一般講演

2-103

高光透過率を有するFeCo-BaF系ナノグラニュラー膜の巨大ファラデー効果

○小林伸聖・池田賢司・岩佐忠義・荒井賢一（電磁材料研究所）

我々は，FeCo-AlFナノグラニュラー膜において，強磁性と同時に光透過性を示し，かつBi-YIGの40倍の巨大ファラデー効果を示す事を見出した。これらの膜を光アイソレーター等の光磁気デバイスに用いることを考えた場合，大きなファラデー効果と同時に高い光透過率が求められる。ナノグラニュラー構造において，その光透過特性はマトリックスを形成するフッ化物の光学特性に由来すると考えられる。本研究では，優秀な光学材料として広く用いられており熱的にも安定なBaF2をマトリックス材料として選択し，FeCo-BaFナノグラニュラー膜を作製し，その磁気光学効果を評価した。その結果，FeCo-AlF膜と比較して，より高濃度のFeCoを含有する膜においても，光透過性が維持され，磁気光学材料としての性能指数が向上することが明らかとなった。

2-104

Co-SiNナノグラニュラー薄膜の磁気光学効果

○池田賢司・小林伸聖・荒井賢一（電磁材料研究所）

我々はフッ化物系ナノグラニュラー膜に関し，磁性金属組成がおよそ30 at.%以下の領域において光透過性を示すことが確認し，Bi-YIGに対して40倍のファラデー効果を示すことを見出した。この磁気光学効果は，マトリックス界面近傍の磁性原子の磁気モーメントがエンハンスされることに起因すると考えられる。磁気光学デバイスへの応用については，フッ化物のマトリックスは屈折率が低いため，高屈折率材料が求められるデバイスへの適用は困難である。本研究では，高屈折率材料であるSi3N4をマトリックスとしたナノグラニュラー薄膜の作製を検討した。今回は，反応性スパッタによって作製したCo-SiN膜の，薄膜作製条件とファラデー効果の関係について報告する。

2-105

スピン熱電発電素子における磁性絶縁体の磁気特性と熱電電圧の関係の検討

◎西村 涼・今村正明・田島大輔（福岡工業大学）・浅田裕法（山口大学）

近年，身の回りの熱エネルギーを利用するエネルギー変換技術として熱電発電技術が研究されており，新しい原理を用いるスピンゼーベック効果(spin Seebeck effect: SSE)によるスピン熱電発電が注目を集めている。本実験ではLiquid phase epitaxy (LPE)法により(111)面gadolinium gallium garnet (GGG)基板に成膜した結晶性に優れるyttrium iron garnet (LPE YIG)単結晶膜による熱電素子のV_STE値とmetal organic decomposition (MOD)法により(001)面GGG基板に成膜したBi置換の200 nm 厚の(Nd₂Bi)₃Fe₅O₁₂ (Bi Neodymium Iron garnet)結晶薄膜による熱電素子のV_STE値を比較して特性評価を行った。実験結果から，磁気特性と熱電電圧特性の間には関係のあることが分かった。これは結晶性の違いがスピンミキシングコンダクタンスに影響を与えること共に，MOD膜の膜厚が200 nmと非常に薄いことの影響の結果と考える。

2-106

MnZnフェライトの磁心損失に及ぼす応力の影響

○加藤充次・金澤裕子・小野清人（FDK）

MnZnフェライトに圧縮応力，引張応力をそれぞれ負荷し，コアロスの変化を調査した。コアロスは引張に対する変動は小さく，圧縮に対しては急激に増大する。この結果は，従来のNiZnフェライトとは異なり，引張と圧縮で逆の関係を示した。これは，NiZnフェライトの飽和磁歪が負であるのに対し，MnZnフェライトのそれが正であるためと考えられる。 ここで得られた応力とコアロスの関係を，実際の製品形状と固定状態を有限要素法等で解析した応力分布と連成することで，実装時の損失をある程度正確に見積もることができる。

2-107

極低周波微小磁界変動に対する磁気シールド材料の評価法

○榊原 満・武藤 暁・奥田 学（オータマ）

近年，半導体デバイス製造や，研究開発，医療などの先端分野において，高度な磁気シールドが求められるようになってきている。特に極低周波微小磁界変動への対応が求められ，用いる材料の性能評価段階で検証することが重要である。本研究では，一般のBHアナライザーで計測が困難な極低周波微小領域の特性を計測するため，増分透磁率の計測評価システムを提案し，実際の計測事例にて材料の優劣が明確に判断できることを示す。

2-108

重希土類元素フリーNd-Fe-B磁石の作製検討と磁気特性評価

◎岩﨑亮人・中野善和・中村泰貴（三菱電機）

NdFeB磁石は永久磁石の中でも優れた磁気特性を有しており，サーボモータなど様々な用途に使用されている。これらの製品において，高温下でも正常に動作させるべく重希土類元素(Dy・Tb)の添加による保磁力向上が行われてきたが，重希土類元素は産出地域が限られているため調達リスクが高い。今回，NdFeB磁石の脱重希土類化を目指し，NdFeB合金にLa, Smを同時に添加したボンド磁石の作製及び評価を実施した。その結果，残留磁束密度を低下させずに保磁力の温度特性を向上させられることがわかり，重希土類元素に代わる耐熱性付与元素としてLa及びSmの適用可能性を見出した。

2-109

急冷凝固法により作製したSmFe₃系合金の磁気特性

○齋藤哲治・堀田 龍（千葉工業大学）

急冷凝固法によりSmFe₃系合金急冷薄帯を作製した。得られた試料の構造と磁気特性について調べたところ，SmFe₃系合金は少し保磁力を示すことがわかった。また，SmFe₃系合金にZrを添加すると，保磁力が大きく向上することもわかった。

2-110

ステンレス基板上へのPr-Fe-B系磁石膜の創製と磁気特性

○竹市 蕉・井上皓司・高嶋恵佑・柳井武志・中野正基・福永博俊（長崎大学）

ステッピングモータ等の小型モータは，一層の小型・軽量化等が要求される傾向にある。市販の小型モータには，希土類系ボンド磁石が主に使用されているものの，残留磁気分極などの磁気特性が，比較的大型のモータに利用される焼結磁石に比べ劣る。本研究ではPLD法を用い，強磁気特性を有するステンレス基板上に等方性のPr-Fe-B系磁石膜を成膜した。厚膜化に伴う内部応力の増加が試料の剥離現象に及ぼす影響を基板の厚みで制御できる事に着目し，数種類の厚みの基板に作製した試料の成膜後ならびに熱処理後の状態を観察した。更に小型モータへの応用を鑑みた際のパーミアンス係数(Pc)を想定し，その範囲での（BH）maxを評価したので報告する。

2-111

Fe-Pt磁石膜の磁気特性に与えるアルカリ金属イオンおよびハロゲン化物イオンの影響

◎古谷誠也・大曲湧也・本多純也・濱村 陵・柳井武志・中野正基・福永博俊（長崎大学）

Fe-Pt磁石は優れた硬磁気特性に加え，高い耐食性や生体適合性を有するため，医療・歯科用デバイスへの応用が期待される。本研究室ではこれまでに，小型デバイスへの応用を鑑み，ミクロンオーダーの厚みを有するFe-Pt磁石膜を電解めっき法により実現してきた。その中で，めっき浴内のNaCl濃度を高めると保磁力が増加することを見出し，Naイオンに規則化を促進する可能性があることを報告した。Naはアルカリ金属であるため，この結果はアルカリ金属イオンに規則化を促進する可能性があることを示唆している。一方，NaCl濃度の増加は，Naイオンの増加とともにClイオンも増加するため，Clイオンが規則化に影響を与える可能性も考えられる。すなわち，浴内のアルカリ金属イオンやハロゲン化物イオンは，Fe-Pt磁石膜の磁気特性に影響を与えると予想される。そこで，本研究では，アルカリ金属イオンやハロゲン化物イオン種を変化させて，Fe-Pt磁石膜を作製し，磁気特性を評価したのでその結果を報告する。

2-112

クエン酸浴から作製したFe-Co電析膜

◎三枝香風・田中凌将・加治淳一・柳井武志・中野正基・福永博俊（長崎大学）

本研究室では,これまでに電流・磁気センサなどの磁性デバイス応用を鑑みたFe-Niめっき膜に関する報告を行ってきた。その中で,クエン酸を錯化剤として用いることで,Fe₂₂Ni₇₈付近の組成において優れた軟磁気特性を有するナノ結晶Fe-Ni膜が得られることを確認してきた。磁性デバイスの小型化を鑑みた場合,より磁化の高い軟磁性材料の適用が望まれる。そこで,本研究では高飽和磁化材料として知られるFe-Co系合金に着目した。上述のように,クエン酸浴を用いることで,Fe-Ni膜ではナノ結晶構造が得られた。Fe-Co系合金にクエン酸浴を適用し,ナノスケールでの組織形成ができれば,異方性の平均化による軟磁気特性の改善が起こり,高飽和磁化と低損失を両立できる材料になると期待される。以上のような背景から,本研究では,クエン酸をベースとするめっき浴を用いることで,優れた軟磁気特性を持つFe-Co膜を得ることを目的とした。

2-113

無電解めっき法により成膜したFe-Ni軟磁性膜

◎田中凌将・三枝香風・加治淳一・幸田一輝・柳井武志・中野正基・福永博俊（長崎大学）

Fe-Ni合金は優れた軟磁気特性を有しており，センサなどの磁気デバイスに応用されている。本研究室では電解めっき法によりFe-Ni膜の成膜を行い，その磁気特性の改善を目指し多くの報告を行ってきた。しかし，電解めっき法では導電性の基板が必要になり，センサの高周波駆動を考えると，導電性の基板は除去することが望ましい。そこで外部電源を用いない無電解めっき法に着目した。本稿では，還元剤にジメチルアミンボランを用いた無電解めっき法により成膜したFe-Ni軟磁性膜の基礎特性を評価した。

2-114

変圧器におけるアモルファス箔の幅広接合技術の評価

○舘村 誠・今川尊雄（日立製作所）・佐藤孝平・白畑年樹・相馬憲一（日立産機システム）

大型変圧器の高効率化を図るアモルファス鉄心幅広化を目的に，アモルファス箔4枚を上下左右の配置で放電溶接しながら幅広箔材をロールで巻き取る接合技術を検討し，その幅広接合した箔材の特性を評価した。接合した幅広材の外観にはひずみが生じたときのしわは観察されず，ロール巻への影響は見られなかった。入熱量0.013J/mmで接合した箔材の磁気損失は，素材に比べ1.2倍程度と熱による影響が小さく，接合した箔材の引張破断強度は破壊確率1％で約1Nを得，幅広鉄心の基本数値を確認した。曲げ破壊試験より破断した殆どは亀裂の起点が接合点であることが判り，運用上の課題を確認した。

2-115

アモルファスCo-Fe-B薄膜における磁気特性の膜厚依存性

◎田中治憲・Thi Van Anh Nguyen・宮崎孝道・枦 修一郎・石山和志・遠藤 恭（東北大学）

アモルファスCo-Fe-B薄膜の磁気特性は膜厚に依存し，とりわけαに関してはより薄い膜厚領域では材料固有のダンピング (α_int) に加えて外的要因に由来するダンピング (α_ex) が発生することがわかった．

2-116

Ga組成の異なるFe_100-xGa_x膜における磁気特性の膜厚による変化

◎川辺泰之・宮崎孝道・遠藤 恭（東北大学）

Ga組成の異なるFe_100-xGa_x膜における磁気特性について検討し，その膜厚依存性について議論する。 飽和磁化は，いずれのGa組成においても膜厚に関わらずほぼ一定となった。飽和磁気ひずみは，いずれのGa組成においても膜厚の増加とともに増加し，30 nm厚で極大となり，その後減少した。飽和磁気ひずみの値は，いずれのGa組成においても，膜厚によらず他のFe-Gaバルクや多結晶膜と比べて低くなっている．ダンピング定数はGa組成により膜厚に関して異なる挙動を示した。とくに，Ga組成が18.5 at.%の場合には，ダンピング定数の値はゼロ磁気ひずみ近傍でのNi-Fe合金やFe-Si合金よりも高くなることがわかった。

2-117

ハイパーサーミア用高周波電磁石のコイル配置と自己インダクタンス特性

◎許 航・野村新一（明治大学）・磯部高範（筑波大学）

本研究では，磁性粒子誘導加熱ハイパーサーミアのため，有効な高周波電磁石の設計と試作について検討している。目的は，利用空間中心に最大値は0.06 T，周波数は200 kHz の高周波磁場を発生する。また，連続使用時間は300 s である。高周波電磁石の設計手法を確認するため，研究室レベルの高周波電磁石試作機を設計試作した。実測結果は計算値より高くなることがわかった。したがって，200kHz で通電した場合，高電圧によりコイルの絶縁設計が困難になる。そこで，本研究では，コイルの自己インダクタンスを低減させるために，コイル配置を変化させ，電磁石の自己インダクタンスおよび漏れ磁束の状態を評価した。

2-118

正／負透磁率材料を用いた積層伝送線路の低損失化に関する理論的検討

◎久保村航大・鮎澤祥史・中山英俊・田中秀登（長野工業高等専門学校）

高周波伝送線路の表皮効果損失の抑制を目的として，負の透磁率材料を用いた積層伝送線路の検討を行った。円形断面積層線路を対象とした多層モデルの電磁界計算手法により，新たに複素透磁率の虚部による磁性損失も含めた理論計算を行い，検討した結果を報告する。 正／負透磁率材料を用いた2層構造において，周波数1GHz，伝送線路半径8μmとし，1層目の負の透磁率材料の半径5.67μmとして，Q値に対する伝送線路全体の損失と，銅損および磁性損失の大きさを計算した結果を示す。結果として，Q値が小さいほど磁性損失が大きくなり，全損失に占める磁性損失の割合を計算することができた。また，三次元有限要素法電磁界解析も併用して比較した結果，数%の差はあるが，相対的に同様の傾向を得た。

2-119

低温下における磁気-フェライト処理法による活性汚泥からのタンパク質の抽出

◎古谷 優・今 佑輝・遠藤雅也・カビールムハムドゥル（秋田大学）

タンパク質は人間の生活において必要不可欠となっている．そのため，タンパク質の機能解明が主要な研究課題のひとつとなっている．タンパク質の主な抽出法として，ホモジナイザーや凍結融解法，超音波処理法が用いられてきた．しかし，これらの抽出法は高価で複雑なため，安価で簡単な抽出法が求められている．本研究では磁気-フェライト処理を用いたタンパク質抽出法を考えている⁽¹⁾．タンパク質は熱に弱いため，低温 (1℃～5℃)での処理が良いとされている⁽²⁾．低温下での磁気-フェライト処理によるタンパク質抽出の可能性を実験から検討する．

2-120

液相・固相磁気ナノ粒子の高調波磁化特性

◎東 大路・野口裕希・中村啄流・吉田 敬・圓福敬二（九州大学）

交流励起磁界に対する磁気ナノ粒子からの磁化信号を検出し，磁気ナノ粒子の位置を検出する磁気ナノ粒子イメージング（MPI）が医療分野で注目されている。体内に注入された磁気粒子には，検査対象と結合し，固定された粒子と，血中や体液中を漂う動ける粒子の2つに分類できる。本研究では，両者の磁気ナノ粒子を識別するために必要な高調波磁化特性の違いについて調べた。その結果，固相サンプル作成時に，磁気ナノ粒子の磁化容易軸を一定方向に揃えて固化させることで，液相サンプルと，交流励起磁界に対して直交方向高調波磁化特性に違いが生じることが確認できた。

2-121

FeCo磁歪合金を用いたエネルギーハーベスタの提案

○中居倫夫（宮城県産業技術総合センター）

FeCo磁歪合金とリング磁石を用いた特殊な磁場構造によって，この磁歪合金内部に急峻な磁束密度の勾配を形成して，これを用いて振動と衝撃からエネルギーハーベスティングできる複合発電ユニットを提案する。今回の発表では，発電のコンセプトである磁場構造を中心に報告する。

2-122

磁気粒子イメージングにおける未結合粒子と結合粒子の識別手法の開発

◎中村啄流・野口裕希・東 大路・吉田 敬・圓福敬二（九州大学）

磁気粒子イメージング（MPI）とは，体内にナノサイズの強磁性体粒子を投与し，外部から励起磁界を印加することで特定の疾患の位置を特定する医療診断の手法である。本研究では，体内に投与した磁気ナノ粒子が検査対象と結合しているか否かを判別する手法の開発を行う。識別手法の開発にあたり，本研究では，磁気ナノ粒子が細胞と結合した場合と結合していない場合での磁気ナノ粒子の磁気緩和の違いに注目し，MPIで用いられる直流傾斜磁界に対する高調波磁化特性の違いを利用し，実際に識別実験を行った。識別実験の結果から，第三高調波の直流傾斜磁界に対する依存性を用いることで識別が可能であることを確認した。

2-123

磁気計測によるアルミニウム合金と鋼の溶接接合の評価

◎小部寛斗・合田悠斗・平田哲朗・堺 健司・紀和利彦・塚田啓二（岡山大学）

省エネルギー化の一つとして輸送機器の軽量化が取り組まれている。これには他の金属に比べ軽いアルミ合金を輸送機器に使用する鋼と溶接することで試みられている。しかし，溶接を行うので溶接強度を検査する必要があり，製品を壊さずに検査できる非破壊検査方法が求められている。 本研究では磁気計測を用いてアルミニウムと鋼のスポット溶接における溶接強度と接合面の品質評価を行った。非破壊検査方法として渦電流探傷法を用い，磁場スペクトルを測定することにより接合強度評価を試みた。また,溶接界面の断面をトンネル磁気抵抗（TMR : Tunnel-Magneto-Resistive）センサを用いて着磁の状態や，溶接による溶け込み状態を評価した。

2-124

麹菌の各種活性に及ぼす直流磁場の影響

◎岩本将人・太田垣梨奈・橋野一勝・金籐敬一・宇戸禎仁（大阪工業大学）

麹菌（Aspergillus oryzae）は米を培地として培養することで米麹と呼ばれるものになる。麹菌は様々な酵素を作り出し，特にアミラーゼによるデンプンを糖へと分解する「糖化」という働きは，日本酒醸造に利用される。 醸造過程では温度管理が重要であり，伝統的醸造方法では温度の調節によって麹菌の糖の生成速度を制御している。本研究では温度に加え，直流磁場で制御することを目指し，直流磁場の影響について調べた。麹菌を24時間培養し，DC, 1.2Tを15分間印加した。48時間後にグルコース濃度を測定すると，直流磁場を印加した試料から生成されたグルコース濃度が上昇した。結果から，直流磁場は麹菌の培養過程で影響を与えていることが確認できる。

2-125

低透磁率磁心を用いた広帯域EMIフィルタの基礎検討

◎Siong Ong Kelvin Lai・佐幸孝昭・傳田隆之・曽根原 誠・南澤俊孝・佐藤敏郎・篠﨑厚志・菊池良巳（信州大学）

従来の高透磁率磁心を用いたコモンモードフィルタではMHz帯から100MHzに至る広い周波数帯域でノーマルモードおよびコモンモードノイズを除去することは困難である．本研究では100MHz帯まで透磁率が一定で損失も少ない低透磁率Fe系メタルコンポジット磁心をコモンモードコイルに用いた広帯域EMIフィルタの開発を進めている．広帯域低損失低透磁率磁心の採用により，漏れインダクタンスによるノーマルモード除去と，相互インダクタンスによるコモンモード除去を広帯域で実現しようというものである．本発表では，前記手法を用いた高周波かつ広帯域EMIフィルタの試作・特性評価について述べる．

2-126

電池フリーIoTに向けた微風振動発電

◎長谷川 開・上野敏幸・木綿隆弘（金沢大学）

空調ダクトは建物の至る所にあり，ダクト内の温度や風速をモニタリングし省エネに繋げたいというニーズが存在する。しかしダクト内は配線やメンテナンスが難しく実現が困難である。このダクト内の風で発電し無線センサの電源とすることでモニタリングを実現できる。電源として使用するために，電池以上の長寿命，耐久性が必要とされる。我々の開発しているFe-Ga合金を用いた磁歪式振動発電デバイスは，高感度でシンプルな構造であり無線センサの電源に適している。そこで，磁歪式振動発電を用いて流力振動を利用した風力振動発電デバイスを開発した。風速0.7 m/sという低風速からの発電に成功した。

2-127

先端曲げによる振動発電デバイスの広角度対応

◎佐藤祐輔・上野敏幸（金沢大学）

近年のIoTの実用化にあたり，その通信モジュールには現状はボタン電池等が用いられているが，有限の寿命なのでメンテナンスの手間やコストがかかると言う欠点がある。これに対し我々は電池に代替する振動発電に関する研究を行っている。しかしながら，現状のデバイスは1軸方向の振動にのみ対応し，デバイスが振動体の取り付け角度がずれた場合などの対応が不十分である。また発電量向上のため将来的に多軸の振動を利用する場合も想定される。そこで本研究ではデバイスの先端を折り曲げることにより，振動方向に対してデバイスが0～90度のなす角を持つ取り付け状態でも適応できることを提案する。

2-128

LCブースターを用いた機能的ハイパーサーミア素子の共振設定に関する検討

○田倉哲也・梶原 将・菊地大貴（東北工業大学）・松木英敏（東北大学）

がん治療の一つとして温熱療法（ハイパーサーミア）がある．我々が取り組むソフトヒーティング法は感温磁性発熱素子を高周波磁界で励磁することで素子を加温する．発熱素子は感温磁性体と金属環から成り，感温磁性体のキュリー温度を利用することで金属環を流れる短絡電流を制御し，結果として素子到達温度を制御可能となる．これまで，体内深部で発熱素子の温度をキュリー温度に到達させるためには励磁装置が大型化することが課題となっていた．今回，発熱素子の能力を改善する手法として，ワイヤレス給電技術として確立してきたLCブースター手法を組込んだ発熱素子を作製し，小型励磁コイル中に発熱素子を配置したときの発熱の推定から，キャパシタ条件による発熱特性の比較について検討を行った．

2-129

アモルファスリボンを用いた磁歪式振動発電の基礎検討

◎長内史也・枦 修一郎・石山和志（東北大学）

FeSiB系アモルファス材料は，大きな電気機械結合係数を有することから振動発電への応用が期待されている。本研究では逆磁歪効果を利用した振動発電デバイス開発のための基礎検討として，応力印加時のアモルファスリボンの磁気特性をVSMおよびKerr効果顕微鏡で評価した。その結果，引張・圧縮歪を印加した際，磁気モーメントの向きの変化に対応したM-Hカーブの変化が確認できた。次に空芯コイルに発電機構を挿入し，長手方向に適切なバイアス磁界を印加した。アモルファスリボンに歪が印加されるように発電機構を振動させ，コイル両端の電圧をロックインアンプで測定した結果2.7 mVが得られ，これは理論値の見積もりに対して約64%程度の値であった。

2-130

歩行で動作する振動発電デバイスの検討

◎油井崇展・上野敏幸（金沢大学）

人間の動作からは低い周波数の振動が生まれる。例えば歩行であれば，進行方向に対して前後方向が約2~3Hz，左右方向が約3~6Hz，上下方向が2Hz付近の振動が生じる。歩行振動は日常的に発生する振動であるため，我々はこの振動に着目して，磁歪式振動発電に応用するべく研究を行っている。歩行の振動によって発電デバイスを共振させるにはデバイスの共振周波数を低減する必要がある。本研究では，発電デバイスの共振周波数を低減する構造の提案，加振機による振動及び実際の歩行振動によって発電する基礎的な実験を行ったので報告する。

2-131

電磁界共振式ワイヤレス給電を用いた汎用電池の残存電力回収に関する検討

◎山崎裕也・土井達也（足利大学）

一般に，乾電池やボタン型電池などは多くの家庭で災害時用に買い置きされているが，災害時には特定の用途にしか使用出来ない。また，使用済電池は出力電圧が機器の駆動電圧を下回っているだけで一定の残存エネルギーが残っている。 従来から筆者等は，電磁界共振式ワイヤレス給電(1)を用いた局在エネルギー回収デバイスを提案している。提案システムは，送受電間の磁気結合が一定値以上になった時に自動的に給電を開始するデバイスである。 本稿では，汎用電池の残存電力回収用のワイヤレス給電回路を付加したデバイスを提案する。結果として，SPICE解析及び実験により，電磁界共振ワイヤレス給電を用いて電池から残存電力を回収可能であることを示した。

2-132

磁歪式振動発電における共振周波数制御に向けた磁気ループ付加による出力向上

◎竹中裕亮・上野敏幸（金沢大学）

磁歪式振動発電には振周波数と振動源の振動周波数が一致する際には大きな発電を行うが，周波数がわずかでもずれると発電量が著しく低下してしまうという課題がある。我々は従来研究において，発電デバイスの出力端に負荷としてキャパシタを接続することで共振周波数を調節する手法の有効性を示している。本稿ではデバイスに新たな磁気ループを付加することで，出力の向上と同時に共振周波数の調節範囲を拡大する検証を行った。結果，磁気ループを付加することで出力電圧と電力が向上し，キャパシタを接続した際の共振周波数の変化が大きくなるという結果が得られた。

2-133

電気と磁気の連成解析を用いたインバータ励磁下の磁気特性に関する一検討

◎八尾 惇・畠山哲夫（富山県立大学）

本研究では，回路シミュレーターを用い，インバータ励磁下の磁気特性を数値的に表現することを検討する。結果として，従来研究の電気と磁気の弱連成解析と異なり，強連成解析により，インバータ励磁下の磁気ヒステリシス特性を数値的に表現できることが明らかとなった。

2-134

数百MHz帯動作POL電源用磁性複合材料磁心パワーインダクタの開発

◎山口宗太・加藤裕真・曽根原 誠・野間田 竜・足立壮平・佐藤敏郎（信州大学）

筆者らは，近接効果を低減する方法として，磁性微粒子をエポキシ樹脂に分散させた複合材料を巻線間に充填する構造のRFインダクタを既に考案し研究を進めている．本発表はその技術の応用として，数百MHz帯動作POL電源用パワーインダクタへの展開を検討したものである．本発表では，数百MHz帯動作POL電源用磁性複合材料磁心パワーインダクタを試作し，特性評価した結果について述べる．400MHz以下においては同サイズの空心インダクタのQ値よりも高くすることができ，100～400 [MHz]においてQ値は約35で概ね当初の予定を満足した．

2-135

電気インピーダンスから算出した磁歪素子の力係数と振動発電デバイス出力の関係

○南谷 保・上野敏幸（金沢大学）

無線センサーネットワークなどの電源として振動発電が注目されている。当研究室で開発した磁歪振動発電デバイスはFeGaの大きな逆磁歪効果とシンプルな構造により，高出力で高い耐久性が得られる。デバイスの特性は板状のFeGa素子に依存し，素子の特性を簡単かつ迅速に把握することは重要な技術である。しかし，応力に対する磁化特性で素子を評価する方法は大規模で計測に手間がかかる。そこで，閉磁路中に素子が挿入された計測コイルの電気インピーダンスを計測することで，簡単かつ迅速に力係数αなどを推定することが可能となることを報告した。今回の報告では，力係数αとデバイスの出力の関係を調査したので，その結果を報告する。

2-136

極低周波渦電流探傷法による錆で覆われた鋼材の板厚評価

◎富岡卓哉・若林俊輝・堺 健司・紀和利彦・塚田啓二（岡山大学）・武藤秀人・藤野陽三（横浜国立大学）

今日，日本では高度経済成長期から約半世紀が経過し，その当時に建設された構造物及び施設の劣化が顕著に見られるようになっている．中でも，板厚の減少である腐食は構造物の崩落など重大な事故につながる可能性がある．このような腐食した鋼材は，表面が錆で覆われており，従来の板厚検査法である超音波検査法では，測定のためにあらかじめ錆面の除去が必要であり，手間と時間がかかっていた．そのため，錆上からより簡易及び高速に板厚評価を行うことが出来る手法が求められている．そこで，本研究では極低周波渦電流探傷法ELECT(extremely low-frequency eddy current testing)を用い，錆面を除去することなく，鋼材の板厚の評価に成功したので報告する．

2-137

実駆動下モータ内磁束密度測定法の検討

○前田義隆・浦田信也・中井英雄（豊田中央研究所）

モータ実機状態（製造過程での特性劣化や駆動条件の影響を含有）の磁気特性を詳細に把握するため，コア内部の磁気現象を評価する技術の構築を進めている。そこで，モータコアの磁束流れを乱さずに，積層鋼板間に配置可能な薄型3軸磁束密度センサを用いた測定法を提案する。同センサを用いたステータコア内部の磁束密度測定によって，モータコアの製造過程や駆動条件の影響が反映された磁束流れを可視化できた。提案測定法は，実機モータの詳細な磁気特性把握に有効であると考える。

2-138

鉄損低減および出力密度向上のための小型SPMモータの固定子鉄心形状設計の提案

○祖田直也（茨城大学）・榎園正人（ベクトル磁気特性技術研究所）

打ち上げに約1.2億円もかかる宇宙用ロケットに搭載される探査機等には，各種小型モータが多数使用されている。そのためモータ重量を1gでも削減できれば経済効果は非常に大きい。また宇宙空間において限られたエネルギーを有効に活用するためにモータは高効率でなければならない。そこで本研究では，鉄損の低減および出力密度の向上を可能とする小型SPMモータの固定子鉄心形状設計を提案する。

2-139

卓上NMR装置の磁場の均一度の向上

◎日比野良彦・菅原賢悟・近藤 康（近畿大学）・室 洋一・田中宏和・佐藤利行（サムウエイ）

高分解能な核磁気共鳴(NMR)は，医療分野や創薬分野等で広く活用されている。一般的なNMR装置は高い感度と周波数分解能を得るために超電導磁石を用いて均一な磁場を発生させる。しかし，このようなNMR装置は大きく，高価なため特定の施設のみでしか利用できない。そこで，我々はより簡便に使用する事ができる卓上NMR装置の開発を行っている。

2-140

鉄系アモルファスリボンを用いた薄型磁気マーカによる位置検出精度向上に関する検討

◎佐野友輝・枦 修一郎・薮上 信・金高弘恭・石山和志（東北大学）

位置検出用LC共振型ワイヤレス磁気マーカの小型化と位置検出精度向上に関する検討を行なった。比較的高い飽和磁束密度を有するFe系アモルファスリボンを磁心としてコイルを作成し，Qが最大となるリボン積層数を明らかにした。さらに，Qが最大となる周波数で共振するLCマーカを構成し，これを用いた位置検出実験により，標準偏差が1.0 mm未満の高い精度での位置検出が可能であることを明らかにした。

2-141

磁歪膜を用いた振動センサの高感度化

◎曽良大輔・久保結人・荒井 薫・枦 修一郎・石山和志（東北大学）

我々は逆磁歪効果を用いた歪センサを，振動センサとして応用する研究を行ってきた。先行研究において作製したセンサは，機械的共振周波数以下の帯域での微少振動検出が困難であった。本研究ではセンサの更なる高感度化のため，並列共振回路を適用する検討を行った。1ターンミアンダ形状Mo膜導体層を短冊状FeSiB膜磁性層で上下から挟んだ積層構造センサにコンデンサとコイルを接続することで並列共振回路を構成し，応答出力の向上を図った。その結果，静特性測定において位相差出力が2deg.から64deg.に増大し，検出信号が大幅に増大したことにより動特性において機械的共振周波数85Hz以下の帯域で加速度0.01m/s²の微少振動の検出が可能となった。

2-142

SQUID磁気免疫検査における磁気を用いた抗原抗体反応の時間短縮

◎平松文太・神野克也・綱島健太・竹内 駿・藤元佳与・堺 健司・紀和利彦・塚田啓二（岡山大学）

免疫検査は抗原抗体反応を利用した検査方法であり，医療分野で病気の診断に広く用いられている．現在新しい免疫検査の手法として，磁気ナノ粒子(MNP)を磁気マーカとして用いた磁気免疫検査法が研究されている．磁気免疫検査法の特徴として，液相のまま測定できるものや，洗浄の工程を必要としないもの，従来の光学的手法に比べて高感度なものが報告されている．磁気免疫法の特徴に基づき,測定をより高速化するためには，抗原抗体反応時間を短縮する必要がある．そのため，本研究では磁気勾配を利用し磁気マーカ付き抗体を攪拌させることによって，抗原抗体反応時間の短縮の可能性を検討した．

2-143

フーリエ級数を用いた極異方配向型永久磁石内部の磁化分布推定

◎中村勢到・岡本吉史（法政大学）・小山内健太・土井智史・青木哲也・岡崎恵一（デンソー）

磁界解析を援用し，低振動な永久磁石同期電動機を設計するために，永久磁石内の磁化分布推定が重要となる．磁化ベクトルの同定方法として，EBSD，XRDを使用した結晶観察に基づく方法があるが，測定に数日を要する．そこで，永久磁石周囲で測定された磁束密度を用いて，磁化分布を数値的に推定する方法［1］がある．本論文では，磁化の角度に対して，二次元フーリエ級数展開を行い，準ニュートン法を用いて，磁化の角度を推定したので報告する．

2-144

FDTD法による筋血管内の近赤外光散乱シミュレーション

◎阿部直弥・野口 聡（北海道大学）・小野弓絵（明治大学）

生体組織では，微小循環の定量化によって，医療分野やスポーツ生理学分野において有用な情報を得ることができる。その中でも，人体に無害な近赤外光を用いて，赤血球により散乱される光子の時系列変化から血流速度指標を算定する拡散相関分光法（Diffuse Correlation Spectroscopy (DCS)法）を応用する研究が報告されている。DCS法では，赤血球で散乱され計測される光子量から，血流速度の変化を導出する。また，理論上では入射光部と受光部の間隔を広げることで生体深部の血流動態を計測可能である。本報告では時間領域差分法（Finite Difference Time Domain (FDTD)法）を用いて，電磁場解析による光散乱シミュレーションを行い，生体深部の血流計測の原理を解明する。

2-145

磁化を用いた建築構造物による外乱磁場の簡易計算法の汎用性の検討

◎荒木優佑・高 炎輝・村松和弘（佐賀大学）・西野高明・三浦一幸・山崎慶太（竹中工務店）・村田直史・清水隆文・緒方拓斗（宇宙航空研究開発機構）

微小な磁気モーメントなどの測定を行う施設では建物などに起因する外乱磁場が問題となる．これまで建物の外乱磁場の評価には有限要素法が用いられてきたが，この方法はモデル作成と計算時間が膨大となるという問題点があった。そこで我々は建物を地磁気により一様に磁化された直方体の磁性体で近似して評価する簡易評価法（SCM）を提案した。その際，標準的な事務所ビル想定して建物に与える磁化を決定していたが，今回，この方法を実際の建物に適用し，汎用性に関して検討した。その結果，Mの大きさに関しては20～30%程度の修正が必要であるが，方向に関しては地磁気の方向のままで良いことがわかった。

2-146

有限要素法を用いた磁束変調型磁気歯車のポールピース形状最適化

◎土井 崇・房安佑也・吉田 敬（九州大学）

我々の研究室ではこれまで磁束変調型磁気歯車の研究を行ってきた。磁気歯車は機械歯車と比較し互いの歯車が非接触なのでメンテナンス性の向上や粉塵が生じないなど多くのメリットが挙げられ注目されている。これまでの磁気歯車の欠点であった，ネオジム磁石の多用を永久磁石をV型に配置する高磁束密度配列を適用し解決してきた。しかし，これまでの結果は二次元有限要素法を用いた解析であり，z軸方向を考慮する三次元有限要素法を用いていない。実際に三次元解析を行ったところエンド効果により約30％トルクが減少した。そこで，今回ポールピースの形状に注目し，形状最適化を行い機械的歯車同等のトルク密度の達成を目指した。

2-147

磁気光学イメージング用渦電流コイルの動作解析および被検体内の誘導電流密度の解析

◎舩木佑也・中村元輝・板谷年也・橋本良介（鈴鹿工業高等専門学校）

現在，日常生活の安全性を維持するために多種多様な非破壊検査が行われている．金属構造物の破壊原因の一つに疲労亀裂がり，マイクロクラックが進展して生じる．マイクロクラックを検出するために，高空間分解能な検査手法の一つに磁気光学イメージングがある．そこで我々は，磁気光学イメージングに着目した．先行研究では，直流電流磁化器を使用していたため被検体は強磁性体に限られ，常磁性体の被検体は磁化できなかった．本研究では渦電流磁化器による被検体の励磁に着目し，有限要素法を用いて欠陥の存在により生じる漏洩磁界の強度分布をシミュレーションした．

2-148

LLG方程式に基づく磁気ヒステリシスモデルの有効性検証

◎梶原千聖・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

磁気ヒステリシスの表現手法として，マイクロマグネティックスに基づく手法が知られている．本手法では，磁性体を単磁区磁化ベクトルの集合体と仮定し，磁性体内の磁化分布を，Landau-Lifshitz-Gilbert（LLG）方程式を用いて計算する．磁壁移動を直接取り扱うことなく磁化反転機構として取り入れた手法として，磁化フリップモデルが提案されている．一方，磁化回転と磁気異方性，磁気弾性エネルギーの効果のみで強磁性体のヒステリシスループを再現した報告例もある．本稿では，LLG方程式に基づく磁気ヒステリシスモデルの得失比較を目的として，両手法による計算値と実測値の比較を行い，各パラメータがヒステリシスループの再現精度に与える影響について検討した．

2-149

交流磁気計測における磁束密度波形制御の検討

◎瀧田延弘・尹 己烈（岐阜大学）

磁性体の特性を評価するためにはJISが定める通りBコイル誘起電圧波形の波形率を正弦波の1.11に対して±0.01に収める必要がある。しかし，磁性体の材料特性によりBコイル誘起電圧波形は歪むためBコイル誘起電圧波形が正弦波になる励磁電圧波形を作成する制御が必要である。そこで本研究室では逆算法と呼ぶ制御法を考案し改善してきた。従来の制御方法では高磁束密度での波形率を基準値内に収めることは困難であった。その中で今回は，高磁束密度での波形制御をより少ないフィードバック回数で完了させる逆算法を目指し，制御の一部である差分計算の際にFFTを用いる方法の検討を行い逆算法の改善に成功した。

2-150

電磁鋼板の磁気特性測定における励磁電圧波形推定の有効性

◎芝滝拓哉・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

電磁鋼板の磁気特性測定を行う際には，励磁部の回路定数に起因して測定結果に差異が生じることを防ぐため，Bコイルの誘導起電力波形が正弦波になるように，励磁電圧波形を適切な歪波に制御する必要がある．特に，高磁束密度領域の磁気特性測定では制御特性が良好ではなく，従来のディジタルフィードバックによる波形制御法では，反復回数が増大して測定時間が長くなる傾向にある．そこで本稿では，励磁部の回路方程式に基づく波形制御法について検討した．

2-151

圧電素子による電磁鋼板面内等方応力が印加可能な単板磁気試験器の構築

◎日高新太郎・枦 修一郎・石山和志（東北大学）・山本健一（琉球大学）

無方向性電磁鋼板に対する面内応力の交流磁気特性（鉄損特性）への影響を明らかにすることを目的として，PZT圧電素子を用いて鋼板面内への等方的な応力印加が可能な機構を組み込んだ単板磁気試験機（SST）の構築を試みた。測定試料をエプスタイン試験用サイズ（30×280 mm）とし，鋼板への板面内等方応力印加のため，直径50 mm，厚さ5 mm のPZT圧電素子を接着した。PZTへの電界印加時の鋼板中央部付近の歪み量について，0°（圧延方向：RD），45°，90°（RDに垂直な方向：TD）の3方向についての電界－歪み特性を測定したところ，10 MPa程度の面内等方的な応力が印加されていることを確認した。今後，面内等方応力下での交流磁気特性の評価を行っていく。

2-152

電磁鋼板の磁歪測定法の国際規格化に向けた検討（その1）― 横型SSTと縦型SSTの比較 ―

◎松原 稜・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

変圧器などの電気機器から生じる騒音の原因の一つは，磁歪振動である．したがって，磁性材料の磁歪を精度良く評価し，機器設計に活かすことが機器の騒音低減につながる．現在，磁歪測定法に関する国際規格は制定されていない状況にあるが，電気機器の低騒音化に対する要求の高まりを受け，電磁鋼板の磁歪測定法の規格化がIEC／TC68（International Electrotechnical Commission, Technical Committee 68）に提案された．その規格案では，試料片側をクランプし，横型あるいは縦型ヨークを有する単板磁気試験器，レーザドップラ振動計1台を用いる磁歪測定法が提案されている．しかし，ヨーク構造および試料のクランプが磁歪測定結果に与える影響については，これまで十分な比較検討がなされていない．そこで本稿では，電磁鋼板の磁歪測定法の規格化に向けて，ヨーク構造およびクランプの有無が磁歪測定に与える影響について検討した．

2-153

圧縮応力下における圧粉磁心と電磁鋼板の磁気特性

○榎園勇太・齋藤達哉・上野友之・福永由加（住友電気工業）

モータなどの電気機器を組立てる際，打ち抜き，かしめ，焼き嵌めといった工程によって，磁性材料に応力が発生する。発生した応力は磁気特性を変化させ，多くはその特性を劣化させる要因となる。この応力依存性について，現状広く用いられている電磁鋼板については多数の報告がなされているが，圧粉についてはほとんど報告がなされていない。そこで，著者らは圧粉磁心と電磁鋼板双方の圧縮応力に対する磁気特性を評価することで，それぞれの応力依存性を明らかにした。

2-154

High-frequency Rotational Losses of Non-oriented Electrical Steels with Different Thickness

○大久保智幸・尾田善彦（JFEスチール）・Georgi Shilyashki・Helmut Pfützner・Anton Kenov（Technische Universität Wien）

実モータの鉄損には回転磁界による損失（回転鉄損，2次元鉄損）が含まれるが，多くの場合，その影響は鉄損の計算に正しく考慮されていない。一般的なエプスタイン試験法による鉄損（交番鉄損，1次元鉄損）と，回転鉄損の関係を理解することは，正確な鉄損計算のみならずコア材料選択の観点からも重要である。そこで，板厚の異なる無方向性電磁鋼板（3%Si鋼）の回転鉄損と交番鉄損を測定し，両者の比Γを評価した。50Hzでは材料による差異は認められなかったが，400Hzでは板厚が厚いほどΓが高く，2に近づく傾向があった。これは，板厚が厚い材料では全鉄損に対する古典渦電流損の比率が高くなることに起因すると考えられる。

2-155

無方向性電磁鋼板の二次元偏磁下磁気特性

◎宮原秀彰・尹 己烈（岐阜大学）

電磁鋼板はモータや変圧器の鉄心材料として幅広く用いられている。直流磁界が交流磁界に重畳して印加されると，磁束密度は原点から一方に偏りをもつ偏磁状態となり，損失の増大やなど様々な悪影響が現れるため偏磁状態の特性を把握しておくことは重要である。本報では無方向性電磁鋼板を一次元的に偏磁させたときの二次元磁気特性を波形制御前後で比較した結果について報告する。Y方向に交流磁束密度0.5Tを励磁し，X方向に偏磁量0～1.47Tを偏磁させた時の鉄損を波形制御前後で比較すると，鉄損差は偏磁量1.0T付近から偏磁量の増加と共に大きくなる傾向にあることが分かった。これは，飽和磁束密度領域に近づくにつれて試料全体の透磁率が低下し，波形制御前後での透磁率の差が大きくなることが原因だと考えられる。

2-156

光プローブ電流センシング技術を用いた航空機落雷検知センサの基礎検討

◎塩田健太・曽根原 誠・山崎健太・岩見晃希・藤城佑太・佐藤敏郎・南澤俊孝（信州大学）・宮本光教・久保利哉（シチズンファインデバイス）・宮地幸祐（信州大学）

航空機は，フライト時間1,000～20,000 [h]に一回の頻度で被雷するといわれており，機体で使用されている炭素繊維複合材料は電気的異方性を有しているため，雷電流は複雑な経路で機体を流れることになる．加えて，高抵抗のためジュール熱による発熱が大きく，機体の損傷を招くため落雷検知センサの開発・設置が重要になる．筆者らは，パワエレ用大電流センシング技術として，グラニュラー磁性膜のFaraday効果を利用した光プローブ電流センサの開発を進めている．本発表では，前記方式のセンサを利用した落雷検知センサを検討し，航空機雷撃模擬のインパルス電流発生回路を作製し，雷電流を模擬した電流測定をした結果について説明する．

2-157

高感度直流磁界センサの安定化

○今川尊雄（日立製作所）・中村大輔・藍原和哉・藤岡孝芳・相馬憲一（日立産機システム）・有松健司（東北電力）

前回直流漏電検知用として2次高調波検知式磁界センサを提案し，高感度な直流磁界の検知が可能であることを報告した。一方この磁界センサには，地絡を想定した大電流による磁界印加により，検知動作点が変動することがあった。今回この原因を考察しセンサ構造を検討した結果，大電流印加にも支障ない磁界センサを作製できたのでその結果を報告する。

2-158

建物の複数配置による零磁場施設の磁気勾配に関する検討

○鎌田清孝（鹿児島工業高等専門学校）・西野高明・三浦一幸・山崎慶太（竹中工務店）・高 炎輝・村松和弘（佐賀大学）・村田直史・清水隆文・緒方拓斗（宇宙航空研究開発機構）

有限要素法を用いた三次元磁界解析により，無磁気フィールド周辺に建物が複数配置された場合の零磁場空間施設中心付近の磁気勾配を算出し，磁気勾配が小さくなる建物の複数配置方法を考察する．

2-159

高温超伝導コイルとインダクタンス変調方式を用いた低周波磁気センサの開発

◎山下重弥・吉田悠次郎・松尾政晃・笹山瑛由・吉田 敬・圓福敬二（九州大学）

磁気センサは幅広い分野で応用されているが，励起磁場中での動作が可能であり，1 Hz以下の低周波数領域までの信号磁界の高精度計測を可能とする磁気センサはほとんど開発されていない。本研究ではこれらの要求を満たすため，高温超伝導コイルとインダクタンス変調方式を用いた磁気センサを開発している。この手法ではコイルのインダクタンスを時間的に変化させることで信号周波数に依存しない電圧信号を得ることができる。これによって0.05 Hzまでの低周波信号を検出できた。また，白色雑音の値は0.8 pT/√Hz ，1 Hzにおける磁界雑音の値は11 pT/√Hzとなり，低周波信号の検出が可能であることを示した。

2-160

磁気マーカーを用いた洗浄工程無しでのCRP検出

◎秋吉一輝・入江康太・吉田 敬・笹山瑛由・圓福敬二（九州大学）・原 美里（多摩川精機）

免疫検査とは疾患由来のバイオ物質（抗原）の量や有無を測定することである。現在，免疫検査において光学マーカーを用いた光学的手法が主流であるが，時間と手間のかかる洗浄工程を必要とするため，迅速検査のニーズに応えられていない。そこで本研究では，磁気マーカーを用いることで洗浄工程不要の検査法となりこの問題を解決している。この手法では抗原を介すことで磁気マーカークラスタを形成しており，クラスタと未結合磁気マーカーのブラウン緩和時間の差を利用することで磁気的に識別している。これによって0.01ng/mLから100ng/mLの濃度のC反応性蛋白質（CRP）を測定した。

2-161

ラット脊髄への中間周波磁界ばく露による生体内刺激誘発応答の評価

◎齋藤淳史・中園 聡（電力中央研究所）・鈴木敬久・和田圭二（首都大学東京）

我々は，低周波電磁界の人体防護ガイドラインの生物学的な根拠となる刺激作用について，商用周波や中間周波帯での刺激閾値の精緻化と生物学的メカニズムの解明に向けた研究に取り組んでいる。本研究では，中間周波磁界が生体に入射した際の脊髄への刺激作用を調べることを目的として，実験動物であるラットの脊髄を局所的に磁気刺激できる小型の8の字型コイルを製作し，磁気刺激により誘発される体性感覚誘発電位（SEP）および運動誘発電位（MEP）を評価した。本発表では，各実験により明らかとなった脳・中枢神経領域および末梢神経領域での刺激誘発応答の違いについて報告する。