクが得られることが明らかとなった。

5-083

方向性電磁鋼板を用いたSRMの検討

◎土屋柚樹・赤津 観（芝浦工業大学）

希土類材料の価格変動により，希土類磁石を使用しないモータであるスイッチトリラクタンスモータ(SRM)が注目されている。SRMは堅牢性が高く高速回転が可能であるが，永久磁石同期モータと比較してトルク密度が低く，高トルク密度化が要求されている。本研究では，方向性電磁鋼板(GO)に着目し，GOを用いたSRMを提案する。先行研究において，磁路中に存在するGOと無方向性電磁鋼板(NO)の接合部の影響によりトルク密度の向上を達成できていない。そこで，本研究では，接合部の影響を低くした2極4スロットのSRMと円筒ロータ型のSRMを提案する。また，提案したSRMを用いて静止トルク試験を行い，実機実験によるトルク密度の向上を確認したので報告する。

5-084

オルタネータの簡易評価関数を用いた多目的形状最適化

◎平井 友・日高勇気・井上由佳理・東野浩之・吉澤敏行・藤田暢彦（三菱電機）

本発表はオルタネータの最適化技術に関する発表である。オルタネータは発電機であるため、特性計算には磁界/電気回路連成解析を要する。回路連成解析は計算コストが高く、最適化計算のように他ケース計算をベースとした技術を適用する場合には、必要となる計算リソースが膨大となる。そこで、本発表では、オルタネータの発電特性を低計算コストで算出可能な、簡易評価関数の提案をする。また、提案評価関数を用いた数値シミュレーションを実施し、その妥当性を数値実証する。

5-085

Frozen Permeability法を用いた永久磁石同期モータにおける電磁加振力の要因分析

◎西村立男・日高勇気・伊藤一将（三菱電機）

モータに対する小型高出力の要求の高まりに応じて、リラクタンストルクを活用した埋込永久磁石同期モータ（IPMSM）が注目されている。IPMSMはリラクタンストルク活用による小型化効果が得られる一方、回転子パーミアンスの位置依存性を起因として、空隙磁束密度の高調波成分が課題となる。電磁加振力は固定子/回転子起磁力と、固定子/回転子パーミアンスの関係で発生し、各要因を分離した検討が効果的である。一方、磁性材料には非線形特性があり、各起磁力、パーミアンスの分離は容易ではない。 上述のような各成分を分離する方法として、Frozen Permeability法が提案されている。Frozen Permeability法を用いることで、各種起磁力/パーミアンスの寄与率を切り分けることが可能となる。本稿では、Frozen Permeability法を用いた、IPMSMの電磁加振力の要因分析法を提案する。

5-086

機械学習を用いた自動車駆動用IPMSMの磁石量最小化設計における耐減磁制約の検討

◎清水悠生・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪府立大学）

過去の報告で筆者らは，機械学習を用いて埋込磁石同期モータ(IPMSM)の設計変数と運転特性の関係を数理モデル化し，短期間で形状最適化が完了することを報告した。過去の報告では不可逆減磁について未考慮であったため，本稿では不可逆減磁を高精度に予測する代理モデルの構築方法と，耐減磁制約を課した磁石量最小化設計の結果について報告する。

5-087

実数値遺伝的アルゴリズムによるアウターロータ型同期電動機の鉄芯・永久磁石・磁化角の設計最適化

◎子田 陸・荒瀬浩平・岡本吉史（法政大学）

昨今，地球規模で進行する温暖化現象を抑制するため，各国において，自動車や航空機等の多様な輸送機械の電動化が積極的に推進されている．そのため，電気機器の効率を最大限高めることが要求されている．著者らは，フーリエ級数を援用した実数値遺伝的アルゴリズムによるトポロジー最適化（TO）の収束特性を改善した手法（RCGA with FCO）を提案した．本稿では，当該手法をアウターロータ型表面磁石同期電動機（SPMSM）に適用し，鉄芯・永久磁石の複数材料のTOを行う．また，磁化角を設計パラメータに導入する際，変数の数を減少できるモデリング法を提案する．提案手法から得られた結果を最急降下法（SDM）から得られた結果と比較したので報告する．

5-088

GPを用いたアキシャルギャップモータの多目的最適化

◎前島涼人・宮崎 樹・杉本稜弥・北川 亘・竹下隆晴（名古屋工業大学）・片岡 真・椎木健次（エフ・シー・シー）

近年、より高効率なモータを開発するための、メタヒューリスティックな手法を用いた最適設計の研究が盛んに行われている。さらに、ある特定の用途に特化した用途指向型のモータの需要が高まっていることから、複数の目的関数を考慮して最適化を行う必要がある。本研究は多目的遺伝的プログラミング(MOGP)と3次元有限要素法を用いた最適化手法の研究開発を目的とする。対象はアキシャルギャップモータとし、定常トルク・トルクリップル・コギングトルク・鉄損の4つの特性を目的関数として形状最適化を行った。その結果、平均トルクの最大6.7%上昇など、各特性の向上が見られた。

5-089

誤差補正を用いた永久磁石同期電動機のコギングトルク解析における計算精度改善に関する検討

◎飯野智也・山下祐輝・岡本吉史（法政大学）・阿波根 明・木田佳孝・仙波和樹・山田 隆（JSOLビジネスカンパニー）

電気機器の電磁力解析では，有限要素メッシュの粗密，磁気ソース間距離等により，多大な計算誤差が混入される場合がある．そこで，筆者らは，各磁気ソース単体が生成する電磁力を重畳された誤差として取り扱う補正手法を提案した［1］．本稿では，提案手法を表面磁石型同期電動機（SPMSM）のコギングトルク解析に適用し，その結果を報告する．

5-090

オープン巻線および二重三相永久磁石同期モータの鎖交磁束を用いたビヘイビアモデルの提案

○貝森弘行・酒井祐樹（サイエンスソリューションズ）

近年，ダブルインバータ方式として，オープン巻線方式と二重三相巻線方式が注目されている。そこで本稿では，鎖交磁束ベースのビヘイビアモデルを，オープン巻線PMSMと二重三相巻線PMSMにも適用可能であることを示し，その有用性を検証する。 オープン巻線方式ではdqz軸でのモータの電圧方程式で，二重三相巻線方式ではdq軸でのモータの電圧方程式を連立することで鎖交磁束ベースのビヘイビアモデルを作成可能であることを示す。制御連成解析により，磁気結合によりオープン巻線方式ではz相電流に，二重三相巻線方式ではdq軸電流に高調波が重畳されることを確認した。

5-091

三次元Hybrid並列有限要素法によるIPMモータの磁界解析の性能評価

山口 忠・河瀬順洋・◎石原旭人（岐阜大学）

我々は、これまでに領域分割法を用いたMPIによる並列計算手法とオーダリング手法を用いたOpenMPによる並列計算手法を組み合わせた三次元Hybrid有限要素法の並列性能を評価、検討してきた。本稿では8 core CPUと12 core CPUによって構成されるPCクラスタ（共に6台のPCを使用）を用いてIPMモータの磁界解析を行い、並列計算システムの効率的な運用について検討した。MPIのみによる並列化と、MPIに加えてOpenMPを同時に使用したHybrid並列化の2パターンで比較した。Hybrid並列は並列台数を増やすほど高速化できた。MPIのみの並列はマシンの全core数の半分の時に最も計算速度が速くなった。並列性能が最大となるときを比較すると、Hybrid並列の方がMPIのみの並列よりも計算時間が短くなった。

5-092

可聴域外の高周波電圧を用いたIPMSMの位置推定制御

◎北川 潤・森 辰也・家造坊 勲（三菱電機）

突極比を有するPMモータにおいて，回転電圧の高周波電圧を用いて，直接位置を推定する位置推定手法がある．しかし，高周波電圧を印加することで，その周波数に応じた騒音が発生することが，静粛性を求められる製品においては課題であった．印加した高周波電圧による騒音を生じさせないためには，高周波電圧の周波数を可聴域以上に設定すればよいが，従来手法では三角波キャリアの周波数が大幅に増加してしまい，スイッチング回数が増加して損失悪化やEMIノイズの悪化が生じる．本稿では，回転電圧の高周波電圧をより少ないスイッチング回数で生成可能な方法を提案する．また，実際に高周波電圧の周波数を可聴域(18kHz)以上に設定し，実機試験にてロータ位置の推定精度の確認を行った．

5-093

FPGAを用いた直接トルク制御による超高速モータの始動

◎吉村健太郎・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪府立大学）

永久磁石同期モータ(PMSM)の超高速駆動が注目されており，usオーダーでの制御を実現する駆動システムが求められている。FPGAは，高速処理能力とそのコンパクト性から近年注目され，モータの制御システムにも組み込まれている。また直接トルク制御（DTC）は回転子位置・速度センサレス化が容易であるため，モータの超高速駆動に適している。一方で，低速域での運転や始動が困難とされている。本報告では， DTCをFPGAに実装し，回転速度に応じた指令磁束を与えることで始動を含めた低速度域での運転を可能とする制御法を適用する。始動時に与える速度制御ゲインについて説明し，始動時の制御特性を実験により示す。

5-094

回転子空間依存性を有するPMSMの最小銅損軌跡を考慮したトルクリプル抑制電流指令生成法

◎内田悠介・新中新二（神奈川大学）

PMSMの駆動性能向上の課題として，回転子位相に応じて変化するマグネットトルクとリラクタンストルクの両者に起因した空間依存トルクリプルの低減が浮上している。本研究は，両空間依存トルクリプルを有するPMSMにおけるトルクリプル低減および効率駆動を同時に達成する電流指令値生成法を提案する。提案法は，対象PMSMのMTPA軌跡とトルク発生式の連立非線形方程式を，多変数ニュートンラプソン法によりトルクリプルを抑制し得る電流指令値を求解する。求解した電流指令値によるトルクリプル抑制性能をシミュレーションにて検証した結果，補償前に比べてトルクリプルを大幅に抑圧していた。シミュレーション結果より，提案法によるリプル抑制を確認した。

5-095

PMSMにおける直接トルク制御の運転領域を拡大する磁束推定手法に関する実機検証

◎榎倉浩志・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪府立大学）・會澤敏満・高木隆志（東芝）

永久磁石同期モータは省エネルギー化に貢献し，幅広い運転領域を持つモータとして様々応用されている。 直接トルク制御（DTC）は電流制御を介さず，原理的に回転子位置センサレスな制御手法である。DTCにおける電機子鎖交磁束の推定はモータパラメータの変動にロバストであるが，低速領域における推定精度向上が課題となっている。 二次一般化積分器（SOGI）は入力周波数における特性が定常的に積分器と一致する適応フィルタとして，磁束推定器への応用が注目されている。 本稿ではSOGIを用いた磁束推定器の特性をシミュレーションで解析し，これを適用したDTCが中高速領域で安定に動作することを実機検証により確認したため，報告する。

5-096

負荷トルクを考慮したPMSMのモデル予測位置制御の提案

◎山本詩歩・望月亮汰・前川佐理（成蹊大学）

近年、小型で高効率な永久磁石同期モータ(PMSM)の利用分野としてサーボ機構への応用が進んでいるが目標位置への応答性と振動低減とのバランスが課題である。一方、モータドライブ用途へのモデル予測制御(MPC)の適用例が盛んになっている。本論文では、MPCをPMSMの位置制御に応用することを提案し負荷トルク補償器を加えることで高応答化と低振動化の両立を検討する。

5-097

位置推定と極性判別を同時に行う永久磁石同期モータの始動時磁極位置推定法の性能向上

小櫻崇雅・○道木慎二（名古屋大学）

永久磁石同期モータ(PMSM）の停止・低速時の位置センサレス制御の推定原理として突極性が用いられるが、推定値は180°の曖昧性を持つことが知られている。したがって、初期位置が不明である始動時には、突極性による位置推定の他に極性判別を行う必要がある。筆者らは、信号重畳起因の拡張誘起電圧による位置推定法及び極性判別法を提案した。一方で、従来法では位置推定と極性判別で使用するフィルタを共用していたため、位置推定と極性判別の要求仕様をバランスさせたフィルタ設計を行う必要があった。本稿では、システム構成の変更によって上記の問題点を克服する新たな始動時磁極位置推定法を提案し、実機実験によりその性能を示す。

5-098

フィードバック型弱め磁束制御法を利用したPMSMのインダクタンス同定法のパラメータ感度

◎松本 純（中部大学）

小形，高効率，高出力といった特徴を有する永久磁石同期モータは様々な分野で幅広く利用されている。高効率や高出力といった特徴を活かすためには，モータの電気的なパラメータが必要不可欠であるが，インダクタンスは磁気飽和現象によって変動することが知られている。一般的にファインチューニングによって変動への対策を施すが，これは煩雑であることから好ましくない。この課題に対し，著者らはフィードバック型の弱め磁束制御を利用したインダクタンス同定法を提案してきた。ただし，本手法ではパラメータとして抵抗および誘起電圧定数が必要となる。そこで，これらのパラメータの感度について検討したので報告する。

5-099

高周波電流制御を用いたSynRMの低速時の位置センサレス制御におけるインダクタンス誤差の影響

◎林 立喜・國枝武史・冨田睦雄（岐阜工業高等専門学校）・長谷川 勝（中部大学）・道木慎二（名古屋大学）

回転子に巻線も永久磁石も持たないシンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)が注目されている。SynRMのトルク制御のためには、回転子の位置情報が必要であるが、回転子位置センサは信頼性やスペースの占有の問題などがあるため、位置センサレス制御が望まれている。しかし、低速駆動時の位置センサレス制御は困難であり、これまで低速時の同期モータの位置センサレス制御法として、幾つかの、高周波電圧を重畳する手法が提案されてきた。筆者らは、低速時のSynRM において「高周波電流制御」を用いて、高周波電流の大きさを小さい一定の値に制御して重畳し、これによって拡張誘起電圧(EEMF)に重畳されて現れる位置情報を持つ「高周波拡張誘起電圧(高周波EEMF)」を数式モデルと同期検波により推定し、位置情報を推定する位置センサレス制御法を提案してきた。本稿では、本手法において用いるSynRMのモデルのインダクタンス誤差が位置推定に及ぼす影響について考察し、実機実験による検証を行ったので報告する。

5-100

三相同期モータのための6ステップ駆動へシームレス推移可能な過変調領域用電圧指令生成法

○新中新二（神奈川大学）

本論文は，三相同期モータのための過変調電圧指令生成法として，以下の5特徴を同時に備えた新規なものを提案する。 (a) 簡単で，実装が容易である。 (b) 三相信号状態で，電圧指令値を変調処理する。 (c) 外接円外の初期電圧指令値にも適用できる。 (d) 外接円内の初期電圧指令値には，位相不変法と同様な最終電圧指令値を生成できる。 (e) 位相不変法と異なり，最終電圧指令値を6ステップ駆動用パルスへのシームレス収斂が可能である。さらには，収斂速度の調整も簡単に行える。

5-101

一般化磁束推定法によるインダクタンス実時間同定のSynRM実機検証

◎中島啓太・新中新二（神奈川大学）

最近、同期モータの固定子インダクタンス同定法として、従前の方法と異なる原理に基づく手法が新中より提案された。「新中同定法」は、実時間同定が可能等の特長を有する。同定原理は「一般化磁束推定法」に基づいており、固定子電圧，電流より推定すべき磁束に相当する値を合成し，D因子フィルタにより処理することで推定磁束を得る。この得られた推定磁束と固定子電流よりインダクタンスを同定する。本論文では、新中同定法を同期リラクタンスモータ(SynRM)実機へ適用し、一応のインダクタンス同定値を得た。性能検証は必ずしも十分でないため、さらなる検証・確認を重ねていく予定である。

5-102

同期リラクタンスモータのトルクリプルおよび磁気飽和を考慮した数学モデル

◎中村直人（津山工業高等専門学校）

同期リラクタンスモータ（SynRM）は，安価，堅牢，高速回転可能といったメリットを有するモータであるが，トルクリプルの影響が顕著であるという欠点がある。このトルクリプル抑制にはSynRMのリプル特性を十分に反映した数学モデルが必要である。一般に，SynRMが十分なトルクを発揮するためには，磁気飽和領域における駆動が前提となる。したがって，高トルク発生時の実用的なリプル抑制には，リプル特性のみならず磁気飽和特性をも考慮した数学モデルが必要である。本稿はこれらのリプル特性，飽和特性を含めたSynRMの新たな数学モデルを提案するものである。

5-103

トルクマップに基づいた高出力同期モータの制御

◎野村柚衣子・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

高出力同期モータの磁束とトルクを独立に制御できる座標系として，最大トルク制御座標系（f-t軸）が提案されている．f-t軸は，d-q軸を定トルク曲線の接線角度だけ回転した座標系であり，この回転角の決定法について様々な方法が提案されてきた．高出力密度設計がされたモータでは，トルク式に基づき回転角を算出する方法には限界があった．そのため，これまでにトルクマップにより求める手法を用いてきた．この方法はパラメータを使用しないため磁気飽和の強いモータにも適用できる．そこで，本研究では実機からトルクマップを測定する手法を提案する．

5-104

同期マイナーサンプリングを導入したモータドライブシステムの検討

◎堀越琢海・岩路善尚（茨城大学）

近年，制御用マイコンの高性能化に伴い，モータドライブシステムには状態監視や劣化診断などの新たな機能を実現できる可能性が広がっている。本研究では、無線通信などで実用化されている「プロセッシングゲイン」の考え方を永久磁石モータドライブシステムに導入し，電流制御系を構築する（同期マイナーサンプリング処理）。これによって，高精度な電流検出が実現できることが確認できたので報告する。 実験により従来方式と比較して,同期マイナーサンプリング処理を導入した電流制御系は，検出精度を格段に向上できることを確認した。

5-105

スイッチトリラクタンスモータのV/f制御

◎熊谷崇宏・伊東淳一・日下佳祐（長岡技術科学大学）・加藤尚和（長岡モーターディベロップメント）

スイッチトリラクタンスモータ(SRM)は，安価な可変速モータとして注目されている。従来の駆動方法は点弧角や消弧角等の複数のパラメータを同時に調整する必要があり，これを解決するために数学モデルに基づいたベクトル制御が提案されている。一方，構造が単純で堅牢といったSRMの特徴を生かすためには位置センサレス化が望まれる。位置推定ではインダクタンスの検出精度や回転子位置への変換精度が問題となり，これを改善するためには駆動方法の複雑化や追加回路が必要となる。そこで，本論文では，位置情報を必要としないV/f制御を適用したSRMの駆動法を提案する。本論文では提案法の数学モデルに基づく制御原理を述べ，実機による検証結果およびベクトル制御との比較結果を示す。

5-106

固定パルスパターン方式高圧マルチレベルインバータの最適レベル数

◎小川隆一・滝口昌司・只野裕吾（明電舎）

大容量ファン・ポンプ用の電動機向けに、直列多重方式の高圧マルチレベルインバータが開発されている。このようなインバータのパルス変調方式について、三角波キャリアを用いる非同期PWM方式のほか、事前設計したひずみの小さいパルスパターンを電圧位相に同期して出力する固定パルスパターン方式が存在する。固定パルスパターン方式には、スイッチング周波数を低下しても高調波が増大しにくいという利点がある。本稿では、直列多重インバータの直列段数、つまりレベル数を推移させて1.5MWモータ駆動シミュレーションを行い、半導体損失を算出した。そして、固定パルスパターン方式の損失低減効果と最小損失となるレベル数を確認した。

5-107

モデル予測制御によるスイッチング損失低減技術を学習させるためのAI構築

◎樋渡天次郎・佐野壮太・佐竹 彰・杉原堅也・山本 亮・安友洋平・岩河秀知（三菱電機）

電力変換装置の小型化に向けたスイッチング損失低減効果が期待される制御手法として、モータモデルの未来の挙動を予測して、インバータのスイッチ素子のスイッチング状態を決定するモデル予測制御(MPC)が広く知られている。MPCはスイッチング損失低減効果が大きい反面、演算量が非常に多いため実機実装が困難という欠点を抱えている。そこで、本発表では上記MPCをAIに学習させるために、MPCを学習可能なAIの構成について提案する。提案するAIの構成にて、一般的な手法の教師データをAIに学習させて、学習させたデータに対するAIの正答率を概ね96%以上であることを発表する。

5-108

モータ電磁音を利用した状態通知機能の検討

◎孫 仁托・岩路善尚（茨城大学）

従来、モータドライブに求められる技術は、高効率と高応答であるが、近年、モータに対する小型化や高密度化の要求が高まるにつれて、振動や騒音が増大する傾向にある。電磁力を起振力とする電磁振動およびそれに伴う騒音が問題となるため、モータ本体や、モータ負荷の監視・予兆診断などが期待されている。本報では，SiCやGaNなど，高速スイッチングが可能な新デバイスの普及を考慮し，意図的に電磁音を重畳し，音によってモータの回転状態や，異常時の警報などを通知する技術の検討を行ったので報告する。 今後はモータ定数，インバータスイッチング周波数などと，挿入可能な音の制約条件を明確化する。

5-109

スイッチング動作を考慮した三相電流予測によるコモンモードノイズ抑制制御の改善検討

◎荒木雄志・柏原辰樹・小林孝次（サンデン・アドバンストテクノロジー）

モータ制御において、ある相のスイッチングによるコモンモード電圧の変動を別の相のスイッチングによる変動で打ち消すコモンモードノイズを抑制する制御法が検討されている。この手法においてインバータ出力電圧のスイッチングタイミングの制御がコモンモードノイズの抑制効果に大きな影響を与える。特にインバータ制御におけるデッドタイムの考慮はコモンモードノイズを抑制する上で重要な要素となる。本稿ではスイッチングタイミングにおける三相電流の予測に基づくスイッチングタイミングの補正法について提案し、提案法の有効性をシミュレーションより確認する。

5-110

Controller Design and Performance Analysis of MMC Controlled Wind Turbine Generator

○ロシャディマルワン・梅村敦史・高橋理音・田村淳二（北見工業大学）

In this paper, the dynamic characteristic analysis of Modular Multilevel Converter (MMC) application to medium voltage Permanent Magnet Synchronous Generator (PMSG) based wind turbine is investigated. The topology, modeling, operation, and control method of MMC connected to PMSG based wind turbine system are presented. The Simulation shows that MMC has a good dynamic performance in the cases of the steady-state and transient conditions.

5-111

モータ制御システムのマルチコア実装における並列度と制御性能両立に向けた遅延挿入箇所の探索方法

○Jinsoo KIM・寒河江翔太・加藤聖也・枝廣正人・道木慎二（名古屋大学）

近年，組み込みシステムは家電機器, 産業機器, 運送機器, 通信端末機器などの幅広い用途で利用されており, 我々の生活には欠かすことのできない技術である. このように組込みシステムの市場は年々拡大しており, それに伴い比較的規模の大きな演算を要求されることも増えている. プロセッサのマルチコア化の動向を背景に, 組み込みシステムにおいてもタスクを同時に処理可能なマルチコアプロセッサが採用される場合が増えている. マルチコアを有効に活用するためには, タスクを均等に配分することが重要であるが, 順次性を持つ制御アルゴリズムの場合, 制約条件を満たしつつマルチコア化することは容易ではないため, 実装者に多くの負担がかかる. そこで, 実装者の負担を軽減するためにMATALB/Simulink上でのモデルベース並列化ツールが提案された. 本稿では, 任意のシステムでも最適な並列化コードを生成するため, MATLAB上で自動探索アルゴリズムを実現し, 実際のベクトル制御系を例として適用する際に並列度と制御性能の両方を満足する挿入箇所を探索する方法について提案する.

5-112

巻線形誘導発電機を用いた風力発電システムの系統電圧不平衡下における電力脈動の解析と抑制

◎松本隆寛・山本吉朗・篠原篤志・神尾知季・池田 稔（鹿児島大学）

近年，CO₂排出による地球温暖化の深刻化により，環境負荷の少ない風力発電が注目されている。風力発電システムは電力系統の末端に設置されることが多いが，このような場所では，負荷の非対称や送電線インピーダンスのばらつきにより，系統電圧に不平衡が起こりやすい。系統電圧に不平衡があると風力発電システムの発生電力には第 2 次高調波成分が生じてしまい，電力品質の低下につながる。本稿では，まず電力の第 2 次高調波成分について解析を行い，この成分を抑制するための最適な電流指令を求める。さらに，この指令を用いた制御が電力の第 2 次高調波成分の抑制に有効であることをシミュレーションにより示す。

5-113

回帰分析に基づいた誘導電動機の初期速度推定方式

◎水澤達彦・岩路善尚（茨城大学）・初瀬 渉・篠宮健志・石川勝美（日立製作所）

近年，モータドライブにおいてセンサレス制御における，短時間の初期速度推定の要求が高まっている。本論文では，回帰分析を利用した誘導電動機の初期速度推定方式を提案した。本方式は，フリーラン状態の誘導電動機に対しパルス電圧を印加し，q軸に発生する電流を説明変数として回帰分析を行うことで目的変数として初期速度を求め，モデルの精度をシミュレーションにて検証した。シミュレーション結果からは，q軸電流の初期変動と回転速度には強い相関関係が得られることが明らかとなったので報告する。

5-114

ブラシ付き直流モータにおける速度推定の検討

◎飯島 慧・岩路善尚（茨城大学）

安価な小型ブラシ付きDCモータを状態監視する場合、センサを付加することはコスト的に困難である。そのため本研究では専用センサを使用せず、ブラシ付きDCモータのブラシ劣化検知の自動化を目指す。今回はその予備検討として，ブラシ付きDCモータの電流波形から回転速度の推定を行う技術について検討した。提案する速度推定法では，ブラシ付きDCモータにおいて，ブラシ切り替え時に発生する大きな電流のひずみ（ダウンエッジ）を検出するフィルタを作り、それを利用して速度推定を行う。そして、劣化していないブラシ付き直流モータを実際に駆動し、外付けの速度センサで検出した回転数と比較した結果、精度の高い速度推定が行えることがわかった。

5-115

汎用ドライバを用いたステッピングモータの安定化駆動の検討

◎林 亮・岩路善尚（茨城大学）

ステッピングモータ（以下、STM と略）は、オープンループで位置決め制御が可能であることから、様々な用途に用いられており、近年では汎用ドライバも安価に入手可能となっている。しかし，機械共振や脱調などの不具合も生じ易く、安定化に関する検討も行われている。 本論文では、STM の電流・電圧から負荷状態を推定し、汎用ドライバへのパルス信号を補償して、ドライブシステムを安定化する手法について検討を行ったので報告する。

5-116

オールパスフィルタと磁束オブザーバの併用による誘導電動機速度センサレス制御の低速・回生領域における安定化

◎古池佑次・長谷川 勝（中部大学）

誘導電動機速度センサレス制御において適応磁束オブザーバが実用化されているが低速・回生領域において速度同定が不安定化する問題がある。 適応オブザーバは速度情報を用いて磁束を推定するため，速度同定誤差が磁束位相推定にも伝搬し，速度同定系での不安定化の原因となる。 本研究では，速度情報を用いない磁束推定方法として，低速域において安定性の高いオールパスフィルタ(APF)を用いることで適応磁束オブザーバの性能改善を図り，低速・回生領域における速度センサレス制御の安定化を図る。

5-117

6 次と12 次のラジアル力に起因する騒音低減のための電圧フィードフォワード補償法の検討

◎矢吹明紀（長岡技術科学大学）・上町俊幸（石川工業高等専門学校）・大石 潔・横倉勇希（長岡技術科学大学）・小林孝次・柏原辰樹・荒木雄志（サンデン・アドバンストテクノロジー）

埋め込み磁石同期モータ(IPMSM) は、コンプレッサや電気自動車などに広く用いられている。しかし、静粛性への要求が高い用途においては、半径方向電磁加振力(ラジアル力) による騒音が問題となっている。そのため、本稿ではIPMSMを駆動した際のラジアル力による騒音低減として、はじめにdq 電流によるラジアル力の導出を行い、騒音に要因となる6 次と12 次の成分が小さくなる補償値を算出し、算出した補償値をuvw 電圧指令にフィードフォワードで加算する方式を提案する。提案手法により、6 次と12 次のラジアル力による騒音の低減を確認することができた。

5-118

周期的負荷変動を考慮したモデル予測速度制御の検討

◎男澤汰生・竹内奈々・前川佐理（成蹊大学）

近年，エアコンなどのロータリーコンプレッサ駆動への永久磁石同期モータ(PMSM)の適用が進んでいる。ロータリーコンプレッサを駆動するためにはモータの速度制御を行う必要があるが，冷媒の吸引圧縮に伴い回転角に応じて負荷トルクが変動するため従来の PI 制御では大きな振動が発生する場合があり、ロータリーコンプレッサ特有の振動抑制制御などが検討されている。本論文では，ロータリーコンプレッサを対象とし，モデル予測制御の PMSM の速度制御への適用を検討すると共に，コンプレッサ制御において必須となる位置センサ無しで構成するセンサレス制御を適用した場合の MPC の問題を改善したシミュレーション結果を示す。

5-119

マルチコイルモータの動作不良時における出力最大化の基礎的検討

◎吉田 建・安田 彰（法政大学）

モータは様々な分野において用いられ、社会、生活に深く関わり欠かせないものである。その中でもモータが故障し停止した場合、対象によっては組み込まれているシステムが再稼働不能になる。そのため一部が故障した際においても運転を継続させるようなモータ駆動システムが望まれる。本稿ではデジタル直接駆動技術を用いたマルチコイルモータの一部のコイルが動作不良となり磁界を生成できないとき、コイルが並列に分割されているという特徴を生かし、他の余った正常なコイルを用いて補完磁界を生成し、出力を最大化する方法を提案する。MATLAB/Simulinkを用いて提案手法のシミュレーションを行い、従来手法と比較しモータの駆動領域を広げることを示した。

5-120

デジタルアニーラを用いた電気機器のトポロジー最適化

◎丸尾昭人・添田武志（富士通研究所）・五十嵐 一（北海道大学）

近年、トポロジー最適化を用いた電気機器の設計最適化が注目を集めている。トポロジー最適化は設計自由度の高い手法で、パラメータ最適化のような設計変数の設定が必要なく、新規的な形状を得ることができる。トポロジー最適化にはOn-Off法のような材料の有無によりビットマップ状に形状を表現し、材料の有無の最適な組み合わせを求める離散的なアプローチがあるが、多様な材料分布を表現できる利点がある一方、膨大な組合せ最適化問題になるため、計算コストが非常に大きくなる欠点がある。本研究では、組合せ最適化問題を解くことに特化したハードウェアシステムであるデジタルアニーラを活用し、広域探索と低計算コストが両立するアプローチを提案する。

5-121

時間領域随伴変数法を用いた磁界・電気回路強連成解析における設計感度解析に関する検討

◎片山一哉・山下祐輝・山野眞輝・岡本吉史（法政大学）

有限要素法（FEM）と最適化手法を併用した設計最適化は，電気機器設計において，必須の技術である．特に，静磁界解析を援用したトポロジー最適化の同期モータ設計最適化への適用例は数多く報告されている．しかし，実際の電気機器では，PWM等の電源回路が付加されており，歪んだ電流波形を正確に評価する必要がある．そこで本論文では，時間領域随伴変数法（TDAVM）を用いて，磁界・電気回路強連成解析における設計感度解析手法を提案し，前進差分法（FDM）と比較することで，妥当性を検討する．

5-122

平角線コイルベンチマークモデルの銅損評価に関する基礎的検討

◎井口達馬・高橋康人・藤原耕二（同志社大学）

平角線は，小型・高効率化が要求される各種モータやリアクトルなどの巻線に使用されている．平角線コイルの銅損は，要素分割を適切に行えば有限要素法により高精度で評価可能と考えられるが，キャリア高調波による表皮効果まで考慮すると実機適用時に要素数が膨大になる．その膨大な計算コストを削減するために，解析式との併用や非適合要素，ズーミング法の活用などが考えられるが，各種数値解析手法の得失については不明瞭な点も残されている．そこで本稿では，各種数値解析法の性能比較が容易な平角線コイルベンチマークモデルを策定し，基礎的な検討を行った．まず，平角線コイルモデルとして，空芯の単層コイル，2層直列コイルおよび2層並列コイルを作製し，広範な周波数範囲における抵抗測定を行った．次に，膨大な要素数を削減するために，直交化無限辺要素法を援用した線形時間調和渦電流解析法による銅損解析を実施し，測定結果との比較を行った．

5-123

OpenFOAMによる油入変圧器の放熱器を対象とした固体流体熱連成解析

○神谷 陽（富士電機）

変圧器の開発においてCAE (Computer-Aided Engineering) が活用されている。一方、商用ソフトウエア利用によるライセンス費用増加の抑制が課題となる。その解決策としてライセンス費用不要でライセンス数の制限のないオープンソースソフトウエア(OSS)の活用が挙げられるが、実用化に当たっては製品構造での精度検証が欠かせない。よって本報では熱流体解析の代表的なOSSであるOpenFOAMを用いて、油入変圧器の放熱器を対象とした固体流体熱連成解析を行い、実測及び商用ソフトウエアと比較した結果を示す。

5-124

磁路長の違いが変圧器電流に与える影響

◎池畑征哉・結城康平・大堀綾斗・井上大地・中嶋 高・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

変圧器を診断する手法として周波数応答解析（Frequency Response Analysis; FRA）が注目されている。しかしながら，FRAは現地に赴いて試験を行わなければならない，測定を適用するタイミングが定かになっていない，などの理由で運用上のコストが多くかかる欠点がある。 電力用変圧器には鉄心の励磁特性に起因する高調波電流を還流させるためにデルタ巻線が含まれることが多い。変圧器の内部故障によってΔ巻線の還流電流が変化すれば、還流電流をモニタしていれば変圧器内部故障発生有無を判定することができると考えられる。 本論文では，異なる構造の三相変圧器を用いて，一次側線電流および二次側巻線に発生する循環電流の基本波成分について検証した結果を報告する。

5-125

MCCB 多数回電流遮断時のアーク電圧

◎中島駿介・腰塚 正・日高邦彦（東京電機大学）・長崎豊毅・山口直哉（戸上電機製作所）

配線用遮断器は通常、同一接点で多数回故障電流を遮断する。ここで遮断回数と遮断性能の関係について、私たちの検討では多数回遮断するとアーク電圧の消弧ピーク値が低下するなどの結果が得られている。これは鉄グリッドが高温のアークにより加熱されることが原因だと考えられる。 本論文では900℃で30分加熱した鉄グリッドを用いて電流遮断を行い、アーク電圧の様相を調査した。 実験方法は、充電した4700μFのコンデンサから200μHのリアクトルを介して電流を通電させ、電極部分は接点間100mmで、銅細線を溶断させることでアークを点弧し調査を行った。 結果は、鉄グリッドの加熱回数が多くなるほど電流零点前のアーク電圧が低下していることが分かった。

5-126

循環電流を用いた変圧器の巻線故障診断手法に関する実験的検討

◎結城康平・池畑征哉・大堀綾斗・井上大地・中嶋 高・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

系統に接続されている変圧器は経年劣化等で故障する場合がある。変圧器は内部がブラックボックスになっているため、目視や機械的な診断によって故障を発見するのは難しい。そのため変圧器を電気的に診断する手法として周波数応答解析が注目されている。しかしFRAは測定を適用するタイミングが定かになっていない等の観点から運用上のコストが多くかかる欠点がある。系統に接続されている電力用変圧器には鉄心の励磁特性に起因する高調波電流を還流させるためにデルタ巻線が含まれることが多い。そこで本論文では、積鉄心三相三脚変圧器を用いて、1次側巻線で短絡故障が発生した際の循環電流の変化について実験的に検討した結果を報告する。

5-127

巻鉄心3脚変圧器の零相インダクタンス

◎倉島孝太朗・張 書しん・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

変圧器通過故障(Transformer Limited Fault: TLF)遮断の過渡回復電圧は変圧器の正相、零相インピーダンスに大きく影響される。近年増加している3脚鉄心変圧器では零相の磁束が鉄心外に出るため、零相インピーダンスが単相変圧器とは異なる。同じ3脚鉄心でも中、小容量変圧器では巻鉄心タイプが用いられることが多い。巻鉄心では積鉄心と磁路の違いから零相磁束の様相が異なると考えられるが、検討された例はほとんどない。本研究では巻鉄心変圧器を自作し、その零相インダクタンスを測定した。また磁界解析によってインダクタンスを再現した。

5-128

フライバックコンバータの1MHz動作に向けたトランス用磁性材料の評価および検討

◎田村知孝・中山健太郎・佐藤宣夫（千葉工業大学）

近年，SiCやGaNなどの次世代ワイドバンドギャップ半導体の実用が本格化しつつあり，これらのデバイスを利用した製品の高機能化に大きく貢献している．さらに，これらのスイッチ素子の改善によりフライバックコンバータをはじめとする電源回路の更なる小型軽量化を目的としたスイッチング周波数の高周波化が行われている．一方で，高周波化に伴う磁性部品の損失増加が認知されている．そこで本報告では，1 MHz動作のフライバックコンバータを想定し，当該動作に適したトランス用磁性材料選定のためにB-Hカーブ測定に基づいたフェライトおよび圧粉磁心の鉄損の周波数特性を取得した結果を述べる．

5-129

SAP形変圧器の開発

◎衣笠卓一・武田康一・羽柴靖人（関西電力送配電）・柳瀬直人・中島陽一（三菱電機）

託送料金の低減が求められる昨今の状況下で変圧器のコストダウンを目的として、当社はこれまでも電圧階級77kVクラスの配電用変圧器を対象に仕様統一検討を行ってきた。一方、さらに上位の電圧階級では機器仕様を完全に統一することは難しいが、仕様差異があっても、変圧器本体配置、外装品配置を極力変更しないようにすることで、現地工期短縮、仕様打合せ期間の短縮、および設計工期短縮等、業務効率の改善が図られる。今回、275kVクラスの連系用変圧器を対象に、標準化変圧器：Standard Arrangement and Parts transformer（SAP形変圧器と称す）を開発したので紹介する。

5-130

モールド変圧器に対する寿命診断

◎國峯由季・湯本哲史・松本将卓・天田博仁・齋藤亮太・菊池要一・松崎 亨・中平雅士（東日本旅客鉄道）

取替推奨時期を経過した変圧器について余寿命を算出できないか検討した。変圧器解体前に配電用6kVモールド変圧器の規格であるJIS C 4306-2013に基づく試験を実施し、解体後に試験片を用いたモールド材料特性試験、巻線内部状況確認を行うことで製品に劣化の兆候がないか確認した。

5-131

パームヤシ脂肪酸エステル（PFAE）入り変圧器の油中ガス発生傾向と異常診断について

○栗原二三夫・大橋優一（東光高岳）

PFAE変圧器の油中ガス生成傾向（実器データ），異常模擬検証によるPFAE特有のガス生成傾向の特徴を検証により把握し，PFAE変圧器の油中ガスによる変圧器状態変化の兆候の早期発見（異常診断）の考え方を検討しまとめた。

5-132

変圧器のFRA診断を想定した過渡現象解析モデル－二重巻線モデルに対するFRA伝達関数の測定と解析－

◎小林諒太・菊池秀平・八島政史（東北大学）・宮嵜 悟（電力中央研究所）

電力用変圧器の巻線の変形および位置ずれなどの異常を検出する手法として, 周波数応答解析（FRA）が注目されている。導体等の幾何学的配置を直接与える電磁界モデルは、各種異常を巻線の形状や配置を変えることで直接模擬できるのでFRA伝達関数の解釈の検討において有用である。本稿では，変圧器巻線の位置ずれを想定できる120巻と50巻の二重巻線モデルを作成し, 位置ずれに伴う伝達関数の変化を実測ならびに解析で評価をした。4種の伝達関数測定を行い位置ずれによる伝達関数の変化を確認した。また50巻の二重巻線モデルで位置ずれがない状態を電磁界モデルで再現し解析を行った。10kHz～1MHzまでの周波数帯で実測と解析がほぼ一致し電磁界モデルの妥当性を確認した。

5-133

三次元解析を用いた変圧器短絡時における締付金具の応力評価

◎竹中裕亮・西水 亮・山岸 明（日立製作所）

変圧器の短絡時には巻線に大電流が流れ、電磁力に起因する振動機械力が発生する。一般に、振動機械力による巻線の変形を抑制するため、巻線には締付金具により圧縮力が加えられている。通常、締付金具の強度設計は、巻線をばね-質点系とみなして計算した振動機械力)のみを考慮しており、形状における弱点を把握することができない。本稿では、締付金具の最適な強度設計に向けて、短絡時の締付金具に生じる応力について三次元解析を用いて評価した。結果、締付金具に加わる動的な応力の分布が明らかとなり、締付金具の最適設計への利用の可能性を示した。

5-134

カロリー法による水冷式中周波変圧器の損失同定と限界熱損失解析

◎越智友也・中尾一成・木村紀之（福井工業大学）・門馬修一（テクノ電気工業）

High power density of transformer is required for offshore wind farm and railway. Water cooling can be expected for realizing high power density of transformer. We measured the loss by the calorie method and compared with it by a power meter. Using the experimental results of loss as boundary conditions, the limit loss of the transformer was determined by thermal fluid analysis. From the results, the water cooling can be cooled for the iron core 3 times and for the coil 13 to 14 times of the loss compared to the conventional cooling method.

5-135

フルオロニトリル混合ガスを使用した170kV級SF₆ フリーガス絶縁VTの開発

松葉晃明・植村有希・澁谷大輔・◎芝崎将之（日新電機）

現在、GISに適用されている絶縁ガスは、SF₆ガスが主流となっている。しかし、SF₆ガスは高い絶縁性能を有している反面、地球温暖化係数が高いガスとなる。そのため近年、欧州地域および韓国において、SF₆ガスを適用しない環境に配慮したGISの開発・運用が進められている。韓国のGISメーカーの多くが、フルオロニトリルとCO₂を混合したガスで新たな170kV級GISの開発を進めていることから、当社も同じガスを適用したSF₆フリーガス絶縁VT の開発を行った。混合ガス適用により、SF₆ガスに比べて地球温暖化係数の大幅な低減が可能となる。本論文では、その概要について報告する。

5-136

無絶縁REBCOコイルにおける層間電気抵抗の高熱的安定性と励磁遅れ時間への影響評価

◎坂本幸輝・吉原優花・濵中麻衣・津吉杏佳・根本羽衣・北村真由・石山敦士（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は、高磁場全身用MRI及び医療用加速器を対象とした高温超電導コイル化技術の開発を目指している。その中で二律背反の関係にある高熱的安定化と高電流密度化を両立できる手段として、無絶縁(NI)REBCOコイルの研究を行っている。このNIコイルの課題の一つに高熱的安定性と励磁遅れ時間短縮の両立があり、この2つは層間電気抵抗に関して二律背反の関係にある。そこで今回は、層間電気抵抗をパラメータとして発熱量から熱的安定性を数値的に解析すると同時に、励磁遅れ時間も解析し、適切な層間電気抵抗の値の決定法について検討したので報告する。

5-137

無絶縁積層REBCOコイルにおけるピックアップコイルを用いた局所劣化の検出

◎結城拓真・緒方隆充・白井航大・村上将吾・石山敦士（早稲田大学）

我々は、高磁場全身用MRIや次世代医療用加速器をターゲットとした高温超電導コイルシステムの開発に取り組んできた。二律背反の関係にある高熱的安定化と高電流密度化を両立する手段として、電気絶縁を施してないREBCO超電導線を巻線した無絶縁コイル(NIコイル)に着目した。NIコイルでは周方向だけでなく径方向にも電流が流れるため、従来の絶縁コイルに比べて複雑な電磁現象が起きる。そしてNIコイル内の局所劣化の検出法はまだ確立されていない。熱的安定性の高いNIコイルでは、局所劣化が発生した場合においても継続して運転できる可能性が示されている。しかし、局所劣化のモニタリングに関しても検討を行う必要がある。先行研究では、NIシングルパンケーキコイルに対して、ピックアップコイルを用いた検出法についてその有効性が数値解析により検証されている。 上記のMRIや加速器応用においては、複数のREBCOコイルを積層したマルチコイルシステムとなる。本研究では、試作した3つのNI-REBCOダブルパンケーキ(DP)コイルを積層したモデルコイルを対象として、ピックアップコイル法による局所劣化の検出の可能性について、実験と解析の両面から検討した。

5-138

複数の特性劣化部分と層間接触不良を有する無絶縁REBCOコイルの特性評価

◎濱田一希・濵中麻衣・吉原優花・北村真由・津吉杏佳・根本羽衣・石山敦士（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は高磁場MRIや医療用加速器への応用を目的としたREBCO超電導コイルシステムの開発を目指している。REBCO線材は、現状最も優れた超電導特性を有するが、一方で、極めて高価であるため、その応用実現・拡大には低コスト化が必須となる。そこで、欠陥・劣化のある線材の使用、すなわち、特性のバラツキを許容するコイル製作技術として「無絶縁（NI）コイル巻線技術」を適用し、低コスト化を図ることが検討されている。しかしNIコイル巻線では、層間接触不良部分が生じた場合、期待される熱的安定性が損なわれる可能性がある。そこで今回は、複数の特性劣化部分と層間接触不良部分を持つNIコイルの熱的・電磁的挙動について、数値解析に基づく評価を行ったのでその結果を報告する。

5-139

無絶縁REBCO高温超電導コイルシステムにおける励磁遅れを考慮した遮蔽電流磁場解析

◎小久保早希・上田聡美・村上将吾・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）

次世代医療用加速器や高磁場MRIの実現を目指し、無絶縁REBCO超電導コイル(NIコイル)の開発に関する研究を行っている。これらの応用においては、時間的、空間的に高い磁場精度が求められるが、REBCO線材がテープ形状のため、変動磁場に伴って遮蔽電流が誘導されて磁場精度が悪化することが問題となる。さらにNIコイルでは層間が絶縁されていないため、周方向だけでなく径方向にも電流が流れてしまい、励磁遅れが発生する。本研究ではこの2つの現象を同時に考慮した遮蔽電流解析を行い、先行研究により時間安定度向上への有効性が確認されている電流制御法の効果に、励磁遅れが与える影響を評価した。

5-140

無絶縁REBCOパンケーキコイルにおける銅安定化層の層厚と層間電気抵抗値が熱的安定性にもたらす影響評価

◎長渕大河・吉原優花・濵中麻衣・根本羽衣・北村真由・津吉杏佳・石山敦士（早稲田大学）

我々は医療用加速器やヒト全身用高磁場MRIへの応用を目指して，無絶縁(NI)コイルの研究を進めてきた。NIコイルでは二律背反の関係にある高熱的安定化と高電流密度化の両立が期待されている。先行研究では，上記応用に使われる口径が500mm以上のNIコイルにおいて銅安定化層厚がコイルの熱的安定性に与える影響が極めて小さいことが示されている。しかし銅安定化層厚の削減が可能である層間電気抵抗値の指標は示されていない。そこで今回は，伝導冷却条件下で銅安定化層厚と層間電気抵抗値を変化させて解析を行い，銅安定化層厚が削減可能となる層間電気抵抗値およびその際の電流密度について検討したので報告する。

5-141

1 T 級高温超伝導電磁力平衡ヘリカルコイルの開発-巻線鎖交磁場解析による臨界電流特性の評価-

◎深井悠太郎・鎌田太陽・野村新一（明治大学）

超電導磁気エネルギー貯蔵用超電導コイルを高磁場化する上で高温超電導の利用が検討されているが、高温超電導線は機械的ひずみによって臨界電流が大幅に低下する。そこで著者らは超電導コイルに発生する電磁力が低減可能な電磁力平衡コイル（FBC）を適用し、REBCO線材を用いた1 T級モデルコイル（HTS-FBC）の開発を進めている。一方REBCO線の臨界電流特性は磁場の印加角度によって異方的なふるまいを示す。本稿ではヘリカル巻線を鎖交する磁場についてFBCの転倒力最小ピッチと測地線ピッチのそれぞれで解析し、臨界電流ー磁場依存性との比較によりHTS－FBCの特性について議論する。解析結果より、4.2 K下では線材c軸方向磁場の低減によって臨界電流の低下が低減されることがわかり、測地線ピッチによって転倒力最小ピッチと同様に臨界電流の低下を低減できることが期待できる。

5-142

高温超電導スケルトンサイクロトロンにおけるREBCO線材細線化による遮蔽電流磁場低減の検討

◎糸日谷浩平・白井航大・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）・渡部智則・長屋重夫（中部電力）・福田光宏（大阪大学）

我々はα線放出RI(211At)を安定的に製造・供給できる超小型・高強度・エネルギー可変の加速器である高温超電導スケルトンサイクロトロン（HTS-SC）の開発に取り組んでいる(1)。HTS-SCでは粒子加速面において、空間的・時間的に高精度な磁場分布が要求されるが、使用を想定するREBCO線材はテープ形状のために、磁場変動に伴い遮蔽電流が顕著に誘導される。この遮蔽電流によって発生する不整磁場の影響が非常に問題になっている。 我々はHTS-SCの小型実証モデルであるUltra-Baby Skeleton Cyclotron(UBSC)を2021年度に試作、2022年度に実験にて電磁的・熱的・機械的振る舞いを確認する予定である。 今回はUBSCを対象に、REBCO線材に細線化処理をした場合の解析を行い、遮蔽電流磁場の影響評価を行ったので報告する。

5-143

高温超電導スケルトンサイクロトロンにおける可変出力エネルギーを考慮した遮蔽電流磁場の数値解析

◎日比祐太・白井航大・緒方隆充・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）・渡部智則・長屋重夫（中部電力）・福田光宏（大阪大学）

我々は、空芯のREBCOコイルシステムを用いた高温超電導スケルトンサイクロトロン（HTS‐SC）の開発に取り組んでいる。HTS-SCでは粒子加速面において、高精度な磁場が要求されるが、磁場変動に対し遮蔽電流が顕著に誘導され不整磁場の原因となる。そこで、HTS-SCの小型実証用モデルである、Ultra-Baby-Skeleton-Cyclotron(UBSC)を試作し、電磁的・熱的・機械的振る舞いを確認する予定である。 UBSCを対象に382A、483A、540Aの順番に運転電流を変化させたときの遮蔽電流磁場の振る舞いを調べると、382Aにおいて、1サイクル目と2,3サイクル目で遮蔽電流磁場の値が大きく異なっている。磁場の再現性を向上させるため、運転電流の最大値を基準に通電電流をオーバーシュートさせた時の遮蔽電流の振る舞いを数値計算し、遮蔽電流磁場による不整磁場の影響評価を行った。

5-144

coated conductorとBi2223を用いた航空機用積層超伝導導体の研究開発

◎川合修平・山口作太郎・神田昌枝・岩田暢祐（中部大学）

1.背景近年、航空機の電気・電動化（MEA：More Electric Aircraft）が進み、航空機用に超伝導ケーブルの利用が検討されている。 2.目的 coated conductorとBi2223超伝導テープ線材を組み合わせてより臨界電流Icの高いケーブル導体の試作。 3.方法 6本の超伝導テープ線材を積層させて、最外層2本はcoated conductor、内側4本をBi2223とした。各層毎に電流方向を反転させ、積層導体並列通電時の臨界電流測定を行った。 4.結果積層導体に流す電流を上げると、線材3+(Bi2223)は低い電流で電圧が発生した。その結果、並列運転時の全導体臨界電流は553Aとなった。 5.まとめ今回の提案は直流ケーブルであるが、各層に流す電流は逆方向のため、多極磁場配位になる。このため、発生総磁束が最も少ない構造でもある。従って、交流損の低下も期待できる。

5-145

超伝導バルク磁石の産業応用への強磁場着磁

○岡 徹雄・島田朱子・井上夏希・古澤 真・坂井直道・Naomichi Sakai Naomichi Sakai・miryala Muralidhar miryala Muralidhar（芝浦工業大学）・masato Murakami masato Murakami（足利大学）・Kazuya Yokoyama Kazuya Yokoyama・仲村高志（理化学研究所）

低温に冷却した高温超伝導バルクは、外部からの磁場で生じる誘導電流によって、材料そのものが磁石として利用できる。90 Kの超伝導遷移温度をもつこの超伝導バルクの産業応用が研究されているが、小型で使いやすい装置とするためには、パルス磁場によって着磁することが必要である。本研究では様々な応用に強い磁場を提供するため、パルス着磁によって得た強磁場捕捉の状態とその条件について論じる。

5-146

高温超電導バルク体の案内力モデリングと非接触型回転動力伝達トルク概算

◎冨安勇成・野村新一（明治大学）

超電導バルク体のピン止め効果を利用した磁気浮上では鉛直方向の浮上力に加えて，バルク体の水平方向移動を妨げる案内力が発生する．本稿では超電導体の案内力モデリングについて考え検証実験を行う．また，超電導バルク体を利用した非接触型回転動力伝達について考え，伝達トルクを概算する．具体的にはバルク体を円盤状に複数配置，着磁後に円盤を回すことでコイル側へ回転動力を伝達することを試み，伝達トルクで評価する．バルク体の案内力は円盤に対し常に接線方向であり円盤半径と垂直に交わるため，伝達トルクは最大案内力と円盤半径の積で導出できる．以上より，まずHTSバルク体の案内力モデル式を構築する．次にモデルを検証するためGd系外径66 mm，高さ20 mmのHTSバルク体とコイルを用いて案内力の測定実験を行った。最後に伝達トルクの概算をする．ただし，バルク体の個数は3個配置した場合を検討する．

5-147

パルス着磁されたHTSバルク磁石におけるヨークの大きさが着磁特性に及ぼす影響

○横山和哉（足利大学）・岡 徹雄（芝浦工業大学）

本研究は，HTSバルク磁石を航空機の電気推進装置等に応用することを目的とし，システム全体の小型・軽量化を図るため，着磁の際に用いられる軟鉄ヨークに注目し，その大きさが着磁特性に及ぼす特性を評価した。幅15 mmと10 mmのクロス型ヨークの着磁結果を比較したところ，ほぼ同じ総磁束量となり，さらにヨークの単位重さ当たりの総磁束量を比較した結果，小型ヨークで約24%大きな値を得ることができた。これにより，捕捉磁場を維持しつつ，ヨークの小型化が可能であることを確認できた。

5-148

接地抵抗依存度の低い鉄道信通機器用耐雷トランスの開発

◎荒木俊二（サンコーシヤ）・生井勇己（東日本旅客鉄道）・安喰浩司・小野寺寿彦（サンコーシヤ）

鉄道の信号通信機器の電源へは、サージ移行率0.1％以下の耐雷トランスが使用されいるが、この性能は耐雷トランス単体での性能であり、シールド層の接地抵抗が0Ωの場合に相当し、接地抵抗が高くなるにつれてサージ移行率も高くなる。 このため多くの事業者では耐雷トランスの接地抵抗は10Ω以下（A種接地）が基準とされている。しかしA種接地の施工が困難な箇所においてはサージ移行率が高くなり、耐雷トランスのサージ抑制効果が十分に生かされない状況となる。そこでサージ移行率の接地抵抗に対する依存度が低い新形耐雷トランスを開発した。

5-149

全席指定通勤鉄道の実現のためのユーザインタフェース改善手法の検討

◎井上佳之・高木 亮（工学院大学）

大都市の通勤鉄道の混雑緩和と機能向上を目指し，筆者らは通勤鉄道における全予約化を提唱している。しかし，その実現に必要な予約の手間の低減は，近年の携帯情報端末の技術進歩によってもいまだ困難な課題である。 本論文では，全席指定通勤鉄道の実現に向けて課題を整理し，特に問題となる予約の手間を軽減するユーザインタフェースについて改善の方向を見いだすことを狙って筆者らが行っている検討の現状と展望について述べる。

5-150

無線を用いた列車制御におけるシステム構成プロセスに関する検討

○北野隆康・熊澤一将・小川祥吾・藤田浩由・祗園昭宏（鉄道総合技術研究所）

近年，地上設備の削減や柔軟な運行制御を目的として無線式列車制御システムの導入や展開の検討が進んでいる。システム構成を決定する上では機能や要素技術の選定とその根拠が重要となるが，プロセスを明確化することで具体的な設計の前段階でコスト試算や系統間での調整が可能となり，効率的な導入が可能となる。本発表では，システムを構築する方針や手順に関する検討について紹介する。

5-151

鉄道システムの第三者安全性評価について

○林田守正・佐藤安弘・竹内俊裕・工藤 希・押立貴志・長谷川智紀・森 裕貴（自動車技術総合機構交通安全環境研究所）・水間 毅（東京大学）

当研究所はこれまで、各種の鉄道システムに対し、技術的な検討を主体とする第三者安全性評価を実施してきた。しかし近年は、メーカ等が鉄道システムを輸出する際に要求される安全性の証明の手段は、安全関連の国際規格（IECシリーズ等）への適合性について第三者評価を受け、認証を取得することが主流となっており、当研究所でも鉄道認証室を設置してそのニーズに対応している。このような現状と評価事例に基づき、第三者安全性評価の今後の在り方について考察した結果を述べる。

5-152

素早い列車設定のための「影スジモデル」の提案

◎天沼大輝・高木 亮（工学院大学）

ある鉄道路線において列車を新たに設定しようとするとき，その路線の施設それ自体による制約に加え，同一路線上に既に設定されている他の多くの列車との関係から生じる制約を，すべて満たす必要がある。そのような運行経路を列車ダイヤ図上において見いだす作業は容易とはいえず，一部専門家の職人芸に依存しているのが実態である。今回，より見通しよく，素早くこの作業を実行するためのモデルとして「影スジモデル」を考案したので，その概要を述べる。

5-153

列車運転シミュレータを活用した運転支援機能の有用性検討と考察

◎渡邉翔一郎（東京電機大学）・竹内俊裕・押立貴志（交通安全環境研究所）

鉄道分野では、運転士に対して情報提供を行う運転支援装置が開発されている。この装置の検証法には、コンピュータ内で車両の動作を模擬するシミュレーション解析や、試運転列車による実験が挙げられる。本論では、列車運行システム安全性評価シミュレータを活用することにより、先に挙げた検証法よりも簡易かつ効率的に実験を行うことができ、運転支援法の研究を効果的に進められることを説明する。そして、これまでの研究成果の概要を述べつつ、装置構成や入出力できる情報を整理して、今後の研究における検討課題を考察する。

5-154

運転曲線予測による貨物列車向け運転支援システムの開発

○小川知行（鉄道総合技術研究所）

鉄道車両の運転士を対象として、運転品質の向上を目指した運転支援システムが各種開発されているが、予め定められた地点や速度に応じた支援内容とするものが一般的である。運転支援システムに運転曲線を予測する運転シミュレーションを組み込むことで、運転状況に応じた高度な運転支援が可能となる。そこで、運転シミュレーションを組み込んだ貨物列車向けの運転支援システムを開発した。 貨物列車は、旅客列車の運行時間帯の走行においては余裕時分が多く運転上の自由度が高くなるという特徴がある。そうした中で、貨物列車は、通過駅が主体であり、予め定められた時刻通りに各駅を通過することが求められる。そこで、本システムでは、運転士に対してタブレット端末により支援情報を提示して、定時運行の支援を行う。

5-155

蓄電装置搭載電気車を用いた架線レス走行の省エネルギー化についての基礎検討

◎井坂 優・高木 亮（工学院大学）

車載蓄電装置 (On-Board Energy Storage System: OBESS) による列車の架線レス走行は，電車線路設備の設置や保守が不要でありながら電気運転の様々なメリットを享受できる。しかし，現状のOBESSの能力では，通常の電気鉄道と比較して消費エネルギーの増加が避けられず，OBESSそれ自体のコストの高さやエネルギー貯蔵能力の低さとあわせて既存電気鉄道の架線レス化は非現実的である。逆に，消費エネルギーを従来の電気鉄道と同等レベルまで減らせるならば，架線レス化の可能性が高まると考えられる。架線レス走行では，何らかの方法でOBESSにエネルギーを充電し，それを走行時に消費する。本研究では，OBESSのエネルギー供給充電方法の違いと消費エネルギーの関係を簡易なモデルで検討する。

5-156

Energy Saving Effect of Catenary Free Light Rail Transit with Onboard Supercapacitors

◎Jincheng Zhao・Masafumi Miyatake（Sophia university）

The energy saving effect of using supercapacitors in catenary free light rail transit (LRT) is discussed in this paper. The supercapacitor is assumed as an energy storage device because of its long lifetime and short charge/discharge time. In order to evaluate the energy saving effect, the data of Toyamako line is being referred, and the train model is created in MATLAB. The result shows that the supercapacitors can satisfy the operation of the train and the stopping time is enough for the charging，simultaneously it reduced energy consumption compares to conventional.

5-157

電気車車載ESSのフィードフォワード充放電制御における運動エネルギーの考慮

◎光永淳史・大竹淳平・高木 亮（工学院大学）

直流電気車へのエネルギー貯蔵装置(Energy Storage System: ESS)の車載は，電力回生時の回生負荷不足による回生失効や力行時の電車線電圧低下などの問題の緩和手法として有効だが，車載ESSの容量・重量の制約は厳しく，十分な効果を得るには高度な充放電制御が必要となる。SOE (State of Energy) カーブを用いたフィードフォワード充放電制御は筆者らの研究グループが提案した高度な充放電制御であるが，SOE カーブと実際のESS の SOE との乖離が生じた際，その原因によっては制御に含まれる乖離補正制御が不適切になりうる。そこで，本研究では以前の筆者らのグループによる提案における乖離補正制御を改良する手法について議論する。

5-158

鉄道車両制御回路用リチウムイオン電池の劣化診断手法基礎検討

○田口義晃・門脇悟志・吉川 岳（鉄道総合技術研究所）・加藤宏和・佐藤賢司（東海旅客鉄道）・関野正宏・月原達也（東芝）・吉川賢一（東芝インフラシステムズ）

新幹線車両N700Sにおいては、DC100V制御回路用の電池にリチウムイオン電池が使用されている。一般に制御回路用途の場合は、利用できる充放電データに、車両起動後に記録装置が起動するまでは未記録となる、浮動充電される期間が多く単調な電流パターンとなるなどの演算上の制約が生じる。そこで、このように制約がある運用中データからでも劣化診断を行える簡便な手法を提案した。電池モジュール単体で実施した加速劣化試験において、劣化度の実測値と提案手法による算定値の間に良好な相関が認められたことから、提案手法の有効性を確認したので報告する。

5-159

直流電気車の車両性能最適化に関する基礎検討

◎渡辺賢央・高木 亮（工学院大学）

車両の性能（加減速性能）は，車両のコスト，エネルギー消費特性，列車ダイヤなどに影響を及ぼす重要な要素である。しかし，車両性能を所与として列車ダイヤや運転曲線の最適化を行った研究は過去に多く見られるが，列車ダイヤを元に車両性能の最適化を試みた例はあまりない。筆者らは電気車の車両性能最適化に関する基礎検討を進め，トレインアワーと車両コストを含めた評価関数による簡易な最適化をすでに試行したものの，車両性能の評価において重要なエネルギー消費量については考慮していなかった。本発表では，エネルギーコストを評価関数に加えた場合の車両性能の評価結果について示し，議論する。

5-160

車両モニタリングデータを用いた車両駆動用インバータの充電抵抗器における状態監視の一手法の検討

◎立松知紘・川村淳也（西日本旅客鉄道）・近藤圭一郎・小林宏泰・谷口晴城（早稲田大学）

本研究では、機器の状態に応じて実施する予防保全（CBM）や検査の自動化に向けた検討の一例として、鉄道車両の主回路機器に含まれる充電抵抗器の状態監視手法を検討した。具体的には、車両から収集されるビッグデータに含まれるフィルタコンデンサ電圧のデータからフィルタコンデンサの静電容量を推定し、この静電容量の推定値と同じくビッグデータに含まれるフィルタコンデンサの充電時間や架線電圧のデータ等から充電抵抗器の抵抗値を推定する手法を提案した。精度評価の結果、提案手法で算出された抵抗の推定値は直近の検査の実測値と比較して平均で5%、最大で10%大きい結果であった。

5-161

大容量の誘導集電システム

○山本圭介・榎本 淳・古賀俊作・北野淳一（東海旅客鉄道）

超電導リニアでは列車への電源供給の手段として排ガスを排出しないクリーンな誘導集電を採用することとしており、走行試験を実施している山梨実験線においても使用されている。当誘導集電システムの特徴は大容量の給電を実現している点であり、本稿ではその概要を紹介する。

5-162

福島駅構内き電系統上下分離に向けた検討

◎菊池勇輝・佐藤栄徳・小島洋介・伊藤和博・藤本 聡・角田 孝・加藤健太・服部正樹・加藤 洋（東日本旅客鉄道）

上下同相き電の交流き電回路において、駅構内の上下わたりセクションを電車が通過する際、上下線間の電位差によりアークが発生し、セクション部が破損する事故が過去に報告されている。福島駅構内では、上下線の電位差を低減するため、駅構内に上下タイの断路器を設け、福島変電所201回線からの同一電源としている。現在、当社では、福島駅構内（東北新幹線）の上り側に山形新幹線用のアプローチ線新設を計画している。しかし、構内一括き電により、東北本線のき電停止間合いが短いため、施工間合いへの支障が課題である。このため、福島駅構内のき電系統上下分離に向けてき電系統構成や上下線の電位差を検討したので結果を報告する。

5-163

等価自己インピーダンスを用いた4線条ATき電回路の解析計算法に関する一考察

○吉井 剣（鉄道総合技術研究所）

ATき電回路は、多線条からなる梯子形交流回路であり、相互インピーダンスの存在により回路方程式が極めて複雑になるため、計算機を用いた数値シミュレーションによる解析が主流である。一方で、線間電圧や各線条の電流分布等、基礎的な特性を解析的に求めたいという場面も多い。そこで、等価自己インピーダンスという概念により、相互インピーダンスを見かけ上排除する簡略化手法がある。 本稿は、3線条回路までしか適用できないとされてきた等価自己インピーダンスを、電車線、ATき電線、レールに加え、AT保護線がある4線条のATき電回路に対して適用するための各種方法について比較検討した。

5-164

高電圧直流き電用DC-DC変換器のシミュレーション検証

◎石原浩毅・藤井俊行・石山琢麻（三菱電機）・吉井 剣・生出珠之助・森本大観（鉄道総合技術研究所）・谷内田貴行・森島直樹（東芝三菱電機産業システム）

電気鉄道において、直流き電方式は交流き電方式に比べて低電圧・大電流のシステムであることから、力行時や回生時にき電損失が大きいという課題がある。そこで、き電損失の減少、回生電力の有効活用を目的とした高電圧直流き電方式が提案されている。この方式に使用するDC-DC変換器（以下、変換器）に関して、筆者らはこれまでに、電車線の電圧と高電圧き電線の電圧の比率が一定になるよう制御するDC-AT制御の効果検証や、変換器の損失および基本動作の検証を行ってきた。 本稿では、複数の変換器と車両を模擬したモデルを構築し、回路シミュレータを用いて過渡応答動作を確認する。また、変換器の瞬時的な過負荷を抑制する負荷分担制御を実装し、その効果についても検証する。

5-165

高電圧直流き電用DC-DC変換器に適した回路方式の選定

◎生出珠之助・吉井 剣・森本大観（鉄道総合技術研究所）・石山琢麻・石原浩毅・藤井俊行（三菱電機）・谷内田貴行・森島直樹（東芝三菱電機産業システム）

直流き電方式は、交流き電方式と比較して低電圧・大電流のシステムであることから電圧降下・き電損失が大きい、変電所数が多いといった課題がある。そこで、電車線より電圧の高い高電圧き電線と、DC-DC変換器を付加したき電回路方式が提案されている。本稿では、この変換器の実装に適し、高効率かつ安定な電力授受を行うことができる回路方式を検討した。

5-166

鉄道環境における太陽光パネル劣化診断

◎天田博仁・松本将卓・菊地伸也・中平雅士・林屋 均（東日本旅客鉄道）

東京駅新幹線ホーム上家に設置して撤去したパネルについて電圧－電流特性（V-I特性）を実施し，劣化の進行度合いを評価し，一般環境下の太陽光パネルの劣化率との比較を通じて，鉄道環境下特有の劣化の有無や原因推定をする。また，現在，東京駅東海道線ホームや東北地方の大規模太陽光発電所の発電実績より年間劣化率を算出し，パネル劣化診断結果と比較したため報告する。

5-167

非常用発電機能を備えた蓄電システムの検討

◎保坂朋子・西 健太郎・南之園弘太・松本将卓・橋本 慎（東日本旅客鉄道）

非常用発電機は保守に手がかかる一方で、設備の稼働率が低く、CO2も排出することから保守性及び環境性に課題がある。また、当社における駅の電源構成は低圧切替方式を採用しており、静止型電源切替器の設備点数が多く、保守性に課題がある。そこで、本稿では「停電に強い駅」「設備のスリム化」「省エネ」を目指し、蓄電池により非常用発電機と静止型電源切替器の機能を1つに集約し、さらに太陽光発電とエネルギーマネジメントシステムも連携してピークカットも実現できる蓄電システムの導入及びその基本仕様について検討した。

5-168

電鉄用回生インバータの高周波電流伝搬経路の評価

◎水本佑樹・佐藤栄徳・中平雅士・林屋 均（東日本旅客鉄道）・小西武史・生出珠之助・渡邉有人・矢野 俊・小野雄人（鉄道総合技術研究所）

JR東日本では、車両の制動時に発生する回生電力の有効活用を目的として、回生電力貯蔵装置や回生インバータ等の導入を進めている。これらの装置は、車両と同様に運転時に高調波を発生するため、回生インバータが発生する高調波伝搬のメカニズムの調査を目的とし、高周波電流の測定を実施した。今回の測定対象に対しては、スイッチング周波数の整数倍において高調波電流経路が確認された。また、回生インバータの動作モードによって高調波電流分布が異なるという知見を得た。本稿では、回生インバータの高調波電流伝搬経路を調査するために実施した測定の結果について報告する。

5-169

直流電鉄用き電システムにおける変換器レス電力貯蔵装置導入効果の評価

◎塩川浩太・濱田暁広・渡部貴夫（東日本旅客鉄道）

当社で回生電力有効活用を目的として導入している電力貯蔵装置のうち、ニッケル水素蓄電池を使用した変換器レスタイプの装置（以降：NiMH-ESS）は運用開始から5年が経過し、十分な運用実績データを得た。そこで、NiMH-ESS導入箇所とその周辺の変電所のき電電力量を用い、NiMH-ESS導入前後におけるき電電力量削減効果について総合的に評価を行った。その結果、1日あたり0.69MWhの装置導入効果があることが判った。本論文では導入効果の評価方法とその結果について述べる。

5-170

高圧配電線路における光ファイバセンシングを用いた火災検知の導入検討

柘植修平・◎関川智英（東日本旅客鉄道）

近年、外的要因により鉄道沿線の高圧配電線路が焼損し鉄道運行に支障をきたす事象が発生した。この対策として、ケーブル及び保蔵物の高難燃化等を実施している。 一方、現状における火災発生時の情報知得は人間系による知得、若しくは火災に起因したケーブル焼損に伴うトリップによる知得となり、火災発生時の情報知得や場所の特定に時間を要している。 そこで、火災発生知得及び箇所特定を早期化することで、消火活動の早期化や鉄道運行の早期復旧を目的に、配電線路における光ファイバセンシング技術を用いた火災検知システムの導入検討を行った。

5-171

整流器の回路構成と列車負荷が整流器交流側電路の地絡に与える影響についての考察

○伊東和彦・宮口浩一（西日本旅客鉄道）・吉井 剣（鉄道総合技術研究所）・前田佳伸（近畿大学）

筆者らは、過去に整流器用変圧器と整流器間の交流電路で発生させた地絡事象から、同電路の地絡検知手法の検討を進めており、現在、地絡時に同電路の電流に含まれる3次高調波成分に着目した検知手法の開発を進めている。 しかしながら、これまでの検討は列車負荷のない6パルス整流器のみを対象としており、列車負荷の影響も未検討であった。近年では12パルス整流器も広く普及しており、実際の地絡時には列車負荷列車負荷が存在することが十分考えられるため、これらの影響について確認する必要がある。そこで、本稿では列車負荷のある条件および12パルス整流器における同電路の地絡時の現象をシミュレーションにより確認した内容について報告する。

5-172

埼京線戸田変電所機器更新工事

神 直亨・◎川上直人・日野政巳・金岡正博（東日本旅客鉄道）

埼京線戸田変電所の機器は使用開始から約30年が経過し、経年による設備の劣化が懸念されていた。このため2016～2019年度の3年間にわたり変電所の一括更新工事を実施した。また、IP配電盤システムや等価24相変圧器を導入し保安度及び全効率等の向上を図った。

5-173

電鉄用変圧器の劣化診断に関する考察

◎高橋 諒・天田博仁・甘利 智・中村岳彦・中尾泰知・長野 岳・長谷川隆博・斎藤直樹・中平雅士・林屋 均（東日本旅客鉄道）

JR東日本では，これまで電鉄用変圧器の取替については，概ね経年30年を目安に時間ベースメンテナンス（TBM）で機器更新が行われてきた。本論文では，今後の電鉄用変圧器のコンディションベースメンテナンス（CBM）の実現に向けて，寿命評価に用いる1つの指標として利用率に着目し，解体調査による寿命推定結果との関係性を示した。その結果，当社内の電鉄用変圧器の利用率から多くの変圧器が最低でも30年以上の寿命が期待されていることが分かったので報告する。さらに，絶縁油中のフルフラール量など用いた間接的に寿命推定をした結果と，解体調査による絶縁紙の平均重合度による寿命推定の結果と比較をした結果についても報告する。

5-174

直流回路用電流センサの周波数・過渡・定常応答特性評価

○赤木雅陽・生出珠之助・吉井 剣・森本大観（鉄道総合技術研究所）

筆者らは高抵抗地絡故障を始めとした直流き電回路での特徴的な電流を精度良く評価するべく，地上用ホール式電流センサや高電圧回路用電流トランスデューサーの周波数特性などを明らかにしてきた。一方，高抵抗地絡故障の早期発見を地上車上間での電流値照合で行うことを念頭にした電流センサの特性評価に関する報告例は少ない。そこで種々の電流センサの電流値照合手法への適用可能性を検討すべく，鉄アングルと縞鋼板を用いた高抵抗地絡模擬試験を行い，周波数特性及び過渡・定常応答特性の面から評価したので報告する。

5-175

コンクリート柱直流高抵抗地絡の検出に関する実験的検討

○森本大観・赤木雅陽・吉井 剣・生出珠之助・樋口靖展（鉄道総合技術研究所）

直流高抵抗地絡の検出について、筆者らは電流に含まれる揺らぎ成分の抽出によって、大気中アーク放電を伴う1000A以上の地絡故障をほぼ検出可能とする手法を令和2年全国大会5-176で提案したが、今回、コンクリート柱に直流1500V、300A～800Aの通電を行い、提案手法における検出可否を調べた。併せて、同条件で金属電極ギャップ間の大気中アーク放電ならびに直接短絡での通電も行い、結果を比較した。提案手法により、大気中アーク放電を伴う地絡故障は検出可能であることを再確認できたが、コンクリート柱への地絡では、平常時のき電回線電流に含まれる低周波揺らぎ成分との差が小さく、検出は実用上困難である。

5-176

直流電鉄地絡時のレール電位特性

○田口正和・中道好信（永楽電気）

直流電気鉄道において、地絡、特に数Ωの地絡抵抗のときの事故は、電車負荷との区別がつきにくい。 そのため、いったん事故が発生すると、事故点探索に時間を要し、結果として大きな輸送障害となることがある。この事故を検知するための保護継電器が設備されており、検知要素としてレール電位を検出している。レール電位は、レール・大地間の漏れ抵抗、また電車が移動負荷であることから、その数量的評価は複雑である。従来は主として、回路モデルを作成し数値計算によってきたが、解析的にその評価は十分になされていない。そこで今回、分布定数回路の観点から、解析的にその特性を導いたので報告する。

5-177

国際的な直流電化システムの課題とレール電位等の対策（第一報）

○柴川久光（無所属）

日本では直流電気鉄道は長い営業運転の実績がある。海外では、日本が支援する海外電気鉄道プロジェクトにおいて近年の国際規格に対応することが求められている。国際的な直流電化システム（国際規格に対応しているシステム）を架線方式の直流電気鉄道（1500V）に適用する場合、いくつかの課題に対処する必要がある。筆者は、代表的と思われるモデルを用いて、直流電気鉄道の電気的な数値計算を行ない、その結果について評価・検討を行った。本稿ではその概要について報告する。

5-178

電車線柱への架空地線固定支持鋼材の開発

◎赤間俊哉・根崎 誠・貴志俊英（東日本旅客鉄道）・王 祺・山田賢司（三和テッキ）

当社では高架橋上の多くの電車線柱が折損等の被害を受け、これまでに柱の耐震補強工事を行ってきたが、現行法では膨大な費用と工期を要する。そこで、著者らはこれまでに架空地線を門形支持物に直接固定支持することで線路平行方向に対する地震の揺れを低減する効果が期待できることを確認してきた。しかし、既存の架空地線の可動支持構造のままでは効果を期待できないため、新たに固定支持構造の開発が必要であった。本稿では、固定支持構造を実現する新たな架空地線の引留金具の試作を行い、新幹線で一般的な門形支持物における地震時の荷重を想定し目標耐荷重を定め、各試験において良好な結果が得られたので報告する。

5-179

新幹線シンプル架線化施工推進に関する検討

◎髙橋勇人・村上智美・立花悠哉・福島規至・小川健太・鈴木大翔・佐藤拓也・池ノ谷 亨（東日本旅客鉄道）

東北新幹線の電車線設備は大規模な更新時期を迎えており、更新工事の容易化や保守費の削減を目的として一括更新によるシンプル架線化を行っている。具体的には、線条3本のヘビーコンパウンドカテナリから、線条2本の高速シンプルカテナリにすることにより、設備点数が削減し、メンテナンスコストの軽減が期待される。本論文では、施工推進に向けて取り組んでいる内容について報告する。

5-180

列車通過時の高架橋振動により発生する電柱振動の変位と応力の関係

○常本瑞樹・以倉慶子・近藤優一・松岡弘大（鉄道総合技術研究所）

列車通過時の高架橋振動により電柱などの電車線路設備が大きく振動し、電線や金具が損傷する事例がある。設備損傷の対策要否判定については、損傷事例が発生した電線の疲労破断やボルトなど金具の摩滅に着目して、電柱振動振幅に関する目安値が提案されている。電柱に関しては、振動時の繰り返し荷重によって疲労破壊が発生する恐れがないかなどを確認することが重要である。本研究では、列車通過時の高架橋振動が電柱に与える影響について、電柱に発生するひずみを営業線において測定した。また、電柱の固有振動モードを考慮して、電柱振動時の変位から応力を予測すること検討し、計算値と測定値を比較して本手法の有効性を示した。

5-181

コンクリート柱の劣化状態評価に関する研究

◎花木尚広・金子 顕・島田喜明（東日本旅客鉄道）

JR東日本管内の電車線路支持物で用いられているコンクリート柱は、期待寿命を60年と定め建替えを実施している。しかし、期待寿命に明確な根拠はなく、今後20年間で期待寿命となる柱本数が、年間施工数量を大幅に上回るため、劣化状態評価に基づいた期待寿命の見直しが求められていた。そのため、当社管内の高経年柱を収集し、曲げ強度試験、中性化試験、塩化物試験等の各種評価試験を実施した。本報告では、内陸区間と一部塩害区間の柱について検証結果を報告する。

5-182

門型支持物の固有振動数に関する一検討

◎福島規至・鈴木大翔・服部正樹・加藤 洋（東日本旅客鉄道）

東北地方太平洋沖地震を契機に、電車線路設備耐震設計指針・同解説が、線路直角方向と線路平行方向のそれぞれに対し耐震設計計算を行うように改正された。 これまで、架空地線で用いられる亜鉛めっき鋼より線55mm²を門形支持物の線路平行方向に直接固定支持することで、門形支持物の線路平行方向に対する固有振動数が大きくなることを確認している。また、 2kN程度以上の張力でGWを直接固定支持すれば、線路直角方向と線路平行方向の固有振動数を同程度にできることが明らかになっている。 本検討では非接触振動解析システム（株式会社フォトロン）を用いて、実設備においても先行研究と同様な固有振動数の結果が得られるかについて検討を行った。

5-183

銅と鉄系焼結合金の組合せにおける摩擦熱に起因する摩耗形態の遷移現象

○山下主税・根本公紀（鉄道総合技術研究所）

電気鉄道の集電材料であるトロリ線とすり板の摩耗形態は、経験的に「機械的摩耗」と「電気的摩耗」の2種類に大別されている。このうち、機械的摩耗形態は接点の凝着に起因すると考えられているが、走行速度によってトロリ線の摩耗率が大きく異なることがわかっている。本稿では、摩擦熱に起因する摩耗形態を分類するため、回転摩耗試験機を用いて速度110km/hまでの摩耗試験を行った。試験の結果、摩擦熱に起因する摩耗形態を4種類に細分化できることを示した。また、摩耗形態の遷移には接点温度と材料の軟化点が大きな役割を果たしていることを確認した。

5-184

エアセクションにおけるトロリ線短絡検出手法に関する検討

◎増井裕太・早坂高雅（鉄道総合技術研究所）

電気鉄道ではエアセクションに列車が停車した場合、トロリ線が断線に至る事故が発生することがある。トロリ線断線に至る要因は、列車のパンタグラフのすり板とトロリ線の不完全接触により発生するアーク放電や、すり板とトロリ線が完全接触している状況で発生するジュール熱であると推定されている。どちらの場合でもすり板を介したエアセクションのトロリ線短絡が発生しているが、これを検出する手法は確立されておらず、検出手法の開発が望まれる。 そこで、トロリ線短絡を検出する方法として、すり板やパンタグラフの枠組に流れる電流による磁場を測定する方法、各変電所の送り出し電流と各列車の集電電流を監視する方法について検討した。

5-185

列車前方画像を用いた木まくらぎ検査システム

◎合田 航・長峯 望・糸井謙介・坪川洋友（鉄道総合技術研究所）・大塲久良・加藤 爽（北海道旅客鉄道）

我々は、列車前方画像を用いた木まくらぎ検査システムの開発を行っている。市販のハンディカメラを使用するため低コストでシステム構築が可能であり、木まくらぎ区間の多い閑散線区や地方鉄道などの高価なシステムの導入が難しい事業者に対しても適用可能である。提案するシステムは、映像中に存在するまくらぎとレール継目を自動で抽出し、レールごとのまくらぎ本数、劣化度、設置キロ程、まくらぎ間隔、まくらぎの設置角度を出力する。これにより実際に現地に赴かなくても検査が可能となり、検査の労力、コストの削減や、頻度の向上などの効果が期待できる。本稿では、改良を加えたシステムの概要とフィールド試験による評価を報告する。

5-186

列車走行中に生じる三軸加速度データを応用した簡易軌道検測手法

◎佐藤尚輝・藤田吾郎（芝浦工業大学）

日本は深刻な少子高齢化が進行しており，それに伴う労働力の減少が危惧されている．鉄道事業者も例外ではなく労働力減少の危機に直面している．そこで各鉄道事業者はスマートメンテナンスを導入することにより労働力の削減を目指している．本研究では三軸加速度センサを用いて，これらから得られるデータを応用することにより簡易的に軌道の状態検測を行うことを目的とし，対象線区の車両振動データの解析を行った．そこではレール継ぎ目が原因による周期的な縦方向の振動が存在することが明らかになった．今後は本解析で使用したデータを機械学習に適用することでレール継ぎ目，すなわちレール破断の検知が可能であると考えられる．

5-187

地上目標物を用いた画像処理による自己位置推定技術の有効範囲評価

○小田篤史・小野幸彦・今本健二（日立製作所）

現状、高コストである自己位置推定技術の低コスト化は鉄道事業者の重要な課題の一つである。本研究では、自己位置推定技術の低コスト化を目的とし、安価な装置で構成可能な自己位置推定技術として地上に設置した目標物と列車との相対距離を画像処理で算出し、地上目標物の絶対位置と画像処理により算出した相対距離とから自己位置を推定する技術を提案している。本論文では、提案手法の推定自己位置について要求誤差精度0.8mを満足する範囲を実鉄道環境において評価した。GNSSから算出した自己位置を真値として提案手法の自己位置推定精度を評価した結果、要求誤差精を満足するのは停止位置からの距離が8m未満の範囲であることを確認した。

5-188

現車試験データを用いた仮想空間構築方法

◎工藤 匠・小野幸彦・今本健二（日立製作所 研究開発グループ）

<p>自動運転を想定した自動車、鉄道等におけるセンシング技術の開発では、性能向上や品質担保のために3Dシミュレーション技術の活用が進んでいるが、多数のシナリオに応じて3D空間上の物体や車両の走行ルート等の情報を設定する必要があり、時間やコストの点で課題がある。そこで本研究では、カメラや位置情報等の現車試験センサデータや、これを基に作成した3Dモデルを蓄積し、蓄積した情報を組み合わせることで、任意シナリオに対してセンサデータを正確かつ簡便に模擬する手法を開発した。本稿では鉄道車載カメラの模擬に本手法を適用し、設定シナリオに対して現車試験と同様のカメラデータを取得できることを確認した。</p>

5-189

直流磁界曝露時における無人航空機の挙動調査

◎樋口靖展・生出珠之助（鉄道総合技術研究所）

無人航空機（以下，ドローン）による電力設備の点検が検討されている。ドローンは加速度やコンパス等の複数のセンサを用いて安定した飛行を実現させているが，直流電気鉄道では，電化柱やビームなど鋼鉄製構造物の着磁によってコンパスが擾乱を受けて，ドローンの制御に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。そこで本稿では，ドローンを直流磁界に曝露したときの挙動を報告した。コンパスエラーを回避する点では概ね10マイクロテスラ以下の磁界環境下での使用が望ましいことが分かった。一方，コンパス以外のセンサを併用する製品なら，より強い磁界環境下でも使用できる可能性もあるが，慎重な判断が求められる。

5-190

直流電界表示器の実証試験

○長谷川恵太・三苫好久（東日本旅客鉄道）

直流電気鉄道では、架線の保守や施工を行う時は、架線を無加圧状態にしなければ、感電事故を引き起こしてしまう。そのため、き電停止を手配し、検電・接地を行ったうえで、架線を無加圧状態にして施工を行っている。しかし、先に述べたような架線が輻輳している箇所になると、全てを同時に無加圧にすることが運用上難しい。無加圧箇所と加圧箇所を確認できる補助票を作成し作業員全員に周知しているが、確認を失念した際、加圧箇所の近くで作業をする環境となり、感電の危険が伴ってしまう。そこで、感電事故防止、誤接地防止を目的に、電界を検知することで架線の加圧状態を可視化できる直流電界表示器の開発を行った。工場内試験及びフィールド試験を行ったことから成果を報告する。

5-191

線条位置情報を活用した電車線金具異常検出用画像正規化手法の検討

松村 周・○根津一嘉（鉄道総合技術研究所）

架空電車線は屋外に長距離にわたって敷設され，走行する車両にエネルギーを供給するための重要な設備である。電車線のメンテナンスを省力化するため，教師なし機械学習による電車線金具の異常検出の検討を行った。一般的な機械学習アルゴリズムは，正方形の画像入力を前提としたものが多く，ハンガのような縦長の金具画像は正方形に変形されるが，ハンガの取付場所によって画像の縦方向の伸縮率に違いが生じることになる。そこで，異常発生確率の高い線条との接続部近傍の伸縮率を固定し，ハンガバー部分の伸縮率を可変とする画像正規化手法を提案し，機械学習手法に対して適用することにより，異常検出精度の向上が可能であることを確認した。

5-192

トロリ線摩耗予測技術の開発

◎青木裕也・山田創平・金子 顕・島田喜明（東日本旅客鉄道）・千葉雄樹（日本電気）

トロリ線はパンタグラフとの接触により日々摩耗が進行するため、安定輸送の確保にはトロリ線の残存直径を測定し、摩耗を管理することが非常に重要である。 2017年に山手線において架線状態監視装置を搭載したE235系車両が運行を開始したことにより、トロリ線の摩耗状況などを日々測定できるようになった。架線状態監視装置から得られた測定データはトロリ線の摩耗予測を行う技術の開発に使用しており、電力設備のCBMを実現するための開発の1つとして取り組んでいる。 本稿ではこのトロリ線摩耗予測技術について予測先を可変にする手法を開発したので、その結果について報告する。