一般講演

6-001

誘電率傾斜機能材料(ε-FGM)用高誘電率エポキシ樹脂の長時間V-t特性

◎村松一徳・関戸大聖・高橋一穂・大澤直樹（金沢工業大学）・増井秀好・柳瀬博雅・岡本健次（富士電機）

ガス絶縁開閉装置では，使用材料の削減，設置面積の縮小化，SF₆ガスの使用量削減などが課題となっており，接地タンクの小形化が検討されている。絶縁スペーサに誘電率傾斜機能材料（ε-FGM: Functionally Graded Materials）を利用することにより，接地タンクを小径化しても高圧導体と絶縁スペーサの界面やその近傍の電界上昇を抑制することができる。本研究では，ε-FGMスペーサに利用する高誘電率樹脂材料に対して，長時間V-t試験を実施し，材料の劣化傾向を調べた。その結果，長時間V-t特性の傾きを示す係数（n）は20.8であり，従来のエポキシ樹脂と同等以上の絶縁信頼性を有していることを明らかにできた。

6-002

放電開始条件を考慮したFGM絶縁スペーサの誘電率分布逆求解計算

○加藤克巳（新居浜工業高等専門学校）・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）・増井秀好・柳瀬博雅・岡本健次（富士電機）・大久保 仁（愛知工業大学）

筆者らは，SF₆ガス／固体複合絶縁系からなる高電圧機器のコンパクト化を目的として，誘電率傾斜機能材料の適用を目指している。今回，ガス中の放電開始条件と固体絶縁物の絶縁特性の両者を考慮し，両者のバランスをとりながら最適な誘電率分布を与える逆求解計算技術を開発した。その結果，今回開発した逆求解によって，誘電率一様の場合に比べて，25%ほど高い絶縁性能を有する計算結果を得られることが確かめられた。以上の結果から，SF₆ガス／固体複合系における誘電率分布の逆求解によって，総合最適化に向けた計算技術の有用性を検証することができた。

6-003

実器サイズGIS用ε-FGMスペーサにおける絶縁破壊特性の理論的検討

◎加藤拓夢・小島寛樹（名古屋大学）・加藤克巳（新居浜工業高等専門学校）・大久保 仁（愛知工業大学）・足立和郎（電力中央研究所）・岡本健次（富士電機）・早川直樹（名古屋大学）

筆者らはガス絶縁開閉装置（GIS）の小型化とSF₆ガス削減を目的とし，誘電率傾斜機能材料（ε-FGM）の絶縁スペーサへの実用化に取り組んでいる。これまでに導体表面粗さを考慮したVolume-Time理論による放電開始電圧（TDIV）の推定と実験的検証を行ってきた。今回，ε-FGMスペーサにおけるTDIVのSF6ガス圧力依存性を，電子なだれを形成する初期電子の供給源によって2つに分離した成分についてTDIVを計算することで理論的に検討した。その結果，TDIVが飽和し始める0.6MPa-abs近傍で2つの成分の大小が逆転することが分かった。これより，圧力の上昇によって電子の平均自由行程が減少することで初期電子の主な供給源が変化し，ε-FGMスペーサにおけるTDIVに影響することが推測された。

6-004

ε-FGM 適用245kV 級GIS スペーサの長期V-t 特性

◎増井秀好・岡本健次（富士電機）・早川直樹（名古屋大学）・小迫雅裕（九州工業大学）・加藤克巳（新居浜工業高等専門学校）・大久保 仁（愛知工業大学）・大澤直樹（金沢工業大学）・井上智裕（ナガセケムテックス）・足立和郎・高橋俊裕（電力中央研究所）

筆者らは絶縁スペーサの電界制御によるガス絶縁開閉装置（GIS）の小型化（直径30%，断面積50%）のために，誘電率傾斜機能材料（ε-FGM: Functionally Graded Materials）を適用した絶縁スペーサの実用化に取り組んでいる。これまでに，ε-FGM を適用し直径を30％小型化した実サイズの245kV 級GIS スペーサを試作してSF6 ガス中の雷インパルス破壊電圧評価を行ってきた。今回は，さらに長期V-t試験を実施し絶縁信頼性を検証した。その結果，常規対地電圧における等価絶縁寿命年数を求めると50 年を大幅に超え，実用上十分な絶縁寿命を有していることが確認できた。

6-005

Discharge Inception Voltage Improvement by Application of Permittivity and Conductivity Graded Materials (ε/σ-FGM) to HVDC GIS Spacer

◎ラハマワティラハマワティ・小島寛樹（Nagoya University）・加藤克巳（National Institute of Technology, Niihama College）・早川直樹（Nagoya University）

The electric field analysis has been performed on a HVDC GIS spacer with combined permittivity and conductivity graded materials (ε/σ-FGM) to reduce not only AC, but also DC fields that occur under various DC operating conditions. This paper investigates theoretical discharge inception voltage (TDIV) improvement for a scaled model of DC ε/σ-FGM spacer by Volume-Time theory, based on electric field distribution around the spacer under lightning impulse voltage. Simulation results revealed that the 24% reduction of maximum electric field strength around ε/σ-FGM spacer contributed to the 26% TDIV₅₀ improvement at 0.5 MPa-abs SF₆ gas pressure, compared to those of Uniform spacer.

6-006

ドライエア適用機器のガス気密特性

佐藤光馬・◎小柳洋介・川田牧子・畑中康道（三菱電機）

環境負荷低減を目的としたSF6代替ガス適用機器の研究開発が進む中，高圧ドライエア環境下でのOリングの劣化進展を検証すべく，耐酸化性・低温特性に優れるEPDM製Oリングの圧縮永久歪み経時特性の測定結果，および国内の年間気象データから計算される東京，大阪，福岡の等価温度計算結果を用いて，各地域の圧縮永久歪み80%到達時間を評価した。その結果，常時通電負荷率100%の過酷運用を想定しても，いずれの地域も圧縮永久歪み80%到達時間が100年以上であることが確認された。

6-007

168 kV GIS 断路器・接地開閉器・母線の開発

◎松本 豪・吉元賢誠・岡成信明・千賀友里子（東芝エネルギーシステムズ）

近年，電力設備には再生可能エネルギー発電所に付随する新設需要，既設高経年設備の更新需要，さらには保守点検業務の効率化への対応が要望されている。今回，これらの要望に応えるため，コンパクト且つスマートな168 kVガス絶縁開閉装置（GIS）の開発を行った。

6-008

1回線一体輸送 168 kV GISの開発

○阿部裕太（東芝エネルギーシステムズ）

再生エネルギー発電所の新設や既設高経年機器の更新需要が高まっており，また更なる電力網の信頼性向上のために新設・増設の需要増加も予想され，ガス絶縁開閉装置には現地据付工程の短縮や保守・メンテナンスの省力化が求められている。今回，これらのニーズに応えるため，JEC規格に準拠した仕様合理化及び最新技術の適用により小形軽量化し，一体輸送範囲の拡大を可能とした新形168 kVガス絶縁開閉装置（GIS）を開発した。

6-009

300 kV GIS 断路器・接地開閉器・母線の開発

◎薄 拓哉・原田眞光・吉元賢誠・高尾浩史・椎木元晴・可児文二（東芝エネルギーシステムズ）

近年，電力流通設備には，従来以上の据付工期の短縮，変電所のデジタル化対応（センサ実装）が求められている。今回，これらのニーズを踏まえ，コンパクト，かつデジタル化対応した300 kVガス絶縁開閉装置（GIS）を開発した。各機器のコンパクト化とレイアウト構成により，ケーブルヘッドを含めた1回線一体輸送を実現した。

6-010

ケーブルヘッドを含めた1回線一体輸送を可能とした300 kV GISの開発

○加藤隆史・高尾浩史・砂塚 隆・椎木元晴・可児文二・市原 怜（東芝エネルギーシステムズ）

経年電力流通設備の増加，電源多様化にともなう系統構成の変更，災害の激甚化等々の課題に対して，電力流通設備には，従来以上の据付工期の短縮，保全の高度化（変電所のデジタル化等）が求められている。
今回，これらのニーズに応えるため，JEC規格に準拠した仕様合理化及び最新技術の適用により小形軽量化し，ケーブルヘッドを含めた1回線一体輸送を可能とした300 kVガス絶縁開閉装置（GIS）を開発した。

6-011

550 kV GIS用高経年ブッシングの更新工事

武田康一・羽柴靖人（関西電力送配電）・◎藤原有規・兵頭祐貴・塚尾康宏・伊与田英次・笹森健次（三菱電機）

1973年から基幹系統に導入された第一世代550 kV ガス絶縁開閉装置（以下GIS）用ブッシングには，油浸紙コンデンサ（OIP）形ブッシングが多数適用されている。
このブッシングは長期使用に伴い，油漏れや部分放電発生などの不具合発生が懸念され，劣化傾向などの見られるブッシングを更新することとしている。
今回，1973年に据付された紀の川変電所納めの550 kV GIS用OIP形ブッシングを，小形・軽量で耐震性に優れたポリマーガスブッシングに取り換える更新工事が完了したので，
工事概要，既設設備の有効活用などの配慮事項，耐震性向上などの更新メリットについて報告する。

6-012

ガス開閉器に使用されるアルミニウム合金の塗装省略に向けた撤去品の劣化調査

◎片山大輔・山本翔平・出井和弘・折戸由貴（東光高岳）・反り目拓己（東京電力パワーグリッド）

ガス開閉器の容器及び筐体の材料として使用されているアルミニウム合金について，経年による腐食進展や腐食による機械的強度への影響が不明確であることから表面処理として塗装を施している。腐食による機械的強度への影響を明らかにするために，超重汚損地区において39年間使用された無塗装のアルミニウム合金製操作機構収納箱の劣化調査を実施した。雨水により付着物が洗い流されにくい軒下部位では孔食が確認されたものの，アルミニウム合金の引張強さおよび0.2%耐力は規格値を満足していることから，ガス開閉器の機械的強度は確保されることが確認できたことから，塩害汚損区分によらずアルミニウム合金の塗装を省略可能な見通しを得た。

6-013

超々高耐圧素子を適用した154及び275kVGIS用避雷器の開発

◎久保克隆・千葉智基・春日靖宣・深野孝人（東芝エネルギーシステムズ）

経済性と環境負荷低減の観点から，GIS機器については大幅なコンパクト化が求められており，変電機器の絶縁協調の要である避雷器においても同様である。
当社では，2019年に800V/mm級の超々高耐圧素子を適用することにより大幅に小型・軽量化した500kVGIS用新形避雷器を世界で初めて製品化している。
今回，超々高耐圧素子を適用した154及び275kV GIS用新形避雷器の開発が完了したため報告する。
この超々高耐圧形避雷器シリーズを適用することによって，カーボンニュートラルを実現する電力送電網の信頼性向上に大きく貢献出来ると考える。

6-014

145kV移動用変電所向け2点切り碍子形VCBの開発

◎菅野哲也・縣 祐介・片山晴里・菊地徳明・鶴田豊久・長竹和浩（明電舎）

明電舎では，車両積載可能とした移動用変電所向け2点切り145kV碍子形VCBを1970年代に納めている。従来器は運用状態でトレーラ幅に納まらないため運用時には遮断器本体を90°回転展開する必要があった。このため，開発品では輸送時でも遮断器本体をトレーラ幅に納め，運転時には遮断部を含む碍管部分だけを回転展開し，必要な絶縁距離を確保するように設計した。また，従来VIは，当初設計のため，絶縁筒はガラス製でサイズも大型であったが，開発器では最新のセラミックVIを採用し，小型化を図った。2点切りVIに対しては，主回路の電界解析から電圧分担の確認を行い，その電圧条件のもと事前のVI単体コンディショニングを実施して，145kV定格の耐電圧性能を満足することができた。

6-015

真空中コンディショニング飽和時の絶縁耐力に及ぼす放電電荷量と対向電極材料付着の影響

◎北 直樹・小島寛樹（名古屋大学）・福田英昭・山村健太（明電舎）・早川直樹（名古屋大学）

真空中スパークコンディショニングにおいて，陰極表面への陽極材料の付着が絶縁耐力を支配することが示唆されている。本稿では，Cuとステンレス（SUS304）が対向した電極系のスパークコンディショニングについて，陰極表面への陽極材料の付着と溶融および絶縁耐力を放電電荷量の観点から検討した。その結果，電極材料の組み合わせと放電電荷量の大小によって，陰極表面への陽極材料の付着と溶融の様子や絶縁耐力に違いが現れた。すなわち，異種材料が対向する電極系においては，対向電極材料の付着と溶融を考慮する必要があり，電極材料の組み合わせによって絶縁耐力を極大化する放電電荷量等のパラメータが異なると考えられる。

6-016

大電流真空アークにおけるアノードプルームの中性粒子密度

◎前出裕亮・平野雄一・Yandi Lin・佐藤正寛・熊田亜紀子・日高邦彦（東京大学）・稲田優貴（埼玉大学）

大電流かつギャップ長の長い真空アークでは，アノード電極からアノードプルームと呼ばれる舌状の発光領域が出現する。アノードプルームは，電極が激しく損耗するアノードスポットタイプ2モード（以下T2モード）の直後に発生することが多く，遮断成否への影響が指摘されている現象である。本実験ではアノードプルームが発生している最中の電極間の中性粒子密度分布を，シャックハルトマン法を用いて直接観測した。プルーム外部では1×10²¹ m^-3以下，内部では1×10²³ m^-3程度と，内部では周囲に比べて中性粒子密度が100倍以上高いことがわかった。プルームの主成分は，T2モードにおいて蒸発したアノード電極材料であると考えられる。

6-017

二次元分光観測によるCu電極間真空アーク減衰過程での銅蒸気飛散様相

◎香水大亮・畑中佑斗・田中康規・中野裕介・石島達夫（金沢大学）・浅沼 岳・恩地俊行（富士電機）

筆者らは，小電流遮断時の真空アークの挙動を解明することで，真空遮断器の性能向上への貢献を目指している。本報に向けて，真空アーク減衰過程の銅蒸気の飛散様相を把握するために，次の実験を行った。
直流電流50A/70Aを流したCu電極を真空空間で開極することで真空アークを発生させた。その後，電極間電流をIGBT回路に転流させることで，真空アーク減衰過程を生成した。ICCDカメラ，イメージインテンシファイア（I.I.）および分光器を併用した二次元分光観測により真空アーク減衰過程を観測した。
陰極点付近は電流零点直前まで発光が見られたが，電極間に飛散する銅蒸気からの発光は電流減衰とともに減少した。また，生成・飛散した銅蒸気からの発光は電流が大きいほど増加した。

6-018

真空遮断器用電磁操作機構を対象とした機構-磁界双方向連成解析手法の開発

◎齊藤暁斗・金谷和長・網田芳明・丸島 敬（東芝エネルギーシステムズ）・平本 武・野田岳志・丹羽芳充・大坊 昂（東芝インフラシステムズ）

これまでに弊社では，駆動機構として電磁操作機構を搭載した真空遮断器を開発してきた。開発にあたり，試作回数削減やリードタイム短縮のために機構解析を活用してきたが，従来手法では電磁操作機構部での過渡的な物理現象を再現できないため，解析精度に課題があった。そこで，解析精度の向上を目的として機構解析と電磁操作機構部の磁界解析を双方向連成させた解析モデルを構築した。真空遮断器の接点ストローク，および電磁操作機構部のコイル電流について，実器による実測結果と解析モデルによる計算結果を比較し解析の妥当性を検証した。接点ストロークとコイル電流の挙動は実測結果と一致し，高い解析精度を有することを確認した。

6-019

電流ゼロ点直前のCuCr電極間とCuTe電極間における中性粒子密度および電子密度

◎平野雄一・前出祐亮・佐藤正寛・熊田亜紀子・日高邦彦（東京大学）・大坊 昂・日俣幸彦・神谷朋輝・丹羽芳充・浅利直紀（東芝インフラシステムズ）・稲田優貴（埼玉大学）

真空アークの電流ゼロ点直前における中性粒子密度と電子密度の二次元分布を，シャックハルトマン型レーザ波面測定法を用いて測定し，CuCr電極とCuTe電極で密度を比較した。その結果，同電流値では線積分電子密度は同程度であった一方で，CuTeの線積分中性粒子密度はCuCrの5-10倍であった。CuCrでは主電流が2.5 kA_rms以下では遮断成功したが，CuTeでは0.3 kA_rms以上で遮断失敗した。CuTe電極ではCuCr電極より金属材料が蒸発しやすいことで遮断失敗に至りやすかったと考えられる。

6-020

磁界計測による真空バルブのスパイラル電極におけるアーク挙動評価

◎大坊 昂・高野晟輝・丹羽芳充・日俣幸彦・浅利直紀・吉田 剛（東芝インフラシステムズ）

真空遮断器の真空バルブでは，遮断性能の向上のためにアークを電極円周上で駆動するスパイラル電極が開発されてきた。アークの電極円周上の移動量（回転数）は，遮断性能に大きな影響を与えると考えられることから，電極の開発をする上で計測することは重要である。アークの移動で真空バルブの周囲の磁界は変化することから，磁界を計測してアーク挙動を評価した。磁界の時間変化からアークが移動している時間帯を明らかにし，また磁界の極大値の変化からアークの回転数を明らかにした

6-021

真空中高周波交流コンディショニングにおける多重絶縁破壊に関する考察

◎小名木良太・小島寛樹（名古屋大学）・飯塚伸介・小林将人（日立産機システム）・早川直樹（名古屋大学）

真空中交流コンディショニングにおいて，半周期内に複数回絶縁破壊（BD）するような多重BDが発生する。多重BDは直前のBDによる残留金属蒸気が起因と考えられ，電極表面の突起溶融に寄与せず，逆にコンディショニングに悪影響を及ぼす可能性がある。本稿では，多重BDが直前のBDの影響を受けているかを明らかにするため，高速度ビデオカメラにより撮影した各BDの発光像から破壊箇所を特定し，直前のBDとの破壊箇所の変位Δxを求め，直前のBDとの時間間隔Δtとの関係を検討した。その結果，Δtが0.1-1.0 ms付近のプロットはΔxが0-2 mmと小さく，直前のBDと近い位置でBDしていることから，ΔtとΔxがともに短い BDは，直前のBDによる残留金属蒸気の影響を受けた多重BDであることが考えられる。

6-022

DC 遮断における窒化ケイ素と珪砂の併用によるアーク抵抗上昇

◎兒玉直人・横水康伸・竹中 湧・長谷川海渡（名古屋大学）

DC ヒューズ内で生じるアークの消弧媒体として，これまで珪砂（SiO₂）が使用されてきた。一方で，筆者らはこれまでに，Cu アークに対して SiO₂蒸気が混入することで，Cu/SiO₂混合蒸気の抵抗率が低下することを見出している。更なるr_arc 上昇のためには，珪砂に替わるDCアーク消弧媒体の開発が必要不可欠である。本報では，珪砂に替わる DC アーク消弧媒体として，窒化ケイ素（Si₃N₄）粉体を用いた。珪砂とSi₃N₄の併用条件でのDC遮断実験の結果から，珪砂とSi₃N₄の混合がr_arcに与える影響を検討した。また，Si₃N₄/SiO₂混合蒸気の熱伝導率の理論計算結果から，珪砂蒸気へのSi₃N₄蒸気混入がr_arcに与える影響を検討した。

6-023

珪砂・Silicone混合蒸気における抵抗率および熱伝導率の理論計算

◎竹中 湧・兒玉直人・中村晃也・横水康伸（名古屋大学）・清水宏紀（太平洋精工）

自動車用DCヒューズの遮断容量の向上が求められている。筆者らは，珪砂中のCu製エレメントにSilicone材などを併設する手法によるDCアーク抵抗上昇を検討している。筆者らは，これまでに，Cuと珪砂（SiO₂）が混合した蒸気における熱力学・輸送特性を理論計算によって導出してきた。Cu蒸気へ珪砂蒸気が混入すると，アークの抵抗率が減少することなどが明らかとなった。そこで本報告では，珪砂（SiO₂）にSiliconeが混合した蒸気における（i）抵抗率，（ii）熱伝導率を導出する。計算結果から，Silicone蒸気混入がアーク抵抗上昇に効果的であることを示す。

6-024

Cu製エレメントへのSilicone樹脂塗布による珪砂中DCアーク抵抗上昇に関する基礎実験

◎長谷川海渡・兒玉直人・横水康伸・竹中 湧（名古屋大学）・清水宏紀（太平洋精工）

自動車用DCヒューズの遮断容量の向上が求められている。そのためには，消弧期間でのDCアーク抵抗の上昇が重要である。その方法の一つとして，筆者らは，珪砂中のアークに対するSilicone蒸気混入によるアーク抵抗上昇を試みている。最近では，Cu製エレメントへのSilicone樹脂の塗布に着目している。塗布量や範囲を調整できる上に，Silicone樹脂をエレメントに密着できる。そのため，樹脂が，アーク消弧過程において，速く，多量に溶発することが期待できる。現在，Silicone樹脂を塗布したエレメント用いた基礎消弧実験に着手しているので，本報告では，実験結果の例を述べる。

6-025

水素中アークの電界および磁気駆動時膠着特性

◎堀田克輝・渡邉真也・堀之内克彦（三菱電機）

温暖化対策でCO2排出削減が求められ，航空機メーカは機体の推進系電動化を進めている。当社は軽量化等の観点から直流1,500 Vの航空機主回路配電システムを開発中で，コアコンポーネントの一つとして水素を密封し，アークの磁気駆動により電流を遮断する軽量な開閉器を開発している。水素はアーク電界が高いことが分かっているが，開閉器に求められる遮断電流100～1,000 Aでの特性や磁気駆動時膠着特性が十分明らかになっておらず，今回検討を行った。その結果，大気圧の水素中アーク電界は大気に比べ6倍程度高く，また外部磁場を大きくすることで素早くアーク膠着を解除できることを明らかにした。

6-026

水中アークのアーク抵抗特性

◎大塚巧巳・山澤啓斗・新海 健（東京工科大学）

主回路用の高電圧直流遮断器の必要性が増している。水中アークの高いアーク電圧により良好な限流効果が得られることを期待している。アークに磁界や水流を印加し，アーク長の延伸や，アーク駆動による冷却効果によりアーク抵抗を向上する研究を行っている。本報告では，水中アークに直交方向の水流を印加した際のアーク挙動と抵抗変化について述べる。アークに直交する方向の11.8m/s程度の水流を作用させたところ，水流なしに比べ，発弧直後からアーク電圧が高くなり，電流第1半波ピークで水流印加により5倍程度上昇した。高速カメラ映像でアーク挙動も観測した。

6-027

直線状開極アーク装置による直流数十アンペアの消弧過程におけるアークパラメータの推定

◎北村拓真・津坂亮博・松村年郎・雪田和人・七原俊也・後藤泰之（愛知工業大学）・酒井智康・宮本淳史・伊藤裕幸（日東工業）

近年，直流を安全に扱うために，直流遮断技術の高性能化が急務となっている。そこで筆者らは，直流アーク遮断実験を行い，基本的な直流アーク消弧特性の把握のために，新しいアークパラメータの推定方法を提案した。本稿では，新たに243 mmの直線状アークを点弧できる開極型簡易アーク消弧装置を製作し，直流10 A～100 Aの広範囲にわたって，遮断実験を実施し，アークパラメータの推定方法の妥当性を検討した。その結果，アーク装置が異なっても，本稿で提案した方法によって，アークパラメータが推定できることが検証できた。

6-028

高周波気中アークのアークモデル構築に関する検討

◎伊賀弘明・小川正洋・腰塚 正・日高邦彦（東京電機大学）

分路リアクトル電流遮断時に高周波のアーク放電が発生することがある。この時の高周波電流を遮断し，多重再発弧が発生すると，過電圧サージの発生につながり電力機器に大きなダメージを与える可能性がある。アーク放電の特性の解明手法の一つとしてアークモデル構築によるアーク放電の模擬が挙げられる。CassieモデルやMayrモデルなどのアークモデルを組み合わせることにより気中やSF6ガス中のアーク放電の特性を模擬できることが分かっており，直流および商用周波のアーク放電について検討が進められているが，気中の高周波アーク放電について検討された例は少ない。代替ガス遮断器が検討されている現在，空気や他のガス中の高周波アークの検討も必要と考えられる。本研究では，インパルスジェネレータを用いて空気中に発生する高周波アークの実測を行い，その特性について検討を行う。その結果をもとにATP-EMTP上でシミュレーションを行い，アークモデルの構築のための検討を行う。これらの検討により，高周波気中アークのアークモデルを構築することが目的である。

6-029

大電流アークが周囲へ及ぼす熱的影響の解析モデル構築に関する検討

○神足将司・古川静枝・岩田幹正（電力中央研究所）

国内外の大電力試験所では，IEC規格やASTM規格などに基づき，作業者が着用する耐熱・耐火性を有する作業着や保護面などの各種保護具に対して，kAオーダの大電流アークが周囲へ及ぼす熱的影響を評価するための短絡試験を実施している。これまで当所では，大電流アークから周囲へ及ぼす熱的影響（熱量）の定量的な評価手法に関する実験的な検討，計測ケーブルの配線などが不要かつ簡易に熱量を定量的に計測するための熱センサの開発を行っている。これらの取り組みに関連して，開放空間で発生した大電流アークが周囲へ及ぼす熱量を検討・評価するための解析モデルを構築している。
本稿では，本解析モデル構築の第一ステップとして，これまで開発してきた解析手法を用いた数値流体力学（Computational Fluid Dynamics; CFD）解析を実施したところ，試験結果に比べて解析結果の方が1.2倍～1.4倍程度高くなった。この一因として，本解析モデルにおいては放射損失を考慮していないことが考えられる。

6-030

アブレーションガスが気中アークに及ぼす影響

◎大森健斗・寺田樹生・仁科智裕・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

高電圧遮断器は高分子材料から成るノズル内にアークを点弧させ，消弧することで電流を遮断する。高分子材料はアークの加熱によって消弧性のアブレーションガスを発生させることが古くから知られており，アブレーションガスはアークの消弧に影響を与えることが報告されている。筆者らは高分子材料のパイプ中にアークを点弧させて電流遮断実験を行っている。
本論文では高分子材料として負荷開閉器などに用いられるPOMパイプを用い，その内径を変えてアブレーションガスがアークに与える影響について検討を行った。
結果，内径の小さな高分子材料パイプ中のアークでは，電流遮断零点前のアーク電圧に消弧ピークが現れることが分かった。

6-031

高分子パイプ中アークに磁界が与える影響

◎寺田樹生・大森健斗・仁科智裕・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

代替ガス遮断機の研究開発が進められいるが，空気やCO2などの天然由来のガスではSF6ガスに匹敵するような遮断性能を得るのは非常に難しい。代替ガス遮断器ではガスの遮断性能にアブレーションを付加し，性能を上げることが考えられる。筆者らは高分子材料のパイプ内でアークを点弧させ，パイプの外側の一部を鉄で覆うことで，磁界の効果も用いて電流遮断性能を向上させることを検討している。本論文では，半円形の鉄を高分子パイプに被せて電流遮断実験を行った。アークの延伸及び高分子材料パイプの壁面からアブレーションガスの効率的な発生が期待でき，電流遮断性能を向上させることができると考えられる。

6-032

気中・CO2ガス中におけるアーク特性

◎岩﨑耀詩・鄭 貴仁・沖野康輔・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

[はじめに]
ガス遮断器の消弧媒体として使用されているSF6は地球温暖化への影響が懸念されている。そこで代替ガスとしてCO2を消弧媒体に用いて交流遮断を行い，空気中で遮断した時と比較する。
[方法]
充電したコンデンサからリアクトルを介して交流大電流を流す。この際にCO2或いは空気を密閉したデシケータ内に設置されている電極を摺動させることで電極間にアークを点弧させる。
[結果]
CO2中で遮断した際は電流の増加に伴いアーク電圧が減少し，電流零点近傍のアーク電圧消弧ピーク値は空気中の2倍となっている。
[結論]
CO2の方が空気よりも消弧性能が高いと考えられる。今後も様々な条件でのアーク特性への影響を模索していく。

6-033

ポリマー溶発アーク点弧過程における溶発レートおよびアーク電圧の時間推移の数値解析予測

◎中野裕介・田中康規・石島達夫（金沢大学）・永井大紀・稲永健太郎（正興電機製作所）

開閉器消弧室を構成するポリマーとアークプラズマとの相互作用の理解を目的とした理論数値解析を行っている。本報では，3種類のポリマー材料に対し過渡数値解析によりアーク点弧過程のポリマー溶発レートおよびアーク電圧の関係を検討した。数値解析結果から，ポリマー溶発開始まではアーク電圧は同程度であり，ポリマーが溶発すると同時にアーク電圧が上昇した。アーク電圧の上昇は，ポリマー壁からの冷たいポリマー蒸気の吹付によりアークが収縮し，導電半径が低下したためと考えられる。

6-034

高温 CO₂/C₅F₁₀O 混合ガスと PTFE 溶発蒸気が混入した高温 CO₂ ガスとの類似性に関する検討

◎津坂亮博・倉橋 潤・松村年郎・雪田和人・七原俊也・後藤泰之（愛知工業大学）・横水康伸（名古屋大学）

筆者らは，高温 CO₂/O₂/C₅F₁₀O 混合ガスと PTFE（-C₂F₄-）蒸気が混入した高温 CO₂/O₂ 混合ガスとの等価性を検討し，その結果，O₂ ガスが混合しないガス同士では等価な条件は存在しないことを示した。しかしながら，CO₂/C₅F₁₀O 混合ガスと PTFE 蒸気が混入した CO₂ガスにおいて，類似な特性を持つ条件が存在することを明らかにしたので報告する。本検討の結果，三種類の原子からなる混合ガスにおいて，構成原子のうち一種類のモル分率を等しくすれば，推定される換算臨界電界もほぼ等しくなることがわかった。

6-035

高温CO₂/O₂/C₅F₁₀O 混合ガスの臨界電界における熱解離前ガス混入効果の検討

○倉橋 潤・横井俊哉・津坂亮博・松村年郎・七原俊也・雪田和人・後藤泰之（愛知工業大学）・横水康伸（名古屋大学）

一度熱解離したCO₂/O₂/C₅F₁₀O 混合ガスに対し，熱解離前の同ガスが混入した状態における臨界電界の算定を行った。その結果，熱解離前のガス混入率Xの上昇により，臨界電界は上昇し，さらに，すべてのガスが熱解離前の混合ガスに置き換わった場合，その臨界電界は，すべてが熱解離した状態と比べ，約2 倍になることが明らかとなった。

6-036

SVMを用いた部分放電診断におけるノイズ環境下の診断精度の検討

◎大竹泰智・松山幸太郎・梅本貴弘（三菱電機）・西垣貴央・小野田 崇（青山学院大学）

電力機器の絶縁診断では一般に絶縁破壊の前駆現象である部分放電の検出を行う。部分放電の交流電圧位相における発生分布（-qパターン）は放電発生要因と相関があるため，保守の指標に用いられる。今回，電力機器で生じる気中および固体絶縁物中の放電6種の分類を，-qパターンをもとに機械学習手法の1つである Support Vector Machineによる推定を行った。また，ノイズレベルが変化した際の推定精度を評価したので報告する。

6-037

気中断路器接触部における過熱の様相検証

◎愛知慎也・亀井 聡・伊藤保則（中部電力パワーグリッド）

変電設備や母線等の接触部において通電により過熱が生じると，溶損・脱落による地絡・短絡故障に繋がる恐れがあり，これまで巡視等で過熱監視を実施していたが，当社は端子接触部については溶損・脱落に至らないことを明らかにしており，過熱監視を省略している。一方，気中断路器の摺動箇所における接触部については，過熱による溶着や溶損によって操作不能や故障に至る恐れがあるため，過熱監視を実施している。そこで本稿では，気中断路器接触部において通電により過熱状態を模擬し，その様相確認および操作トルク測定等から得た過熱監視の省略に繋がる知見を報告する。

6-038

CNNよる部分放電発生要因の推定精度の検討

◎松山幸太郎・大竹泰智・梅本貴弘（三菱電機）

電力機器の絶縁診断では一般に絶縁破壊の前駆現象である部分放電の検出を行う。部分放電の交流電圧位相における発生分布は放電発生要因と相関があるため，保守の指標に用いられる。今回，電力機器において生じうる放電要因を模擬した異なる36種の部分放電特性の分類 をC onvolutional Neural Network（CNN）を用いて行った結果について報告する。

6-039

開閉装置用AI診断システムの開発

○内田和徳・森 裕哉・松本詠治（東芝エネルギーシステムズ）・山口晃広・植野 研（東芝）

現在，変電設備の保全は，状態監視保全（CBM）への移行を志向し，センサ等による常時監視と機器診断を通じて，保全業務の更なる省力化が試みられている。また，近年，波形パターン認識ならびにAI技術が広く活用されてその有効性が確認されており，今回，GISでモニタリングした波形にAI技術を適用し，取得波形情報そのものに対する機器診断が可能なシステムを構築し，有効性を確認したことから，その概要について報告する。本システムはAI学習に異常データの学習が不要であり，特に既設・高経年開閉装置に対する適用にも応用できる可能性が伺える。

6-040

直列型三相GIS における異物存在ガス区画同定のためのPD放射電磁波の伝搬特性に関する基礎検討

藤本樹貴・◎武富優希・大塚信也（九州工業大学）・四蔵達之（富士電機）

GISの部分放電（PD）診断法としてUHF法が適用されている。これまで，筆者らは単相GISならびに高電圧導体が直列に配置された直列型三相GISを対象に，実験ならびにFD-TD解析によるPD放射電磁波の伝搬特性，特にTEモード特性を検討している。また，ガス区画毎に取り付けたセンサの強度関係に基づきPD発生，即ち異物が存在するガス区画の同定を行なってきた。本研究では，分岐や折れ曲り部を有する直列型三相GIS中を伝搬するPD放射電磁波の伝搬特性に基づき，センサ間の時間差による異物存在ガス区画の同定の可能性を検討した。

6-041

Noise Elimination Ability of Filtered Multiple Narrow Band Antenna to Detect Partial Discharges with the Drone in Flight

◎Tuvshinbayar Bandi・Shinya Ohtsuka（Kyushu Institute of Technology）

Digital and ICT technologies have been rapidly developed and applied to every field, including electric power systems for upgrading safety, reliability, and efficient operation. Although, the communication signals act as a noise for the HV insulation diagnosis, namely a PD detection with the UHF method. The authors have developed the Filtered Multiple Narrow Band (FMNB) antenna as UHF sensor to detect PD signals with noise resistance ability. In this paper, the noise resistance ability of the FMNB antenna was investigated and compared with the conventional wideband Horn antenna using the PD in SF6 gas measurement under the flying drone noise.

6-042

CO₂/O₂/C₅F₁₀O吹付けアーク減衰過程における温度およびアーク抵抗の混合割合依存性の数値解析

◎甲斐広将・出村文俊・中野裕介・田中康規・石島達夫（金沢大学）

ガス遮断器のSF₆レス化を目指しSF₆代替消弧ガスの研究がなされている。その一候補としてCO₂/O₂/C₅F₁₀O混合ガスが提案されており，上記混合ガスについて詳細な検討が必要である。本報では，C₅F₁₀O自身と生成される副生成多原子分子を考慮した熱力学・輸送特性を用い，電流を50 Aから0 Aに転流させたC₅F₁₀O混合比5，10，15%のCO₂/10%O₂/C₅F₁₀O吹付けアーク減衰過程の電磁熱流体解析を行った。ガス流量100 L/minで供給したところ，CO₂に対してC₅F₁₀O混合比率を増加させることにより温度減衰が速くなった。一方，アーク抵抗はSF₆より緩やかに上昇したことから，その熱的遮断性能が比較的低いことが示唆された。

6-043

量子化学計算によるCF₃OH分子の特性導出とCO₂/O₂/CF₃OH混合消弧ガスの高温下化学組成

◎杉田武弘・横⽔康伸・兒⽟直⼈（名古屋大学）・中村泰規・佐藤基宗（三菱電機）

高電圧電力機器の分野では，SF₆代替ガスの候補として，CO₂ ガスあるいはN₂/O₂ 混合ガスが考えられている。さらに，これらガスへの他種ガスの混合による常温での電気絶縁耐力の向上が期待されている。しかし，遮断器・断路器では，もともとの消弧ガス構成分子はアーク消弧過程によって熱解離・結合反応を経て，別の分子種に結合することがあり，ひいては，高温ガスの誘電破壊特性は常温下とは異なってしまう。
本報告では，CF₃OH分子の特性を量子化学計算結果に基づいて述べている。次いで，CO₂/O₂/CF₃OH 混合ガスに関して，熱解離・結合反応を経た300～3000 K での主たる生成気相種を示している。また，遮断器内の固体絶縁物表面での電気絶縁性能を低下させる凝縮相炭素が無生成であることを述べている。

6-044

CO₂ もしくはCOF₂ の同種分子間衝突における分光定数 -代替消弧ガスの高温下輸送特性の導出に向けて-

◎笠井 豪・兒玉直人・横水康伸・杉田武弘（名古屋大学）

高電圧電力機器の分野では，SF₆ の代替消弧ガスとして，C4-FN（C₄F₇N），C5-FK（C₅F₁₀O）および HFO（C₄H₂F₆，C₃H₂F₄など）等のガスが検討されている。代替消弧ガスの選定のためには，代替消弧ガスの輸送特性を明らかにする必要がある。
本研究では上記のガスの分解時に生成される化学種間の衝突を対象に，分光定数の導出を行った。本報告では，高温下で数密度が高くなりうる化学種のうち，CO₂ もしくは COF₂ の同種分子間衝突に対する分光定数の計算結果を述べる。

6-045

高気圧Dry airの準平等電界下における非標準雷波形に対する絶縁特性の実験的評価

○中臺洋史（東京電力ホールディングス）

SF6ガスに対して，日本では，「電力用SF6ガス取扱基準」ならびにSF6ガス排出抑制に関する自主行動計画を策定し，低いSF6排出水準を維持してきている。一方，欧州を中心に脱SF6の方針が主流であり，具体的宣言やロードマップも出始め，我が国でもメーカー，電力各社が協同した代替ガス検討は活発化し，特にDry airを絶縁媒体とした機器に期待が寄せられている。ユーザーの立場からはこれまで培われたガス絶縁機器の仕様合理化技術は今後も不可欠であり，今後のSF6代替ガス機器の適用においても仕様合理化を検討する必要があることから，今回Dry airを対象とし，標準雷および非標準雷波形に対する準平等電界下の絶縁特性を実験的に評価した結果を報告する。

6-046

C4-FN, C5-FK, CF3I及びHFO1234zeEを用いたSF6代替ガスの絶縁性能のためのガス量制御に関するシナジズム効果の評価

○大塚信也・松岡拓海（九州工業大学）・井波 潔・羽馬洋之（三菱電機）・中臺洋史（東京電力ホールディングス）

SF6 alternative gas mixtures using C4-FN, C5-FK, CF3I and HFO1234zeE which has similar or higher dielectric strength and lower GWP compared with SF6, have been investigated for insulation media of GIS along with natural gases like CO2, N2 or dry air. In this study, the authors focused on C4-FN, C5-FK, CF3I and HFO1234zeE gases as the EN gas, and N2 and CO2 gases as the buffer gas, and investigated the dielectric performance of these gas mixtures based on the reduced critical field strength（E/N）crit as well as the synergy effect using the synergism coefficient “S”.

6-047

72/84 kV SF₆フリーGISの開発（その1）

○高尾修平・今澤優子・小池 徹・今泉堅太郎・向田彰久・内井敏之（東芝エネルギーシステムズ）・小林 徹・笠井勇飛（明電舎）

東芝エネルギーシステムズでは地球環境保全の観点からSF₆ガスを全く用いない自然由来系ガスを使用したGISの開発を進めている。SF₆ガスは地球温暖化係数（GWP）がCO₂の25,200倍と高いことから，近年，SF₆フリーGISに対する市場の需要は高まっており，これらのニーズに応えるものである。開発中の自然由来系ガスを用いたGISは，絶縁媒体として7つの要件に適したドライエアを採用し，東芝エネルギーシステムズ製GISと明電舎製真空遮断器を組み合わせた構成である。本稿では，開発仕様や開発コンセプトを報告する。

6-048

72/84kV SF6フリーGISの開発（その2）

◎武脇大樹・菊地徳明・本間洋希・芹澤慎晶・縣 祐介・鶴田豊久・長竹和浩（明電舎）・白井英明・内井敏之（東芝エネルギーシステムズ）

地球温暖化への影響から温室効果ガスの規制がより強まっていることから，明電舎ではSF6フリーGIS向けドライエア絶縁真空遮断器（VCB）ユニットを開発した。本VCBユニットは，実績のあるドライエア絶縁タンク形VCBに採用されている2圧式構造とした。
導体の絶縁コーティング及び高圧ドライエアによる絶縁能力の向上及び安定化を図ることで，84kV定格の耐電圧性能を満足した。
また，温度上昇性能においては，輻射率の高い導体塗装処理及び熱流体解析による導体形状や配置の最適化より，3000A通電性能を満足することができた。
JEC2300:2020から参考試験に新たに規定された変圧器通過故障遮断（TRV：波高値157kV，上昇率6.5kV/μs）を実施し，良好な結果を得た。

6-049

整流子片摺動による電流転流過程における残留電流の理論計算 -ブラシ後部への高抵抗材の適用-

◎川端大海・横水康伸・兒玉直人・渡邉幹太・福塚隆司（名古屋大学）

直流モータでは，電流は，電機子の回転運動に伴って，整流子片間を転流する。しかし，整流子片の開離時に，電流が整流子片に転流しきれなかった場合，電流が残留してしまい，この電流瞬時値は残留電流と呼ばれる。筆者らは，整流子片とブラシを模擬する電気接点の摺動過程について，電気的・熱的要因等を考慮し，摺動中の電気接点を流れる直流の転流推移を理論的に導出する計算手法を構築してきた。さらに，筆者らは，複数の条件下で計算を行い，残留電流のインダクタンスおよび接触抵抗依存性を示した。本稿では，残留電流の低減手法の一つとして，可動接点の運動方向の前部および後部にそれぞれ低抵抗材および高抵抗材を用いた固定接点を適用する。

6-050

疑似過渡回復電圧印加時のアークの乱流様挙動が熱的再発弧過程に与える影響

◎猪野健太・藤野貴康（筑波大学）・田中康規（金沢大学）・茂田正哉（東北大学）・稲田優貴（埼玉大学）・熊田亜紀子（東京大学）

ガス吹き付けアークの乱流様構造が熱的再発弧過程に与える影響を解明することを目的として，簡易ノズルを対象に数値解析を行った。電流印加の停止後の減衰アークに対して疑似TRV（過渡回復電圧）を印加することで再発弧過程を模擬した。電流の印加を停止している時間を変化させることで疑似TRV印加時のアークの乱流様挙動が熱的再発弧過程に与える影響を評価した。数値解析の結果から，遮断成功に必要なアークの減衰時間は電流印加停止のタイミングによって異なることが分かった。これは定電流モードでの乱流様挙動に起因しており，アークの乱流様挙動が遮断の成否に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。

6-051

気中開閉器の開極時における外部横磁界印加時のアーク温度分布の算出

◎柏木伸一郎・森下穂香・髙木真宏・鈴木祐揮・任 振威・根本雄介・岩尾 徹（東京都市大学）

開閉器を小型化かつ高性能化に向けて，電極接点間に発生するアークの挙動を把握することが重要である。そこで，気中開閉器の限られた空間を有効活用するアーク伸長に向けた外部磁界の値を提案するため，3次元電磁熱流体シミュレーションを用いて外部横磁界印加時のアーク温度分布の算出を行った。横磁束密度をパラメータとし，解析を開始するt = 0 msにおいて，電極の接点間の距離は1.25 mmであり，開極速度1 m/sで最大3.95 mmまで移動する。結果として，横磁束密度2.0 mTを印加することで，アーク長は17 mmまで伸長した。また，磁束密度を印加しない場合では使用していなかった消弧室内空間までアークは伸長し，アーク外周部方向への熱輸送が行われた。

6-052

気中開閉器における開極速度が及ぼすアーク温度分布の算出

柏木伸一郎・◎飯田千哉・森下穂香・高木真宏・鈴木祐揮・任 振威・根本雄介・岩尾 徹（東京都市大学）

開閉器を小型化かつ高性能化に向けて，電極接点間に発生するアークの挙動を把握することが重要である。そこで，気中開閉器の限られた空間を有効活用するアーク伸長に向けた開極速度の値を提案するため，3次元電磁熱流体シミュレーションを用いて開極速度可変時のアーク温度分布の算出を行った。開極速度をパラメータとし，解析を開始するt = 0 msにおいて，電極の接点間の距離は1.25 mmであり，v_op = 1.0 m/s時は1.90 mm，v_op = 2.5 m/s時は3.48 mmまで移動する。結果として，開極速度2.5 m/sの方がよりアークが伸長しアーク電圧が増加した。また，アーク中心の温度領域に着目すると，開極速度が速い方が温度低下しており，アークコンダクタンスも小さくなった。

6-053

300 kVガス遮断器の開発

○松井祐樹・柳 康介・松本詠治・穴吹俊樹（東芝エネルギーシステムズ）

近年，ガス遮断器には保守業務の省力化が強く求められている。そのため，保守性に優れ，最新JEC規格（JEC-2300:2020）に対応した300 kVばね操作形ガス遮断器（GCB）を開発した。

6-054

SiC-MOSFET素子による低電圧直流遮断プロセスにおけるPN接合部温度と端子間電圧－大電流型素子の適用－

◎渡邉幹太・横水康伸・兒玉直人・藤田雄大（名古屋大学）

筆者らは，SiC系MOSFET半導体を適用した低圧直流モデル遮断器を試作し，その電流遮断特性を，PN接合部の過渡温度推移も含めて，示してきた。さらに，近年では，同モデル遮断器によるDC電源電圧380V下での電流遮断過程を数値シミュレーションによって得てきた。次段階として，半導体として，大電流定格のMOSFETを用い，遮断過程計算を進めている。本報告では，モデル遮断器による直流遮断とその過程におけるPN接合部の温度上昇と半導体端子間電圧の推移を述べる。

6-055

固体絶縁母線タイプ海外向け24kV C-GISの開発

○長綱 望・松澤祐介・鶴田豊久・長竹和浩（明電舎）

当社では，海外向け24kV C-GISのシリーズを製品化しており，SF6ガス絶縁母線を採用している。今回，更なるシリーズ化及び現地での母線室ガス処理不要のニーズに応えるため，固体絶縁母線による機器を開発した。仕様面では，周囲温度が熱帯地域に対応した45℃であり，標準仕様40℃に対して温度上昇限度が5K厳しくなる点が従来と異なる。構造面では，母線として主回路導体を絶縁性の高いシリコーンゴムで覆い，表面には導電性ゴムで接地された安全性の高い固体絶縁母線を採用した。形式試験の結果，必要要件を満たし，良好な結果が得られた。今後，更なる定格電流仕様の拡大を目指す。

6-056

経年劣化したカムスイッチの導通不良メカニズムの解明

◎慶野太一・山中淳平・龍岡照久（東京電力ホールディングス）

制御盤等の機器において近年，経年劣化に伴いカムスイッチの動作不具合が発生している。しかしながら不具合原因が不明のまま機器取り換えを行う場合が多く，再び同様の不具合が生じている。分解調査の結果，経年によりカムスイッチの樹脂ケースに歪みが生じ，樹脂ケースが反ることによって摺動する駆動接点の動きが緩慢になることが判明した。さらに樹脂ケースの反りにより駆動接点の一部がケースの溝穴へ引っ掛かることを確認した。再発防止策として，経年したカムスイッチの樹脂ケースの固定ネジを緩め，ケースの歪みを開放し，その後，適正トルクで管理することとした。

6-057

屋外直流給電システムにおける突入電流の影響評価

◎花岡直樹・樋口裕二・中村尚倫・田中 徹（日本電信電話）

通信ビルに接続された自営線を長延化（高インピーダンス化）した屋外直流給電システムにおいて，安定して使用できるようにするため，突入電流によってコンバータが停止しないコンデンサ容量を決める手法について検討した内容を報告する。

6-058

等価回路による雷撃シミュレーションを用いた接地システムの評価と分析

○井波伸英・福井昭圭（NTTファシリティーズ）

近年，雷撃によるシミュレーションを用いた雷害リスクの定量的評価の機運が高まっている。当社は，建物・建物内部の設備及び帰還雷撃を等価回路としたSPICEによる雷撃シミュレーションを開発している。本稿では等電位ボンディングにおける構造物との接続有無による雷害リスクにおける評価・分析について記す。接地線の構造物との接続は，当該の接地線が接続された装置に発生する過渡電圧の大きさに違いを及ぼすことがわかった。この違いの原因について分析を行った結果，構造物との接続は建物内側にある構造物及び接地線に発生する過渡電流を変化させ，その過渡電流と接地線の電磁結合の差が装置に発生する過渡電圧に影響を与えていることが分かった。

6-059

移動ロボットを活用したサギ飛来対策技術の変電設備における効果評価

○白井正樹・小林 聡・石野隆一・中屋 耕（電力中央研究所）・中西嘉人・杉本敏文・津田その子（中部電力）・晴山貴行（東北電力ネットワーク）・瀧根健志（電源開発送変電ネットワーク）

変電設備では，サギ類の粘性の高いフンが碍子に付着することで停電故障を起こす事例が知られている。既存のサギ類の対策技術として，移動ロボットにより追い払う手法が存在するが，実際の変電設備での有効性は未解明である。本研究では，移動ロボットを実際の変電設備に導入し，移動ロボットによるサギ類の追い払いと接近防止の効果を明らかにすることを目的とした。現地観測の結果から，変電設備に飛来するアオサギが移動ロボットに対して警戒したり逃走したりする様子が確認できた。今後は，高い防水・防塵機能や安定した電源供給機能を搭載することで，長期間の現場実装に対応できる移動ロボットの開発が必要となるだろう。

6-060

消弧グリッドの配置が直流アークに及ぼす影響

◎中島駿介・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）・長崎豊毅・山口直哉（戸上電機製作所）

配線用遮断器（Molded Case Circuit Breaker: MCCB）では消弧装置として鉄の消弧グリッドが備わっている。この消弧グリッドによりアークを分断，冷却およびアーク長を伸張させることで，アーク電圧を上昇させ，限流遮断を行なっている。一般に，消弧グリッドの配置はグリッドを等間隔に並べたものが多く，他の配置について検討された例は少ない。
本論文では鉄グリッド5枚の配置を，グリッド間2mmの等間隔で並べた通常配置に加え，中央のグリッドに対し15°,30°開いたアーチ配置，中央3枚のグリッドを両端のグリッドに対し5mm上に並べた凸配置で測定を行い，アーク電圧の様相を調査した結果を報告する。

6-061

スポット市場電力価格を考慮した水道ポンプ設備の最適運転

○田中慎也・竹内佑斗・益田泰輔（名城大学）

太陽光発電設備などの出力不安定電源の対策として，蓄電設備を用いることが検討されているが，蓄電池システムは設置コストが高く，既存のリソースの需給調整への有効活用も求められている。本研究室では，配水池に貯留された水の位置エネルギーを利用して配水を行う水道設備に注目し，スポット市場電力価格を考慮した水道ポンプ設備の最適運転について検討する。

6-062

カーボンニュートラルに向けた用役プラント多目的最適化

◎北東隆志（三井化学）・足立壮太・藤井大輔・高山聡志・石亀篤司（大阪府立大学）

【目的】カーボンニュートラルに向けて発電コスト最小化および二酸化炭素排出量削減を実現するための設備設計手法に関する検討を行う。
【方法】工場の運転データを用いて要素の導入容量を決定する。まず，既存設備における最適運用計画を導出する。そして，新規設備導入コストを考慮したうえで再度最適化問題を解き，発電コスト最小化および目標二酸化炭素削減比率を実現する新規設備容量および発電量を決定する。
【結果】新規設備の導入により発電コストが104[万円]，二酸化炭素排出量289.1[t-Co2]削減することが出来た。
【考察】新規設備の導入を行うことにより，カーボンニュートラルに向けた取り組みに有効であるといえる。

6-063

マイクログリッドにおける電力・熱取引を用いたエネルギー需給調整モデルの開発

◎江間 翔・安芸裕久（筑波大学）

近年，分散型エネルギー源（DER）の普及が進む一方で，DERの効率的な運用やレジリエンスの高い柔軟な系統運用のためにマイクログリッド（MG）が改めて注目されている。しかし，MGは小規模で安定運用のための需給調整が容易ではない。本研究では需要家の経済性を考慮したエネルギー運用による需給調整力の調達に焦点を当て，アグリゲータと需要家およびMG外とのエネルギー取引によるMG需給調整モデルを構築し，シミュレーションにより系統調整力の提供量やステークホルダーの経済性について分析した。時間帯別料金等を用いた電力および熱取引により需要側から需給調整力を調達することで，MG内の需給調整やMG外への系統調整力提供の可能性が示された。

6-064

導入地域特性を考慮したV2Hシステム環境負荷軽減効果の評価

◎加藤正晃・竹本泰敏（日本工業大学）・香月壮亮（旭化成ホームズ）

電気自動車の普及が進められているなか，電力の必要性が高くなり，内燃力発電の依存度が高いことから，発電時におけるCO2排出量が増加すると懸念される。V2Hシステムで住宅と電気自動車間の電力を連携させ，住宅のエネルギー消費量削減，EVの自立可能運用によりCO₂排出量削減につながると考えるが，地域的特性による自動車利用頻度の変化によって，CO₂排出削減効果が変化する。
そこで，本研究では，CO₂排出量削減に対応する手段として，PVを導入した住宅に，V2Hシステム，電気自動車導入によって，地域的自動車利用条件を考慮した，環境負荷軽減効果を数値解析により明らかにすることを目的とする。

6-065

PVと蓄電池を有する工場の需要ピーク削減に向けた簡易的な蓄電池充放電手法

◎吉田愛恵・植田 譲（東京理科大学）・サドノアディユダ・小島恵太（Looop）

蓄電池とPVを有する工場負荷において正味の需要のピーク値を削減する簡易的な充放電制御を適用した手法を開発し，シミュレーションを行うことでその効果を検証する。

6-066

数値予報モデルGPVを用いたPV発電量予測による時間帯別料金を考慮した蓄電装置の充放電計画

◎山田奏汰・植田 譲（東京理科大学）・サドノアディユダ・小島恵太（Looop）

本稿では，RE100電力を供給するPPA事業者としてPVと大容量の蓄電池を保有する事業者を想定し，数値予報モデルGPVを用いてPV発電量を予測し，供給先となる中小規模の工場需要に対して数日先の蓄電池残存容量に余裕がある場合には供給先需要への放電に加え，電力取引価格が高い時間帯に系統に売電するような蓄電池の充放電計画を作成する。そして，毎日1日先までの蓄電容量を考慮した結果と毎日5日先まで蓄電容量を考慮した結果を比較検討する。

6-067

PV導入が進展する長距離大電力送電系統における系統安定化システムの展望

◎西山淳一・岡 孝志・斎藤宣俊（中部電力パワーグリッド）

長野方面系統安定化システムは，2012年5月の運転開始から現在まで，上越火力発電所から豊根開閉所に至る長野方面の長距離大電力送電系統において，電力の安定供給に貢献している。本システムは，VQC制御により調相設備等を30秒周期でコントロールすることで，系統の適正電圧を維持している。近年，長野方面ではPV設備容量が1,400 MWを超え，今後さらに連系量が増加する見通しである。本稿では，PV導入拡大に起因する潮流および系統電圧の変化を調査し，これが平常時のVQC制御に与える影響を報告する。加えて，この制御実績をもとに，PV導入が進展する長距離大電力送電系統において，新たな制御方式の必要性が高まっていることを報告する。

6-068

大規模な蓄電池システムによるPV導入後の東日本電力系統の安定性に関する研究

◎小山春香・呉 国紅（東北学院大学）

本研究では，東日本電力系統に，2020，2030，2040，2050年までに予測されたPVを大量導入された場合，蓄電池システム（Battery Energy Storage System: BESS）モデルによる過渡安定度と定態安定度の向上を図ることを目的とした。発電出力の安定性が自然環境に左右される特性を持つPV電源を大量に系統に導入する時，電力の需給バランスを維持できない可能性が生じる。この問題を解消するため，BESSを導入し，導入した場合の安定度，またBESSの設定条件を変えた場合の安定度を解析することとした。解析は，電力中央研究所が開発したCPATFreeを使い，peak時の東日本の電力系統を模擬したEAST10機を用いて行った。

6-069

異なる制御方法の蓄電池を導入した電力系統における系統安定度に関する研究

◎伊藤凌平・富岡雅弘・熊谷誠治（秋田大学）

再生可能エネルギーの電力系統導入は，気象条件による発電出力の変動によって電力系統に悪影響を及ぼす。その対策として，電力系統に蓄電池を導入するAR配分制御が一般的である。しかし再エネ出力変動に対する制御に限界がある。本研究では，AGC30モデルを用いて，再エネと蓄電池が導入された電力系統をAR配分制御および再エネ抑制制御の2つの制御方法で制御した際の系統安定度について検討する。その結果，2つの制御方式で電力系統を制御することで安定度が向上した。また，再エネの出力変動を抑制した前後を比較すると，抑制後の出力変動が減少していた。これより，AR配分制御に加え，再エネ抑制制御により再エネの出力変動を抑制することにより，電力系統の安定化に繋がることが明らかとなった。

6-070

太陽光発電のFRT出力回復遅れ時間が過渡安定度に与える影響に関する一考察

○入口 毅（北陸電力）

太陽光発電など再生可能エネルギーに搭載されているFRT機能には系統安定度を維持する効果が期待できるが，その効果は再生可能エネルギーの連系地点や負荷に含まれる誘導機の割合等の条件によって影響を受ける。特に，再生可能エネルギーの連系地点と負荷地点が離れている場合，FRT機能により運転継続するより運転停止した方が系統安定度が良くなるケースがあることが確認されている。本稿では，負荷地点から離れた場所に連系する太陽光発電に搭載されたFRT機能を有効に活用するため，FRT機能の出力回復を遅らせた場合の系統安定度に与える影響について考察した。

6-071

N-1電源制限による風力発電機群の解列時刻と連系量が過渡安定度に与える影響

◎錦織佑太・斎藤浩海（東北大学）・伊藤直樹・佐々木和人（東北電力ネットワーク）

現在日本では系統の空き容量不足を解決するための運用ルールが検討・実施されている。その一つにN-1電源制限がある。本研究では，このN-1電制に過渡安定度の観点から注目している。具体的には電力系統でN-1電制が行われた場合，風力発電機群の解列のし方や系統状態の変化が過渡安定度に与える影響を分析しN-1電制時の過渡安定度の維持・向上を図る方法を明らかにすることを目的としている。
本稿ではN-1電制の下，風力発電機群の連系量や電源制限時刻が過渡安定度に与える影響を分析した結果を報告する。

6-072

N-1電源制限時における電力系統への超電導発電機導入効果の検討

◎中尾亮介・坂本織江（上智大学）

超電導発電機（以下，SCG）は，エネルギーキャリアとして注目されている液体水素を冷媒に用いる超電導線材と水素燃焼ガスタービンの利用により脱炭素化に貢献できるとされている。また，従来型発電機（以下，CG）と比べて高効率，小型軽量，低同期リアクタンス，進相運転範囲の拡大といったメリットがある。そのため，安定度余裕の拡大や電圧変動の低減等により電力系統の性能向上に寄与する。故に，再エネ電源増加に伴う系統の安定度低下の懸念や空き容量不足による運用変化等に対してSCGの導入が有効であると考える。本研究では，大容量の分散型電源を含む電力系統でのSCG導入効果の検討を行った。本稿では架空送電線片回線三相地絡事故後のN-1電源制限時に行ったシミュレーションの結果を報告する。

6-073

広域電力系統におけるオンライン過渡安定性予測手法の開発に関する研究

◎山下大輔・福井伸太（東洋大学）

本研究では，シンクロフェーザ測定機器（Phasor Measurement Units: PMU）を用いた広域監視システム（Wide Area Monitoring Systems: WAMS）による広域保護・制御を検討し，大量に太陽光発電が連系された広域電力系統モデルにおいて系統内の複数地点に設置したPMUからの電圧と位相差の測定データを用いて過渡安定性の限界を判定し，事故継続中を含めた時間での安定性の指標を提案する。このオンライン過渡安定性予測手法で用いる評価指標として電圧変化－位相差指標を提案し，PVの導入比率の変化，同時故障などの様々な想定で，本研究提案手法を評価する。

6-074

再生可能エネルギー大量導入時における電源脱落時の周波数低下に関する基礎的検討

◎村上 彰・齋藤拓巳・萬年 穣・植田俊明・高木康夫（大同大学）・坂本佳直美・佐藤 隆（神戸製鋼所）

我が国における再エネの比率は今後数十年の間に更に増加していくことが見込まれる。一方で再エネの増加による電力系統の調整力の低下や，天候に左右される点など，需給バランスの維持が懸念されている。圧縮空気エネルギー貯蔵システム（以下CAES）は再エネに分類されるが同期機であるため風力発電や太陽光発電のようなインバータ電源が多い電力系統の安定性を増すというメリットがあるため注目されている。本研究では，電気学会WEST30機系統モデルを参考に，当該系統モデルにおいて，事故により電源脱落が生じた際の周波数低下に関する検討を行った。

6-075

大規模風力発電所における不安定現象の検討

◎本多幸一郎・川上周造・前村太樹・中島達人（東京都市大学）

本論文では，永久磁石同期発電機（PMSG）で構成される大規模風力発電所を模擬した解析モデルを構築し，低短絡容量送電線に連系した条件で発生する不安定現象の様相について，PSCADシミュレーションで検討したので結果を報告する。

6-076

ΔLMPに基づく潮流解析手法 －系統制約の評価－

○田辺隆也（電力中央研究所）

系統制約の特性や影響を十分に把握できていない場合，安全のために，設備・運用上に過剰なマージンを確保することになり非効率となる。安全で効率的な系統の実現には，十分に活用されていない系統の性能やその余力を発掘し，状況に応じたリスクや手段に基づいて系統の性能を最大限活用すること（最適化）が肝要である。そこで本研究では，OPFに基づく潮流解析の枠組みとして，系統制約の評価のためのΔLMPに基づく潮流解析手法を提案する。系統制約をパラメータ化したOPF解析により得られるLMPの変化量をΔLMPと定義し，系統制約が，いつの時点で，系統の何処に，どの程度のコスト的な影響を及ぼすかを評価する。

6-077

北海道2018ブラックアウトにおける次同期周波数振動

○伊与田 功（大阪電気通信大学）

2018年に発生した北海道のブラックアウトについては，報告書と詳細なデータが電力広域的運営推進機関（OCCTO）のホームページに公開されている。公開されているサンプル周期20msの周波数データを分析したところ，6Hz程度の振動成分があることが判明したので報告する。振動は10分以上継続した。このような同期周波数より低い周波数を，次同期周波数（Subsynchronous Frequency）と呼ぶが，この周波数が発電機軸系の共振周波数と一致すると，軸ねじれ共振が発生して軸を破損する可能性があることが知られている。将来の事故防止のため今回の振動現象の発生原因を特定しておくことが望まれる。

6-078

MT法を用いたバイオマス発電所の故障解析

○関 健一・土田 崇・中島栄一・河合芳雄・鶴橋俊雄（関電工）・鍛冶良作（産業技術総合研究所）・吉岡 匠・河合洋明・大川慶直（匠）

発電所の保守運用に資することを目的とし，データ解析手法のひとつであるMT法を用い，バイオマス発電所で発生した故障について解析を行った。解析の結果，故障発生前に運転システム・バランスが変化していることを確認できたので報告する。

6-079

電力系統解析におけるクープマンモード分解の解析精度に関する考察

◎小原悠暉・平瀬祐子（東洋大学）

マイクログリッドは周波数安定度と，電圧安定度が低くなるため，様々な不安定現象が引き起こされる可能性がある。そのため，電力系統の動特性解析が重要であるものの，複雑な非線形性によって，等価モデルを用いた従来のフーリエ解析ベースの手法では正確な過渡応答解析が困難である。近年では，クープマンモード分解（KMD）を使用した周波数解析が研究されており，筆者らも，IEEE 3機9バスシステムの過渡応答に対してKMDを使って解析した結果を発表済みである。本発表はその続報とし，周波数応答に加えて時間応答にも着目し，サンプルデータ点数，サンプル周波数，KMD解析区間の遷移時間と，時間－周波数解析の精度との関係性について精査した。

6-080

確率潮流計算を用いた高速な想定事故解析の検討

◎志村勇一・高木育博・岩村一昭・中西要祐（早稲田大学）・鈴木亮平・藤本 久（富士電機）

脱炭素社会に向け，再エネを用いた発電などCO2を排出しないエネルギーが注目されいる。また，電力システムの運用において，大量導入される再エネによる発電出力は，天候などによって大きく変動するため，変動を考慮した潮流断面を算出する確率潮流計算が注目されている。一方，電力システムの想定事故解析などの再エネを考慮した信頼度評価では，さらに多くの潮流状態を算出する必要があり，高速な計算が要求される。本研究では，多くの時間を要するモンテカルロ法を用いず，任意多項式カオス展開法による確率潮流計算を行う。加えて，電力系統事故前後の簡易的な計算手法シフトファクタ―を適用し，高速に計算する手法を提案する。

6-081

縮小空間法によるTSCOPFの高速化に関する研究

◎黒川大輝（広島大学）・久保川淳司（広島工業大学）・餘利野直人・造賀芳文・佐々木 豊・藏田遼介（広島大学）

内点法と数値離散化法の組み合わせは最適潮流計算を解くために広く利用されている。しかし，実規模の電力系統の場合においては大きな非線形計画問題であり，計算時間が長くなる問題がある。
縮小空間法は大規模な非線形計画問題の内点法へ適用され，計算時間の短縮が行われている。本研究では，縮小空間法を用いることで最適潮流計算の計算時間の短縮を目的とする。
先行研究では制御変数を独立変数，状態変数を従属変数として分割している。しかし，この分割案では計算時間を十分に短縮できないことが確認できた。そこで本研究では状態変数の一部のみを従属変数に変更することで反復中での行列計算を省略し，計算時間を短縮している。

6-082

マイクログリッドにおける高調波抑制伝送回路の設計および周波数特性解析

◎丹野友佑・大場佳文・呉 国紅（東北学院大学）

再生可能エネルギーは，天候に依存しており，負荷への安定供給が困難である。今後の大量導入にはマイクログリッド技術が必要である。しかし，マイクログリッドにおいて，多数のパワエレ機器が使用されており，機器から高調波が発生し，過電流による設備損害を引き起こす恐れがある。本研究では，発生した高調波問題を対処するために，回路理論を用いて高調波抑制回路を設計し，マイクログリッドで発生した高調波を取り除く目的とした。本論文では，設計した高調波抑制回路の周波数特性の解析を行い，さらにマイクログリッド等価回路およびマイクログリッドに近い回路構成のモデルに導入し，シミュレーションによって提案する伝送回路の妥当性を確認した。

6-083

対称座標法による連系インバータの高調波計算（その1）―インバータの高調波特性―

◎Wanbin Xing・佐野憲一朗（東京工業大学）

分散型電源の連系インバータに流れる低次高調波電流は，系統の高調波電圧の影響を受けて変化する。しかし，この高調波の変化を解析的に求める方法は確立されていない。対称座標法は電源周波数成分の解析で広く用いられるが，高調波成分に対しても拡張して適用できる。連系インバータを含む電力系統の高調波計算を解析的に行うことを目的として，対称座標法に基づいた計算方法を報告する。本稿では，電流制御を行う三相インバータを対象に，瞬時値シミュレーションにより高調波特性を取得する。その結果から，三相インバータの高調波特性は，近似的には対称分インピーダンスによりモデリングできることを示す。

6-084

対称座標法による連系インバータの高調波計算（その2）―対称分等価回路による高調波計算―

Wanbin Xing・○佐野憲一朗（東京工業大学）

分散型電源の連系インバータに流れる低次高調波電流は，系統の高調波電圧の影響を受けて変化する。しかし，この高調波の変化を解析的に求める方法は確立されていない。対称座標法は電源周波数成分の解析で広く用いられるが，高調波成分に対しても拡張して適用できる。連系インバータを含む電力系統の高調波計算を解析的に行うことを目的として，本稿では対称座標法に基づいた計算方法を報告する。三相インバータの高調波特性を対称分インピーダンスによりモデリングし，それに基づき各次高調波の対称分等価回路を作り，高調波を計算した結果を示す。そして瞬時値シミュレーション結果と比較してその妥当性を検証する。

6-085

インバータ電源大量導入時における電圧制御-背後インピーダンスのR/X比の影響-

◎山田康暉・梅野悠希・竹嶋大輝・七原俊也・雪田和人・松村年郎（愛知工業大学）

太陽光発電や風力発電などの導入が進むにつれ，それらが弱い電力系統に連系される場合が増えると予想される。この場合，電圧変動の増大やインバータ制御の安定性低下などの課題が懸念される。本論文では，背後インピーダンスの抵抗分とリアクタンス分の比に着目し，弱い系統に連系されたインバータ電源電圧制御について考察した。すなわちインバータの定力率運転を行う場合について電圧変動にどのような影響を及ぼすかを検討し，インバータ電源を適切な力率で運転すればインバータ出力が変動する場合でも電圧の安定化が図れることを明らかとした。

6-086

停電レジリエンス価値の評価モデルの構築(1)～評価プロセスの概要と社会実装イメージ～

◎當房拓朗・堺 紀夫・髙橋玲子・羽深俊一（東芝エネルギーシステムズ）・飯野 穣・矢部邦明・林 泰弘（早稲田大学）

近年の自然災害頻発への対応として，インフラのレジリエンスが社会的課題となっている。電力のレジリエンス向上の手段として，供給側のみならず需要家側の分散型電源導入が挙げられる。しかし，需要家側に注目した定量的なレジリエンス評価の事例は少ない。今回，需要家が災害用に設置した対策設備の停電レジリエンス価値を，確率論的リスク評価と電力需給バランス評価を組み合わせることにより定量的に評価するモデルを構築した。本稿では，レジリエンス価値の定義，レジリエンス価値の定量評価モデルの社会実装イメージ，評価プロセスについて報告する。今後，複数の需要家，地震以外の災害，及び投資対効果の評価へ展開する予定である。

6-087

停電レジリエンス価値の評価モデルの構築(2) - ビル需要家のレジリエンス曲線の推定事例 -

○飯野 穣・矢部邦明・林 泰弘（早稲田大学）・當房拓朗・堺 紀夫・竹澤伸久・髙橋玲子・羽深俊一（東芝エネルギーシステムズ）

電力供給システムのレジリエンス実現には，供給側とともに需要家サイドのレジリエンス強化が必要である。本研究では，需要家側に着目し，太陽光発電などの再生可能エネルギーで代表される分散型電源の停電レジリエンス価値の定量評価モデルの構築を目指す。本稿では，需要家サイドのレジリエンス価値を，事象確率モデルと事象シナリオに基づくレジリエンス曲線の組合せにより評価する，確率論的リスク評価手法の一部として，停電による供給率低下の動的な変化を表すレジリエンス曲線の推定手法を提案する。一般的なオフィスビルを対象に，防災設備（非常用発電機）に加え，レジリエンス対策機器（PV+蓄電池）を想定し，各故障シナリオに対し負荷重要度別のレジリエンス曲線の試算例を示す。

6-088

電力事業の進化に向けて

○鈴木 浩（メタエンジニアリング研究所）・伊与田 功（大阪電気通信大学）

VUCAといわれる混とんとした時代において，電力事業のミッションがどの方向に向かうべきか。進化思考のアプローチを用いて，過去の停電の歴史の系統化から，将来の方向を提言する。電力（P），品質（Q），回復力（R）から，持続性（S）に向かうと予想する。その環境変化を，新たな五つのDとしてとらえる。データ活用，脱エネルギー，分散・融合，民主化，多様性である。それを環境として，Sに向かう道を探る。

6-089

大気中CO₂直接回収技術を考慮した世界エネルギーモデルによるネガティブエミッション実現に関する分析

◎古川慶人・小宮山涼一・藤井康正（東京大学）

パリ協定における1.5℃目標を2100年までに達成するには，2070年からネガティブエミッションが必要になると推定され，ネガティブエミッション実現に貢献できる大気中CO₂直接回収技術（以下，DAC）の将来的な導入が予想される。そこで，本研究では世界エネルギーモデルを用いてDACの導入可能性評価やエネルギーシステムに与える影響の分析を行った。1.5℃目標のCO₂排出シナリオでDACあり/なしの2ケースで最適化計算を行った結果，電気のみで駆動する吸着材を用いたDACをメインにDACの導入が確認できた。さらに，DACやCCSにより回収したCO₂は全量貯留することが最適解とされ，DACが導入できる場合には2100年時点でもCCSを用いた化石燃料利用できることが分かった。

6-090

ダーク・ドルドラムズ（無光無風）にともなう変動性再エネ低出力イベント

○大庭雅道・菅野湧貴・野原大輔（電力中央研究所）

「無風・無光」の期間が数日続く，いわゆる「ダーク・ドルドラム」は，可変再生可能エネルギー（VRE）の普及率が高い場合，電力供給が途絶えるリスクにつながる。わが国においては，現状ダーク・ドルドラムから問題が生じるほどVREの導入量は多くないものの，2050年カーボンニュートラルの達成のための電力の安定供給に向けて，ダーク・ドルドラムの詳細な発生時期や要因について明らかにする必要がある。本研究では，太陽光発電と風力発電がバランス良く導入されている東北電力エリアを対象に，ダーク・ドルドラムの気候学的・気象学的な発生の特徴とその要因を分析した。まず，ダーク・ドルドラムの気候学的な特徴を把握する目的で，数年分のVREの実測データを数十年分に拡張した。具体的には，ランダムフォレストを用いて，アメダス気象観測データ（気温・日照時間・風速）を入力データ，実測データを出力データとして統計関係を構築し，1978～2020年の太陽光・風力発電量をそれぞれ推定した。得られた過去43年間のVRE出力遡及データから，東北電力エリアでは主に夏季にダーク・ドルドラム（ここでは，太陽光と風力の合計が定格出力の10％以下になる期間で定義）が発生することがわかった。東北電力エリアの夏季における地上風ベクトルの空間分布に自己組織化マップを適用し，1978～2020年における長期の気象場の分類を得た。得られた気象場とVRE出力再構築データとの対応関係から，ダーク・ドルドラムの発生頻度が高い4つの支配的な天候パターンが特定された。また，ダーク・ドルドラム発生数の経年変動は，熱帯インド・西太平洋域の海面水温変動により励起されたテレコネクション（遠隔応答）と関連していることがわかった。

6-091

送電網混雑を考慮したSecurity Constrained Unit Commitmentを用いた予備解析

○宇田川佑介（東京大学/構造計画研究所）・荻本和彦・Joao Fonseca・瀬川周平（東京大学）・向井 克・齊藤朋世（構造計画研究所）・福留 潔（J-POWERビジネスサービス）

太陽光発電出力の予測誤差を考慮可能な発電機起動停止計画（Unit Commitment）モデルを基に送電線混雑を考慮可能なSecurity Constrained UCモデルへ改良を行った。解析では電気学会EAST10モデルを用い，2030年度相当の計算条件を設定した。翌日計画フェーズではPV出力のみ予測値を用いてUCを実施し，当日運用フェーズではその計画に基づいて，PV出力実測値を用いたシミュレーションを実施した。UCとSCUCでそれぞれ比較を行うと，SCUCでは送電網の混雑を回避するために再エネの出力制御が増加し，石炭火力発電機に加え石油火力発電機も稼動する結果となった。

6-092

EV・PVを含む地域エリアの電力需給モデルの検討

◎朝倉康朋・重信颯人・伊藤雅一（福井大学）・金尾則一・杉本仁志（北陸電力）

再生可能エネルギーの大量導入や災害時の地域エリアの自律が要求される昨今では，配電用変電所以下のフィーダーの電力潮流を，系統内に存在するリソースを活用して制御することが望ましい。そこで本稿では，配電用変電所以下の地域エリアについて，PVとEVが普及した地方の小規模な系統を想定した電力需給モデルを構築した。さらに，配電線潮流の平準化を目的とする線形計画法を用いた最適化問題を作成し，数値シミュレーションによる蓄電池の運用を検討した。蓄電池の充放電量とエリア間の電力融通量の最適化を行った結果，配電線潮流を平準化することが可能であったが，一方でPV導入率やEVがさらに増加すると，より大きい容量の蓄電池や高度な制御が必要となることが分かった。

6-093

蓄電池を持つPV発電所における調整力確保のための前日発電計画と当日修正手法の検討

◎小島祐樹・崔 錦丹（東京理科大学）・大関 崇（産業技術総合研究所）・植田 譲（東京理科大学）

本研究では蓄電池を持つ太陽光発電所における調整力創出手法についての検討を行った。
提案手法は前日段階と当日段階の2段階に分けられる。前日段階ではHeadroom制御による出力抑制を前提とする翌日の発電計画を作成する。当日段階では短期予測に基づいて数時間毎にシミュレーションを行うことで，調整力確保に向けて売電計画および蓄電池の運用計画を修正する。
以上をルールベースで実装し，蓄電池容量を変化させたときの調整力確保日数を評価した。当日の修正を行わない場合，3時間容量の蓄電池を用いた場合でも調整力未確保日が存在したが，当日の修正を行うことで調整力未確保日数を0日とした。

6-094

強化学習を用いた太陽光発電所における2次調整力の創出と調整力割合の決定手法

◎糸井久瑠実・崔 錦丹（東京理科大学）・大関 崇（産業技術総合研究所）・植田 譲（東京理科大学）

近年，太陽光発電の大量導入に加えカーボンニュートラルに向けて再生可能エネルギーの導入が進められており，太陽光発電所の需給調整市場への参入が見込まれる。本研究では，太陽光発電所において強化学習であるQ学習を用いて継続時間が30分である2次調整力を創出する手法を提案する。まず晴天指数予測，発電量予測，価格からデータを分類し，Q学習によって予測値に対するHeadroomの割合xとHeadroomに対する調整力の割合yを算出した。その結果，各分類データに対して収束したx，yが得られ，インバランス回数が小さくなるようなQ値が得られた。しかし，テストプロセスではHeadroom制御による誤差吸収分の確保により，不足インバランスは減少したがそれ以上に機会損失が増加する結果となった。

6-095

Three-Part Offer 市場における揚水発電機の入札を考慮した起動停止計画

○簑津真一郎・馬場旬平（東京大学）

我が国では BG制の電力市場が採用されており，中長期的に，BG制からゾーン制，ノーダル制への移行が検討されている。ノーダル制では，ユニット起動費，ゼロ出力費用，限界費用カーブの 3つを用いた Three-Part Offerが採用されており，市場運営者が Three-Part Offer で提出された入札価格を用いて最適な起動停止を計算することで市場価格が算出される。Three-Part Offer の下では，入札者は起動停止状況を事前に知ることが出来ず，揚水原資に対応する火力を特定することが出来ない。そのため，調整力提供者は揚水原資の入札価格を設定しなければならないという課題が生じる。本稿では，揚水発電機の揚水原資の入札価格が揚水発電機の起動停止に与える影響の評価を行ったので報告する。

6-096

潮流制約下における出力抑制機会の公平配分を目的とした需要側調整資源の活用法

◎菅原大知・斎藤浩海（東北大学）・伊藤直樹・佐々木和人（東北電力ネットワーク）

全系での発電過剰が予見された場合に実施される再生可能エネルギー電源の出力抑制に関して，著者らは送電線容量を考慮した風力発電機群に出力抑制の機会を公平に配分する方法を考案した。さらに出力抑制の機会を風力発電機群に公平に配分するために満たすべき条件を明らかにした。本稿では，将来的に普及が進むEVを需要側調整資源として活用する方策として，出力抑制の機会の公平配分を目的としたEVの充放電量決定法を提案し，その妥当性をIEEE14母線系統モデルに東北系統の需要実績値の加工データを適用した数値計算例で確認した。なお，提案手法は中央給電指令所における前日の需給計画に使用されることを想定している。

6-097

日間需給計画における電源運用条件設定のためのセキュリティチェック

◎中村徳志・服部光輝・益田泰輔（名城大学）・河辺賢一（東京工業大学）

潮流状態を統計的にある程度予測できるのであれば前日スポット市場が始まる前にあらかじめセキュリティチェックに違反する電源の入札や応札に制限をかけておくことが合理的である。過去の負荷需要と再生可能エネルギーの出力分布からあらかじめ系統制約違反が起こりうる潮流状態を抽出しておき，違反が発生しない電源運用の条件を設定する方法を検討する。セキュリティチェックは，最適潮流計算および安定度解析によって実施する。この条件に従って前日市場での入札・応札を制限することで，計画断面での系統制約違反の発生を回避できることを確認した。

6-098

家庭用CGS群による需給調整力提供 ―需要の不確実性を考慮した運転計画手法―

◎中久木晴生・原 亮一・北 裕幸（北海道大学）・宮脇雅史（北海道ガス）

本稿では電力システムの需給調整に家庭用CGSが参加する状況を想定し，需要の不確実性によらず調整力を提供するための運転計画手法を提案する。過去の需要を用いた複数の需要シナリオを用い，発動失敗ペナルティを含むコスト期待値の最小化により計画を行うことで，需要予測の誤差に応じた適切な調整力提供量及び運転余力を決定する。実測データを用いた数値試算の結果，提案手法により各時間帯の需要量の不確実性に応じた運転計画が作成可能。また従来手法と比較し，調整力提供力を減らすことなく調整力発動の失敗量のみの削減，コストの削減が可能であることを確認した。

6-099

連接水系群の発電機起動停止計画の区分線形化近似ー精度改善を目的とした区分方法の提案ー

◎竹内智紀・原 亮一・北 裕幸（北海道大学）・豊嶋伊知郎・水谷遼太（東芝エネルギーシステムズ）

発電機起動停止計画（UC）は組み合わせ最適化問題であり，工学的な時間で厳密解を求めることは難しい。UCの対象に水力発電を含める場合，貯水池の水位変動に伴う発電効率の変化や連接水系の上流の貯水池が下流の貯水池に与える影響を考慮する必要があり問題はさらに複雑になる。Guedesら研究グループは，連接水系群における発電出力の非線形性を考慮しつつ，工学的な時間で最大効率となる運転計画を求めるために，区分線形化近似を用いた手法を開発した。一方で，計算精度，計算時間は区分方法に大きく依存することが分かっている。本稿では，実際に利用される可能性の高い範囲を集中的に区分する効率的な区分方法を提案し，その計算精度，計算時間を数値試算を通して考察する。

6-100

発電機起動停止計画における所要慣性決定手法

◎伊藤雄飛・重信颯人・伊藤雅一（福井大学）

再エネ主力電源化を推進する一方で，同期電源の起動台数が減少することによる系統慣性低下が懸念されている。系統慣性を確保するためには，あらかじめ運用計画時点で同期電源の起動台数を確保しておく必要がある。しかし，所要慣性の定量評価はされておらず，発電機起動停止計画（UC）でも系統慣性は考慮されていない。そのため本研究では，所要慣性に関する2つの指標（RoCoF制約，UFR制約）を定義し，系統慣性制約として組み込むことで，系統慣性を考慮したUCを作成した。所要慣性は正味負荷が小さい，または，事故想定が大きい場合にUFR制約の影響を大きく受けることがわかり，また，本提案の系統慣性制約が有効であることがわかった。

6-101

調整力を提供する太陽光発電所の計画発電手法

◎小西澪矢・根岸信太郎（神奈川大学）

再⽣可能エネルギーの普及が進み，従来主に電⼒需給調整を担っていた⽕⼒発電の⽐率が低下している。このため，再⽣可能エネルギーの変動に対して需給調整を⾏う調整⼒が不⾜する課題が顕在化している。太陽光発電を次世代の主⼒電源とするためには，調整⼒の提供が可能となる計画発電⼿法を開発する必要がある。本発表では，太陽光発電設備と蓄電設備を組み合わせ，調整力を提供できる発電計画最適化モデルを提案する。

6-102

メリットオーダーに基づく広域負荷周波数制御アルゴリズムの検討

◎東野正和・村上好樹・廣政勝利・市川量一（東芝エネルギーシステムズ）

メリットオーダーを使用した複数エリアに跨る負荷周波数制御（広域LFC）の導入が検討されている。本報告では，出力変化速度比とメリットオーダーの両方を加味して地域要求量（AR）を配分する広域LFCアルゴリズムを，AGC30モデル上に構築した。本手法では，制御性と経済性の重みを調節してARを各LFC機に配分できる。ステップ状の需要変動を用いたシミュレーションにて動作検証を行った。ネッティングしたARを配分するため，各エリアのLFCの動作方向（上げ・下げ）が統一され，エリア単位でのLFC（従来手法）に比べ各エリアのLFC発動量が減少した。また，出力変化速度比で配分した結果と比較し，周波数偏差を維持したまま調整コストが減少することを確認した。

6-103

需給調整市場取引用メッセージの国際標準と三次調整力①取引データのマッピング

○大谷哲夫（電力中央研究所）

国内では需給調整市場が商品ごとに順次開設されつつあり，2022年4月の三次調整力①取引開始に向けた準備が進められている。ここで用いられる需給調整市場システムにおいては，電力広域的運営推進機関が定めるメッセージが利用されるが，将来的には国内の需給調整市場における取引用メッセージにIEC標準が適用される可能性がある。そこで本論文では，三次調整力①の取引における代表的なデータである「入札」「約定通知」「発電販売計画および基準値計画」の3点を，需給調整市場の取引用通信に関する国際標準であるIEC 62325-451-7にマッピングした結果を記すとともに，IEC 62325-451-7がサポートしていないデータに関するENTSO-Eとの意見交換について報告する。

6-104

An Online Inertia Estimation Method of Power System Considering the Effect of Mechanical Power Control System

◎王 宇凱・横山明彦（東京大学）

As intermittent renewable energy generation connected to the grid through power electronic converters is replacing conventional thermal power plants dominated by synchronous generators, the inertia of the power system is gradually decreasing. therefore the inertia of the power system needs to be estimated to retain sufficient power reserves, assess the potential instability risk of the power system and deal with it accordingly. In this paper, improvements have been made from previous studies to take into account a major issue in online inertia estimation, which is the effect of the control system. It greatly improves the accuracy of the estimation and the range of applications available.

6-105

東北における残余需要の変動実績と今後の周波数調整力必要量の考察

○矢部邦明・原田耕佑・林 泰弘（早稲田大学）

今後のPV・風力設備の増加に伴い，周波数調整力の確保が課題となる。このため，東北のエリア需要とPV・風力出力の5分間値1年分を統計処理し，30分平均と比較した時間内変動の実績を分析した。残余需要およびPV・風力の時間内変動量は，裾の長い分布をしており，周波数管理において稀頻度の大幅変動に留意する必要があることが分った。風力については，PVよりも変動率は小さかったが，洋上風力の集中設置も計画されていることから，更なる検討が必要である。PVについては，九州のデータと同様の結果が得られた。今後は，周波数調整力の必要量が，低需要期を含め増加するため，PV・風力の出力抑制必要量を含めた検討が必要である。

6-106

離散型負荷制御における遅延時間が電力系統の周波数に与える影響

◎堰合賢吾・斎藤浩海（東北大学）

需要側の負荷機器の消費電力を変化させることで，周波数安定性に貢献する負荷制御が注目されている。負荷制御の問題点の1つとして，通信の不確実性があり，通信環境により大きな遅延時間が発生してしまう可能性がある。意図せずに負荷制御の制御ループ状に遅延が入ると，負荷機器の消費電力変更量が振動的になり問題となる可能性がある。そこで本稿では，離散型の負荷制御において，遅延時間の長さが電力システムの周波数に与える影響を簡単な周波数動特性モデルを用いて分析した。離散型負荷制御の遅延時間によって周波数変動抑制効果が低減，また離散時間システムの固有値が変化し周波数変化の振動波形が異なることが分かった。

6-107

ガウス過程回帰による所要LFC容量動的決定手法

◎西田啓人・重信颯人・伊藤雅一（福井大学）・金尾則一・杉本仁志（北陸電力）

PV主力電源化を目指す中，PV出力予測誤差を補償するLFC容量の不足への対応が必要であるが，所要LFC容量の基準は明確でない。本稿では，PV出力予測誤差に対する所要LFC容量の決定にガウス過程回帰を用い，所要LFC容量をUC時刻断面毎に動的に決定する手法を提案する。提案手法では，予測需要と気象予測データおよび，電力需給・周波数シミュレーションから算出されるPV出力予測誤差を考慮した所要LFC容量を訓練データとし，ガウス過程回帰モデルで学習する。学習後は予測需要，気象予測データを入力し，PV出力予測誤差に対する所要LFC容量を決定する。提案手法を用いることで，系統安定性を維持しつつ，6.9ポイントのPV導入可能量増加効果，24.8%のLFC容量削減効果が示された。

6-108

メリットオーダーに基づく負荷周波数制御における蓄電池kWh単価の違いによる制御性能への影響に関する基礎検討

◎笹田直希・斉田 賢・今中政輝・栗本宗明・杉本重幸・加藤丈佳（名古屋大学）・山口 遼・中地芳紀（中部電力）

需給調整市場の開設に伴い，LFCにおいても発電単価の順序（メリットオーダー（MO））に基づく指令値配分が導入予定であり，経済性を重視しつつ，周波数制御性を維持・改善する手法の開発が必要となる。また，出力が不安定な再生可能エネルギー電源の導入拡大により，周波数品質に悪影響を及ぼすことが懸念され，この対策として出力応答速度の速い蓄電池活用の期待が高まっている。本論文では，経済性と周波数制御性を両立したLFCの高度化を目的とし，MOに基づくLFCに蓄電池を導入することを考え，MOリスト内における蓄電池の優先順位が中位となる価格設定に対しAGC30を用いた数値解析により，制御効果を最も引き出す蓄電池の制御方法について検討した。

6-109

在宅状況判定に基づく当日補正を用いた個別住宅の電力需要量予測手法

◎須賀 葵・植田 譲（東京理科大学）

固定価格買取制度の買い取り期間の順次満了に伴い，蓄電池の設置により自家消費を行い，電気料金を削減する住宅が増加している。そのため，蓄電池の空き状況を調整するようなエネルギーマネジメントが必要とされている。こうした背景から，個別住宅における電力需要予測が必要とされている。しかし，個別住宅の電力需要量は様々な要因により，日々複雑に変化するため，その予測は困難である。そこで本研究では，予測日前日に在宅時と不在時の2パターンの予測を行い，予測日当日に在宅状況を判別し補正を行う手法を提案する。当日補正を行った結果，不在状況を即時に判別することで予測精度が向上し，年間の電力量料金を削減することを検証した。

6-110

COVID-19に伴う緊急事態宣言と電力需要量の傾向

○石田隆張（明星大学）

2019年末に発生が確認された新型コロナウイルスCOVID-19（以下COVID-19）の感染拡大に伴い，経済活動が従来と比較して低下したと言われている。経済活動は電力需要と密接な関係がある。これまでCOVID-19の影響に関して分析した報告として速報的な報告（1）があるものの，対象期間が短い報告となっている。本報告ではCOVID-19感染拡大に伴って発出された緊急事態宣言の期間に着目し，緊急事態宣言が電力需要に与えた影響を定性的に考察する

6-111

電力需給不安定化予測のための評価指標設計に関する検討

◎小松史弥（NTTドコモ）

カーボンニュートラルが注目される昨今，太陽光発電といった再生可能エネルギーの導入が進められている。その一方で，電力需給の不安定化も危惧されている。本研究は電力の需要予測において，需給バランスが不安定になる可能性を精度よく検知するため，需要予測モデルの評価指標を提案し，その結果に関する考察を実施する。

6-112

LSTMを用いた電力需要予測のための基礎検討

◎中山聖也・浦野昌一（明治大学）

私達の日常生活は電力によって支えられている。その電力は日々，需要想定に基づいて発電計画がなされている。電力は貯めておく事が難しい為，常に需要と供給のバランスを取る事が必要となる。日々の電力需要は1年間を通した季節ごとの周期的な変動と毎日の気候データに影響を受ける事が指摘されている。その為，時系列データ予測に適した手法を用いる事が重要だと考えられる。そこで本稿では，時系列データの予測に適した機械学習手法の1つであるLSTM（Long Short-Term Memory）を使用して1時間ごとの電力需要量予測を行い，予測精度の向上を目指す。

6-113

スマートメータデータを活用した需要家の需要予測に関する一検討

○松田勝弘・渡邊 亮（東北電力）・友部 修・足立昌宏（日立製作所）

近年，スマートメータの普及により，その計測データの配電系統の運用管理高度化や需要家を束ねて運用するアグリゲーションビジネス等への活用が期待されている。筆者らは，配電系統やアグリゲータの運用管理をより適切に行うことを目的に，需要家単位でのミクロ的な観点からの需要予測研究に取り組んでいる。本予稿では，スマートメータデータを活用した需要予測方式の定式化について述べ，予測に活用するデータ期間（日数・時間）等の予測精度への影響について考察する。

6-114

スマートメータデータを活用した需要予測の需要家軒数による影響評価

○友部 修・足立昌宏（日立製作所）・松田勝弘・渡邊 亮（東北電力）

スマートメータの普及によりその計測データの配電系統の運用管理高度化や需要家を束ねて運用するアグリゲータの運用管理への活用が期待されている。特に，配電系統ではフィーダ単位だけでなく，柱上変圧器や区間単位など需要家軒数の異なる単位での需要予測ニーズがあり，それぞれの軒数規模に応じた精度の高い需要予測が必要である。アグリゲータにおける需要予測についても，同様である。これまで，配電系統やアグリゲータの運用管理のためにミクロ的な観点からの需要予測研究に取り組んできた。需要家個々の振る舞いに起因する電力消費の変動が予測精度に影響を与えると考えられる。本予稿では，需要家の軒数が予測精度へ及ぼす影響について評価する。

6-115

Temperature Dependency on Electric Power Demand of NPTG in Mongolia and Comparison with those of Some Japanese Electric Power Companies in 2020

◎Tsolmon Myagmarjav・Tuvshinbayar Bandi・Bat-Erdene Bayar・Shinya Ohtsuka（Kyushu Institute of Technology）

Knowing the electric power demand (EPD), which changes over time and through the year depending on the social and industrial activities and weather conditions, is important for the control of the EP system. So far, the authors firstly showed the annual EPD changes in Mongolia and the different dependencies of temperature between Mongolia and Japan (1). This paper focused on the temperature dependences of the EPD in both countries in the cold season in 2020 and compared the slopes, which could indicate the difference in electricity usage in the cold seasons.

6-116

生活行動シミュレーションに基づく住宅電力需要の推計と電気自動車充放電最適化

◎宮原昂希・太田 豊・山口容平・下田吉之（大阪大学）

将来におけるEV導入による電力需要の変化，EVバッテリーの充放電制御による可制御需要の定量化を行うことは系統安定性を保つうえで重要である。このような要求に対して，EV・住宅・電力系統を模擬したシミュレーションモデルを構築し，施策の検討を行うことは有効である。本研究では人の生活行為シミュレーションを起点としてEV走行需要と住宅の電力需要を推計し，EVバッテリーの充放電最適化を行う場合の住宅エネルギー需要を推計するモデルを開発した。300世帯に対するケーススタディでは，充放電制御によって地域エネルギー需給が大きく変化し，EVの住宅接続状況と電力料金体系に大きな影響を受けることが明らかとなった。

6-117

エコロジカルフットプリントを考慮した地域間再エネ電力融通の最適化

◎ムハマド ノルヌル ファリナ・伊藤雅一・重信颯人（福井大学）

エコロジカルフットプリントによると，持続可能となるために必要なバイオキャパシティは地球1.56個分必要となり，CO₂吸収地は全体の約60%を占める。CO₂排出量削減のためには，PV等の導入が必要であるが必要となるPV導入量が多くても，導入ポテンシャルが低い地域も存在する。本稿では，PV導入の余裕のあるエリアから電力不足エリアへの地域間連系線やEVによるV2Gを用いた電力の最適化手法を提案する。提案手法では，地球1個目標を達成するための火力発電，原子力発電，PVとEVの電源構成シナリオを考慮し，必要な融通電力と充放電電力を算出する。提案手法を用いることで，日中のエリア間の電力融通量，夜間のV2Gによる充放電量を算出することができた。

6-118

数理計画法の分解解法を適用した世界エネルギーモデルの並列計算手法の検討

◎吉武宗浩・小宮山涼一・藤井康正（東京大学）

気候変動問題が世界共通の課題とみなされ，再生可能エネルギーの重要性が高まっている。将来の最適電源構成をシミュレーションにより明らかにするためには，天候により激しく出力が変動する変動制再生可能エネルギーの，細かい出力変動を精緻に考慮するべきだが，従来の手法では計算機のハードウェア面での制約から簡易にモデル化しなければならず，余剰電力の系統への影響を正しく考慮できなかった。本研究は大規模線形計画モデルを分解解法により近似し並列化することで，再生可能エネルギーの詳細な出力変動を考慮できる世界エネルギーモデルを開発するものである。

6-119

2020年度の日本の電力需給の再現検証

○荻本和彦・岩船由美子・占部千由・宇田川佑介・瀬川周平（東京大学）

近年の再生可能エネルギーの大量導入や新技術の導入においては，太陽光発電・風力発電の年間の出力変動を考慮するために8760時間の電力需給解析による3E+Sに関する解析・評価が重要となっている。本検討では日本の各エリアの2020年度の需給について，公開情報から連系系統における水力，火力，揚水の運用を8760時間の電力需給解析により一定の精度で再現できることが示された。需給条件を目的に応じて適切に設定することで，電力需給解析により，足下での電力システム運用の課題の再現や対策の評価，さらには将来の電力システムの運用計画，設備計画，対策技術の評価などに実用的に適用が順次可能となると考えられる。

6-120

再生可能エネルギー出力抑制量の高速制御が発電コストに与える影響の試算

○小田拓也・渡辺陽子（東京工業大学）・原田耕佑・森田 圭（ENEOS）

変動性の再生可能エネルギー（VRE）が増加すると，発電出力を抑制させる事がある。日本では，前日16時に決定するオフライン制御で出力抑制が行われる。抑制量の低減のため，2時間前に決定するオンライン制御の活用も進んでいる。抑制量の制御を更に高速に行うことができるようになれば，複合発電（CC）などが供給してきた周波数制御（LFC）などの供給源と見なすこともできる。そこで本報は，再生可能エネルギーの出力抑制の高速制御（FCC）が調整力を供給することを仮定するとき，複合発電（CC）や蓄電池（BT）の運用に与える影響を解析した。FCCはVREの出力抑制が発生する時間帯のみ利用可能だが，CC稼働量を低減させ，コストを削減した。但し，想定したFCC容量では夜間の調整力供給が不十分で，BTから調整力を供給すると更にコストが低下した。

6-121

グリーン水素とCCUによる合成メタン供給を考慮した最適電源構成に関する検討-年間試算による合成メタン供給導入効果の評価-

◎川野温輝・原 亮一・北 裕幸（北海道大学）

近年，余剰電力対策としてグリーン水素製造が数多く検討されているが，大規模な水素利活用のためには新たなインフラ設備の構築など取り組むべき課題が多い。一方，回収した二酸化炭素とグリーン水素を合成することでメタン（合成メタン）を生成するCCU技術が注目されている。合成メタンは既存の都市ガス流通インフラを利用して広く有効活用できる可能性があり，合成メタンが天然ガスを代替することで社会全体の低炭素化への寄与も期待できる。そこで著者らは，RE電源の余剰電力を利用した合成メタン供給を考慮した最適電源構成モデルを構築し，電気事業の視点から電源ベストミックスを検討するとともに，年間試算により合成メタン供給の導入がもたらす効果を評価したので，その結果を報告する。

6-122

最適電源構成モデルを用いた揚水発電の活用評価

○村井雅彦（東芝インフラシステムズ）・藤田 崇・金岡和裕・森 淳二（東芝エネルギーシステムズ）

最適電源構成モデルを用いて将来の揚水発電の活用状況を評価する。最適電源構成モデルは，再エネ導入多地域と揚水設備多地域との電力や調整力の融通まで考慮できるものを開発し，第6次エネルギー基本計画の想定に基づいて，2030年度の最適電源構成を算出した。その結果，融通により揚水発電の設備利用率向上やNaS電池の導入削減，再エネの出力抑制低減などを確認した。また，固定速揚水の可変速化が可能であれば，さらにLi-ion電池に代わって調整力の供給が可能であることを確認した。

6-123

再エネ大量導入時の水素製造・合成メタン導入を含めた日本の最適電源構成に関する分析

◎田原聡史・藤井康正・小宮山涼一（東京大学）

本研究では地域内送電線まで考慮した地理的に詳細な最適電源構成モデルにて，再エネ大量導入時における技術的課題に伴う制約（LFC調整力確保制約，慣性力制約等）を導入し，電力・都市ガス部門におけるカーボンニュートラル実現可能性について分析した。本モデルは経済性ベースで定式化しており，線形計画法を用いて最適な設備容量や電源運用を決定する。また，本モデルでは電力需給バランスの他に，水素製造，CO2回収・貯留，メタン合成などのカーボンリサイクル技術利用に伴う水素・CO2フローが考慮されており，試算結果よりカーボンニュートラル実現には合成メタンによる輸入LNGの置き換えとCCSによる地下貯留が重要な要素となる可能性を示した。

6-124

DERを用いたスポット市場・需給調整市場への二段階入札戦略に関する基礎検討

◎水本佳那・飯野 穣・林 泰弘（早稲田大学）・市川哲理・小林広介（東京ガス）

これからの再エネ大量導入時代に向けて，分散型エネルギー資源普及と調整力の活用が求められており,需給調整市場の活躍が期待されている。本研究では，より汎用的な需要家サイドの電源資源であるコージェネレーション発電機を対象とし，スポット市場と需給調整市場に着目した二つの市場に対する同時入札戦略手法を提案する。さらに提案手法を2021年4月に開始した需給調整市場および従来からのJEPXスポット市場の実データを用いた市場入札シミュレーションにより評価する。

6-125

期待収益の最大化を目的とした風力・揚水発電機のバランシンググループ運用計画決定手法

◎稲垣舞子・金子曜久・藤本 悠・林 泰弘（早稲田大学）・簑津真一郎（電源開発）

風力発電機を主力電源として活用するためには，その不安定な出力に対する調整力を確保し，安定利用を実現する枠組みの構築が必要となる。筆者らは風力発電機群（WF）の調整力として可変速揚水発電機に着目し，両者のバランシンググループ（BG）を構築することを考えている。本稿では，WF出力の不確実性を確率密度分布予測により見積もり，過去の市場価格やインバランス料金の傾向を参照して算出される期待収益を最大化するようにBGの出力計画値を決定する手法を提案する。特徴的な風況や料金単価の日を対象とした数値実験結果より，提案手法では市場の価格遷移に合わせた運用を行うことができ，BGの収益の改善が可能であることを確認した。

6-126

距離別託送料金制度における個人間電力取引の経済性評価モデルの開発

◎堤 大知・中村勇太・青木 睦（名古屋工業大学）

P2P取引の託送料金について，将来的には分散型電源による潮流の複雑化，需要地近接性を考慮した距離別の単価が設定されることが予想される。一律の託送料金におけるP2P取引に関する経済性評価はなされているが，距離別託送料金ではこれに加えて需要地近接性を考慮する必要があり，経済性評価を正確に行うための計算量が増加する。これを解決するために，需要家毎に分割して局所的に計算することも考えられるが，これはP2P取引量の決定順序（優先順位）が最適性の精度に影響を与える。本稿では，需要地近接性考慮および計算量削減を念頭においた距離別託送料金P2P取引の経済性評価を行うために，仮想発電所（VPP）の概念を踏襲し，需要家群を統括するアグリゲータ（AG）を地域毎に配置するモデルを開発し，試算によりこの効果を明らかにした。

6-127

電力スポット市場と仮想のローカル調整力市場の電力潮流状態への影響

◎加藤啓太・斎藤浩海（東北大学）

需給調整市場の課題として，取引ブロック単位で調整力調達不足となることが挙げられる。こうした課題解決のために，分散した調整力資源を活用する必要があり，著者らは仮想のローカル調整力市場（L-PREx）を検討する。そこで，ローカル系統運用者（DSO）と調整力提供者（RP）の意思決定のモデル化を行う。そして，ローカル系統内でPVの予測と実績のずれが生じた際にL-PRExによる電力潮流状態への影響の解析を行った。この結果より，L-PRExによって自系統内で需給バランスを維持する効果がもたらされることを確認した。しかしながら，意思決定と調整力発動により潮流状態が大きく変化するため，ネットワーク制約を考慮した市場設計の必要性があると考える。

6-128

リソース・アグリゲーションにおけるインセンティブの設定方法に関する基礎検討

◎山崎丸輝・高野浩貴（岐阜大学）・浅野浩志（電力中央研究所）

The authors propose a theoretical approach that calculates appropriate incentive payment in an incentive-based demand response program under the framework of energy resource aggregation business. First, the aggregation business is formulated as a style of social welfare maximization, and then, the optimal rebate levels are calculated with reference to necessary penalty costs for preventing the imbalance of power supply and demand. The validity of the authors' proposal is verified through numerical simulations on a model constructed by using actual records of electricity rate in an electricity market and electricity consumption measured by smart power meters.s

6-129

PVとオンサイト蓄電池で構成されるバランシンググループの運用 -出力予測誤差を考慮した計画作成-

◎沖 駿吾・原 亮一・北 裕幸（北海道大学）

太陽光発電（PV）や風力発電などの再生可能エネルギー（RE）電源の主力電源化に向けては，出力の安定化が課題となる。特に，発電事業者がRE電源を利用する際にはインバランスを回避することが事業性向上には必要となる。その際，バランシンググループ（BG）を組成することで出力予測誤差の均し効果や調整力共有などが期待でき，インバランスの解消に有効と考えられる。そこで，本稿では広域に分散設置された複数の蓄電池併設PV発電所でBGを組成した場合を想定し，インバランス発生の不確実性とJEPXでのアービトラージによる利益を考慮した計画作成手法を提案した。また，BG組成の経済的な優位性を数値試算によって示した。

6-130

複数電源を所有する事業者が存在する電力市場の簡易モデル分析

◎石川幸一郎・馬場旬平（東京大学）

先行研究では，簡易な電力市場モデルを用いて，限界費用での入札を前提とした電力市場取引結果と，事業者が自らの利益を高めようとする入札行動の結果として均衡する市場取引結果（ナッシュ均衡）の比較・分析を行ってきた。先行研究においては，電源同士が同じ競争条件のもと競争するという前提のもと分析を行ってきた。本稿では，電力自由化が開始されたばかりで，既存の事業者が多数の電源を所有する現況をふまえて，先行研究の簡易モデルを改良し，ある事業者が複数電源を所有し，市場支配力を行使できる前提条件のもとでの分析結果を報告する。

6-131

電力取引監視システムの確認優先順表示機能の検討

◎千住琴音・大澤奈々穂・小部敬純・奥村悠太・野中美緒（三菱電機）

近年，卸電力取引市場において，電力取引量増加に伴い公平な取引を確保することの重要性が高まっている。市場の監視業務では不正取引が行われていないか確認するが，多数のユーザの取引行動を確認する作業に時間がかかる。そこで，各ユーザに対して監視員が確認する優先度と優先順を示す「確認優先順表示機能」を導入した電力取引監視システムを検討する。本稿では，本機能の実現方法を提案し，一部のユーザが不正取引を実施する模擬データで本機能を検証する。

6-132

2 段階 GRBFN を用いた電力価格予測法

○三輪陸人・森 啓之（明治大学）

本稿では，電力価格予測のための2段階GRBFNを提案する。日本では2016年の電力小売全面自由化によって，電力小売業への参入が全面自由化された。これにより電力価格の変動は今まで以上に日常生活へ影響を与えるようになった。こうした中，電力価格の急な高騰に対応できる高精度な電力価格予測手法の開発が求められている。提案法では，RBFNの改良手法である一般化RBFN（以後，GRBFN と略記）を用いることとする。また，GRBFN の学習には一般的に勾配法が用いられるが，勾配法は初期値への依存が高く，解が局所解に陥りやすいという欠点がある。そこで提案法ではGRBFNの学習に進化的計算である EPSOを用いる。これにより勾配法よりも良い解を得ることが期待できる。

6-133

計画値同時同量市場制度の適応型ロバスト最適化モデリングによる不確かな再エネとピークシフト電源の価値解析

○小池雅和（東京海洋大学）・石崎孝幸（東京工業大学）

計画値同時同量市場において市場清算価格決定問題は1次元の需要曲線，供給曲線の交点として解かれる。言い換えると，市場プレイヤーの各スポットでの入札関数は各スポット毎に独立していることになる。しかしながら，蓄電池のエネルギーシフトを適切に考慮すると，市場清算価格は簡単には求まらない。それは，プレイヤーの入札関数が各スポットに対して相関を持ってしまうためである。そこで，本稿では蓄電池のエネルギーシフトを適切に考慮した市場清算価格決定問題に焦点を当て，この問題が凸最適化問題としてモデル化できることを示す。さらに，このモデルを用いて蓄電池の普及レベルを解析する。

6-134

簡易メリットオーダーモデルを用いたJEPXスポット市場価格予測の汎用性検証

◎菊池恒太・若尾真治（早稲田大学）・原田耕佑・星野優子（ENEOS）

電力小売り全面自由化に伴い電力小売り事業に新規参入した事業者は，既存の電力会社とは異なり，自前の電源を多く持たない。そのため，日本卸電力取引所（JEPX）から電力の調達を行っており，新規参入した事業者が効率的な電力調達計画を立案するためには，JEPXのスポット市場価格を高精度で予測する必要がある。この取引価格の予測において，これまで著者らは簡易的な予測手法を開発してきた。本稿では，北海道，東日本，西日本，九州の全4エリアを対象に，開発手法が条件の異なる様々なエリアにて適用可能な汎用的な手法であることを実証する。

6-135

スマートメータ等活用による配電系統負荷接続相の推定

◎彦山和久・横水康信（名古屋大学）・野々山公亮（中部電力パワーグリッド）

配電系統に接続された需要家にはスマートメータ（以下SM）が設置されており，消費電力等が計測されている。
筆者らは，SMとセンサ付開閉器の計測値から，配電系統の状態を推定することを目指している。
第1フェーズでは，配電系統の三相平均電流・電圧分布を推定する手法を提案してきた。
第2フェーズでは，捻架状況が不明の配電系統を対象とし，三相個別電流・電圧分布推定による負荷接続相の推定を提案してきた。
本研究では，接続相推定精度の向上を図った。

6-136

エラスティックネットBSOを用いた配電系統状態推定

◎伊藤亮朗・森 啓之（明治大学）

本稿では，スパースモデリングのエラスティックネットを用いた配電系統への状態推定法を提案する。近年，電力系統の運用や制御を効率的に行うための配電自動化が重要である。配電自動化として，ネットワーク再構成，電圧無効電力制御，復旧制御，状態推定などがある。状態推定は系統運用者が系統運用を円滑に行うために必要となる。従来法では評価関数に最小2乗法を基にしたL2ノルムが使用されてきたが，近年，スパースモデリングのL1ノルムの使用によりRobustなモデルが構築されている。しかし，L1ノルムとL2ノルムの両方を使用したエラスティックネットの使用によりさらに性能が向上することが知られている。そのため，本稿では評価関数にエラスティックネットを用いたBrain Storm Optimization（BSO）に基づく状態推定法を提案する。

6-137

個人間電力取引の配電系統影響を評価する計算環境

○若杉健一・瀬戸寿之・村上朝之（成蹊大学）

分散型エネルギー機器を用いた新たなビジネスモデルの一つとして電力の個人間直接取引（P2P）があげられる。この普及のためには，経済性や最適な取引方法はもちろんのこと，電線の送電容量や電圧変動などの物理的な制約を考慮した安定供給性の観点からの検討も重要であることから，個々の自律的なP2P取引と，その結果である系統影響の両面を検討する必要がある。筆者らは，多数の需要家を含む標準的な配電系統を対象として，この需要家間におけるP2P取引の再現とその際の配電系統の潮流を明らかにし，エージェントシミュレーションとしての要素も持つ計算環境を構築した。

6-138

個人間の電力取引挙動が配電系統に与える影響

○瀬戸寿之・若杉健一・村上朝之（成蹊大学）

筆者らは，標準的な配電用変電所1バンクおよび高圧フィーダ7系統からなる規模の需要家群を対象として，ここでP2P取引が実施された場合に配電系統が被る影響を明らかにする数値シミュレーションプログラムを開発した。これはPVおよび蓄電池を活用したP2P取引環境のマルチエージェントモデリングと電力潮流解析を組合せ，配電系統の挙動を定量的に評価することが可能である。本報では配電用変電所バンクを対象として影響を評価した。

6-139

実規模配電系統へのコレントロピーによる計測誤差・外れ値を考慮した柱上変圧器接続相推定手法の適用

◎松本海智・福山良和（明治大学）・関 孝二郎・大井章弘・神通川 亨・藤本 久（富士電機）

柱上変圧器（以下，TR）は，高圧配電線三相から接続相二相を選択し，設置される。TRは，設置台数が多く，接続相が電気工事現場で決定される場合があることから，接続相管理が困難となっている。そのため，接続相推定手法の開発が必要となっている。接続相推定のニーズを全て満たすことができていないという従来法の課題に対し，著者らは，コレントロピーを用いた新たな定式化とメタヒューリスティック手法を用いた接続相推定アルゴリズムによる3つの推定手法を提案した。しかし，提案手法の有効性は，TRが9台の小規模な配電系統でしか有効性を確認していない。本論文では，TRが32台の実規模配電系統での提案手法の有効性を検証する。

6-140

PVを含む配電系統のPMUを用いた確率的状態推定

◎斎藤知樹・辻 隆男（横浜国立大学）・赤木 覚（東京電力パワーグリッド）・林 直輝（東京電力ホールディングス）・桑下敬康・飯田義和・村本大輔（関西電力送配電）

エネルギー・環境問題の解決に向けて，太陽光発電（PV）などの分散電源の導入が世界的に進展している。PVの導入が進展した配電系統では，その出力変動に起因して電力潮流状態が頻繁に変化し，電圧管理が一層重要な課題になる。本稿では，位相同期計測装置（PMU）を配電系統に導入し，得られた位相計測情報を活用した状態推定手法を検討した。具体的には，過去の統計情報から導出された需要の確率分布，ならびにPMU導入ノードの電圧と位相の計測情報を用いて，逐次2次計画法による最適化計算により配電線路の電流の確率分布を求める手法を提案した。

6-141

スマートメータデータの欠損補間の基礎検討

◎中山夏実・岩瀬徳寿・高野浩貴（岐阜大学）・浅野浩志（電力中央研究所）・重信颯人・伊藤雅一（福井大学）・大麻純季・東山昇一（関西電力送配電）

スマートメータの導入の進展と共に，取得した電力データの活用方法に関する議論が活発化している。一方で，スマートメータデータは，通信トラブルによるデータ欠損等の課題も抱えている。そのため，安定した通信環境の確保や欠損データへの対応方法の確立が重要となる。著者らは，スマートメータデータの欠損値を精度よく補間する方法について検討している。本稿では，スマートメータデータが時系列データであることに着目し，時系列データの補間方法として広く用いられている近傍補間法，線形補間法に加え，時系列モデルの中で最も用いられる自己回帰モデルによる欠損補間を行った結果を紹介する。

6-142

凸形電圧分布配電系統におけるSVRタップ調整限界の検討

◎保坂将貴・馬場旬平（東京大学）・張本 毅・長尾 潤（九州電力）・長江大輔（九州電力送配電）

分散電源の逆潮流等により複雑化する配電系統の電圧制御への対策の一つに，SVRとSVC等によるものがあるが，それらは動作時間の違いから互いの制御に干渉する恐れがある。干渉を避けるためにSVRで対応できない場合（適用限界）にのみSVC等を導入することを想定し，評価することで協調制御に資する検討を行う。適用限界の一つに，配電系統の電圧分布が凸形になった場合が考えられ，それはPVが任意の場所に集中し局所的に電圧が上昇することで現れる。現状のSVRでは調整したいノードの電圧のみを推定し電圧を補償するため，局所的な電圧上昇に対応できない可能性が高い。凸形電圧分布において，SVRが適用限界となる条件を潮流計算などで検討し，その条件が現実的ではない可能性を示した。

6-143

実配電線路におけるSVG300kVarによる電圧フリッカ値抑制効果多地点測定結果

○小栗和也・豊田靖臣（エナジーサポート）・丹下幸治（テクノ・サクセス）

実配電線路における無効電力補償装置の電圧フリッカ抑制効果について同一系統多地点にて観測した結果，力率制御及び複合制御（力率制御と複合制御の組み合わせ）は系統全域に亘ってフリッカ値，電圧変動幅が低減していることを確認した。
特に複合制御では，系統電圧センシングによる出力制御を組み合わせたことによる抑制効果が顕著であった。今回，無効電力補償装置によるフリッカ抑制効果を多地点観測によって確認したことで，系統上のフリッカ値分布の様相を明らかにした。また，SVG複合制御によって，SVG設置点上流の電圧変動にも対応することで，系統全体のフリッカ値低減が可能であることを確認した。

6-144

電圧集中制御システムを用いたSVR制御パラメータ決定手法に関する初期検討

◎渡部鴻人・金子曜久・林 泰弘（早稲田大学）・岩本泰典・彦山和久・野村英生・福田徳浩（中部電力パワーグリッド）

2050年カーボンニュートラルの達成に向け，配電系統への太陽光発電（PV）の導入量は今後ますます増加していく。配電系統へPVの導入を最大限促進するため，中部電力パワーグリッドでは，センサ開閉器やスマートメータ計測情報を活用し，PV導入時の潮流に対応したSVR制御パラメータを整定する電圧集中制御システム（GCS）を実装している。GCSの特徴として，計測潮流を負荷電流とPV電流に分離することで，日中のPV発電時および非発電時の両方に対応したSVR整定が可能であることが挙げられる。本稿では，実配電系統モデルにおいて複数のPV導入パターンを適用した状況を対象に，計測電流分離機能の有無による電圧逸脱量低減効果を比較し，GCSの有用性を定量的に評価する。

6-145

SCの動作回数を考慮した複数需要家のSCとAFの集中制御

◎桐原 敬・青木 睦（名古屋工業大学）・藤田 悠・小林 浩（トーエネック）

配電系統の複数の需要家のアクティブフィルタ（AF）と進相コンデンサ（SC）を集中制御することによって，配電系統電圧の適正範囲維持や高調波電圧の抑制を目的としている。しかし，系統条件によってはSCが頻繁に動作する点が課題であった。そのため，本論文ではSCの動作回数を考慮した手法を提案する。提案手法では，系統の基本波電圧と高調波電圧含有率が，しきい値を超えたときにのみ集中制御で需要家のSCの投入量を更新する。PVが連系された系統モデルのシミュレーションにより，SCの動作回数も抑えながら，基本波電圧の上昇量の抑制と高調波電圧を抑制することができた。

6-146

配電系統の電力損失最小のためのD-STATCOMのロバスト最適配置

◎染谷直寿・森 啓之（明治大学）

本稿では，配電ネットワークの電力損失を最小化するために高性能進化的計算であるBrain Storm Optimization（BSO）を用いたD-STATCOMのロバスト最適配置法を提案する。D-STATCOMは配電系統で用いられるSTATCOMを示し，高速かつ滑らかな制御が可能であり効果的な制御機器である。この問題では，D-STATCOMの配置と無効電力の出力を決定する必要がある。そのため，連続変数と離散変数に対して最適化を行う必要がある。BSOは非線形最適化問題の連続数に対して用いられるため，本問題に対して直接適用することができない。そこでシグモイド関数を用いて，連続値を離散値に変換する。また，系統状態に対する不確実性の対処のために，配電系統の電力損失最大の最悪の場合のロス最小化を行う。

6-147

太陽光発電PCSによるフリッカの広域拡大とSTATCOMによる広域フリッカ抑制方式

◎小野里航平（東芝三菱電機産業システム）・西田圭吾・阪口淳生（九州電力送配電）・藤井俊行・高橋達也・谷 直樹（三菱電機）・奥山涼太・森島直樹（東芝三菱電機産業システム）

配電系統では，太陽光発電PCSに起因するフリッカが発生している。これらはPCS無効電力注入ゲインを下げる対策により一定の効果が見られているが，最近では特高系や複数の配電系に拡大する広域フリッカも発生している。本論文では，まずPCS単独運転検出システムをモデル化し，固有値解析によりフリッカが発生する可能性を示した。次に特高系と配電系を含む系統モデルによるシミュレーションを実施し，PCS有効電力制御が広域フリッカに強く関与する可能性を示した。最後に，STATCOMによりPCS単独運転検出機能の無効電力注入と逆極性の無効電力注入を行うフリッカ抑制制御のシミュレーションを実施し，フリッカが抑制され安定化することを示した。

6-148

5段MMCを有するトランスレスSTATCOMの構築および高圧配電系統における電圧補償効果の確認

◎小野寺大斗・呉 国紅（東北学院大学）

本論文では，6.6kV級高圧配電系統に連系し，無効電力補償によって系統電圧安定化を可能とする新型トランスレスSTATCOMの回路構成を提案した。この装置は，各相に5段のMMC構成を有しており，単位基準電圧を480VとすることでIEC規格において低圧機器として扱えるため低コスト化が図れる。本研究で提案したトランスレスSTATCOMモデルを構成し，シミュレーションによって単体動作および配電系統における電圧安定化効果の確認を行った。その結果，STATCOM回路を構成する各セルの出力電圧合成波形が正弦波となることが確認でき，また高圧配電系統モデルに接続した場合における無効電力補償動作が正しく行われ，配電電圧の安定化効果が確認され，提案回路の有用性を示した。

6-149

現地作業者による故障点探査・復旧作業スケジューリングを用いた配電系統における故障復旧

◎関崎真也・加藤輝之・西崎一郎・林田智弘（広島大学）・彦山和久・野々山公亮（中部電力パワーグリッド）

配電系統における故障発生時には，現地作業者による故障点探査等によって健全性が確認できた区間に対し系統切替により送電を行うことを繰り返し，停電区間を手動開閉器区間単位まで縮小させる。より速やかな故障復旧を実現するためには，故障点を効率的に同定するとともに，現地作業者による故障復旧作業スケジュールを最適化することが重要となる。しかし，故障点が未知である場合，送電作業だけでなく，現地作業者による故障点探査作業も考慮してスケジューリングを行う必要があり，計算負荷が極めて大きい。本論文では，故障点探査と故障復旧手順を近似的に求めるとともに，復旧作業スケジュールを最適化することで，最適な故障復旧手順を導出する手法を提案する。

6-150

分散型電源連系系統の配電損失最小構成化における損失削減ポテンシャル推定のための系統特徴量の検討

◎萩原 圭・藤本 悠・児玉安広・林 泰弘（早稲田大学）・池田欧世・佐藤匡人・森 健二郎（東京電力パワーグリッド）

日本の電力系統システムにおいて配電系統に設置されている区分開閉器の開閉状態を適切に切り替えることにより電力損失を極力低減させる配電損失最小構成化技術が期待を集めている。一方この技術は一つの系統への適用にも多大な時間と人手を必要とする。そのため，技術の導入を効果的に進めていくためには，数多く存在する系統の中から技術適用時の電力損失量の改善効果の高い系統を事前に推定し，優先的に導入検討を進める事が望まれる。本検討では分散型電源が多数連系された系統における電力損失量の改善可能性を簡易に確度高く見積もる尺度の一つとして，構成切替によって変化する系統の電流・電圧分布に着目した電力潮流の偏在状況の定量化の検討を行う。

6-151

配電系統末端に導入されたPV装置の許容最大出力に及ぼす線路途中の負荷またはPV装置の影響

◎磯部由佳・津坂亮博・松村年郎・雪田和人・七原俊也・後藤泰之（愛知工業大学）・横水康伸（名古屋大学）・清水洋隆（職業能力開発総合大学校）・飯岡大輔（中部大学）・岩月秀樹・國井康幸・中津井紳司（中部電力）

本稿では，線路途中の負荷，あるいはPV装置の影響を調べたので報告する。今回，末端に太陽光発電装置が連系した配電系統の線路途中に抵抗負荷あるいはPV装置を連系した場合を想定した。その結果，抵抗負荷の場合は，末端のPV装置の近くに連系した方が，また，PV装置の場合は配変の近くに連系した方が，末端PV装置の安定限界が高くなることが確認できた。

6-152

スマートメーターを活用した高圧三相不平衡改善のための変圧器相替え工事対象選定の検討

◎脇坂 真・下山田 俊・柏⽊哲也・北島弘伸・横⼭由⾥⼦（富士通）・長谷川匡彦（東京電⼒ホールディングス）・安居昂紀（東京電⼒パワーグリッド）

配電系統では，単相変圧器の接続相の偏りによって発生する高圧三相不平衡による課題が顕在化しており，これらの事象は時間帯によって発生傾向が異なっている。このため，センサ内蔵開閉器の相電流とスマートメーターの30分使用量を用いることで，全時間帯において接続相替えによる高圧三相不平衡改善が見込める柱上変圧器を選定する方法を検討し，実配電系統のデータを用いてシミュレーションを実施した。その結果，スマートメーターの30分使用量を用いることで，既設接続相の判定から不平衡を改善する相替え変圧器の選定までを実現できる可能性を確認した。

6-153

メッシュ統計データ等に基づく配電エリア単位の電力・燃料需要の推定 ～愛知県岡崎市，岐阜県八百津町を例として～

◎内田文也・今中政輝・加藤丈佳（名古屋大学）・服部 学（中部圏社会経済研究所）

PVを有効活用するためには，電解水素製造などにより，PV導入地周辺の電力需要を増やす必要がある。一方，製造された水素は周辺の需要家で消費されるものの，余剰分は他の地域に輸送されることになる。その際のコストを考慮すると，既存の配電網を増強して，需要地の近くで製造する方が経済的となる可能性がある。このような検討に資するため，筆者らは配電エリア単位で電力・燃料需要を推定するモデル構築を試みている。エネルギー管理指定工場リスト等の利用に着目し，愛知県岡崎市内，岐阜県八百津町内の配電エリアを対象として電力・燃料需要を推定し，余剰電力による水素製造の意義を検討した。また，任意の配電エリアを対象として電力・燃料需要を推定するモデル構築の見通しを検討した。

6-154

配電線を経て遠方負荷に電力供給するPVSからの逆潮可能電力 ー負荷力率および接続距離に対する依存性ー

◎夏梅翔平・横水康伸・金森涼太朗（名古屋大学）・松村年郎（愛知工業大学）・深江隆之・濱田康佑・水野佑哉・吉江 学（中部電力パワーグリッド）・岩月秀樹・國井康幸（中部電力）

長距離高圧配電線に大容量の太陽光発電装置（PVS）が連系されるケースが増えている。しかし，PVSの発電電力が配電系統の逆潮可能電力P_limを超えてしまった場合，PVSが運転中に解列してしまうと考えられる。筆者らは，PVSや負荷が各地点に接続された配電線に関して，P_limやPVSの連系点電圧をPVS特性（発電電力および力率）等の関数で表すことを進めている。これまでに，PVSと負荷が各1地点に接続された配電線について，連系点電圧をPVS特性などを変数とする数式で表し，逆潮可能電力P_limを算出できることを示してきた。本報告では，その式を利用し，負荷力率が遅れおよび1の場合について，様々な負荷接続位置に対する逆潮可能電力P_limの算出結果を述べている。

6-155

電圧感度に基づくVolt-VAR制御パラメータ決定による配電系統潮流制御への有用性評価

◎田中裕大・金子曜久・石井英雄・林 泰弘（早稲田大学）・松浦隆祥・濱田 拓・宮崎 輝（東京電力ホールディングス）

配電系統への太陽光発電（PV: Photovoltaic）の大量導入は，系統電圧の上昇および急峻な変動を引き起こし，適正電圧の範囲から逸脱する恐れがある。その対策として，系統電圧維持等の様々な制御機能が具備されているスマートインバータの導入が検討されている。中でもVolt-VAR制御（VV制御）は各国で導入が検討されているが，VV制御にはいくつかの制御パラメータを決定する必要があり，それらを少ない無効電力で適正電圧の維持が可能となるよう系統の地域特性やPV導入量に考慮して需要家ごとに厳密に決定することは難しい。そこで，電圧感度を用いて各需要家のVV制御パラメータを簡易的に算出する手法を提案し，現状および将来的なPV導入状況を対象とした実配電系統モデルを用いて有用性を評価する。

6-156

EVトラックの急速充電による配電線電圧への影響の基礎検討

◎明石 典・中島達人（東京都市大学）

地球温暖化対策の必要性が近年高まっていく中，温暖化の要因の一つであるCO2の低減に向けて，EV（電気自動車）の導入が進んでいる。再生可能エネルギー導入による発電部門の脱炭素化とあわせて，ガソリン車をEVに置き換えることにより，運輸部門でも大幅なCO2低減が期待される。本稿では，EVトラックが配送センターで充電される状況を想定し，EVトラックの台数や走行パターンを仮定して，EVトラックの急速充電による配電線電圧への影響をMATLAB /Simulinkシミュレーションで分析した結果を報告する。

6-157

PV/EV大量連系時の高圧配電系統における非常時用蓄電池の最適配置と常時系統電圧制御

◎迫 俊太・髙橋明子・今井 純・竹本真紹（岡山大学）

近年，太陽光発電（PV）システムの導入が拡大している。PV電力の逆潮流により系統電圧が上昇し，適正範囲を逸脱する可能性がある。その対策として，家庭用蓄電池や電気自動車（EV）を用いた系統安定化制御法が提案されている。しかし，これらの手法では，非常時について検討されていない。そこで本研究では，PVとEVが大量導入された電力系統において，非常時に備えてBESSを導入する。最適化手法を用いてBESSのコストが最小化するよう設置位置と容量を決定する。そして，EVと非常時用に設置したBESSを常時も活用することで，常時および非常時において，系統電圧を適正範囲に維持する制御を提案する。

6-158

アグリゲータによる電気自動車の充電誘導が配電系統運用に及ぼす影響評価

◎河内駿介・坂内容子・高橋玲子（東芝エネルギーシステムズ）・矢島泰彦・前川隆文・小田拓也（東京工業大学）

本稿では，この充電行動解析モデルと配電系統解析モデルおよびアグリゲータモデルを組み合わせた統合解析環境において，EVの充電誘導を模擬した解析を行い，配電系統の運用に及ぼす影響を評価した結果について報告する。インセンティブによるEV充電誘導効果を評価した結果，EVの充電需要の昼間へのシフトと，配電系統の電流ピークを約12%抑制できることを確認した。

6-159

ゼロエミッショングリッドを目指した配電系統における太陽光発電出力制御の基礎検討

◎宮崎創太・金子曜久・林 泰弘（早稲田大学）・河野俊介・板屋伸彦・松田啓史（三菱電機）

2050年カーボンニュートラル実現に向け，再エネ電源の普及拡大が求められている。特に，配電系統においては，2022年4月施行予定の配電ライセンス制により，細やかな運用，設備投資が可能となり，地域単位での電力地産地消の促進が期待される。この実現のためには，再エネ電源による発電量を確保することに加え，潮流制約を満たす必要があり，その制御方式に関して検討が必要である。
そこで本稿では，様々な規模の地域単位で地産地消の積み重ねで，電力システム全体の環境負荷低減を目指すゼロエミッショングリッドの概念を提案する。その一例として2配電線規模の地域に着目し，需要に見合うPV容量の見積もり，それを導入した際の潮流への影響，およびPV出力制御手法について数値実験により検証する。

6-160

空調用アクティブフィルタを用いた無効電力注入によるPV が大量導入された配電系統の電圧調整に関する検討

◎松田響生・馬場旬平（東京大学）・河野雅樹・太田圭祐・川嶋玲二（ダイキン工業）

空調機器の高調波抑制に用いられるアクティブフィルタ（AF）に着目し，PVが大量導入された配電系統の電圧制御への適用可能性についてシミュレーションを行った。空調の部分負荷運転時に存在するAFの余剰能力を活用し，系統に無効電力を注入することで，電圧逸脱を抑制できることを確認した。また，電圧抑制に最も効果的なAFの出力分布すなわち無効電力の注入位置を最適潮流計算により求めたところ，配電用変電所から遠いブランチの末端側に存在するAFから順に稼働させることが最適と示唆される結果を得た。

6-161

Distribution Network PV Hosting Capacity Improvement by Inverter Volt/Var Optimization using Hybrid PSO/GD Algorithm

○ESAU ZULU・RYOICHI HARA・HIROYUKI KITA（Hokkaido University）

In this paper, a method of improving the PV hosting capacity of a distribution network by inverter volt/var optimization is proposed. The primary objective is to maximize the amount of PV which can be injected in the distribution network without violating system operational requirements on parameters such as voltage, line power flows and reactive power limits. The problem is formulated as a mixed integer nonlinear programming (MINLP) problem seeking to determine the optimal locations for PV injection, maximizing the PV sizes, and optimal inverter volt/ var settings. This problem is solved using the hybrid particle swarm optimization (PSO) and gradient descent (GD) algorithm

6-162

太陽光発電出力予測を考慮した発電機起動停止計画モデルによるデマンドレスポンス技術の効果の分析

宇田川佑介・荻本和彦・Joao Fonseca（東京大学）・◎向井 克・齊藤朋世（構造計画研究所）・東 仁（J-POWERビジネスサービス）

分散型電源である再生可能エネルギー電源（以下，再エネ）に加えて，電気自動車（Electric Vehicle，以下，EV）や蓄電池の大きな普及が見込まれている。特にEVや蓄電池は再生可能エネルギーの余剰緩和や出力予測誤差への対応も期待されている。したがって，それらの大量導入時下での効果を定量的に議論することは重要である。そこで本研究では，筆者らが開発した太陽光発電出力の予測誤差を考慮可能な発電機の起動停止計画（Unit Commitment，以下，UC）にEVと蓄電池運用を考慮可能なように改修を行った。本報ではEVの充電制御，充放電制御技術などをUCモデル内で模擬し，その効果について解析した結果を述べる。

6-163

時間帯によりクラスターを分離した業務用ヒートポンプ機器を利用した太陽光発電出力変動補償手法の検討

◎毛 致森・馬場旬平（東京大学）

電力系統の安定性を確保するため，減少していく火力発電を代替する新たな調整力が必要である。ヒートポンプ給湯機（HPWH）はその一つの候補として挙げられる。太陽光発電（PV）は出力が主に昼に発生し，夜間になると出力がなくなる。一方，多くの需要家は給湯需要が夜間に発生する時が多い。PV の出力とヒートポンプ給湯機（HPWH）の給湯需要は時間的に一致しない場合が多い。太陽光を最大限に利用するため，HPWHの運転の割り付けを行うことを考えると，時間別の給湯需要を正確に把握することが大変重要になる。本検討では，給湯需要の時間帯により大きく異なるという特性を考慮しつつ，給湯需要の時間別クラスター分析を行い，最適化することでHPWHの運転パターンを決定し，PVの出力変動を有効に補償できるかを検討した。

6-164

離島系統における天候変化を考慮したVPPの検討

◎後藤拓也・川﨑章司（明治大学）

近年，地球温暖化対策の観点から再生可能エネルギーを利用した発電システムの導入，拡大が進んでいる。
本稿では，VPPという仕組みを用いて，本土とは連系されていない独立した離島において，内燃力発電量の発電量の変動を低減するという目的のもと，天気の変化に対応した電力需給計画手法の提案を行った。
提案した手法においてシミュレーションを行い，有用性の検証を行った結果，天気の変化によって大きく効果が得られた場合と，全く効果が得られなかった場合の両方が存在した。今後さらに有用な需給計画手法の検討や，発電機の稼働台数や，制度といった経済性も含めた効果の検証を行っていきたい。

6-165

電力系統におけるEDC信号とLFC信号の電気自動車への割当法に関する研究

◎武 彧丞・横山明彦（東京大学）

近年，環境問題の深刻化やエネルギーセキュリティー問題などさまざまな視点から，太陽光・風力発電などの再生可能エネルギー電源が系統に大量導入されている。これらの電源は天候などの自然条件に依存した出力特性を持ち，需給バランスの維持を困難にしている。2012年のFIT制度導入以降，再生可能エネルギー電源の導入が加速している。しかし，再生可能エネルギー電源は出力が不安定であるため，電力系統の周波数に影響を及ぼす可能性がある。特に離島系統においては，系統の慣性力が小さく，また大規模系統と比べ再生可能エネルギー電源の平滑化効果も期待できないため，上記の問題はより深刻になる可能性がある。以上より，離島系統における周波数安定化対策が求められている。本研究では，再生可能エネルギー電源が大量導入された離島系統において，系統側蓄電池（Battery Energy Storage System: BESS）及び可制御需要家機器として家庭用ヒートポンプ給湯器（Heat Pump Water Heater: HPWH）の協調制御による周波数制御への効果を検証する。一方，2050年のカーボンニュートラルの実現に向け，2030年代半ばまでに乗用車の新車販売は電気自動車（EV）100%にするという目標が掲げられた。これと伴い，公共用充電器，急速充電器などのインフラ整備も進められている。
本研究では，再生可能エネルギー電源が大量に導入された電力系統において，系統安定性を維持するためにEV蓄電池の制御方法を検討する。

6-166

再生可能エネルギー電源主体の電力システムにおける需要調整の効果に関する検討

◎劉 暁熙（東京大学）・永田真幸（電力中央研究所）

再生可能エネルギー電源主体の課題には，出力が気象条件に依存すること，電源地と需要地が遠いことがある。これらに対して，日本の60Hz系統を参考として，風力と太陽光発電の大量導入，電力貯蔵設備の導入を考慮し，一週間を1時間毎に168断面で表現したデータを用いて最適潮流計算により，総燃料費が最小となる潮流状況を連系系統増強なしあり，需要調整なしあり4パターンでシミュレーションする。結果には系統増強の有無に関わらず，総燃料費を2％減少させる効果が得られた。貯蔵設備量について，kWの最大値が系統増強なしのケースで47％が増加し，系統増強ありのケースで80％が増加する一方，kWhの最大値が系統増強なしのケースで3％が減少し，系統増強ありのケースで3％増加する。

6-167

再生可能エネルギー電源および蓄電池による自立型局所電力系統の設計

◎國分敬太・アシャリフファラマルズ・高橋理音・梅村敦史・田村淳二（北見工業大学）

今後，革新的な導入拡大が想定される再生可能エネルギーを分散電源に利用するために，電力系統を局所的に独立して運用する技術の必要性もまた高まっているといえる。その際に，局所系統の独立運用を維持するために蓄電池が大きな役割を担うこともまた十分に考えられる。現在，蓄電池出力制御方式として，これまで広く用いられている系統周波数追従型のGrid Following（GFL）方式に加えて，自ら周波数を確立するGrid Forming（GFM）方式にも注目が集まっている。本稿では，一般的なGFL運転を行う系統連系用蓄電池にGFM運転を可能とする補助制御系を追加して，再生可能エネルギー電源を含む電力系統が局所的に独立しても運用を継続可能とし，その後に再連系を行うための方式を提案する。

6-168

デマンドレスポンスの実質的な効果を補償するための蓄電池制御手法に関する実験的検討

◎星野紘輝・今中正樹・栗本宗明・杉本重幸・加藤丈佳（名古屋大学）

電力システム全体の需給調整力を補うため，配電エリアの需要家リソースを調整するデマンドレスポンス（DR）が期待されている。DRの大規模利用のためには，DR非対象機器の利用も含めた実質的な需給調整への貢献，DR発動量の正確な計量，配電運用への影響などの様々な課題に対応する必要がある。その対策として蓄電池の活用が期待されている。例えば，受電点の潮流変動をDR発動量に一致させるように充放電することで需要家として実質的に需給調整への貢献することや，下げDRに伴う電圧上昇による周辺PVの出力抑制を回避するための電圧調整などが期待される。本稿では，実験装置の概要を示すとともに，下げDR時の電圧上昇模擬とその抑制方法について概説する。

6-169

グリーンハウス用マイクログリッドの空調負荷モデルの一検討

◎西野 翼・薄 良彦・石亀篤司（大阪府立大学）

本報告ではグリーンハウス用マイクログリッドの空調負荷モデルを検討する。近年，温室栽培は重要な農業生産形態の一つとして注目を集めている。本研究では，第2著者らのグリーンハウス用マイクログリッドの供給運用において温室内空調制御を含めるために，温室の空調負荷モデルを検討する。具体的には，温室内の伝熱動特性を表す熱回路方程式をベースとした数式モデルとブラックボックスモデルを統合したグレーボックスモデルを実測データより推定し，精度を評価する。

6-170

インバータ電源のみで構成されるマイクログリッドの無瞬断自立移行

◎工藤悠生・秋山雪菜・河内駿介・鳥羽廣次（東芝エネルギーシステムズ）

インバータ電源のみで構成されるマイクログリッドの無瞬断自立移行について検討した。自立運転中には1台のインバータ電源により一定の系統電圧・周波数を確立するCVCF方式を適用する。マイクログリッドが連系している上位の電力系統で事故が発生した場合には連系遮断器により接続を切り離し，マイクログリッド内の1台のインバータ電源の制御をCVCF制御に切り替えることにより自立運転に移行する。また，自立移行時には制御を切り替えたインバータ電源の過電流を電流リミット制御により抑制する。以上の無瞬断自立移行方法の動作を瞬時値解析により確認した。

6-171

IGDTに基づく前日電力需給計画に関する検討

○佐々木 豊・高橋直輝・餘利野直人・造賀芳文（広島大学）・奥本芳治（MIRAI・未来）

カーボンニュートラル実現に向け，世界各地において再エネの大量導入が進んでいる。一方，太陽光発電（PV）は日射条件に依存し発電量が大きく変動するため，配電系統の電圧調整やPV出力変動を吸収するための調整力確保などの問題が顕在化している。この不確定性に対して著者らは不確定環境下で定量的に信頼度を図る指標: ロバスト信頼領域を提案してきた。また，気象予報データを用いたPV発電量予測法を開発し，提案予測モデルを用い不確定性を考慮した前日需給計画問題について検討してきた。同時に運用者の意思決定を考慮するためにInformation Gap Decision Theory（IGDT）を用いた需給評価を行った。本稿では，マイクログリッド運用者（Microgrid System Operator: MGO）が前日需給計画のために本ツールを使用して意思決定を行うことを想定する。不確定性モデルおよび発電機起動停止問題の定式化を行い，前日電力需給計画への影響をシミュレーションに確認する。

6-172

マイクログリッド実現に向けた多段階最適化によるDER群運用計画手法の比較検討

◎笠原亮太・飯野 穣・児玉安広・林 泰弘（早稲田大学）・山下聡史・尾下 遥・三宅治良・遠藤秀樹（東京ガス）

近年再生可能エネルギーの普及拡大が進んでおり，それとともに需要家サイドでは分散型エネルギー資源（DER）の普及が進んでいる。またDERにより作られるエネルギーをより有効利用するためにHEMSにより制御を行うことが望まれる。これらのDERやHEMSなどのソフトウェアとハードウェアを用いて地域全体の制御（統括制御）を実現し，マイクログリッドシステムを実現することが期待されている。本検討においては，DERポテンシャルを考慮し，多段階最適化により対象DERが協調運転可能なDER運用計画を決定する統括制御手法を提案する。提案手法，従来手法の統括制御は各自の制御に比べてコスト削減効果を確認し，提案手法においては各需要家の平等性確保を確認した。

6-173

マイクログリッドシステムの統合制御及びシミュレーション評価

◎濵 健斗・臼井琉斗・北沢慧大・西原智也・渡辺由太郎・平田陽一（公立諏訪東京理科大学）・安藤 昇（AKKA Japan）

機器とEMSを接続し，ModBus，USB，CAN 2.0Bによる通信によって各機器を制御することを目的として行った。また，シミュレーションによって導き出されたデータと実際の機器から得られたデータを比較することによって，シミュレーションの妥当性を検証した。その際，天候条件は晴れ，負荷条件を5分の1，実験時間を縮尺したデータを用い，各機器を制御することが出来た。しかし，シミュレーション値から逸脱した実験データが取得された。
これはシミュレーションに反映されていない物理現象が原因であると考えられる。
今後はより細部の検討に入り，誤差の原因がどこにあるのか検証するために全機器のログを詳しく取り，シミュレーション値と比較することを考えている。

6-174

Hybrid Microgrid システムにおけるSRA手法を用いた高調波解析及び抑制の検討

◎鶴田祐天・呉 国紅（東北学院大学）

本研究では，直流負荷と交流負荷の両方に電力供給を可能とするハイブリッドマイクログリッドシステムにおいて高調波解析及び抑制の検討を行った。再生可能エネルギー発電を電源とし，多数のパワーエレクトロニクス機器がシステム内に組み込まれているため高調波が発生する。そのため，本研究でFFTアルゴリズムの一種であるSplit-Radix FFTを用いた高速なスペクトル解析手法を提案し，マイクログリッドにおける高調波解析を可能にした。さらに，高調波抑制回路も設計してハイブリッドマイクログリッドに接続し，高調波成分を抑制できることが確認された。

6-175

マイクログリッドにおける太陽光発電システムの最適容量の算出手法

◎長谷川 龍・林 亮佑・高野浩貴（岐阜大学）・浅野浩志（電力中央研究所）

マイクログリッドは，発電機，蓄電池，太陽光発電システム（PV）をはじめとする自然変動電源，需要家等によって構成される。ただし，自然変動電源は，自然状況に出力が左右される不安定な電源であり，その過剰な導入はマイクログリッドの電力供給の安定性や経済性の低下を招く。そのため，マイクログリッドに導入する自然変動電源の容量を議論する際には，マイクログリッドの需給運用を考慮して事前に最適な容量を求めておくことが望ましい。本稿では，マイクログリッドの需給運用計画問題を拡張し，導入後の電力供給の安定性と経済性とを考慮してPVの最適な容量を決定する手法を提案する。

6-176

全送電線の混雑状況と感度分析に基づく混雑解消を目的とした火力出力抑制率決定手法

◎丹野祐次郎・金子曜久・林 泰弘（早稲田大学）・坂本将造・佐々木和人（東北電力ネットワーク）

再エネ導入拡大に伴う系統混雑発生への対策として，メリットオーダー⽅式に基づく出力抑制が検討されている。この⽅式では系統混雑時に⽕⼒発電機を優先的に抑制するが，発電機の連系位置によっては⽕⼒発電機の出⼒抑制により系統混雑がかえって悪化し，不要な再エネ抑制を招く恐れがある。本稿では混雑処理に伴う再エネ抑制量の低減を目的として，全送電線の混雑状況や感度分析に基づき，抑制対象とする⽕⼒発電機を選定する⼿法を提案する。また，東北北部の系統を簡易的に模擬したモデルにおいて，全火力を抑制対象とする手法や，混雑が生じた送電線に対する感度のみ考慮して抑制対象を選定する手法との比較から提案⼿法の有⽤性を評価する。

6-177

PV出力抑制による連系容量拡大

○下向 賢（カナディアン・ソーラー・プロジェクト）・Sandro Sitompul・藤田吾郎（芝浦工業大学）

太陽光発電の導入促進は再生エネルギー活用の切り札として重要である。SVC（静止型無効電力補償装置）は系統電圧の変動抑制として広く使用されている。太陽光発電の系統連系が増加していると，電圧変動が増加することが予想され，設備コストが増加する。これが太陽光発電の導入増加の妨げとなっている。しかし，SVCの必要最大容量は，太陽光発電の高出力時かつ連系点周辺の低負荷運転時に限り必要となるため，通常運転時はオーバースペックとなる。マージンを持った設備設計はコスト増につながるため，これを低減することが必要である。
本報告では，オーバースペックを減らして設備コストを低減させることを目的として，特定条件のときだけ太陽光発電抑制をかけることを提案する。その効果を定量的に分析するため，経済分析を行い，提案手法の有効性と課題を明らかにする。

6-178

送電線運用容量管理方法の比較-再生可能エネルギー電源導入の不確実性を考慮した評価-

◎渡邊将太・原 亮一・北 裕幸（北海道大学）

本稿では，将来の再生可能エネエルギー電源導入の不確実性を考慮した送電線拡充計画においてN-1電制やダイナミックレーティングに基づいて送電線運用容量を管理することの効果を，確率動的計画法に基づく送電線設備計画を用いた数値試算により，運用コストとロバスト性の観点から比較した。その結果，新しい運用容量管理の導入により，投資時期を遅らせることができることに加え，投資による運用容量の増加幅も大きくなることで，運用コストを大幅に低下させ，さらに将来の再生可能エネルギー電源導入の不確実性にもロバストな増強計画が立てられることが分かった。

6-179

送電設備計画におけるダイナミックレーティングの導入効果

◎加藤匠馬・原 亮一・北 裕幸（北海道大学）

近年，地球温暖化や原子力発電の安全性といった問題から再生可能エネルギー（RE）に注目が集まっている。一方で，新たな発電施設を設置しようとした際，送電線の空き容量が0であるため接続できない可能性や，送電線の増強には莫大な工事費と工事期間が必要であることなど，多くの問題がある。これらはREの普及促進を目指している我が国にとって，深刻な問題となっている。
本論文では，これらを踏まえ，送電線のより有効的な運用方法について比較検討を行う。N-1電制，ノンファーム型接続に加え，リアルタイムで送電可能容量が変化するダイナミックレーティングについて，REの大量導入を考えた場合に最も効果が高い手法を検討していく。

6-180

電圧安定性を考慮した保全的な電圧低減による需給逼迫対応の基礎的検討

◎野本悟史・河村集平・田辺隆也（電力中央研究所）

再生可能エネルギー電源（以下，再エネ）の大量導入とこれに伴う火力電源の休廃止により，電力系統の需給バランスを維持することが今後一層困難になることが予想される。そのため，再エネ出力予測の外れ等の悪条件が重なれば，計画停電を余儀なくされる状況に陥ることが懸念される。このような需給逼迫の状況においては，需要の電圧特性を利用し，電圧低減によって需要の削減を図る対応策であるCVRが存在する。本稿では，先行研究では考慮されていない基幹系統の電圧安定性を考慮した電圧プロファイルの最適化に着目し，需給逼迫対応におけるCVRの基本的な考え方を提案した。また，基礎的な試算によりその有効性を確認した。

6-181

2次利用蓄電池の高精度迅速な性能選別を目的とした多層AI分析法の提案

○林田 淳・白土博康（北海道立総合研究機構）・石澤剛士（田中精密工業）

蓄電池活用による地域分散型の再生可能エネルギー普及を目的として，性能ばらつきを有する2次利用蓄電池の低コスト利用を可能とする高精度迅速な性能選別手法として，クラスタリング，特徴量抽出，判別の階層からなる多層AI分析法を提案した。具体的には，コストと相関がある選別時間を充放電による従来法より大幅に短縮しながら，蓄電池性能の劣化指標となるインピーダンスの波形データをAIで複数回分析することで，性能が基準を満たすかどうかを高精度に判定する方法を提案した。また，実際の2次利用蓄電池で提案分析法を用いた選別を行い，判定の確からしさを確認するため従来法との比較も行った。

6-182

EVアグリゲータビジネスへのバッテリー劣化の影響について

○田村 滋・高橋 知（明治大学）

本論文では，日本でのEVアグリゲータビジネスの可能性を評価することを目的とする。EVの不確実性については，国土交通省の道路交通センサスデータを分析し，EVのモデル化をする。そのモデルからシナリオを作成し，スポット市場や需給調整市場から電力を調達することによってEVアグリゲータの翌日計画の収益を最大化させることを検討する。

6-183

PV出力予測データの簡易利用に基づく蓄電池運用による小売電気事業者インバランス削減の経済性評価

◎中村美友・今中政輝・栗本宗明・杉本重幸・加藤丈佳（名古屋大学）・原田耕佑・森田 圭（ENEOS）

小売電気事業者の前日の需要計画と実需要との差（インバランス）に対するペナルティコスト削減のために，小売電気事業者が電力調達の手段として太陽光発電（PV）を保有する場合にインバランスの要因となるPV出力予測誤差を蓄電池により解消することが考えられる。
本研究では，小売事業者が利用可能な蓄電池容量がインバランスの大きさに対して小さい想定の下，PV出力前日予測誤差の符号（正負）を予見して蓄電池の全容量を放電または充電に当て，インバランスの一部を削減する手法を検討している。これまでにPV出力の前日予測値に対するそれ以降の時刻を初期値とする予測値の変化量の符号を用いた予測誤差の正負予見に着目し，この予見に基づく蓄電池運用の有効性を確認している。
本報ではこの蓄電池運用の経済性を評価した。

6-184

ローパスフィルタを用いた充放電電力平滑化制御の提案と蓄電池稼働率による評価

◎中川博晶・山口順之（東京理科大学）

2050年カーボンニュートラルを実現するために重要となる太陽光発電と風力発電の発電量は環境によって時間毎に変化するため，将来，系統に対して多大な負荷をかけることが懸念されている。そこで，系統連系電力変動を緩和するバッテリーエネルギー貯蔵システムについて多くの研究が行われている。
本研究ではPVと蓄電池を有する需要家の充放電制御方式を提案し，シミュレーションの中で充放電が出来ている割合を表す蓄電池稼働率を用いて，必要な蓄電容量を軽減した時の系統連系電力変動の影響を評価する。

6-185

EVバス導入量による需給運用への影響検討

○日高和弘・中島達人（東京都市大学）・篠田幸男（東京電力ホールディングス）

著者らは，運輸部門の脱炭素化のため，需給運用面から電気自動車（EV）へ転換を進めるための検討を行っている。本稿では，環境省委託事業にて実証試験されたEVバス走行データを基に，著者が開発した数理計画法による需給運用シミュレーションモデルにてEVバス導入量による需給運用への影響検討を行った。
本検討では，電力広域的運営推進機関のマスタープラン検討における前提条件となる再生可能エネルギー比率5～6割から現在の導入量までと，EVバス関東圏約7万台について全てEV化した場合からEV化しなかった場合について，それぞれ調整力の有無を計算し，その燃料費差分を需給調整コスト削減効果として評価した。
どのケースも，EVバスが導入されることで需給調整コストの削減が確認された。また，このコスト削減効果はある値へと収束していく様相も確認された。本稿では，これらについて報告する。

6-186

道路交通センサスに基づくEV充電需要推定モデルの構築

◎齊藤大介・加藤丈佳・今中政輝・中村俊之・山本俊行（名古屋大学）・星野優子・朝野 剛（ENEOS）

2050年カーボンニュートラルに資する再生可能エネルギー（再エネ）導入拡大に伴い，電力需給の時間的ミスマッチ増加が懸念される。これを抑制するため，従来の燃料需要から電力需要へのシフトによる需要側フレキシビリティの増加が重要であり，その有力な手段として電気自動車（EV）が期待されている。そこで筆者らは，平成27年度道路交通センサスのオーナーインタビュー自動車起終点（OD）調査に基づき，エリア別・時間帯別の将来のEV充電需要について検討している（1）。本稿では，所有形態に応じた充電行動と平均気温に依存した電費を考慮し，再エネ発電電力に対応した充電電力創出の可能性について検討した。

6-187

小売介在型自己託送モデルにおける蓄電池SOC調整に関する評価

◎石井悠太郎・安東 隆・石井英雄（早稲田大学）・小野島 一・島 潔・武藤亮平（大林組）・興梠 暖・林 龍之介（東京ガス）・林 泰弘（早稲田大学）

RE100を達成するための一つの有効な方法として，自己託送制度を用いて太陽光発電で発電した電力を別の場所にある需要施設に送電することが考えられる。本研究では小売介在型自己託送モデルを設定し，小売事業者との売買電力に対する計画値同時同量を考える。不安定な太陽光発電の発電量を補償しインバランスを低減する調整力として蓄電池を活用することが期待されているが，充電率（SOC）が上・下限値に到達すると充放電に制約がかかるため，SOCを適切な水準に調整することが重要になる。そこで本稿では蓄電池制御にSOC調整を導入することの有用性を検証するため，数値実験を実施し，インバランス量や再エネ託送率および利用率について評価を行った。

6-188

住宅電力取引を考慮した簡易予測モデルに基づくルールベースの蓄電池運用手法

◎袰主眞央人・山口順之（東京理科大学）

電力システムを取り巻く環境が変化する中，自家消費型太陽光発電が注目されている。本研究では需要家に導入のインセンティブを与えることを目的に，システムに併設される蓄電池の運用方法について検討した。運用方法は，簡易的な予測に基づくルールベースのものを提案し，数値実験によりその精度を分析した。

6-189

P2P電力取引を用いたマイクログリッドにおける蓄電池制御

◎松本優也・渡邊政幸（九州工業大学）

太陽光発電（以下PV）未設置住宅にも蓄電池を導入するメリットを発生させるため，個人住宅間での電力取引を用いた取引ルールを考案した。入札方法を各住宅が希望価格を選択できる方式にすることで将来的な電力需要や地域の特色を加味した取引の実現を図った。本研究では考案した取引ルールの実現可能性を考察するため，蓄電池所有者への経済効果や電力需要平準化への効果について実測データを用いたシミュレーションを行った。PVによる発電がない朝方の需要を改善することはできなかったが，PVによる逆潮流を押さえることができた。またPV設置住宅とPV未設置住宅のどちらも電気料金を抑えることができたが蓄電池の導入コストと比較すると十分な金額とは言えず，更なる改善が必要だと分かった。

6-190

劣化状態がばらついた蓄電池システムの電池容量推定

◎井出 誠・水谷麻美（東芝インフラシステムズ）・小林武則・豊崎智広（東芝エネルギーシステムズ）・井上和茂（関西電力）

蓄電池システムの長期運用に伴う蓄電池劣化状態のばらつき，もしくは，蓄電池のリユース品を一部適用した劣化混在を想定した際の課題抽出のために，一部の電池盤について高出力での連続充放電運用を行い，意図的に劣化を促進させることで劣化状態がばらついた蓄電池システムを実現させた。このような蓄電池システムの保守のためには，監視対象となる電池盤単位での劣化状態の把握が重要である。本稿では，電池盤3面で構成された蓄電池システムの運用データを対象に，DSOC電池容量推定方式を用いることで，各電池盤の電池容量を±5% point以内の誤差で個別に推定可能であることを，実証試験から評価した。

6-191

交流系統において蓄電池と並列運転するキャパシタの電力貯蔵装置の制御手法

◎野木祥梧・三浦友史（長岡技術科学大学）

蓄電池の電力貯蔵装置と誘導機負荷からなる自立交流系統において，誘導機負荷接続時の突入電流は蓄電池の寿命短縮の原因となる。本研究では電圧源制御を適用した電気二重層キャパシタ（EDLC）の電力貯蔵装置を蓄電池と並列運転し，仮想同期発電機制御と仮想インピーダンス制御のパラメータ設計を行うことで，キャパシタ側が突入電流を補償し，負荷投入時の蓄電池の電流を抑制できることを回路シミュレーションによって確かめた。

6-192

住宅群から提供される需給調整力を活用した発電機起動停止計画の策定

◎堤 優菜・中村勇太・青木 睦（名古屋工業大学）

著者らは，固定価格買取制度終了後にPVの発電余剰電力の自家消費を目的に，今後設置が見込まれる家庭用蓄電池に着目し，家庭用蓄電池の運用および調整力提供に関する研究を行っている（2）。将来的には，PVと家庭用蓄電池を所有する複数の住宅を仮想的に束ねた住宅群が，大規模な発電所のように，電力の需給バランス調整に役立つことが期待される。しかしながら，住宅群から提供される調整力を活用した電源構成は，十分検討されていない。また，複数の家庭用蓄電池から捻出される調整力は各需要家の蓄電池の運用によって左右される。そのため，単純に同容量の大型蓄電池と置き換えることができず，最適電源構成の検討にはこれを配慮する必要がある。本論文では，住宅群を含めた発電機起動停止計画問題を定式化し，最適電源構成を策定する。

6-193

機械学習を活用する蓄電池の充放電制御に関する基礎検討

○齋藤 直・斎藤浩海（東北大学）

今後普及が見込まれる電気自動車に搭載される蓄電池の二次利用等により，将来，需要家側への蓄電池設置が大幅に増加すると予想される。蓄電池と太陽光発電を併用した場合，配電系統側への逆潮流によって配電系統の電圧上昇等の影響を与える可能性がある。そのため配電系統への影響をできるだけ抑制しつつ，需要家の蓄電池を最適に充放電制御することが望ましいと考えられる。本検討では，需要家が自律分散的に蓄電池の充放電制御を行うことを想定して，機械学習を活用する充放電制御手法に関する基礎検討内容について報告する。

6-194

高圧直流送電の緊急制御による電源脱落時の周波数安定性向上の検証

◎原口瑠理子・吉原 徹・大原伸也・大森隆宏（日立製作所）

風力適地の系統では，今後，同期発電機の並列台数が減少し，慣性が低下することで，電源脱落時の周波数変動幅や周波数変化率の増大が懸念される。電源脱落時の急峻な周波数低下により，系統連系規定の周波数変化率を超過した場合，風力や太陽光などのインバータ電源が運転停止し，周波数低下が助長される可能性がある。本研究では，上記課題を解決するため，自励式HVDCの緊急時自動周波数制御による電源脱落時の周波数安定化効果について報告する。解析結果から，電源脱落時の周波数偏差に対する緊急制御の立ち上がりを早くすることで，周波数変化率を抑制できることを確認した。

6-195

再エネ増設に伴う直流連系増設効果のY法による検証

◎八亀雅弘・石田隆張（明星大学）

今後国内では政府のカーボンニュートラル宣言による再生可能エネルギーの増設に伴い，電源と負荷の偏在化が進むことが考えられる。特に洋上風力等の再生可能エネルギー由来の電力を，電源地域から電力の大消費地に送電する技術が課題となってくる（1）。このためにはHVDCの送電ルートによる系統増強が必要であり，既存の設備の増強，あるいは新規設備の増強規模が議論されている（1）。（1）での議論では一定量の電力を直接，電力の大消費地にHVDC経由で送電することが主眼となっていて，電源地域での技術対策に関する分析が少ない状況にあるものと思われる。そこで本報告では再生可能エネルギーの増強とHVDCの増強が電源地域に与える影響について，Y法（CPAT: CRIEPI's Power system Analysis Tools）を用いた解析結果について報告する。

6-196

多回線直流送電における系統切替手法の実験検証

◎榎本光芳・佐野憲一朗（東京工業大学）・菅野純弥・福嶋純一（東京電力ホールディングス）

複数地点の洋上風力発電設備から陸上の交流系統まで，海底ケーブル送電を行うために，多端子直流送電システムの開発が進められている。筆者らは，直流遮断器を用いないことで低コスト化を図りつつ，供給信頼度の向上と両立するため，ダイオードを用いた多回線直流送電システムに着目している。本システムでは，直流線路事故時に変換器で事故電流を遮断した後，断路器で系統切替することにより，発電設備を運転継続できる。これまでにシミュレー ションによる同手法の検証結果を報告したが，本稿ではミ ニモデルにより実験検証を行った結果を報告する。

6-197

多端子HVDCシステムにおける可変閾値を用いた端子間協調有効電力・直流電圧制御の基礎検討

◎中村綾花・原 亮一・北 裕幸（北海道大学）

面的に分散して建設された複数の洋上風力発電所の発電電力を大需要地まで送電する手段として，多端子HVDCシステムの活用が期待され，関連技術の開発が進んでいる。多端子HVDCシステムは特定の2地点間を接続する従来の2端子HVDCよりも複雑な構成となるため，より綿密なDC系統内の有効電力・直流電圧制御が必要となる。そこで本稿では，電圧マージン方式で用いられる閾値を可変とする新しい端子間協調有効電力・直流電圧制御方式を提案するとともに，4端子HVDCシステムを対象としたシミュレーションにより従来の電圧マージン方式との比較を行い，その有効性を示す。

6-198

多端子直流送電システムにおける超電導限流器の限流効果および過渡安定度向上効果

◎村上雅紀・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）

洋上風力等の再生可能エネルギーの送電手法として，多端子直流送電が注目されている。しかし，多端子直流送電は系統制御・保護における遮断が困難なため，超電導限流器（SFCL）の導入が検討されている。本稿では，多端子直流送電システムへの抵抗型SFCL導入を想定し，系統故障時における交直変換所の継続運転性と過渡安定度向上効果について，PSCAD/EMTDCを用いて解析した。結果，SFCL導入により各交直変換所の故障電流を30～47%限流し，継続運転が可能となることを確認した。また，内部相差角動揺も抑制され，過渡安定度の向上も確認した。

6-199

スマートインバータの電圧制御機能が電力系統の電圧・周波数変動緩和に及ぼす影響の解析

◎岩崎日なる（東北大学）・飯岡大輔（中部大学）・玉井昌彦・小松貴彦（テプコシステムズ）・織原 大・喜久里浩之（産業技術総合研究所）

スマートインバータには周波数・電圧変動を抑制する機能があり，各機能を同時に使用することができる。しかし，機能選択によってはインバータ容量の制約により両方の機能を十分に動作させることができない場合があり，各機能が互いに影響を及ぼしあうことが分かっている。本稿では，電圧制御機能に着目して周波数制御にFrequency-Watt機能を，電圧制御にVolt-Var機能または力率一定制御を用い，電圧制御機能の違いが周波数・電圧変動抑制及び有効電力抑制量に与える影響を解析している。検討モデルは電気学会EAST10モデルに配電系統モデルを組み合わせたものであり，計算には周波数計算が可能な潮流計算を用いた。

6-200

ヒルベルト・ファン変換（HHT）を利用した系統連系インバータ制御

◎松浦尚哉・平瀬祐子（東洋大学）

系統連系インバータは，それ自身が主電源となって系統電圧を維持・構成する能力を持つGrid Forming形と，系統電圧に追従して動作するGrid Following形に大別される。最も基本的な構成の連系インバータは，Grid Following形であり，多くの場合，連系点電圧の位相角および周波数を推定する目的でPhase-locked loop（PLL）が使用される。しかし，PLLの推定位相角はインバータ制御系を同期座標系で構築するためのPark変換に用いられるため，推定誤差や推定時間遅れは制御特性の低下につながる。本発表では，周期性・定常性を前提とせず，かつ瞬時周波数や瞬時位相を算出可能なHilbert-Huang transform（HHT）を PLLに代わる新しい位相推定手法として採用した系統連系インバータ制御を行い，従来のPLLを用いたインバータ特性との比較を行った。

6-201

低慣性系統におけるGrid-Formingインバータ導入量と系統安定性の関係評価

◎秋山雪菜・東野正和・河内駿介・鳥羽廣次（東芝エネルギーシステムズ）

本報告では，既にGFLが導入された低慣性系統を想定し，過渡安定性を確保するために必要なGFM導入量を実効値シミュレーションで評価した結果を報告する。

6-202

VSGによる同期化力供給に関する2機対向モデルを用いた検討

○高木康夫・植田俊明（大同大学）・坂本佳直美・佐藤 隆（神戸製鋼所）

近年インバータ電源の電力系統への導入機運が高まっている。これに伴い電力系統の安定性を支えてきた同期発電機の減少の影響が議論されている。その一つが系統慣性の減少とそれによる周波数変化率上昇への懸念である。その対応策としてインバータ電源に疑似慣性を制御により実現するVSGの研究が進んでいる。本研究ではVSGによる同期化力の電力系統安定性への影響を2機対向機系を用いて評価した。これにより制御遅れに対する対応が重要であることを示した。

6-203

Grid Forming仮想同期発電機制御による電力系統の過渡応答改善

◎神野泰河・アシャリフファラマルズ・梅村敦史・高橋理音・田村淳二（北見工業大学）

地球環境問題の対策としてエネルギー由来を化石燃料から再生可能エネルギーへ移行していく動きがみられている。しかし風力や太陽光といった再生可能エネルギー発電は系統に同期しない非同期電源である。非同期電源が増えインバータ主体の電力系統になっていくと電力系統の同期発電機が相対的に減ってき，電力系統の安定度が低下する問題が生じる。そこで，インバータに同期機の慣性力，同期化力，制動力を仮想的に与える仮想同期発電機（VSG: Virtual Synchronous Generator）制御が研究されている。またVSGはGFL（Grid Following）とGFM（Grid Forming）の2種類に分けられる。
本稿では，電力系統にGFL並びにGFM VSGを適用した蓄電池システムを設置し，VSG制御による系統事故時の電力系統におけるGFM方式の過渡応答改善の効果を示す。

6-204

蓄電システムに実装したGrid Forming Inverterとディーゼル同期発電機の並列運転における自端制御による電力供給継続の検証実験

○司城 徹・林 強・小川健一郎・兼清靖弘（東芝）・荒井純一（環境エネルギー技術研究所）・松田健士（パシフィックパワー）・山下大樹（パシフィックコンサルタンツ）・大谷謙仁（産業技術総合研究所）

本業務では，変動性再生可能エネルギー電源の系統導入量が大幅に拡大する将来を見据えて，蓄電池や再生可能エネルギー電源において疑似慣性（VSG: Virtual Synchronous Generator）を持つ電圧制御型インバータ（GFM: Grid Forming Inverter）と，マイクログリッドの需給バランスを制御する全体制御システム（μGMS）を開発した。産業技術総合研究所（産総研）福島再生可能エネルギー研究所にてマイクログリッドを模擬したシステムを構成し，今回開発したGFMおよびμGMSにより一定時間の電力供給継続が可能かを検証している。μGMSによる制御はLPWAなどの無線通信を用いる。一方，一般的な無線通信はBest effort型であり，通信障害が前提となる。今回，通信障害の発生を想定し，μGMSを使わずにGFMに実装したガバナフリー（GF: Governor-Free）機能に相当する4%のドループ特性による自端制御のみでの電力供給の継続性を検証する。

6-205

インバータ電源における擬似慣性機能が保護機能に与える影響の検証

◎喜久里浩之・織原 大・橋本 潤・高松尚宏・大関 崇（産業技術総合研究所）・松浦隆祥・宮崎 聡・濱田 拓・宮崎 輝（東京電力ホールディングス）

電力系統における慣性低下対策の1つとしてインバータ電源（IBR）の擬似慣性機能が注目されている。擬似慣性機能付きIBRが実用化され系統連系する際には，現行のIBRと同様に保護機能及びその確認試験が求められると想定される。本稿では，擬似慣性機能と現行の保護機能を実装したIBR試作機で一般社団法人 電気安全環境研究所（JET）の認証に相当する試験を実施し，擬似慣性機能が保護機能に与える影響と今後の試験法について検証する。

6-206

FRT要件に対応した電流制御型仮想同期発電機の実験検証

◎崎元謙一・市川 崇・梅津佑介・杉本和繁（川崎重工業）・吉村英治（川重テクノロジー）

再生可能エネルギーの主力電源化が進められている。再エネ増加の課題として，系統事故時にこれらの電源が一斉に解列することで，供給力不足が懸念されている。その対策として，系統連系規程においてFRT要件が定められ，瞬低時の運転継続が求められている。また再エネ電源はインバータ連系であり，同期発電機と比べて，慣性が無く，系統の不安定化も懸念されている。その対策として，インバータ電源に同期発電機と同じ特性を模擬する仮想同期発電機（VSG）が提案されている。瞬低時にはVSGは同期発電機と同様に短絡電流を供給しようとするが，インバータ電源は過電流耐量が低いため停止する。また，復電時には電力動揺および脱調現象が発生し，FRT要件とVSG制御の両立は難しい。筆者らは，電流制御型VSGにFRT要件を満たすための制御方式を検討し，実機により検証した。

6-207

VSGによる電力系統周波数安定化効果の分析

◎髙橋大雅・斎藤浩海（東北大学）・伊藤直樹・佐々木和人（東北電力ネットワーク）

太陽光や風力などの再生可能エネルギー電源は，火力や原子力発電機のような同期発電機（SG）が持つ回転慣性を持ち合わせていない。それゆえに，再エネ電源の増加により電力系統全体の慣性が減少し，系統事故発生時に周波数変動が大きくなることが懸念されている。本稿ではその問題の解決策の一つである，仮想同期発電機（VSG）の電力系統への導入量の違いによる周波数安定化効果を電源脱落事故を想定したシミュレーションにより検討した。その結果，VSG導入によって周波数変化率（RoCoF）と周波数最大偏差（Nadir）の改善がみられ，VSGが周波数安定化に貢献し得ることの基本的な性質を確かめた。

6-208

複数機能を併用したPVインバータのVSGモデル制御の検討

◎アブドゥル ワフィビン ミスバー・横山明彦（東京大学）・金尾則一（北陸電力）

近年，太陽光発電（Photovoltaic Generation: PV）をはじめとした再生可能エネルギー電源が電力系統に大量導入されている。これに伴い，電力系統を安定化するための様々な機能を持っている同期発電機の連系台数が減少することにより，系統の安定性が悪化する恐れがある。そこで，その対策としてPVなどに同期発電機の動特性を模擬させた仮想同期発電機（Virtual Synchronous Generator: VSG）が提案されている。しかし，VSGモデル制御を実装する際には，他のスマートインバータの系統安定化機能/要件と協調するか否かについては明らかにされていない。そこで，本稿は，Volt-Var制御とi_q制御をVSGモデル制御と協調して，同時に機能させるPVを提案しその効果，有効性を明らかにする。

6-209

弱小系統におけるGrid-Formingインバータの周波数変動抑制効果

○インスンサルベン・バニ シャムセムハンマド（東芝三菱電機産業システム）

近年分散型電源が拡大し，様々なところに設置されている。系統は弱いところの場合，系統擾乱時の周波数変動速度（rate of change of frequency（ROCOF）や，変動幅の増加が課題になっている。その解決策の一つとして，インバータに発電機の慣性力を模した制御を導入し，系統電圧・周波数の確立に寄与する系統形成形制御（Grid forming: GFM）が提案されている。本論文では，弱小系統において，従来のGFLインバータにGFMインバータを追加した時に，周波数変動幅が改善されることを示す。

6-210

電圧制御型同期インバータの周波数制御とブラックスタート

○横山隆一・荒井純一（環境エネルギー技術研究所）・松田健士（パシフィックパワー）・山下大樹（パシフィックコンサルタンツ）・司城 徹（東芝）・大谷謙仁（産業技術総合研究所）

再生可能エネルギーの導入に必要なGrid forming inverter である電圧制御型同期インバータを開発している。そのインバータを自立起動（ブラックスタート）させて周波数を維持する制御方式を検討したので報告する。動作確認はMATLABシミュレーションで行っている。

6-211

GFMインバータを用いた三相同期運転および負荷試験

◎網本和也・田中敬太・餘利野直人・関﨑真也・佐々木 豊・造賀芳文（広島大学）

近年，再生可能エネルギー（RES: renewable energysources）の急速な導入により，電力システムでは従来の信頼度基準の維持が困難となるなどの問題が懸念され，対策が検討されている。一方，信頼度の問題とも関連するが，電力システムの安定度問題も懸念材料である。
エネルギー強靭化法，地域マイクログリッドの昨今の状況を取り入れ，災害時などにおける自立MG（Microgrid）が重要視されている背景から，これまでに開発してきた単相同期化力インバータ（single-phase synchronous inverter:SSI）を複数台用いて，蓄電池の残存容量に着目した災害時用のシステム運用に関する電力融通の実験を行ってきた。現在，三相においても電力融通実験を行うため，三相同期化力インバータの実験環境を構築しており，発電機と三相インバータの同期連系運転結果を報告する。

6-212

NRBFNによる風力発電予測法

◎渡辺航太郎・森 啓之（明治大学）

本稿では，ニューラルネットワーク（Artifical Neural Network; ANNと略記）のRadial Basis Function Network（RBFN）の正規化モデルであるNRBFN（Normalized RBFN）を用いた風力発電予測法を提案する。近年，地球温暖化が進み，風力などの再生可能エネルギーは脱炭素化に貢献するエネルギーとして注目されている。しかし，再生可能エネルギーは気象条件により発電出力が変動しやすいため，発電計画に不確定性をもたらしてしまう。そのため，電力系統において再生可能エネルギーの出力を正確に予測することは重要な課題である。本稿では，実データを用いたシミュレーションにより，提案法の有効性を示し，予測精度を向上させることが狙いである。

6-213

勾配ブースティング決定木を用いた風力発電出力予測とその解釈性に関する基礎的検討

◎菅野湧貴・野原大輔・大庭雅道（電力中央研究所）・藤本 悠（早稲田大学）

勾配ブースティング決定木の手法の1つであるLightGBMを用いて，4つのウィンドファームの風力発電出力予測を行った。そして，SHapley Additive exPlanations（SHAP）を用いて得られた機械学習モデルの解釈を試みた。LightGBMによって得られた風力発電出力予測はバイアス誤差が平均誤差が大きく低減されており，それに伴って平方平均二乗誤差も減少した。SHAPに基づく機械学習モデルの解釈を試み，対象とするウィンドファーム周辺のデータの重要性が高く，また，海上よりも陸上のデータの方が重要性が高いことが明らかになった。

6-214

風力発電機の擬似慣性制御手法-出力増加幅と増加時間に関する検討-

◎原田浩輔・伊藤 舜・古積晃太・七原俊也・雪田和人・松村年郎（愛知工業大学）

電力系統への再生可能エネルギー電源の増加により，系統の慣性の低下し，周波数変動が大きくなることが懸念される。しかし，風力発電機には回転体があるため，系統事故時にはインバータを制御することで回転体に蓄積されていたエネルギーを放出し，擬似的に慣性を具備できる可能性がある。本論文では，風力発電の出力増加幅および継続時間をそれぞれ5~10%，5~10sで変化させ，周波数の変動や出力係数，火力出力の変化などを比較した。想定した条件のもとでは，風力発電出力の変動や擬似慣性制御終了後の火力発電出力の変動の面からは，増加幅5%，継続時間5s程度が望ましいと考えられる。

6-215

衛星画像データと雲画像の予測を用いた日射量予測

◎王 清堃・川崎章司（明治大学）

近年，環境問題のため，太陽光発電システムの連系台数がますます増加している。しかし，気象条件により，電力の供給が不安定になる。そこで，日射量を予測する必要がある。本稿では，ニューラルネットワークを機械学習法として使用する。さらに，畳み込みLSTMにより雲画像を予測し，予測された雲画像を使用して日射量を予測する。提案手法の有用性を検証するため，一年を通して東京エリアの日射量を予測し精度検証を行う。

6-216

LSTMを用いた住宅用PVの短時間先発電量予測手法

◎那須 宙（東京理科大学）・宇都宮健志・佐々木 潤・岡田 牧・吉川茂幸・山口浩司（日本気象協会）・植田 譲（東京理科大学）

近年，太陽光発電（PV）の導入に伴い，住宅用のPVシステムもさらに導入されると考えられる。その中で住宅等の需要家への電力販売と，そこに設置されているPVの余剰電力買取を行うアグリゲータ等における計画値同時同量に向けた高精度な発電量予測が必要であると考えられる。住宅用PVシステムに関しては周りの障害物による影の影響や方位角情報と実際の方位角とのズレ等の影響を考慮しなければならない。本研究では複数方位に太陽モジュールが設置された住宅に対して，日本産業規格に基づいた物理モデルで，実際の日射量データを用いて発電量を推定し，そこで考慮できていない影響をLSTMを用いたオンライン学習により補正し，最終的な発電量を予測する手法を提案する。

6-217

WRFモデルの物理スキームの組み合わせが異なる複数の予測値のばらつきを用いた日射量予測大外し予見

◎河合美咲・今中政輝・栗本宗明・杉本重幸・加藤丈佳（名古屋大学）・宇野史睦（日本大学）

太陽光発電の出力予測における大外し予見のために，アンサンブル予測のうち物理スキームの組み合わせを様々に変化させるパラメータアンサンブルに着目し，数値気象予報モデルであるWRFを使用して，日射量予測値のばらつきを用いて日射量予測大外しの予見を試みた。日射量予測値が1つのモデルのみ他のモデルと大きく異なる日が見受けられたため，予測値のばらつき方に応じて利用するモデルを変化させることに着目し，大外し予見の空振りの削減を図った。予測大外しの予見検出力は，Receiver Operating Characteristics Curve（ROC曲線）及びArea Under the Curve（AUC）を用いて評価した。

6-218

エリアPV発電予測に用いるAuto-Encoderの潜在空間の次元数に関する一考察

◎森 友輔・若尾真治（早稲田大学）・大竹秀明・高松尚宏・大関 崇（産業技術総合研究所）

著者らは気象庁数値予報値の気象画像を入力とし，Auto-Encoderを利用して画像の情報を圧縮してエリアPV出力予測を行う手法を提案し，日射量に加え下層雲量の情報も追加することで精度よく予測が行えることを確認した。本稿では入力情報に応じたAuto-Encoderの適切な潜在空間の次元数の関係について検討を行った。具体的には日射量と下層雲量を入力とした場合において，Auto-Encoderの潜在空間の次元数を変化させた場合のエリアPV出力予測と画像再現の誤差の変化を確認した。その結果，画像サイズが60×60ピクセルの場合は，潜在空間の次元数は10程度で十分であることが確認された。

6-219

勾配ブースティングを用いた日射量予測の基礎検討

◎池田健一郎・浦野昌一（明治大学）

近年，温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの施策が積極的に進められており，再生可能エネルギーの活用が以前にも増して高まっている。その中でも特に太陽光発電はコストが低い電源として導入が急速に進んでいることに伴い，太陽光発電量予測に必要な日射量予測の研究が盛んに行われている。そこで本稿では，気象庁公開の天気概況をもとに気象モデルを構築し，勾配ブースティングを高速化した手法であるXGBOOSTを用いて1時間ごとの日射量予測の精度向上を目指す。

6-220

太陽光発電出力抑制特性把握を目的とした太陽光発電出力の分析

○石井英俊・福留 潔（J-POWERビジネスサービス）・竹内知哉・占部千由・瀬川周平・荻本和彦（東京大学）

太陽光発電（PV: photovoltaics）のノンファーム接続では，太陽光（PV）の予測（1）に基づき，PVの出力制御が行われる。実際のPVの出力は，設置条件等（方角・角度・パネル特性等）により，同じ日射によっても異なる発電特性となる。このため，出力上限値による出力制御の指示値はこの特性を考慮して決定する必要がある。
本研究では，PV出力制御を模擬した場合にどの程度の出力が得られるかをモデル化することを目的として，様々な設置条件にあるPVの実績から同一時刻にどのような発電出力のバラエティがあるのかを整理した結果の一例を示す。

6-221

ひまわり8号と物理AIによる日射量短時間予測-多層系モデルへの拡張-

○佐々木 潤・宇都宮健志・岡田 牧・吉川茂幸・山口浩司（日本気象協会）

バランシンググループ自らが実施する発電量予測のために，1km程度のエリア，3時間先程度を対象とした高精度日射量短時間予測モデルの開発を行っている。「ひまわり8号観測の即時反映」と「大気力学・雲微物理の導入」を両立させるために物理とAIを組み合わせたアプローチを採用している。「衛星画像から風速や気圧など潜在的な物理変数を推定した上で大気力学に従って時間発展するモデル」を記述してend-to-endで学習させることで，従来の予測より10％以上の精度改善を実現した。現在，さらなる精度改善を目指すべく多層大気モデルの構築に取り組んでいる。ひまわり8号のマルチバンド情報と画像処理技術を組み合わせることで，上層雲・中層雲・雪氷面など各状態を分離することに成功した。ここから多層大気における各層の状態推定を行い，雲の時間発展を精緻に予測するモデルを構築していく予定である。

6-222

中部地方の各自治体における太陽光発電の導入容量の算出と配分手法の検討

◎志村征輝・加藤丈佳・今中政輝（名古屋大学）・服部 進（中部圏社会経済研究所）

筆者らは，様々なステークホルダーが共通の情報に基づき，人口動態，土地利用計画，産業立地などが異なる様々な地域群全体としての数十年先を見据えたエネルギー需給のグランドデザインを検討するため，エネルギー需給評価プラットフォームを構築している。その中で脱炭素化に向けた数 100 GW 規模の太陽光発電（PV）導入を前提とするためには，各配電エリアにおける電力需給制約を考慮することが重要である。そのためには，日本全体として想定する導入量が個々の地域にどのように分布するかを適切に想定する必要がある。環境省が公開しているポテンシャルは，住宅用以外が都道府県レベルでの情報となっている。そこで筆者らは，多くの統計情報が自治体レベルで公開されていることに着目し，中部地方の各自治体のPV 導入ポテンシャルおよび 2050 年の全国 300 GW 規模の導入に対応する各自治体への導入配分量を試算した。

6-223

PVモジュールの性能評価装置を用いた腐食したPVモジュールの検出

◎石村真也・柿本伸之介・田中正志（茨城大学）・乾 義尚（滋賀県立大学）

著者らの研究グループは，PVモジュールの性能評価装置を開発し，ストリング接続を保ったままでもモジュール単位で故障検出ができることを実証した。しかし，これまでの実証実験では，バイパスダイオード故障のみ想定してきたため，著者らの性能評価装置がバイパスダイオード故障以外の種々の故障や不具合をもつPVモジュールを特定できるかについてまでは今のところまだ検討ができていない。
本研究では，PVモジュールの腐食を模擬するために内部抵抗を増やしたPVモジュールを用意し，著者らの性能評価装置を用いればPVストリング接続を保ったままでも腐食があるPVモジュールを特定することが可能であるかどうかの検討を行った。

6-224

太陽光発電用三相パワーコンディショナの出力電圧低下時における挙動

◎山中光樹・田代晃基・清水洋隆（職業能力開発総合大学校）

大容量の太陽光発電システムが配電線末端のような配電変電所から離れた場所に連系された場合に逆潮流電力が増加すると，パワーコンディショナ（PCS）の出力電圧が低下し，PCSが制御不能に陥る可能性がある。今回，三相回路を用いてPCSの挙動を実験的に検討した。その結果，三相PCSからの出力電力P_ACの増加にともなって出力電圧が徐々に低下し，P_ACが出力電力の限界値P_limitに近づくとPCSの出力電圧およびP_ACの変動が大きくなり，PCSが制御不能となった。その挙動は，単相回路を用いた実験における単相PCSの場合と同様であった。大容量の太陽光発電システムにおけるPCSの出力電圧低下時の挙動は，単相か三相かによらず同様であることが明らかとなった。

6-225

大容量太陽光発電システム連系時におけるパワーコンディショナの動作検証実験条件の設定

○清水洋隆・山口真由・山中光樹（職業能力開発総合大学校）

太陽光発電システムが配電系統に大量導入された場合，その逆潮流電力が増加するとパワーコンディショナ（PCS）が制御不能の陥る可能性がある。このことを検証するための実験条件設定について検討した。まず，想定する配電系統に対する低圧換算の単相等価回路を考えた。このままでは電流の値が極めて大きいため，PCSの出力電圧が配電線インピーダンスの絶対値と出力電流の積の関数となることに着目して，さらにスケールダウンした。その結果，系統電圧100V，配電線模擬インピーダンスを7.2+j12.1Ωとすることで，PCSの出力電流6A程度，出力電力450W程度の動作実験を行うことができ，PCSが制御不能となる現象について検証できることがわかった。

6-226

位相角制御方式を用いた励磁突入電流抑制装置の基礎研究

◎寺師康平・迫田達也（宮崎大学）・山村俊一郎（興電舎）

変圧器課電時に発生する励磁突入電流現象は，系統や近傍負荷に電圧低下や電流歪などの障害をもたらす現象である。同現象の対策の一つとして，変圧器励磁突入電流抑制装置の採用が挙げられる。本報では，変圧器を含む系統を模擬した実験回路に投入位相角制御方式の励磁突入電流抑制装置を採用し，開閉器で解列/投入を行って変圧器の電圧低下率，電流特性，誤差特性を評価した結果について述べる。

6-227

CVCFインバータによる配電系故障時の保護リレー動作用電流の供給に関する検討

○荒井純一（工学院大学）・牧田拓郎・伊東利浩（日本海ガス絆ホールディングス）・内田雅宏（日新システムズ）・柏崎和久（I.T.I）

CVCFインバータ電源のみによる電力供給している自立マイクログリドにおいて，配電線に故障が発生した場合にはインバータの過電流保護が働き運転を停止する。すると従来の保護リレーが動作しない課題がある。その対策として，インバータから故障点へ電流を供給する制御方法を提案している。動作確認はEMTPにて行っており，その結果を報告している。

6-228

対称性原理に基づく電力系統周波数及び変化率の計測

○関 建平（三菱電機）

これまで，対称性原理を交流振幅の計測をはじめ，交流電力の計測及び電圧位相差の計測へ適用し，更に電力系統周波数の計測にも適用してきた。今回はすでに提案した計測手法を踏まえ，電力系統周波数変化率（RoCoF, Rate of Change of Frequency）を定義し，その計測式を導出する。また，電圧位相跳躍事象を含む実データを計測し，提案手法が高速高精度に電力系統動揺を検出したことを確認した。

6-229

周波数安定性を考慮した電源制限対象の選択法

◎山嵜朋秀・木村 操・石原祐二・前田隆文（東芝エネルギーシステムズ）

系統安定化システムによる電源制限（電制）実施後の電力系統において，さらに電源脱落等が発生した際にも周波数安定性の維持が可能となるように電制対象の電源を選択する方法を提案する。具体的には同期機だけでなく，再生可能エネルギーも電制対象に含むことで同期機を残す技術を提案する。その際に様々な電制機の組合せに対して電源脱落時の周波数を都度確認して評価する処理を行い，電制を実施した際の発電事業者に対する説明性を担保する。本稿で提案する電制機選択方法はオンライン事前演算型系統安定化システムでの演算を想定しており，過渡安定度計算の実行回数が少なく計算負荷の少ない処理とすることが特徴である。

6-230

IEC 61850プロセスバス適用に向けたSAMU(Stand Alone Merging Unit)の開発

○板垣大樹・飯田信吾・福島将太・ストモケビン（東芝エネルギーシステムズ）

近年，変電所構内の制御ケーブル削減などを目的として，IEC 61850規格に対応したプロセスバスシステムの適用検討が進められており，当該システムのキーデバイスとなるSAMU（Stand Alone Merging Unit）を開発した。SAMUは電力系統の計器用変成器からの電流，電圧信号をアナログ／ディジタル（A/D）変換し，SV（Sampled value）データとしてプロセスバスに配信するが，そのデータは系統保護，計測など様々な用途に使用される。SAMUの規格であるIEC 61869-13では，系統事故時を含む幅広い入力に対する忠実なA/D変換や，耐環境性能が要求されており，これに対応したSAMUの開発について報告する。

6-231

特別高圧変電所へのIEC 61850監視制御システム実導入

◎林 泰広・小林嵩史・伊藤拓也（中部電力パワーグリッド）・黒瀬雄太・丸山将司・竹ノ内孝一（東芝エネルギーシステムズ）・青木幸司（シーテック）

IEC 61850は装置メーカによらない相互運用の実現を目的の一つとしており，変電所の機能が個別にデータモデル化され，メーカ共通の通信手順が示されている。中部電力パワーグリッドは，情報活用・業務高度化を目指して当該規格の変電所への適用を進めてきた。そして今回，特別高圧変電所の構内LANに当該規格を適用した監視制御システムを導入する見通しが立った。従来システムでは伝送情報量に制約があったため，機器故障などの変電所情報の一部を集約して運転箇所に伝送していた。一方，今回システムではIEDにて詳細情報を個別にデータ化し，構内LANに通信出力する。将来はこれらのデータを活用することで業務高度化などを実現していく。

6-232

変電所向け監視制御システム開発

◎宇野 甫・竹ノ内孝一・玉井 剛・鳥越秀樹・小城哲也（東芝エネルギーシステムズ）・岩本直樹・米倉 渉（北陸電力送配電）

一般送配電事業者の変電所向けに開発した統合型ITC装置，BCU装置からなる監視制御システムについて紹介する。