一般講演

5-001

デジタル画像相関法を用いた地上コイルの熱ひずみ評価方法

○中嶋 稔・鈴木賢次・田中 実（鉄道総合技術研究所）

超電導リニアの走行に使用される地上コイルは車両を浮上・案内させるため，大きな荷重をその反力として受けると同時に，地上コイルには電流が流れるため，導体を中心に熱伸びが発生する。これらの負荷に耐えるよう地上コイルは設計されており，設計において重要となるのが，解析と実測の差異の把握である。今回は，デジタル画像相関法（DIC）を用いて，通電による温度上昇時の地上コイル全体のひずみを測定することが可能であることを確認した。また，DICの解析結果とひずみゲージでの測定結果を比較した結果，両者の結果の差を縮めることができれば精度面においてもDICは地上コイルの各種試験に適用可能であると考えられることが判明したので報告する。

5-002

2自由度球面アクチュエータの深層強化学習によるトルクマップレス制御

◎辻本壮大・平田勝弘・新口 昇（大阪大学）

近年，製造工程の複雑化に伴い，1台で多自由度駆動が可能である球面アクチュエータは，モータ数削減による小型化や高エネルギー化，位置決め制御の高精度化につながると期待されている。球面アクチュエータの制御では，各姿勢におけるトルク定数をテーブルデータ化したトルクマップを取得する必要がある。しかし，球面アクチュエータは時変かつ非線形なシステムであるため，磁場解析によるトルクマップと実機でのトルクマップとで誤差が生じ，高精度化が難しい。そこで，新たな制御手法としてトルクマップを利用しない強化学習を用いた制御手法を提案する。本研究では，6相2自由度球面アクチュエータを用いて学習制御を行い,その有効性を確認する。

5-003

半導体露光装置ウエハステージ用高推力リニア同期モータの推力リップル率低減

◎横山空羅・佐々滉大・吉田 敬（九州大学）

現在，世界的に半導体需要が増大しており，半導体製造装置のスループット向上が求められている。半導体製造工程において用いられる半導体露光装置はウェハー位置が露光光源に対して相対的に移動することにより走査状に露光が実行される。先行研究ではこのウェハステージの動力として加速度100Gで動作する永久磁石リニア同期モータの設計を行った。しかし，現モデルは推力リップル率が高く精密な位置決め精度が求められるウェハステージへの使用には推力安定性の向上が必要不可欠である。そこで本研究では，リニア同期モータの推力リップル低減を目指し，現行モデルのポールピッチを変化させ解析を行った。

5-004

Zθアクチュエータの可動子構造の検討

◎豊田裕太（大阪大学）

基盤に部品を実装する際，回転運動と直動運動の2自由度の運動が必要で，現在その2つの自由度を2つのアクチュエータを用いて実現している。この構造では部品を実装するノズルがすべて効率的に仕事しない。この問題を解決するために複数のノズルが回転運動と直動運動を独立して行う必要があり，Zθアクチュエータが注目されている。先行研究のモデルでは，コギングが大きく制御が困難である点やトルク推力が小さいという難点が存在する。そこで，上記の課題解決のため可動子に永久磁石と鉄心を軸方向に配置したZθアクチュエータを提案する。本研究では，リニアコイルの極数スロット数が出力に与える影響と，可動子ヨークの厚みが出力に与える影響を検討する。

5-005

永電磁石を用いた自由度切り替え機構に基づく広帯域振動ハーベスティングの数値的検討

◎藤原久哲・加藤雅之（茨城大学）

振動ハーベスタ（VEH）では周波数変動に耐えうる広帯域化技術が求められる。本研究では永電磁石（EPM）の吸引力を切り替え，VEHの共振周波数を変化させる新しい広帯域化手法を提案する。EPMを用いたVEHの運動方程式および回路方程式を導出することにより提案するVEHの周波数－発電量特性を数値的に計算し広帯域化を実証する。加えて，吸引力切り替え時に生じる永電磁石の消費電力と広帯域化による発電量増幅効果を比較し，損益分岐点を算出する。損益分岐点に到達するまでの時間が振動源の周波数によって変化することから，損益分岐点に到達するまでの時間と振動源の周波数の関係を算出することにより，提案するVEHの有効性を評価する。

5-006

マルチキャリア後方散乱通信を用いた浮上式鉄道用地上コイルの振動測定手法

○田中 実・中嶋 稔・鈴木賢次（鉄道総合技術研究所）・三次 仁・徳増 理（慶應義塾大学）

浮上式鉄道用地上コイルは，車両通過時に電磁力により加振されるため，振動特性の把握は重要である。簡易に振動監視を行うため，電力供給とデータ通信を無線で行うマルチキャリア後方散乱通信による振動測定手法の導入を検討した。実際に，マルチキャリア後方散乱通信に対応した2個のバッテリレス無線加速度センサと有線加速度センサを地上コイルに設置して機械加振試験を実施した。その結果，非接触で電力供給を行いながら2個のバッテリレス無線加速度センサのデータを同期して収集ができることを確認した。また，フィルタ処理を行うことで，有線の加速度センサの測定結果とほぼ一致することも確認した。

5-007

補助人工心臓用偏平型経皮的電力伝送システム -経皮トランス直径と放射磁界の関係の解析-

○柴 建次（東京理科大学）

体内埋込型補助人工心臓への電力伝送方法として，15W程度の電力をワイヤレスで体外から体内に送る方法がある。皮膚の上に置いた送電コイルと，皮下2 cm程度の体内に埋め込んだ受電コイル（経皮トランスと呼ぶ）の電磁誘導を利用して電力伝送する。しかし，経皮トランスから空間中に放射される磁界が大きいことが問題となっている。本稿では，経皮トランスの直径を小さくすることにより，放射磁界の国際的な制限値を満たすことができないか，電磁界解析による評価を行った。

5-008

高性能電動鋳造システムの開発を目的とした低融点液体金属の流動実験

◎鈴木悠太・青山真大（静岡理工科大学）・中西崇雄（ヤマハ発動機）

本研究では液体金属の電磁移送における必要磁力を明らかにすることで，鋳造現場における自動注湯用電磁ポンプの高出力密度化を目指す。本稿では電磁ポンプを簡易模擬した実験機を製作し，V/F制御駆動させた際の低融点金属（ガリウム）の流速を測定することで，流動と電磁力の関係を明らかにした結果を報告する。レーザー変位計を用いた波面流動速度評価システムを構築し，励磁周波数と電磁力（起磁力）に対する波面流動速度の評価結果から，電磁ポンプの起磁力設計の指針と，流速制御をするための制御器側の設計指針を明らかにできた。

5-009

ボンド磁石の射出成形プロセスにおける着磁用磁石の影響

◎豊島海斗・平田勝弘・宮坂史和・植松燿平・菊川永遠（大阪大学）

磁石材料と樹脂を混合して成形した永久磁石であるボンド磁石は，成形自由度が高いという利点があるが，成形品の密度や磁気特性にばらつきが生じることが問題となっている。その原因として成形プロセスにおける金型内樹脂挙動の把握が困難である事が挙げられる。そこで，成形プロセスにおける金型内樹脂挙動を数値解析により予測することで，最適な成形パラメータを決定するための指針を示す事が期待されている。成形プロセスを数値解析で追うには，流体解析，磁場解析，温度解析の連成解析が必要である。しかし，磁場計算においてその影響の評価はまだ不十分な状況であり，様々な条件で計算モデルの検証が必要である。そこで本報告では，着磁用 SmCo 磁石の構成を変更した解析モデルで検証を行った。

5-010

鉄心に巻線された高温超伝導励磁巻線を持つリニアスイッチトリラクタンスモータの特性評価

◎元田龍杜・平山 斉・川畑秋馬（鹿児島大学）

ロープレスリニアエレベータ用のリニアモータとして，推力密度の向上と損失の低減が期待できる励磁巻線に高温超伝導線材を用いた高温超伝導リニアスイッチトリラクタンスモータ（HTSLSRM）の研究が進められている。本研究では，可動子鉄心に高温超伝導線を巻線した鉄心入りHTSコイル形HTSLSRMの特性を実験により明らかにする。

5-011

遭遇型触覚デバイスのための触覚評価用リニアモータの開発

◎行平悠晟・打田正樹（鈴鹿工業高等専門学校）

我々は垂直多関節ロボットを利用した遭遇型接触デバイスを提案している。そのデバイスは，被験者の手先動作とVR映像に合わせてロボット先端の壁を制御し，壁等の触覚を提示するものである。さらに，その壁を振動させることで様々な触覚を提示することも検討している。それには遭遇型触覚デバイスにおける振動と触覚の関係を明らかにすることが必要であり，様々な振動提示が可能なデバイスが要求される。本稿では，それを実現するための第一段階として触覚提示用リニアモータの試作を行った。そのリニアモータの位置制御系を構築し周波数特性の計測を行った。

5-012

T字型補極構造を有した多極コンシクエントポールモータの実機検証

◎高橋 渉・日高勇気（長岡技術科学大学）・近藤翔太・家澤雅宏（三菱電機）

埋込磁石同期モータ（IPMSM）のトルク密度を改善する方法として，多極コンシクエントポールモータが挙げられる。同モータは，IPMSM から磁化配向を変更するのみで多極化でき，製造設備への影響を最小限にしつつ，トルク密度を改善できる。過去の文献では，多極コンシクエントポールモータの課題であるトルクリップルを，ステータに設けた T 字型補極により，平均トルクを維持しつつ低減可能なことが示された。一方，同文献では，数値検証のみ実施され，実機での検証ができていない。本研究では，T 字型補極構造を備えた多極コンシクエントポールモータの実機検証を実施する。

5-013

樹脂ユニット型シャフト締結構造を用いたスポーク型IPMモータの実機検証

◎中越翔暉・日髙勇気（長岡技術科学大学）

高出力密度化を目的に，スポーク型IPMモータが注目されている。スポーク型IPMモータは径方向に磁石を埋め込むことで，磁石表面積を増やし，多くの回転子磁束を生成できる。一方，内径側漏れ磁束による，磁石の有効利用率の低下が課題であった。先行研究では，漏れ磁束経路である内径側コアを取除き，ロータコアとシャフトとの締結を樹脂ユニットで実現することで前記課題を解決した。一方，実機検証が未実施であった。本研究では，樹脂ユニット型シャフト締結構造の実機検証を実施する。検証の結果，解析/実験結果は概ね一致しており，解析通りの特性が得られている。よって，本構造は実機特性においても有効であることが分かった。

5-014

Sm-Fe-Nボンド磁石IPMSMの高温時トルク特性

○吉田征弘（秋田大学）・吉田理恵（日亜化学工業）・武田一真（秋田大学）・阿部将裕・多田秀一・山本宗生（日亜化学工業）・田島克文（秋田大学）

筆者らは，Sm-Fe-Nボンド磁石を用いた埋め込み型永久磁石同期モータ（IPMSM）の検討を行っており，先行研究にて提案するIPMSMがネオジム焼結磁石を用いたIPMSMに対して95%とほぼ同等のトルク特性であることを，有限要素法（FEM）を用いた計算により示した。本稿では，Sm-Fe-N磁石材料の温度特性に着目し，モータの高温（150℃）動作時のトルク特性について検討したので報告する。

5-015

補助磁極をもつIPMモータの高効率領域拡大

◎渡邊昂紀・中村貴士・髙木遼斗・佐藤光秀・水野 勉（信州大学）・堀内 学（山洋電気）

IPMモータの高効率領域拡大の手段として，スロット開口部に磁性コンポジット材で作製した補助磁極をもつIPMモータを提案した。補助磁極が磁石の磁束を漏らすことで速度起電力を抑制する。また，補助磁極が磁性くさびとして機能することでスロット高調波を抑制する。FEM解析を行いIPMモータと補助磁極をもつIPMモータの効率と損失を比較した。補助磁極をもつIPMモータはIPMモータと比較して効率が95 %以上になる領域が3.1倍に拡大した。回転数Nr = 12,000 rpm，トルクT = 0.5 N/mの条件では補助磁極を持つIPMモータはIPMモータと比較して電流の実効値が1.9 A小さくなり，損失は銅損を26 W，磁石渦電流損を10 W低減し，全体では32 W低減した。

5-016

低速時の高トルクと広範囲定出力運転領域を両立するIPMSMの構造検討

◎袴田陽介・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪公立大学）・本間郁人（サンデン）・玉村周平・園田雅史（WOLONGモータ制御技術）

埋込磁石同期モータ（IPMSM）は，高出力・高効率といった性質から，産業用機器や電気自動車など幅広く用いられている。その中でも，電気自動車やコンプレッサ等の駆動では，低速高トルクかつ広範囲定出力運転能力が求められている。本研究では，低速時の高トルクと広範囲定出力運転領域の両立を目的とし，使用する磁石量の変更や，それに伴って発生した固定子における磁気飽和の緩和を検討した。検討の結果，使用磁石量の増加，ティース幅の拡張により，低・高速運転点ともに運転可能なモデルが得られた。

5-017

マトリクスホールセンサ基板とDNNの連携による永久磁石の高速磁化推定器の開発

塩山将英・○岡本吉史（法政大学）

近年，カーボンニュートラル達成のため，電動化産業が積極化しており，各種電動車両には永久磁石（PM）が装荷された様々なモータが実装されている。モータの動特性は，PMの磁化状態に大きく依存するため，高精度に着磁されたPMの装荷が必須となる。それゆえ，量産型永久磁石モータの製造工程において，PMの磁化状態を高速高精度に推定できるシステム開発が重要である。本稿では，マトリクス状にホール素子を配置した回路ボード（ホールセンサ基板）と深層ニューラルネットワーク（DNN）を連携し，永久磁石周囲で計測される磁束密度の実測値から，高速に永久磁石磁化を推定できる高速磁化推定器を開発したので，その性能を概説する。

5-018

集中巻フェライト磁石モータの検討（第一報）-スロットコンビネーションの検討-

◎植田一輝・今村圭伍・柴山義康（川崎重工業）

本研究は，産業機器向けモータを対象に，小型化，高出力化を実現しつつコギングトルク，トルクリプル，不可逆減磁といった諸特性も満足するフェライト磁石適用モータの構造提案を目的に行っている。その中で本論文はパラメータの1つとなるスロットコンビネーションを3相10極となる表面磁石型同期モータを基準に，電磁界解析より評価した。その結果，10極18スロットがコギングトルク，トルクリプル，不可逆減磁特性を満足しつつ，高出力化に適していることを明らかとした。

5-019

集中巻フェライト磁石モータの検討（第二報）-高トルク化に向けたロータ磁石配置及び高密度巻線の検討-

◎今村圭伍・植田一輝・柴山義康（川崎重工業）

本研究では，ネオジム磁石の地政学的リスク解消に向けて，広い定出力特性・低トルクリプル・低温環境下での耐減磁性が求められる産業機器向けを対象に，レアアースフリーモータ（フェライト磁石モータ）の構造検討を行っている。本発表では，第一報で明らかにした小型化に有利な極数・スロットコンビネーションをベースとして，更なる高トルク化に向けたロータ磁石配置及び高密度コイルの適用について検討を行い，磁石をスポーク形に配置したIPM構造に高密度巻線を適用することで，磁石の減磁やコイル発熱量を悪化させることなく高トルク化（従来比1.2倍程度）を実現できることを示す。

5-020

ロボット用モータにおける偏心がコギングトルクに与える影響に関する研究

◎松川航大（東海大学）・奥松美宏（トヨタ自動車）・貝森弘行（サイエンスソリューションズ）・大口英樹（東海大学）

サービスロボット等の移動を伴うロボット向けのモータは小形，軽量，高トルクが求められることから，低速高トルクを実現できる多極モータが採用される傾向にある。さらに，ロボットアームでは接触あるいは衝突した際にバックドライブすることで被害を最小限に抑えるバックドライバビリティを向上させる技術開発が求められている。本研究では，コギングトルクがバックドライバビリティに影響を及ぼすと考え，複数あるコギングトルク悪化要因の1つである偏心を考慮したモデルを構築し解析した。結果，静的偏心と比べ動的偏心の方が，コギングトルクに与える影響が大きく，偏心量の増加とともに特定の次数成分が増加することが明らかとなった。

5-021

超高パワーレートダブルステータPMモータのスロットコンビネーションに関する検討

◎杉浦功真・野口季彦（静岡大学）

永久磁石（PM）の性能向上に伴いサーボモータの高性能化が著しく進んでいる。サーボモータに求められる性能のひとつに加速度性能を表すパワーレートがある。パワーレートはトルクの2 乗をロータイナーシャで割った値である。ダブルステータ構造では，ロータの積厚はコイルエンドを含めたインナーステータの積厚より大きくし，ベアリングを接続する必要がある。そのため，インナーステータのコイルエンド長はモータイナーシャに大きく影響を与える。そこで本稿ではコイルエンド長を考慮し，高パワーレートに適したインナーステータ，アウターステータのスロットコンビネーションについて検討した。その結果，インナーステータに集中巻を採用することでコイルエンドが短くなり，イナーシャが低減されることでパワーレートが向上することを確認した。

5-022

分割型ロータコアと非磁性くさびによるIPMモータの省磁石化に関する基礎検討

◎鵜澤匠宏・日髙勇気（長岡技術科学大学）

本論文では，コンプレッサなどの車載電装品を志向したV字型IPMモータを提案する。先行研究モータでは，V字型に配置された磁石の，中央部に配置されたブリッジで漏れ磁束が発生し，V字型配置によるトルク改善効果が限定された。そこで，本論文では，V字型IPMの中央ブリッジで発生する漏れ磁束を抑制するため，分割型ロータコアと非磁性くさびを組合せたロータ構造を提案する。同構造により，先行研究で課題となっていた中央ブリッジ部の漏れ磁束が抑制され，比較モータ比10％以上の磁石量削減効果が得られることが数値検証により明らかになった。

5-023

丸線を適用した6極36スロット永久磁石同期機のコイルエンド転位が素線損失へ与える影響

◎今井葵一・大口英樹（東海大学）・今盛 聡（富士電機）

永久磁石同期機は誘導機と比較して高効率ではあるものの，さらなる高効率化が求められている。回転機の素線に発生する損失は，直流抵抗損の他に循環電流損や渦電流損が挙げられる。本研究では，定出力範囲が広くスロット漏れリアクタンスが大きいと考えられる永久磁石同期機について，丸線を適用した機械を対象とし，コイルエンド転位の有無による循環電流損や渦電流損を二次元電磁界解析により明確化することを目的とし，検討した。その結果，直流抵抗損と渦電流損に大きな変化はないものの，コイルエンド転位を施すことで並列接続された各素線間の位相差がほぼ生じなくなるため，循環電流損の大幅な低減につながることを明らかとした。

5-024

IPMSMの磁路形状が磁石温度推定に与える影響

◎新井翔己（静岡大学）・赤木亮介（スズキ）・宮野竜一・足立将一（静岡大学）

IPMSMはEVに広く採用されており，磁石がロータ内部に埋め込まれていることが特徴で，磁石温度を測定することが難しい。モータ駆動時の磁石温度が分かることで，より最適な電流条件を選択することができ，EVの電費向上の一助となる。筆者らはこれまで，電気学会Dモデルを用いて誘起電圧による磁石温度推定の精度について検証してきた。本論文では，Dモデルとは異なる磁路形状のモータを用いて，電磁界解析からその推定精度について検討したので報告する。

5-025

高速スロットレス永久磁石同期モータの消費電力削減に向けた空芯コイル形状の検討

◎山本良寛・服部知美（静岡理工科大学）・大形智彦（アドビック）

近年，家電製品などの発熱量は増加傾向にあり，この熱をそのまま放置すると製品の故障につながるため，内部で発生する熱を外部に放出し，内部を冷却する必要がある。そのため，多くの機器にはファンモータが使用されている。永久磁石同期モータの派生でスロットがない円筒型のヨークに空芯コイルとロータマグネットを組合わせたスロットレスPMSM（SL-PMSM：SlotLess Permanent Magnet Synchronous Motors）がある。スロット部の鉄損が発生しない特徴があり，SL-PMSMを用いたファンモータでは，損失低減による消費電力削減が望める。本研究では，SL-PMSMの空芯コイルにコダック方式を採用し，消費電力削減に向けた空芯コイルの形状について検討を行い，実機試験結果から消費電力削減効果を評価する。

5-026

非対称コンシクエント磁極を有する埋込型永久磁石同期モータのトポロジー最適化

◎小林由佳・岩田和久・佐々木秀徳（法政大学）

本発表では磁極の非対称性を考慮したコンシクエントポール型埋込磁石同期モータ（CP-PMSM）のトポロジー最適化手法を提案する。CP-PMSMは永久磁石を用いない疑似極と従来の磁石極を交互に有しており，従来の永久磁石同期モータ（PMSM）に比べ磁石量低減の可能性がある。しかし，従来のPMSMに比べ振動や騒音が課題となる可能性が高い。また，回転子の磁気構造の自由度が高く，電気自動車駆動用モータなどの限られた回転方向を持つモータの場合，非対称な構造も最適形状となりうる。そこで，本研究ではCP-PMSMのトポロジー最適化において，磁石の非対称性を考慮し更なる探索性能向上手法の検討や磁石位置を考慮した手法の検討を行う。

5-027

フェライト・ネオジウム磁石複合の省レアアースモータ及びその性能向上

○堺 和人・小島佑斗（東洋大学）

希土類（レアアース）磁石の埋め込み磁石モータ（IPMSM）は高出力で高効率であるが，下記の問題がある。高速回転域の効率の低下，レアアースメタルの安定供給である。そこで，希土類磁石を削減したIPMSMやリラクタンスモータの研究開発が行われている。リラクタンスモータは本質的に漏れ磁束で力率が劣ってインバータの容量増加の課題を抱えている。本稿では，フェライト磁石と希土類磁石の両方を組合わせて磁石を効果的に作用させ，さらにリラクタンストルクを高めることで高性能を維持して希土類磁石量を削減した省レアアース磁石モータの回転子とそのトポロジーが及ぼす影響を明らかにしている。

5-028

アウターロータ及びインナーロータ型モータにおけるハルバッハ磁場配列の効果

○髙木茂行・張 秋実（東京工科大学）

アウターロータタイプのPMSMの実験結果を再現する2次元のJMAGシミュレーションモデルを構築し，これをもとにアウターロータとインナーロータでのハルバッハ磁場配列の効果を調べた。駆動電流10 A，回転数500 rpmの条件で，ハルバッハ配列を適用したアウターロータとインナーロータの平均トルクは，それぞれ，39％と21％改善された。アウターロータでハルバッハ配列の効果が大きいことが示された。

5-029

ハルバッハ配列磁石を有するEV用主機モータに関する検討

◎栁沼昂志・中村健二（東北大学）

近年，温室効果ガスを排出しないEVの普及が拡大しており，駆動源となるモータにはさらなる小型高出力・高効率化が求められている。本稿では，EV用主機モータの高トルク密度化を目的として，ハルバッハ配列磁石を有する表面磁石同期モータに関して，これに適した固定子スロット構成について基礎検討を行った。2次元有限要素解析により，16極48スロットと16極18スロットで速度トルク特性を算定したところ，16極18スロットで最大トルクが目標値の550 N·mに届いていることが分かった。これは，スロット数の減少による鉄心の実行断面積の拡大と，固定子極先端のツバを省くことによる巻線スペースの拡大が原因だと考えられる。今後は，損失や効率に関する比較検討を行うとともに，実機検証を行う予定である。

5-030

モータ内部に油を浸した状態の流体摩擦損の評価

○杉本愼治・郡 大祐（日立製作所）

水冷・油冷を併用し，油冷のためのポンプおよび冷却器を不要とした冷却方式を採用した。この冷却方式では，冷却油を機内に封入し，回転子の回転作用により冷却油を掻き上げることで，機内の熱伝達性を高め，前述した追加装置を不要とした。一方で，冷却油を掻き上げることでコイルを冷却する必要があるが，回転子と冷却油との間に流体摩擦損が発生し，モータの機械損が増加する。この観点から，冷却油が少ない方が機械損は小さいが，冷却油が多い方が冷却効果は高く，両者はトレードオフの関係にある。本報告では，ミニモデルを用いて測定した流体摩擦損から実機への適用した場合の流体摩擦損を評価した結果について報告する。

5-031

絶縁レジン浸透解析技術の確立

○山田憲一（明電舎）

高電圧回転機の技術的課題として，固定子コイルへのレジン含浸性が挙げられる。絶縁テープを巻き付けることで構成される高圧回転機の固定子コイル絶縁では，レジンの浸透性悪化による含浸不良は，回転機の電気性能に大きな影響を与える。そのため，含浸性の確認手法確立は大きな課題となっている。そこで，この含浸性の問題を解決するために，コイルモデリングによる含浸性解析を実施した。その結果，解析によって含浸性を判断できることが分かった。また，この解析手法を応用することで，含浸の各種条件を変更する場合でも事前にその影響度を知ることができ，開発時間の短縮も期待できる。

5-032

異常模擬モータを用いた永久磁石同期モータにおける相内短絡現象の実験的検証

◎鍋島隆太郎・知場大聖・清水悠生（立命館大学）・早田卓益・内川拓也・菅原寛生・小林敏和（IHI）・川畑良尚（立命館大学）

近年，航空機の電動化が盛んに推進されており，永久磁石型同期モータを搭載した動力システムが開発されている。航空機では非常に高い安全性が求められ，故障現象の解析が重要になっている。そこで本研究では，各スロットに引き出し線を設けた永久磁石同期モータを用いて短絡現象を模擬し，相内短絡現象を実験的に検証した。結果として，短絡が生じている箇所に流れる電流と各パラメータとの関係を定性的に確認した。実験結果は理論式と同様の傾向を示すことがわかった。今後は，短絡現象の制御部へ影響や，短絡発生箇所による違いについて検討する。

5-033

永久磁石モータにおける電機子巻線の循環電流損低減に関する実験的基礎検討

◎山畑佳子（東芝インフラシステムズ）

スロット内の素線配置を管理した基礎評価によって，極と極の渡りでコイルを180度捻ることにより，素線間循環電流損を抑制できることを実験的に確認できた。

5-034

鉄心加工条件が小型モータコアの鉄損に及ぼす影響

◎吉﨑聡一郎・財前善彰・大久保智幸（JFEスチール）

一般的にモータ鉄心の量産では打抜き加工プロセスが採用されるが，打抜き端面近傍での残留応力により電磁鋼板の鉄損が増加する。高効率モータの実現には，加工が鉄損へ及ぼす影響を理解し，これを抑制する技術が重要である。そこで加工条件の異なるモータ鉄心の鉄損を実測評価した。一般的な無方向性電磁鋼板を用い「打抜き加工，カシメ積層」により製作したモータ鉄心は鉄損が1.40 倍に増加した。一方，板厚方向にSi濃度分布を有するSi 傾斜磁性材料（JNHF）では，鉄心加工に伴う鉄損の増加は1.16倍と小さかった。FEM鉄損解析との比較から鉄損増加の主要因は鉄心加工による応力の影響と考えられ，Si 傾斜磁性材料の活用により抑制可能であることを示した。

5-035

誘導モータの過渡解析高速化に関する検討

○竹内活徳・松下真琴（東芝インフラシステムズ）

有限要素法による磁界解析（FEA）によって誘導モータの特性を計算する場合，時間調和FEAの解を初期値として過渡FEAを実行することで，より早く定常解を得ることができる。筆者らは，これまでに時間調和FEAの計算精度を改善する方法を提案しており，今回，提案手法を過渡解析に適用した場合にどの程度計算時間が短くできるかを検証した。

5-036

可変速誘導電動機の稼働時鉄損の簡易算定法

◎岡田侑大・平原英明・山本 修（職業能力開発総合大学校）

近年，省エネルギー化の観点からインバータによる誘導電動機（IM）の可変速駆動システムへの適用が進んでいる。特に，電圧と周波数の比を一定とするV/f運転は，汎用的な速度制御法として広く用いられている。V/f運転中のIMの損失を精度良く求めることができれば，効率のリアルタイム評価が可能となる。このような背景から，著者らはデジタルパワーメータで計測した電圧，電流，入力および周波数からIM稼働時の損失を算定し，トルクや効率を推定する手法を検討している。本稿では，上記手法における鉄損の算定法を改良し，2つの周波数における無負荷試験から任意のV/f運転時における鉄損を簡易的に算定する手法について検討したので報告する。

5-037

均質化法とカウアー回路に基づくモータ巻線銅損の時間領域解析

◎劉 橋・五十嵐 一（北海道大学）

It has been reported that magnetic devices can be represented by the homogenized FEM in frequency domain. To analyze the eddy currents in the motor winding, taking into account the higher harmonics and magnetic saturation in the magnetic core, it is desirable to represent the homogenized material by an equivalent circuit that is useful for time domain analysis. This presentation shows that we can construct the Cauer equivalent circuit directly from the homogenized complex permeability. The proposed method allows us to analyze copper losses in the winding of a permanent magnet motor in the post processing of magnetostatic finite element method.

5-038

主成分分析を活用したCNNによるSynRMの特性予測手法に関する検討

◎関口汐音・佐々木秀徳（法政大学）・日高勇気（長岡技術科学大学）

本発表では，複数のモータ特性を同時推定する畳込みニューラルネットワーク（CNN）を高精度に学習するための前処理手法を提案する。モータ設計において，CNNは一つの材料分布に対し，さまざまな特性を複数電流指定値で同時に評価することが望ましい。ただ，すべての特性に対し高精度な推定モデルを構築するためには，データ分布がすべての特性に対して均一化される必要がある。提案手法では主成分分析により，次元圧縮を行い，圧縮空間上で抽出することで，各特性に対して均一化されたデータ群を生成できる。本発表では提案手法をシンクロナスリラクタンスモータに適用し，手法の有用性を検証する。

5-039

永久磁石モータのトポロジー最適化における正則化の効果について

◎久保慧人・佐藤駿輔・五十嵐 一（北海道大学）

永久磁石モータのトポロジー最適化を行った結果，複雑形状が得られる場合があり，その場合には改めてパラメータ最適化を行う等の作業が必要であった。そこで本研究では，形状の複雑さを制御するため，正則化項をトポロジー最適化の目的関数に導入し，その効果を検討した。結果として，正則化項を導入することで従来の細かな空隙部分が減少し形状の纏まりを得た。また正則化項の大きさに関わらず，T_avgに大きな変化が見られなかった。これはT_avgが細かな構造に影響を受けにくいからだと考えられる。一方でT_ripはフラックスバリアの細かな構造に影響を受けるため，正則化項の導入によってT_ripの大きく値が変化した。

5-040

トポロジー最適化によるIPMモータの磁石渦電流損低減に関する検討

◎柏田和希・岡本吉史（法政大学）

埋込磁石同期モータ（IPMSM）は，高出力・高効率の観点から，様々な産業機械に応用されている。しかし，IPMSMの高速駆動域では効率が低下し，永久磁石（PM）で発生する渦電流損失によるPMの熱減磁が懸念される。そこで，自動形状最適化法により，効率的に磁石渦電流損失の低減が試みられている。また，高い自由度や構造の抜本的改変が可能な観点から，トポロジー最適化（TO）が構造最適化手法として使用されている。本論文では，ロータのブリッジを設計領域として，勾配ベースのTOを適用し，磁石渦電流損失の低減を試みたので，その結果について報告する。

5-041

既存の最適化結果を活用したIPMモータの自動設計法

◎代田航大・佐藤孝洋・渡邊浩太（室蘭工業大学）・杉本麻梨子・新谷翔吾・鈴木信行（東芝）

IPMモータの高性能化に向けた最適化技術として，トポロジー最適化と進化型計算手法を組み合わせた研究が行われている。しかし，通常，最適化は評価値の最も良い1つの解を得るため，進化過程において多くの評価個体は捨てられているという問題がある。この問題を解決するため，強化学習と木探索を用いた自動設計手法を用いる。IPMモータの設計手順を木構造で表現し，進化過程の個体データを用いて強化学習を適用することで，与えられた要求仕様に適した設計案を生成する方法を検討する。本法により未知の要求に対して柔軟に設計案を提供できることが期待される。

5-042

ネオジム焼結磁石の着磁磁界の角度依存性

○堀 充孝・冨田直矢（日本電磁測器）・山本日登志（ネオジコンサル）

最近では自動車主機用モータとしてIPMSM（埋め込み磁石型同期モータ）が使用され，多くは異方性を有するネオジム焼結磁石がロータに組み込まれている。ロータ内の磁石を着磁する場合，生産効率を向上させるためロータに磁石を埋め込んだ状態で着磁する方法（後着磁法）が主流となっている。ロータ外周面に多極着磁ヨークを配置しパルス磁界（着磁磁界）で磁石を着磁するが，磁化容易（配向）方向に必ずしも平行に着磁磁界を印加することができない。着磁磁界の方向と配向方向の角度が，どのように着磁に影響するのか角度依存性について基礎実験を行ったので報告する。

5-043

回転発熱機向け溝付きソリッドロータ誘導機におけるロータ溝数が損失に与える影響に関する研究

◎劉 佳雨（東海大学）・今盛 聡（富士電機）・岡﨑 徹（エネルギー総合工学研究所）・三浦友史・齋藤博起（長岡技術科学大学）・大口英樹（東海大学）

近年，再生可能エネルギーによる発電量が増加しており，余剰電力の有効活用に向け蓄熱が注目されており，電熱変換装置に回転発熱機を適用することが検討されている。回転発熱機ではロータの発熱量，すなわちロータ損失をなるべく大きくすることが求められる。本研究では回転発熱機として誘導機の適用を想定し，かご型ロータに比べロータ損失の大きい溝付きソリッドロータを対象とする。本研究の目的は，溝付きソリッドロータ誘導機においてロータ溝数が損失に与える影響を電磁界解析により明確化することである。具体的には，ロータ溝数を1極対あたり12，15，17とし，定格電圧100 V，すべり0として，解析により比較した。

5-044

永久磁石同期機の固定子鉄心のかしめの短絡領域が渦電流損へ与える影響に関する研究

○大口英樹・植松和也（東海大学）・今盛 聡（富士電機）

永久磁石同期機は小形・高効率等の特徴を有するものの，さらなる小形・高効率化が求められている。回転機の鉄心の損失を増加させる要因としてプレスによる打ち抜きやフレームによる応力，空間および時間高調波，溶接やかしめ等が挙げられる。これら要因の中で本論ではかしめに着目した。電磁界解析でかしめを考慮するにあたり，かしめ領域全体を積層方向に導通させた場合と，かしめ領域の長手方向の両端0.1 mmを導通させた場合とで渦電流損の変化を電磁界解析により検証した。結果，両者で大きな差が生じることが明らかとなった。今後の課題としてかしめ領域のモデリング方法や層間抵抗の測定が挙げられる。

5-045

永久磁石同期機の固定子鉄心のかしめの位置が渦電流損へ与える影響に関する研究

◎植松和也（東海大学）・今盛 聡（富士電機）・大口英樹（東海大学）

モータの鉄心のずれを防止するにあたりかしめが用いられている。本論では，永久磁石同期機を対象として，固定子鉄心の周方向に離れた2箇所に施されたかしめの径方向の位置や周方向の間隔の違いが渦電流損へ与える影響について検討した。かしめ部は長手方向両端から0.1mmを積層方向に短絡しているとした。かしめ間の周方向の間隔が最大と最小のケースで発生する渦電流損を比較することで，かしめを施す位置により渦電流損に差が生じ，かしめを施す間隔が狭いほど渦電流損が小さくなることを明らかにした。

5-046

永久磁石同期モータの無負荷誘導起電力を用いた永久磁石磁化分布の非破壊推定手法に関する検討

◎鈴木元芽・岡本吉史（法政大学）

Because a magnetization process of permanent magnet (PM) with high accuracy is desirable for manufacturing a high-performance PM synchronous motor (PMSM), the PM magnetization estimation in the design process is essential. After the post-assembly magnetization of PM loaded on the PMSM, the no-load back electromotive force (no-load back EMF, hereafter abbreviated as BEMF) is utilized for the simple estimation of the magnetization condition of PM. However, since the estimation is performed by comparing the back EMF measured under the no-load condition with the reference PM, the PM magnetization is not directly estimated. In this study, the direct estimation method of PM magnetization using back EMF of PMSM is proposed.

5-047

MELFによるIPMSM回転子の表面磁束計測値を用いた永久磁石磁化推定に関する検討

◎中村勢到・塩山将英・岡本吉史（法政大学）

永久磁石同期電動機（PMSM）の製造工程において，永久磁石の着磁工程は，PMSMの性能を担保するうえで，重要である。組立後着磁を行った永久磁石の品質は，フラックスメータや無負荷誘導起電力等で検査されているが，磁石内部の詳細な磁化状態までは評価できない。そこで，我々は磁気回路の漏れ磁束を活用した永久磁石磁化推定手法（MELF）を提案したが，実機に対する性能は不明確であった。本論文では，モータ回転子の表面磁束の実測値を入力値とし，電気学会ベンチマークモデルDモデルに装荷されている永久磁石の磁化推定を実施した。自由空間中に置かれた永久磁石の磁化推定手法SiGradから得られる結果と比較し，提案手法の有効性を検証した。

5-048

負荷時タップ切替装置のモータ電流計測によるトルク異常検出に関する検証

◎松本 陵・小野恭平・山本尚史（東京電力パワーグリッド）・西川英治・兒谷憲史（近計システム）

負荷時タップ切替装置（LTC）の点検として，電力各社は概ね，定期的にトルク測定を実施している（必要の都度。特定形式のみの社も有り）。本稿では，トルク測定による点検を自動化するために，モータ電流とトルクとの相関に着目し，機械的故障を模擬したLTCでのモータ電流を測定し，診断の有効性を検証した。今回のケースではタップ操作が可能な範囲で，異常検出できるため，常時監視をする場合は，一定の効果があると考えられる。

5-049

運転中部分放電測定を用いた固定子巻線の相間短絡事故様相の推定

◎肥田壮太郎（関西電力）・宮嵜 悟・金神雅樹・倉石隆志（電力中央研究所）

運転中部分放電測定を用いて診断を行っている発電機において，下コイルエンド部でV－W相間の短絡事故が発生した。本稿では，測定された運転中部分放電測定の結果を用いて短絡事故様相を検討した事例を紹介する。事故発生8カ月前の運転中部分放電測定ではギャップ間放電の発生が推測されるW相に同期した雲状のパターンが確認されていた。事故発生4カ月前にはこれまでの雲状パターンに加えて位相の異なるW相に同期しない雲状パターンが確認された。また，コイルエンド部の絶縁キャップ部にクラックが確認されていることから，相間放電が発生していたことで絶縁層が侵食され短絡事故に至ったと推定される。

5-050

アンサンブル学習モデルによる誘導電動機の異常電磁騒音発生リスク判定

○若杉 直・吉武 翔・小山田将亜（東芝三菱電機産業システム）・服部恵海・國松禎明・水本郁朗（熊本大学）

電動機の騒音には機械騒音と電磁騒音に大別されるが，電磁騒音については相関性の複雑さからその発生を容易に判定する手法は確立されていない。そこで先行研究では多数の電動機の設計・試験データを教師データとして使用したニューラルネットワークを用いた異常電磁音発生のリスクを判定する手法を報告した。今回の報告では，計算コストの削減と正答率の向上を目的に，ニューラルネットワークに代わり，弱学習機を多数組み合わせたアンサンブル学習（ランダムフォレスト，XGBoost，スタッキング）を検討した。その結果，どの手法においても計算コストの削減と，正答率の向上が確認でき，その中でもXGBoostが最も高い正答率であることを確認した。

5-051

自動車駆動用高出力誘導機における無負荷損失発生原因の究明

◎松﨑馨吾・千葉 明（東京工業大学）・小林雅志（トヨタ自動車）

誘導電動機（IM）は構造が簡単で堅牢性が高く，ネオジム等のレアアースを使用しないため，産業機器にとどまらず，電気自動車（EV）にも応用されている。IMの無負荷時では，理論上，二次側に電流が発生しないため，損失は大きくならないはずである。しかし，解析上では損失が発生しており，1000rpm時と8000rpm時の損失を比較すると8000rpmの時の損失が大きくなっていることを確認した。本論文では，EV用400kW IMの無負荷時について電磁界解析を行い，磁束線，電流密度コンターマップの推移及び二次電流波形を確認する。その結果，無負荷時の損失の発生原因はスロット高調波であり，回転数が大きくなると表皮効果の影響が大きくなり損失が増加することを明らかにする。

5-052

シングルサイド形アキシャルフラックスモータの実機基礎検証結果

○山内智英・津谷宏紀（ヘガネスジャパン）・青山真大（静岡理工科大学）

扁平形状ながら高いトルク密度で注目されるアキシャルフラックスモータのうち，簡素な構造で小サイズでも適用しやすいシングルサイド形について，実機による基礎検証を行った結果を報告する。ステータコアおよびロータコアにはそれぞれ軟磁性複合材による成型コアを使用している。検証の結果，現試験設備の制限により約400Wまでの測定ではあるが，最大92%以上の高効率を示すことを確認した。今後は高負荷且つ高回転側の実機検証と損失詳細分析を進めていく計画。

5-053

3D-FEM磁界解析を用いたシングルステータ形アキシャルフラックスモータにおける磁気吸引力を低減するリング形永久磁石ユニット間ギャップとd軸電流の検討

◎小柳瑠雅・杉元紘也（東京電機大学）・落合章裕・佐藤 忠（荏原製作所）

永久磁石回転子を持つアキシャルフラックスモータは，薄型でトルク密度が高い特徴がある。その中でも，一組の回転子と固定子で構成されるシングルステータ形は，両側に固定子を持つダブルステータ形と比較して，さらに薄型化が可能である。一方，構造上発生する回転子永久磁石と固定子鉄心間の軸方向の磁気吸引力に起因する振動や騒音の低減が課題である。本稿では，シングルステータ形アキシャルモータについて，3D-FEM磁界解析を用いて，リング形永久磁石ユニットの磁気吸引力とアキシャルフラックスモータの磁気吸引力を計算する。また，それらの磁気吸引力が釣り合うために必要なd軸電流とリング形永久磁石ユニットのギャップの関係を明らかにする。

5-054

コイルエンドの影響を考慮したアキシャルギャップ型SRモータの疑似三次元解析の検討

◎大石達也・後藤博樹（宇都宮大学）

疑似三次元解析は3次元のモータを半径方向に分割することで2次元モデルとして有限要素解析を行う方法であり，アキシャルギャップ型SRモータにおいて3次元有限要素解析に比べて解析時間を8分の1程度に短縮できる。しかし，疑似三次元解析ではコイルエンドを考慮していないため，内径・外径付近の解析精度が悪化する。そのため，本研究ではモータの磁化特性を補正することで疑似三次元解析の解析精度向上について検討を行った。

5-055

デュアルアキシャルギャップモータにおけるコギングトルクが相殺可能な磁石形状設計

◎水野暁斗・佐藤大佑・北川 亘・竹下隆晴（名古屋工業大学）

軸方向に制約のあるアプリケーションにおいて，薄型かつ高出力密度の両方が実現可能なアキシャルギャップモータの需要が拡大している。しかし，モータの回転時にコギングトルクが発生し，騒音や振動を引き起こすという問題がある。本研究では，磁石形状設計により，デュアルアキシャルギャップモータにおけるコギングトルクの低減を図った。具体的には，ロータ上部に配置された永久磁石を左右反転させることで，各高調波の相殺を可能にした。また，シフト角度に制約条件を導入し，これを満たす磁石形状をランダムに生成することで，相殺可能な形状を特定した。結果として，コギングトルクを94.0％低減し，提案手法の有効性が示された。

5-056

アスペクト比最適化によるアキシャルギャップ直流励磁形FSMの高トルク密度化

◎小石雄大・後藤博樹（宇都宮大学）

本稿では，アキシャルギャップ直流励磁形フラックススイッチングモータ（DCEFSM）が最大トルクを得る軸長直径比について検討を行った。モータは24スロット，14極の構成で，シングルステータ・ダブルロータ構造とした。軸長直径比毎にモータ形状を最適化し，モータ体積が同一であるラジアルギャップ型DCEFSMと比較を行った。その結果，アキシャルギャップ型はラジアルギャップ型よりも高トルクであることを明らかにした。また，アキシャルギャップ型の最大トルク密度は軸長直径比が0.167のときに63.3 Nm/Lとなり，高トルク密度を実現できることを明らかにした。

5-057

電機子コイルエンドと零相電流を利用したアキシャルギャップ形可変界磁PMSM

◎岩間清大・野口季彦（静岡大学）

アキシャルギャップ形のPMSMは扁平構造が求められる用途において，ラジアルギャップ形よりも高トルクが出力できるため注目されている。また，先行研究として提案されているアキシャルギャップ形可変界磁PMSMは，電機子巻線と界磁巻線を併用し，界磁巻線に直流の界磁電流を供給することで，界磁制御を達成している。しかし，界磁巻線を挿入するためモータの体積が大きく，また界磁電流を供給するためにDC/DCコンバータをインバータと併用する必要があり駆動回路が大きいという課題がある。そこで本稿では，追加巻線および回路を要しない新しいアキシャルギャップ形可変界磁PMSMを提案する。また，従来の可変界磁PMSMを比較モデルとし，提案する可変界磁PMSMがモータ体積，銅損の観点で優位性があることを電磁界解析より明らかにする。

5-058

界磁ユニット式磁石補助型巻線界磁モータのトルクリップルを低減するフラックスバリア形状の提案と実機検証

◎MINH KHOA NGUYEN・日高勇気（長岡技術科学大学）

電気自動車用モータとして，磁石補助型巻線界磁モータが着目されている。しかし，先行研究で提案されたモータでは，トルクリップルが課題となっていた。本研究では，先行研究のモータを従来構造とし，トルクリップル低減を実現する，フラックスバリア構造を提案する。また，同構造を適用した試作機を製作し，トルクリップル低減効果を実機試験にて明らかにする。

5-059

EV・HEV向磁石補助型巻線界磁モータの界磁ユニット構造による高トルク密度化

◎安達健悟・日高勇気（長岡技術科学大学）・佐藤大介（長岡モータディベロップメント）

近年，電動車両（EV・HEV）用モータにおいて，磁石補助型巻線界磁モータが着目されている。著者らも，界磁ユニット構造を考案し，同モータの高トルク密度化を実現した。先行研究では数kWの原理検証機を用いた検討に留まっており，実車両を想定した出力帯での有効性は明らかではない。本研究では，45kW相当の仕様で界磁ユニット構造を適用し，提案構造の拡張性を明らかにする。また，自動車用モータに必要となる高速回転時の強度特性を確保するため，分散ほぞ構造を備えた新たなロータ形状を提案する。

5-060

ハイブリッド界磁形二層磁石配置IPMモータの効率に関する研究

大口英樹・◎岡元 竣・金井拓磨・戒能佳弥・苅込怜駿・小野裕規（東海大学）

IPMSMはd軸電流を利用した弱め磁束制御により運転範囲を拡大でき，高速運転が可能となる。しかし，d軸電流の増加に伴い銅損が増加し高速域における効率の低下が問題となる。この問題を解決するべく，モータ内の磁束を調整できる可変磁束モータが提案されている。可変磁束モータの1つであるハイブリッド界磁形同期モータは，永久磁石と界磁巻線により界磁磁束が得られ，界磁電流を制御することによって界磁を調整可能である。本研究では，電気学会調査専門委員会のベンチマークモデルであるDモデルモータと，これをベースとした提案モータの効率を電磁界解析により比較，検討した。

5-061

キャリア高調波自励巻線界磁モータ用準コアレス三相PCB回転トランス

青山真大・◎寺田晴彦（静岡理工科大学）

本研究では，巻線界磁形同期モータへのブラシレス給電方式において励磁専用の電力変換器を不要とする受動駆動可能な回転トランスシステムに関する内容である。PWM制御上不可避に生じるキャリア高調波を回転トランスの励磁源として利用し，回転トランスを極低インダクタンス且つキャリア高調波を共振周波数とするバンドパスフィルタ特性を持たせることでそのシステムを実現する。本稿ではプリント基板コイルを用いた三相コアレス回転トランスを提案し，その基礎的な特性を電磁界解析によって明らかにした結果を報告する。

5-062

電気的機電一体化を見据えたPCBコイル式可変界磁PMモータ

○青山真大（静岡理工科大学）・Glynn Atkinson（Newcastle University）

本研究はモータドライブシステムの小型・軽量・高効率化を目的としたモータ・インバータの電気的機電一体化を目指した内容であり，第一ステップとしてプリント基板コイルを採用した可変界磁PMモータについて研究している。本稿では自励巻線界磁モータを対象に，ステータとロータ側ともにプリント基板コイル構造を採用し，基板積層構造による起磁力設計やプリント基板コイルパターン設計について述べる。次に試作機を明らかにし，電磁界解析によって駆動特性を明らかにした結果を報告する。

5-063

永久磁石の磁気ヒステリシスを考慮した可変磁束メモリモータの磁気回路網モデル

◎深田敏希・羽根吉紀・中村健二（東北大学）

メモリモータは，永久磁石の磁力を制御することで高効率を保ちながら可変速運転が可能であり，今後の電気自動車への応用が期待されている。より高性能なメモリモータの設計のためには，可変磁力磁石の磁気ヒステリシスを定量的にモデル化した特性算定手法の確立が望まれるが，計算時間の長大化が懸念される。そこで本稿では，メモリモータの高速かつ高精度な解析を目的として，モデルが簡便かつ高速計算が可能な磁気回路網解析（Reluctance Network Analysis : RNA）に着目し，代表的なヒステリシスモデルの一つであるプレイモデルを取り入れたメモリモータのRNAモデルを提案する。

5-064

12/10スイッチトリラクタンスモータのベクトル制御時とパルス駆動時の特性比較

◎長野将人・平田勝弘・新口 昇・竹村 望（大阪大学）

資源の枯渇問題等から永久磁石を用いないモータとしてスイッチトリラクタンスモータ（SRM）が注目されている。6相インバータを用いて駆動する12/10SRMについてベクトル制御時とパルス駆動時の特性を比較する。同一電流実効値において各駆動法の最大トルクを比較すると，すべての回転速度においてパルス駆動時の方が大きなトルクが得られることが分かった。その原因として電流波形に着目した。低速域ではベクトル制御時に電流を正弦波に制御したことで負のトルクが発生する区間でコイルを励磁することになり，トルクが低下すると考えられる。高速域になるにつれて電流波形は互いに近づくが，ベクトル制御時の方がわずかに大きな進み角となり，トルクが低下すると考えられる。

5-065

自動車駆動用高速小型SRMの出力密度最大化に関する一検討

○清田恭平・許 文懿・千葉 明（東京工業大学）・出口順一（トヨタ自動車）

モータを高速回転化するためには電磁設計だけではなく回転子の強度や危険速度の検討が必須である。この際，モータの外径や軸長から一体的に検討する必要がある。本稿では，永久磁石を使用せず，高速回転に有利であるスイッチトリラクタンスモータを検討対象とする。著者らは既に，磁化特性を用いたハイブリッド自動車用スイッチトリラクタンスモータの簡易的な固定子外径・軸長比の最適化法を提案している。本稿では検討項目にさらに回転子の強度および危険速度の算出を組み込むことにより，SRMの出力密度を最大化する設計法を提案する。この結果，最大出力密度が8.3 kW/kgとなることを明らかにする。

5-066

自動車駆動用高速小型SRMの巻数設定に関する検討

◎許 文懿・清田恭平・千葉 明（東京工業大学）・出口順一（トヨタ自動車）

近年，レアアースを全く使用しないスイッチトリラクタンスモータ（SRM）が注目されている。SRM は鉄心と巻き線のみで構成されるため，特に高回転下での出力と効率が期待される。本稿では，超高速回転に特化したSRMを検討対象にする。まず，電流密度が一定の条件下で巻数のみを変化させた際，5巻，7巻と10巻のうち，5巻と7巻において最大トルクおよび最大出力が目標性能に到達することを明らかにする。次に，5巻と7巻の低速・高速域における効率を比較し，5巻にした場合より7巻にした場合の高速域における効率が低下することを示し，その原因が銅損増加によるものであることを両者の損失を比較することによって明らかにする。

5-067

立体ギャップ構造を有するSRMにおけるロータコアティース形状のトルクへの影響

◎下浜伊織・髙井大熙・大山和宏（福岡工業大学）・藤井裕昭・上原一士・百武 康（明和製作所）

立体ギャップ構造を有するSRM（3D-SRM）におけるロータコアティースの形状を設計する。筆者らがこれまでに提案したType 1では，ロータコアのテーパー角で延長するためにそのティース先端の弧長がステータコアティース先端の弧長と一致していない。Type 2は，ロータコアとステータコアのティース弧長を一致させることにより軸方向の磁路断面積がほぼ等しくなるように設計している。Type 1とType 2のトルク特性への影響の比較を行うために，電流0～100Aにおいて3D静磁場解析を行い，静止トルクを計算し，その計算値を基に完全非対向位置から完全対向位置までの平均トルクを算出する。0°から8°におけるType 2の平均トルクは，Type 1よりも向上した。

5-068

単相拘束試験によるSynRMのインダクタンス算定法

◎森山雄介・若杉 直・古賀郁也・小山田将亜（東芝三菱電機産業システム）

近年，脱炭素社会実現への動きが加速，産業用モータにおいても更なる高効率化が求められており，高効率かつ永久磁石を使用しない同期リラクタンスモータ（SynRM）は環境負荷や保守性の観点で注目を集めている。しかしSynRMは誘導モータなどの様な特性算定法が確立されておらず，実負荷法により運転特性を求める必要がある。先行研究では，等価回路法による特性算定法を提案したが，計算に用いるインダクタンスの導出に仮定を含む算定としていた。そこで，本研究では電磁界解析を用いて単相拘束時および三相電源運転時のSynRM のインダクタンスの性質について考察し，三相電源運転時に近いインダクタンスを単相拘束試験により算定する方法を提案する。

5-069

回転角度情報を必要としない2軸制御表面貼付形永久磁石ベアリングレスモータの提案

◎河野匠馬・橋本和樹・杉元紘也（東京電機大学）・野口孝浩（University of Minnesota）

ベアリングレスモータは回転軸を非接触で磁気支持しながら回転トルクを発生することができるため，無摩耗，潤滑油不要などの特徴がある。一般的にホモポーラ形は，回転子の回転角度に依存せず，支持巻線に直流電流を流すことで，一方向に一定の半径方向力を発生させることができるため，回転角度情報が不要になる。一方，トルクと支持力が発生しない部分の回転子軸長が増加してしまう問題がある。そのため，回転子軸長を短縮する方法が研究されている。本稿では，半径方向にパラレル着磁された永久磁石を持つ新しい表面貼付永久磁石形のHPM形ベアリングレスモータを提案する。半径方向の磁気支持力発生原理を示し，3D-FEM磁界解析により回転角度に依存せず，直流電流で一定の力を発生可能であることを明らかにする。

5-070

5相永久磁石同期モータにおけるラジアル力高調波の検討

◎峯岸宏典・藤井勇介・千葉 明（東京工業大学）

本研究では，5相永久磁石モータがラジアル力（半径方向電磁加振力）に及ぼす影響を検討する。HEV・EV用の主機および補機モータでは，高効率・高出力密度を有する三相永久磁石モータが使用されているが，近年フェールセーフの観点から多相永久磁石モータの適用がすすめられている。特に，5相永久磁石モータでは，高調波電流重畳による平均トルクの向上が報告されている。一方で，上記の用途において重要な課題である振動騒音に関する報告は少ない。本稿では，まず5相永久磁石モータにおけるラジアル力の空間分布とその周波数成分を明らかにし，主要なラジアル力高調波成分を示す。最後にその主要高調波成分の低減手法を提案する。

5-071

電気的機電一体化を見据えた空芯PCBモータ

青山真大・◎向山純平（静岡理工科大学）

本研究はトルクおよび出力重量密度の向上を目的とした空芯永久磁石式同期モータに関する内容である。モータと駆動用インバータの電気的機電一体化を見据えてプリント基板ステータを提案し，その最適なコイルパターンやスロットコンビネーションについて述べる。ロータ側も空芯構造を実現するためハルバッハ配列構造を採用する。本稿では電磁界解析によるプリント基板ステータの構造最適化について説明し，提案するモータの構造とその基礎的な駆動特性を明らかにした結果を報告する。

5-072

エアギャップワインディングの両側給電回転電機の磁界共振結合による高性能化

◎清水 遼・堺 和人（東洋大学）

現在，自動車や飛行機の電動化が進められており，高出力密度で高効率のモータが求められている。そこで本稿では，固定子と回転子の両側から給電を行う両側給電回転電機（DFM）にエアギャップワインディングの磁界共振結合（MRCM）を組み合わせた両側給電磁界共振結合回転電機についてモータ特性を得た。両側給電磁界共振結合モータは一次と二次のキャパシタを駆動周波数において共振させることにより，最大トルクや損失は同一の特性のまま，トルクが最大となる一次に対する二次の電流ベクトルの位相差において，一次と二次，ともに30%の低電圧化と力率の向上を確認できた。

5-073

ワイヤレス給電を適用したアキシャルギャップ両側給電モータ

◎清浦皐生・堺 和人（東洋大学）

電気飛行機用モータでは，電気自動車用モータよりも高出力密度が求められる。本研究室ではさらなる高出力密度化や速度制御範囲拡大に向け，一次と二次の両方から給電をする両側給電モータの研究を行っている。本発表では，アキシャルギャップ両側給電モータにおける二次側への電力供給にワイヤレス電力伝送（WPT）を使用したときの駆動特性について報告する。

5-074

自己始動形突極同期電動機の引入れ時のトルク改善を目的とした励磁制御回路のデジタル化

◎松浦皓平・小杉優介・渡邊 剛（東芝三菱電機産業システム）・竹内文章・竹内活徳・松下真琴（東芝インフラシステムズ）

自己始動形突極同期電動機は，設備の初期費用を抑制できることから，大形のコンプレッサ及びポンプ用として多くの需要がある。近年，コンプレッサのGD2 と負荷反抗トルクの要求が厳しく，低始動電流，高始動トルク性能（高い同期引入れトルク）が要求されている。従来の励磁制御回路では，励磁投入のタイミングが適位相から遅れ，引入れ時のトルクが最大化できない課題があった。そこで本論では，同期引入れ時のトルク改善を目的として，励磁制御回路のデジタル化に取り組んだ。結果として，適位相での励磁投入が可能となり，引入れ時のトルクを最大限引き出すこと，またトルクの脈動を低減することが可能になった。

5-075

高速モータとアキシャルギャップ型磁気ギアを用いた駆動システムの特性評価

◎上條大海・相曽浩平（芝浦工業大学）・赤津 観（横浜国立大学）・青山康明（日立製作所）

駆動システムの小型軽量化のためには，モータの高速化が有効であり，高速化した場合，歯車など機械式ギアでの変速が必要になる。しかし，機械式ギアは接触によって動力変換を行うため，熱や振動・騒音が発生し，高速領域でさらに深刻になる。これらの課題を解決するために，磁石を用いた非接触の磁気ギアMMSG（Magnetic Multiple Spur Gear）が提案されている。MMSGは，アキシャルギャップ構造にすることで，非常にトルク密度と接触リスクの低減が可能という特徴がある。本論文では，複数台の小型軽量な高速モータと上記の特徴を持つアキシャルギャップ型 MMSGを用いた駆動システムを設計し，特性を有限要素法解析を用いて駆動システムとして評価した。

5-076

トルク密度の改善を目的とした磁気ウォームギヤドモータの提案

◎山中治紀（東京工業大学）

近年，ロボットのアクチュエータには軽量化が求められており，モータの高トルク密度化が必要である。そこで本論文ではウォームギヤの機構を模した磁気ギヤドモータである磁気ウォームギヤドモータを提案する。このモータは，リング状の電機子巻線とリニアモータを模したコアからなる固定子，そして永久磁石にスキューを施した回転子で構成される。固定子が生む移動磁界が回転子の軸長だけ軸方向に移動することで回転子が1磁極対分回転する。さらに本論文では電磁界解析を用いて磁気ウォームギヤドモータが減速機構を有していること，そして同じ寸法の同期モータよりも磁気ウォームギヤドモータのほうが質量あたりのトルク密度が高いことを示す。

5-077

整数ギヤ比を有する磁束変調型磁気ギヤのコギングトルク低減に関する検討

◎戴 博群・中村健二（東北大学）

磁束変調型磁気ギヤは，同心円状の2つの永久磁石回転子とその間に配置されたポールピースと呼ばれる複数の磁極片から構成され，磁石磁束をポールピースによって変調することでギヤとして動作する。磁束変調型磁気ギヤのギヤ比は，コギングトルクを抑えるために，通常，ギヤ比が非整数になるように設計するが，これはギヤ比の選択の幅を狭め，ひいては磁気ギヤの応用範囲を狭める恐れがある。そこで本稿では，整数ギヤ比を有する磁束変調型磁気ギヤのコギングトルク低減を目的として，異なるポールピース幅比を組み合わせる手法について，種々検討を行ったので報告する。

5-078

フラックススイッチングモータ駆動可能な同期リラクタンスモータの動作領域拡大を目指した構造の検討

◎小久保伊織・清田恭平（東京工業大学）

界磁巻線型フラックススイッチングモータ（WFFSM）は，永久磁石を使用せず鉄心と固定子巻線のみで構成されるため安価で堅牢であるだけでなく，高い出力密度も得ることもできるが，鉄損が大きく鉄損が支配的となる領域で効率が悪化することが課題であった。先行研究では，機械的構造は変えずに電流制御を切り替えるだけで，WFFSMを同期リラクタンスモータ（SynRM）としても動作させることが可能なモータを提案し，効率が改善されることを示した。しかしこの構造ではSynRM動作時の動作領域が狭いことが課題であった。そこで本稿では，2層24スロットで8極の回転磁界を作る固定子構造を提案し，SynRM動作の動作領域が広がるかの検討を行う。

5-079

IPMSMにおける磁石磁束・インダクタンス突極性のDC値誤差に対する選択的ロバスト性を有するトルク脈動抑制手法

◎折井将彦・家造坊 勲・森 辰也（三菱電機）

本稿では，IPMSMにおいて磁石磁束・インダクタンス突極性のDC誤差に対するロバスト性を選択可能なトルク脈動抑制電流設計法を構築した。具体的には，磁石磁束・インダクタンス突極性の諸元値からトルク脈動抑制電流を演算する際，本稿の方法に沿いロバスト性を決定する設計パラメータを定めた上で導出することにより，磁石磁束，またはインダクタンス突極性の諸元値にDC誤差がある場合でもトルク脈動抑制性能を損なうことなく効果を発揮する。実験により，本稿の方法はトルク脈動抑制性能と，磁石磁束・インダクタンス突極性のDC誤差に対するロバスト性について，設計通りの効果を有することを確認した。

5-080

非突極・集中巻きモータ向け低速センサレス制御

◎林 航平・岩路善尚・佐藤好太（茨城大学）

モータの固定子が集中巻きの場合，固定子の空間高調波の影響がSPMSMの弱い突極性より大きくなり，位置推定に必要な情報が得られなくなる。本研究では，固定子の空間高調波の影響を受けにくくするため，回転子位相と無関係に回転する第2の回転座標を構成し，この座標軸上で高周波電圧を印加して位置推定を行う方式を提案する。第2座標は回転子より十分速い速度で回転させ，高周波は三角波キャリアに同期した三相対称波形とした。この三相対称の高周波電流をフーリエ積分して位置情報を得る。この方式について，市販されている24V/30極のインホイールモータを用いて実機検証したので報告する。

5-081

IPMSMのオンライン定数同定に向けての基礎検討

○宇井奎太・岩路善尚（茨城大学）

IPMSMは小型・高効率の特徴を有するモータであるが，効率最大化のためには電流位相を適切に制御する必要がある。従来はあらかじめ生成したマップに基づいて電流位相の制御を行うのが基本となるが，電気定数未知のモータを対象とする場合にはマップを生成するための準備・作業時間が課題となる。そこで先行研究により開発された理想的なオンラインチューニングを用い，実駆動中に高周波によるインダクタンスマップの生成を行った。また，発生した誤差を補正するアルゴリズムを追加し，実験によって有効性の評価を行ったところ，補正後のインダクタンス値は補正前と比べて良好であり，効率最大化が実現できる見通しを得たので報告する。

5-082

高周波動作点における繰返し制御を利用したPMSMのトルク脈動抑制制御

◎大塩歩夢・服部知美（静岡理工科大学）

近年，永久磁石型同期モータ（PMSM：Permanent Magnet Synchronous Motors）が産業，家電分野で多数使用されている。しかし，PMSMはインバータの動作特性，モータ構造の特徴等から駆動時にトルク脈動が発生し，振動・騒音の発生の一因となる。本研究では，PMSMのトルク脈動に起因する周期的なモータフレーム振動に着目し，モータフレーム振動を抑制することにより，その発生原因となっているトルク脈動をも抑制する制御系の確立を目指している。しかしながら，従来法では高周波動作点において，振動およびその発生原因となっているトルク脈動抑制が実現できない問題があった。そこで本稿では，高周波動作点に対応した補償信号を作成する手法を検討し，高周波動作点における振動抑制制御を実現した。

5-083

搬送波に同期した矩形高周波電圧印加によるIPMSMのセンサレス制御における離散化誤差補償法

◎光永敬史・前川佐理（明治大学）・熊切有希・齋藤亮介・中澤 晃（東芝インフラシステムズ）

IPMSMの突極性を利用したセンサレス制御手法の一つとして，搬送波に同期した矩形高周波電圧を重畳し，検出される高周波電流の持つ磁極位置情報から位置推定を行う手法がある。その際に用いられるキャリア周波数は，一般的に数kHzとされ，離散化誤差は無視できる程度である。それに対し，キャリア周波数を数百Hz程度と低くすることで，離散化誤差がより顕著に生じ，その影響により，推定位置誤差が生じてしまうという問題がある。そこで本論文では，上記手法に基づくセンサレス制御において，低キャリア周波数駆動時に顕著に生じる離散化誤差の理論的な検討を行い，離散化誤差による推定位置誤差を抑制するための電圧補償方法について検討する。

5-084

ANNを用いた低速域センサレス制御の汎用MCUへの実装に関する検討

◎夏 研育・前川佐理（明治大学）

突極性を利用するNFORM方式で駆動時の実電圧ベクトル印加中の電流差分値を利用するため，低速域センサレス制御の騒音問題を改善していく。キャリア周波数が高い場合，パルス通電と電流差分時間が短くなり，電流差分値のノイズが大きくなるため，推定精度が低下の問題を解決するために，MCUを用いた実現を検討するため，2点のサンプリング条件においてANNの学習効果を改善させる方式と，MCUに実装したANNによる磁極位置推定および閉ループでの速度制御結果について報告する。

5-085

センサレス永久磁石同期モータのための正相逆相高周波電流抽出を用いた搬送高周波電圧印加法における相関信号合成法

◎細岡 竜（サージュ）

永久磁石同期モータのゼロ・低速域用の回転子位相推定法として，位相推定の速応性と可聴音響ノイズの低減に優れる搬送高周波電圧印加法がある。搬送高周波電圧の離散時間的な印加に対応した微分不連続な高周波電流のサンプル値の解析解は，実際の応答と非常に近しいものとなっているものの，僅かな誤差が存在するようである。このため，搬送高周波電圧印加法においては，上記の誤差の影響を受けないあるいは補償可能であることが望ましい。本論文では，上記課題を解決可能な有力な候補の一つである高周波電流の正相成分と逆相成分を用いる正相間信号合成法において，他の高周波電圧印加法と同程度の設計自由度を有するものを新規提案する。

5-086

異なる巻線特性を有する二重三相PMSMの仮想同一巻線モデルに基づく電流制御法

○中村直人（津山工業高等専門学校）

異なる巻線特性を有する二重三相PMSMは従前のPMSMの効率駆動範囲拡大を目指し開発されたモータである。本モータは2個の異なる特性からなる二重の三相巻線を有しており，高トルク発生が必要な低・中速域では両巻線に同時に通電し，高速駆動が必要な領域では一方の巻線のみに通電することで，PMSMの効率性を拡大することができる。一方で，二重三相PMSMは両巻線の同時通電時に，巻線間の磁気的な相互干渉に起因して電流制御系が不安定化することが知られている。本論文は，この電流制御不安定化を解決すべく，新たな電流制御法を提案する。提案法は1. 高速・低速モード電流の分離制御，2. 磁気飽和等のパラメータ変動にロバスト，3. 簡易構成，という特徴を有している。

5-087

二重三相PMSMの冗長自由度を利用した高調波電流重畳による2次ラジアル力抑制法

◎添田拓巳（長岡技術科学大学）・芳賀 仁（静岡大学）

電動パワーステアリングモータをはじめとした車載用PMSMは，信頼性の向上と振動や音ノイズの低減が求められる。そこで本稿では，高信頼性を得られる二重三相PMSMを対象として，振動低減を目的とする。振動の原因の1つである2次ラジアル力を抑制する高調波電流重畳法について有負荷条件下における実験検証を実施した。提案法は高調波電流重畳により補償用2次ラジアル力の位相を変えることができる特性を活かして2次ラジアル力を抑制する。一定速度かつ一定トルク出力状態の実験検証において，提案法適用前では2次ラジアル加速度は0.205 m/s² に対して提案法は0.157 m/s² へ抑制できることを確認した。

5-088

二相変調駆動における受動零相電流を利用した単相回転トランスシステムの基礎検討

◎佐野椋太郎・青山真大（静岡理工科大学）

本研究では変調方式起因で発生する零相電流を利用した受動駆動形回転トランス式巻線界磁モータのドライブシステムを提案する。二相変調時もしくは矩形波制御時に生じる中性点電位変動を巻線界磁にエネルギー源に利用する特長を有する。本稿では二相変調時に出力周波数の3倍調波で変動する零相電流を整流したのち電流形インバータを介して回転トランスを高周波励磁するシステムを提案し，そのシステムの基礎的な挙動について検討した結果を報告する。

5-089

空間ベクトル変調による二重三相同期モータ駆動システムのコンデンサ電流低減法にデッドタイムが及ぼす影響

阪内亮介・◎磯部有哉・道木慎二（名古屋大学）・今井幸司・近藤孔亮・青木康明（デンソー）

二重三相同期モータは通常の三相モータと比べて高出力化・耐故障性に優れているが，インバータを二台使用して駆動するため設置スペースが増加するため小型化が課題となっている。本研究ではインバータの平滑コンデンサに流れる電流を低減することでコンデンサの小型化を図る。筆者らは過去に瞬時電圧ベクトルの組み合わせと出力順序を変更することでコンデンサ電流実効値を低減する手法を提案しているが，理想的な条件でのシミュレーションによる検討に留まっており，特にインバータのデッドタイムによる影響を受けると考えられる。そこで本稿ではデッドタイムが提案手法に及ぼす影響を検討する。

5-090

磁束推定器を用いた可変磁力モータのセンサレス制御の安定性改善

◎石水真斗・前川佐理（明治大学）

可変磁力モータは，高保磁力を有する定磁力磁石と低保磁力を有する可変磁力磁石で構成され，駆動するインバータで瞬間的に大きな外部磁界を与えることで，磁力を増減させ，全速度域で最適化を図る永久磁石同期モータである。可変幅の大きい可変磁力モータを位置センサレス駆動している際に磁化する場合，一般的なPMSMにおいてステップ負荷を印加した場合と同様のトルク変動が生じ，センサレス制御が不安定化する。本論文では，位置センサレス制御している際に磁化を行う場合の影響を定量的に検証し，各制御器に磁束推定器による推定永久磁石磁束をオンラインでフィードバックすることで磁化時もセンサレス制御が安定することを確認した。

5-091

多相IM駆動系におけるトルク変動を生じない極数切替則の提案

◎小林桃歌・道木慎二（名古屋大学）・小林雅志（トヨタ自動車）

多相IMは供給する多相交流電圧の周波数・位相差を変更することで，回転磁界の極数を変化させ，電気的に極数を切り替えて駆動することが可能である。我々は極数切替を利用することで，駆動領域の拡大とともに，IMの高速域の高効率駆動が可能な領域の拡大を目指し多相IM駆動系（IMTS）の検討を行っている。極数切替の移動体の駆動系への適用を考えると，極数切替中においてもトルクを一定に保つことが望ましく，さらに，電圧・電流制限，IM内部の磁気飽和などにも配慮する必要がある。このためにまず，切替中の電圧・電流の変化を定式化し，それを利用することで上記制約条件を満たし，トルク変動を生じない極数切替則を提案したので報告する。

5-092

極数切替型誘導電動機（IMTS）向けPWMインバータのパルス切替ショック抑制法

◎加藤大貴・渡辺大貴・伊東淳一（長岡技術科学大学）・小林雅志（トヨタ自動車東富士研究所）

極数切替型誘導電動機（IMTS）向けPWMインバータのパルス切替ショック抑制法を提案する。提案法は極数切替前後における同期PWMと非同期PWMをシームレスに切り替える手法と，同期PWMのパルスパターン最適化においてスイッチング角をシームレスに切り替える手法の2つにより構成される。実験検証より提案法の有効性を確認した。

5-093

永久磁石同期モータの強め界磁制御に関する電圧ベクトルの解析的条件

◎河内祐太（デンソーアイティーラボラトリ）

埋込磁石型同期モータ（IPMSM）に対しd軸電流を正にし，仮想的に磁石磁束を強める制御が行われることがあり，これが可能な条件は設計において重要である。式上で特殊例にあたる表面磁石型同期モータ（SPMSM）は，支配方程式の平衡点解析解が求まるため，これを対象に電圧条件の分析を行った。まず解析解中の根号内判別式に対し電圧ベクトルの接線不存在条件を適用し，すべてのトルクに対して根号内が正であるような包絡線解析解を得，その両端のd軸電圧値を導出した。結果として，強め界磁制御の限界電圧値は機械的な粘性抵抗係数に強く依存して決まっており，設計には機械系による相互作用の検討が必要であると明らかになった。

5-094

SPMSMの位置検出用電力重畳システムにおいてd軸電流に交流成分を重畳した際にトルクに与える影響

◎淪 晴稀・桐淵 岳（大阪公立大学）・桐淵 岳（オムロン）・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪公立大学）

表面磁石同期モータ（SPMSM）は，小型かつ高出力密度という特徴を有し，主に産業界で利用される。労働力不足の背景から，産業界ではモータ使用量・配線数が増加し，配線が複雑化することで，配線作業の増加が課題となっている。そこで，位置検出器駆動用の電力線を除去するため，動力線に接続した変圧器から電力を得る方法が検討されている。SPMSMは理論的にはd軸インダクタンスとq軸インダクタンスが等しく，マグネットトルクのみとなる。そのため，d軸に交流電流を重畳した場合も，交流電流に起因するトルクは生じない。しかし，実際のSPMSMでは，突極性を有する可能性がある。本稿では，d軸に電力重畳を目的として重畳した交流電流がトルクに影響することを実機実験で確認し，電流重畳法を工夫する必要があることを示した。

5-095

デジタル直接駆動技術でのデッドタイム補償の検討

◎石川愛章・安田 彰（法政大学）

永久磁石同期モータに対してデジタル直接駆動技術を適用したマルチコイルモータが提案されている。マルチコイルモータはΔΣ変調器やNoise-shaping dynamic element matchingの高次化やスイッチング周波数の高速をすることで高精度化が行える。一方で高精度化に伴いデッドタイムによる影響が無視できなくなる。本論文では，デッドタイム効果をモデル化した素子を用いてシミュレーションを行いデッドタイムによる影響を検証し，デジタル直接駆動技術に用いることができるデッドタイム補償手法を提案し，その効果について検証を行う。

5-096

トルクマップの勾配に基づく最大トルク応答制御のIPMSMを用いた実機実験

◎渡邊敬矢（沼津工業高等専門学校）・道木慎二（名古屋大学）・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

埋込磁石同期電動機（IPMSM）は出力密度を高めるための設計によって，磁気飽和特性，パラメータ可変特性が生じ，モータのトルクと電流の関係が非線形となる。このようなモータの制御性向上のためには，忠実なトルクのモデル化が必要である。先行研究では磁気飽和などの非線形特性を，空間情報としてトルクマップの勾配（トルク勾配）によって表現することでIPMSMのモデル化を行った。しかし，モデルの実用性の検証に関しては実機での検証という余地が残されていた。本研究では提案手法を実機に適用するとともに，先行研究では提示しきれなかったトルクマップの測定精度が制御系に与える影響を確認した。

5-097

トルクと電流の非線形性を考慮したIPMSMのグレーボックスモデリング

○大沼 巧・眞野 翔・渡邊敬矢（沼津工業高等専門学校）

複雑な磁気飽和特性によって非線形な電流-トルク特性を持つIPMSMに対し，高品質なモータ特性データを活かしつつ，トルク発生原理に基づく物理特性を考慮することで，制御に利用可能なグレーボックスモデルを提案する。モデルの検証用として実機計測したトルクデータに基づいて，電流平面上の任意の点におけるトルクマップとトルク勾配を一つの拡張トルク係数行列によって与えられることを示す。

5-098

PMSMのモデル予測電流制御系のための再予測を利用したフィードバック型弱め磁束制御

○松本 純（中部大学）

永久磁石同期モータ（PMSM）の電流制御性能改善のため，モデル予測制御に基づく電流制御系設計が研究されており，モデル予測電流制御系によって高応答かつ高出力な駆動を実現できることが示されている。しかしながら，モデル予測制御系においても，弱め磁束制御は従来のモータの電気的なパラメータを用いた手法が用いられるため，ロバスト性の観点や高調波電流脈動による影響から，煩雑なファインチューニングが避けられないといった課題がある。そこで，本稿ではPMSMのモデル予測電流制御系のための再予測を利用した新たなフィードバック型弱め磁束制御法を提案し，シミュレーションによって提案法の妥当性を検証したため，報告する。

5-099

逆D因子のベクトル回転器を用いた離散時間実現

○新中新二（C&S国際研究所）

D-systems, which inherently have the ability to separate the positive and negative phase components, are used in many applications such as flux estimation, back EMF estimation, current control, harmonic disturbance suppression, etc. D-systems are realized using inverse D-matrices. In order to realize a D-system in a discrete-time manner, discrete-time realization of the inverse D-matrix is essential. This paper proposes a new discrete-time realization of the inverse D-matrix, which is the most compact and have inherently characteristic root invariant property between continuous-time and discrete-time realizations.

5-100

PWMインバータ駆動PMSMの惰行性能の比較

◎篠原篤志・山本吉郎（鹿児島大学）

鉄道車両の省エネ運転のためには，主電動機の性能だけではなく，車両の慣性で走行する惰行運転も重要になる。鉄道車両の主電動機に永久磁石同期機（PMSM）を用いた場合の惰行運転実現のための回路トポロジーや制御法についてはこれまでにいくつか提案されているが，それらの比較については筆者の知る限り報告されていない。本稿では，PMSMの惰行運転法についてまとめ，それらの差異について実験により比較したので報告する。

5-101

PMモータ動力線1相断線故障時の動作継続

○湊 雄一朗（村田機械）・伊東淳一（長岡技術科学大学）

背景：物流倉庫で搬送機器が故障し停止すると物流が滞り入出庫不能となるのを防防止する。目的：搬送機器用三相PMモータ動力線一相断線時に動作を継続する制御方法を構築する。方法：一相欠相時は二相でモータを駆動するが，欠相相を判定し残る二相電圧波形を生成するとソフトウェアが煩雑になるため，欠相時用にdq軸電流制御を変更し欠相相の判定，二相電圧波形生成を不要とする。結果：シミュレーションで一相欠相時に上記手法で駆動可能となった。考察：dq軸電流に欠相相の情報も含まれ欠相相判定が不要となった。結語：搬送機器故障のうち，動力線一相断線時にモータを駆動する技術を構築，シミュレーションにて有効性が確認できた。

5-102

モータシステムの低コスト化と高性能化を両立するモータ制御技術

○會澤敏満・平山敬之・柴山武至（東芝）

モータシステムには低コスト化や高性能化が求められており，その両立に有効なマイコン内蔵統合モータコントロールドライバ（MCD）SmartMCDTMシリーズを開発した。このMCDに搭載した技術として，モータ制御機能や1シャント電流検出などがある。モータ制御機能を用いることで，CPUの処理をほとんど必要とせずに高速なベクトル制御が実現可能である。1シャント電流検出では，一般的に，電圧利用率（Duty）が低い場合，モータ電流を検出することは困難である。そこで，低Duty時には，1相のPWMは三角波キャリアで谷から両側へ，1相のPWMは逆鋸波キャリアで谷から始点側へ，1相のPWMは鋸波キャリアで谷から終点側へ，Dutyに応じて変化させる対称キャリアPWMにより電流検出を可能としている。

5-103

PWMリプル補償を備えたオーバーサンプリングデッドビート制御のFPGA実装における検討

◎森田凌輔・前川佐理（明治大学）・柴山武至・會澤敏満（東芝）

PMSMの高応答な電流制御手法の一つであるデッドビート制御はモータモデルへの依存性から低いロバスト性が課題となっている。これに対して電流のオーバーサンプリングを適用した制御方式によりロバスト性が改善されることが報告されている。しかし，この方式においてはインバータによる実電圧とパルス幅変調に用いられる指令電圧の不一致に起因した電圧歪みが生じる。電圧歪みの改善手法として検出電流に重畳するPWMリプルを補償してデッドビート制御器へフィードバックする方式が提案されている。本論文ではこの制御を高速演算可能な集積回路であるFPGAに実装することにより，実機における有効性を検証した結果について報告する。

5-104

電源コンバータの高応答化による平滑コンデンサの容量低減の検討

◎佐藤嘉哉・岩路善尚（茨城大学）

現在，産業・交通・家電など多くの分野で，モータドライブシステムの小型化が進んでいる。電力変換器においては，SiCなどの次世代半導体素子が応用され始めている。これらの次世代素子には低損失・高速動作・高温動作などのメリットがあり，冷却に関係する部品の大幅な小型化が達成できる。その一方で，現状の汎用インバータでは，平滑コンデンサが比較的サイズが大きく，体積の大半を占めている。この解決策として，スイッチング周波数を高くすることができるSiCなどの次世代半導体素子を,電源コンバータに用いることを検討した。高スイッチング周波数化により，電源コンバータを高速制御し，直流電圧変動を抑制することで，平滑コンデンサの容量低減化を可能にし，装置の小型化を目指す。

5-105

マイナーサンプリングを用いた高速・多極モータの高効率駆動技術

春木勝也・○岩路善尚（茨城大学）

【背景】モータの低インダクタンス化と，鉄損が増化する傾向にある。制御としては電流ひずみが増加し，電流検出誤差の要因となる。【目的】本研究の目的は，ひずみ波形による検出誤差の低減に有効であると報告されている，マイナーサンプリング手法を3シャント電流検出に導入することである。その達成のためにRCフィルタを追加した回路構成と制御方式の提案及び検証を行った。【方法】実機試験でPMSMの速度とトルクを変化させたときの効率を測定した。【結果】提案方式の結果では従来方式の結果よりも高い効率が得られた。【結論】提案方式によってRCフィルタを追加した状態でも安定に動作し，提案方式の有効性が実機試験よって確認できた。

5-106

SRGとキャパシタレスAC-AC変換器を用いる可変速風力発電システムの速度制御器の安定性への影響

◎賈 浩正・大山和宏（福岡工業大学）

本研究では，スイッチトリラクタンス発電機（SRG）とキャパシタレスAC-AC変換器を用いる可変速風力発電システム（VSWPGS）について検討した。カットイン風速から定格風速までの範囲で，効果的な風力発電と安定した系統連系を可能にする提案方式を用いて，速度制御器（SR）の開始角と終了角の操作による風車速度の制御を行い，そのPIゲインをシミュレーションした。さらに，シミュレーション結果により，異なる比例ゲインKpと積分ゲインKiの設定が速度応答の安定性に与える影響を示した。結果から，ゲインの選択が系の挙動に重要な役割を果たすことが示された。不安定なゲインの設定では系が振動的になり，最終的には発散する可能性があることが確認された。

5-107

ベクトル制御を用いた同期リラクタンス発電機システムの運転効率

◎林 龍之介（名古屋工業大学）・高橋 梓・東 竜也（ダイハツ工業）・北川 亘・竹下隆晴（名古屋工業大学）

現在，一般的に用いられている発電機は，界磁巻き線型の同期発電機や永久磁石を用いた同期発電機，誘導発電機である。永久磁石型の同期発電機は，永久磁石の原料であるレアアースが高価であること加えて，情勢によって資源調達などが左右されやすいという問題が存在する。誘導発電機は回転子に流れる誘導電流により，2次銅損が発生するため損失が大きい。同期リラクタンス発電機は界磁電流を必要とせず，二次銅損も理論上発生しない。これらのことから同期リラクタンス発電機は，巻き線型，永久磁石型同期発電機より安価で，誘導発電機より高効率である発電機として見られている。本実験ではベクトル制御を用いて，同期リラクタンス発電機を制御して発電を行い，発電中のシステム効率を測定し10kWの出力時は86.8%，11kWの出力時に84.9%に到達した。

5-108

スイッチトリラクタンスモータの昇圧回路における共振現象を用いたトルク向上

◎石澤大誠・後藤博樹・船渡寛人（宇都宮大学）

近年，機械的強度が高く高速回転に適しているスイッチトリラクタンス（SR）モータの研究がなされている。SRモータの高速域での駆動では，励磁消磁の際に高い電圧を印加する必要があり，先行研究ではキャパシタを用いることで電源電圧を昇圧できる駆動回路を提案している。さらに，キャパシタ電圧変動の原因は共振現象の一部であると結論づけ，キャパシタンスの最適化を行っている。本稿では，この共振現象によるキャパシタ電圧変動に着目し，共振現象の積極利用によるトルク向上について検討した。回転数500rpmおよび1000rpmとしたとき，励磁角の最適化によりトルク向上が確認できた。また回転数1000rpmにおいて各キャパシタンス間では約1.3倍のトルク向上が確認できた。

5-109

二重突極集中巻構造同期リラクタンスモータの磁束制御による鉄損および逆起電圧の低減

◎長谷川 稜・清田恭平（東京工業大学）

突極集中巻構造の同期リアクタンスモータは構造が簡単であるが，インダクタンスの空間高調波が分布巻構造よりも増加する。そのため，通常の正弦波電流制御を行った場合，磁束および逆起電圧の高調波成分が増加し，単純なPI制御では電流指令値に追従しない上に，効率および最大出力が低下する。本稿では，鎖交磁束を電流から推定し，dq座標直流指令値に追従させることにより磁束の高調波成分の抑制を図る。1000 /minにおいて従来の電流制御と提案の磁束制御を比較し，鉄損が36%低減し，逆起電圧が43%低減することを示す。

5-110

ベクトル制御SRMにおけるdq軸6次高調波電流重畳による騒音低減手法の実機検証

◎矢野身太郎・清田恭平（東京工業大学）

スイッチトリラクタンスモータは，永久磁石を使用しない安価で堅牢なモータとして注目を集める一方，騒音や制御性の課題が存在する。騒音は半径方向の電磁力（ラジアル力）の6の倍数次高調波成分，特に対象モータでは6次高調波成分が大きく起因している。課題解決のため，著者らはベクトル制御を適用した上で特定の6次高調波電流を重畳し，理論的な計算を行うことでラジアル力の6次高調波成分のみを大幅に低減させる手法を提案している。本稿では，他の周波数成分の騒音を増大させることなく，ラジアル力6次成分による騒音を6.2 dB低減可能であることを実機試験により明らかにすることで，提案手法の効果を確認する。

5-111

400kW同期リラクタンスモータのインバータ組合せ評価試験

◎緒方雄大・若杉 直・中村雅史・岡田裕司・織田健志（東芝三菱電機産業システム）

筆者らは世界最大級となる400kW 同期リラクタンスモータ（Synchronous Reluctance Motor, SynRM）および船舶に搭載可能な小型の水冷インバータを開発してきた。本稿では，開発したSynRMをインバータ駆動した組合せ評価結果を報告する。速度センサ付きベクトル制御を構築した。SynRMは励磁電流Id，トルク電流Iq の選び方により効率やトルクの特性が変化する。今回，トルクの直線性を容易に達成することができる励磁電流Id一定制御を採用した。組合せ試験の結果，トルクの直線性が確保されていることを確認した。また，定格出力時のインバータ入力からSynRM出力までの総合効率は95.5%と非常に高い効率を達成した。

5-112

同期リラクタンスモータのV/f制御

◎加藤尚和・佐藤大介（長岡モーターディベロップメント）

同期リラクタンスモータ（SynRM）の数学モデルは，埋込磁石同期電動機（IPMSM）のモデルに包含されるため，IPMSMと同様にV/f制御を実現できると考えられる。しかし，IPMSMのV/f制御では電流をゼロと仮定した解析に基づく検討がされており，これはSynRMでは誘起電圧が発生しない条件である。このため，従来法ではSynRMのV/f制御の解析は困難である。本論文では有効電流のみをゼロと仮定した二次の状態方程式を導出し，その妥当性をシミュレーション結果との比較で評価し，フィードバックゲインの効果を実験にて確認したので報告する。さらに，実験結果より，速度ステップ指令に追従可能であることや，電圧振幅指令を変化させることで出力電流振幅を調整可能であることを示す。

5-113

SynRMの磁束平面推定を用いたオンラインMTPA探索法の実機検証

◎荒川颯哉・森本茂雄・井上征則・真田雅之（大阪公立大学）

SynRMの高効率制御の1つに最大トルク/電流（MTPA）制御があります。しかし，SynRMは磁気飽和の影響でインダクタンスが大きく変動するため，MTPA条件を導出するのは難しく，オンラインでのMTPA条件の探索が求められています。本研究では磁束平面推定法を用いた，MTPA条件の探索法を提案し，実機モータでその有効性を検証しました。平面近似した磁束平面を表すパラメータを，逐次最小二乗法を使用して同定し，最急降下法でオンラインMTPA探索を行いました。実験結果から提案手法が高精度でMTPA条件を探索できることが確認されました。

5-114

磁気飽和が大きいSynRM向けセンサレス制御におけるdq軸インダクタンスと高周波電流応答に関する検討

瀧澤壮太・○前川佐理（明治大学）

磁気飽和の大きいシンクロナスリラクタンスモータにおいて，突極性を利用したセンサレス制御方式を用いて制御する際に，磁気飽和による位置推定特性に対するインダクタンス変化の影響が大きく，非線形特性となる問題がある。これにより，位置推定特性をフィードバックしたPLLによる磁極位置推定が困難となり，磁気飽和を考慮した制御方式の検討が必要となる。そこで，本論文ではSynRMの非線形なセンサレス制御特性に関して，磁気飽和を考慮したdq軸インダクタンスの解析を行った。また，JMAG-RTモデルを適用した制御系のシミュレーションによる高周波電流応答とdq軸インダクタンスモデルから導いた理論結果から，磁気飽和による高周波電流応答への影響を定量的に分析した。

5-115

高周波電流重畳に起因する拡張誘起電圧を用いたSynRMの低速時位置センサレス制御のd軸インダクタンス誤差の影響

○冨田睦雄（岐阜工業高等専門学校）・長谷川 勝（中部大学）・道木慎二（名古屋大学）

回転子に巻線も永久磁石も持たないシンクロナスリラクタンスモータ（SynRM）が注目されている。SynRM のトルク制御のためには，回転子の位置情報が必要であるが，回転子位置センサは信頼性やスペースの占有の問題などがあるため，位置センサレス制御が望まれている。しかし，低速駆動時の位置センサレス制御は困難であり，これまで低速時の同期モータの位置センサレス制御法として，幾つかの，高周波電圧を重畳する手法が提案されてきた。筆者らは，低速時のSynRM において，大きさの小さい高周波電流を円重畳法により重畳し，これによって拡張誘起電圧（EEMF）に重畳されて現れる位置情報を持つ高周波拡張誘起電圧（高周波EEMF）を数式モデルと同期検波により推定し，位置情報を推定する位置センサレス制御法を提案してきた。本稿では，本手法において用いるSynRM のモデルのd 軸インダクタンス誤差が位置推定に及ぼす影響について考察し，実機実験による検証を行ったので報告する。

5-116

ベアリングレスモータのスラスト支持用零相電流が半径方向支持力に及ぼす影響の検討

◎藤井勇介・Yinyin Fang・田中海翔・千葉 明（東京工業大学）・田上剣汰・桜木拓也・戸成辰也・入野裕介（ダイキン工業）

回転軸の並進3自由度（x, y, z）および傾き2自由度（θx, θy）の合計5自由度の運動全てを位置決め制御する5軸制御形ベアリングレスモータは，浮上・回転に合計4台の三相インバータを必要とし，装置の大形化，高コスト化を招く。著者らはこれまでに，ベアリングレスモータの半径方向支持巻線およびモータ巻線に流れる零相電流を，スラスト支持に適用することで，5軸制御形ベアリングレスモータを合計3台の三相インバータで駆動する方式を提案した。本稿では，提案システムにおけるベアリングレスモータのスラスト支持用零相電流が，半径方向支持力に及ぼす影響を検討し，その干渉力の低減手法と実験結果を報告する。

5-117

2軸制御コンシクエントポール形ベアリングレス単相モータの検討

◎田中海翔・藤井勇介・千葉 明（東京工業大学）

本研究では，2軸制御コンシクエントポール形ベアリングレス単相モータの支持力特性について検討する。回転軸の半径方向（x, y）と傾き方向（θ_x, θ_y）の運動を非接触磁気支持し，同時にトルクを発生する4軸制御形ベアリングレスモータが開発されている。しかし，三相インバータが磁気支持用の2台とモータ用の1台の合計3台必要となるため，大形高コストという課題がある。本稿では，まず三相インバータ2台のみで駆動する4軸制御形ベアリングレスモータシステムを提案する。さらに，通常8極以上で用いられるコンシクエントポール形回転子を6極とし，有限要素法解析を用いて支持力特性を検討する。

5-118

最大スラスト力/電流制御によるアキシャルギャップ型シングルドライブベアリングレスリラクタンスモータにおける電流実効値の低減

◎白築明大・清田恭平（東京工業大学）

アキシャルギャップ型シングルドライブベアリングレスリラクタンスモータは，アキシャルギャップ型SRモータから生じるスラスト力と反発受動型磁気軸受から生じる定常スラスト力を組み合わせることで回転子の磁気支持を行う。このため，スラスト力を発生させるための電流を常に供給しなければならず，ゼロパワー制御による支持電流の削減と高効率化を行うことができない。そこで，本稿では使用されていなかったd軸電流に着目し，電流位相を調整することで平均スラスト力/電流ベクトル長の比を最大化する最大スラスト力/電流（MFPA）制御による電流実効値の低減を提案し，MATLAB/Simulinkによりその効果を示す。

5-119

3D-FEM磁界解析を用いた3軸磁気軸受のバイアス磁束に起因するベアリングレスモータへの磁気干渉を低減する構造の検討

◎中村宣翔・今野汰一・杉元紘也（東京電機大学）・吉田 稔・髙島 諒・炭山千春（丸和電機）・金城富宏（宇宙航空研究開発機構）

磁気軸受を磁気的に一体化させたベアリングレスモータは，高効率・省エネルギー，無摩耗，無潤滑，長寿命・メンテナンスフリーといった利点があり，遠心ポンプ，コンプレッサ，冷却ファンなどの用途で研究開発が行われている。本稿では，3軸磁気軸受で発生するラジアル磁気軸受とアキシャル磁気軸受の間の磁気干渉低減に加えて，3軸磁気軸受とベアリングレスモータ間に発生する磁気干渉を低減するための構成を提案する。3D-FEM磁界解析を用いて，3軸磁気軸受のスラスト磁石の漏れ磁束の影響を示し，さらに提案構成がベアリングレスモータの磁気支持力への干渉を低減可能であることを明らかにする。

5-120

4極6スロットSPM形ベアリングレスモータのd軸電流と半径方向変位を考慮した半径方向力の理論式の検討

◎梶野敬太・杉元紘也（東京電機大学）

ベアリングレスモータは，同一スロット内に電動機巻線と支持巻線を持ち，回転軸を磁気支持しながら回転トルクを発生させることができるため，長寿命・メンテナンスフリー，無摩擦・無摩耗，高効率といった利点がある。ギャップ磁束密度に高調波成分が含まれると半径方向力が発生し，力の方向に角度誤差が生じ，磁気支持が不安定になり回転子が固定子にタッチダウンする。この力の角度誤差は，回転子の半径方向変位の増加に伴い増加するが，電動機巻線の強め界磁磁束により角度誤差を低減できることが明らかになっている。本稿では，回転子の半径方向変位と強め界磁電流により変化するギャップ磁束密度の高調波成分を数式化する。また，数値計算結果と3D-FEM磁界解析結果を比較し，数式モデルの有効性を明らかにする。

5-121

極性切替のないリニアステップモータを用いた磁気浮上搬送システムの基礎検討

◎三井翔太・小西晟斗・大橋俊介（関西大学）

本研究では浮上と推進を同一のシステムで行える磁気浮上搬送システムの実現を目的とする。推進にはリニアステッピングモータを採用しており，軌道側コイルの励磁相を変化させることで吸引力，推進力の両方を得ることができる。従来の研究では，推進位置に応じて軌道側コイルの極性を切り替える必要があった。そこで，本研究では軌道側の構成を変更することで極性の切替が不要となったシステムを製作した。推進を踏まえて一次側と二次側の相対位置を変えた場合の浮上実験を行った結果，各位置での安定浮上を確認した。

5-122

非接触給電バッテリー充電システムを備えた磁気浮上搬送車の高周波電磁界シールド対策

◎木村由紀秀・森下明平（工学院大学）

磁気浮上搬送車に搭載されたバッテリーへ磁界共振結合方式を用いて電力伝送を行う研究において，浮上用制御回路への高周波ノイズ対策としてシールドボックスを製作したが，シールド効果が不十分であることが分かった。磁界共振結合方式では送受電アンテナの共振周波数を13.56 [MHz] としている。先行研究でのシールドボックスはトタン板を単板構造で製作していたが，今回はトタン板2枚と発泡スチロールを使った複板構造での遮蔽効果を検討した。実験の結果，十数 [MHz] の電磁波の遮蔽は強磁性体を所定の間隔で配置する複板構造が有効であることが分かった。

5-123

6.6kV-200kVA級電力制御用クロスコアタイプ可変インダクタの解析設計と実測対比

○関場陽一・新納希彬（電力計算センター）・有松健司・大日向 敬（東北電力）

近年の分散型電源の普及拡大などにより，特に配電系統において，従来から行われてきた電圧制御方法では対応が困難な状況になりつつある。この対策の一つとして，磁束制御による可変インダクタを適用した，無効電力補償による高圧電圧調整装置の開発が進められている。本検討では，高圧配電系統に適用可能な電圧調整用の200 kVA級クロスコアタイプ可変インダクタをFEM解析に基づいて設計し，試作した試験器の電気的特性の実測値とシミュレーション値の比較を行ったので報告する。

5-124

鉱油入り変圧器の植物油への入替後の絶縁油温度上昇の推定

◎清水涼介・増田達哉・高橋 誠（愛知電機）

近年，環境配慮や防災性などの観点から，植物由来のエステル系絶縁油（以下，植物油）を適用した変圧器の導入が進んでおり，鉱油から植物油への入替（以下，レトロフィリング）についても実用化研究されている。レトロフィリングでは，絶縁油の物性により冷却性能が異なるため，変圧器温度上昇を事前に把握することが求められる。レトロフィリング後の絶縁油温度上昇を簡便に推定する方法を提案し，実変圧器で実測と比較して妥当であること示した。本推定方法を用いることで，レトロフィリング前の試験結果からレトロフィリング後の油温上昇を推定し，レトロフィリングの可否や油種の選択の検討に有用となる。

5-125

自然由来ガス絶縁変圧器用LTCの絶縁設計

○石川 拓・阿部真一郎・蒲原聖也・高野 啓（東芝エネルギーシステムズ）

SF6ガスに代わる取り扱いの容易な絶縁・冷却媒体を用いた機器へのニーズが高まっており，自然由来ガスを絶縁および冷却媒体とした，自然由来ガス絶縁変圧器および適用できるLTCの開発を現在推進している。本論文では，N2ガスを絶縁および冷却媒体とした自然由来ガス絶縁変圧器用LTCについて試設計を行い，絶縁に関する実現性を要素モデルおよび実規模モデルで評価した結果について報告する。

5-126

66kV気中VCT用ダイレクトモールドブッシングの開発

◎福濱大河・今西 晋・新舘 均（SWCC）

VCT（計器用変圧変流器）は電力取引量の計測に使用される機器であり，電力自由化・発送電分離により需要が高まっている。VCT用ブッシングのU・W相は電流を測定するための往復回路が必要である。従来，往復回路は往路と復路に各1本ずつ計2本のブッシングを使用するか，もしくはクレープ紙巻で絶縁されたより線を金属パイプに通した往復導体構造が一般的である。これに対し，筆者らは往復導体の構成にケーブルを利用した完全固体絶縁タイプであるダイレクトモールドブッシングを開発した。完全固体絶縁のため，自由な設置形態をとれるとともに地絡時に飛散しない防爆性と難燃性を有している。また，小型・軽量であるため地震の卓越振動数と共振しないことから，高耐震性である特長がある。

5-127

ナノ結晶鉄心および磁性テープ巻平角アルミニウム巻線を用いた鉄道用高周波トランスの銅損低減

◎鈴木捺大・志村和大・佐藤光秀・水野 勉（信州大学）・小池徳男・鄭 建平・櫻田昌之・根橋孝男・安本智志（イチカワ）

鉄道車両で用いる磁気部品には，小型化に向けた駆動周波数の高周波化が求められている。しかし高周波駆動では表皮・近接効果による銅損が増加することからその抑制が必要である。本論文では，鉄道用高周波トランスにナノ結晶鉄心および巻線に磁性テープを適用したモデルから，FEM磁界解析を用いて銅損の低減を検討している。鉄心を従来のフェライトに比べ飽和磁束密度の高いナノ結晶に変更し，鉄心体積を60％削減したことから巻線の長さを短くできる。また，巻線に磁性テープを適用することで巻線の近接・表皮効果を抑制し，交流銅損を低減している。その結果，鉄心の変更によって銅損を33％低減し，磁性テープの適用により交流銅損を51％低減した。

5-128

植物油系絶縁油におけるレトロフィルの基礎検討

◎寺脇朋輝・山中 功・久住政喜・西川精一（かんでんエンジニアリング）

電気絶縁油の分野では，脱炭素社会に向けた取り組みとして，植物油系絶縁油が実用化されている。海外では，新設変圧器だけに限らず，鉱油入り既設変圧器を植物油系絶縁油に油入替え（レトロフィル）をする場合がある。しかし，国内では，レトロフィルの技術的な知見が少ない。そこで，本稿では，劣化鉱油と植物油の混合による絶縁油特性や実変圧器の部材を用いて，レトロフィル手法の違いによる鉱油残存量を調査した。その結果，鉱油と植物油の混合割合に応じて絶縁油特性の変化が確認された。また，レトロフィル手法の違いによって，変圧器部材の鉱油除去率に若干の差異があった。

5-129

植物油系絶縁油における実機へのレトロフィルの適用検討

○山中 功・寺脇朋輝・久住政喜・西川精一（かんでんエンジニアリング）

海外においては，レトロフィルと呼ばれる既設変圧器内の絶縁油を植物油に入れ替えることで，植物油の特徴である火災安全性，環境への配慮，絶縁材料の寿命延伸等を享受できること知られている。しかし国内においては報告された事例が少ない。これまでの調査結果から，実機と同仕様のコイルより鉱油が溶出することや植物油に鉱油が混合することで絶縁油性能に影響を与えることが分かった。そこで，本稿では実機における油入替え前後の電気試験結果や絶縁油の経時変化を調査した。その結果，電気試験は一部を除き，油入替え前後で同程度の結果となった。絶縁油性能試験は実機でも部材から溶出した鉱油に応じて特性変化することを確認した。

5-130

アルミ箔/油浸紙複合絶縁系における部分放電による油浸紙損傷と絶縁破壊

林 恭平・◎神野裕亮・永木雄也・小島寛樹（名古屋大学）・吉田昌展（中部電力）・早川直樹（名古屋大学）

油浸紙絶縁のコンデンサ形計器用変圧器（CVT）は変電所において30年以上使用されているものが多く，劣化が懸念されている。筆者らはCVTの絶縁診断技術の確立に向けCVTの絶縁構成である油浸紙/アルミ箔複合絶縁系における部分放電（PD）進展特性について検討している。アルミ箔/油浸紙複合絶縁系のサンプルにおいてPD開始電圧（6~7 kV_rms）以上の交流電圧（V_a=12 kV_rms，13 kV_rms）を印加し，絶縁破壊（BD）させ，BD後の実験後のサンプルを確認すると，高電界部であるアルミ箔端部付近において黒色のPD痕が見られ，そのPD痕内部にφ10~50 µmのPD貫通孔が確認された。以上からPDは高電界部であるアルミ箔端部を起点とする沿面放電から油浸紙貫通方向に進展してBDに至ることが示唆される。

5-131

開放型磁気回路を用いた共振変圧器の効率特性

○吉田義昭（広島工業大学）

最近，一部の研究者らは，開放型磁気回路を用いた共振変圧器を製作し，効率が100%を超える実験結果を得たという。常識的に考えれば，測定ミスや測定誤差の可能性が高い。しかし，A氏（匿名）によると，同調後の超効率状態は130%を超え，三日間ほどかけて，徐々に，90～80%台に落ちていったという。A氏は，超効率の仮説として，変圧器がアンテナのような働きをして，空間に潜在する未知のエネルギーの一部を電気に変換して取り込んだのではないかと考えている。その真偽や再現性は明らかではない。そこで本論文では，A氏の情報をもとに，共振変圧器を試作し，再現実験を行った。その結果，効率は最大で93%程度であり，100%を超えることはなかったが，比較的高い効率を示した。

5-132

機械学習を用いたヒステリシス損失の予測精度向上について

◎地引琢人・林 翔吾・五十嵐 一（北海道大学）・阿波根 明（JSOL）

近年，電気機器の高周波化によりヒステリシス損失（ヒス損）の高精度解析が重要となっている。高精度なヒステリシスのモデリング法としてプレイモデルがあるが，ヒステリシス曲線上の状態遷移を追う過程が煩雑なためヒス損計算に時間を要する。著者らはプレイモデルを用いたヒス損解析の高速化のために機械学習を用いた手法を提案したが，予測精度が低いという問題があった。本研究ではヒス損の予測に用いる回帰モデルの構造を変更することで予測精度の改善を試みた。結果として，回帰モデルの層数およびパラメータ数を増やすことで，ヒス損予測の相対誤差を1.7%まで下げることができた。

5-133

直列コンデンサの劣化評価

○平田 豊・友兼遼太・糸谷亮祐（関西電力送配電）・長崎則久・斉藤良幸・香西勇樹（日新電機）

送電線のリアクタンス分を補償することで送電線を増強せずに大容量送電が可能となる直列コンデンサは，長距離送電に有力な手段であり，関西電力送配電（当時，関西電力㈱）においては275kV大黒部幹線の送電容量増加を目的に，1973年および1982～1984年に城端開閉所へ導入しており，275kV級の超高圧系統で運用されている適用事例は，国内では他にない。最も古い直列コンデンサの経年は50年を超過しており，開発当時の誘導体に絶縁した紙を用いた紙コンデンサは現在では生産されておらず，現行のオールフィルム誘電体を適用したコンデンサに更新する必要がある。そこで，直列コンデンサ設備の現在の劣化状態を評価するとともに，適切な更新時期についての検討を実施した。

5-134

エステル油入変圧器における油中ガス分析判定基準の検討

○重盛一希・脇本 聖（明電舎）

変圧器の保守管理に関する一般的な方法として，油中ガス分析（DGA）が行われており，鉱油に関しては，電気協同研究やIECなどの判定基準が確立されている。今回，変圧器を模擬した過熱実験による補正を行い，既存の鉱油判定基準をベースに，電気協同研究要注意Ⅰ・Ⅱ及び異常レベル相当の植物油や合成エステル油の判定基準を検討した。ただし，実器との整合性の違いが考えられることや，CO発生についての扱いなど検討の余地がある。今回の検討結果は，判定基準の基礎値と考え，今後エステル油の実器データ収集や，実器に近づけるための実験の検討などを行い，判定基準を改善していく所存である。

5-135

可搬型ブッシング部分放電診断装置の開発

○鬼頭 豊・青木康二郎・前川俊浩（東京電力ホールディングス）・山本尚史・宮下智行（東京電力パワーグリッド）・前田功弥・平賀也須彦（EASEL）

変圧器の油入ブッシングにおける異常診断として，ブッシング内部の異常により部分放電が発生した際，封入された絶縁油中に特定のガスが生じるため，ブッシング内部の絶縁油を採油し，絶縁油中の溶存ガスの分析を実施している。ブッシング内部の絶縁油を採油するためには，変圧器の停止が必要であること，また高所作業となることなどから，変圧器を停止せず，油入ブッシングの部分放電（以降PD と記載）測定が可能な可搬型診断装置の開発を進めてきた。今回，部分放電測定データの計測，φ-q-n パターンの図示，自動診断機能を実装し，油入ブッシングのPD 診断装置の開発が完了したことから報告する。

5-136

電力用変圧器の安定巻線の一部脱落を想定したFRA診断－FRA伝達関数の共振周波数の分析－

◎松本悠真・八島政史（東北大学）・宮嵜 悟（電力中央研究所）

電力用油入変圧器の巻線に生じる変形や位置ずれなどの異常を機器の外部から検出する方法として，周波数応答解析（FRA：Frequency Response Analysis）が注目されている。安定巻線の異常診断にFRA診断を適用することができれば有用である。筆者らは安定巻線を含む三重巻線モデルを作成し，その一部脱落を模擬したモデルに対してFRA伝達関数を取得し，共振点が変化するなど異常診断に供し得る特徴が出現することを明らかにした。しかし，伝達関数の変化について理論的な考察はできていなかったため，本稿では簡易回路モデルを作成し，安定巻線の異常による伝達関数の変化について，理論的な考察を試みた。

5-137

植物油入変圧器の異常診断図基準検討における経年によるガス発生量の考慮

◎本間大成・宮嵜 悟・水谷嘉伸（電力中央研究所）

電力用油入変圧器の絶縁油として植物油の適用が拡大している。植物油と従来の鉱油では化学組成が異なるため，異常時に絶縁油の分解で発生するガスの種類や濃度が異なる可能性がある。そこで，部分放電異常模擬実験下での鉱油および植物油の油中ガス発生特性を取得し，異常診断図における異常種別判定基準について検討した。鉱油と植物油の油中ガス分析結果では同様の傾向が確認され，実験値に経年でのガス発生量を加えることで，補正後の値は異常診断図Bで部分放電と判定された。実験結果から，異常模擬実験データを用いて植物油入変圧器における異常診断図の診断基準を検討するためには，経年によるガス発生量を考慮する必要性が示唆された。

5-138

コーンカロリメータ試験装置を用いた環境配慮型変圧器用絶縁油の燃焼性評価

○上矢恭子・西尾佑太・橋本幸弥（公立諏訪東京理科大学）・本間大成・三坂英樹・宮嵜 悟（電力中央研究所）

2050年カーボンニュートラル実現の要請から，植物油を使用した変圧器の導入の検討が進められている。変圧器用絶縁油に植物油を使用するにあたり，燃焼性（難燃性）を明確にし，現在使用されている鉱油と比較し，火災安全性評価を行う。実験は，ISO5660に準拠したコーンカロリメータ試験装置を用いて，鉱油，植物油など合計5種類の油を対象とした。鉱油と比べて，着火性，発熱速度，発煙速度の全ての項目において，植物油などの4種類の絶縁油は，優れていることが分かった。

5-139

変圧器の消磁とFRAの連続測定方法の検討

○中嶋 高・吉田俊哉・腰塚 正・日髙邦彦（東京電機大学）

本論文では変圧器への印加電圧波形を，一定電圧の方形波とし，周波数を最初は数Hzから数百Hzまで連続的に変化しその後50Hz，500Hz，5kHz，50kHzの順に単一周波数が数周期続くものとすることで，1回の測定で，消磁とFRAが連続測定できることを実験的に検証した結果を報告する。

5-140

高経年分路リアクトルの解体調査-油中CO,CO2量と絶縁紙平均重合度との相関-

◎山本尚史・田村俊輔・佐伯 亮・宮下智行・秋山治三・花巻安彦（東京電力パワーグリッド）

本研究では，高経年分路リアクトル5台の解体調査を実施することで，設備診断手法および更新指標を検討した。油中ガス分析により測定されたCO＋CO2量と解体調査により得られた平均重合度とを比較した結果，両者の相関は変圧器と類似する傾向となった。現時点ではサンプル数は限られるが，今回の傾向から，分路リアクトルについても変圧器と同様の平均重合度の推定方法を用いることで，変圧器と同等の評価できる可能性が高い。また，リアクトルの更新の目安となる平均重合度450を下回る機器は今回確認されなかったが，経年に従い，平均重合度が低下していく傾向は確認されており，計画的な更新を進めていく必要性が示唆される。

5-141

高温超電導線を併用した銅電流リードの可能性検討

◎林 大吉・矢島健大・許 航・野村新一（明治大学）・力石浩孝（核融合科学研究所）

冷凍機伝導冷却超電導コイルにおいては，電流リードの最適設計が重要である。超電導コイルは断熱容器で覆われ，この容器を数十 Kまで冷却を行うことで輻射シールドを形成する。この輻射シールドを温度定点として，より高温側である外部での電流導入には銅電流リード，より低温である内部での電流導入には高温超電導体（HTS : High-Temperature Superconductor）を用いることで断熱性能を高めている。微分方程式の数値的解法により温度分布を計算した結果，平均値を用いた解析による設計では電流リードが発熱してしまう問題が示唆され，数値的解法により最適化を行った結果，発熱の問題が改善された。また，銅電流リードにHTSを併用することによる熱負荷軽減効果の見積もりを行った。

5-142

JT-60SA PFコイル導体間電圧に対するクライオスタットの影響

◎吉田涼風・園田翔梧・結縄ことみ・小林倫香・中村一也・髙尾智明（上智大学）・村上陽之・濱田一弥・畠山昭一・島田勝弘（量子科学技術研究開発機構）

JT-60SAのポロイダル磁場（PF）コイルは4つの中心ソレノイドモジュールと6つ平衡磁場コイルから構成される。PFコイルの電源電圧はシステムの影響により周波数成分を含む。この電源がコイルに印加すると，共振現象によりコイル内の電圧分布が不均一になる。結果，コイル内に絶縁材の定格電圧以上の電圧が発生し，コイルが損傷する可能性がある。本研究ではPFコイルとクライオスタット，真空容器（VV），安定化板（SP）を含む解析モデルを作成した。また，クライオスタット，VV，SPによるPFコイルの導体間電圧への影響を評価した。結果，クライオスタット，VV，SPが導体間電圧に与える影響は小さいことが示された。

5-143

高熱伝導シートの挿入による伝導冷却超電導コイルの冷却効果向上（その2）

◎羽賀遼大郎・深野 魁・荒田渓登・園田翔梧・中村一也・高尾智明（上智大学）・城谷泰弘（クラレ）

伝導冷却型HTSコイルでは熱的不安定性によるクエンチが問題となっている。コイル内の温度上昇を低減させるため，熱伝導率が高いシートを超伝導コイルの層間に入れることを試みる。試験方法として，約20枚のYBCOテープを立てて並べ，両側から銅ブロックで固定する。次にYBCOテープスタックの上下に試料である高熱伝導シートを置く。77Kまで冷却した後にハステロイヒーターを発熱させ，熱電対（TC1~TC3）を用いて0.2から0.5Wまで変化させて温度上昇を測定した。その結果，77Kから指数関数的にカーブを描いて上昇し，100から200秒以内には定常状態に達し，0.4Wのときは88K程度で定常状態となった。今後は高熱伝導シートを置くことで温度上昇の低減を確認する予定である。

5-144

REBCO高温超電導コイルにおける臨界電流の軸方向圧縮応力依存性の評価

◎小畑慶人・三浦英明・小笠原 敦・殿岡 俊（三菱電機）・大屋正義（関西学院大学）

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて，液体水素の冷熱を活用したゼロエミッションな高温超電導発電機の研究開発を行っている。大型発電機の開発に向けた課題の一つが，REBCO線材の機械的脆弱性である。600MW級タービン発電機の回転子巻線にREBCO線材を適用する場合，回転子にかかる遠心力は約8000×gとなり，最外周の界磁巻線に対して約50 MPaの圧縮応力が印加されることが想定される。本研究では，回転子巻線にパンケーキ形状のREBCOコイルを採用した場合を想定し，コイル軸方向に圧縮力が印加された場合の臨界電流特性を評価したので報告する。

5-145

鉄道用超電導フライホイール蓄電システムにおける充放電の実証試験結果

○吉永 孝・西 健太郎（東日本旅客鉄道）・牧島信吾・嶋田純也（東洋電機製造）

電気車の制動時に発生する回生電力は，付近に力行車両の走行していない場合は回生電力が絞り込まれ，有効に活用されない。そのため，さらなる回生電力の活用を目的として，新たな蓄電媒体である超電導技術を応用した超電導フライホイール蓄電システムを開発し，中央本線穴山変電所にて鉄道では初めての実証試験を行った。営業線と接続して電気車と充電および放電を行った試験の結果，当初の仕様通りの充放電の性能を確認し，1日あたりの省エネルギー効果および補機電力量や機械損失を鑑みた全体効率を定量的に示した。

5-146

鉄道用超電導フライホイール蓄電システムの磁気軸受における測定結果

○西 健太郎・吉永 孝（東日本旅客鉄道）

電気車が制動した際に発生する回生電力を有効に活用するため，蓄電池等の設置を一部で行っている。JR東日本では新たな蓄電媒体の開発を目的に，鉄道用超電導フライホイール蓄電システムの開発を行い，中央本線穴山変電所に設置した。本稿では，列車走行時の充放電における磁気軸受の特性についての測定結果を報告する。

5-147

冷凍機冷却した高温超電導バルク磁石を使った非接触撹拌機に向けた永久磁石の浮上力測定

○岡 徹雄（芝浦工業大学）・関根芸妍・菊地紘生・横山和哉（足利大学）・坂井直道（芝浦工業大学）・逸見智和（サーマルブロック）

高温超電導バルク磁石と小型冷凍機を用いて77K以下の温度で使用すると，機器の操作性と共に，臨界電流密度の向上によって，従来の永久磁石を上回る磁場特性が簡単に得られる。この磁場性能に期待される産業応用として小型の非接触軸受が挙げられる。感染症対策下での薬剤の無汚染製造に対応した非接触撹拌のニーズを受けてすでに一部の産業応用が実現している。筆者らは高トルクで実用的な非接触撹拌機を目指し，複数極の磁気結合による浮上水平抗力の測定を行って10Nの実用的な性能を示し，この簡便で高信頼を特徴とする機器の市場投入の可能性を示した。

5-148

HTSバルクを使用した吸引型磁気浮上システムにおける案内力特性

◎田中 豪・中村幸太・鈴木隆真・園田翔梧・中村一也・高尾智明（上智大学）・塚本修巳（横浜国立大学）

高温超電導（High-Temperature Superconducting: HTS）バルクの磁気遮蔽効果を用いた電磁吸引制御方式の磁気浮上システムについて研究している。HTSバルクを用いることで，車体とレール間の距離を検知し制御するシステムを必要とせずに安定した浮上が可能となる。本浮上システムは，車体側のHTSコイル，HTSバルク，軌道側の強磁性体レールによって構成される。システムの安定性の一例として，車体が軌道から外れるような横方向に移動した際に，車体を元の位置に戻すような復元力（案内力）が重要である。そこで，HTSバルクの磁気遮蔽効果によって案内力を発生させる解析モデルを作成した。結論として，案内力を得ることができ，本浮上システムにおいて横方向の安定性を示すことができた。

5-149

回転磁石式誘導加熱応用のための超電導バルク体回転装置の試作機製作

◎近藤壮太・許 航・野村新一（明治大学）

アルミニウムの押し出し加工において，交流磁場をアルミビレットに印加して誘導加熱を行う方法が用いられる。この方法は加熱のための有効電力だけでなく，交流電磁石を励磁するための無効電力の供給が要求される。これに対して，著者らは着磁した超電導バルク体をアルミビレットの周りで回転させて誘導加熱を行う回転磁石式誘導加熱法の可能性検討を進めている。この方法は，直流磁場を用いるため無効電力の問題を解消し，アルミビレットを静止させた状態で加熱することが可能になる。本発表では，超電導バルク体回転装置の試作機製作状況について報告する。

5-150

機械加工したREBCOバルク体とクロス型ヨークを組み合わせたパルス着磁の効率改善の検討

○横山和哉（足利大学）・岡 徹雄（芝浦工業大学）

REBCOバルク磁石の実用化において，発生磁場の向上と同時に着磁の簡便化が課題である。これまでに，バルク体へ効率的に磁束を侵入させることを目的として試料の一部に細孔を加工する手法を提案してきた。さらに，装置の軽量化を目的として，パルス着磁の際に印加する磁場をより長く試料に曝すために用いられる軟鉄ヨークを，一般的な円柱型からクロス型に変更する手法を提案した。本文は，この2つの手法を組み合わせることを提案し，そのパルス着磁特性を実験及び数値解析により評価した。

5-151

ハルバッハ配列による空飛ぶクルマ滑走用超伝導リニア同期モータの漏れ磁場軽減についての検討

◎吉田 景・佐々滉太・宮崎寛史・岩熊成卓・吉田 敬（九州大学）

人やモノの効率的な移動を可能とする「空飛ぶクルマ」が次世代エアモビリティとして注目されている。現在ペイロードや航続距離に課題があるため，多大なエネルギーを消費する垂直離陸に代わりにリニアモータを用いて機体を滑走・離陸させる方式を考案しており超伝導リニア同期モータを採用している。この際，強磁界中では人体内に電流が誘導される恐れなどがあるためモータの二次側の超伝導磁石から機体に漏れる磁場を抑制する必要がある。そこで本研究では先行研究で大きな値を記録した超伝導リニア同期モータの機体側への漏れ磁場を軽減するために，二次側コイルをハルバッハ配列に基づいて配置したハルバッハ配列超伝導リニア同期モータを二次元有限要素法解析により設計した。

5-152

無絶縁高温超伝導コイルを界磁巻線に適用した大型同期電動機の駆動特性解析

○福井 聡・吉田偲生・原山亨介・小川 純（新潟大学）・石山敦士（早稲田大学）

大型HTS電動機の頑健性を担保するためにNIコイルを界磁巻線に適用することが検討されている。同期機の界磁巻線にNIコイルを適用する場合，ターン間の横断電流が回転機特性や制御性に与える影響を評価する必要がある。本研究では，船舶用20 MW級HTS同期電動機の電気設計を行い，3次元有限要素解析により，NI界磁コイルを考慮したモータモデルを作成し，ベクトル制御による駆動制御特性について検討した。

5-153

鉄心スロット内に配置した高温超電導テープ巻線の有限要素解析

○柁川一弘・柳澤隼輔（山口東京理科大学）・中村武恒（京都大学）

REBCOテープ線材の典型的な幅は数mm，超電導層の厚さは数μmのため，その電磁界を数値解析する場合は通常，厚さ無限小の薄板（ストリップ）とみなして，ストリップに垂直な成分のみをもつ電流ベクトルポテンシャルTを未知数として定式化したT法が用いられる。一方，超電導ストリップ内の電流ベクトルポテンシャルTに加えて，周囲の真空部も合わせて同時に磁気ベクトルポテンシャルAで定式化するT-A法が最近活発に利用されている。本研究では，鉄心スロット内に配置したREBCOテープ巻線の電磁界分布を有限要素解析するために，T-A法に基づく数値解析手法を構築した。

5-154

高温超伝導テープ線材の銅電極付近での電場分布

◎仁田野陽菜・江口実穂・石井彬喜・神田昌枝・山口作太郎（中部大学）

超伝導テープ線材（RE123線材）と銅電極接続部付近では，超伝導層側であっても抵抗発生が複数報告されている。これは臨界電流以下の電流で観測されており，短絡電流が流れたときにはより高い電場の発生が懸念される。また，航空機用超電導ケーブルでは，銅電極の軽量化が求められているため，銅電極をできるだけ小さく軽く作る必要があるが，同時に電極部での発熱の最小化が重要になる。本研究は，短絡電流等の大電流に対する電極付近での電場分布を測定し，銅電極最適化ための基礎的なデータを得るために臨界電流試験と短絡電流試験を実施した。

5-155

高温超伝導テープ線材の短絡電流特性の比較

◎江口実穂・Yury Ivanov・神田昌枝・山口作太郎（中部大学）

電力ケーブルでは短絡事故を想定する必要がある。そこで，Bi2223とRE123テープ線材を用いて短絡実験実施した。Bi2223では，パルス長が10 ms程，ピーク電流（I_p）が 6.3 kAで線材の温度上昇により，塑性変形をした。同時に，臨界電流（I_c）は低下したが，アークの発生はなかった。この時，電圧タップ部はんだが溶融し外れた。実時間温度算出で線材温度は~700 Kと推定され，はんだ溶融温度を優に超していた。一方，RE123では，パルス長が40 ms以上，I_pが2 kA以上でI_cの低下およびアークを伴う破断が生じた。これは，Bi2223では安定化材の銅層が厚く，発熱が比較的低くなるためと思われる。一方RE123は銅層が薄く，短絡時に抵抗負荷として振る舞い，回路エネルギーの多くが熱になるためと考えている。

5-156

ボイル・オフ・カロリーメータを用いた多層断熱材の自重に対する断熱性能の測定

◎小林東矢・小林裕彬・加藤向志・神田昌枝・山口作太郎・渡邉裕文（中部大学）

本研究では，縦型ボイル・オフ・カロリーメータを用いて巻き付け強さが異なるスイスロール巻きでの熱侵入量を測定した。その結果，今回の巻き付け強さの変更範囲では，熱侵入量は誤差の範囲で一致し，断熱性能への影響はないことがわかった。横型ボイル・オフ・カロリーメータを用いることでMLIの自重の影響を見積もる。結果については当日発表する。

5-157

臨界電流密度の磁場依存性を考慮した超電導電力ケーブルの交流損失解析

○野地英樹（都城工業高等専門学校）

4層導体+2層磁気シールドケーブル（フジクラ製）を研究対象として，交流損失解析を行った。フジクラ製ケーブルは，2013年に発表された66 kV-5 kA級ケーブルである。ケーブルを構成する超電導テープ（REBCO超電導体）の各層における巻き付け方向および巻き付けピッチは公表されていないため，電気回路モデルにより適切な値を算出した。算出したケーブル構成パラメータによりケーブルの3次元モデルを作成し，高速化したH formulationによる電磁界解析により交流損失を算出した。この計算において，臨界電流密度の磁場依存性を考慮して，パラメータの1つである臨界磁束密度B_Cを変化させながら交流損失の通電電流特性を計算した。本発表では，計算結果と測定結果との比較について報告する。

5-158

公衆通信回線利用の無線式列車制御システムにおける伝送路の構築手法

◎岩本功貴・北野隆康・祇園昭宏（鉄道総合技術研究所）

近年，生産年齢人口減少に伴う労働力不足に対応すべく，業務の省力化および省人化が求められている。鉄道現場においても，デジタル技術による鉄道システムの革新により，安全性の向上および低コスト化を同時に推進することが肝要となっている。特に，列車の運行に関わるシステムでは，安全性向上の観点から，無線式列車制御システムが実現している中，中央装置から各拠点に繋ぐ伝送路は自営網で構築されており，設備の維持管理にコストを要している。そこで，自営網の削減による低コスト化およびメンテナンスの省力化を目的とした，公衆通信回線利用の列車制御システムの構築が検討されている。本稿では，公衆通信回線利用の列車制御システムの構築に必要な要件ついて，「システム設計に基づく地上装置-車上装置間（地車間）における通信エリアの設定」および中央装置-現場装置-車上装置間における「沿線環境に基づく伝送路の設計」の観点から論じる。

5-159

安全確認型の無線式列車制御システムに関する一検討

◎関山瞬太郎・久保田淳司・西本 翔・太田佑貴・北野隆康・藤田浩由（鉄道総合技術研究所）

これまでに検討された無線式列車制御システムでは，従来の踏切制御の考えを踏襲して，進路・間隔制御の機能と踏切制御の機能を別々の機能として実装することを基本としていた。一方，無線式列車制御システムの間隔制御で使用されている停止限界の考え方は，安全確認型の制御を基本としており，踏切制御に関しても同一の考え方，制御を適用することが可能である。本稿では，停止限界の支障条件に踏切を追加し，列車が走行するすべての区間において，停止限界に基づく安全確認型の制御を行う無線式列車制御システムを提案する。

5-160

安全確認型の無線式列車制御システムを活用した踏切故障時の鳴動停止に関する一検討

◎西本 翔・久保田淳司・関山瞬太郎・藤田浩由・北野隆康（鉄道総合技術研究所）

著者らは安全確認型の無線式列車制御システムの特長を活用することで，踏切故障時の長時間鳴動の解消を検討することとした。検討の結果，踏切が通常時の条件により鳴動を開始していない場合，踏切の故障発生時，踏切を鳴動させ遮断する。その後，踏切の外方に停止限界を保持することで，踏切を鳴動停止させ遮断解除できることを示した。導入するメリットとして，踏切故障時の長時間鳴動による交通渋滞を防止できることや，現地係員の取り扱いミスによる無遮断を防止できることを報告した。

5-161

無線式列車制御システムにおける位置誤差と余裕距離の一検討

◎久保田淳司・関山瞬太郎・西本 翔・北野隆康（鉄道総合技術研究所）

現在，著者らは公衆通信回線を活用した安全確認型の列車制御システムの研究開発を行っている。無線式列車制御システムでは，列車の在線を車上の位置検知デバイスで認識した位置に基づいて行うため，位置検知の過程で発生する誤差への対策等として，真の列車位置に対して安全を考慮した余裕距離の設定が重要となる。位置誤差や余裕などの要素を明確にしないままシステムを設計した場合，鉄道事業者や線区ごとの運行条件などに応じて，仕様が異なってしまい，相互運用性に支障する恐れがある。そこで，安全確認型の列車制御システムにおいて考慮すべき余裕距離の要素を体系的に整理し，システム機能への割り付けを検討したため，報告する。

5-162

RFIDを用いた列車位置検知の基本的検討と走行試験結果

○谷口 茂・板垣朋範・竹内俊裕・水間 毅（京三製作所）

日本の鉄道においては，少子高齢化，将来の需要減を考慮した，省コスト，省保守な列車制御システムの開発，再構築が望まれている。その流れの中で，列車走行の安全を担う列車位置検知システムにおいても，従来の軌道回路のようなコストや保守の手間がかかるシステムから省コスト，省保守な列車位置検知システムが望まれている。そこで我々は，産業界で広く利用されている，RFID（Radio Frequency Identification）を利用した，非接触で列車位置検知が可能なシステム開発を行っている。本稿では，RFIDを用いた列車位置検知システムの概要と，実路線において実施した走行試験の結果を示し，今後の開発の方向性を示す。

5-163

第4種踏切に対する安全性向上支援装置の技術的検証と設置リスクの検討

○八木 誠・長谷川智紀・山口大助・三好正太（交通安全環境研究所）

鉄軌道輸送において，安全の確保は最大の使命である。地方鉄道においては，低コストかつ効果が高い踏切の安全性向上策が求められている。踏切事故の実態把握を行い，優先的に防ぐ事故形態及び踏切種別を明確にしたうえで，汎用技術を利用した低コスト安全性向上策の検討については，電気学会令和5年全国大会にて紹介した。その後，第4種踏切において支援装置の試験設置を行い，基本機能の確認を行った。また，本支援装置は保安装置用マイコンを搭載していないため，危険側故障が想定される。本支援装置を設置するにあたり，法律的にどのような課題があるのか，リスクの観点から，鉄道事故に知見のある弁護士の意見を承ったので紹介する。

5-164

運転整理の変更により影響を受ける旅客の抽出・可視化手法

◎髙田真由・國松武俊（鉄道総合技術研究所）

運行管理業務の品質向上を目的に，旅客への影響が少ない運転整理を目指す観点で，異なる運転整理案同士を比較するための分析方法を検討した。具体的には，運転整理の変更により影響を大きく受ける旅客を可視化して抽出した上で，ダイヤ図上で当該旅客の経路を可視化する手法を提案した。単線路線で実際に発生した輸送障害事例に対するケーススタディにおいて，提案手法を用いて実績の運転整理と，実績の運転整理手配を変更した整理案を比較した。その結果，提案手法により，旅客に影響を及ぼしやすい列車が抽出でき，抽出した列車の手配を変更することで，旅客の到着遅延時分を小さくできる可能性があるという知見を得た。

5-165

運行実績データを用いた駅発生遅延に関する相関分析

◎加藤瑞貴・福田卓海・高橋 聖（日本大学）

本研究は，短時間の慢性的な遅延が先行列車および後続列車，周囲の駅に波及する様子を定量的に示すことを目的とし，運行実績データを用いて分析を行った。人身事故や急病人の看護等による突発的な遅延を除き，停車時間の延びが60秒以下である日の朝ラッシュ時間帯に走行した列車27本を分析の対象とし，相関分析を行った。上流駅から下流駅に進むにつれ，列車間隔と駅発生遅延の相関係数が高くなっていることを確認した。また，対象駅における対象列車の駅発生遅延が周囲の遅延に与えている影響を相関係数を用いて評価を行い，駅発生遅延は周囲に影響があることを定量的に明らかにした。今後は，遅延の与える影響について定式化を行うことに取り組む。

5-166

自動運転の都市鉄道における需要変動への即応のための留置線の活用

◎西久保高志・高木 亮（工学院大学）

列車の自動運転技術は鉄道サービスのさまざまな高度化に資すると期待されている。例えば，これに駅や列車内の混雑状況のセンシング技術を組み合わせれば，輸送需要の変動への対応が改善できると期待される。だが，混雑がセンサ類で検知されてから増発等を図ろうとすると，車庫の位置などにより輸送力の増加を図りたい駅や区間等で実際に輸送力が増えるまでに時間がかかる問題がある。本研究では，こうした局面において，沿線に設置した留置線を活用する手法について検討し，提案手法が需要変動への即応性の改善に関し効果的であることを示した。

5-167

走行中に列車を分割する際の加減速制御最適化の基礎検討

◎井上佳之・高木 亮（工学院大学）

鉄道線路のある区間上に複数の列車の存在を許さないことで列車同士の衝突を防ぐ「閉塞」の考え方は鉄道の安全の根幹をなす考え方である。しかし，高度な列車運行実現に視すると期待される列車走行中の分割・併合では，この考え方に反する「閉塞違反状態」を経なければならない。我々は，走行中の分割については，分割直後の2列車の速度制御の工夫により閉塞違反状態が現れる時間の長さの短縮が可能であることを示したが，その制御の最適化が課題であった。そこで本研究では，走行中の列車を分割する際の速度制御手法の最適化についての基礎的検討を行った結果を報告する。

5-168

地上連結PRTの駅構内における加減速の手順

◎畑野周平・高木 亮（工学院大学）

PRT（個人用高速輸送システム）は，小型車両を用いて自動車並みの利便性を狙った新交通システムであるが，輸送力が小さく，我が国の首都圏のような巨大都市圏の放射状重鉄道路線に見られる大容量輸送は不可能と考えられてきた。これに対し，我々は走行経路設定の自由度を維持しつつ機械的連結の多用により大幅な輸送力増強が可能な地上連結手法を提案した。この手法を用いる地上連結PRTでは，本線上の全車両が非常に短い間隔を保ちながら同期走行するが，駅部では車両は停車する必要があるから，駅部の車両は本線上を走行中のそれらとの同期はできない。本論文では，地上連結PRTの駅部での加減速の手順について検討した。

5-169

列車前方監視のためのステレオカメラによる支障物検知システム

◎影山 椋・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

鉄道のさらなる安全性向上に向けて，我々はカメラやセンサを用いた車載型の列車前方支障物検知システムの開発を行っている。本研究では，運転台前面窓に容易に設置でき，かつ運転士の視界を遮らないコンパクトな構成で実現可能な検知システムとして，ステレオカメラによる物体検知システムを開発した。提案手法では，AIベースと深度情報ベースの2通りのアプローチを組み合わせた検知処理を行い，検知範囲に支障物が侵入したときにアラートを発出する。試験線路での性能検証の結果，服装の異なる人物や，AIの学習データに含まれていない人物以外の物体を適切に検知し，画面上で検知結果を確認できることが分かった。

5-170

臨時信号機検知システムに付属する徐行速度表示認識手法の検討

◎小室翔嗣・合田 航・中曽根隆太・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

鉄道において，工事や災害等により列車を所定の速度で運転させることができない場合，一時的に臨時信号機を設置して運転士へ運転条件を現示している。臨時信号機は，設置期間や設置場所が不定であるが，運転士の目視確認によって安全を確保している。そこで我々は，更なる安全性向上と運転士の前方監視業務の負担軽減を目的に，列車前方映像を用いた臨時信号機検知システムの開発に取り組んでいる。本稿では，臨時信号機検知システムへの新たな機能追加を目的とした，列車前方映像からの徐行速度表示認識手法の構築と，徐行速度表示の認識精度の評価を行ったため，その結果について報告する。

5-171

複数の車内カメラによる車両内の人数推定手法の検討

◎高橋宏侑・合田 航・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

国土交通省は2023年，鉄道における車内防犯カメラの設置を求める事とし，所要の法令改正を行う方針を示した。この方針により，鉄道において車両内にカメラを設置する車両が増えている。このような車両内で撮影された複数のカメラ映像に対して，AIを用いて車両1両内に存在する人数を予測することができれば，車両ごとの詳細な混雑情報を乗客に提供することができる。本稿では，人数を計測可能なAIを活用し，車両1両内に設置された複数の車内カメラ映像から車両1両内に存在する人数を推定する手法について検討した。

5-172

言語画像AIモデルを用いた列車前方画像の同一地点抽出手法

◎合田 航・長峯 望・前田梨帆（鉄道総合技術研究所）

鉄道においては，少子高齢化に伴う労働人口の不足が懸念され，メンテナンス体系の維持が課題となっている。このような背景から，鉄道事業者において，列車前方にカメラを取り付け，この映像からメンテナンス業務への活用を目指す取り組みが進んでいる。特に，列車巡視等と合わせて撮影を行う場合，高頻度に撮影されたデータを蓄積することができる。一方で，撮影した画像データから時系列的な推移を確認するためには，同一地点となる画像を過去に蓄積したデータ上から抽出できることが必要となる。そこで我々は，近年，画像検索等で活用されている言語画像AIモデルを使用することで，列車前方画像の異なる時期の画像間で同一地点を抽出する手法を検討した。

5-173

前方映像を用いた沿線の植生状態の把握手法

◎戸部田貴裕（無所属）・影山 椋・中曽根隆太・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

本研究は，鉄道の保線業務において雑木伐採や除草作業の効率向上を目指し，列車添乗で得たステレオカメラ映像を用いて沿線の植生状態を把握する手法を提案するものである。提案手法では列車前方の映像をオフラインで処理し，距離の推定や深度推定，セマンティックセグメンテーションによる植生推定を行います。得られた情報を基に植生の建築限界侵食度合を判定し，効率的な保守作業計画に貢献することを目指す。今後の課題としてデータセットの充実や判定尺度の設定，処理速度の向上が挙げられ，実用化に向けた試験が必要である。線路の植生状態との比較を通じて手法の有効性を検証し，作業の効率化について詳細な検証を行っていきたい。

5-174

画像によるちょう架線赤さび検出手法の基礎検討

○松村 周・薄 広歩・山下主税（鉄道総合技術研究所）

電気鉄道の架空電車線におけるちょう架線は，亜鉛めっき鋼より線が使用されることが多い。このちょう架線を対象に，車上に搭載したカメラで電車線を撮影した画像を用いて，劣化度合いを連続的に数値化する手法の基礎検討を行った。セマンティックセグメンテーションと画素の輝度値解析を組み合わせたアルゴリズムを提案し，所内試験により赤さびの発生状況に対応したスコアが得られることを確認した。また，営業線のちょう架線を連続的に撮影した動画から赤さびスコアを求め，目視による赤さびの発生状況と対応していることを確認した。提案手法は，赤さびスコアの相対比較によりちょう架線取り替えの優先度決定に活用可能であると考えられる。

5-175

軌道面映像を用いた黒色皮膜検知システムの開発

◎本郷昂貴・合田 航・中曽根隆太・長峯 望（鉄道総合技術研究所）

山間区間において，秋期に落葉等がレール上に残ることで黒色皮膜が発生することがある。この黒色皮膜は車輪の空転や滑走の発生要因の一つとなっている。この問題に対して，黒色皮膜の発生している区間やレール面に落葉が多く付着している区間をリアルタイムで特定することができれば，係員に該当の区間を伝達でき，車両運用や運転操作により黒色皮膜の影響を低減することができる。本稿では，列車運転台に設置したカメラから軌道面を撮影し，リアルタイムで黒色皮膜の検知及び映像の確認が可能な黒色皮膜検知システムを開発したので，動作結果について報告する。

5-176

画像認識による新幹線ボンド設備の異常状態検出手法に関する検討

○戸丸耕太・佐々木和洋・金田敏之（東日本旅客鉄道）・山口 修（東芝）

定期的に取得される線路モニタリング画像を活用し，軌道回路用送着ボンドの異常状態を画像処理で検知する在来線ボンドモニタリングが当社では運用化されている。新幹線についてもボンド設備画像が取得可能となったことから，在来線ボンドモニタリングと同様に，画像処理により新幹線用ボンド設備の異常状態を自動検出するための技術検討を実施した。性能評価試験の結果，提案手法が新幹線用ボンド設備の異常状態を自動検出するために有効であることを確認した。

5-177

画像分類AIによる信号器具箱の外観劣化度診断手法

◎前田梨帆・合田 航・長峯 望（鉄道総合技術研究所）・羽月孝太・鶴 直人（九州旅客鉄道）

鉄道における信号器具箱は沿線に点在しているが，これら全てに対して作業員が定期的に現地へ巡回し検査を行うため，人的・時間的コストが大きい。そこで検査の省力化を目的として，列車前方画像に写る信号器具箱の画像から，画像分類AIを用いて外観劣化度を診断する手法を提案した。本手法により，事業者で「要処置」相当とされる劣化度の信号器具箱を96.3％の精度で判定できることを確認した。また，劣化度は連続値で診断することができ，したがって設備更新の優先度の策定や時系列での劣化推移の監視へ適用できる可能性がある。

5-178

鉄道車両の遠隔データを活用したBC圧の健全性判断手法の改良

○宮内 努・北井瑳佳・工藤 匠（日立製作所）・久保田 諭・小越康子・江畑雄介（東武鉄道）

鉄道車両のブレーキシリンダ圧（BC圧）測定検査の省力化に対応するため，走行データを用いてBC圧の健全性を判断する手法を開発している。従前に開発した手法を用いて，評価対象期間を増加させた結果，全般検査の前後で，誤検知率が大幅に変化することを確認した。分析の結果，保守により空車時のBC圧が変化し，従来手法で判定に用いていた基準値では，全般検査前後で誤検知数が大幅に変化する事象があることを確認した。この問題を解決するために，日々の起動開始時に得られるBC圧を抽出，全般検査前／全般検査後それぞれの期間で中間値を算出，それぞれの期間でのBC 圧の基準値とした。改良手法を適用した結果，上記保守の前後での誤検知率の変化が抑制され，誤検知率も1%未満を実現できることを確認した。

5-179

開発中のアプリケーションによる北条鉄道における加速度測定結果の一考察

○加藤真嗣（神戸市立工業高等専門学校）

バス運転手やトラック運転手の 2024 年問題や従事者の減少により，鉄道を取り巻く状況は一変してきている。地方鉄道も廃止してバス転換という流れから，可能な限り存続させる流れに変わりつつある。しかし，ほぼ全ての地方鉄道は赤字であり，厳しい経営環境にあることに異論はないだろう。厳しい経営環境下においても安全は必須であるが，現状は鉄道の安全神話を揺るがす多くの事象が発生している。このような背景を踏まえて，著者は安価なタブレットを利用して加速度や位置情報を記録し，保線の省力化に役立てるアプリケーションを鋭意開発中である。本稿では，開発中のアプリケーションの現状報告および北条鉄道における測定結果について報告する。

5-180

列車加速度測定による振動分析の提案

◎阿部寛史・藤田吾郎（芝浦工業大学）

過疎化による人口減少で収入減少が深刻化している地方鉄道事業者では，自社保有路線のメンテナンスに十分な費用を確保できていない。大手鉄道会社では軌道と架線を走行中同時に検査可能な専用車両にて数日で全線を検測しており，その状況と比較すると地方鉄道会社の現状は高い安全性の維持が十分ではないことが課題となっている。本研究では，地方鉄道会社での安全性向上を目的として低コストかつ簡便に軌道の異常検知が可能となるシステムの構築を目的に研究している。今回は測定方法に改良を施すとともに，速度別のデータの扱い方を，乗り心地の評価への適用も含めて検討した。なお，本研究は公益財団法人大林財団の助成により実施した。

5-181

NS形電気転てつ機のフィールドデータ分析と状態基準保全に関する研究（その2）

○志田 洋（西日本旅客鉄道）・三﨑友樹（四国旅客鉄道）・高橋 寛（愛媛大学）

鉄道信号設備の維持管理に関して，将来想定される労働人口減少に伴う新たなメンテナンス要員の確保が難しくなるなどの課題から，電気転てつ機の状態監視用などに配備されたテレメータシステムから高頻度に得られる保全データに機械学習を適用し，設備状態の良否を判定する手法「状態基準保全（CBM）」に関する研究を行っている。本稿では，将来，電気転てつ機の異常発生予測を行うため，容易に得られる日々の天気予報（最低気温，最高気温）の情報利用について検討した結果を報告する。具体的には，点検日（基準日）の気温変動と日々（評価日）の気温変動との乖離を示す『変動指標』を新たに考案し，この変動指標とデータ分析から求まるマハラノビス距離の相関関係について検証を行った結果について報告する。

5-182

FFTを用いた帰線電流雑音の影響低減手法と組込みデバイスによる処理装置の検討

◎鈴木匠人・望月 寛（日本大学）

鉄道信号システムにおける軌道回路伝送の際に問題となる帰線電流雑音の影響を低減するようなFFTの応用について検討した。具体的には，電源周波数の周波数変動をFFTで検知することで帰線電流雑音のスペクトラムを算出する手法，およびその算出結果を踏まえたOFDMサブキャリア選択を行う手法を提案し，計算機シミュレーションによって基本性能を評価した。また，提案手法を実際に組込みデバイスの一つであるDSPを用いた処理装置についてもあわせて検討した。その結果，計算機シミュレーションと同様に帰線電流雑音のスペクトルのピークを避けながらリアルタイムでサブキャリア選択を行えることを確認した。

5-183

特高系統の変圧器加圧時に複数の駅負荷が同時に停電した事象の調査

○南之園弘太・保坂朋子・熊谷大輔・小林桂輔・森田将典・山田進也・貞平健吾・前野友哉・鈴木高志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

2022年1月に東日本旅客鉄道株式会社管内の高崎線の7駅において一部低圧負荷が同時に停電する事象が発生した。これは，岡部交流変電所（154kV⇒66kV）での主変圧器1号加圧時に発生したものである。事象の原因究明のため，事象発生時と同条件で岡部交流変電所の主変圧器加圧を実施した際に，66kV系，6.6kV系，210/105V系でそれぞれ電圧・電流データを測定した。本論文では各電圧階級で測定したデータを分析し，得られた特徴について報告を行う。

5-184

江原変電所停止が電車線路の電圧降下に及ぼす影響

◎米原正剛・武内 紳・杉山祐介・中野 顕（西日本旅客鉄道）

当社では持続可能な事業運営に向けた基盤づくりを進めるうえで，鉄道の高コストな事業構造改革を推進している。変電所については諸々の理由により停止させることの検討が行われ，その際には車両のパンタ点電圧の確保とき電保護の確保が必要となる。本稿では，江原変電所を停止（延長き電）した場合，パンタ点電圧の確保に焦点を当て，電車線路の電圧降下に及ぼす影響について，フィールド試験およびシミュレーションによる確認と検証を行った。結果，平常時の最も負荷が大きくなる条件で江原変電所を停止しても最低補償電圧を確保可能であることと，隣接する片側の変電所が停止する異常時にはノッチ制限が必要であることがわかった。

5-185

BT電化区間き電区分所の地絡保護の検討

○渡部哲至・横山直人・鎌田健作・丹治良樹・佐藤弘太・斎藤純平・瀧 史好・大谷 暁（東日本旅客鉄道）・安喰浩司（サンコーシヤ）

2023年5月，奥羽本線赤岩き電区分所（SP）にて地絡電流1273Aの地絡が2回発生した。現地測定等の結果，共に交流放電開始電圧3000Vである赤岩SPの保安器4号と地絡保護用放電装置（GP）はそれぞれ不動作であり，赤岩SPと赤岩通信機器室の距離は38mのため，赤岩通信機器室の接地極母線が赤岩 SPにて生じた地絡電位上昇の影響を受けたことにより，各信号通信局の基板焼損が生じたと推定された。赤岩SPにて実測したNFの交流電圧波高値は最大約400V，サージ電圧は最大約4000Vであり，これらから変電所遮断器の不要動作および保安器2号（交流放電開始電圧2500V）の損傷等は生じないことを確認した。よって，赤岩SPでは保安器2号を備えることが電力系統と信号通信設備の保護において適していると言える。

5-186

直流き電における高抵抗地絡検出のためのレール電位量変化測定

○中澤秀規・髙石大輔・黒嶋公則・林屋 均（東日本旅客鉄道）・山崎洋輔・長森正樹・川原敬治（津田電気計器）

直流1,500Vを用いたき電方式の課題として高抵抗地絡事故の検出が挙げられる。高抵抗地絡は数百A程度の電流しか流れないため現状の変電所保護システムでは検出が困難である。この課題を解決するために列車負荷と高抵抗地絡のレール電位に着目し，レール電位変化量（ΔV／Δt）を用いて，高抵抗地絡を瞬時に検出する手法を考案した。今回は列車負荷によるレール電位変化量の測定結果を報告する。

5-187

地絡検知アプリケーションを用いた高抵抗地絡検知の実証試験

○赤木雅陽・近藤 稔・河村裕介・流王智子・栗田いずみ・太田佑貴（鉄道総合技術研究所）

直流電気鉄道において，キルヒホッフの電流則に基づき車上・地上変電所間の電流照合と地絡検知を行うべく，筆者らは列車の集電電流や列車位置・変電所の供給電流を時刻情報付きデータとして一元化する，電力ネットワークモニタリングシステムのプロトタイプを構築している。今回は地絡検知判定を自動的に行うべく，専用アプリケーションを開発した。また，所内試験線で試験列車走行中に地絡模擬回路を投入した際の電流データ等を取得した。上記データをアプリに与えたところ，開発したアプリが所定の地絡判定動作を実行可能であること，同一の判定条件なら地絡電流が大きいほど早期検知できることを確認したので報告する。

5-188

縮尺模型車両の軌条輪加振装置と駆動技術開発への応用

○山下道寛・寺田泰也（鉄道総合技術研究所）

鉄道車両の主電動機トルク制御や再粘着制御では，車輪回転速度に相当する主電動機回転子の速度情報を用いて制御系が構成される。速度情報には，車体・台車運動がノイズとして現れることがシミュレーションにより確認され対策技術が紹介されている。本稿では，鉄道車両の機械的特性の違いや軌道状態などによる主電動機への影響を詳細に把握して駆動性能を向上する目的で製作した縮尺模型車両の軌条輪加振装置を紹介し，模型車両および実車での試験結果例を報告する。

5-189

誘導電動機の自励振動を利用した初期速度推定法の検討

◎小南宥翔・岩路善尚（茨城大学）・國廣直希・奥田一真・大塚邦晃（日立製作所）

主に電車を駆動するときに用いられる，速度センサレスで駆動される誘導電動機の再起動をより素早くできるようにするために，空転再始動方法の検討が必要とされている。以前我々は，自励振動現象を利用した手法をベースとした，より広範囲な速度に対応可能である手法を提案し，実験結果を報告した。しかし，誘導電動機の内部に残留磁束が存在する条件下でこの手法を用いることが可能なのかを検証することができていなかったので，今回はそれについて実験を行った。その結果，残留磁束が存在する条件下でも，以前提案した手法で問題なく初期速度推定が可能であることを確認することが出来た。

5-190

電車用接地装置の抵抗測定結果

○吉川 岳・三木真幸（鉄道総合技術研究所）

電車の接地装置の抵抗は一般に速度依存性と電流依存性を持つため，静止状態で測定したものと実際の運用状態とでは抵抗が異なる。そこで接地回路シミュレータの高精度化を目的に，軌条輪上で実物台車の輪軸を回転させて電流を流し，その際の接地装置の抵抗を測定した。その結果，本実験の範囲においては，接地装置での電位差（電圧降下）は少なくとも20km/h以上では速度依存性・電流依存性ともに目立たず，約0.35Vで一定と近似できることがわかった。すなわち回路シミュレータでは接地装置を抵抗素子でなく定電圧素子で模擬する方が適切である。ただし，より大電流が流れた際の傾向は今後の確認が必要である。

5-191

モータ駆動用三相インバータにおける偏重ランダム変調による平均周波数低下手法

◎岡田友風貴・新海 健（東京工科大学）

大容量のモータ駆動用インバータはスイッチング損失を低減するため，可聴領域内でのスイッチングが行われる。また，キャリア周波数が極端に低い場合，信号波半周期あたりに含まれるパルス数が少なくなり，三相非対称波形の生成や偶数次高調波の増大といった不具合が生じる。本論文では，ランダム変調二値において，スイッチング損失を低減するため，出現する確率に重みづけをする。その結果，キャリア最大・最小周波数を保った状態で，平均周波数を低下させられることを示す。

5-192

商用周波による鉄道車両用非接触給システムにおける大容量間欠給電と小容量連続給電の比較

○依田裕史（鉄道総合技術研究所）

磁界結合による非接触給電（WPT）においては，コイルの漏れ磁束に伴う大きな皮相容量によって機器体格が決定づけられる。そのため接触式給電と異なり，WPT機器の体格は伝送電力容量のピーク値に大きく依存する。これまでの検討においては，走行用蓄電デバイス（ESD）を搭載した車両に対して停車中に給電し，消費したエネルギーをESDに供給する用途を想定した，可能な限り大きな伝送電力容量を確保することをコイル設計の方策としていた。これに対して，走行中を含めた長時間の給電により，同じ消費エネルギーをより小さな伝送電力容量で賄うことができる。本稿では，ESD搭載車両に対する大容量間欠給電と小容量連続給電について，それぞれに適合する商用周波WPTコイルの設計を提示し，比較を行う。

5-193

地上コイル絶縁診断用車載検査装置における電磁波の長時間記録方法の検討

○太田 聡（鉄道総合技術研究所）

超電導リニアの構成要素の一つ地上コイルのうち，推進コイルには高電圧が加わる。また敷設個数は膨大となり対応した絶縁診断の適用が必要となる。筆者らは推進コイルが絶縁不良時に発する部分放電に伴う電磁波に注目し，効率的な絶縁診断を行う手法の提案を行ってきた。本手法で用いる絶縁診断装置は車両通過時に推進コイルに発生する高電圧の活用，および移動しながら検査が可能という観点から装置は車載のものを検討している。本装置においては広帯域の電磁波を高頻度で計測でき，かつ長時間の記録が可能となるベクトルシグナルアナライザ型の計測器を用いるとともに，データ保存パラメータの適切な設定を行うための検討を行った。

5-194

在来鉄道の高速化～電車線の押上に関する一考察

○池田国夫（三和テッキ）

電車線とパンタグラフから成る集電系の動特性を評価する指標のひとつとして，トロリ線の押上量がある。パンタグラフの押上力は，これを決定付ける大きな要因となる。それら相互の動的な作用を解析する上で，押上力として一定力を与える事例が多く，パンタグラフの質量との関係について，あまり着目されて来なかった。しかし，本紙で示すよう，その質量が押上量に大きく作用する場もあり，結果として高速化を妨げる要因と成りかねない。一方，高速化を図る手法のひとつとして，架線のサグを推奨する機会も多いが，それが押上量に大きく依存するのは，その目的から自明の理である。パンタグラフ質量と押上量の関係を明らかとする過程を経て，在来鉄道を対象に，高速化に帰するよう，サグについて一考する。

5-195

列車速度300km/h超域におけるCo-P系トロリ線（CPS130）の架設試験結果

○臼木理倫・山下主税（鉄道総合技術研究所）・下平好章・佐藤寿人（東日本旅客鉄道）

CPSトロリ線は，PHCトロリ線と同等の機械的・電気的性能を有しつつ，PHCトロリ線に比べ安価でかつ鉄道事業者の小ロット需要に対応可能なコバルト－リン系析出強化型銅合金トロリ線である。既報にて，列車速度240km/hのヘビーコンパウンド架線（トロリ線：CPS110）での動特性評価および撤去品調査を報告した。本稿では，列車速度300km/h超域の高速シンプル架線区間においてCPS130トロリ線の1年間の架設試験を行い，その間に行った集電性能測定・トロリ線摩耗測定および撤去トロリ線の材料調査結果について報告する。

5-196

新幹線耐震省力形曲線引金具の開発

◎福島規至・長山健太郎・山宮 聡（東日本旅客鉄道）・佐藤修平・大石真歩・小林武弘（三和テッキ）

新幹線のトロリ線張替では曲線引金具に対して多くの作業員を確保して作業を行っているため，省力化を目的に施工性の良い曲線引金具を開発した。しかし，2021年，2022年に発生した福島県沖地震においいて，曲線引金具の変形や折損が多く発生し，復旧に多くの時間を要したため，耐震性能を有し損傷時に外観検査により確認ができる構造が求められており，本論文では耐震性能と作業の省力化を兼ねた性能を有する曲線引金具を開発し，今後の導入に向け営業線内でフィールド試験を行い，JR東日本機能仕様書に準じ性能評価を行ったので報告する。

5-197

トロリ線接続金具の仕様に関する検討

○入倉佳祐・佐藤 亘・山崎猛志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

東日本旅客鉄道株式会社では，トロリ線の中間接続のための金具としてダブルイヤーに代えて常温圧接と併用するプロテクタ金具やスプライサ金具を導入している。これらを導入する際は，その都度，要求する仕様を定めてきていたが，製造メーカや用途が多様化してきた中でこれらに要求する統一された仕様を定める必要性が生じてきた。本論文では，これまでに検討したトロリ線の接続金具に要求する仕様について報告する。

5-198

トロリ線接続の施工くせ低減手法の効果検証

◎中村 琢・中島祐樹・増井裕太・村上智史・岡部源太・早坂高雅（鉄道総合技術研究所）

電気鉄道の架線パンタグラフ系において，パンタグラフのしゅう動で摩耗するトロリ線は，架線張力で破断する前に張替えられる。在来線ではトロリ線の旧線と新線を接続して摩耗箇所のみ部分的に張替えるが，新幹線では接続箇所における集電性能悪化の懸念から引留長全体を張替えている。接続箇所の集電性能悪化の要因の一つに施工工具取付箇所に生じるトロリ線の塑性変形（施工くせ）がある。この課題の解決に向けて，筆者らは施工くせを低減する工具を提案してきた。本稿では，提案工具を試作し，施工くせの低減効果を実験から検証するとともに，施工くせの集電性能に与える影響を試験設備による走行試験で評価した結果を報告する。

5-199

打ち込み式支線基礎の開発

◎京野真也・吉田匡志（東日本旅客鉄道）・斉藤聖司・木村友博（日本地工）

電車線路は約1500mごとに引き留めしており，その張力による電柱の折損・傾斜を防止するため両端に支線を張っている。支線を地面に固定する際，基礎部分のコンクリートと金属が土中で接触し，マクロセル腐食による破断が懸念されるため，現在では金属部と土壌が接触しないF型支線基礎が用いられている。F型基礎は支線の引張力に対応したコンクリートの重量が必要であり，新設工事においては重量物の運搬，穴掘，コンクリート流入といった工程に多大な労力がかかっている。また，狭隘箇所への設備は困難で施工性も芳しくないことから，支線基礎新設工事の労力低減および施工性の向上を目的に，打ち込み式支線基礎を開発した。その概要及び検証結果を報告する。

5-200

クロス引抜によるき電ちょう架線化工法の変革

○道本武泰（東日本旅客鉄道）

現在JR東日本で進めている「電路設備の簡素統合化工事」（インテグレート化工事）では既設のき電線を支持物に支持した状態のまま，き電ちょう架線を一方向へ引抜いてちょう架線と入れ替える工法を採用しているため，一時的に支持物の許容荷重を超えてしまうことがある。このような場合には先に支持物を建て替える必要があることから，インテグレート化工事のコスト増や工期延伸が課題となっている。この課題を解決するためクロス引抜工法を日本電設工業と開発し営業線へ導入することに成功した。

5-201

直流電気鉄道用ポリマーがいしの経年や外観変状と引張耐力に関する検討

○柴田直樹・臼木理倫（鉄道総合技術研究所）・山崎猛志・佐藤 孝（東日本旅客鉄道）

ポリマーがいしは，軽くて施工性がよいという利点を受け，鉄道事業者で導入が進んでいる。しかし，直流電化区間での使用においては，ポリマーがいしの金具の加圧側に，漏れ電流によると思われる局部的な腐食を生じているものも発見されており1)，これがポリマーがいしの引張耐力を低下させる一因となっている可能性が考えられる。そこで本検討では，実際に直流電化区間の塩害地域にて長期間使用されたポリマーがいしの引張破壊試験を行い，経年や外観と，最大引張力との関係について調査検討を行った。

5-202

ALFA-Xにおける光切断法を用いたトロリ線摩耗計測の精度検証

◎薄 広歩・松村 周（鉄道総合技術研究所）・山宮 聡・福島規至（東日本旅客鉄道）

E956形新幹線用高速運転試験電車（ALFA-X）に光切断法を用いたトロリ線摩耗計測装置を搭載して営業線のトロリ線断面形状データを取得し，取得形状から求めた残存直径と手測定データを比較することで実環境における計測精度を確認した。その結果，摩耗進行箇所ではマイクロメータとの残存直径差が-0.25mm，360km/h走行箇所および偏摩耗箇所では型取りゲージとの残存直径差が±0.1mm以下であり，実用上十分な精度が得られていることを確認した。

5-203

破断確率に基づくトロリ線ひずみ目安値設定法

○小原拓也・山下主税（鉄道総合技術研究所）

トロリ線には許容されるひずみの目安として500×10^-6という値が設定されているが，今後のさらなる列車高速化によって，ひずみが目安値以下に抑えられなくなる可能性がある。上記目安値は，基本的なトロリ線材料である硬銅の疲労特性に，ある程度の余裕度を見込んで設定された値であり，高強度の銅合金トロリ線については従来目安値から許容ひずみ値を向上できる可能性がある。ただし，従来目安値の設定手法では余裕度を定量化していないことなどの課題があった。そこで本研究では，従来目安値における余裕度を統計的な破断確率により定量化し，硬銅以外のトロリ線にも適用可能なひずみ目安値設定方法を提案した。

5-204

亜鉛めっき鋼より線の減肉顕在化に伴う色変化

◎谷口宗大・臼木理倫・松村 周・山下主税（鉄道総合技術研究所）

ちょう架線の亜鉛めっき鋼より線（以下，より線）は，腐食し減肉が顕在化する際に表面の色変化（赤→黒）を伴うことが経験的に知られているが，色変化に関する研究例はなく原因は不明である。本稿では，CCTで腐食させたより線の観察・分析から，減肉顕在化に伴う色変化の原因について考察した結果を報告する。CCT後のより線表面には減肉が顕在化した灰色箇所と減肉が未顕在の茶色箇所が存在し，灰色箇所ではFeの酸化物，茶色箇所ではFeとZnの酸化物が表面に露出していることがわかった。Feの酸化物にZnの酸化物が混ざることで異なる色調を示し，減肉顕在化に伴う色変化は最表面がFeとZnの酸化物からFeの酸化物に変化するために生じると考えられる。

5-205

コンクリート柱内部鉄筋の接地抵抗測定

○和木 浩・中島 等（日本電設工業）

直流1500V電気鉄道における電界分布を把握するには，有限要素法等による電界分布解析が有効である。しかし，土木構造物やコンクリート柱といった鉄筋コンクリート構造のモデル化が問題となる。そこで本研究では，まず埋設されたコンクリート柱下部に注目し，その撤去工事中に鉄筋の接地抵抗を実測し，有限要素法による定電流解析と比較して，コンクリート柱埋設部の状態を調査した。その結果，運用設備状態にあるコンクリート柱埋設部のコンクリートは湿潤状態にあり，その鉄筋の接地抵抗は28.8Ωという低い状態にあることがわかった。直流電界解析を行うにあたって，鉄筋を接地導体として扱うことができると考えられる。

5-206

鉄道車両の運用データを活用した回生絞込み状況の分析

○安東正登・宮内 努・戸次圭介（日立製作所）・今村憲司・久保田 諭・小越康子（東武鉄道）

近年，鉄道車両で取得した運用データをオンラインで地上に配信し，データの分析・活用による省エネ化（1）や，機器の健全性判断（2）等に向けた取り組みが活発化している。東武鉄道株式会社アーバンパークラインを走行する60000系も車上データ有効活用システム「Remote」により車両データをオンラインで配信するシステムが稼働している。回生電力の有効活用による鉄道システムの省エネ化を目的とし，車両データを用いて回生絞込みによる損失電力量（以下，回生絞込み電力量）の分析手法を構築した。本稿では，本手法をRemoteで取得した車両データに適用し，アーバンパークラインの回生絞込み状況を分析した結果を示す。

5-207

電力需給調整と高頻度力行回生の複合を想定した鉄道用車載電池の劣化傾向評価

◎渡邉有人・田口義晃（鉄道総合技術研究所）

鉄道総研では，地上や車載のリチウムイオン蓄電池を電力系統と連系させ電力需給調整に活用する「R2G（Rail to Grid）」の可能性を検討している。筆者らは，鉄道用車載リチウムイオン電池を対象に，力行アシストおよび回生吸収を模擬した高頻度充放電と，電力需給調整対応の複合条件を模擬した通電試験を実施した。供試電池においては，小刻みな高頻度充放電のみでの容量減少の影響は僅かであるものの，SOC50%付近で高頻度に充放電を繰り返すと特異的に急激な容量減少を示し，電池固有の高頻度充放電を回避すべきSOC領域が存在することが明らかになった。

5-208

長距離列車向け消費エネルギー概算手法における下り勾配の緩急についての考慮手法検討

○齋藤達仁・清水健人・小川知行（鉄道総合技術研究所）・添田 正（日本貨物鉄道）

低炭素化に向けた検討に際し，様々な列車の消費エネルギーを簡易かつ正確に求める手法の確立が期待されている。著者らが開発している手法では路線の勾配データの集計値を用いるため，長距離列車についても勾配の影響を考慮した消費エネルギーを計算できる。今回その勾配集計手法を改良し誤差を低減する方法を提案した。実際の貨物列車の消費電力量について，提案手法，従来手法，実測結果を比較し，消費エネルギー概算の最大誤差が66％から14%へと改善したことを確認した。

5-209

リアルタイム運転曲線最適化手法およびそれを活用した省エネ走行方法の提案

○貝塚悠祐・深見研一・佐々木 聡・西田安秀（東海旅客鉄道）

In this paper, we propose real-time running profile optimization algorithm for automatic train operations, which utilizes offline calculated optimal running profiles. We examine the effectiveness of the proposed method using simulations. The paper also proposes an energy-saving method using the proposed real-time optimization method.

5-210

直流電気鉄道システムの省エネルギー化を目的とする列車発車時刻決定法

◎岡田優弥・近藤圭一郎（早稲田大学）・小林宏康（千葉大学）・鈴木高志・南之園弘太（東日本旅客鉄道）

直流電気鉄道において，各列車の運行状況が把握できる前提のもと，列車間のエネルギー融通を促進し電気鉄道システムの省エネルギー化を図る検討がなされている。回生車の発現に合わせ周囲の惰行車を再力行させる手法を提案した研究が見られるが，駅間距離の短い路線や列車密度の高い路線では走行状態の遷移が頻繁になり得る点で問題がある。本研究では，列車発車時刻とエネルギー融通量の定量的関係に基づき，各列車のランカーブを変えずに力行列車と回生列車間でのエネルギー融通を促進する列車発車時刻決定法を提案する。また，提案手法の省エネ効果について，き電回路をモデル化した走行シミュレーションにて得られた結果をもとに説明する。

5-211

新幹線における省エネルギーな列車ダイヤ策定法

◎河合 光・近藤圭一郎（早稲田大学）

電気鉄道では，複数駅間を決められた運転時分で走行する際に，駅間の走行時分を適切に割り振ることで，エネルギー消費を最小化することができる。このような省エネルギーなダイヤ策定に関する研究として，「等増分消費エネルギー則」を用いた方法が挙げられる。この方法では，各駅間で走行時分と消費エネルギーの関係を求め，複数駅間の走行時分一定の制約条件の下，消費エネルギーの面で最適な走行時間の分配を行い，省エネルギーなダイヤを求めている。本稿では，この先行研究を参考に，新幹線の場合の運転時間に対する消費エネルギー特性を求め，新幹線の省エネルギーな列車ダイヤの一策定法を提案する。

5-212

変電所代替を目的とした蓄電装置の容量最小化を狙った充放電制御手法の検討

◎川﨑颯哉・近藤圭一郎（早稲田大学）・小林宏康（千葉大学）・梶原正信・黒崎朋史（西日本旅客鉄道）

直流電気鉄道において，一部変電所を蓄電池擁するバッテリポストに代替して特別高圧受電設備の省略などを狙う取り組みが検討されている。バッテリポストには変電所の代替として架線電圧を一定範囲内に維持することが求められるが，適切な充放電の選択を行わなければ，蓄電エネルギーの枯渇や蓄電池本体の容量を大きくしなければならなくなる。蓄電池の充電回復能力と架線電圧補償能力を確保しつつ，必要な蓄電池の小容量化を両立させるための充放電手法について提案し，回路シミュレーション上での動作と期待される効果について概説する。

5-213

直流新き電システムのエネルギー制御機能の開発

○高橋弘隆（日立製作所 鉄道ビジネスユニット）・宮内 努（日立製作所 研究開発グループ）・鈴木基也・手島正人（日立製作所 鉄道ビジネスユニット）

カーボンニュートラル加速に向けた省エネ施策および各鉄道事業者のアセットライトを実現するための一案として，直流新き電システムの構成及び制御方式を考案した。本報告においては直流新き電システムのコアな制御技術となるエネルギー制御機能ついて報告する。

5-214

鉄道直流き電システム用電力貯蔵装置の充放電効率の計測

○細川恭彦・高橋弘隆（日立製作所）・五十嵐 洋・作地 修（日立インダストリアルプロダクツ）・小西武史（鉄道総合技術研究所）・兎束哲夫（日本工営）

2017年10月に直流き電システム用地上設置電力貯蔵装置向けにIEC62924が制定された。充放電効率の測定は，同規格の8章「試験」において，型式試験で実施することが規定されており，計算式は記載されているが，計測方法は記載されていない。今回，パナマメトロ3号線に納入予定の電力貯蔵装置について，型式試験を委託した鉄道総合技術研究所とパナマメトロ3号線Projectのコンサルタントである日本工営と協議を行い決定した計測方法，および結果について報告する。

5-215

直流電気鉄道の省エネルギー化を実現する可変リアクトルを用いた変電所電圧制御法の検討

◎小林宏泰・関東汰一・早乙女英夫・宮城大輔（千葉大学）

流電気鉄道システムの省エネルギー化のアプローチの一つとして，回生エネルギーの有効活用が挙げられる。本研究では可変リアクトルを用いた変電所電圧制御による回生エネルギーの有効活用に着目している。この手法では，蓄電デバイスを必要としないため，低コストで省エネルギー化が実現できる可能性を有する。これまで，可変リアクトルによる電圧制御性能に関する検証が行われているが，可変リアクトルを用いた変電所出力電圧制御法については十分に検討されていない。そこで本稿では，可変リアクトルを用いた変電所電圧制御法を提案し，その省エネルギー効果について検証を実施したので報告する。

5-216

北陸新幹線新上越変電所におけるデマンドオーバー防止に向けた検証

◎杉本涼輔・岡本憲拓・前田和明（西日本旅客鉄道）

JR西日本の北陸新幹線管内では，30分毎の使用電力量（デマンド）が契約デマンドを超過（デマンドオーバー）しないように経験による判断と予測によりノッチ制限を実施してきた。しかし，運転用電力を個別契約としている新上越変電所においては予測が外れ，デマンドオーバーを発生させている。そこで，筆者らは，デマンドオーバーを防止する手法として，列車種類別，運転状況別の1列車走行あたりの使用電力量をモデル化による手法を考案した。そして，提案する手法に対して，過去の実績ダイヤおよび実運用による検証を行い，一定の精度があることを確認できた。本論文では手法の検討内容と検証結果について報告する。

5-217

変電所き電電流の推移に関する一考察

○平野太一・鈴木高志・林屋 均（東日本旅客鉄道）

日本国内においては，2019年末頃から新型コロナウィルス感染症の流行やそれに伴う緊急事態宣言の発出による人流の変化があり，鉄道を利用されるお客さまの数にも影響があった。そこで，本論文では2019年末以降のコロナ禍による鉄道を利用されるお客様の減少が電鉄用変電所のき電電流の変化に表れているのか，複数年のき電電流データを分析することにより明らかにした。

5-218

変電所計測データを用いた鉄道用配電線路負荷の基礎分析

○鈴木高志・平野太一・林屋 均（東日本旅客鉄道）

鉄道用配電線路の負荷電力について，変電所に設置されている計測装置で記録されたデータを用いて，いくつかの基礎的な分析を行った。まず，回線ごとに日負荷曲線の特性や季節による変動の形に違いがあることや，負荷電力の気温依存性を示した。また，コロナ禍を挟んだ期間の長期的傾向の分析から，回線により影響の現れ方に違いがあること，全体的に負荷電力は減少傾向にあることがわかった。

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駅配電用変圧器の高効率運用となる適正容量選定手法の検討

○木幡陽介・西 健太郎（東日本旅客鉄道）

駅負荷設備に電力を供給する配電用変圧器は容量選定が過剰になる傾向があるため，通常の運用時は負荷率が低くなり，変圧器の効率が低い領域で運用していることが多い。本稿では駅配電用変圧器を高効率帯で運用し損失を低減する観点から適正容量を選定する手法についての検討を行った。京葉線新習志野駅の動力変圧器において実測値から負荷率に関連が大きい要素として気温と列車本数を抽出し，電力量予測式を導出した。理論式より損失を最小とし高効率運用となる変圧器を選出，損失を33％削減できる可能性を示すことで，本容量選定手法が有効であることを示した。

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高効率型新幹線温風融雪器の製作

○須﨑哲哉・西 健太郎（東日本旅客鉄道）・櫻井裕二郎・梅津憲太・山田尚輝（新陽社）

新幹線の温風融雪器は，融雪器筐体内のヒータにおいて空気を温めて，その温風をレールに送風して融雪しているため，熱効率が低く消費電力量が大きい課題がある。これまでの研究により，筐体からの熱放散及び熱の伝達が低いことが確認された。新幹線温風融雪器の熱効率を改良する観点より従来品を改良した融雪器を開発し，工場での特性を確認して従来品と同等以上の融雪効果が得られる試験結果を得たので結果を報告する。