一般講演

5-001

深層強化学習による球面アクチュエータのトルクマップパラメータ同定と姿勢制御

◎澤 拓真（大阪大学）

昨今，製品生産の場面にて活躍している多自由度駆動システムの小型軽量化へ多自由度球面アクチュエータの適用が期待されている。球面アクチュエータは制御のために，トルクマップと呼ばれる全姿勢でのトルク特性のデータが必要となる。しかし，実機トルクマップは磁石特性のばらつきや摩擦などから精確な測定が難しいため，制御精度の低下を招く。そこで本研究では，実機での深層強化学習を用いたパラメータ同定により，実機環境での諸因子を内包したトルクマップを作成する手法の提案を目的とする。これを踏まえ，本報告では球面アクチュエータの数学モデルを使用した検証を行い，提案手法の効果について調査を行ったので報告する。

5-002

精密ロボット用Z-θアクチュエータの開発

◎鍛次畠祥弥・平田勝弘・新口 昇（大阪大学）

精密ロボットをはじめとして多数の2自由度機構を有する場合，自由度の数だけのアクチュエータが必要となり，機構の大型化・重量化が課題となる。この課題を解決するために，ダイレクトドライブにより1台で独立に直動・回転動作を実現可能なZ-θアクチュエータが高精度かつ小型・軽量な2自由度位置決め機構としての応用に期待されている。そこで，回転と直動のコイルを共通にしたZ-θ型2自由度アクチュエータを提案する。また，3次元有限要素法を用いた磁場解析により，提案するアクチュエータのトルク・推力特性を明らかにする。

5-003

ボンド磁石の射出成形解析における磁場解析の着磁用磁石モデルの検討

◎菊川永遠（大阪大学）

磁石材料と樹脂を混合して成形した永久磁石であるボンド磁石は，成形自由度が高いという利点があるが，成形品の密度や磁気特性にばらつきが生じるという欠点がある。その原因として成形プロセスにおける金型内樹脂挙動の把握が困難である事が挙げられる。そこで，成形プロセスにおける金型内樹脂挙動を数値解析により予測することで，最適な成形パラメータを決定するための指針を示す事が重要だと考える。成形プロセスを数値解析で追うには，流体解析，磁場解析，温度解析の連成解析が必要である。しかし，実験結果との比較から磁場計算において誤差が生じていることが分かった。そこで，本報告では，解析モデルの着磁用磁石の分割数を増やすことで，実験条件の再現精度の向上を試みた。

5-004

永久磁石-HTSハイブリッド磁気浮上搬送システムの増減複合励磁による推進力特性の評価

◎前田 晃・滝浪アレックス 仁・阿部佳影・大橋俊介（関西大学）

本研究では，永久磁石-HTSハイブリッド磁気浮上搬送システムの増減複合励磁に対する推進力特性の評価について報告する。搬送車は高温超電導体（HTS）と永久磁石で構成され，コイルにより磁束密度を変化させられる磁気レール上で磁気浮上している。連続する2列のコイルを減磁した場合，及び，コイル1列隔てて2列のコイルを推進方向に対して後方から増磁，減磁した場合，25[mm]区間の最小標準偏差はそれぞれ，σ=52.7[mN], σ=9.46[mN]である。また，それぞれの標準偏差が最小値を取る区間における，平均推進力はそれぞれFAVE=0.122[N], FAVE =0.139[N]である。よって，後者の励磁方法は搬送車に与える推進力を変化させず，推進力の安定性を向上させ，搬送車の推進方法として有用である。

5-005

8極6スロットリニア同期モータの寸法最適化

◎紀本千曲・阪本脩斗・平田勝弘・新口 昇（大阪大学）・高原一晶・森元瑛樹（パナソニック インダストリー）

電子部品をプリント基板に配置する実装機用リニアアクチュエータには高い位置決め精度や応答性が求められ，リニアサーボモータが適用されている。実装機用リニアモータの課題として，推力向上，小型軽量化，発熱や振動の抑制などが挙げられるが，本研究では，小型軽量化に特化した実装機用リニアモータの開発を行っている。従来モデルと同等の推力を持つより軽量なリニアモータを作成するため，8極6スロットのリニア同期モータを基本モデルとして設定し，形状や寸法の変更を行い，2次元有限要素法を用いた磁場解析により推力特性を求め評価を行った。その結果，従来モデルの推力を維持しながら，目標質量の123.4%まで軽量化した。

5-006

釣り糸アクチュエータのツイスト数依存性

◎森 信之亮・月間 満（大阪電気通信大学）・甲斐孝幸（三菱電機）

釣り糸アクチュエータは，製作が容易で軽量かつ大変位，安価なことからロボット応用を中心に研究されている。特に，製作プロセスにおけるパラメータがアクチュエータの特性やばらつきに影響するため重要である。 本アクチュエータを工業製品に応用するには，製作条件と性能との関係を明確化しておく必要がある。そこで今回はアクチュエータを製作する際のツイスト数が変位量に影響することが判明したので，報告する。

5-007

アンジュレータ型潮流発電に向けたリニア発電機の設計

◎山内悠飛・Petrus Kambo・Antomne Caunes（東京海洋大学）・山口康太（大島商船高等専門学校）・和泉 充（鳥羽商船高等専門学校）・井田徹哉（東京海洋大学）

潮流発電は発電予測の容易な次世代の再生可能エネルギー発電の候補として期待されている。我々は低流速から発電が可能であり，また海洋生物への影響が小さいことから多くの発電海域に適用可能なアンジュレータ型潮流発電に注目している。この発電形式は潮流を受けてうねる薄膜の力学的エネルギーを電気エネルギーに変換するために搭載する小形のリニア発電機を低速・短ストロークで駆動することが必要となる。そこで我々は潮流発電に向けた高出力の小形リニア発電機を実現するため，ハルバッハ配列を用いた複層界磁構造と新形式のコイルを有する発電機の構造を提案する。本発表では2次元電磁界解析を用いた発案モデルの解析結果を報告する。

5-008

5軸制御形ベアリングレスモータにおける零相電流を用いたスラスト支持用インバータレス化

◎藤井勇介・野口孝浩・Yinyin Fang・千葉 明（東京工業大学）

ベアリングレスモータは，非接触で回転軸を磁気支持しながらトルクを発生することが可能である。高トルク・高出力用途の場合，回転軸の運動全てを能動位置決め制御する5軸制御形ベアリングレスモータが適用される。このシステムは，2台のベアリングレスモータユニットと1台のスラスト磁気軸受で構成され，合計4台の三相インバータを必要とする。本稿では，零相電流を用いたスラスト磁気軸受用インバータレス化を提案する。提案方式では，モータ巻線およびラジアル支持巻線を三相四線式とし，零相電流によりスラスト磁気支持を行うことで，合計3台の三相インバータで5軸制御形ベアリングレスモータの浮上回転を可能とする。

5-009

リングハルバッハ配列永久磁石上における3種のPG円板試料のラジアル剛性比較

◎赤津陽斗（福島工業高等専門学校専攻科）・蛯名快晴・馬目拓人・伊藤 淳・鈴木晴彦（福島工業高等専門学校）

PG円板を用いた非接触無制御磁気軸受の開発研究を進めている。PG板端部に作用する反磁性反発力は極めて小さく，これまで準静的計測法によって検討をしてきた。本報では，リングハルバッハ配列永久磁石上における，PG，PG/PGS，HOPG円板試料のラジアル方向磁気支持力の準静的測定によってラジアル剛性を比較し，非接触無制御磁気支持機構への有効性について検討した。

5-010

アキシャルギャップ型ベアリングレスリラクタンスモータの極数変更による高トルク密度化

◎佐藤圭祐・清田恭平（東京工業大学）

ベアリングレスモータは磁気軸受とモータが一体化したモータである。その中でも，シングルドライブベアリングレスモータは変位センサとインバータが他に比べ削減でき低コストであるが，トルク密度が減少する傾向になる。先行研究では，トルクとスラスト力を同じ領域で発生可能なアキシャルギャップ型シングルドライブベアリングレスリラクタンスモータを提案しているが，必要な起磁力を発生させるために巻線を確保する必要があるため，固定子歯部を長く設定していた。本稿では，固定子極数を12極から6極に減らし，固定子軸長長さあたりに巻線を多く巻くことができる構造にすることを提案し，先行モデルよりも短い固定子軸長で高トルク密度化が可能であることを明らかにする。

5-011

4極電動機2極磁気支持ベアリングレスモータにおける渦電流による支持力干渉の検証

◎伊原正城・大島政英（公立諏訪東京理科大学）

表面磁石型4極電動機2極磁気支持ベアリングレスモータにおいて，永久磁石に発生する渦電流を考慮して電磁界解析を行うと，高速回転域においては指令する支持力以外にも半径方向に電磁力が発生するという問題があった。著者らはすでにこの支持力に干渉する電磁力の発生原理を，固定子を共通のものとする2極電動機4極磁気支持ベアリングレスモータの電磁界解析結果との比較等により明らかにしている。本稿では，この渦電流による力の干渉を，試作機を用いた実験により確認したので，その結果を報告する。

5-012

高調波重畳電流の適応的な調整によるアキシャルギャップ型シングルドライブベアリングレスリラクタンスモータのスラスト力リプルの低減

◎白築明大・清田恭平（東京工業大学）

アキシャルギャップ型シングルドライブベアリングリラクタンスモータは，モータ部から生じたスラスト力により回転子の磁気支持を行うが，このときスラスト力リプルにより回転子支持位置にリプルが生じる。このスラスト力リプルに対し，正弦波電流に高調波電流を重畳することでこれを低減する手法が提案されているが，パラメータ変動によりその効果は解析より小さくなっていた。本稿では従来手法の高調波電流重畳にモデル規範型適応制御を適用し，回転子支持位置のフィードバック情報に基づき適応的に高調波電流のパラメータを調整するシステムを検討，MATLAB/Simulinkによりその効果を明らかにしたので，報告する。

5-013

1軸制御アキシャルギャップ型ベアリングレスモータの傾き不安定性の低減

◎成岡伸太郎・清田恭平（東京工業大学）

アキシャルギャップ型1軸制御ベアリングレスリラクタンスモータは，モータ部の傾き方向が不安定であり，反発型受動磁気軸受によって安定化されている。本稿では回転子突極部に穴を設けることにより，モータが傾いた時にエアギャップ長が狭くなる側にある回転子突極の穴の周辺部のみを磁気飽和状態にし，トルク性能への影響を抑制しつつ傾き不安定性の低減が可能であることを明らかにする。

5-014

Improvement of Force and Motor Torque in an Axially Passive and Active Bearingless Motor with Asymmetric Structure

○Hothur Komal Vishnu Chaitanya・Akira Chiba（Tokyo Institute of Technology）

Magnetic suspension can be achieved either with passive stabilization or active control. One such method for passive stabilization is usage of Null Flux coils on the stator. These electrodynamic suspension systems have a drawback. The suspension forces increase with speeds. The insufficient levitation force has been compensated by including touch down bearings .Those support the rotor until it achieves the magnetic suspension. However, the symmetrical null flux configuration does not allow for active regulation of axial force. The asymmetrical structure has earlier been proposed by changing the rotor topology which achieved active control of axial position by force regulation. This paper proposes a modification which enhances the axial force and motor torque by modifying the asymmetric rotor topology.

5-015

52kW永久磁石同期機における固定子鉄心の溶接を考慮した解析に関する研究

◎植松和也・小比田快斗・劉 佳雨・大口英樹（東海大学）・今盛 聡（富士電機）

現在，高効率な永久磁石同期機が注目されている。本論では，永久磁石同期機を対象とし，溶接の有無による面内方向と溶接部にて発生する渦電流損の変化を比較し，溶接を考慮した際の影響を検討した。溶接部は直径5mmの円弧としてモデリングし，溶接を考慮する場合，溶接部は完全に導通していると仮定して，その積層方向の電気伝導率はカタログ値とし，溶接部以外の積層方向の電気伝導率は0とした。3D解析から，溶接の有無による渦電流損の差は約22%となり，この損失の増分と2D解析における溶接部で発生する渦電流損がほぼ一致する結果が得られた。

5-016

6極36スロット永久磁石同期機の素線に発生する渦電流損および循環電流損に関する研究

◎今井葵一・安藤巧真・大口英樹（東海大学）・今盛 聡（富士電機）

モータは日本国内の電力消費の約6割を占めており，電力消費量の削減にはモータの高効率化が有効であると考えられる。また，2015年にトップランナー制度がモータに適用され，今後もさらなる高効率化を目指すことが重要と考えられる。 本研究では，素線形状を角線とした6極36スロットの永久磁石同期機を対象とし，巻線仕様の違いによる循環電流損や渦電流損を二次元電磁界解析により明確化することを目的とし検討した。結果，1スロットあたりのコイル数を4から8に変更しても，循環電流損と渦電流損の和がおおむね等しくなることが明らかとなった。

5-017

コイルエンドの形状違いが永久磁石同期機の面内渦電流損解析へ与える影響に関する研究

◎滝川紫臣・植松和也・大口英樹（東海大学）・今盛 聡（富士電機）

電動機は世界の消費電力の約半分を占め，消費電力削減が喫緊の課題である。近年ではより高効率な永久磁石同期機が注目されている。本研究では永久磁石同期機を対象に損失の一つである漂遊負荷損に着目した。定格52kW6極36スロット機を対象に，コイルエンド形状が面内渦電流損解析へ与える影響を電磁界解析で評価した。条件について，鉄心の面内方向の電気伝導率は電磁鋼板のカタログ値，積層方向の電気伝導率は0とし，電流は正弦波の定格電流，回転速度は定格速度とした。その結果，コイルエンドを積層方向に伸ばしたモデルに対し接続したモデルの面内渦電流損は，後者のコイル引き出し高さが低い場合大きくなり，高い場合同等となった。

5-018

電磁鋼板の渦電流とヒステリシス現象が埋込磁石同期電動機のトルク特性に与える影響に関する検討

山崎克巳・◎中谷悠汰（千葉工業大学）

本稿では，可変速駆動用途の埋込磁石同期電動（IPMSM）に，ヒステリシス現象を考慮した電磁界解析手法を用いて，鉄心の渦電流とヒステリシス現象による反作用磁界が平均トルクとトルクリプルに与える影響，及びそのメカニズムについて明らかにすることを試みる。

5-019

CNTの適用により軽量化したモータにおけるロータのアスペクト比が巻線長さへ及ぼす影響の検討

◎佐藤 廉・野口孝浩・遠藤 央（東京工業大学）・中村裕司（東京工業大学/安川電機）・田中真平（安川電機）・藤井勇介・清田恭平・千葉 明・森 伸介（東京工業大学）

本稿では，電磁モータの軽量化のため，カーボンナノチューブ（CNT）をコイルに適用した設計を検討した。CNTは長尺化が進んでいるものの，無制限に長いものは想定できず，導体長さを制限したモータ設計が求められる。そこで，同等出力のCNTを巻線に適用したSPMSMについてロータのアスペクト比の異なる条件で設計し，要求される導体長さと質量の関係について明らかにした。その結果，ロータのアスペクト比が高いほど巻線長さは抑えられることが分かった。また，質量はいずれの設計でも銅コイルを適用した同等出力のSPMSMよりも軽量ではあるものの，ロータのアスペクト比が低いほどより軽量な設計となった。

5-020

インダクタンスの電流・磁石温度依存性がIPMSMの磁石温度推定に与える影響

◎新井翔己・赤木亮介・宮野竜一（静岡大学）

IPMSMに用いられるネオジム磁石は高温となると減磁が生じ，モータ効率を最適化する電流条件が変化する。また，高温となった磁石に強い逆磁界が加わると不可逆減磁が発生する。そのため，駆動時の磁石温度が分かれば，最適な電流条件の選択により駆動効率を向上でき，磁気回路設計時の磁石温度マージンを減らせる。しかし，IPMSMは回転体であるロータ内部に永久磁石が埋め込まれており，温度の測定にはスリップリングやテレメータが必要となる。このようなセンサは車両価格が上昇することとなるため，センサの類を用いず，磁石温度を推定することが求められている。本論文では回転中の誘起電圧を用いたセンサレス磁石温度推定手法の推定精度について，電磁界解析を用いて検証したので報告する。磁石温度推定に必要となるモータのインダクタンスの電流依存性や磁石温度依存性が磁石温度推定精度に与える影響を検証し，推定精度向上手法について検討する。

5-021

Ndフリーボンド磁石を用いた2層IPMSMの2種類のロータ構造組み合わせによるトルクリプル低減

◎奥田啓太・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪公立大学）

NdFeB焼結磁石は実用化されている中では最も強力な磁石であり，永久磁石同期モータ（PMSM: Permanent Magnet Synchronous Motor）に多く用いられている。しかし，希土類材料を使用した希土類焼結磁石は，高いエネルギー積を得るために，多くのレアアースを含有している。 本研究では，資源リスク軽減のため，Ndフリーボンド磁石を用いたIPMSMについて検討している。ボンド磁石は，磁気特性に関しては焼結磁石に比べて劣るが，資源面，コスト面，そして形状自由度の大きさを利用したトルクの増加などのメリットがある。 本論文では，ボンド磁石を用いた2層IPMSMにおいて，2種類のロータ構造組み合わせによるトルクリプル低減について検討している。

5-022

突極標本化を用いたトルク変調メカニズムの検討 －Part I．集中巻分数スロットPMSMにおける低周波成分発生の考察－

○新田 勇（日本精工）

PMSMのトルクリップルは，磁界解析にて求めることが可能である。しかし，特定条件，例えば，製造誤差がある場合や分数スロット構成において，周波数成分の発生メカニズムは明確ではない。本稿では，トルクをコア突極ごとに標本化することで，相殺され出力軸に現れない潜在トルクの回転－円環次数成分分布を明らかにし，前記特定条件が分布の変調現象として表現できることを説明する。具体的には，前記分布の対角成分が突極数にて円環次数にて畳み込まれた元対角要素に加え，変調次数分離れた位置に変調された成分が分布しており，これらの円環次数が0次に該当すれば，出力軸に現れる新たなトルク周波数成分として発生することを示す。

5-023

高パワーレートPMモータのアスペクト比と極対数についての検討

◎杉浦功真・野口季彦（静岡大学）

近年，永久磁石（PM）の性能向上に伴いサーボモータの高性能化が著しく進んでいる。サーボモータに求められる性能のひとつに加速度性能を表すパワーレートがある。イナーシャはロータ外径の4乗に比例するので積厚方向に長いモータがイナーシャを低減することができ，高トルク化する多極の形状が高パワーレートに適すると考えられる。しかし，エアギャップ，ブリッジには設計上の制約があるため，トレードオフが生じると考えられる。そこで，本稿では，高パワーレートモータに適した積圧とモータ外径のアスペクト比と極対数について検討した。その結果，モータの体積が等しい場合には，高パワーレートに適したアスペクト比と極対数が存在することを確認した。

5-024

二次元電磁界解析によるIPMモータの性能予測に及ぼす積厚の影響

◎天野大輔・赤木亮介・宮野竜一（静岡大学）

モータの性能予測手法として，有限要素法を用いた電磁界解析が用いられる。モータの径に対してコアの積厚が小さい薄型モータでは，モータ端部における漏れ磁束の影響が大きくなるため，モータの性能予測精度を高めるためにモータの回転軸方向の端部漏れ磁束を考慮できる三次元解析を用いる必要があり，二次元解析と比較して莫大な時間を要する。そこで，高精度で解析時間を短縮する手法が研究されている。本稿では，二次元解析によりdq軸インダクタンスと平均トルクを精度よく予測するために，三次元解析との差異を検証したので報告する。

5-025

エアコン用フェライト磁石同期モータの効率低下を抑制するためのモータ構造の検討

◎菅田大輝・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪公立大学）

現在，永久磁石同期モータ（PMSM）は，希土類焼結磁石を用いることにより，高効率化，高出力化が実現されており，エアコンなど様々な製品へ適用されている。しかし，希土類材料は高価であり，安定供給への懸念があるといった問題があるため，使用量の削減が望まれている。そのため，希土類焼結磁石を用いない高効率，高出力なモータが求められている。本報告では，エアコン用PMSMの脱希土類化を目的として，フェライト磁石を適用した場合に，圧縮機駆動を想定した運転点における効率低下を抑制できるモータ構造について検討している。

5-026

マルチフラックスバリア形PMASynRMの力率改善に関する検討

◎増田敏紀・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪公立大学）・平塚大佑・安田善紀（ダイキン工業）

現在，埋込磁石同期モータ（IPMSM）は家電製品や電気自動車に幅広く用いられている。IPMSMに用いられている希土類磁石は価格の高騰や安定供給への懸念から，使用量の削減が求められている。この解決策の1つとして，リラクタンストルクを主とし，補助的にマグネットトルクを利用する永久磁石補助型同期リラクタンスモータ（PMASynRM）があるが，PMASynRMでは力率がIPMSMと比べて劣るといった問題点がある。本報告ではPMASynRMの力率改善を目的として，永久磁石にフェライト磁石と希土類ボンド磁石を使用した際の力率を比較するとともに，ロータ表面のリブ部の有無が力率に及ぼす影響を検討する。

5-027

不等磁極幅コンシクエントポール表面磁石モータのトルク特性に関する一検討

◎萱野幸佑・横井裕一・樋口 剛（長崎大学）・宮本恭祐（八幡電機精工）

コンシクエントポール表面磁石モータにおいて，回転子の磁石による極と鉄による極の磁極幅を非対称にすることで，従来構造と比較して，磁石量の削減かつ，同等程度の平均トルクとトルクリプル率の低減が実現できていることを有限要素解析により明らかにする。 コンシクエントポール構造とは，回転子の片方の極のみに磁石を配置する構造のことであり，使用磁石の個数と量の削減が期待できる。 本講演では，界磁のギャップ磁束密度分布からコンシンクエントポール構造の有効性を確認し，トルク特性を示す。

5-028

角線を適用した永久磁石同期機におけるコイルピッチの巻線損失への影響

◎安藤 駿・大口英樹（東海大学）・今盛 聡（富士電機）

近年，我が国において消費される電力のうち5〜6割はモータによって消費されている。回転機の損失は銅損，鉄損，機械損，漂遊負荷損の4つに大別される。巻線の漂遊負荷損の明確化は，高効率モータを開発するために重要であると考える。 本研究では漂遊負荷損の1つである巻線の渦電流損に着目し，6極36スロット永久磁石同期機を対象とし，コイルピッチの違いによる巻線損失を2次元電磁界解析により求めた。結果，コイルピッチを小さくすると直流抵抗損は増加するものの，コイルピッチを変更しても渦電流損はほとんど変化しないことが明らかとなった。

5-029

MELFを用いたSPMSM回転子の組立着磁後における永久磁石磁化推定

◎中村勢到・岡本吉史（法政大学）

電磁界解析を援用し，高品質な永久磁石同期電動機を設計するために，高精度な着磁が必要となる。着磁品質を評価する技法として，着磁後，磁気シートや漏れ磁束によって，永久磁石の磁化を推測する手立てがある。永久磁石内部の磁化分布を精細に推定する手法として，いくつかの手法が提案されているが，永久磁石を自由空間に配置した状態を想定しているため，組立着磁のように，磁気非線形性を有する鉄芯に永久磁石を装荷した状態の磁化推定は不可能である。そこで，我々は磁気回路の漏れ磁束を活用した永久磁石磁化推定技法（MELF）を提案した。本論文では，電気学会モデルNモデルの回転子に装荷された永久磁石の磁化推定を実施したので，報告する。

5-030

新規Si傾斜磁性材料を適用したIPMモータの効率マップ評価

◎吉﨑聡一郎・財前善彰・大久保智幸・尾田善彦（JFEスチール）

CO₂排出削減のため自動車の電動化が注目されており，駆動モータの高効率化に関する研究開発が盛んである。鉄心材料である電磁鋼板に対しては低鉄損化が要求され，鋼へのSi（けい素）添加が有効であることが知られている。一方，Si添加は磁束密度を低下させ，モータトルクの低下を招いてしまう。そこで，低鉄損と高磁束密度を両立する電磁鋼板であるSi傾斜磁性材料JNRFを開発した。本報告では，Si傾斜磁性材料および0.20mm厚の無方向性電磁鋼板を用いて試作したIPMモータの効率マップを実測し比較評価した。Si傾斜磁性材料JNRFを使用したモータは高出力と高効率を両立する特性を示しており，電動車やエアモビリティなど高効率と高出力の両立が要求される様々な用途に好適な鉄心材料と考える。

5-031

インバータ励磁下におけるSi傾斜磁性材料の鉄損特性

○財前善彰・吉﨑聡一郎・大久保智幸・尾田善彦（JFEスチール）

モータの駆動においては，制御性向上の観点からインバータを用いたPWM（Pulse Width Modulation）制御が一般的に使用されている。こうしたインバータ励磁下では，電圧波形に重畳する高調波によって鉄損が増加することが知られている。そこで高周波低鉄損特性を有するSi傾斜磁性材料についてインバータ励磁下における鉄損特性を調査した結果，3mass%Si鋼と比較してインバータ励磁下での鉄損増加が抑制される結果が得られた。

5-032

正弦波電圧駆動による集中巻シンクロナスリラクタンスモータのトルク向上

◎牧原大地・清田恭平（東京工業大学）

近年，永久磁石を使用しないモータの一つとしてシンクロナスリラクタンスモータが注目されている。回転子は鉄心のみで構成され，固定子は鉄心と巻線のみで構成されるため安価で堅牢である。固定子巻線には分布巻と集中巻があり，集中巻は構造が単純なため製造が簡単であるが，インダクタンス高調波が増加するため，通常の正弦波電流駆動を行った場合，磁束および逆起電力の高調波が増加し高速領域の出力が低下する（1）。本稿では，正弦波電圧駆動による出力向上を提案し，その効果を明らかにする。

5-033

突極集中巻SynRMの非対称回転子形状による低速領域での効率改善

◎長谷川 稜・清田恭平（東京工業大学）

近年，永久磁石を使用しないモータの一つとして同期リアクタンスモータが注目されている。鉄心と巻線のみで構成されているため，永久磁石を用いたモータよりも安価で堅牢といった特徴がある。しかし，低速領域における効率に課題がある。本稿では回転子突極端に対して回転子外周径から非対称型のオフセットを設けることにより，回転子突極部に発生する鉄損を低減し，高効率化が可能であることを明らかにする。

5-034

突極形同期発電機の自己励磁現象

○古関庄一郎（古関PE事務所）・長瀬 博（IEEJプロフェッショナル）

突極形同期機の自己励磁現象について検討した。円筒形では同期リアクタンスと負荷の静電容量との共振で自己励磁が力率1で発生することが判明している。突極形でも直軸同期リアクタンスと静電容量との共振で自己励磁が発生するが，そのときの力率はほぼゼロ力率の進みであることが分かった。固定子巻線に進み電流が流れて共振が発生するので，進み電流による増磁作用で自己励磁が発生すると考えられてきたことが明らかになった。 同期リアクタンスの飽和を考慮したときの動作もシミュレーション確認した。

5-035

PMアシスト型巻線界磁同期モータの鎖交磁束を用いたビヘイビアモデルの提案

○貝森弘行（サイエンスソリューションズ）・日高勇気（長岡技術科学大学）

近年，より高いトルク密度や効率を得るために，低速域での可変磁束型PMモータが研究されている。アクティブ型可変磁束モータとして界磁コイルに加えて総磁束を増加させる永久磁石を配置したモータは，界磁コイル電流により逆起電力を制御することができる。すなわち，永久磁石による逆起電力を低減するために，永久磁石の磁路は界磁コイルの励磁によって直接制御することができる利点がある。 そこで本稿では，可変磁束型モータの一つであるPMアシスト型巻線界磁モータのモータビヘイビアモデルを提案し，その有効性を検証するために，モータビヘイビアモデルと回路シミュレーションを連成させた結果を示す。

5-036

磁界共振結合への展開に向けた両側給電回転電機の二次周波数一定運転

◎戸田荘明・堺 和人（東洋大学）

本研究室ではワイヤレス電力伝送技術を基にした磁界共振結合回転電機と，一次と二次の両側から電力を入力する両側給電回転電機の両方の技術を合わせ，電気飛行機駆動用モータの高出力化と高機能化を目的にした研究を行っている。本論文では両側給電回転電機の二次周波数一定運転について述べる。二次周波数を一定にすることで，磁界共振結合に必要な共振用コンデンサを挿入する際に回転子側のキャパシタンス値を一定にすることができる。低速，中速，高速において，一次周波数と回転磁界の回転方向を制御することで，二次周波数一定で駆動できることが電磁界解析によって確認できた。

5-037

高出力化のための両側給電モータにおける1次と2次のアンペアターン比と特性

◎八木原駿一・堺 和人（東洋大学）

電気飛行機を実現するためには，推進装置であるモータの超軽量化がキーテクノロジーになる。そこで，ワイヤレス電力伝送の磁界共振結合と誘導機の技術を基にした磁界共振結合モータが研究されている。高出力化，速度制御範囲拡大のために1次側と2次側から給電を行う磁界共振結合モータの研究に向け，キャパシタンスが無い構成において1次側と2次側の両側から電力を入力し1次と2次のアンペアターンの比を変化させたときのトルクと力率の特性について述べる。巻線形回転子のモータの1次と2次の両側から電気エネルギーを入力することで同一体積でより大きな機械エネルギーを出力できることが考えられる。

5-038

交流機の両側給電による高出力化の考えと効果の検証

○堺 和人・戸田荘明（東洋大学）

電気自動車や電動航空機では，可変速運転における高出力と高効率が最も重要となる。特に電動航空機では電気自動車の2倍以上の出力密度が要求される。現状の電気自動車用モータの2倍以上の出力を達成するのは従来の延長上の技術ではない新技術が鍵になる。従来交流機では，磁界を形成する役割の部分と電気エネルギーの入出力の役割の部分がそれぞれあり，固定子と回転子のどちらかが担当する。そこで，両方の役割を固定子と回転子の両方共が行う両側給電にすることによって飛躍的な出力増加が考えられる。本稿では，両側給電の交流機システムの基本構成とその考え方，トルクアップの効果について論じる。

5-039

誘導電動機における高調波ギャップ磁束密度分析に基づくトルクリプルの簡易評価式

山崎克巳・島田晃太・◎今村洸太（千葉工業大学）

本稿では誘導電動機における高調波ギャップ磁束の分析に基づき，高調波の次数のみからトルクリプルを簡易に推定できる評価式を提案し，有限要素法解析の結果と比較して妥当性を確認する。

5-040

同期リラクタンスモータ駆動によるフラックススイッチングモータの高効率化の初期検討

◎小久保伊織・清田恭平（東京工業大学）

界磁巻線型フラックススイッチングモータ（WFFSM）は，永久磁石を使用せず，ケイ素鋼板による鉄心と固定子巻線のみで構成されるモータであるため，安価で堅牢といった利点があるだけでなく，一般に力率が高く，既存のHEVに搭載されている埋込磁石型同期モータ（IPMSM）と比較しても高い出力密度を得ることができる。しかしWFFSMは，回転子の磁界が大きく変化するため鉄損が大きく，鉄損が支配的となる低出力域で効率が低いことが課題である。本稿では，低出力域において鉄損の少ない同期リラクタンスモータ（SynRM）動作させることによって，WFFSMの低出力域での高効率化が可能かの初期検討を行う。

5-041

DCモータの解析における空気領域が誘導起電力に与える影響に関する研究

◎松川航大・筒井大智・塗野正樹・大口英樹（東海大学）

電動機は世界の消費電力の約半分を占め，より高効率なモータが求められている。本研究では，DCモータを対象とし，電磁界解析を行う際に設定するモータの外周の空気領域が，誘導起電力に与える影響を検討した。条件は，モータの外径に対して空気領域を1倍から5倍とした。その結果，空気領域5倍の場合は1倍と比べ，誘導起電力が約2割増加する結果となった。これは，空気領域5倍の場合ステータの外側に磁石端部の漏れ磁束が流れるのに対し，空気領域1倍の場合ステータの外側に漏れ磁束が流れず磁束端部の漏れ磁束が磁石端部近傍で多く発生し，ギャップの磁束密度に差が生じ，誘導起電力に差が生じたと考えられる。

5-042

磁界・非対称ハーフブリッジコンバータの強連成有限要素解析に基づくスイッチトリラクタンスモータの特性解析

◎小倉 類・岡本吉史（法政大学）

近年，産業界における電動化は，世界的な潮流となっており，永久磁石同期電動機が多用されている。しかし，地政学的リスクにより，今後も永久磁石が安定的に供給される保証はない。そこで，簡易な構造で安価に製造可能なスイッチトリラクタンスモータ（SRM）に関する研究が，各研究機関で実施されているが，トルク脈動が問題となっている。本論文では，ダイオード素子の非線形特性を考慮した磁界・非対称ハーフブリッジコンバータの強連成手法を提案し，SRMのトルク特性について検討を行う。

5-043

形状複雑度を考慮したMOGPを用いたIPMSMの形状最適化

◎津田悠里・前島涼人・北川 亘・竹下隆晴（名古屋工業大学）・椎木健次（エフ・シー・シー）

近年，高効率なモータを開発するための，コンピュータを用いた電磁界解析による最適設計の研究が盛んに行われている。さらに，ある特定の用途に特化した用途指向型のモータの需要が高まっていることから，複数の目的関数を考慮して最適化を行う必要がある。また，IPMSMの最適化手法としてトポロジー最適化を用いた場合，最適解が工学的に実現困難な構造を取る問題がある。よって本研究はフラックスバリアの形状複雑度を目的関数に追加した多目的遺伝的アルゴリズムと二次元有限要素法を用いた最適化手法の研究開発を目的とし，一例としてIPMSMの多目的最適化を行うことで，形状複雑度を考慮した最適化結果を得ることが可能であることを示す。

5-044

Autoencoderを用いた目的関数値に基づく機器形状生成

◎岸 正寛・若尾真治・村田 昇（早稲田大学）・牧野宏明・竹内活徳・松下真琴（東芝インフラシステムズ）

機器の多目的最適化設計においては，設計対象の構造最適化計算を通じて獲得した形状データの中から，目的関数化が一般に難しい製造容易性等を満たす解を人的判断に基づき選定する。ゆえに，許容される目的関数値領域において，より多くの形状データを獲得することが望ましい。そこで本稿では，限られた量のデータセットから大量の形状データを低計算負荷で生成する手法を提案し，同期リラクタンスモータの最適化設計を例題とした数値実験結果を報告した。本手法によって，種々の目的関数値に基づき，高速かつ大量に多様な形状データを生成できるため，逆解析の簡易的な代替モデルとして活用できる可能性が示唆された。

5-045

SHAPによるIPMSMのトルクリプル寄与領域の可視化

◎山村孝市（法政大学）

本報告ではShapley additive explanation（SHAP）を用いたトルクリプル特性の寄与領域可視化手法を提案する。高速なモータ設計の実現のため，特に畳み込みニューラルネットワーク（CNN）を用いてモータ特性を推定する試みがなされている。さらに，深層学習DLの推定根拠を可視化することを目的に説明可能なAIに関する研究が盛んである。本手法をトルクリプルを推定するCNNに適用することで，新たにトルクリプルに寄与する領域を可視化することが可能であると考えられる。本報告では埋込磁石型同期モータの断面形状からトルクリプル特性を推定するCNNにSHAPを適用し，その有用性を議論する。

5-046

OpenModelicaを適用した発電機の熱回路網の解析手法

○郡 大祐・杉本愼治（日立製作所）・藤井克彦・土谷 摂・里 水里（日立インダストリアルプロダクツ）

回転電機の温度の計算を行うために，熱回路網をOpenModelicaにて構築した。ディーゼルエンジン発電機を対象に構築したモデルにてコイルの温度を計算し測定結果と比較した。この結果，熱回路網での計算にて，固定子コイルの温度分布は実測と一致することを確認した。抵抗法による温度測定と計算の平均温度を比較した結果，回転子の界磁コイルにおていも実測と一致することを確認した。これにより，OpenModelicaによる回転電機の熱回路網は計算可能であり，短時間で解を得られることを示した。

5-047

次世代空モビリティー向け駆動モータに関する熱等価回路の構築

◎川上陽生・雷 忠・北村正司（公立諏訪東京理科大学）

次世代空モビリティーのeVTOL航空機の実用化により，都市部の交通渋滞の緩和が期待される。航続時間，距離を高めるために，高出力密度，高効率モータが求められている。一方，高出力密度化実現には設計段階で温度制限を満足する必要がある。伝熱効果の評価手法として有限要素法がよく用いられるが，熱等価回路法では計算時間を大幅に短縮し，より効率的に設計を行うことが可能である。本研究では，駆動モータに対して高出力密度化，高効率化となるハルバッハアレイモータを採用し，熱等価回路を構築し，その伝熱効果とヒートシンクの放熱効果を評価した。各手法の温度差は3%未満となり熱等価回路法の妥当性を確認できた。また，ケース外部側面にフィンを装着することで各部品温度を大幅に下げることが示唆された。

5-048

領域分割型並列有限要素磁界解析におけるlocalized前処理とadditive Schwarz前処理の性能比較

○髙橋康人（同志社大学）・貝森弘行（サイエンス ソリューションズ）・藤原耕二（同志社大学）・岩下武史（北海道大学）

近年，電気機器設計分野では，並列有限要素法（FEM）に基づく大規模磁界解析が活用されており，その中でも領域分割法に基づく空間的並列計算が一般的に広く用いられている。本研究では，分散メモリ型並列計算機を用いたプロセス並列を対象とする。領域分割型並列FEMでは，解析領域全体を複数の小領域に分割し，複数プロセスを用いて必要な情報を送受信しながら大規模連立一次方程式の求解を実行する。その際，前処理行列は自プロセスが有する情報のみで構成することが一般的であり，localized前処理（LP）またはadditive Schwarz前処理（ASP）が活用されている。両者とも良好な並列性能を達成可能であることが報告されているが，その性能比較に関する検討例はほとんどない。そこで本研究では，電気機器の非線形静磁界解析を例題としてLPまたはASPの性能比較を定量的に行い，両者の得失を明らかにする。

5-049

ベイズアプローチとRBF-netを用いた巻線界磁モータの実機データドリブン

◎趙 鉄陽・日高勇気（長岡技術科学大学）・比留間真吾（京都大学）・貝森弘行（サイエンスソリューションズ）・江川みち・松下佳子（エムエスシーソフトウェア）

巻線界磁モータは，高いトルク密度と可変磁束特性を持つ，複雑な非線形磁気特性を有すことから，制御に必要な磁束マップ生成や実機データ取得に，多くの計算/作業時間を要する。そのため，RBF-netを用いたデータドリブン法を提案し，計算時間削減を実現してきた。本研究では同手法は実機データに対する有効性が検証する。また，学習データ構築法として，ベイズアプローチに基づく新しい学習データ構築法を提案する。 本研究では，ベイズアプローチに基づく方法は，実機データドリブンに充分に有効であるという結果を得られた。本研究において，平均トルクを学習器出力としており，高調波電流/磁束の影響をあまり受けない。今後は，高調波成分の考慮が必要なトルクリップルに対して提案法を適用する。

5-050

ガボールフィルタを用いた埋込磁石モータのトポロジー最適化に関する基礎検討

◎吉田まりあ・立道雅史・大友佳嗣・阿部貴志（長崎大学）

本研究では，ガボールフィルタを用いたon/off法をIPMモータのトポロジー最適化に適用し，既存のNGnet法では生成が難しいスリット状の微細構造を含む表現空間の実現可能性について検討する。既存のNGnet法では等方的な空間分布を持つガウス関数を形状関数として用いているため，スリット状のフラックスバリアを獲得し難い問題があった。一方，提案するガボールフィルタは空間異方性を有する形状関数であるため，IPMモータの高調波成分を低減するのに有効な，スリット状のフラックスバリアを容易に生成可能とする。本発表では，ガボールフィルタにより生成されたスリット状のフラックスバリアを持つIPMモータの最適形状を，既存のNGnet法による最適形状と比較し，その有効性について比較検討を行ったので報告する。

5-051

非対称埋込磁石モータのトポロジー最適化に関する基礎検討

◎小笠原 玲・大友佳嗣・阿部貴志（長崎大学）

IPMモータを用いる電動機械は，両回転方向に同等の出力特性を要求するアプリケーション（鉄道車両など）と，一回転方向だけに高い出力特性を要求するアプリケーション（電動二輪車など）に大別される。このうち，前者に対応する対称な回転子構造を持つIPMモータは現在，様々な最適形状が提案されており，その特性改善も大きく進んでいる。一方，後者に対応する非対称な回転子構造を持つIPMモータは，その報告事例が少なく，特に，トポロジー最適化を非対称IPMモータに適用した際の有効性については明らかにされていなかった。本報告では，非対称IPMモータの回転子構造をトポロジー最適化により決定し，従来広く用いられている対称IPMモータに対する有用性を，トルク特性の比較結果から明らかにする。

5-052

ガボールフィルタの波長を考慮したトポロジー最適化の基礎検討：同期リラクタンスモータへの適用

◎立道雅史・大友佳嗣・阿部貴志（長崎大学）

同期リラクタンスモータ（SynRM）のトルク特性改善に有効な，スリット状の磁気コア形状を実現する最適化手法の一つとして，ガボールフィルタを用いたon/off法が提案されている。しかし，先行研究ではロータコア内部のスリット幅を決定するガボールフィルタの波長を固定した最適化のみが検討されており，多種多様なSynRMの最適形状を実現できない問題が残されていた。本報告では，ガボールフィルタにおける形状パラメータの一つである，波長を最適化変数として新たに考慮したSynRMのトポロジー最適化法を提案する。発表では，最適化時における波長の定義域を様々に変化させた場合における，SynRMの各最適形状のトルク特性の違いについて比較検討を行う。

5-053

多目的ベイズ最適化によるモータのパラメータ最適化

◎高橋一貴・浅利 司・浅野能成・山際昭雄（ダイキン工業）

モータの設計では複数の評価項目について要件を満たすように構成部品の寸法値といった設計変数を最適化することが求められる。しかし，扱う評価項目や設計変数の増加にともなって解くべき最適化問題は複雑になる。そのような最適化問題を解くための手法として多目的遺伝的アルゴリズムが挙げられるが，一般に最適条件の探索には膨大な計算量が必要になる。実際の開発現場では計算機のリソースや解析ライセンスが限られている場面が多く，そのような膨大な計算を行うことは困難である。そこで，多目的ベイズ最適化を利用することで従来手法よりも少ない計算量でモータの最適構造条件を得ることができたのでその結果について報告する。

5-054

磁化方向可変による永久磁石モータ多材料トポロジー最適化の基礎検討

◎青柳泰我・林 翔吾・五十嵐 一（北海道大学）・木田佳孝・仙田泰三・たに浩司・山田 隆（JSOL）

近年，環境問題への関心の高まりから自動車をはじめとするモビリティ全般の電動化が加速している。そのため，電動車の駆動用として高性能な永久磁石モータの需要が高まっている。永久磁石モータの性能向上に向け，NGnet法によるトポロジー最適化の有効性が示されている。さらに，永久磁石の磁化配向方向を設計変数とする多材料トポロジー最適化手法が提案されている。本論文では，設計領域上で配向方向が複雑に変化することを防ぐと同時に，多目的トポロジー最適化を行う手法を提案する。本提案法による最適化により，ほぼ均一な磁化方向を持つ∇型磁石配置を持つ最適化形状が得られ，小領域において磁化方向を一定とする提案法による効果が見られた。

5-055

深層学習とCMA-ESを用いた多目的最適化

◎三上稜介・佐藤駿輔・林 翔吾・五十嵐 一（北海道大学）

【背景】電気自動車の普及に伴い永久磁石モータの設計が重要視されているが，有限要素法（FEM）を用いた解析は計算時間が長くなる。【目的】深層学習を用いてモータの性能予測を行うことで計算コストを削減し，多目的最適化に活用する。【方法】事前にCMA-ESを用いた単目的最適化を数回行い，それらを学習データとして畳み込みニューラルネットワーク（CNN）を構築する。構築したCNNとCMA-ESを用いて多目的最適化を実行する。【結果】事前最適化では得られなかった，多様な性能を持つパレート解が得られた。FEMを用いた最適化に比べ，計算時間は大きく削減された。【考察】短時間で多様な形状を得られたことから，有用な手法であるといえる。

5-056

能動学習代理モデルによる同期リラクタンスモータの設計最適化

○小山田将亜・若杉 直・古賀郁也（東芝三菱電機産業システム）

脱炭素化の動きが加速，産業用モータにおいても更なる高効率化が求められている。その中でSynRMが注目を集めており，SynRMの回転子の設計にはトポロジー最適化などの先進的な設計手法の検討が報告されている。 著者らは回転子フラックスバリヤの配置を単純なベクトル入力とし，電磁界解析結果を機械学習した代理モデルを構築して遺伝的アルゴリズムにより最適化，これを能動学習する手法を報告した。しかし，既報告の手法ではトルクリップルの推論精度が向上せずトルクリップルは最適化の対象から除外していた。今回，新たな考え方を導入し能動学習による推論精度を向上，トルクリップルの最小化も考慮した設計最適化について検討した結果を報告する。

5-057

出力範囲の拡大を目的としたステータティース間にブリッジを設けた可変鎖交磁束モータの自動設計

◎新田裕之・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪公立大学）

埋込磁石同期モータ（IPMSM）は高効率，高出力である特徴から様々な用途で用いられている。しかし，永久磁石による電機子鎖交磁束（Ψa）がほぼ一定であるという特徴から，電圧制限値・定格電流値により，最大トルクや出力限界速度が決まり出力可能な範囲（出力範囲）が限定される。そこで，Ψaを変化させ，最大トルクの向上や出力限界速度の上昇を目指した可変鎖交磁束モータが研究されている（1）。これまでに筆者らは，ステータティース間にブリッジを設けた可変鎖交磁束モータを提案している（2）。しかし，人の手によりブリッジ配置や形状などを検討するには時間がかかる。そこで，本研究では，最大トルクの向上と出力限界速度の上昇を目的として，最適なブリッジ構造の自動設計を行う。

5-058

経験的モード分解を用いた深層学習によるモータ特性推定精度向上に関する基礎検討

◎鞆谷孝祐・佐々木秀徳（法政大学）・生野壮一郎・董 然（東京工科大学）

本発表では高い推定精度を有する多層パーセプトロン（MLP: Multi-Layer Perceptron）の構築を目的に経験的モード分解（EMD: Empirical Mode Decomposition）による前処理手法を提案する。畳込みニューラルネットワークやMLPにより，モータ断面形状に対して汎化されたモータ特性推定モデルが提案されている。しかしながら，問題によっては実用的な推定精度を有するモデルを構築することが難しい。そこで，EMDによる前処理によって学習データから出力に寄与する特徴量を取得することで，学習が容易となり推定精度の向上が見込まれる。本発表では，EMDによる前処理を埋込型永久磁石同期モータの平均トルク推定モデルに適用することで，推定精度向上における有用性を議論する。

5-059

トルク脈動・最大ミーゼス応力の低減を目的としたIPMSMの磁界・力学連携トポロジー最適化

◎伊藤 慧・永山 響・望月幸祐・岡本吉史（法政大学）

埋込磁石同期モータ（IPMSM）の設計では，高速運転域での駆動を想定し，高出力・高剛性化が求められている。著者らは，平均コンプライアンス・平均トルクを目的関数とした，感度フィルタリングを用いたIPMSMのトポロジー最適化（TO）を提案した。本論文では，さらに最大ミーゼス応力に関する制約条件を付加したので，その結果について報告する。

5-060

アキシャルギャップモータのポールホーンによる高トルク化の検討

◎中西雄紀・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪公立大学）・玉村周平・前谷達男（WOLONGモータ制御技術）

近年，小型で高効率なモータとして永久磁石同期モータが注目されている。また，一般的なモータ構造と比較して薄型にしやすい構造であることから，アキシャルギャップモータの研究が行われている。一方，ステータティースにポールホーンを設けることにより，ステータと磁石の対向面積が増加し，アキシャルギャップモータの高トルク化が可能であると考えられる。そこで，本稿ではアキシャルギャップモータの高トルク化を目的とし，ステータティースに設けるポールホーン形状について検討する。

5-061

アキシャルギャップモータの損失低減方法と優位性検討

○太田 智・沖津隆志（明電舎）

本論文では，アキシャルギャップモータの中でも，ギャップ面積を大きくでき，ステータコアのヨークも不要となるダブルロータ型のアキシャルギャップモータに着目し，ステータコアを固定する金属部品の渦電流損失の低減する方法を検討した。また，電磁界解析により，提案するアキシャルギャップモータと市販のアウターロータ構造のモータの特性を比較した。

5-062

アキシャルギャップ型磁界共振結合モータの出力密度向上

◎清浦皐生・堺 和人（東洋大学）

電動航空機の実用化には，モータの軽量化と高出力密度化が求められる。本研究室ではワイヤレス電力伝送技術の磁界共振結合を誘導機に応用した磁界共振結合モータ（MRCM）の研究を行っている。MRCMは鉄心が無いため大幅な軽量化と無鉄損になり，高出力密度と高効率が期待できる。アキシャルギャップ型MRCMの性能向上には，巻線の外側に磁性リングの配置と高い（外径/長さ）の比が効果的であると確認できている。しかし，磁性リングによりモータ全体の重量が増える。そこで本稿ではアキシャルギャップ型MRCMの出力密度向上のため，同じ効果で軽量化できる磁性リングを設けたMRCMの基本特性を述べる。

5-063

C型SMCコアを用いた超扁平アキシャルギャップモータの実機検証

◎綱田 錬・竹本真紹・今井 純（岡山大学）・齋藤達哉・上野友之（住友電気工業）

モータを組込むシステムにおいて，システムサイズ低減のために扁平なモータが求められることがある。そこで，扁平構造でも高いトルク密度を実現できるアキシャルギャップモータ（AGM）が注目を集めている。しかし本研究では，軸長20mm以下の極めて扁平なモータによる更なるシステムサイズ低減を目指しており，従来のAGMでは，適用が困難になってしまう。そこで，本研究ではC型コアを用いた新しいアキシャルギャップモータを提案しており，軸長19.7mm（アスペクト比0.12）ながら，高いトルク性能と製造性を実現できる。本稿では，提案するC型コアを用いた超扁平AGMの試作機による実機検証を行い，超扁平構造におけるトルク特性の有効性について報告する。

5-064

トロイダル巻線方式アキシャルギャップ誘導モータの高出力密度化に関する基礎検討（第3報）

○保田富夫（ワィティー）

軽量化に有利と指摘されているトロイダル巻アキシャルギャップ誘導モータのセミコアレス化設計主要諸元，特性解析結果及び試作機につい報告する。

5-065

軸ずれを許容するアキシャルギャップ型SRモータ搭載インホイールEVの車両挙動の検討

◎山本悠雅・後藤博樹（宇都宮大学）

電気自動車のインホイルモータ駆動の問題点として，バネ下重量が重くなることが挙げられる。その解決策として，アキシャルギャップ構造ではステータとロータの軸ずれがある程度許容できることを利用し，アキシャルギャップ型モータのステータを車体側に固定し，ロータだけをサスペンションで支える方法が考えられる。これまでの検討で，ロータとステータに軸ずれがある場合，ロータの動きに対して逆方向に復元力が働くことがわかっている。それを利用し，軸ずれを許容したアキシャルギャップ型SRモータの軸ずれ復元力が車両姿勢に与える影響について検討したので報告する。

5-066

電動機の固定子電流解析によるポンプ内キャビテーション検知技術の開発（その1）

◎神納康宏・金丸 誠・開田 健・入来院浩司・宮内俊彦（三菱電機）

ポンプ設備の故障要因の一つとして，キャビテーション現象が挙げられる。キャビテーションの発生が長時間継続すると，ポンプの羽根に損傷を与えるため，キャビテーションが発生した際は速やかに検知し，対応を行う必要がある。そこで本研究では，ポンプ運転中の状態監視技術として，ポンプを駆動するモータの固定子電流の挙動からキャビテーション発生を検知する技術の開発を行った。本研究では，開発したキャビテーション検知手法について，解析手法および手法の評価結果について報告する。

5-067

電動機の固定子電流解析によるポンプ内キャビテーション検知技術の開発（その2）

○金丸 誠・神納康宏・開田 健・入来院浩司・宮内俊彦（三菱電機）

工場，発電所や上下水道処理場では，ポンプ設備は送水や給排水の用途として必須の設備であり，安定した連続運転が要求される。今回，我々はポンプ設備の故障要因の一つであるキャビテーションに着目した。キャビテーションはポンプの劣化を加速させるため，電動機の固定子電流で高精度に検知する技術の開発に取り組んでいる。モータがポンプの状態を診断するセンサとしての役割を担うため，我々は本技術をモータのセンサ化（Motor as a sensor）と呼んでいる。本報告ではキャビテーション検知手法の妥当性を評価するために，振動診断手法との比較を実施した。その結果，電動機の固定子電流解析により振動加速度と同程度の精度でポンプ内のキャビテーションの発生を検知できる見込みを得た。

5-068

定格負荷を連続的に与えたときのモータ筐体およびモータ回転軸の温度測定

○長谷川 孝（東京都立産業技術研究センター）

本研究では定格負荷を約3.5h連続的に与えたときの，モータ筐体および回転しているモータ回転軸の温度をロギング測定した。筐体温度はチノー製温度記録計，回転軸温度は小野測器製無線温度計測モジュールを用いて測定した。実験は，定格電圧DC12VおよびDC24Vの2台のブラシ付きDCモータで行った。5つの測定箇所において，両モータとも筐体裏面温度が最大となり，次いで回転軸温度となった。定格負荷3.5h経過後の測定箇所間の最大温度差はDC12Vモータで約9℃，DC24Vモータで約3℃であった。

5-069

巻線界磁形同期機のダンパーバー折損検知におけるバーと鉄心の接触抵抗の影響度評価

◎神山博夢（東芝三菱電機産業システム）・竹内活徳（東芝インフラシステムズ）・渡邊 剛（東芝三菱電機産業システム）

産業用のダンパーバー付き巻線界磁形同期機において，ダンパーバーの折損検知は目視検査が一般的だが，運転を止めて固定子から回転子を取り出すのは容易ではなく，これまでも電気的に折損を検知する手法が報告されている。しかし，従来手法においては，同期機を誘導機として始動する際の特定の物理量を検知しており，インバータ駆動の同期機では従来手法を適用できない。そこで筆者らは，インバータ駆動の同期機でも検知できる手法として，ダンパーバー折損時の磁気アンバランスによるdq軸間干渉に着目した折損検知手法を提案する。また，検知精度に影響する回転子鉄心とダンパーバーの接触抵抗を実機で調査したので報告する。

5-070

水車発電機固定子巻線への運転中部分放電診断の適用事例

◎小倉咲夏（関西電力）・倉石 隆・宮嵜 悟（電力中央研究所）

現在の発電機固定子巻線の絶縁劣化診断では，発電機を停止し測定を行うことから測定時にノイズの影響は受けにくいものの，溢水電力の発生やコイルの切離しや絶縁処理が必要であり点検費用がかかるといった課題がある。そのため，高頻度での測定が難しく，固定子巻線の劣化や，それ以外の突発的な異常の兆候を早期に検出できない恐れがある。そこで，停止作業を伴う絶縁劣化診断の課題を解決する方法として，発電機の運転中に，劣化や異常の兆候を示す部分放電信号を測定し，トレンドを管理する方法はあるが実用化されていなかった。本研究ではこの実用化に向け，発電機固定子巻線の劣化や異常の兆候が顕在化している3発電所の発電機固定子巻線に部分放電測定用センサである結合コンデンサを常設し，運転中部分放電診断を実施している。本稿では現時点で得られた知見について報告する。

5-071

DCモータの機械損分離方法の検討

◎尾関雄哉・尹 己烈（岐阜大学）

近年，脱炭素社会に向けて電動化が進み，モータの高効率化が求められている。高効率化には，モータで生じる損失を細かく分離して各損失を評価することが重要である。本研究では，モータ損失の内の摩擦損と風損からなる機械損に注目して，直流モータを対象に風損を機械損から分離して評価することを目的に測定を行った。風損の算出方法は，真空状態で直流モータを駆動すると風損の影響を無視できることを利用して，直流モータ実機を大気状態で駆動した場合に生じる損失と真空状態で駆動した場合に生じる損失の差分をとることで算出した。結果として，真空内で直流モータを駆動することで風損を機械損から分離して評価することができた。

5-072

鉄リングと複数ブラシの摺動による電流分担アンバランス発生の研究

◎林 寛・植村 鉄・上野貴博・森田 登（日本工業大学）

火力発電所におけるタービン発電機の励磁機構はスリップリングとブラシから構成されている。ブラシ1個あたりの許容電流値は決まっているため，これを超える大電流を扱えるようにする方法として，複数のブラシを並列接続する方法がある。しかしすべてのブラシに電流が均等に流れない（電流アンバランス）ため，ブラシに過電流が流れて加熱し，ブラシとブラシホルダーが破損してしまう問題がある。そこで，本研究では電流アンバランス現象を発生させる原因を探ることを目的として，湿度が原因の一つであると仮定し，湿度を変化させた際の摺動実験を行った。

5-073

鉄スリップリングと銅黒鉛質ブラシにおける大電流通電時の摺動特性

◎金澤祥太・佐藤敦也・金丸悠河・北御門拓哉・上野貴博・澤 孝一郎（日本工業大学）

電気摺動接触機構は，静止物体から移動物体（回転物体）への電流通電を行う機構として用いられている。この機構は例えば，交流機では静止物体にブラシ，移動物体にスリップリング，直流機では静止物体にブラシ，移動物体に整流子があげられる。この機構の問題点として，機械的摩耗，電気的摩耗による劣化が挙げられる。それだけでなく，周囲の気温や湿度といった外的条件によってブラシの性能に影響を及ぼす。そのため，これらの外的条件を加味しても，摩擦係数，接触電圧降下が低く，寿命が長いといった万能ブラシを追求するため，現存する電気摺動接触機構の接触信頼性，保守性，長寿命化の向上が求められている。 本研究では，導電性が良く，摺動特性も優れているため，多くの分野で適用されている銅黒鉛質ブラシと，安価で，加工しやすい鉄リングを用いて大電流通電における摺動試験を行うための予備試験を行った。

5-074

不平衡運転時における三相誘導電動機の挙動に関する一考察

○加藤真嗣（神戸市立工業高等専門学校）

三相誘導電動機を運転する場合，トルク脈動を抑えるために平衡三相交流電流を流さなければならないことは周知の事柄である。不平衡電流が流れた場合にトルク脈動が発生することをシミュレーションで確認することができるが，現実にどのような事象として現れてくるかシミュレーションすることは難しい。そこで，2.2kW三相誘導電動機，三相インバータ，不平衡用抵抗器，および加速度計からなる実験システムを用いて，ある相のインバータと固定子の間に抵抗器を直列接続して，不平衡運転の実験を行った。その結果，不平衡割合をかなり大きくした場合でも，振動に関しては平衡運転時ほぼ同じであることが確認できた。

5-075

ひずみゲージを用いた閉磁路コアの磁歪測定

◎齋川直希・蔡 一飛・千葉 明（東京工業大学）・吉崎聡一郎（JFEスチール）

近年環境問題への関心の高まりからハイブリッド自動車などの次世代自動車が注目されており，そこで使われるモータとしてスイッチトリラクタンスモータ（SRM）が注目されている。SRMには希土類永久磁石を用いないというメリットが存在する一方，騒音が大きいなどのデメリットが存在する。SRMの騒音の一因として磁歪が挙げられる。SRMの駆動時は磁歪の測定時と励磁周波数や積層厚などの状況が異なるが，一般的な磁歪測定では考慮されていない。そこで本稿では磁歪特性の異なる3つの材料を用いた磁歪測定を励磁周波数やコアの積層厚を変化させて行い，それによる磁歪の値の変化を測定した結果を報告する。

5-076

可変磁力モータにおける磁化推定技術の検討

◎石水真斗・前川佐理（明治大学）

可変磁力モータは，高保磁力を有する定磁力磁石と低保磁力を有する可変磁力磁石で構成され，駆動するインバータで瞬間的に大きな外部磁界を与えることで，可変磁力磁石の磁力を増減させ，全速度域で最適化を図る永久磁石同期モータである。可変範囲が広範な可変磁力モータは，変化特性に対する適切な監視および制御機能も必要となる。本論文では，電圧モデルと電流モデルで構成した磁束オブザーバを用いて可変範囲が広範な多段階磁化の検証行った。試作した可変磁力モータの磁化特性を検証し，多段階増と多段階減磁でそれぞれ4つのモードを用いて試作した可変磁力モータにおいて可変範囲が広範な多段階磁化ができることを確認した。

5-077

電機子コイルエンドと零相巻線を併用した透磁率変調に基づく可変界磁PMSM

◎岩間清大・野口季彦（静岡大学）

筆者らはこれまで，磁気飽和を利用した可変界磁PMSMについて研究してきた。この可変界磁PMSMは，変調巻線に変調電流を与えることで界磁制御を達成する。また，この磁気飽和を利用した可変界磁PMSMの駆動システムとして三相4線式駆動システムについても検討してきた。この駆動システムでは0軸電流i0を制御できるため，i0を変調電流として利用することで，駆動回路の体積や効率を犠牲にすることなく，界磁制御を実現できる。一方で，電機子巻線に加えて変調巻線を要するため，モータパワー密度の観点で課題がある。そこで，特殊な電機子巻線のコイルエンドとi0から成る起磁力によって界磁制御を実現する変調巻線レス可変界磁PMSMについて検討した。変調巻線レス可変界磁PMSMは変調巻線を用いない分，モータ体積を削減できるものの，界磁制御に必要なi0が大きいという課題がある。そこで本稿では，変調巻線と特殊な電機子コイルエンドを併用した可変界磁PMSMとその駆動システムについて検討する。

5-078

界磁巻線に着減磁機能を付加したハイブリッド界磁メモリーモータの1パルス駆動時の出力特性

◎横道圭人・綱田 錬・竹本真紹・今井 純（岡山大学）

近年，自動車駆動用モータにおいて，高トルク密度，広範囲での高効率を達成するために，運転領域毎に適切な磁束量を実現可能な可変界磁モータが注目されている。本研究では，界磁巻線に着減磁機能を付加したハイブリッド界磁メモリーモータを提案する。提案モータはこれまでに，トルクや常用領域の効率等が優れていることを解析により明らかにしている。一方で，提案モータは磁石と界磁巻線の双方で界磁調整が可能であるため，高速領域において1パルス駆動時の出力を向上できると考えた。本稿では，提案構造の1パルス駆動時の出力特性を，現行市販車であるPRIUS第四世代の駆動用モータと比較し，その有効性について評価したので報告する。

5-079

ハイブリッド励磁モータの解析による可変磁束特性評価

◎疋田一馬・内山 翔・沖津隆志（明電舎）

本研究では，電気自動車（EV/HEV）主機モータ用途として，IPMSMのロータを軸方向中央で分割し，そのコア間に励磁巻線を巻回した構造のハイブリッド励磁モータ（HSY）を提案した。HSYは，永久磁石による固定磁束に加えて，励磁巻線より得られる励磁磁束を能動的に変化させられる可変磁束モータであり，駆動条件に合わせて機内磁束を最適量に調整することでエネルギー効率の向上が可能である。本論文では，HSYとIPMSMを有限要素解析し，無負荷誘起電圧，トルク特性の比較から，HSYの可変磁束性能を明らかにするとともに，車両搭載を想定して，世界統一試験サイクル（WLTC）におけるモータ効率を試算し，その改善効果を確認した。

5-080

電気自動車用界磁巻線併用埋め込み磁石モータ

◎清水 遼・堺 和人（東洋大学）

電気自動車用のモータは，可変速運転において低速から高速回転域まで，高出力化と高効率化が求められている。そこで，界磁巻線と永久磁石を併用することでモータの磁束量を可変できる界磁巻線併用IPMモータについて，界磁巻線に0A，20A，-20Aの直流電流を通電したときのモータ特性を得る。本モータの全界磁磁束の可変幅は6%であり，正の界磁電流を通電することによって最大トルクと最大出力を増加することができ，低トルクと低出力時では負の界磁電流を通電することで広い運転範囲で高効率となる。界磁巻線併用IPMモータは界磁電流によって全磁束量を可変して高トルク，高出力と広い運転範囲で高効率を得ることができる。

5-081

Tesla Model 3をベンチマークとした2層U字可変磁力IPMモータの特性

◎鈴木 航・堺 和人（東洋大学）

Tesla Model 3をベンチマークとして2層U字の磁石配置の可変磁力モータを試設計し，その特性を明らかにし，比較した。低速の2,000rpm，60Nmの動作点では，Tesla Model 3とVM-IPMの増磁状態，減磁状態の効率はそれぞれ97.0%，96.9%，96.8%で同等である。一方，高速の8,000rpm，40Nmの動作点では，Tesla Model 3とVM-IPMの増磁状態，減磁状態の効率はそれぞれ96.3%，97.3%，97.5%で，VM-IPMの方が効率が1%程度高い。以上から，提案モータは最大電流の2倍以内で減磁と増磁が可能であり広範囲で高効率であることが確認された。

5-082

Tesla Model3をベンチマークとした可変磁力と可変インダクタンスのIPMモータ

◎米田京平・堺 和人（東洋大学）

本研究では，電気自動車のTesla Model3をベンチマークとした低速から高速，軽負荷から重負荷までの広い範囲で高効率と高出力で運転できる2層V字状の可変磁力モータを提案する。さらに可変磁力技術に加えて，インバータを2台使用した可変インダクタンス技術を用いて併用することで，さらなる高出力化を図った。電磁界解析ソフトのJMAGを用いて可変磁力と可変速特性の解析を行った。提案する可変磁力モータは，Tesla Model3に比べて低速から高速までの高効率と高出力で運転できることがわかった。

5-083

搬送車両用駆動ユニットに適用する磁気ギアードモータの研究

◎平石祥大・平田勝弘・新口 昇（大阪大学）

本稿では，搬送車両用駆動ユニットに対し磁気ギアードモータの搭載する有用性について検討する。低速高トルク特性が必要な場合，モータは減速機と併用されユニットが大型化してしまうことが多いが，磁気減速機と同期モータを一体化させた磁気ギアードモータでは，ユニットの小型化に対して有効である。また磁気減速機では，非接触トルク伝達のため，摩擦が生じないことによる高効率・静音化が可能である。 今回は磁気ギアードモータの動作原理，目標となる出力特性のうち，基底回転数での動作を満たした磁気ギアードモータモデル，その動作確認を行った解析条件などについて報告する。

5-084

高出力・高効率のための低速SM/高速IM変換モータの駆動特性

◎松本 颯・堺 和人（東洋大学）

電気自動車用のモータでは広い運転領域での高出力，高効率が重要である。本研究では，低速から中速回転で高トルクと高効率の特徴を有する同期機（SM）としての駆動と軽負荷と高速回転域で高効率の特徴を有する誘導機（IM）としての駆動を切り替えることのできるモータ（SM/IM変換モータ）を提案する。SM/IM変換モータの構成とSMとIM駆動の駆動特性から可変速特性の向上，IM駆動時の磁石（PM）による悪影響とその解決のための可変磁力について明らかにした。

5-085

電動アシスト自転車用HBSRモータの開発

○大内茂人（早稲田大学）

近年，電動アシスト自転車が急速に普及しており，その利用は子育て世代，自転車通勤者，高齢者，スポーツ自転車愛好者などへ大きな広がりを見せている。しかし，その性能は如何に小型でパワーの大きなモータを作るか，またバッテリの軽量化・小型化・長寿命化に掛かっている。筆者らはSRモータの特徴を生かしつつ固定子側に永久磁石を配置したモータHBSRモータを開発し既に試作を終えている。試作したHBSRモータは固定子側に配置した電磁石と永久磁石によりリラクタンストルクを増やすことができるため，永久磁石の特性を選ぶことによりPMモータより大きなトルクを発生可能でありさらに加減速時間の短縮が可能である。

5-086

素早い動作生成のためのインリンクアクチュエータの開発と検証

◎森川一麿・桂 誠一郎（慶應義塾大学）

マニピュレータは汎用性が高く，素早い動作が可能で人間が接触しても安全なマニピュレータが求められている。本稿では，新たにマニピュレータに用いる駆動性能を有したインリンクアクチュエータを開発し，性能評価を行った。インリンクアクチュエータを用いる場合とモータにリンクを取り付けた場合において駆動実験を行い，比較を行った。マニピュレータにインリンクアクチュエータを用いることで，マニピュレータ自体の駆動に必要な電流を小さくすることや，より素早く大きな動きをすることを目指して開発を行った。

5-087

改良型アキシャルギャップ形渦電流ブレーキの制動と回生のトルクの基礎特性

◎森下直輝・舟木迪朗・菊池良巳・曽根原 誠・佐藤敏郎（信州大学）

現在，航空機に用いられる車軸用ブレーキには油圧式ディスクブレーキであるC/Cコンポジットブレーキが主流である。しかし，接触式のためディスクの摩耗による定期的な交換が必要でメンテナンス性に欠ける。そこで筆者らは渦電流ブレーキ（ECB: Eddy Current Brake）と磁気粘性流体ブレーキを組み合わせた非接触式ハイブリッドブレーキの研究を行っている。これは油圧装置を排し電子制御とすることで軽量化に繋がり，非接触式のためメンテナンス性が向上し，回生制動によるエネルギーの回収が期待できるものである。本稿ではECBに関して，昨年度の研究で用いた実験装置や得られた結果を比較した。結果として2倍以上のトルクを得ることができ，また回生制動時は全周波数で回生が確認できた。

5-088

航空機用ダブルロータ型渦電流ブレーキの縮小実験機による評価

◎横山哲也・舟木迪朗・菊池良巳・曽根原 誠・佐藤敏郎（信州大学）

航空機の電動化により，次世代の航空システムの開発が進められている。降着装置に内蔵されている多盤式ディスクブレーキは，ディスクが摩耗し定期的な部品交換が必要となる。非接触で制動できる渦電流ブレーキはメンテナンス頻度の低減などの利点が期待できる。先行研究のディスク型では要求トルクに対し52％不足するという課題があった。そこで有限要素法による電磁界解析を用いて，要求トルクの80％を満たした結果をもとにダブルロータ型渦電流ブレーキ1/5スケールの縮小実験機を製作した。励磁電流など各パラメータ変化による制動トルク特性を実測し，解析の妥当性や誤差の要因について検討した。

5-089

デュアルインバータを用いたオープン巻線PMSMの振動応答に関する検討

◎垣坂 資・森本博貴・木村勇登・原 洸・朴 青云・甲野藤正明（ヤンマーホールディングス）・大畑 潤・芳賀 仁（長岡技術科学大学）

産業機械では高出力密度の駆動システムが要求されており，中性点を持つモータと比較して運転範囲を拡大することができるOEW（Open-End Winding）モータを採用することで課題解決が期待できる。また，作業者の快適性向上の観点から低振動・低騒音が要求される。本研究はデュアルインバータの変調方式の違いが振動応答に与える影響について明らかにすることを目的として，各変調方式の電流スペクトラムを解析し，OEWモータの加振力計算モデルを用いた加振力計算を実施した。また，実機による振動実測も実施し，変調方式によってスイッチング周波数周辺の振動加速度に違いがあることが明らかになった。

5-090

鉄損とインダクタンス変動を考慮したシンクロナスリラクタンスモータの位置センサレス最大効率ベクトル制御

◎森本 慎・平原英明・山本 修（職業能力開発総合大学校）

シンクロナスリラクタンスモータの用途拡大に資する取り組みとして，位置センサを使用しないセンサレスベクトル制御と，負荷と回転速度に依らず常に運転効率を最大化する制御の開発は有用であると考えられる。著者らは，軸間干渉によるインダクタンス変動と鉄損の影響を考慮することによって，センサレス制御下で最大効率運転とトルク制御の線形化を両立させることを検討している。本稿では，センサレス制御下で効率を最大化させる最適電流を生成する手法を提案し，シミュレーションによる検証で負荷に依らず常に最大効率での運転が可能となることを述べている。

5-091

電流位相を収斂させるPMSMの位置センサレス制御

○松本 純（中部大学）・井手 徹・朝比奈和希・古田大地（豊田自動織機）

永久磁石同期モータを位置センサレス制御にて駆動する技術はこれまでにも盛んに研究され，一部では既に実用化されている。最近ではフォルトトレランスの観点から位置センサレス制御を，位置センサ故障時の代替システムとしたり，位置センサの故障診断に用いたりと応用先が拡大している。このような応用先では，さらなる冗長性の確保やシステムに応じた選択肢を増やすといった観点から，一般的な手法とは異なる位置センサレス制御法も有用である可能性がある。そこで，本稿では電流位相を収斂されるように位置および速度推定を行う，新たな位置センサレス制御法を提案し，シミュレーションによって妥当性を検証したので報告する。

5-092

直接トルク制御に適した開ループ制御を用いたPMSMの始動特性

◎北田 輝・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪公立大学）・會澤敏満・高木隆志（東芝）

永久磁石同期モータは家電用モータなどに利用され，信頼性向上や低コスト化のためにセンサレスで磁極位置や速度を推定することが求められる。直接トルク制御（DTC）は磁極位置に同期した座標系を制御に用いないため，センサレス制御に適してる。しかし，DTCでは回転速度が低い場合において磁束推定精度が悪化する。そのため，低速領域では開ループ制御を用い，中高速領域に達したときにDTCに切り替える方法がある。しかし，使用する制御器が異なるため，制御方式の切り替え時に運転特性に急激な変化が生じる可能性がある。 本稿では，トルクと磁束の制御器構成を変更したDTCに適した開ループ制御手法を実機に適用した場合における運転特性を示す。

5-093

時分割な位置推定を利用したSPM位置センサレス制御における低速域フリーラン状態からの再起動手法の検討

◎朝比奈和希・井手 徹（豊田自動織機）・Hao Rongjiao・道木慎二（名古屋大学）

近年，モータドライブにおいて位置センサレス制御が注目されているが，位置センサを備えた場合に比べて運転パターンの制約等の懸念があるため，その適用範囲は限られている。特に，位置センサレス制御時にフリーラン再起動ができない場合，運転指令のオン・オフが繰り返される「断続運転」が困難である。上述の背景のもと，先行研究では全速度域でのフリーラン再起動手法について検討されているが，突極性が前提となっているため，SPMSMに対する低速域での適用が困難である。そこで本稿では，SPMSMを対象とした，誘起電圧検出による，低速域でのフリーラン再起動手法について検討する。誘起電圧の検出精度を改善するために，モータの三相を短絡させ，その状態での位置推定と，通常通電時の位置推定を時分割で使い分けるアルゴリズムを提案し，その妥当性を実機実験により検証する。

5-094

センサレス永久磁石同期モータのための正相逆相振幅抽出を用いた搬送高周波電圧印加法における相関信号合成法

○細岡 竜（サージュ）

高周波電圧印加法の主要残置課題として，位相推定の速応性の向上，印加電圧に起因する可聴音響ノイズの低減がある。本課題に対する有力な候補が，PWM搬送波と同程度の周波数をもつ高周波電圧を印可する搬送高周波電圧印可法である。本論文では，正相逆相振幅を用いた搬送高周波電圧印可法を対象として，新規な特徴を有する正相関信号の合成法を提案する。

5-095

楕円形状電圧を利用した搬送高周波電圧印加法の高周波誤差角推定

◎中村晶浩・車谷大揮・宮本雄太（DigitalServo）・細岡 竜（サージュ）

PMSMのセンサレス制御では誘起電圧を観測し位相を推定する方法と高周波電圧を強制印加した際の応答電流から回転子位相を推定する高周波電圧印加法がある。高周波電圧印加法では印加電圧の周波数を高く設定することが望ましく，PWM搬送波に近しい周波数を持つ高周波電圧を印加する搬送高周波電圧印加法が提案されている。本手法では電力変換器のデッドタイムやA/D変換器などの外因性作用に起因する位相推定誤差が表れ，これまでに正相逆相成分分離法を用いた手法が提案されているが，任意の楕円形状の電圧印加に対して一般解を与えていない。本稿では軸要素成分分離法を使用し，任意の楕円形状電圧の印加に対応した位相誤差推定法を提案する。

5-096

MMSGシステムにおける複数PMSMの1インバータ並列駆動についての検討

◎西岡良樹・赤津 観（横浜国立大学）・相曽浩平（芝浦工業大学）

我々の研究グループでは，Magnetic Multiple Spur Gear（MMSG）と呼ばれる，複数の高速モータにより駆動される磁気ギアを提案している。このギアは超高速駆動に適しモータドライブの小型軽量化に有効である。一方で，複数の駆動用モータを用いることから，PMSM等の同期モータを使用した場合，インバータ台数の大幅な増大が懸念される。そこで，同一のMMSGに接続された駆動用モータは同期して回転するという特徴を活かし，複数PMSMの1インバータ並列駆動の可能性について検討を行った。実験の結果，負荷状態においても1インバータで複数PMSMが駆動可能であること，大きな負荷電流の不平衡は発生しないことが確認され，検討手法の実用性が示された。

5-097

Optimal Current Control Methods for Dual-Parallel-SPMSM with Different Parameters Using Single Inverter

○Cheonsu Park（Nagoya University）

This paper presents optimal current control methods for driving two different synchronous motors with a single inverter. When one inverter drives two motors, the system efficiency deteriorates if their loads are not identical. Moreover, even if their loads were identical, the system efficiency would also deteriorate if the parameters of the two motors are not identical. To address this issue, this paper proposes optimal current control methods for two different motors driven by a single inverter.

5-098

透磁率変調に基づく可変界磁PMモータを駆動する拡張空間ベクトル変調

◎山田幹太・岩間清大・野口季彦（静岡大学）

本論文では従来のαβ軸で確立された空間ベクトル変調を0軸も加味して三次元に拡張した透磁率変調に基づく可変界磁PMモータに適した空間ベクトル変調を提案する。実機検証の結果，提案する制御法で指令値通りの電流制御を行えることが明らかとなり，提案法の妥当性が確認できた。さらに，各変調方式を適用した実験結果と比較することで，提案法では電圧利用率の向上と0軸電流の高調波成分の低減を同時に実現できることが明らかとなり，提案法の優位性が示された。

5-099

トルク微分値操作に基づくトルク制御法の二重三相永久磁石同期電動機への適用

◎阿部太貴・長谷川 勝（中部大学）

三相のIPMSMに対してトルク微分値操作に基づくトルク制御法を提案しており，この制御法を二重三相永久磁石同期電動機（DTP-PMSM）に適用し，制御法の妥当性を評価することを目的とする。本制御法は，トルクを比例フィードバックして得るトルク微分値指令を実現する電圧指令値を静的演算で求める。この制御系には積分要素を用いていないため二次系の応答は表れない。この制御法をDTP-PMSMに適用するために，差系統でトルクを発生させないことを前提とすることで本制御法を大幅に修正せずに適用可能である。シミュレーション結果より，提案法を用いることでトルクの応答はオーバシュートレスな一次系応答が得られ，本制御法がDTP-PMSMに対しても妥当であること示した。

5-100

2系統キャンセル集中巻を持つ永久磁石同期モータの制御用モデル

◎相羽航平・道木慎二（名古屋大学）・加藤秀紀・磯谷康次（デンソー）

移動体分野への電動化に伴い，高出力・高耐故障性などの特徴を持つ多相モータに注目が集まっている。その中で，6次トルク脈動低減に加え，12次のトルク脈動も低減可能な2系統キャンセル集中巻が提案された。中でも二重三相同期モータは構造的に6次トルク脈動がキャンセル可能である事から，検討事例が増えているが，最近では6次成分に加え12成分のトルク脈動も低減可能にする巻線構造（2系統キャンセル集中巻）も提案されている。しかし，2系統キャンセル集中巻はその巻線構造の複雑さから，制御に利用可能なモデルが導出されていないという課題が存在する。そこで本稿では，2系統キャンセル集中巻の特徴を考慮することで，低次元化を行い導出したモデルについて説明する。

5-101

二重三相同期モータ駆動システムのモデル予測制御に基づくコンデンサ電流低減法におけるデッドタイムが及ぼす影響の検討

◎阪内亮介・道木慎二（名古屋大学）・今井幸司・近藤孔亮・青木康明（デンソー）

本稿では二重三相同期モータ駆動システムにおけるコンデンサ電流低減法においてデッドタイムが及ぼす影響について検討し，デッドタイムを考慮するコンデンサ電流低減法を提案する。筆者らが過去に提案しているコンデンサ電流低減法はインバータのスイッチング動作を予測によって管理するものである。しかしシミュレーション検証においてインバータモデルはデッドタイムを設けない簡易なものとしており，デッドタイムが本手法に及ぼす影響については未検討であった。シミュレーションモデルのインバータにデッドタイムを設け，デッドタイムが本手法に及ぼす影響を検証した。また，予測モデルのインバータにもデッドタイムを設けることによりコンデンサ電流低減性能が回復することをシミュレーションにより確認した。

5-102

独立二重三相巻線六相モータの六相信号直交変換のための一般化直交行列

○新中新二（C&S国際研究所）

This paper proposes two new generalized orthogonal matrices useful for orthogonal transformation for six-phase motors with double independent three-phase windings. The transformation that is also called VSD (vector space decomposition) is essential for the control of six-phase currents contaminated by harmonics and/or high-speed mode component. The proposed generalized orthogonal matrices have the potential to enable new development in current control of the six-phase motors.

5-103

永久磁石同期電動機のトルク微分値操作に基づくトルク制御における高速運転時の性能評価

◎谷口滉一郎・長谷川 勝（中部大学）

永久磁石同期電動機（PMSM）の高出力密度化が要求されており，これを実現するために電動機の高速運転化が進んでいる。しかしながら，電流ベクトル制御を用いるとdq座標系上の各電流制御系に積分器を2つ含むためオイラー近似による離散化誤差が発生し，1制御周期内における位相変化量が大きくなる高速運転時にその影響が顕著となる。そこで，本研究では制御器に積分器を用いないトルク微分値操作型トルク制御をPMSMに適用する。これにより，制御系は電動機モデル内の積分器1つで表現されるため，高速運転時においても離散化誤差は小さくなる。以上を踏まえ，本稿ではトルク微分値を操作するトルク制御を適用し，高速運転時におけるトルク制御性能を電流ベクトル制御と比較する。

5-104

電流脈動低減のためのモータ磁束に基づくPWMパルスモード切替法

◎山本碧土・鈴木俊毅・寺本晃大（三菱電機）

モータの駆動方法には，パルス幅変調（PWM）が用いられ，モータの回転数や電圧，電流の指令に応じてデューティ比やキャリア周波数を変化させる。一般に，モータ始動時から低速域では回転数と電圧指令が同期しない一定キャリアの非同期PWMを用い，中速域以降は回転数に電圧指令が同期した同期PWMを用いる。これらのパルスモードを切り替える際には，電流脈動や電流に比例したトルク脈動が問題となる。そこで，本稿では，パルスモード切り替え時に生じる電流脈動の理論式を導出し，電流脈動がモータ磁束差に比例することを示す。さらに，モータ磁束差が生じないようにパルスモードを切り替えることで，低周波の電流脈動が低減可能なことを示す。

5-105

コモンモードノイズ抑制PWM制御におけるデッドタイムの影響の検討

◎荒木雄志・柏原辰樹・小林孝次（サンデン）

モータ制御において，ある相のスイッチングによるコモンモード電圧の変動を別の相のスイッチングによる変動で打ち消しコモンモードノイズを抑制するPWM手法が検討されている。この手法においてインバータ出力電圧のスイッチングタイミングの制御がコモンモードノイズの抑制効果に大きな影響を与える。特にデッドタイムによるスイッチングタイミングの変化はコモンモードノイズを抑制する上で重要な要素となる。本稿ではデッドタイムがコモンモードノイズ抑制効果へ及ぼす影響について実機検証を行ったので，その結果について報告する。

5-106

電圧制限RSPWMによるコモンモードノイズ低減の実機検証

◎小林勇斗・大石 潔・横倉勇希（長岡技術科学大学）・荒木雄志・柏原辰樹・小林孝次（サンデン）

電動コンプレッサのコモンモードノイズ抑制法である電圧制限RSPWMの実機検証を行う。結果，従来の2相変調と比べコモンモードノイズを10dBμVほど低減し，従来のRSPWMと比べ運転領域が拡大することを確認した。

5-107

Torque Ripple and Radial Force Ripple Suppression in Vector Controlled Switched Reluctance Motors

◎Heng Yuan・清田恭平（東京工業大学）

In recent years, the field of electric vehicles is developing rapidly, and permanent magnet motors are widely used in electric vehicles. The switched reluctance motor does not require rare earth materials and also has the advantages of high reliability and high heat resistance, so it has the ability to be used in electric vehicles. However, switched reluctance motors have the disadvantages of high torque ripple and high noise. Torque ripple is one of the main sources of noise and vibration. This paper verifies the use of vector control to reduce torque ripple and radial force ripple.

5-108

トルクリプル及びラジアル力リプルを考慮したベクトル制御型SRMの電流波形の一考察

◎矢野身太郎・清田恭平（東京工業大学）

近年レアアースフリーなスイッチトリラクタンスモータに注目が集まっていが，振動騒音の増大や制御が困難といった問題を抱え，普及への大きな障害となっている。そこで本稿では振動騒音の原因であるトルク及びラジアル力のリプルを同時に低減する手法を理論的な数値計算によって確立した。また，理論的な考察において制御簡易化のため，他のモータでは汎用制御であるベクトル制御をスイッチトリラクタンスモータにも導入して調査したのでその内容を報告する。

5-109

インバータの制御遅れを考慮した離散モデルに基づくACサーボモータのベクトル制御

◎島本陽太・吉岡 崇・田中大翔・漆原史朗（香川高等専門学校）

工作機械やロボットアームなどの製造設備の生産性を向上させるため，ACサーボモータには制御帯域の向上が常に求められている。一般に，ACサーボモータの制御系にはベクトル制御が用いられ，PWMインバータを制御しACサーボモータを駆動する。しかし，インバータを用いてPWMを生成する場合，PWM生成機構におけるハードウェア上の制約から1制御周期だけ遅れて実際の電圧が出力される。本稿では，ACサーボモータの離散モデルを構築し，インバータの制御遅れを状態変数とみなし，離散状態フィードバックとする手法を提案する。この提案法を用いたベクトル制御系での電流制御シミュレーションを行い，提案法の有効性を確認した。

5-110

PMASynRMのクロスサチュレーションの影響を考慮した全速度領域における電流ベクトル制御法

◎宮本将弥・森本茂雄・井上征則・真田雅之（大阪公立大学）・吉田 誠（スマック）

永久磁石補助型シンクロナスリラクタンスモータ（PMASynRM）の高性能なベクトル制御には，モータパラメータに基づき，適切な電流ベクトルを選択する必要がある。しかし，インダクタンスは磁気飽和によるクロスサチュレーションの影響を受け，d，q軸電流に依存して変動する。パラメータを正確に把握する方法として，逐次最小二乗法を用いたオンラインパラメータ同定がある。 本研究では，パラメータ同定結果から，クロスサチュレーションの影響を考慮したインダクタンスモデルを作成する。そして，そのモデルを用いた電流ベクトル制御システムを構築し，シミュレーションにて制御特性を確認する。

5-111

埋込型永久磁石同期モータの最大トルク制御におけるトルク線形化法

◎林 大晟・岩路善尚（茨城大学）

リラクタンストルクを利用できる埋込型永久磁石同期モータにおいて，最大トルク条件で，かつ，トルクを線形化するには，予め取得したテーブルデータが必要であった。また，テーブルデータを用いない従来のトルク最大化制御では，生成された電流指令をそのまま使用すると線形性が無くなり，トルク指令と実トルクがずれてしまう問題があった。本稿では，d軸電流指令とq軸電流指令からトルク式を用いてトルク推定を行い，得られた推定トルクとトルク指令との偏差を積分制御を用いてゼロにするトルク線形化手法を考案し，シミュレーションによりその優位性を示す。

5-112

トルクマップの勾配に基づく非線形モータの仮想空間モデル

○大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

本研究ではトルクマップの勾配に基づいて，非線形モータのトルク制御性能を向上させるモデリング手法について提案する。トルクマップは電流に対するトルクを図示した二次元のデータ空間である。そのトルクマップの勾配（gradient）を基準として基底ベクトルを定義し，座標変換を行うことで，電流空間・電圧空間それぞれにおける最大トルク制御座標系（f-t軸）を導くことができる。この座標系を用いることで，複雑なトルク特性を持った非線形モータの最大トルク/電流制御や電圧飽和時の最大トルク応答制御を容易に行うことができる。

5-113

誘導モータにおけるT-I形等価回路に基づいた適応スライディングオブザーバによる漏れインダクタンスのオンライン同定

◎野村柚衣子・ハオロンジャオ・道木慎二（名古屋大学）・古川智康・簑島紀元・名和政道（豊田自動織機）

本研究では，T-I形等価回路に基づく適応スライディングオブザーバを用いた誘導モータの漏れインダクタンスのオンライン同定を提案する。T-I形等価回路は4つのパラメータを有し，従来用いられてきたT形等価回路の諸量を一次側に換算したモデルと解釈可能である。先行研究では，T-I形等価回路に基づくスライディングオブザーバを利用することで，有負荷条件下における全パラメータのオンライン同定が可能であることが提案された。これまでの研究で，二次時定数と相互インダクタンスの同定については，実機での評価がされている。そこで，本研究では漏れインダクタンスのオンライン同定を提案し，シミュレーションにより有効性を確認した。

5-114

モータパラメータの条件付き最適化によるPMモータ磁石温度推定

◎安部義隆・滝口昌司・野村昌克・漆畑正太（明電舎）

PMモータにおける回転子の磁石の温度変化は，トルク制御の精度低下，不可逆減磁などの問題を招く。磁石温度の直接の計測は困難であるため，その推定が重要な課題である。従来手法の多くはパラメータ同定用の高調波の入力を必要とするが，音・振動，損失の増加などの問題がある。 そこで本論文では，高調波を重畳せずに各パラメータを導出する手法として，条件付き最適化を用いる。本提案手法では，まず予め幅広い運転条件で磁石温度と運転データをセットで取得し，最も高精度に温度を推定するパラメータを条件付き最適化により算出する。そして運用時にはこの算出したパラメータを用いて，磁石温度を推定する。実機検証により妥当性を確認した。

5-115

三相PWMパルスの合成ベクトルを用いた10MHzマルチサンプリングデッドビート制御によるPMSM実時間パラメータ推定法の一考察

◎張 嘯晗・廣惠大輔・吉本貫太郎・横山智紀（東京電機大学）

PMSMドライブシステムの応答性を向上させる手法として，短時間で複雑な制御演算を実行するアプローチがある。先行研究では，外乱補償型10MHzマルチサンプリングデッドビート制御を適応したPMSMドライブシステムにおいて，制御系のロバスト性が大幅に広がることが確認されている。この結果を踏まえて，モータ一回転の間のPWMインバータの出力波形をリアルタイムで分析して，パラメータの状態を推定することを検討する。推定したパラメータを制御ゲインに反映することで，モータのパラメータが変動した場合でも，DC-MSDB制御のゲインをノミナルパラメータに修正することが可能となり，常に安定した制御が可能となる。

5-116

植物油への流動点降下剤添加による影響の検討

◎久住政喜・山中 功・河原林威一郎・西川精一（かんでんエンジニアリング）・徳永邦彦（日清オイリオグループ）

植物油系絶縁油には流動点を十分に確保するために流動点降下剤が添加されている。しかし，植物油系絶縁油を長期間冷却視した場合，流動点よりも高い環境（-15℃～-5℃）においても凝固するといった報告があり，流動点と融点には差があることが分かっている。そこで本研究では各種植物油への流動点降下剤添加効果に関して調査・検討した結果を報告する。

5-117

77kV以下菜種油入変圧器の保守管理基準検討

◎佐々木星斗・貞廣光紀・武田康一（関西電力送配電）・西川精一・山越正徳・笠岡 誠・山中 功（かんでんエンジニアリング）・東海昌司・武田 学（ダイヘン）

近年，環境負荷低減や二酸化炭素排出量削減への対応から，エステル系絶縁油を使用した変圧器が注目されている。エステル系絶縁油に分類される天然エステルは，非常に高い環境性を有しており，引火点が高く防災性に優れるといった特長を持つ。しかし，鉱油に比べ動粘度や吸湿性が高いといった課題もあり，国内での使用実績が少ないのが実情である。また，性状が鉱油とは異なるため，別途保守管理基準を設ける必要があるが，天然エステルを使用した変圧器は運転年数も短いことから保守管理基準の策定には至っていない。 そこで本研究では，絶縁油としての特性から菜種油入変圧器の判定基準を整理し，保守管理基準について検討したため報告する。

5-118

耐熱絶縁紙の熱劣化診断に関する基礎検討

○宮嵜 悟・水谷嘉伸（電力中央研究所）

電力用油入変圧器の寿命は，絶縁紙が熱劣化して機械強度（引張強さ）が低下し，外部短絡時に発生する電磁機械力で破損する可能性が高まった状態とされている。絶縁紙のうち耐熱紙は，クラフト紙（普通紙）にアミン化合物を添加し耐熱性を付与したものであり，これを用いることで，変圧器の長寿命化や温度上昇格上げによるコンパクト化，増容量化が期待できる。しかしその劣化診断手法は確立されていない。本報告では，耐熱紙の熱劣化診断に関する基礎検討として耐熱紙を油中で熱加速劣化させ，平均重合度残率と引張強さ残率の関係，平均重合度半減時間の温度依存性，フルフラールに代わる劣化指標として着目されている油中溶存メタノール濃度について検討した結果を報告する。

5-119

耐熱絶縁紙を適用した変圧器の寿命評価手法

○水谷嘉伸・宮嵜 悟（電力中央研究所）

電力用油入変圧器の寿命は，絶縁紙が熱劣化して機械的強度（引張強さ）が低下し，外部短絡時に発生する電磁機械力で破損する可能性が高まった状態とされている。近年では，変圧器の長寿命化や温度上昇格上げによるコンパクト化，増容量化を行うため，巻線絶縁紙としてクラフト紙（普通紙）にアミン化合物を添加して耐熱性を付与した耐熱紙を適用した変圧器が使用されつつある。しかし，耐熱紙を適用した場合の寿命延伸効果を定量評価した例は見当たらない。そこで，普通紙と耐熱紙の熱劣化特性の報告に基づき，耐熱紙を適用した場合のその効果を評価した。

5-120

環境配慮型の変圧器用絶縁油の火炎伝播速度

○上矢恭子・齋藤悠稀・野田啓友（公立諏訪東京理科大学）・本間大成・三坂英樹・宮嵜 悟（電力中央研究所）

2050年カーボンニュートラル実現の要請から，植物油を使用した変圧器の導入の検討が進められている。変圧器用絶縁油に植物油を使用するにあたり，燃焼性（難燃性）を明確にし，現在使用されている鉱油と比較し，火災安全性評価を行う。実験は，JIS C 2101の燃焼性試験を行い，鉱油，植物油等5種類の油を対象とした。その結果，伝播速度は，鉱油が最も早くなり，次にパームヤシ脂肪酸エステル油，合成エステル油の順で，菜種油と大豆油の値はほとんど同じであった。菜種油と大豆油は，鉱油の約1/3程度の伝播速度となった。

5-121

安定巻線内の循環電流を用いた巻線故障検出

◎小宮昂樹・北 尊仁・中嶋 高・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

系統に接続されている電力用変圧器には鉄心の励磁特性に起因する高調波電流を還流させるためにデルタ巻線が含まれることが多い。筆者らは循環電流を観測し，循環電流の異常検知後にFRAによる故障診断というサイクルの確立を検討している。本論文では，三相三脚巻鉄心変圧器を用いて，高電圧側巻線間に数種類の抵抗を用いた短絡故障を模擬し，その時の安定巻線内の循環電流の変化について検討した結果を報告した。結果は，抵抗値が減少すると，一次側中性点接地，二次側中性点接地の両方において安定巻線内の循環電流の波高値が増加する。すなわち短絡故障の重度化に伴い循環電流が変化することを確認した。

5-122

油入ブッシングの診断技術確立に向けた実験モデルの検討

○鬼頭 豊・勅使川原俊和・前川俊浩（東京電力ホールディングス）

油入ブッシングの故障率が国内より高いなどの背景から海外では，オンライン部分放電診断装置の開発・発売がされている。国内においても経年ブッシングが増加傾向であり常時監視ニーズが求められることも考えられる。現場適用に向けた診断基準の策定を行うため，実放電モデル作成にむけ，海外製の油浸紙コンデンサブッシングの絶縁体に穴をあけて異常模擬を行いAC課電，部分放電測定を実施した。結果の一例として直径1.5mm，深さ12mmをあけてAC90kVを印加した場合，1サイクル（20msec）で8回の放電が確認でき，1回あたりの放電電荷量は約1,000pCであった。

5-123

コンデンサ形計器用変圧器におけるアルミ箔/油浸紙複合絶縁系の部分放電特性

◎林 恭平・永木雄也・小島寛樹（名古屋大学）・吉田昌展（中部電力）・早川直樹（名古屋大学）

変電所のコンデンサ形計器用変圧器（CVT）は30年以上使用され，経年によりコンデンサ内部の油浸紙の絶縁性能低下が報告されている。そのため，筆者らは，CVTの部分放電（PD）測定に基づく絶縁診断技術について検討している。本稿では，CVTの油浸紙コンデンサの基礎的なモデルとして，平板型および円筒型のアルミ箔/油浸紙複合絶縁系を構成し，一定電圧下におけるPD特性の時間推移を取得し，絶縁破壊（BD）に至るPD進展様相を考察した。先行研究の結果からPD進展を3つのPeriodに分類した。中でも10000pCを超えるPDが発生するPeriod 3のPDにおいてPD平均電荷量が飽和傾向を示し，その後BDする結果が得られた。従ってPeriod 3のPDがCVTの絶縁診断指標となる可能性が示唆される。

5-124

絶縁上の欠陥を有するエポキシモールド試験体の電磁波放射頻度に関する比較検討

○太田 聡・池田遼平（鉄道総合技術研究所）

エポキシモールドされた電機子コイルなど高電圧下で使用される機器において，絶縁上の欠陥箇所において部分放電が発生する場合がある。部分放電は直ちに機器の運用に悪影響を及ぼす現象ではないが，継続することで機器の損傷を招く場合があり，早期の検知と対処が必要である。部分放電は種々の物理現象を伴って現れることが知られており，筆者らはそのうち特に電磁波に着目した検査手法について研究開発を行っている。機器内部で発生した部分放電は空中を電磁波で伝播するため，電磁波を検出することで既存の部分放電測定器によらない検査が可能となる。筆者らはこの検査手法によって得られた電磁波の信号強度と既存の測定機による部分放電電荷量の測定値に一定の相関があることを示している。本稿では，電磁波の信号強度に追加した評価指標として，発生頻度について検討と試験を実施した詳細を述べる。

5-125

変圧器の油中ガス分析による要注意判定時の対応方法

○江藤計介・北崎友議（出光興産）

変圧器で内部故障によるトラブルが発生した場合，その復旧には長期間を要し経営に大きな影響を与えることになる。このために保守管理として，健全性確認のため絶縁油試験と油中ガス分析を実施し，その健全性を確認している。本稿では要注意Ⅰレベルと判定とされた場合について，弊社における過去の不具合事例のデーターベースから判定し，健全な変圧器と同様な分析間隔に戻して管理することができる新しい方法を提案する。

5-126

電子式変成器の開発（その1）

◎影山達也・大脇大輝・澁谷大輔・吉村隆志・大木秀人・竹内雅靖（日新電機）

近年，ディジタル変電所として電圧・電流情報をディジタル信号化して，計測・保護・監視制御に使うシステムが検討されている。 2次側出力で大きな電力出力が必要だった従来の鉄心を有する計器用変圧器（VT），変流器（CT）に比べ，電圧・電流情報をディジタル化することにより変換部をコンパクトにすることが可能な電子式変成器について開発を行った。

5-127

電子式変成器の開発（その2）

◎大脇大輝・影山達也・澁谷大輔・吉村隆志・大木秀人・竹内雅靖（日新電機）

近年，ディジタル変電所として電圧・電流情報をディジタル信号化して，計測・保護・監視制御に使うシステムが検討されている。その1で報告している電圧・電流センサの出力に対し補正，積分，ディジタル変換，通信処理（IEC61850, IEC61869）を実施するMU（Merging Unit）が必要である。本稿では上記の機能を有するMUについて報告する。

5-128

変圧器用コンパクトブッシングのJEAG 5003-2019に基づく耐震性能について

○森下敬太・酒井啓資・田中直樹・辻 和宏（日本ガイシ）

変圧器用コンパクトブッシング（69kV～550kV）について，最新の国内変電所耐震設計指針（JEAG 5003）適合性について耐震解析を行い評価した。 その結果，287.5kV以下は高レベル地震動においても安全率1以上を確認した。本ブッシングを採用すれば東北地方太平洋沖地震において顕在化した継続漏油対策も可能である。 550kVについては高レベル地震動では安全率1を下回るため，当該仕様が要求される地域においては，地盤・基礎・変圧器連成系において高剛性化を図るなど，ブッシングに印加される地震加速度の軽減が必要である。

5-129

油入変圧器の騒音抑制に向けた統計的エネルギー解析法の実機検証

◎平島賢治・大野和彦（富士電機）

環境調和の観点から，変圧器への低騒音化の要求は厳しさを増している。変圧器の騒音は鉄心の電磁振動に由来するタンク表面の振動が一因となり，電源周波数fに対して2f，4f，6f，…等の高周波成分を含む為，要素分割の影響をうける有限要素法での解析では振動騒音対策は困難となっている。そこで，本報では広い周波数帯域での解析に適した統計的エネルギー解析法（SEA法）を用いて振動伝搬解析を行い，実機との比較検証を実施した。 本報では油入変圧器のタンクを検証対象とし，タンク表面の中央部分に対して打撃試験と解析結果を比較した。結果，SEA法は主に騒音が生じる周波数帯域において実測の周波数特性を凡そ再現した。

5-130

励磁曲線サンプルを用いたETAPシミュレーション

◎寺師康平・迫田達也（宮崎大学）・亀澤朋将（興電舎）

変圧器課電直後に発生する励磁突入電流は，系統や近傍負荷に電圧低下や電流歪などの障害をもたらす現象である。同現象の対策の一つとして，変圧器励磁突入電流抑制装置の採用が挙げられる。 本報では，電力系統解析ソフトETAPを用いてシミュレーションを行い，励磁突入電流現象解析におけるETAPの有用性について検証した結果を述べる。

5-131

深層学習によるマイクロストリップラインのトポロジー最適化の基礎検討

◎地引琢人（北海道大学）・川崎 健・田能村昌宏（住友電気工業）・五十嵐 一（北海道大学）

本報告では深層学習を用いたマイクロストリップラインのトポロジー最適化の基礎検討として，周波数特性を予測する畳み込みニューラルネットワーク（CNN）の精度について議論する。CNNの学習は，電磁界解析と進化計算を組み合わせたトポロジー最適化の過程で得られたデータをもとに行う。学習済みモデルにテストデータを入力した結果，データセットの多くの割合を占めている最適化結果の形状に近い形状に対しては高い精度で予測ができており，そのような形状とは異なる形状に対してもある程度の精度で予測が可能なことが確認されている。発表時には形状表現の分解能と予測精度の関係，および学習済みモデルを用いたトポロジー最適化について報告する。

5-132

Simulation of Wireless Power Transfer using Cauer Equivalent Circuit Identified from Input Impedance

◎劉 橋・龔 云羿・五十嵐 一（北海道大学）

In this paper, we propose a Cauer equivalent circuit to represent the whole WPT model. The Cauer circuit is synthesized from the simulated or measured input impedance. By representing a WPT device with a Cauer circuit, one can perform fast simulations both in frequency and time domain. It will be shown that the current and copper loss computed by the proposed method agree well with the results simulated from FEM.

5-133

無絶縁REBCOパンケーキコイルにおける局所劣化の検出方法

◎大石崇史・結城拓真・石山敦士（早稲田大学）

高磁場MRIや次世代医療用加速器をターゲットとした高温超電導コイルシステムでは，高熱的安定化と高電流密度化が二律背反の関係となる。この問題を解決するため，我々は電気絶縁を施さないREBCO超電導線を巻線した無絶縁コイル（NIコイル）に着目した。熱的安定性の高いNIコイルでは，局所劣化が発生した場合においても継続して運転できる可能性が示されている。しかし，絶縁コイルに比べて複雑な電磁現象が起きるNIコイルでは局所劣化の検出法は現在確立されておらず，コイルの健全性をモニタリングする技術は未確立である。本研究ではNIシングルパンケーキコイルにおいて，両端電圧とピックアップコイルを用いた劣化検出方法の有効性について議論する。

5-134

無絶縁REBCOコイルのためのコイル保護法に関する検討

◎日浦琢言・寺内 和・石山敦士・濱田一希・長渕大河・結城拓真（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）・渡部智則・長屋重夫（中部電力）

高磁場MRIや次世代医療用加速器への応用を目的として高温超電導コイルシステムの開発に取り組んでいる。高熱的安定化と高電流密度化を両立する手段として，無絶縁（NI）コイルを研究している。現在，NIコイルの応用・開発が進められている中，劣化・欠陥あるいは常電導転移時における信頼の高いコイル保護技術はまだ確立されていない。本研究では，従来の外部保護抵抗による蓄積エネルギーの回収を，NIコイル巻線内の層間電気抵抗が担う方法の可能性・有効性について検討している[1]。今回は，上記応用を想定してNI-REBCOパンケーキコイル巻線内に局所劣化が発生し，コイル両端を開放したとしたときの巻線内の電流・発熱・温度分布の時間変化を数値解析に基づき評価・検討を行ったので報告する。参考文献[1] T.Oki, et al.: IEEE Trans. Appl. Supercond. , Vol.26（2016）7429748

5-135

銅テープ共巻きコイルショート法を用いたHTSコイルクエンチ保護特性の銅テープ厚さ依存性

◎中原丈瑠・島田涼平・園田翔梧・高尾智明・中村一也（上智大学）・塚本修巳（横浜国立大学）・古瀬充穂（産業技術総合研究所）

一般的に用いられているHTSコイルのクエンチ保護法にDetect&Dump法がある。この方法を大型のHTSコイルに適用するにあたって問題がある。大型のコイルでは大きな誘導電圧で微小な抵抗電圧を検出する必要がある。また，コイル保護のために急速な蓄積エネルギーの放出が必要であるが，急速なエネルギー放出はコイルの耐電圧で制限がある。我々はこのような問題を解決するために，HTS線に銅テープを共巻きしたコイルを用いる方法を提案している。本稿では，本方法を用いたときのホットスポット温度特性を模擬実験により調べ，その有効性を確認するとともに，共巻きする銅テープの厚みのクエンチ保護特性への影響を検討した。

5-136

積層無絶縁REBCOコイルにおける遮蔽電流磁場低減のための通電波形

◎吉藤夢来・日比祐太・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は，無絶縁REBCOコイルの開発に関する研究を行っている。REBCO線材は，形状に由来して発生する不整磁場が磁場精度を乱す。無絶縁巻線技術を適用すると，励磁遅れが発生する。磁場精度を悪化させる両者への対策として，先行研究ではオーバーシュート法やプラトーゾーン導入などの手法が提案されている。 本研究では，プラトーゾーン時間が磁場に与える影響を調査した。磁場への影響は，コイル中心の残留磁場および時間安定度を評価基準とした。残留磁場はプラトーゾーン100000sでピークをとった後に悪化しており，時間安定度はプラトーゾーン100000s~1000000sでは飽和していることが分かり，プラトー時間に対する両者の挙動が異なることが確認できた。

5-137

高温超電導バルク材料の着磁過程における磁束密度分布

◎川澄 渚・今道颯人・土屋美月・Antomne Caunes・井田徹哉（東京海洋大学）

超電導回転機の界磁極に高温超電導バルク材料を用いる際，着磁による強磁場捕捉の良否が課題となるため，高温超電導バルク材料表面の侵入磁束密度分布を評価することが望ましい。そこで我々は高温超電導バルク材料の捕捉磁場特性を評価するために着磁の間にみられる過渡的な磁束密度分布変化を連続的に捉えることの可能な二次元磁場センサを開発した。この磁場センサはパルス磁場の印加に伴うごく短時間の測定から静磁場の印加に伴う長時間に渡るバルク材料表面の磁束密度分布までを測定することができる。講演ではこの磁場センサを用いて測定したø60のGdBCO高温超電導バルク材料に対する静磁場着磁における磁束密度分布の変化について示す。

5-138

侵入磁場を元に波形を制御した単一パルス磁場による高温超電導バルク材の着磁技術

○井田徹哉・今道颯人・土屋美月・Antomne Caunes・川澄 渚（東京海洋大学）・和泉 充（鳥羽商船高等専門学校）

回転機の界磁極に高温超電導バルク磁石を使用する場合，技術的制約からバルク材を組み込んだ後に着磁を行う必要があり，静磁場ではなくパルス磁場を用いることが望ましい。界磁極は複数あるため個々のバルク材に対する着磁の試行回数を最小限に留めるべきである。波形制御パルス着磁法はバルク材の質，形状に関わらず捕捉磁場特性を向上させる手法である。我々はフラックスジャンプを生じることによる超電導バルク材料の磁気的挙動の変化に関わらず強磁場捕捉を行うパルス着磁法として，パルス着磁の間にバルク材へ侵入する磁場を制御入力とした，負帰還波形制御パルス着磁法を開発し，パルス磁場によって静磁場着磁並の捕捉磁束密度を達成した。

5-139

REBCOバルク体のJ_cの不均一性を考慮したパルス着磁特性の解析

○横山和哉・Cong Yu・Regobert Tendongafac・Jiahao Shang（足利大学）・岡 徹雄（芝浦工業大学）

REBCOバルク磁石の実用化において，捕捉磁場の向上と同時に着磁の簡便化が重要な課題である。これまでに，バルク体に細孔を加工したり，パルス着磁の際に用いる軟鉄ヨークを工夫する手法を提案し，それらが着磁特性に及ぼす影響を実験的に検討してきた。現在，本研究室のバルク磁石装置に基づく三次元解析モデルを作成して簡単な数値解析を行っている。本文は，さらに実モデルに近づけるために，バルク体のGSBとGSRにおけるJ_c特性の違いを考慮したモデルを作成して，詳細な解析を行う。

5-140

双方向分割回路型解析手法を用いた無絶縁コイルの遮蔽電流磁場解析

◎島田亜緒・小久保早希・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）

無絶縁REBCO超電導コイル（NIコイル）は医療用加速器や高磁場MRIへの導入に向けて研究が行われてきた。実現には時間的・空間的に高い磁場精度が求められるが，無絶縁REBCOコイルはテープ形状であるため，磁場変動に伴って誘導される遮蔽電流が超電導層に流れることで磁場精度が悪化してしまう。また，無絶縁であることで周方向だけでなく径方向にも入力電流が流れて励磁遅れが生じるため，我々は励磁遅れを考慮した遮蔽電流解析を開発してきた。今回は，無絶縁REBCOコイルの励磁遅れと遮蔽電流磁場の両現象を考慮した双方向分割回路型解析法を開発し，実験との比較・評価を行ったので報告する。

5-141

「スケルトン・サイクロトロン」用REBCOコイルシステムの開発：小型実証REBCOコイルシステムの製作

◎折原菜月・熊谷 塁・糸日谷浩平・小久保早希・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）・福田光宏（大阪大学）

近年，進行がんの治療法としてα線核医学治療が注目されている。我々が提案するα線放出211Atは短飛程であり，がん細胞のみを攻撃できる。しかし，半減期が7.2時間と短いため，近隣での生産が求められる。そこで我々は，211Atの安定供給に向け，超小型で高強度な加速器である「高温超電導スケルトン・サイクロトロン（HTS-SC）」の開発を目指している。HTS-SCは，無鉄心で必要となる高精度磁場を形成し，出力エネルギーが可変であるという特徴がある。その小型実証用モデルとして，1/2サイズのUltra-Baby-Skeleton-Cyclotron（UBSC）用REBCOコイルシステムを設計・製作した。UBSCでも実機HTS-SCと同様に，出力エネルギーと通電電流について3段階の運転の可能性を検証していく。今回はUBSCにおいて，冷却・通電試験を行ったのでその結果を報告する。

5-142

NbTi超電導線における縦磁場効果の磁場角度依存性

○横山彰一・小湊健太郎・石田 清・村上幸伸（ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー）

超電導線材における縦磁場効果は，超電導線材が外部磁場と並行の場合，臨界電流Icが垂直磁場での値に比べ大きくなるもので，ある磁場領域ではゼロ磁場におけるIcよりも大きい値となることが知られている。一般的な超電導マグネットにおいて，超電導コイルの取り出しリード部は擾乱が発生しやすいため安定化に工夫が必要である。本報告では，このリード部の超電導安定化に縦磁界効果を利用することを提案し，NbTi線の縦磁場効果の磁場角度依存性の測定結果を元にコイルリード部の超電導安定性を評価したことについて報告する。

5-143

航空機用Bi2223積層導体の曲げ／ねじり時の臨界電流

◎川合修平・田口歩夢・神田昌枝・山口作太郎（中部大学）

近年，航空機の電気・電動化（MEA）が進み，銅ケーブルに代わる軽量で大電流が通電できる新しいケーブルが求められている。このため，Bi2223超伝導テープ線材を用いて積層導体を試作した。これは，積層構造によりテープ線材の自己磁場を下げ臨界電流の向上が期待される。実際の応用では配線のため曲げ部が必要になり，磁場分布が変わるため，臨界電流も変化すると思われる。尚，積層構造のため，テープ面に垂直方向は曲げやすいが，平行方向は曲げ難いため，一度ねじってから曲げることも必要になり，曲げ部やねじり部による臨界電流測定及び線材表面の磁場測定を行った。その結果，曲げ，ねじり配置においてもBi2223積層導体の臨界電流の向上が確認された。

5-144

超伝導線材の短絡電流特性及び破壊試験

◎江口実穂・川合修平・Yury Ivanov・神田昌枝・山口作太郎（中部大学）

電力ケーブルでは短絡電流事故を想定する必要があり，特に電流密度が高い超伝導ケーブルでは，保護条件が厳しくなることが想定される。そこで，超伝導線材の短絡電流特性を把握するため，大電流発生回路を用いて，Bi2223（Cu）とRE123の2種類の超伝導テープ線材に大電流パルス通電を行った。その結果Bi2223（Cu）ではI_c（臨界電流）の10倍程度では劣化の可能性が低いが，20倍程度までは劣化の可能性があるが焼損破損は起こらなかった。RE123は，I_p=2.19kAで劣化の可能性があるが破損には至らず，I_p=2.37kAでは発火を伴う焼損があった。この時，強く発光し，銅がイオン化されていると思われる。現在，事故シナリオと合わせて，超伝導ケーブル開発の基礎データとして蓄積中である。

5-145

液体窒素温度以下での単結晶サファイアの歪応力測定

◎山本実奈・神田昌枝・山口作太郎（中部大学）・岩田暢祐・羽田 肇・鯉沼秀臣（SCT社）・川嶋一裕（信光社）

単結晶サファイアは，液体窒素温度以下では，銅より熱伝導率が高いため，低温での幅広い応用が想定される。今回，単結晶サファイアの低温での歪応力測定を行い，ヤング率（縦弾性係数）を求めた。従来，歪ゲージは，材料や測定温度で使い分けて来た。このため，数多くの歪ゲージが必要とされた。そこで，4端子計測法を用いることで使い分けの必要性の確認と同時に新しい計測方法の開発につなげることが目的である。4端子計測法では歪ゲージ抵抗の精密測定が可能であり，スラッシュ窒素温度までの測定方全体の再評価が可能であると考えたからである。本研究より，歪ゲージの使い分けが4端子計測法では必ずしも必要ではないと思われる。

5-146

機械学習画像解析を導入したリール式高速磁気顕微鏡観察による長尺REBCO高温超伝導線材内の局所欠陥ドメインの自動検出

○木須隆暢・Natthawirot Somjaijaroen・呉 澤宇・今村和孝・寺﨑拓也・東川甲平（九州大学）

著者らは先行研究において，RECBO高温超伝導線材のテープ面に存在する局所的な不均一性を，高速走査Hallプローブ磁気顕微鏡を用いて非破壊的に検出できることを報告した。しかし，数100mの実用長尺線材に適用する場合，数1000枚以上の磁気画像の解析が必要となり，観察画像の自動解析法を確立することが不可欠である。本研究では，磁気顕微鏡から得られた磁化電流画像に対して機械学習を用いた画像診断を導入し，従来の局所臨界電流Icによる基準では検知できない欠陥の自動検出に成功した。

5-147

回転磁界下における交流電流通電時のMgB₂超電導コイルの交流損失

◎中村大翔・寺尾 悠・奥村皐月・淵野修一朗・大崎博之（東京大学）

In this paper, we measure AC loss of MgB₂ superconducting coil with alternating current in a rotating magnetic field via measurement system we proposed previously. An AC loss measurement system operates as a generator to apply alternating current. Measurement is conducted at 40-60 Hz, 20 K in this time. Then, magnetic flux density distribution is estimated to analyze coil current influence via FEM analysis. Consequently, there is no frequency dependence of magnetic flux density distribution by that occurred by coil current and measurement results and theoretical values are well agreed among 40-60 Hz.

5-148

MgB₂ラザフォード導体短尺試験のための断熱二重容器の製作

◎林 知直・林 大吉・許 航・野村新一（明治大学）・仁田旦三（東京大学）・新冨孝和（高エネルギー加速器研究機構）・平野直樹（核融合科学研究所）

著者らは，電力系統の固有値測定を目的とした1MJ級可搬型超電導磁気エネルギー貯蔵（SMES）装置の可能性研究を行っている。超電導コイルの軽量化を目的に電磁力を大幅に低減させたヘリカル巻線形状の電磁力平衡コイル（FBC）を適用し，MgB₂ラザフォード導体を用いた冷凍機冷却FBCの可能性を検討している。コイル製作はReact & Wind（R&W）方式を想定しているが，複雑なヘリカル巻線形状によってMgB2ラザフォード導体に印加されるひずみにより臨界電流特性を大幅に低下させることが懸念される。このため，著者らはR&W方式によるFBC製作の実現性を検証することを目的にMgB₂素線のひずみ解析を行い，FBC巻線で想定される曲げひずみを印加させたMgB₂ラザフォード導体の短尺試験を計画している。本発表では，MgB₂ラザフォード導体短尺試験のための断熱二重容器の製作状況について報告する。

5-149

1MJ級電磁力平衡ヘリカルコイル用MgB₂ラザフォード導体の設計条件

◎許 航・野村新一（明治大学）・谷貝 剛（上智大学）・新冨孝和（KEK）・平野直樹（NIFS）・仁田旦三（東京大学）

本研究では，MgB₂ラザフォード導体を用いた1MJ級SMES用電磁力平衡ヘリカルコイル（FBC: force-balanced coil）製作の可能性を検討している。MgB₂超電導線を大電流容量化するため，ラザフォード導体を候補として考えている。しかし，ヘリカルコイルの巻線形状が複雑なため，MgB₂ラザフォード導体素線に印加される曲げひずみによって臨界電流の低下が懸念される。一方，1MJ級FBCの体積が大きいため，導体を熱処理した後で巻線するReact & Wind（R&W）方式で製作しなければならない。したがって，MgB₂素線の曲げひずみを許容値以下に制限するため，R&W方式でFBCを製作する時に，MgB₂ラザフォード導体の設計条件を事前に把握する必要がある。本発表では，二種類のラザフォード導体サンプルで1MJ級FBCを製作する時に，MgB₂素線に印加される曲げひずみの解析結果を報告する。そして，R&W方式でFBCを製作する時に，ラザフォード導体の撚りピッチと熱処理用円形ボビンの半径という二つの設計条件を確認する。

5-150

高温超電導電磁力平衡ヘリカルコイル用巻線機の小型試作機開発

◎保科真悠子・許 航・鎌田太陽・野村新一（明治大学）・仁田旦三（東京大学）・新冨孝和（高エネルギー加速器研究機構）・平野直樹（核融合科学研究所）

著者らは，電力系統の固有値測定を目的とした可搬型超電導磁気エネルギー貯蔵（SMES）装置の可能性研究を行っている。ヘリカル巻線形状の電磁力平衡コイル（FBC）は，電磁力を大幅に低減させSMESコイルの軽量化が期待される。そこで，著者らはREBCO線材に対応したヘリカル巻線機の小型試作機開発を進め，FBC製作の実現性を検討している。図1は，線材幅5mmのREBCO線材を用いた1T級電磁力平衡ヘリカルコイルの概形図を示している。濃い巻線は1組のヘリカル巻線を示しており，ヘリカル巻数6（トロイダル方向に1周する間にポロイダル方向に6ターン）でREBCO線材を13層巻く構成となっている。開発を進めている巻線機の小型試作機は，オープンループ制御で動作させているため，連続巻きに十分な対応ができていない。本報告では，REBCO線材収納用ボビンの安定性を向上させ，巻線機のゼロ点ならびに巻線位置の検出と補正方法に関する改良状況について報告する。

5-151

JT-60SA EFコイルの過渡応答が引き起こす導体間電圧の評価

◎小林倫香・園田翔梧・結縄ことみ・中村一也（上智大学）・村上陽之・濱田一弥・畠山昭一・島田勝弘（量子科学技術研究開発機構）

JT-60SAの超電導コイルの一部である平衡磁場（EF）コイルの電源はシステムの影響により電圧変動が生じている。この電源がEFコイルに印加した際，過渡応答によりコイル内の電圧分布が不均一になる。結果，この電圧は絶縁材の耐電圧を超え，コイルの損傷を招く可能性がある。本研究では，EFダミーコイルを用いて共振特性試験を行った。また，試験結果を基にEF6コイル，常温ブスパー及び超電導フィーダ，構造物を含むEF6コイル全体の解析モデルを作成し，過渡応答による導体間電圧の影響について調査した。解析の結果，実機運転では層間の導体間電圧は絶縁材の定格電圧を下回り，過渡応答が導体間電圧に与える影響は小さいことが示された。

5-152

エネルギー貯蔵機能を有する超伝導ケーブルを用いたマイクログリッドの需給バランス調整

○東川甲平・辺 文浩・井手暁仁・木須隆暢（九州大学）

再生可能エネルギーの主力電源化にはその出力変動補償の成否が鍵となっており，我々はその解決策として，エネルギー貯蔵機能を有する超伝導ケーブル（SMESケーブル）の開発を行っている。これまでに，同ケーブルの概念設計や小型モデルケーブルを用いたハードウェア閉ループ試験による機能検証を行ってきた。本発表では，それらの結果を踏まえ，SMESケーブルが将来のマイクログリッドに与える効果について，需給バランス調整機能の観点から行った検討を報告する。

5-153

超電導誘導機を用いたフライホイール式無停電電源装置の実験及び解析による検討

◎高橋佑輔・九鬼翔太・園田翔梧・高尾智明・中村一也（上智大学）・塚本修巳（横浜国立大学）

二次巻線超伝導型誘導機（SIM）は回転子の永久電流で捕捉された磁束により，電源脱落時にも回転慣性で発電を行うことができる。SIMにフライホイールを接続し回転を維持することにより，高価な電力変換器を用いない無停電電源装置（UPS）の実現が期待できる。本研究では，SIMにPMモータを接続し，電源が脱落した時の回転維持を行いUPS動作の模擬的な実験を行った。その結果，UPS動作移行に伴う誘導電圧降下があるものの電圧維持ができることが確認された。誘導電圧降下の対策として，LC並列共振回路を用いた方法について，3MW級の大規模モデルを用い数値シミュレーション解析を行い，負荷の電圧・電力維持が維持が可能と示すことができた。

5-154

液体水素冷却高温超電導導体の開発（1）概要

○大屋正義・生田勝利・中西啓太・西山 諒（関西学院大学）

液体水素の冷熱を活用した低コストかつ省エネな高温超電導機器の研究開発を行っている。例えば，液体水素で超電導界磁巻線を冷却し，蒸発したガスは常電導電機子巻線を冷却した後に水素ガスタービンに送って発電するシステムを構築することで，液体水素の冷熱を活用したゼロエミッションな発電システムが実現できる。600MW級の発電機の界磁巻線を超電導化するために必要な6kA級高温超電導集合導体の概略設計を実施した。

5-155

液体水素冷却高温超電導導体の開発（2）分流解析

◎生田勝利・中西啓太・西山 諒・大屋正義（関西学院大学）

水素社会の構築とカーボンニュートラルの実現に向けて，液体水素の冷熱を活用した高温超電導機器の実用を目指している。一例として，600MW級の発電機をターゲットとして，界磁巻線を高温超電導化するために必要なREBCO集合導体の設計検討を行い，直径5mmのフォーマに12枚の線材を4層構造で集合した導体を開発ターゲットに定めて研究開発を開始した。4層導体の通電試験を行うとともに，通電試験結果を再現可能な層間電流分布解析モデルを作成し，端末接続抵抗の影響を解析検討した。

5-156

無線式列車制御システムを構成する最小限の機能の検討

○曾我俊輔・北野隆康（鉄道総合技術研究所）

近年，無線式列車制御システムの導入が広がっており，地上設備の削減による低コスト化や遅延回復の迅速化等が期待されている。特に，地上－車上間の情報伝送に無線伝送を用いる点や列車検知に軌道回路を使用しない点により，地上設備の総数を削減できることが特徴として挙げられる。しかし，これまでに導入された無線式列車制御システムは導入する線区の条件を限定して開発されており，新たに当該システムを別の線区に導入する場合，過剰となる機能の付加により高コストとなる恐れがある。 そこで，本稿では，低コストな無線式列車制御システムの開発を目指し，最小限の列車制御機能の抽出と当該機能を実現する処理の検討を行ったため，報告する。

5-157

無線式列車制御システムの伝送セキュリティ対策に関する考察

◎太田佑貴・北野隆康・祗園昭宏（鉄道総合技術研究所）

無線式列車制御システムでは，安全関連の情報を無線伝送するため，各装置の異常のほかに，周辺の電波環境による影響や，外部からのサイバー攻撃などを考慮したセキュリティ対策について検討が必要である。安全関連伝送の異常や脅威については，国際規格IEC 62280で対策の考え方が示されているが，実際のシステムでは設計時の技術的背景や制約などにより，必ずしも理想的な実装となっていない場合がある。そこで本発表では，無線式列車制御システムの伝送部分で考慮すべき情報セキュリティ上の脅威とその対策の検討結果ついて述べる。

5-158

車上主体列車制御システムにおける単線運転

○杉山陽一・曾我俊輔・櫻井勇輝（鉄道総合技術研究所）

列車運行に必要な情報を列車自身が収集し，進路や周辺の状況に応じた安全な運行が可能な自律型列車制御システムの研究開発を行っている。その中で，車上への大幅な機能移譲により，地上の信号装置を転てつ機など最低限の構成とした進路制御機能を検討している。進路間の排他制御も含め各列車が自律的に行うことで，進路・閉そくの制御を車上で一括して行う。 複線ではシンプルな進路制御が期待できるが，単線では運転方向の設定が必要になる。そこで，複線と単線で変更点が少ない制御方法を検討した。方向てこの役割を着駅最外方の地上装置に担わせ，車上装置の駅間進入条件を追加することで，複線と単線ともにシンプルな移動閉そくが実現できる。

5-159

巨大都市における大容量通勤輸送へのPRTの適用に関する基礎研究

◎畑野周平・高木 亮（工学院大学）

東京のような巨大都市圏では，特に放射状通勤鉄道において，ラッシュ時間帯に著しい輸送力や座席数の不足，所要時間の増加などが見られ，その解消にの見通しは立っていない。1970年ころに個人用高速輸送システム（PRT）の実現可能性が，研究開発により高まってきたとされるが，鉄道を凌駕するほどの輸送力はPRTのみでは未だに実現困難である。本研究では，大容量が必要な郊外・都心間の輸送力通勤輸送への適用を念頭に，PRTの輸送能力増加の方法について基礎的な議論を行う。

5-160

余裕時間による遅延縮小効果の評価のための実績遅延データの分析手法

○國松武俊・清水健人（鉄道総合技術研究所）

鉄道において，慢性的な列車遅延が多くの路線で課題となっている。鉄道事業者は，遅延の発生，拡大防止のため，計画の列車ダイヤの駅停車時間や駅間の運転時間に余裕を付加する対策を講じている。しかし，既に計画ダイヤに付加された余裕時間が，遅延の縮小にどの程度，効果を発揮しているかを評価する手法は確立されておらず，余裕時間の妥当性を適切に評価する方法が無い。そこで本研究では，実績遅延データを用い，現行の計画ダイヤに付加されている駅停車時間，駅間運転時間の余裕時間が，遅延縮小に貢献する程度を，定量評価する手法を構築する。また，提案手法を実路線に適用し，余裕時間の効果が比較的大きい箇所を可視化し，その傾向を考察する。

5-161

鉄道用統合情報分析プラットフォームにおけるプロトタイプシステムの開発

○流王智子・河村裕介（鉄道総合技術研究所）

鉄道システムにおいてメンテナンスの効率化や省力化を実現するため，鉄道の各系統で収集・蓄積されるデータを用いた系統横断的な分析が期待される。しかし，各系統のデータは，形式や位置表現が異なるため，統一的に扱うことが難しい。そこで，筆者らは，各計装のデータを一元化して管理できるデータベースとこれらデータを分析できる分析基盤を保有する「統合分析プラットフォーム」を提案している。本稿では，統合分析プラットフォームとして，鉄道総研所内試験線で収集されるメンテナンスデータを対象としたプロトタイプシステムの構築について紹介する。また，本プロトタイプシステムでは，車上計測データをプラットフォームで集約できるネットワークも構築した。そこで，計測データがネットワークを介して，プロトタイプシステム蓄積されるまでの一連の処理を確認した結果について報告する。

5-162

鉄道メンテナンスデータ向け統合分析プラットフォームのデータ横断検索機能の提案

○河村裕介・流王智子・栗田いずみ・太田佑貴（鉄道総合技術研究所）

車両，軌道，電力等の系統毎に独自のデータ形式や位置表現で管理されているメンテナンスデータを系統間で横断的に活用することを目的として，鉄道総合技術研究所では鉄道メンテナンスデータ向けの統合分析プラットフォームの構想を提案している。この統合分析プラットフォームにおいて統合的な分析を行うためには，データサーバからユーザの希望する条件を満たすデータを横断的に検索し，効率的に抽出する必要がある。そこで，本研究では，線路図や設備等のデータを有する「鉄道ダイナミックマップ」と連携した線路図上での視覚的な対象区間の指定，および複数設備の指定に対応したテータテーブルの横断的な検索により必要なデータを抽出する機能を提案する。

5-163

接地検出器用開閉器の開発

○安田 諒・安喰浩司・小山敏雄・原田秀行（サンコーシヤ）・三浦輝典・岡部秀平・佐々木大基（東日本旅客鉄道）

接地検出器はケーブル絶縁を監視するため，大地接地線接続が必須であり，ケーブル絶縁監視対象のうち外線は雷サージが侵入する箇所を監視しているため，接地検出器を介して雷サージや地絡電流が流入する事例がありました。そこで，接地線や監視回線を自動や時間制御で接続・切断可能な接地検出器用開閉器を開発しました。

5-164

孤立波を用いた鉄道信号システム用伝送装置の評価

◎黒川竜生・望月 寛・中村英夫（日本大学）・寺田貴行・松脇康之・布施卓也・中野浩明（大同信号）

レールに流れた信号を列車の車軸で短絡することで列車在線の有無を検知する軌道回路が広く用いられている。現在の軌道回路では2種類の電源で3種類の状態を表す二元三位式信号機が主に使用されているが，列車運行本数の増加に伴う情報量の拡大が求められている。これに対して，情報ビットに応じて数十程度の孤立波を発生させ，この組み合わせで多情報化を実現する手法を検討している。本研究では，孤立波を用いた軌道回路の実現に向けて，組込みデバイスの一つであるDSPによって開発した伝送装置について，擬似軌道回路を用いて，軌道回路長や漏れコンダクタンスが変化した際の伝送特性について評価を行った。

5-165

自動・自律運転における踏切制御手法の検討

○藤田浩由・高﨑 建・進藤卓朗・一色竜杜・曾我俊輔・北野隆康（鉄道総合技術研究所）

在来鉄道への自動・自律運転導入にあたっては，道路交通と平面交差する踏切に関して，システムによる事故防止に取り組む必要がある。さらに，自動・自律運転は，これまでの手動運転では実現できなかったきめ細やかな定時間制御への期待も大きい。 本稿では，自動・自律運転における踏切制御の要件を整理するとともに，これまでに開発された無線式列車制御システムにおける踏切制御機能を基本として，自動・自律運転に適した踏切制御の考え方を提案する。特に，手動運転と異なる制御機能として，走行パターンに基づく踏切定時間制御機能，ならびに防護パターンによる停止後の運転再開を自動で行うための機能を示す。

5-166

第4種踏切に対する安全性向上支援装置に関する検討

○八木 誠・長谷川智紀・山口大助（交通安全環境研究所）

軌道輸送において，安全の確保は最大の使命である。近年，関係者の努力の結果，事故件数は減少傾向にあるものの，令和2年度において踏切事故が165件（第1種踏切147件，第3種踏切1件，第4種踏切17件）発生し，運転事故の約1/3を占めている状況である。なお，踏切事故の約1/5は中小民鉄で発生している。踏切における安全対策には，大手事業者では主に障害物検知装置を用いた手法がとられているが，極めて高コストであることから，収支が厳しい中小民鉄が多い地方鉄道への導入が進まない状況である。そのため，地方鉄道においては，低コストかつ効果が高い踏切の安全性向上策が求められている。そのため，まず踏切事故の実態把握を行い，優先的に防ぐ事故形態及び踏切種別を明確にしたうえで，汎用技術を利用した低コスト安全性向上策の検討を行ったので紹介する。

5-167

列車方向検知機能を有する踏切制御子の監視システムの構築

◎兒玉兼汰・王 鵬飛・望月 寛・中村英夫（日本大学）

踏切制御子は軌道回路の原理に基づき列車検知を行っているが，単線区間では列車在線の有無に加えて列車方向も必要となる。これに対して，踏切制御子の送受信信号に着目して列車方向検知も行うことが可能な踏切制御手法を提案している。ここで本手法では踏切制御子の信号を常時取得することから，この時系列データを監視することによって踏切制御子の整備不良などを監視できると考えられる。以上を踏まえて本研究では，，踏切制御子の送受信信号及び列車方向検知を行う処理装置から得られる信号を取得するとともに，LTEデバイスを介してそれらのデータをリアルタイムで監視するシステムを構築したので，その基本機能を明らかにする。

5-168

FMEA／FTAとIEC 62425のフェールセーフ性に関する考え方

○林田守正・工藤 希・森 崇（自動車技術総合機構）

各種の鉄道システムを対象とする第三者安全性評価が，当研究所を含む各種機関において実施されている。しかし近年，鉄道システムの輸出に際しては，IEC（International Electrotechnical Commission）シリーズ等の国際規格への適合が要求される事例が増加している。安全性評価の主要なリスク評価手法としては，FMEA（Failure Mode Effects Analysis）及びFTA（Fault Tree Analysis）が挙げられる。一方，鉄道信号システムを対象とするIEC 62425では，フェールセーフ性の確保に関する考え方が記述されている。本報告ではFMEA／FTAとIEC 62425の思想との関連性を考察した結果を述べる。

5-169

ESⅡ形電気転てつ機の安定稼働に向けた機構及び保全方法の改良

◎工藤寛士・金田敏之・栃原開人（東日本旅客鉄道）

ESⅡ形電気転てつ機（以下ESⅡ）は一時的な水没にも耐えるために密閉構造をとっており，年に一度気密試験にて気密漏れが発見された際には速やかにシール材の交換を行っている。ESⅡの気密漏れは外部の塵泥によりシール材とロッドの間に隙間が生じることで発生するとされており，毎年全体の15％前後のESⅡから気密漏れが発生している。本研究では気密漏れの年間発生件数の削減を目標とし，使用部材を見直すことで動作特性に与える影響を抑えつつも密閉機構の耐ダスト性が向上することを確認した。さらに気密試験時の圧力の方向や温度特性に着目し，より正確に密閉性能を確認することができる気密試験方法の提案を行った。

5-170

軌道面撮影システムを用いた黒色皮膜検知手法の開発

◎吉野純樹・合田 航・長峯 望（鉄道総合技術研究所）・髙木良彦・乾 恵輔（四国旅客鉄道）

鉄道における山間線区において，秋期に落葉等がレール上に残ることで黒色皮膜が発生することがあり，空転や滑走の発生要因の一つとされている。そこで，列車運転台に設置したカメラで軌道面を自動で撮影し，撮影した動画から画像解析を用いて黒色皮膜を検知する軌道面撮影システムを開発した。実際に開発したシステムを黒色皮膜が発生しやすい線区であるJR四国の土讃線に試験的に導入し，機能の検証を行った。検証の結果，黒色皮膜検知における前段のレール検知では99.7%以上の精度でレールを検出することができ，黒色皮膜検知においては輝度を用いて判定することで正解率89%とすることができた。

5-171

単眼カメラの2フレーム間対応点による三次元情報推定手法

◎前田梨帆・向嶋宏記・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

鉄道事業においては，沿線設備の状態確認の省人化・省力化のために，近年列車からビデオカメラで撮影した画像を用いた検査手法の研究が行われている。これらは主に二次元情報による判定を行っているが，三次元情報を推定することができれば，より効果的な設備の状態管理が期待できる。本研究では列車前方画像に写った沿線設備の二枚のフレーム間における対応点を計算することで，その沿線設備の三次元情報，すなわち，位置だけでなく高さや幅，奥行きを含めた情報を推定する手法を提案した。本稿では推定アルゴリズムの概要，CGシミュレーション画像と実撮影画像の両方で実施した結果を示す。

5-172

列車前方監視による待避作業員判別手法

◎宇治大智・影山 椋・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

鉄道の支障物検知の対象の一つとして，線路内・沿線の人物が挙げられるが，在来線の線路内では，列車の運行中にも保守作業が行われるため，保守作業員も含まれる。しかしルールに従って列車接近時に待避姿勢をとる保守作業員（以下，待避作業員）を検知して発報すると，列車を過剰に停止・減速させることとなる。そこで，待避作業員と，保守作業員を含むその他の人物とを判別する必要がある。本研究では深層学習により待避作業員とその他人物を判別する手法を検討した。実際の作業員の画像と，3DCGの人物を合成した画像を組み合わせて学習した物体検出モデルにより，適切に待避作業員を判別できることが分かった。

5-173

地上センシングのためのLiDARを用いた支障物検知手法の検討

◎戸部田貴裕（無所属）・吉野純樹・影山 椋・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

鉄道の支障物検知に用いるLiDARのセンシング性能について検証を行った。検証にあたって，通常時と支障物のある異常時についてLiDARから得られた点群データの差分を取り，その差分についてクラスタリングを行うことで，支障物検知を行うシステムを構築した。実験では，人および3Dプリンタで作製した模型を支障物に見立て25m～300mの範囲に設置し，点群データを取得した。また，昼夜の影響があるか時間帯を変えて実験を行った。その結果，人は300m，模型では約200mの距離まで検知可能であり，昼夜で検知距離の大きな違いも見られなかった。これにより，LiDARが鉄道の支障物検知システムのセンサとして有用であると考えられるが，今後も実験を行いロバスト性を検証していきたい。

5-174

車両側面カメラによる安全確認支援装置の位置推定精度評価

◎福原健司・合田 航・向嶋宏記・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

現在，ワンマン運転を実施している列車ではホームの安全確認をホームミラーもしくはカメラで撮影された映像をモニタで確認する設備（ITV設備）などを使用して運転士の目視により安全確認をしている。近年，一部ワンマン運転区間では，車両側面に取り付けたカメラからの映像を運転士が見ることでホーム上の安全確認を行っている。我々はこの車両側面カメラのさらなる活用を目指し，カメラ映像から自動で旅客の接近を通知する安全確認支援装置の開発を行っている。本稿では，これまでに開発した安全確認支援装置の検知対象を人物のみから，車椅子，ベビーカーまで拡張し，新たに追加した対象物の位置推定精度を評価したので報告する。

5-175

頭部検知とARマーカーを用いた人物の位置推定手法

◎合田 航・吉野純樹・福原健司・向嶋宏記・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

近年，鉄道事業者においてカメラを用いた業務支援の導入が進んでおり，特に，駅や車両に取り付けられたカメラをお客様の利便性向上や安全性向上に活用することは重要な課題である。駅などの鉄道環境に設置されたカメラ映像の特性として，限られた空間で人物が車両への乗降に合わせて移動するため人物同士の重なりが発生し，人物の全体像を捉えられないケースが頻発する。一方で，人物の頭部は捉えられる場合が多い。上記の背景を考慮し，駅などの鉄道環境に設置されたカメラを想定し，人物頭部の検知から人物の実空間上における位置を推定する手法を開発した。本稿では，手法の説明と車両側面カメラを例とした評価試験における結果を報告する。

5-176

画像式踏切しゃ断かん折損検知手法の精度評価

◎影山 椋・長峯 望（鉄道総合技術研究所）・星谷直哉・根橋 壮（東日本旅客鉄道）

我々は鉄道のさらなる安全性向上のため，監視カメラの画像を用いて踏切しゃ断かんの折損を自動的かつ早期に検出する手法の開発を行っている。実環境に近い条件の下での提案手法による検知性能を検証するため，鉄道事業者が保有する訓練施設内の踏切で撮影試験を実施し，精度評価を行った。評価の結果，試験で再現した7通りの折損状態に対して，正しく検知できた割合は全て90%以上となることが分かった。

5-177

動作状態監視によるしゃ断かん折損の検出方法に関する検討

○潮見俊輔・神谷剛志（鉄道総合技術研究所）

踏切のしゃ断かん折損を検出する手法として，踏切しゃ断機のモータ電流，およびしゃ断機を固定するボルトやワッシャの軸力変化による手法について試験を実施し，検出機能等に対する評価を実施した。その結果，しゃ断かん上昇時のモータ電流のPeak to peak値とボルト軸力の最大値の，複数回動作の平均値がしゃ断かん長さに対して変化する傾向を示した。ボルト軸力による手法は動作毎のばらつきが大きいため適用性において課題があるが，モータ電流による手法は動作毎のばらつきも小さく，しゃ断かんの折損による長さ変化の検出，および保守への活用性の観点で他方式と比べて優位にあることを示した。

5-178

二次元レーザーセンサ式踏切障害物検知装置の検知アルゴリズムの開発

◎早田有利・関口正宏（東海旅客鉄道）

本研究では，2D LiDARを活用した二次元レーザーセンサ式踏切障害物検知装置の導入に向け，安全確保を大前提に輸送の安定性にも配慮した検知アルゴリズムの開発を行った。東海道線刈谷構内の踏切にて行ったデータ計測の結果から統計処理を行い，検知アルゴリズムの提案を行った。提案手法の有効性を検証するために，東海道線安城構内の踏切にて評価を行った結果，従来手法よりも44.12%低減できる見込みがあることが明らかとなったので，報告を行う。

5-179

温度測定における不確かさが鉄道沿線信号用電子機器の寿命推定精度に与える影響

◎一色竜杜・藤田浩由・高﨑 建・神谷剛志・進藤卓朗・会田直矢（鉄道総合技術研究所）

鉄道信号設備に使用される電子機器は劣化傾向の把握が困難であり，適正な交換周期の設定が課題となっている。これまでに筆者らは，電子機器が故障に至る要因として，電子機器を構成する電子部品の劣化が主要因であることを明らかにし，電子機器の筐体表面温度から電子部品の寿命を逐次予測する手法について提案してきた。本稿では，熱電対を用いた筐体表面温度測定時に考慮すべき不確かさの低減を目指し，実験を交え要因別の標準不確かさ算出を行い，寿命推定に与える影響について考察した。また，熱電対を用いた温度測定における不確かさの効果的な低減のためには，より確度の高い熱電対や計測器の使用が必要であることを確認した。

5-180

NS形電気転てつ機のフィールドデータ分析と状態基準保全に関する研究

○志田 洋（西日本旅客鉄道）・白石倫之（四国旅客鉄道）・高橋 寛（愛媛大学）

電気転てつ機に設置されている状態監視装置等から高頻度に得られる保全データ（時系列データ）に機械学習を施し，設備状態の良否判定や状態変化を自動的に把握する手法を検討している。本稿では，電気転てつ機が予防保全の対象設備であり，故障発生時のデータ取得が難しいため，少ない故障データで機械学習を可能とする教師なし学習の一種である，ホテリング理論から求められるマハラノビス距離により設備の正常時と異常時の状態を分別し，設備故障に至る前の最適なタイミングでメンテナンス要員に点検を指示する事で状態基準保全を実現する手法の研究内容について報告を行う。

5-181

軌道回路故障調査支援アプリケーションの開発

○丸山智彦・佐々木和洋・金田敏之（東日本旅客鉄道）

軌道回路は故障すると列車運行に直接支障するため，早期に復旧する必要があるが，種類や構成機器が多様で，調査箇所が広範囲に及んでいるためデータ測定箇所も多く，故障箇所の特定が難しく復旧までに多くの時間を要している。そこで，データ等を一元管理し，入力されたデータ等により故障モード，故障部位，調査手法等を自動で提案するアプリケーションを開発した。故障箇所等を推定するアルゴリズムは，「故障箇所推定フローチャート」に基づいて基本的な調査手順を提案するが，手順に従わずにデータを入力しても故障部位の推定を行うことができる。そしてアプリケーションが実際の軌道回路故障においても故障部位を推定できることを確認した。

5-182

汎用センサにより得られる列車振動を利用した鉄道軌道の予兆診断の検討

◎阿部寛史・立野裕一・藤田吾郎（芝浦工業大学）

過疎化による人口減少で収入減少が深刻化している地方鉄道会社では，自社所有路線のメンテナンスに十分な費用を確保できていない。大手鉄道会社では軌道と架線を走行中同時に検査可能な専用車両にて数日で全線を検測しており，その状況と比較すると地方鉄道会社の現状は高い安全性の維持が十分ではないと言わざるを得ない。 本研究では，地方鉄道会社での安全性向上を目的として低コストかつ簡便に軌道の異常検知が可能となるシステムの開発を最終的な目標として研究を進めていく。

5-183

鉄道車両の遠隔データを活用したBC圧の健全性判断に向けた取り組み

○宮内 努・北井瑳佳・工藤 匠（日立製作所）・今村憲司・久保田 諭・和賀大輔（東武鉄道）

鉄道車両のブレーキシリンダ圧（BC圧）測定検査の省力化に対応するため，走行データを用いてBC圧の健全性を判断する手法を開発している。BC圧は，ブレーキの立ち上がり時，運転士によるブレーキ扱いの変動発生直後，回生ブレーキが不安定の場合に変動するため，数秒間同じブレーキ指令が継続かつ回生ブレーキが安定した時点のデータを抽出し，抽出時点のBC圧に基づき健全性を判定する手法を開発した。開発した手法の有効性を確認するため，東武60000系Remoteで取得した3編成2年分のデータを用いて評価を行い，誤検知率が2%未満となることを確認した。

5-184

無線による車両状態監視システムにおけるプロトタイプシステムの開発

◎細川雄太・流王智子・竹内恵一（鉄道総合技術研究所）

近年，車上機器の動作状態や車内環境などの状態情報を監視する状態監視システムが多くの鉄道車両に導入されている。これらのシステムは，車両間をつなぐ引き通し線の利用を前提としているが，既存研究では，そのような設備のない車両に対する車両状態監視システムを実現するため，無線を用いた車両間ネットワーク構築手法や車両内ネットワーク構築手法を提案した。本稿では，これらを組み合わせた車両状態監視システムのプロトタイプの構築について述べる。また，機器の状態情報のうち，異常検知情報の早期通知を対象とした伝送確認試験の結果を報告する。

5-185

山手線池袋変電所機器更新工事

青山 光・○宮原一裕・小貫素彦（東日本旅客鉄道）

池袋変電所は，山手線，埼京線および湘南新宿ライン等へき電・配電しており，変電機器は使用開始から約30年が経過し，経年による設備の劣化が懸念されていた。このため2016～2021年度の6年間にわたり変電所の一括更新工事を実施した。更新に伴い，整流器用変圧器には低電圧変動率変圧器を採用し，制御盤は既存のメカ盤からIP配電盤へ変更するなど新たな設備の導入を行った。その他，受電回線の66kv化により安定性向上，変電所内機器配置を工夫することで保守性向上を図った。また，変電所周囲の道路が狭隘なことから川越街道沿いに作成した変電所建屋新設時の機材搬入用仮設構台を有効活用することで，費用を抑えて搬入することが可能となった。

5-186

梅田大阪変電所新設工事における接地検討

◎百々裕輝・和田 良・金子勝弘・佐藤勇輝・犬塚浩平・京泉 勉・伊東和彦（西日本旅客鉄道）

梅田大阪変電所の接地では変電所施設環境により通常のメッシュ以外の構造で既定の接地抵抗値を確保する必要があった。そこで，他鉄道会社の事例をもとにH鋼を組み合わせる構造の採用することを考え，梅田大阪に適した構造の検討を机上で行い，実際に施工し，その効果を確認したので，それらの内容を報告する。

5-187

高精度時間プロトコルに対応した直流電流計測システムの実証試験

○赤木雅陽・緒方隆充・横内俊秀・今村謙汰・河村裕介・流王智子・近藤 稔（鉄道総合技術研究所）

車上・地上間での電流値照合による直流高抵抗地絡検知にあたり，移動体である列車を含む各計測システムは，時刻同期機能とデータ通信機能を具備することが求められる。筆者らは高精度時間プロトコルに対応する計測システムを構築したことを既に報告しているが，今回は計測システムの地絡故障検知システムへの適用可能性に関する実証試験として，車上・地上変電所用の2台の計測システムに無線及び光回線の通信機能を付加し，所内試験線にて列車を走行させ負荷電流特性を取得した。その結果，データサーバに高精度タイムスタンプ付き電流データが逐次格納されること，及び車上・地上側の電流値が正しく照合されることを確認したので報告する。

5-188

直流地絡過電圧継電器（64P）の雷害対策

○田口正和・阿部 智（永楽電気）・鈴木高志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

本稿では，直流地絡過電圧継電器（64P）が雷害によって故障した過去から現在までの耐雷性向上についての経緯をまとめたものである。1999年頃，雷サージによる故障が頻発し，雷害対策が喫緊の課題となった。そこで，主回路入力端子のレール（R）と変電所機器接地（E）の間にギャップアレスタを挿入して64Pを保護することを対策とした。この対策によって64Pの主回路端子間のサージ電圧は64Pの絶縁強度の範囲に収まることが確認できた。しかしその後，アレスタが放電時に続流で破損する事象が報告された。その対策として，ギャップアレスタにバリスタを挿入，併用し，64P耐雷性向上の改善を行ったことを報告する。

5-189

電鉄用変電所ガス遮断器の劣化傾向の考察

○平野太一・天田博仁・小林正樹・内藤広輝・関 孝実・鈴木高志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

鉄道電力設備においては，定期的なメンテナンスや計画的な設備更新が安全・安定輸送の確保のために必要不可欠である。これまで当社では，国鉄時代に定められた取替基準により電鉄用電力供給設備を更新してきた。一方で，鉄道電力設備の信頼性を確保したうえで，寿命を適切に判断し，効率的な更新を進めることは，我々にとって重要な課題の1つである。そこで，当社では更新時に撤去した様々な電鉄用変電機器の劣化診断により長期間使用の可能性について検討している。本稿では，ガス遮断器の解体調査を通じて長期運用の可能性について検討した結果について述べる。

5-190

帰線ケーブル劣化調査結果に関する一考察

◎斎藤純平・南之園弘太・倉岡拓也・天田博仁・青木裕太・小林正樹・平林有紀穂・太田裕久・鈴木高志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

2020年11月26日にJR東日本管内の東北本線久喜駅構内において，帰線ケーブルからの発煙により輸送障害が発生した。この事象は，帰線ケーブルの劣化に大きく起因していることがわかった。JR東日本はこの事象を受けて，同社管内の経年20年以上の帰線ケーブルを対象に，レール対地電圧と機器接地対地電圧の正相関を確認することでケーブルの劣化を確認する調査を実施した。対象となる139箇所の変電所を調査した結果，相関性を示したのは6箇所の変電所だったが，いずれの変電所も断線は確認できなかったことから，今回の調査方法はケーブルの劣化だけでなく変電所周辺の環境にも大きく依存することがわかった。

5-191

BT吸上線断線の影響評価

◎熊谷大輔・髙橋将太・小田原秀幸・小笠原宏明・沼尾幸輝・木村和貴・川﨑 拓・斎藤純平・鈴木高志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

交流電気鉄道におけるBTき電区間では，吸上変圧器および吸上線を用い，レールに流れる列車負荷電流を負き電線に吸い上げる回路を構成し，通信誘導障害の低減を図っている。しかし，吸上線が断線した際には，通常の回路構成が不可能となり，それに伴った列車影響や設備影響が発生することが想定される。適切な設備の保守には，設備故障時の影響を正しく評価することが重要となることから，本研究では，今後の保守に役立てることを目的に，BT吸上線断線時に発生する影響をフィールド試験およびシミュレーションにより検証した。それにより，BT吸上線断線時には，吸上変圧器損傷の可能性および他の設備への被害拡大の可能性があるとの結果を得た。

5-192

鉄道車両駆動用リチウムイオン電池の劣化診断手法の開発と基礎実験による評価

○田口義晃・吉川 岳（鉄道総合技術研究所）

鉄道車両駆動用リチウムイオン電池の交換計画に必要となる劣化度の把握を目的とし，車上で記録される充放電データ（電池の電圧，電流，温度）を使用した劣化診断手法を開発した。開発手法は容量推定部と内部抵抗（二次の伝達関数）推定部から成り，交互に反復して演算する特徴を有する。開発手法を評価するため，供試電池モジュールを用いた基礎実験において実車走行を模擬した通電を実施した。その結果，内部抵抗の診断値は実測値と良好に一致し，容量の診断値については誤差が残ったものの，劣化の進展に応じた診断値の変化を把握可能であった。

5-193

鉄道用車載蓄電池の劣化に伴うOCV曲線形状変化の把握

◎渡邉有人・尾﨑興介・田口義晃（鉄道総合技術研究所）・福井良平（九州旅客鉄道）

鉄道車両に記録された蓄電池データを元にした容量や内部抵抗などの劣化度診断において，現行よりも劣化がより顕著となる使用条件においても十分な診断精度とするためには，診断値誤差の低減が必要である。本研究では，容量算出に使用するOCV（開回路電圧）-SOC（充電率）曲線に劣化に伴ってモデル上の誤差が生じることを診断値誤差の推定原因として考え，車載電池が新品の状態，劣化した状態のそれぞれで実車両を用いた現車OCV測定を実施した。劣化状態では新品状態からのOCV-SOC曲線の形状変化が確認されるとともに，現車を用いたOCV測定手法の妥当性が示唆される結果が得られた。

5-194

鉄道車両用主回路蓄電池の充電時リプル測定による内部抵抗把握への汎用マイコンの適用

○尾﨑興介・渡邉有人・田口義晃（鉄道総合技術研究所）

近年，車両駆動用主回路蓄電池としてリチウムイオン電池を搭載した車両の導入が進んでいる。電池の劣化の進展を把握には，なるべく簡単で安定した手法が望まれる。本稿では，充電時のリプル電圧，電流から小型で安価な周波数フィルタと汎用マイコンを用いて内部抵抗を把握する手法を検討し，現車試験による評価を行った。汎用マイコンによるFFT演算結果は厳密な手法と比較して，主要周波数に着目すればその振幅はほぼ一致し，また，別途算出した直流内部抵抗の温度依存性との比較においても大きな差異はなく妥当であることを確認した。このことから，小型で安価な周波数フィルタと汎用マイコンを用いて，主回路蓄電池の内部抵抗を把握できる可能性を示すことができた。

5-195

高速鉄道に適用可能な商用周波非接触給システム用コイルの基礎検討

○依田裕史（鉄道総合技術研究所）

高周波を使用するシステムに対し大幅な低コスト化と大容量化を実現しうる，系統からの商用周波交流を用いた鉄道車両用非接触給電システムの実現可能性について，先行研究にて検討を行っている。その結果，超大容量が要求される高速鉄道への適用については，地上―車上コイル間の磁気結合向上を前提とすれば，一般的な新幹線車両1両あたり2MW程度の電力伝送を実現しうるシステムの成立可能性見出した。本稿では，この事前検討結果に対し，電磁界解析による具体的なコイル設計行った結果の一例について報告する。

5-196

粒子群最適化を用いた電気車の空転制御のパラメータ調整

◎丹治寛樹（明治大学）・山下道寛（鉄道総合技術研究所）・村上隆啓（明治大学）

電気車おける車輪の空転現象は，レールの損傷や車両の加速力の低下につながる可能性がある。したがって，主電動機のトルク制御により空転を抑制する必要がある。しかし，現状，空転制御の調整作業は人手に頼る場合が多い。そこで，本稿では人手や個人の経験に依存しない空転制御のパラメータの調整手法を提案する。提案法では，粒子群最適化を用いて接線力を最大化するように制御パラメータを学習する。さらに，本稿では，一駆動軸系のシミュレーションにより，ノイズ環境下で提案法が制御パラメータを調整できることを示す。

5-197

駆動車輪・レール模擬装置による車体速度センサを用いない最大粘着力制御

◎堀越敢太・大日野良樹・吉本貫太郎・横山智紀（東京電機大学）

従来の空転再粘着制御の空転検知は，複数の車軸速度のうち最小値あるいは2番目に小さい値を基準速度として，他の車軸速度との差から検知する。しかし，全車軸が空転すると正確に空転を検知できないため，基準速度によらない空転検知が必要である。 最大粘着力制御は，スリップ速度に対して粘着力が最大値となるように，モータトルクを制御する手法である。最大粘着力制御の課題は，スリップ速度を得るための車体速度検出である。この課題に対して著者らは，車軸速度から車体速度を推定する，ローパスフィルタを応用した車体速度推定器を提案している。 本論文では，車輪の粘着，空転と車体の慣性運動を再現する駆動車輪・レール模擬装置を構築した。模擬装置による実験で，車体を用いない最大粘着力制御の有効性を確認した。

5-198

各種スペクトラム拡散法を適用した電気鉄道用VVVFインバータの騒音分析

◎岡田友風貴・新海 健（東京工科大学）

電気鉄道用VVVFインバータはキャリア周波数を高くできないことから可聴領域でのスイッチングが行われる。モータ電磁音対策として，キャリア周波数を変調する方式，二相変調法において指令値を変化させることで損失低減と騒音対策を両立する研究などが見られる。本研究では，正弦波変調法においてキャリア周波数を変調することでスペクトル拡散を行う3種の方式について騒音の周波数分析を行った。SiCなどの新しいパワー半導体の適用が進みつつあることも考慮し高めのキャリア周波数も対象とした。

5-199

風による架空電車線の膨らみ

○池田国夫（三和テッキ）

電車線の風による膨らみ（風による偏位）を求める，良く知られた，通説な計算式がある。しかし，この式には，或る条件の下では成立しないことは明らかで，確かなものでない。そこで，先ず，この不具合を究明する。その後，これを補完する，確からしい計算式を提示する。

5-200

可動ブラケットの配置に起因する電車線流れの基礎検討

○山下義隆（鉄道総合技術研究所）

電車線の張力を均一に保つために，引留区間の両側に自動張力調整装置が利用される。温度変化に伴う線条の伸縮，両側の自動張力調整装置の特性差，線路条件，引留間に利用される可動ブラケットの種類などに起因して，電車線の全体が同一のレール方向のみに変位する「流れ」が生じることがある。流れが生じ，その変位量が大きい場合，自動張力調整装置の可動域限界に達することで，正常な張力調整の機能を発揮することができなくなる。流れの要因の一つである（1）「可動ブラケットの配置（I型あるいはO型がまとまり連続する場合）」については，流れとの明確な因果関係が整理されていない。本論文では，平衡点の安定性に着目し，可動ブラケットの配置が電車線流れに与える影響についての基礎的な検討を行う。

5-201

ヘビーコンパウンド架線の減衰パラメータ

○池田 充（鉄道総合技術研究所）

新幹線用ヘビーコンパウンド架線の振動をシミュレーションにより適切に再現するために必要な減衰パラメータの与え方を検討した。その結果，各線条の減衰パラメータについては，実際の架線系において同定された線条単体としての減衰パラメータをそのまま採用したうえで，曲線引金具の摩擦特性を適切に与えれば，架線の自由振動をシミュレーションにより精度よく再現できることがわかった。

5-202

中央線初狩～笹子間き電線断線事象の原因究明

○山崎猛志・入倉佳祐・林屋 均（東日本旅客鉄道）

2022年7月5日，中央線初狩～笹子間にて，直流き電システムのき電線がスリーブ近傍で断線する事象が発生した。当社では，アルミき電線のスリーブは，内部の腐食に伴う発熱を未然に把握し断線事象を避けるため，サーモカメラによる温度測定を個別検査にて行っているが，当該箇所については直近の検査で「良」判定を得ており，断線原因の究明が求められた。本論文では断線部の外観調査や現地敷設状況の調査を基に本事象が発生した要因を推定し，その対策について述べる。

5-203

重塩害トンネル内の金具破損に関する調査結果

○入倉佳祐・白石純一・鶴見友登・山崎猛志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

2022年6月22日に外房線安房小湊駅・安房天津駅間の大風沢トンネル内で曲線引金具を固定するための金具が破損した。撤去品の外観を調査したところ局所的な腐食が確認されたため，本事象は電食を原因として発生したと推定された。一方で，当該箇所は電食を発生させる漏れ電流経路が生じにくいと考えられるような設備構成であったため，撤去品の絶縁抵抗測定や現地周辺における金具類の設置状況および絶縁抵抗測定を実施した。これらの調査結果を基に，電食が本事象の原因であるか妥当性を検証したところ，いくつかの仮定条件の下ではあるがその妥当性を確認できた。

5-204

異常検知に向けた架線金具検出情報を用いた線条検出

◎小井手孝徳・山本大樹・島田英和（明電舎）

鉄道事業における架線設備点検は安全運行に欠かせない業務であるが，多大な労力を要するため作業員の負担低減と将来の労働力不足の解消が急務となっている。我々はこの課題を解決すべく，画像処理を用いた架線周辺設備の自動点検システムの開発を進めている。システムの処理フローは大別して，画像取得，設備検出，異常検知の3つから構成されるが，本報告では点検対象のうち線条（架線，吊架線，補助吊架線）の設備検出について述べる。線条は位置を変えながら画像を縦断するように写るため，一般的な深層学習を用いた物体検出手法では目的を適えることが難しい。これを解決するため，架線金具検出情報を用いて線条検出を行う手法を開発した。

5-205

新幹線用電車線撮像装置の構成検討

○松村 周・山下主税（鉄道総合技術研究所）

電気鉄道において電気車に電力を供給する設備である架空電車線は，屋外に長距離にわたって敷設される。鉄道の安全安定輸送を維持するため，そのメンテナンス作業には多くの労力が必要とされている。筆者らは，新幹線における架空電車線の画像検測を実現するべく，電車線金具の撮像について，新幹線速度に対応する装置構成を検討し，モノクロラインカメラとチルトシフトレンズおよび近赤外照明を用いた装置構成を提案した。定置試験において，提案する装置構成により新幹線の電車線架設範囲に対応した被写界深度を確保し，360km/h走行を模擬した回転円盤を被写体ブレなく撮像できることを確認した。

5-206

画像によるトロリ線摩耗判定技術の開発

◎福島規至・山澤玄胤・山田創平・吉田匡志・加藤 洋（東日本旅客鉄道）

これまで東日本旅客鉄道株式会社ではトロリ線の管理は至近距離から目視にて確認する至近距離検査と検測車による測定により行っており，至近距離検査には多くの労力を要する。そこで，当社では検査業務の省力化のために架線金具検査装置によるモニタリングを導入している。本開発ではモニタリングで使用される架線画像を活用し，画像解析により画像の輝度データを抽出することで，トロリ線の摩耗傾向を把握する技術を開発したため報告する。

5-207

亜鉛めっき鋼組み合わせ鉄柱用自走ケレン装置の開発

◎京野真也（東日本旅客鉄道）

電車線を支持する柱には鋼の表面を亜鉛でめっきした亜鉛めっき鋼を用いたものがある。亜鉛めっき鋼は亜鉛の犠牲防食効果によって優れた耐食性をもっているが，塩化物イオンなどの影響により亜鉛が消失し保護効果が失われるため，塗装による延命を行っている。塗装作業には下地調整（以下，ケレン）が必要だが，ケレン作業に多くの労力を要している。そこで，ケレン作業の労力低減を目的に，自走ケレン装置を開発した。その概要及び検証結果を報告する。

5-208

アシストスーツによる電車線作業性向上の検討

○久部智史・寺田泰隆・川地重和・安井彬紘・子安拓夫（東海旅客鉄道）

物流・建築・農作業・電設業等の産業分野において健常者の作業支援としてパワーアシストスーツの導入・研究開発が進んでいる。今回，このパワーアシストスーツについて着目し，電車線作業の作業性向上に向けて導入を図るために実施した，調査・検討ならびに低床架線で得られた電車線作業への有用性について報告する。

5-209

高効率型温風融雪器の試作および検証試験

○齊藤里香・西 健太郎（東日本旅客鉄道）・櫻井裕二郎・山田尚輝（新陽社）

新幹線温風融雪器は温風にて融雪する構造であるため熱効率が低い。そのため，この温風融雪器の熱効率を向上させる手法の効果を確認し，その手法を用いて作成した試作品の性能評価を実施した。本稿では，その結果について報告する。

5-210

非常用蓄電システムにおける導入効果の検証

○木幡陽介・西 健太郎・保坂朋子（東日本旅客鉄道）

駅における配電設備の保守性，環境性の改善を目的として，停電を補償する静止型切替器と非常用発電機の代替機能を持ち，エネルギーマネジメントシステムと連系した非常用蓄電システムを開発した。2021年より磯子駅で本システムのフィールド試験を行い効果を検証した。 フィールド試験では電源切替時に負荷に影響がないこと，停電時に必要な負荷へ電力を供給する能力を有していることを確認した。また，負荷とPV発電量予測に基づき蓄電池を有効活用するEMSの機能を検証すべく，晴天時と雨天時の蓄電池充放電挙動を観測し，効果を確認した。実測値より省エネ効果を試算した結果，年間で約25,000kWhの電力量を削減できる見込みである。

5-211

列車の運転条件とき電電圧変更による回生電力の活用に関する分析

○吉永 孝・西 健太郎（東日本旅客鉄道）

直流電化区間において，回生車両に付近に力行車両の走行がない状況では，架線電圧が上昇し続けてしまうため，回生絞込み制御を行っている。この回生絞り込み制御が動作すると，不足したブレーキ力を発電・機械ブレーキにより補い，本来発生できる回生電力が熱として消費されてしまう。したがって，この回生絞り込み量を低減することができれば，さらなる省エネルギー化を見込める可能性がある。そこで当社では，き電電圧を変更して回生絞り込み量を低減させ，エネルギー削減を図る検討を行ってきた。本稿では，き電電圧を低く変更した検証試験において取得したデータから，列車の運転条件と回生電力の活用効果を分析した結果について報告する。

5-212

サイリスタ整流器と調和する蓄電池式回生電力貯蔵装置の開発

○伊藤智道・田中宇乙（日立製作所）・作地 修・田山敏臣（日立インダストリアルプロダクツ）・竹村成正・鎌田浩伸・東村一輝（札幌市）

直流き電システムにおける省エネ施策として，蓄電池式回生電力貯蔵装置が提案・開発されてきた。従来貯蔵装置は，き電線電圧の上昇および低下から余剰回生電力や加速車両による電力消費を検出するが，サイリスタ整流器でき電される路線では前記整流器の一定電圧制御特性により，き電線電圧による加速車両の電力消費状態が検出できない。そのため，貯蔵した余剰回生電力の有効活用が実現できない。本報告は，その課題を解決する新しい制御技術，および，その制御技術を実装した貯蔵装置の札幌市営地下鉄東西線への導入について報告する。

5-213

直流電気鉄道における地上蓄電装置と車載蓄電装置の統括制御手法の検討

◎緒方隆充・齋藤達仁・小西武史（鉄道総合技術研究所）

再生可能エネルギー（以下，再エネ）電源の導入に伴い，系統の電力需給バランス維持に向けたデマンドレスポンス（DR），再エネ電力活用への期待が高まっている。直流電気鉄道においては，現状，地上または車上の蓄電装置を回生吸収や非常走行用電源用途として用いているが，これらはいずれも小容量であり，かつ単体でのDRや再エネ吸収を想定していない。将来これらを統括して制御することで，DRや再エネ吸収に用途を拡大できる可能性が考えられる。本稿では，直流電気鉄道における地上蓄電装置と車載蓄電装置の統括制御手法を提案する。また，DRへの対応を想定したシミュレーションによるケーススタディを行ったので報告する。

5-214

ディーゼル鉄道車両の各駆動方式における二酸化炭素排出量の比較検討

◎山田昂征・小川知行（鉄道総合技術研究所）

液体式，電気式，ハイブリッドディーゼルの3種類のディーゼル鉄道車両について，鉄道総研の開発したシミュレータ及び現在運用されているコモンレール式エンジンの効率マップを用いて，実路線を対象とした走行シミュレーションを行い，二酸化炭素排出量を算出した。同一エンジン形式の搭載を想定した3つの駆動方式のディーゼル鉄道車両モデルを作成し，走行時分を合わせたシミュレーションを行った結果，二酸化炭素排出量は液体式と比べ，電気式は車体質量増加と動力伝達効率の違いの影響から19～28%程度増加し，ハイブリッドディーゼルは車体質量増加と回生吸収の影響から3%増～9%減となった。