一般講演

5-001

各周波数における拘束試験を用いたリニア誘導モータの始動特性算定法の検討

○平原英明・山本 修（職業能力開発総合大学校）

リニア誘導モータ（LIM）は，走行距離に制限があるため実負荷試験の実施が極めて困難である．回転形の誘導モータ（IM）において実負荷試験が実施できない場合は，無負荷試験と拘束試験から等価回路定数を求めて，回路計算により始動特性の算定を行う方法が知られているが，直線的に駆動するLIMの場合，無負荷試験の実施も困難である．今般著者らは，各周波数における拘束試験から得られるLIMの各相の演算子インピーダンスを用いてLIMの非対称性を考慮した始動特性算定法について検討を行ったので報告する．本手法の妥当性については，二次側を回転円盤とすることにより，定常運転が可能なLIM（回転円盤式LIM）に対する実施例により明らかにする．

5-002

LIM 形渦電流レールブレーキにおける円弧状電機子と直線状電機子の比較

◎依田裕史（鉄道総合技術研究所）

渦電流レールブレーキは車両に搭載した電磁石をレールに対向させることにより，車輪―レール間の粘着条件によらず安定した制動力を発揮できる装置である。この特長から鉄道車両の高速化において有用な装置であるが，この電磁石を3相電機子と置き換え，リニア誘導モータの発電制動のように動作させることで自身の励磁電力を発電するブレーキシステム（LIM形渦電流レールブレーキ）の開発が行われている。本開発における電機子性能評価には，2次側として実車の走行速度で高速に移動するレールが必要となるため，直線状となる実電機子を円弧状とし，回転する軌条輪に対向させることで走行状態を模擬した試験を行っている。本稿では，円弧状とした電機子での性能評価の妥当性について，直線状電機子との比較を電磁界解析により行った。

5-003

液相成分選択拡散分離装置の開発－電磁駆動部の制御－

◎甲斐秀一・森下明平（工学院大学）

細管中の溶液を特定の溶質の分子量に固有の振動数で正弦波加振すると，その溶質の拡散係数が増大し，細管の中で特定の溶質だけが拡散する。液相成分選択拡散分離装置（LSDSU: Liquid-phase- components Selective Diffusional Separation Unit）は，この原理を利用して高濃度溶液中の特定の溶質を低濃度側に輸送する装置である。本稿ではLSDSUの振動アクチュエータに適したリニア同期モータ（以下，LSM: Linear Synchronous Motor）の制御について検討をする。

5-004

ティース形状と永久磁石配置の変更による球面アクチュエータの高トルク化

◎石渡一史・平田勝弘・新口 昇・高原一晶（大阪大学）

1台で多自由度駆動が可能な球面アクチュエータは，複数の1自由度アクチュエータを組み合わせた構造と比べて小型・軽量化，位置決め精度の向上が期待されている。しかし，姿勢によっては出力トルクが低いため，駆動が困難な姿勢が存在するという課題がある。本稿では，3自由度球面アクチュエータにおいて，可動子永久磁石の配置間隔と，固定子磁極のティース先端角度について検討するとともに，遺伝的アルゴリズムによる固定子磁極の配置の最適化を行うことで，最小出力トルクの改善を行った。

5-005

スタック可能な小型・高推力電磁アクチュエータの設計及び誘起電圧特性解析

◎斉藤 航・北川 亘・竹下隆晴・武井賢太（名古屋工業大学）・藤村嘉雄（和広エンジニアリング）

ホットメルトは常温で固体のポリウレタンやエチレン酢酸ビニルといった熱可塑性樹脂であり，加熱し融解させたホットメルトは常温に戻ると固化するため接着剤として使用することができる。近年ホットメルト塗布システムには広く空圧アクチュエータが使われているが，応答性が非常に優れている電磁アクチュエータの使用を検討している。しかし，ホットメルトを加熱するためシステムは高温場におかれることが前提とされており，永久磁石の性能が低下することや，ホットメルトには粘性があるため高推力が必要になること，高い誘起電圧が発生することが問題である。そこで本論分では電磁アクチュエータから生じる推力，応答性及び誘起電圧を確認する。

5-006

負荷の機械インピーダンスを考慮した骨伝導デバイスにおける特性解析手法の検討

◎黒柳大地・北川 亘・竹下隆晴（名古屋工業大学）・増田明弘・増田良平・中嶋政広（三光金型）

【背景】骨導音は耳で聞く音と経路が違い，需要が高まっているが，骨伝導デバイスの解析手法は確立されていない。本稿では，振動負荷を考慮した解析手法を提案する。 【方法】提案解析手法は磁界解析と構造解析の一方向連成解析によって行われ，出力された振動加速度レベルを実験結果と比較して，その有効性を確認する。 【結果】振動加速度レベルの実験結果と解析結果から，良好に一致した結果が得られた。実験時の状況によって振動加速度レベルは最大で20dB程度の誤差を生じる。よって，全周波数において誤差が20dB以下である本解析結果は良好な結果であるといえる。 【結論】振動負荷を考慮した骨伝導デバイスの解析手法を提案し，有効性を確認した。

5-007

Performance Comparisons of BPM and SPM with Two Winding Configurations

◎劉 宗威・千葉 明（東京工業大学）

In this paper, the performances of BPM and SPM bearingless motors with distributed and concentrated windings are investigated. The rotation speed is 45000 r/min and the output power is 35kW. The outer diameter and the inner diameter of the stator are 140mm and 60mm. It is found that BPM bearingless motor with distributed winding shows the best performances, such as maximum suspension force and minimum eddy current. However, the power factor is low and the interference between the torque and suspension is apparent. FEM 2D analysis is conducted.

5-008

Enhancing Passive Axial Suspension Forces in a Bearingless Motor With Null Flux Coils

◎Guilherme Cavalcante Rubio・千葉 明（東京工業大学）

Bearingless motors have applications where mechanical contact should be avoided and highly reliable operation is a must. This paper presents results obtained through Finite Element Analysis (FEA) of a bearingless motor that is passively stabilized in the axial direction by null-flux coils. To improve passive suspension force, a range of rotational speeds and magnetic flux densities were tested. Varying magnetic flux density proved to be more effective for enhancement of passive axial forces.

5-009

モータ巻線並列形コンシクエントポールベアリングレスモータの回転子設計

◎野口孝浩・杉元紘也・千葉 明（東京工業大学）

本稿では，20極の2軸能動制御モータ巻線並列形コンシクエントポールベアリングレスモータにおける，回転子永久磁石の幅及び厚みとトルク，磁気支持力，最大角度誤差の関係を明らかにする。また，3次元有限要素法磁界解析による設計，及びその解析結果から最大角度誤差が最も小さく，目標トルクを達成可能な回転子構造を示す。さらに，回転子ヨーク部分の磁気飽和を改善することで，回転子の磁石体積が同一であっても半径方向の磁気支持力の向上が可能であることを示す。

5-010

アキシャルギャップ型シングルドライブベアリングレスリラクタンスモータのスタートアップ電流に対する検討

◎東 弘貴・清田恭平・飴井賢治・大路貴久（富山大学）

ベアリングレスモータの低コスト化を目指して，アキシャルギャップ型シングルドライブベアリングレスリラクタンスモータ(AxG-SDBelRM)を提案している。シングルドライブベアリングレスモータは，回転子がタッチダウンしている状態から目標値に浮上させる時，定格電流実効値の5倍以内の電流値であることを示す必要がある。本稿では，提案モータのスタートアップ時のスラスト力発生原理を説明し，設置予定である受動反発型磁気軸受の半径方向剛性からスラスト力の目標値を設定する。軸方向変位幅zmaxが0.1 mm，0.2 mmのときにおいて検討を行い，AxG-SDBelRMが定格電流実効値の2倍，4.6倍の電流値でスタートアップ可能であることを3D-FEM解析を用いて示す。

5-011

リラクタンス型ベアリングレスバーニアモータのトルクと軸支持力の評価

◎関田啓悟・南 香夏子・土方規実雄・田中康寛（東京都市大学）

従来のベアリングレスモータはギヤなどを用いることができないため高トルクを必要とする用途には不向きである。そこで，低速高トルク駆動に適したバーニアモータに着目しベアリングレス化したベアリングレスバーニアモータが開発された。本研究では，試作機に対して実機試験を行い解析結果と比較して性能を評価することを目的としている。本調査ではトルクに対する電流位相角，軸支持力に対する磁気飽和の影響について解析を行った。その結果リラクタンス型であるために位相角が45 degの時にトルクが最大となること，磁気飽和が軸支持力に与える影響が小さいことが分かった。発表では試作機を用いた実機試験の結果と比較し，性能の評価を行う。

5-012

零相電流を用いた磁気浮上モータシステムにおける直流リンクのコンデンサ容量低減

◎藤井勇介・朝間淳一・大岩孝彰（静岡大学）・千葉 明（東京工業大学）

著者らは，三相インバータ1台のみで三相モータ駆動と1自由度制御形鉄球浮上制御を実現している。本方式では，浮上用巻線を三相Y結線の中性点と，2個の直流リンクコンデンサの中点との間に結線する。しかしながら，2個のコンデンサは直列に接続されるため，各コンデンサ容量は，要求される直流リンクの容量の2倍となる。さらに，この手法を汎用インバータに適用するには，回路の大幅な変更・改造が必要になる。本研究では，各コンデンサ容量を低減し，汎用インバータにも適用可能な新たな回路を提案する。提案回路では，1個のコンデンサが直流リンクに接続され，別のコンデンサ1個と浮上用巻線がY結線の中性点と直流リンク下側との間に直列に接続される。本稿では，提案回路のシミュレーション結果を報告する。

5-013

表面磁石構造ベアリングレスモータの極数が磁気支持力に及ぼす影響

◎福島利英・佐藤大記・大島政英（公立諏訪東京理科大学）

4極電動機2極磁気支持表面磁石構造ベアリングレスモータ(4t2sBelM)では，永久磁石(PM)内の渦電流を考慮して電磁界解析を行うと高速域で指令通りに支持力を発生できない問題があった。本稿では，2極電動機4極磁気支持表面磁石構造ベアリングレスモータ(2t4sBelM)も合わせて解析を行い，両結果を比較し上記原因を明らかにする。 PMの渦電流を考慮した結果，表面磁石構造のモータでは誘導機と同じ原理でPM内に誘導電流が流れ，ローレンツ力が発生する恐れがある。本稿ではPM内の誘導電流を電磁界解析によって求め，ローレンツ力の方向を推測した。その結果，2t4sBelMではローレンツ力は打ち消しあい，一方4t2sBelMではアンバランス力が発生し支持力が指令通りに発生しないことがわかった。

5-014

バルク超電導体を用いたMW級埋め込み磁石型同期モータの電磁特性

◎寺尾 悠・赤田 渉・大崎博之（東京大学）

近年，CO2削減等の温室効果ガス排出抑制の一環として，自動車をはじめとした輸送機器の電気化の研究開発が盛んに行なわれている。これらの輸送機器に搭載するモータの中でも，トラックやダンプなど比較的大型の輸送機器には低速-大トルクの特性を持つモータが求められる。 この中で超電導体の塊である「バルク超電導体」は，永久磁石（PM）の数倍の磁束密度を着磁可能であり，モータ界磁へ用いることで強トルクのモータを実現できる可能性がある。本発表では，通常の埋め込み永久磁石型同期モータの界磁部分に着磁したバルク超電導体を用いた「超電導埋め込み永久磁石型同期モータ（超電導IPMSM）」に関して複数の構造で電磁設計を行った場合の特性について考察する。

5-015

航空機用電動推進システムへ向けた2 MW級REBCO全超伝導同期電動機の概念設計と数値解析

◎須河内良多・相川拓也・小宮匡貴・三浦 峻・吉田 敬・笹山瑛由・岩熊成卓・吉田幸市（九州大学）・富岡 章・今野雅行（富士電機）・和泉輝郎（産業技術総合研究所）

近年，CO ₂ 排出量削減要求などを理由に航空機推進系の電動化の研究開発が活発化している。本研究では，電動機の小型・軽量・高効率化を図るために，界磁に加えて電機子も超伝導化する。本研究では，2 MW級全超伝導同期電動機の出力密度20 kW/kgを解析で示すことを目的とした。電動機の極数は2である。動作温度が20および65 K，ギャップの磁束密度が1.5, 2, 2.5 Tと変化させた場合の合計6 パターンの場合において，動作温度やギャップの磁束密度が出力密度や界磁，電機子両巻線の交流損失に及ぼす影響を比較検討した。動作温度20 K，ギャップ磁束密度2 Tのモデルでは，出力密度は10.15 kW/kgであった。電機子巻線の交流損失の値は27 kW，界磁巻線の交流損失は0.397 Wとなった。

5-016

超電導コイル，バルク，強磁性体レールを用いた磁気浮上システム「2セットレール共通モデル」の浮上力特性

◎北村俊樹・藤田裕貴・金子泰人・高尾智明（上智大学）・上條弘貴（鉄道総合技術研究所）

先行研究では，HTSコイル，HTSバルク，強磁性体レールを用いた吸引浮上システムによる超電導コイルモデルの研究を行ってきた。本研究では更なる浮上力向上のため，2つの超電導コイルモデルのレールを1本化した「2セットレール共通モデル」を考案した。HTSコイルの通電電流 I = 180 A として，COMSOL Multiphysics® を用いて，コイル間距離 Dcx を変化させながら解析を行った。2つのコイルで磁極が異なるように，HTSコイルに流す電流の向きを片方逆向きに設定した。磁場の相互作用により，Dcx = 200 mm で浮上力が最大となり，超電導コイルモデル単体よりも浮上力は向上した。

5-017

磁性流体の円錐状態での位置決め制御と液滴磁気浮上実験

◎山口宗一朗・大路貴久・飴井賢治・清田恭平（富山大学）

磁気浮上技術は電磁石や浮上体といった均質な固体（弾性体を含む）を構成要素とし，これらを前提に磁気浮上研究が進展されてきた．筆者らはこの「構成要素」に対する制限を外した磁気浮上技術の確立を目指している。本稿では，棒状電磁石を使用した吸引型磁気浮上装置を用いて，磁性流体（Magnetic fluid）の浮上制御を試みた。磁性流体は，無磁場下では通常のニュートン流体として振舞うが，磁場下では磁場の強い方向に流動する性質を持つ。浮上対象が液体となるため，吸引力作用時に変形や分裂が生じる可能性もある。今回，容器内の磁性流体の位置決め制御と，磁性流体液滴の磁気浮上制御を試みたので報告する。

5-018

高出力四角コア磁気軸受の負荷試験結果

○笠井信吾・鈴木雄太・下田敏章（神戸製鋼所）

メカロス低減を実現する磁気軸受は，回転機器の効率向上に対してのひとつのソリューションである。そこで，四角コア形状による高出力な磁気軸受を設計・試作し，単体で浮上試験を行った結果について，昨年度報告を行った。今年度，負荷装置を製作・追加し，負荷を掛けた試験を行ったので報告する。

5-019

永久磁石吸引型1軸能動磁気軸受の検討

◎加賀谷俊亮・森下明平（工学院大学）

磁気軸受は転がり軸受と比べて摩擦・摩耗の問題がなく，騒音・振動が抑えられる。また，摩擦による回転損失がなくなるため，転がり軸受では困難な高速回転が可能である。もっとも構成が簡単な磁気軸受としては1軸能動磁気軸受が知られているが，磁気軸受の支持力の増大に伴って軸長が増大する。軸長の増大は回転軸の剛性を低下させるだけでなく，装置の取付けスペースの増大を招く。そこで，支持力が増大しても軸長が変わらない1軸能動磁気軸受を検討した。

5-020

反磁性を用いた反発受動型磁気軸受における浮上力の検討

◎荒井拓実（東京工業大学）

現在，回転子と固定子が完全無制御で機械的接触なしに回転するモータはほとんど見当たらない。その数少ないモータの中には磁気浮上コマや超電導を利用したものがある。しかし，前者は回転していなければ浮かない，後者は極低温条件が必要で利用が簡単ではない。複雑な制御や条件を必要としない磁気軸受のひとつにグラファイト板の反磁性を利用した非接触磁気軸受・回転機構があり，回転子浮上に重要な強い浮上力と回転を妨げない磁界分布を与える永久磁石のハルバッハ配列が報告されている。完全受動磁気支持型モータの実現においてこのハルバッハ配列は有効であると考える。本稿ではPMハルバッハ配列(PM-array)が熱分解グラファイト(PG)に生じる浮上力の計算方法と，モータに組み込むPM-arrayを提案する。同時にPG厚さの最適化とPM-arrayを構成する磁石の種類を変更した際の浮上力の比較を示す。

5-021

低電圧駆動高速モータのティース長および磁石材料が特性に及ぼす影響

◎野田奈緒子・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

近年，永久磁石同期モータは高効率・高出力であることから産業用・家庭用に幅広く利用されている。小型高速モータを搭載したアプリケーションとしてハンディ掃除機などが挙げられるが，数千回転の通常の速度域で使用されるモータをそのまま数万回転の高速回転の速度域で用いると，鉄損により効率が低下してしまう。 そこで本論文では，高速回転時に特に鉄損が多く発生するティースについて長さを変更し，ティースを短くしたことで生じた空間をコイルスペースとした場合のモータ特性への影響について検討を行なっている。また，ステータへの鎖交磁束を少なくし鉄損を減らす目的で弱い磁石へ変更し，同様に特性への影響について検討を行なっている。

5-022

エアコン用集中巻IPMSMにおける振動低減を目的としたホールの非対称配置に関する検討

◎森野慎太郎・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

埋込磁石同期モータ(IPMSM)は，さらなる小型・高効率化の実現のために，コイルエンドが短縮できる集中巻IPMSMが検討され，エアコンをはじめとする家電製品だけでなく自動車用等の幅広い分野で使用されている。しかし分布巻IPMSMと比較し，振動・騒音が問題となっている。エアコン駆動を想定した際のIPMSMの設計では，振動低減を目的とした半径方向力やトルクリプルの低減を考慮する必要がある。そこで本報告では，集中巻IPMSMのロータに非対称にホールを設けることで磁束分散を図り，代表的な評価点における半径方向力およびトルクリプル率を低減できる構造について検討する。

5-023

自動車駆動用2層PMASynRMのロータ表面の溝によるコギングトルク低減

◎小林眞莉香・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪府立大学）

電動車両において，走行時の振動や騒音抑制のために，駆動用モータのコギングトルクやトルクリプルはできるだけ小さいことが望ましい。これまで，ロータ構造にホールや溝を設けることで，モータの低振動化を達成した研究が報告されている。本論文では，2層構造の永久磁石補助型同期リラクタンスモータ（PMASynRM）を対象に，ロータ表面に溝を設けることで，コギングトルクの低減を検討した。

5-024

2層IPMSMにおけるエアギャップ磁束密度分布の高調波低減法

◎下川智也・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪府立大学）

近年，エネルギー資源の枯渇や環境問題への配慮から幅広い速度領域において高効率である埋込磁石同期モータ(IPMSM)が注目されており，幅広い用途で用いられている。しかし，IPMSMはエアギャップ磁束密度分布が正弦波状である表面磁石同期モータ(SPMSM)に比べてエアギャップ磁束密度分布に高調波を多く含む。そして，エアギャップ磁束密度分布の高調波成分は鉄損，振動の要因となるため，モータの性能に悪影響を及ぼす。 そこで，本論文では磁石を2層に埋め込んだIPMSM(2層IPMSM)において磁石幅，フラックスバリアの角度を調整することで，無負荷時のエアギャップ磁束密度分布波形における低次奇数次高調波成分を低減する手法を検討する。

5-025

表面磁石形バーニア発電機における誘導起電力の波形ひずみについて

○片岡康浩（秋田県立大学）・松島由太郎（元静岡⼤学）・穴澤義久（秋田県立大学）

低速回転で発電する表面磁石形バーニア発電機が開発されているが，本論文では誘導起電力における波形ひずみの主な発生要因とその改善方法が理論的に述べられている。界磁側永久磁石の起磁力高調波とギャップパーミアンスの脈動が考慮された解析法を用いて電機子巻線に鎖交して誘導起電力を生じる磁束が解析され，磁束の時間変化する成分に着目することにより，波形ひずみの主な要因が永久磁石の起磁力高調波であることが明らかにされている。そして，永久磁石の円周方向端部の着磁パターンを変えて起磁力高調波を低減し，結果，誘導起電力の波形ひずみが改善することが有限要素法解析を用いて検証され，理論の妥当性が確認されている。

5-026

高出力EV用誘導電動機・埋込磁石同期電動機のWLTCモードにおける交流電力量消費率比較

◎竹内啓祐・千葉 明（東京工業大学）

本稿では，固定子外径および鉄心積厚を揃えた最大出力251 kWの誘導電動機(IM)，埋込磁石同期電動機(IPMSM)のWLTCモードにおける交流電力量消費率を比較した．走行損失は，蓄電池および電力変換器の損失，ベアリングおよびギヤの摩擦損，電動機の銅損および鉄損，そして車体の風損およびタイヤの摩擦損を考慮した．以上の条件で計算したところ，IMとIPMSMはそれぞれギヤ比が6および9の時に交流電力量消費率が最小となり，その値はIPMSMの方が小さかった．また，最高車速が約190 km/hとなるギヤ比12では，郊外走行を模擬したMiddle領域で両電動機の交流電力量消費率が等しくなり，都市走行を模擬したLow領域ではIPMSMの，高速走行を模擬したHigh，Extra-High領域およびモード走行全体ではIMの交流電力量消費率が小さくなった．

5-027

マルチレベル変換器を適用した高速PMSM駆動における高調波損失低減の実機検証

◎阿部晋也・Tumurbaatar Anudari・佐藤之彦（千葉大学）・山口浩二・桂 健志郎（IHI）

現在広く利用されている2レベル変換器をモータ駆動に適用する場合，高調波に起因する鉄損と銅損の増加が問題となる。特に，巻線インダクタンスが小さい高速モータでは，巻線の導通電流が含む高調波成分が大きくなるため，損失が増加が顕著となる。さらに，放熱し難いという制約を持つため，従来はフィルタ回路によって高調波成分を低減し，モータで生ずる損失を抑えていた。本研究では，出力電圧波形の高調波成分を低減可能なマルチレベル変換器による損失低減を研究対象とする。本稿では，マルチレベル変換器を用いて，高速PMSM(永久磁石同期電動機)を駆動した場合の実験的な損失評価について報告する。

5-028

零相電流を利用した透磁率変調に基づく可変界磁PMモータの基礎検討

○野口季彦・岩間清大・青山真大（静岡大学）

筆者らは，透磁率変調技術を利用することにより，逆突極性を有しながら純電磁気的に可変界磁を実現できるPMモータの原理モデルに付いて検討してきた。しかし，原理モデルは透磁率変調コイル用のDC/DCコンバータの損失や，銅損による損失増加の課題が残されている。さらに，この原理モータではコンシークエントポール形モータと類似した運転特性になることから，無負荷誘起電圧に偶数次高調波が重畳されるという問題が残されている。 以上の課題に対して本稿では，モータ結線に三相4線式を採用することにより零相電流を制御し，その零相電流を軟磁性材料の透磁率変調に利用する手法を提案する。さらに，ロータを2段構造にした透磁率変調に基づく可変界磁PMモータを提案し，その基本特性について原理モデルと比較検討したので報告する。

5-029

零相回路を用いた複合起磁力モータのトルクブーストに関する検討

◎村上和寛・野口季彦（静岡大学）・服部晃尚・金子陽一（デンソー）

近年，PMモータの可変速運転領域の拡大を目指した研究が精力的に行われている。PMモータは低速運転域での大トルクと高速運転の両立による可変速運転領域の拡大はトレードオフの関係にある。筆者らは高速運転域の拡大をPMモータの構造からアプローチし，低速運転域におけるトルクの増大を駆動方法から改善することを目指してきた。その一つとして，PMモータのロータ構造を1極対毎にイメージポールを形成することでロータを複合起磁力とし，零相回路を用いて駆動することでインバータの台数を増加させることなく低速運転域におけるトルクブーストの実現を目指した。

5-030

磁気飽和を利用した可変界磁PMモータの基礎検討

◎岩間清大・野口季彦・青山真大（静岡大学）

本稿では，磁気飽和を活用した可変界磁PMモータを提案する。提案モータはロータ間に軟磁性材料で構成された磁路と，その磁路の透磁率を変調するコイルを有する。この磁路の透磁率を変調することで，ステータコイルに鎖交する界磁磁束量の制御ができる。この可変界磁手法は逆突極性を有しながら純電磁気的に可変界磁を実現するPMモータである。さらに,弱め界磁制御や従来の可変界磁手法は高速運転時に励磁電流を大きくするのに対し，提案する可変界磁手法は高速運転時に励磁電流を小さくするという従来とは逆の手法である。 本稿では，提案モータの可変界磁性能のシミュレーション結果を示す。

5-031

15 kW, 150,000 r/min PMモータのプロポーションに関する検討

◎藤田康平・野口季彦（静岡大学）

近年，パワー密度を高めた高出力モータが盛んに開発されている。高パワー密度化の観点から希土類磁石を用いた永久磁石同期モータ（PMSM）がもっぱら採用されており，社会の隅々にまで普及している。モータの出力を増大するにはトルクと回転速度の増加を図らねばならないが，一般に前者の改善ではモータ体格が大きくなる傾向がある。そこで，さらなる高パワー密度化を達成するためには，モータの超高速（高周波駆動）化が有効である。しかし，超高速モータの場合，電圧や電流に加えて機械的制約から様々な問題が存在する。本稿ではそれらの問題を踏まえつつ，定格15 kW，150,000 r/minのPMモータについて3種類のプロポーションを検討したので報告する。

5-032

ダブルアキシャルギャップPMモータのギャップ長不均衡に起因する運転特性の変化

◎宇佐美和明・野口季彦（静岡大学）

近年，種々のモビリティーの電動化が精力的に行われている中，モータの高効率化と小型化は必須の課題となっている。高効率化をするためにPM同期モータが採用されるのはもちろんのこと，さらなる高パワー密度化を目指して扁平型モータの開発も盛んに行われている。また，扁平型モータはアキシャルギャップ構造を用いるとラジアルギャップ構造のモータと比較して大幅に小型化できるメリットがある。アキシャルギャップモータは，トルク発生面が大きく取れるため，トルク密度やパワー密度の向上に極めて有効に有効である。しかし，アキシャルギャップモータはエアギャップがロータの取り付け位置で決定されるため，ラジアルギャップモータと比較してエアギャップ長の誤差が出やすい。本稿ではシミュレーションでロータの取り付け誤差を意図的に作り，各種運転特性の変化について検討したので報告する。

5-033

アキシャルギャップPMモータのロータコア渦電流損改善

○鋤柄智久・穐本哲也・榎島一彰（武蔵精密工業）・野口季彦（静岡大学）

近年，モータダウンサイジングを目的としたアキシャルギャップ形PMモータが検討されている。このモータを採用する際に課題となったロータ渦電流損に対して，原因の究明とその対策の検討をし，解析を用いて効果の検証をおこなった。 結果，ロータ渦電流損は，磁石磁束依存のものとコイルによる電機子反作用磁束依存のものの2種類が存在し，それぞれ，異なる対策を必要とした。上記2つの対策を適用することで，ロータ渦電流損を，ベンチマーク機と比較し1/10以下に抑えることが可能となった。

5-034

磁束変調ハイブリッド界磁モータのトルクに及ぼす回転子鉄片円弧の影響

◎寺家尚哉・深見 正・小山正人（金沢工業大学）・満田宇宙・山田正樹（三菱電機）

筆者らは先に，二つの固定子（電機子と界磁）で一つの回転子を軸方向に挟んで構成した磁束変調ハイブリッド界磁モータ（FHM）を提案し，有限要素解析により動作の確認を行った。FHMのトルク発生に寄与する主磁束は，電機子及び界磁の起磁力を回転子鉄片のパーミアンス変化により変調してつくる。 本稿では，回転子鉄片円弧がトルクの平均値や脈動に与える影響を有限要素解析により調べたので報告する。解析の結果，トルクの平均値を向上させ，かつ脈動を低減させるには回転子鉄片を外側と内側の二つに分ければよいことが分かった。

5-035

軸受異常電動機を用いた電流パワースペクトルと振動加速度の相関

◎井上 啓・金丸 誠・宮内俊彦・山本和男（三菱電機）

電動機は, 産業プラントにおいて生産ライン装置の動力を担う機器である。生産ラインを高稼働で動作するためには, 突発的な故障回避が必要である。故障回避のため, オンライン, リアルタイムの電動機の状態監視技術の開発が推進されている。電動機を状態監視するために, 一般に振動解析が用いられている。最近では, 電動機の状態監視手法として, 電流徴候解析技術の研究が進んでおり, 異常電動機の電流パワースペクトルが調査されている。しかしながら, 電流パワースペクトルと振動との関係は明確でない。今回, 異常電動機の電流パワースペクトルと振動の関係を明確にすることを目的とする。そのために, 人為的に軸受異常を発生させた電動機を用いて，電流パワースペクトルと振動加速度の相関を調査した

5-036

直流モータの整流子片摺動における電流転流過程と残留電流の理論計算

◎小椋陽介・横水康伸・大島和也・福塚隆司（名古屋大学）

直流モータでは，アーク放電がブラシと整流子片との間に発生することがある。アーク放電の発生はブラシ損耗現象の起因となる。我々の研究室では，ブラシと整流子片を模擬した装置の開離過程において，接触部の温度分布および接触電圧の過渡推移の理論的導出を行ってきた。本稿では，模擬装置のブラシ電流を複数に設定し，整流子片の摺動過程における接触抵抗の過渡推移および整流子片電流の転流過程を示している。

5-037

鉄および貴金属スリップリングと銀黒鉛質ブラシの摺動接触における特性の相違

◎福田直紀・高田友輔・比嘉竜大・澤 孝一郎・上野貴博（日本工業大学）

静止励磁方式の発電機では，その回転子（界磁）と外部直流電源間の電流伝達機構として，ブラシとスリップリングが用いられている。本研究はこれまで，風力発電システムで多用されている銀黒鉛質ブラシと貴金属スリップリングに焦点を当て，ブラシの銀含有率(銀含有率50, 60, 70, 80, 90 wt％)やリング材質（Ag, Au）を変化させた場合の摺動における基礎特性を取得してきた。結果として，銀含有率60%～80%ブラシが接触電圧降下およびブラシ摩耗量抑制に有効であることを見出した。我が国では，1970年代から主としてタービン発電機が大容量化していった。そのため，大径および高周速，摩耗に耐えうる安価なスリップリングとして，鉄材を用いる傾向が強まった。しかし，その摺動特性は現在でも明確化されていない。そこで今般は，銀黒鉛質ブラシと鉄スリップリングの摺動から，その基礎特性および銀，金メッキスリップリング時との相違について報告する。

5-038

渦電流ブレーキの三相交流励磁方式の基礎検討

◎佐藤紀裕・望月大地・菊池良巳・脇若弘之・曽根原 誠・佐藤敏郎（信州大学）

我々は摩擦に頼らない第三世代のブレーキとして非接触ハイブリッドブレーキを研究している。これは渦電流式と磁気粘性流体式をハイブリッドしたブレーキである。本稿ではその内，渦電流ブレーキについて述べる。 本実験ではモータによって回転させたディスクに3つのコイルを用いて回転磁界を印加し，励磁周波数を変化させた場合の制動トルクを測定した。また，回転磁界の向きをディスクと同一方向と逆方向の2通りで測定を行った。その結果，トルクは励磁周波数が増加するほど減少していく傾向が見られた。また，回転磁界の方向によってトルクの値に差異が見られた。

5-039

クラッド材を用いた航空機用渦電流ブレーキのトルクの基礎検討

◎望月大地・佐藤紀裕・菊池良巳・脇若弘之・曽根原 誠・佐藤敏郎（信州大学）

現在，航空機用ブレーキは第三世代の非接触の第三世代型ブレーキが研究されている。著者らは第三世代型ブレーキとして渦電流と磁気粘性流体を用いた非接触式ハイブリッドブレーキを研究開発している。本稿では，クラッド材を用いた渦電流ブレーキの基礎研究について述べる。クラッド材を用いることにより，渦電流が増し，ブレーキトルクが向上することを実験を通して検討していく。

5-040

中型航空機用多盤式磁気粘性流体ブレーキの基礎研究

◎角 太一郎・佐藤紀裕・脇若弘之・菊池良巳・曽根原 誠・佐藤敏郎（信州大学）

中型航空機の車軸ブレーキとして非接触形のハイブリッドブレーキ（渦電流ブレーキと磁気粘性流体ブレーキ(MRB)の二方式のハイブリッドブレーキ）を研究しており，その前段階として多盤式磁気粘性流体(Multi-disc Magnetorheological Fluid)ブレーキの基礎検討を行った。ブレーキトルクは電流に比例しており，磁界印加コイル，ディスク枚数が2倍のとき，ブレーキトルクもほぼ2倍になった。また，回転数が増えるほどブレーキトルクが小さかった。用いた実験機を中型航空機の車軸サイズに換算した場合，729Nmのブレーキトルクが得られる。発表では必要なブレーキトルクを満たす構造として，ディスク枚数を増やした構造をせん断応力とディスク流体間接触面積の観点から説明する。

5-041

航空機用磁気粘性流体ブレーキのトルクと時定数の基礎検討

◎志賀大樹・角 太一郎・菊池良巳・曽根原 誠・脇若弘之・佐藤敏郎（信州大学）

現在，航空機には油圧で動作する接触式のC/Cコンポジットディスクブレーキが採用されている。従来はスチール製のディスクブレーキが使用されていたが，最近では軽量化のためカーボン材で作られたディスクブレーキが採用されるようになった。著者らは次世代のブレーキとして渦電流ブレーキと磁気粘性流体ブレーキを組み合わせた非接触形のハイブリッドブレーキを研究開発している。これは油圧式でないことや，非接触であることから軽量化や整備性向上が期待されている。航空機にはブレーキ時に車輪の回転が止まることにより，横滑りや制動距離が延びることを防ぐアンチスキッド制御システムが搭載されている。システムにより断続ブレーキがかかるため過渡特性が重要となる。本稿では，磁気粘性流体ブレーキのトルクと時定数の基礎検討について述べる。

5-042

光ファイバを用いた運転時発電機固定子コイルの温度測定

◎田所妙実・大石和城・小川裕治（明電舎）

本研究は，発電機固定子コイル冷却性能評価ならびに損失評価を目的とした温度計測法について検討を行ったものである。 固定子コイルの温度計測法は，熱電対や測温抵抗体を用いたものが一般的である。しかし熱電対や測温抵抗体は，短絡や地絡などの事故が発生する危険性があり，多点計測による温度分布測定も困難である。そこで電気的に影響のない光ファイバを用い,当社はこれまで2機の試供機にて測定を行ってきた。この結果，今まで測定できなかった高電圧運転中の固定子上下コイルの鉄心内部温度分布を可視化した。また損失影響が大きい箇所も特定出来た。今後も冷却性能改善，損失評価へ役立て，回転機の更なる高効率運転を目指していく。

5-043

高速モータ駆動システムのためのMagnetic Multiple Spur Gearの提案

◎相曽浩平・赤津 観（芝浦工業大学）・青山康明（日立製作所）

本研究では高速モータと磁気ギアを一体化したモータ駆動システムを構築し, モータ駆動システムの小型化かつ高効率化, 更には摩擦を無くすことによる高付加価値化の実現を目的とする。本稿では高速駆動を可能とする新しいMagnetic Multiple Spur Gear(MMSG)の構造, 動作原理を示した。また, MMSGが従来の磁気ギアと比較して高トルク密度, 高速領域において高効率を満たすことを有限要素法解析より示した。

5-044

アキシャルギャップモータのステータのスロット数がトルク特性に及ぼす影響

河瀬順洋・山口 忠・松田弘志郎・◎秋山怜也（岐阜大学）・森永圭一（東洋電機製造）

アキシャルギャップモータにおいて，高出力，高効率化の方法の一つとしてロータの極数とステータのスロット数の組み合わせを最適化することが考えられる。本論文では，ロータの極数を16極に固定して，ステータのスロット数を24，18，12スロットと変更したモデルを作成し，コギングトルク解析と定常トルク解析を通して，ステータのスロット数がトルク特性に及ぼす影響を明らかにした。また，それぞれのモデルにおいて電気的損失も明らかにした。その結果，3つのモデルの中では，18スロットモデルが，トルクリプルが最も小さく，最も効率が大きいことがわかった。

5-045

ハイブリッド磁界共振結合回転機に関する基礎研究

◎森 聖也・堺 和人・瀧嶋健太（東洋大学）

電気飛行機，太陽電池飛行機，燃料電池飛行機を実現するには，推進装置であるモータの超軽量化がキーテクノロジーになる。超軽量化は電気自動車や鉄道などの交通分野，ロボット，モバイル機器など広い分野で新しい価値の物を生み出すことが期待できる。そこで，超軽量化のためワイヤレス電力伝送の磁界共振結合と誘導機の技術を基にして，新規の電磁界共振回転機の基礎研究を進めてきた。今回，永久磁石を併用したハイブリッド式磁界共振結合回転機を新しく提案する。 本稿では，ハイブリッド磁界共振結合回転機の構成，動作原理，基本特性について述べ，永久磁石を併用する場合，トルクと効率は向上したことを確認した。

5-046

磁界共振結合モータのアキシャルギャップタイプによる基本特性検討

◎秋山貴伸・堺 和人（東洋大学）

3次元新移動体の開拓や省エネのため，電気飛行機の実用化に向け研究が進められている。我々は実現するための方策として推進装置であるモータの軽量化，高出力が必要と考え，鉄心が不要になるワイヤレス電力伝送の磁界共振結合方式をベースに新方式モータの研究を行っている。本稿では，アキシャルギャップタイプの磁界共振結合モータ(アキシャルMRCM)の原理と基本構成，解析による基本特性について述べる。解析法は，電磁界解析ソフトJMAGで3次元磁界解析を行う。基本特性を検討し，アキシャルMRCMが回転電機として成立することが確認できた。今後はアキシャルMRCMのトルクの増加を図るため，極数に対するモータ構造の最適化を行う予定である。

5-047

磁界共振を用いた超軽量モータの特性に及ぼす交流銅損の影響

○堺 和人・瀧嶋健太（東洋大学）

電気飛行機の実用化には，駆動用モータの大幅な出力密度の向上が鍵となる。そこで我々は，高出力密度モータを創出する磁界共振結合と誘導電動機の技術を基に考案した無鉄心の新規の磁界共振結合モータの基礎研究を行っている。磁界共振モータは，無鉄心で構成されるため大幅な重量低減が可能であり，高速回転時に過大な鉄損が発生しないため高効率で高出力が期待できる。本稿では，磁界共振モータの素線に発生する渦電流を考慮した解析を行い，その結果と渦電流を考慮しない場合の特性を比較，検討について述べている。交流損の影響が大きいこと，素線構成で低減できることを明らかにしている。

5-048

磁界共振を用いた超軽量モータの駆動実験

◎瀧嶋健太・堺 和人（東洋大学）

電気飛行機の実用化には，駆動用モータの大幅な出力密度の向上が鍵となる。そこで我々は，ワイヤレス電力伝送の磁界共振と誘導モータの技術を基に考案した無鉄心の超軽量新原理モータの基礎研究を行っている。これまで磁界解析，等価回路，モータ起動時の実験により原理検証，モータとしての成立性の確認，電気飛行機駆動用モータとしての実現性の検討を行ってきた。本稿では，新原理でモータの駆動実験を行い，その結果について述べた。実験結果から，提案モータは，トルクを出力し駆動可能であることを示しており，提案モータの成立性が確認された。本検討により，通常，十分な出力を得られない無鉄心モータで，高出力の可能性が高まった。

5-049

キャリア高調波で強め界磁する空間高調波自励式ダイオード整流巻線界磁形同期モータ

◎青山真大・野口季彦（静岡大学）

本論文はインバータ駆動する三相集中巻ステータ構造のモータにおいて制御的に不可避に発生するキャリア高調波と構造的に不可避に発生する第2次空間高調波をそれぞれ磁界共振結合と電磁誘導結合でロータ巻線にブラシレス給電する技術の提案に関する内容である。提案する駆動原理の説明を行い，キャリア高調波による強め界磁効果を電磁界解析にて性能予測した結果を報告する。

5-050

80μm鋼板を用いた高速PM モータの性能評価

◎落井克仁・朝間淳一（静岡大学）

0.35mm厚電磁鋼板と0.08mm厚電磁鋼板を，それぞれ適用した高速永久磁石モータの性能比較結果の報告

5-051

Principle of a Radial-force-based Swirling Actuator with SPM Structure

◎陳 凌宇・千葉 明（東京工業大学）・永野正雄・中村公昭（本田技術研究所）

This paper proposes a swirling actuator that utilizes the electromagnetic radial force to generate rotational torque. This actuator integrates a mechanical speed reducer to convert the swirling motion to the rotation and is thus suitable for low-speed high-torque applications. The principles of actuator operation and radial force generation are introduced. 3D FEA results of the SPM-structure electromagnetic part are presented to evaluate the radial force generation. It is shown that the proposed actuator can realize a maximum torque density of 71 Nm/L.

5-052

磁石併用誘導機に関する基本特性

◎杉山直輝・堺 和人（東洋大学）

汎用モータとして広く誘導電動機が利用されており，その要因に安価であり，軽負荷・高速回転においては高効率であることが挙げられる。しかし，誘導機は永久磁石モータと比較して低速や中速ではトルクが小さいことや，効率と力率が悪くなる課題がある。そこで誘導機に永久磁石を併用することでトルクを増加できれば，全運転範囲で高効率が見込める。本稿では，磁石を併用した誘導機の基本特性について述べる。誘導機のトルクと性能を向上させるために，永久磁石を併用し磁束を積極的に利用する誘導機の基本特性を，解析を用いて検討した。IM-pmはIMと比較して，定格電流時では約1.4倍のトルクが確認され，効率が3.5%向上し，力率は約1.2倍改善される結果が得られた。

5-053

発電用モータのトルク密度向上技術の検討

○高橋健一・柏原寛親・伊藤嘉昭・中井英雄（豊田中央研究所）

HV，レンジエクステンダーEV等の発電用モータは，エンジン等との共存に伴う搭載容量の制約のため，高トルク密度化の要求がある。本稿では，分数スロット巻とハルバッハ配列により高トルク化を試みる。発電機に用いられている2極3スロット型集中巻モータのロータを表面磁石型に置き換えたSPMを基準として，磁場解析と40kWの試作機を用いた実験によりトルク向上効果と課題を確認した。その結果，トルク密度の向上代は20％と確認した。ただし，高回転時におけるトルク減少より，分数スロット巻とハルバッハ配列の組み合わせでは損失が課題となることも確認した。

5-054

可変界磁モータにおける界磁磁束の変更に伴うトルクショックの評価

◎服部太亮・南 香夏子・土方規実雄・田中康寛（東京都市大学）

地球温暖化対策として，永久磁石を用いたモータが使用されている。しかし，高速運転する場合に弱め界磁制御を用いると弱め界磁電流によって銅損が発生するため，効率が低下してしまう。そこで，可変界磁モータが提案されている。その中でも，パルス大電流を用いて瞬間的に磁石の着磁を変化する方法では，界磁電流は界磁磁束を変化する短い時間だけ流れるため，銅損の低減による効率の向上が期待できるが，界磁磁束の不連続な変化にともないトルクショックが発生する問題がある。本稿では，シミュレーションで界磁磁束の変更に伴うトルクショックを評価する。その結果，モータの界磁磁束を変更するとトルクショックが発生することが確認出来た。

5-055

小形集中巻三相かご形誘導電動機の試作

◎和田安理・渡邉徳宏・中村雅憲・廣塚 功（中部大学）

三相かご形誘導電動機(IM)は家電や産業機器の動力源として特に多く用いられており，さらなる低コスト化および高効率化が求められている。IMの巻線構造を集中巻にすることで，コストダウンが期待できるが，特性の悪化は避けられない。そこで，当研究室では有限要素法によりさまざまな形状の集中巻IMを検討してきた。本稿では，実機による検討を行うために製作した集中巻IMの試作機および実験結果について検討を行った。実験結果より，集中巻IMの漏れリアクタンスが非常に大きいため，始動トルクが著しく低いことを示した。また，試作機については分布巻IMと比べコイルエンド長が短くなることで体格を小さくでき，総銅量を低減できることを示した。

5-056

アウターロータ固定形三相かご形誘導電動機の基本的な特性

◎渡邉徳宏・廣塚 功・中村雅憲（中部大学）・杉本英久（昭和電機）

現在，三相かご形誘導電動機は多く用いられており，さらなる高効率化が求められている。しかし，このIMのかご形巻線に流れる回転子電流の測定は，かご形巻線が回転しているため困難であり，バー電流について，いまだ不明瞭な点が残存している。そこで当研究室では， IMの特性改善に繋げるため，バー電流を容易に測定できるアウターロータ固定形三相かご形誘導電動機を製作し，検討を行っている。本稿では，FOR-IMにおける基本的な特性の測定結果を示しており，バー電流の滑り周波数成分は滑りの増加ともに大きくなること，および，本供試機により，バー電流を容易に測定できるということを示唆した。

5-057

回転子バー形状の最適化によるキャンドモータの効率向上の検討

◎伊藤颯人・千葉 明（東京工業大学）

キャンドモータとは，固定子，回転子のどちらもキャンに覆われているという特殊な構造のモータであり，構造の特殊性や市場規模の小ささなどの理由から，高効率規制の対象外となっている。しかし，キャンドモータは効率改善の余地があり，国外のインフラ整備の拡大に伴って需要が拡大すると想定されており，効率向上の検討が必要である。本報告では，回転子バーの形状の最適化という観点から3種類の回転子バー形状について解析を行い，キャンドモータの効率向上を検討した。検討の結果，台形状の回転子バーにおいて，88.48％の効率を記録した。

5-058

マルチレベル変換器適用時の誘導機の損失低減効果

◎野上浩暉・阿部晋也・佐藤之彦（千葉大学）

一般的に広く用いられる誘導電動機を可変速運転するためにはインバータにより制御する必要がある。しかし通常の2レベルインバータによる出力電圧のとりうる値は2値であり, 電圧・電流ともに高調波を多く含む。そこで, 出力電圧のとりうる値が3値以上のマルチレベルインバータを適用することで高調波を減らし, それに起因する誘導機損失を低減する方法が検討されている。本研究の目的はレベル数の増大により, 具体的にどの損失をどれだけ減らすことができるかについて明らかにすることである。従来の方法であるキャリア周波数の高周波化では高調波鉄損を低減できなかったが, 本方式により定量的にその低減が明らかにできたため報告する。

5-059

三相かご形誘導電動機の横流を模擬した回転子に対するFEM解析結果

◎水田貴裕・亀山正樹・米谷晴之（三菱電機）・渡邉徳宏・廣塚 功・中村雅憲（中部大学）

筆者らは，三相かご形誘導電動機（IM）の高効率化に寄与するため，回転子バー間に流れる横流に対する実験的な検討を行ってきている。本稿では，回転子表面に回転子バー間の短絡部を設け，さらにポストヒーティングを施した回転子を用意し，これを組込んだ供試機に対する有限要素解析結果を示している。その結果，実験結果と良好に一致することを明示している。

5-060

鉄心のヒステリシス現象を考慮した誘導電動機の特性解析に関する検討

山崎克巳・◎國分信一郎（千葉工業大学）

本稿では，ヒステリシス現象を考慮した電磁界解析を誘導電動機に適用し，諸特性を算出する。また，実験結果と比較して妥当性を検証する。

5-061

バー切れしたかご形誘導電動機の始動特性解析

河瀬順洋・山口 忠・柴田昌秀・◎小澤良輔（岐阜大学）・河野 寛・渡邉将史（豊田自動織機）

堅牢なかご形誘導電動機であっても，頻繁に始動停止を繰り返すような過負荷運転を続けると熱疲労により，ロータバーが切れる場合がある。バー切れがある状態で運転すると，バー切れが諸特性に悪影響を与えると考えられる。本論文では，スキュー付きかご形誘導電動機を解析対象とし，三次元有限要素法を用いて，バー切れの諸特性への影響を調べた。その結果，平均トルク，損失はバー切れによって大きくなることがわかった。誘起電圧は，バー切れによって大きくなり，バー切れしたロータバーの近くの相が大きくなることがわかった。

5-062

ハイブリッド自動車用SR 発電機の極数検討

◎河田なな穂・千葉 明（東京工業大学）

近年の世界的な温室効果ガス削減の取り組みにより，ハイブリッド自動車(HEV)の開発が盛んになっている。現在の主流HEV に用いられる発電機は埋込永久磁石型同期発電機(IPMSG)であるが，IPMSG は供給不安や価格高騰が懸念されるレアアースを使用している。またIPMSG は無負荷時に永久磁石による損失が発生するという問題がある。 本稿ではIPMSG に代わる脱レアアース発電機としてスイッチトリラクタンス発電機(SRG)を提案し，極数による効率への影響を二次元有限要素解析により検討した。

5-063

SRモータのコイルエンドが磁束密度分布に及ぼす影響の予備的検討

◎玉井雄一朗・高橋 徹（筑波大学）

本研究では，モータの局所的な領域のみを解析領域として求めたインダクタンスを，モータ全体を解析領域として求めたインダクタンスに近似する手法の確立を目指している。今回は予備的検討として，環状の磁性体からなる簡易モデルを対象にA- ϕ法に則した三次元有限要素法磁界解析を行い，コイルエンド部に与えたベクトルポテンシャルが磁束密度分布に与える影響を調査した。得られた結果から，コイルエンド部を含めない場合における特定の空気領域中の磁束密度は，コイルエンド部を含めた場合よりも大きくなることが明らかとなった。従って，モータインダクタンスを導出する際には，この差異を踏まえて評価する必要がある。

5-064

電磁気・構造連成トポロジー最適化による同期リラクタンスモータのロータ構造最適化

◎澤田浩幸・鈴木澪也・岡本吉史（法政大学）・若尾真治（早稲田大学）

近年のレアアースの高騰を受け，同期リラクタンスモータ（SynRM）が注目されている．トルク特性の向上に向け，トポロジー最適化によるロータ構造最適化等が報告されている．しかし，電気工学における物理量の最適化により得られた構造では，剛性等の機械的性能が劣化している可能性がある．そこで本論文では，電磁界解析と構造解析を併用したSynRMの最適化を行ったので，結果を報告する．

5-065

デュアルモードリラクタンスモータの巻線切り替え時の過渡解析

◎一柳孝輔・清田恭平・飴井賢治・大路貴久（富山大学）

近年，永久磁石を使用しないモータとしてリラクタンスモータが注目されている。鉄心と巻線のみで構成され安価だが，効率，出力に課題がある。一方，高効率範囲の拡大方法として，巻線を切り替える手法が知られている。この手法は他種モータで実施した例がほとんどであり，リラクタンスモータにおける例は報告されていない。 著者らは，電流の通電方向を変えることにより，スイッチトリラクタンスモータとシンクロナスリラクタンスモータの2 種類の電動機特性を実現可能であることを報告している。本稿では，電気的に巻線の切り替えが可能なデュアルモードリラクタンスモータを提案し，巻線切り替え時に生じる過渡的影響について明らかにする。

5-066

Improved Current Profile Derivation Process for Noise Reduction of Switched Reluctance Motor at High Speed Operation

◎Candra Adi Wiguna・Jihad Furqani・千葉 明（東京工業大学）

Improved current profile derivation process is presented for noise reduction of switched reluctance motor operating at high speed. This proposed derivation process considers the back electromotive force and limited input voltage during the calculation of current profile. The current profile is formed to minimize the variation of radial force sum thus the noise and vibration is reduced. The proposed process is verified by comparing the calculation result and simulation result of current profile. Therefore, specific current profile can be obtained to reduce the noise and vibration for further research.

5-067

Effectiveness of Flattening Radial Force Sum in Reduced Number of Pole Switched Reluctance Motors

◎Jihad Furqani・Candra Wiguna・千葉 明（東京工業大学）

One of the most significant problems in switched reluctance motors is high acoustic noise. Noise reduction in the 36-24 and the 18-12 switched reluctance motors is achieved by flattening radial force sum. A question arises about the effectiveness in reduced number of pole combination switched reluctance motor. Similar principle of noise reduction is applied in 12-8 and 6-4 pole combination switched reluctance motors. Radial force equation is approximated and proposed current is derived to flatten the radial force sum. Vibration reduction is confirmed by using ANSYS Mechanical in both 12-8 and 6-4 switched reluctance motors.

5-068

磁気飽和を考慮した同期リラクタンスモータの速度・位置センサレスMTPA制御

◎久畑篤紀・森本茂雄・井上征則・真田雅之（大阪府立大学）

同期リラクタンスモータ(SynRM)は永久磁石を使用しないため省資源，低価格，耐環境性に優れたモータとして注目されている。しかし，SynRM の制御には速度・位置センサが必要であり，これらのセンサを使用するとシステムが高価になり，使用環境の影響を受けるなどSynRM の利点を損なうため，センサレス化が望まれている。本報告では，磁気飽和を有するSynRM の最大トルク/電流(MTPA)制御をセンサレスで実現する制御システムを構築し制御特性を検討する。

5-069

dq軸座標系を用いた多相交流TP-EEC法による有限要素磁界解析に関する検討

○貝森弘行（サイエンスソリューションズ）・髙橋康人（同志社大学）

近年，電磁界有限要素法の定常解高速求解法としてTP-EEC法が提案されており，多相交流周期境界条件を利用した多相交流並列TP-EEC法や多相交流簡易TP-EEC法も提案されている。 本稿では，三相交流を対象にdq座標系でTP-EEC法を提案する。 dq変換された物理量は基本波成分のみを持つ場合は直流成分として表せるため，任意の補正区間での補正が可能だと考えられ，三相励磁モデルを用いた1/3, 1/6, 1/9周期での提案方法による定常状態への補正効果を示した。

5-070

GPを用いた電磁機器の多目的最適化における次元圧縮手法の比較検討

◎杉本稜弥・稲葉敦志・北川 亘・竹下隆晴（名古屋工業大学）

用途指向型の電磁機器の需要が高まっており，回転子内部構造の自由度が高いIPMSMを複数の目的関数を用いた多目的遺伝的プログラミングにより設計する研究が行われている。しかし，複数の目的関数を考慮するため，解析結果が高次元データとなり，個体ごとの特性の理解が困難であるという問題がある。 本論文では，4つの目的関数を用いた遺伝的プログラミングによりIPMSMの回転子内部構造の設計を行い，その解析結果に対して次元圧縮手法としてMDSとt-SNEの2種類を適用することで高次元データを2次元に圧縮し，可視化した。そして，それぞれの手法について比較，検討を行い，その特徴と有用性について示す。

5-071

タービン発電機の過渡特性解析のための有限要素モデリング法の検討（第二報）

◎佐藤孝洋・高橋則雄・藤田真史・長倉 謙・十川和真・中村英之（東芝エネルギーシステムズ）

事故時にタービン発電機に生じる過渡的挙動を正確に求めることが系統安定度の検討や発電機の保護の面から重要となっている。タービン発電機の過渡現象を磁気飽和の影響を考慮して求めるには，発電機全体を有限要素でモデル化し，数値解析する方法が有効であるが，全てを詳細に有限要素メッシュで模擬すると要素数が増加し，解析に膨大な時間がかかる。そこで本研究では，発電機端部の効果を考慮しつつ，有限要素モデルの規模を極力抑えることが可能なモデリング方法を提案する。提案法にて，三相突発短絡時の過渡解析を行い，解析結果を実測の過渡電流波形と比較することで，提案法の有効性を調査する。

5-072

巻線界磁形同期機における無負荷特性と負荷特性の解析精度に関する検討

◎竹内活徳・松下真琴（東芝インフラシステムズ）・坪井雄一（東芝三菱電機産業システム）・雨宮尚之（京都大学）

本稿では，巻線界磁形同期機の無負荷特性と負荷特性における磁界解析精度について検討した。無負荷特性を正しく計算するためには，磁気特性や三次元形状の補正を考慮する必要があり，負荷特性を正しく計算するためには，三次元形状に起因した漏れインダクタンスを考慮する必要のあることが分かった。

5-073

ダルトン－カメロン法を用いた各周波数における直軸および横軸インピーダンス算出法の検討

○田中 晃・吉水健剛・平原英明・山本 修・荒 隆裕（職業能力開発総合大学校）

直流試験法は，小容量の直流電源により静止した状態で回転機の等価回路定数および諸定数を算出できる特徴がある。大容量機では回転子を直軸および横軸の位置に固定することが難しいため，任意の回転子位置の直流試験から直，横軸の演算子インピーダンス求める方法が報告されているが，この方法は，試験時に界磁電流を測定する必要がある。本報告では，任意の回転子位置の直流試験から得られた各端子間の演算子インピーダンスの実部および虚部の値に着目することで，界磁電流を測定することなく直，横軸の演算子インピーダンスを求める方法について検討している。供試機として10kVAの積層磁極突極形同期機で提案法の妥当性を検証している。

5-074

大容量タービン発電機の三次元渦電流解析による固定子フレーム損失の検討

○高橋則雄・藤田真史・佐藤孝洋・十川和真・長倉 謙・中村英之（東芝エネルギーシステムズ）

大容量タービン発電機では，再生可能エネルギー増加に伴い，系統連系に対応し，運転範囲拡大の要求が高まっており，過渡運転時における電磁的挙動のより詳細な評価が必要となっている。今回，鉄心端，鉄心背面の支持構造物を考慮した大規模電磁界解析モデルにより，無負荷運転時，負荷運転時おける鉄心背面構造物の損失解析を行い，その分析，評価について報告する。

5-075

圧粉鉄心を用いたスイッチトリラクタンスモータにおける効率改善のための基礎検討

◎南 勝彦・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

圧粉鉄心は電磁鋼板と比べて渦電流損が小さいというメリットがある一方，ヒステリシス損が大きいというデメリットがある。そのため，圧粉鉄心を用いたモータの効率向上にはヒステリシス損を低減する必要があると考えられる。ヒステリシス損は鉄心のB-Hループの面積に相当するため，B-Hループの面積が縮小することでヒステリシス損の低減効果を得ることができると考えられる。本報告では，ステータティースにおいてヒステリシス損の低減効果を得られると考えられる永久磁石補助型スイッチトリラクタンスモータ(PMASRM)について3種類の異なる励磁電流波形を圧粉鉄心と電磁鋼板を用いたPMASRMに適用した際のトルクおよび損失への影響を比較検討している。

5-076

Si傾斜磁性材料を適用した焼きばめモータの特性評価

◎財前善彰・吉崎聡一郎・尾田善彦・千田邦浩・小関新司（JFEスチール）

Si傾斜磁性材料は板厚方向にSi濃度分布を有した材料であり，応力による磁気特性の変化が小さいため，焼きばめモータ用コア材料として好適であると考えられる。そこで，Si傾斜磁性材料を焼きばめモータ（IPMモータ）に適用した場合のモータ特性を評価した結果，焼きばめによるモータ効率の変化が非常に小さいことが明らかになった。

5-077

高速回転モータのカシメ位置が諸特性に及ぼす影響の検討

河瀬順洋・山口 忠・◎伊藤 遼（岐阜大学）

電磁鋼板の積層体であるステータコアは，鋼板同士を締結させるためにカシメや溶接等を用いる。これらの方法は，電磁鋼板の電気的な絶縁を損なうものであり，設置位置によっては渦電流損を増大させ，効率悪化の主要因となる可能性がある。本論文では，高速回転モータを解析対象とし，三次元有限要素法を用いて，カシメ位置が諸特性へ与える影響を調べた。その結果，トルクと損失はティース末端のカシメ位置によって影響されることはなく，ティース先端のカシメ位置に主に影響されることがわかった。さらに，どちらにおいてもティース先端のカシメ位置が内側であると増加し，外側であると減少することがわかった。

5-078

異なる軟磁性材料を一部回転子に用いたIPMSM

◎鳥海勇太・黒岩優司・三木一郎（明治大学）

近年，PMモータを高効率かつ広運転範囲を実現するために様々な手法が研究されているが，その中でも可変漏れ磁束モータは追加の回路やアクチュエータを必要としないモータであり，非常に有用なモータであると考えられる。本稿では高効率かつ広運転範囲を実現するモータとして異なる軟磁性材料を用いたIPMSMを検討した。通常のフラックスバリアを有するIPMSMを比較対象に，トルク，効率そして最高回転速度の比較を行った。その結果，提案モデルは従来のIPMSMの98.5[%]のトルクを得つつ，高効率範囲を拡大することができた。また，最高回転速度においても1.47倍に増加することができた。

5-079

広い速度領域で運転可能なIPMSM

◎湯浅泰旺・明石智樹・三木一郎（明治大学）

現在，広い速度範囲かつ高効率で駆動できるモータの需要が高まっている。PMモータでは，弱め磁束制御によってある程度高速運転が可能であるが，高速回転域で効率が低下するという課題を抱えている。本稿では，広い速度範囲で運転可能な回転子構造について検討した。比較のための最高回転速度が約5000min-1の基本モデルと比べ，本稿で提案するモデルは2種類の磁石材料を用いたことで最高回転速度が約15500min-1となり，さらに応力を考慮すると約13000min-1となった。有限要素歩を用いた電磁界解析によって研究を行い，提案モデルは基本モデルと比較して最高回転速度の延長と高効率化を達成することが出来た。

5-080

トポロジー最適化による複数の駆動条件を考慮した電気学会Gモデルのリラクタンストルク改善に関する検討

◎鈴木澪也・山下祐輝・岡本吉史（法政大学）・貝森弘行（サイエンス ソリューションズ）・若尾真治（早稲田大学）

内部埋込式同期モータは，弱め磁束制御で定出力運転範囲が拡大されている．それゆえ，広範囲の電流指定値に対するトルク特性の向上が求められている．回転機電磁界解析の実用的総合評価技術調査専門委員会で提案されている電気学会Gモデルは，概してリラクタンストルクが低く，その改善が求められている．本論文では，Gモデルから永久磁石を抜き取った状態で，トポロジー最適化によって，複数の電流指定値で駆動している状態を想定し，各状態のリラクタンストルク改善を試みる．

5-081

インバータ駆動時の鉄損を考慮した永久磁石同期モータのビヘイビアモデルに関する検討

◎習田祐作・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

本稿では，インバータ駆動時に生じる高調波成分を含んだ鉄損を考慮した永久磁石同期モータのビヘイビアモデルを提案する。鉄損を考慮した等価回路として，等価鉄損抵抗を誘導起電力に対して並列に接続した等価回路が広く用いられているが，インバータ駆動時に生じるキャリア損が過大評価されるという問題点がある。そこで，等価鉄損抵抗に対して直列にインダクタンスを接続することによって，高調波成分に対するインピーダンスを増加させ，キャリア損の過大評価を抑制することができる等価回路を提案する。インバータ駆動永久磁石モータの損失解析における提案法の有効性を検証する。

5-082

ヒステリシス現象を考慮した永久磁石同期機の鉄損解析－Part I: ヒステリシスループの指数・冪関数近似－

山崎克巳・◎高木悠太郎（千葉工業大学）

本稿では，同期機の鉄損解析のためのメジャー及びマイナーヒステリシスループのモデリング手法を提案する。電磁鋼板の素材実験を行って，提案ヒステリシスモデルの妥当性を検証する。

5-083

ヒステリシス現象を考慮した永久磁石同期機の鉄損解析－Part II: 機械応力の考慮－

山崎克巳・◎佐藤嘉人（千葉工業大学）・Laurent Daniel（GeePs）

本稿では，ヒステリシスループの応力依存性近似モデルを構築し，永久磁石同期機の鉄損解析へ適用することを試みる。まず，鉄心素材の基礎実験結果と提案モデルの結果を比較することにより，妥当性を検証する。次に提案モデルを組み込んだ電磁界解析手法によって永久磁石同期機の鉄損を算定し，実機試験結果と比較検討する。

5-084

埋込磁石同期電動機におけるインバータキャリアを考慮した効率マップ算定の高速化に関する検討

山崎克巳・◎飯田恭一・寺井雄磨（千葉工業大学）

本稿では，正弦波電流源又は電圧源の非線形非定常有限要素法解析と，最大高調波成分の電圧を与えた線形複素数近似解析を組み合わせることによって,埋込磁石同期電動機のキャリア損を含む全損失を算出し，効率マップを高速に作成する手法について，提案・検討する。

5-085

IPMSMの高調波電流重畳による6次ラジアル力の低減

◎梅岡 諒（東京工業大学）

近年二酸化炭素削減を目指したモータ駆動によるハイブリット自動車(HEV) ，電気自動車(EV)が注目を集めてきている。これらの自動車に搭載されている主流なモータとしてIPMSMが挙げられる。IPMSMによって高速で高出力なモータを実現させることが可能だが，その反面トルクリプルや半径方向力による騒音問題も生じている。そのため自動車駆動用モータにおける騒音低減について検討する必要がある。騒音の主な原因の一つとして，電気角6次のラジアル力が挙げられる。そこで本稿においては，電気角6次のラジアル力の低減について検討した。今回6次のラジアル力を低減するにあたって，高調波電流重畳による制御手法を用いた。結果として約2.3%の電流重畳により，6次のラジアル力成分を98%も低減することに成功した。

5-086

高周波交番電圧重畳に基づいたPMモータ位置センサレス制御における高周波電流振幅の検出方式について

◎大田黒修平・山本吉朗・篠原篤志（鹿児島大学）

近年，永久磁石の高性能化に伴い，高効率のPMモータが様々な分野で利用されるようになってきた。PMモータのトルク制御には，回転子位置に応じた電流制御が必要で，通常エンコーダやレゾルバ等の位置センサが用いられる。この位置センサを除去できれば，モータの小形化，低価格化，信頼性の向上が実現するため，位置センサレス制御が望まれている。著者らは，高周波交番電圧重畳に基づいたPMモータ位置センサレス制御に関する研究を行っている。この方式では，制御電圧に高周波電圧を重畳して，突極性に起因する電流応答の変化に基づいて位置推定を行う。本稿では，高周波電流振幅の検出方式について検討を行ったので報告する。

5-087

FPGAを用いた電流ベクトル制御の制御周期短縮が超高速PMSM駆動システムに与える影響

◎長崎大生・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪府立大学）

永久磁石同期モータ(PMSM)は，可変速範囲が広く様々な分野で活用されており，PMSMの超高速駆動が注目されている。超高速駆動の高精度な制御には短い制御周期が求められる。FPGAは並列処理による高速演算処理が可能なため制御周期の短縮が期待される。また，超高速駆動時には回転子情報を得るセンサの設置が困難であるため回転子速度・位置推定法を適用する必要がある。本報告ではFPGA実装に適した超高速PMSM駆動を実現する電流ベクトル制御システムにおいて，制御周期短縮が運転特性に与える影響をシミュレーションにより検討する。

5-088

モデルベース並列化ツールによるマルチコアプロセッサ上へのベクトル制御系実装の検討

◎吉田恭介（日立製作所）・井上雅理・井ノ川 誠・黒柳彰宏・本田晋也・枝廣正人・道木慎二（名古屋大学）・小島流石（大阪大学）・安積卓也（埼玉大学）・中本幸一（兵庫県立大学）

近年,演算を複数のコアに分散し処理するマルチコアマイコンの使用範囲が拡大している.しかし,制御器設計の段階ではマルチコアを意識せず設計する為,実装工数の増加などの問題が発生する.そこで,モータ制御のように因果関係の制約が厳しい組込みシステムのマルチコアへの実装を支援する為に,モデルベース並列化ツール(MBP)が開発されている.MATLAB/Simulinkモデルで設計した制御器をMBPに適用すると,マルチコアへの並列実装用コードを自動生成する.本稿では,MBPを位置センサレス・相電流センサレスベクトル制御系に適用した際の評価並びにMBPの適用による制御アルゴリズム並列化の詳細について報告する.

5-089

モータ制御系のマルチコア実装時における並列度向上に向けて遅延を導入した電流制御系の解析

○キムジンス・井上雅理・加藤聖也・黒柳彰宏・枝廣正人・道木慎二（名古屋大学）

近年では，計算機の高性能化はマルチコア化によって実現されている．制御の世界においても計算機の性能向上の恩恵に預かるためには，マルチコアを有効に活かすことが重要である．そのため，モデルベース並列化ツール(MBP) を用いた並列化作業の負担軽減と並列計算効率の向上に向けた検討が行われている．しかし，モータ制御のように逐次実行性が高いタスクを厳格な管理の下で実行するプログラムの場合，並列化時にコア間同期のための通信を多く必要とするため，通信のための待機時間が長くなり並列度が限定的となる．これに対し，並列化時のデータ依存関係を調整することで実行性行能を向上させる検討が行われている．これは一部の入力信号に1制御周期分のむだ時間を挿入することや，一部の制御周期を変更し，マルチレート系にすることでコア間同期通信を遅延させ，並列度向上が実現可能となる．しかし，この手法は設計した制御器を変更することになるため，設計時と異なる挙動を示し，再度の制御系解析・設計を招く恐れがある．筆者らは電流制御系を例に，並列度向上のためにマルチレート系の導入する際の影響の基礎的な解析を行った.本稿では，遅延を導入した電流制御系を取り上げ解析・評価を行う．

5-090

モデル予測制御に基づくPMSM電流制御系の矩形波駆動時に使用するルックアップテーブルの速度量子化単位の検討

◎嶋岡雅浩・道木慎二（名古屋大学）

我々はモータ駆動システムを高性能化する手法としてモデル予測制御（MPC）の適用を検討している．MPCでは変調を含めた最適なインバータの印加電圧を探索的に決定することで高速応答化や駆動範囲の拡大が可能となる．探索時の計算量が膨大になるという課題に対し，ルックアップテーブル（LUT）を用いた実装法を提案し限定的な動作点での実験評価を実施してきた． LUTを用いた実装では参照の際の量子化誤差により電流制御誤差が生じるため，全域での実装に向けて量子化誤差と電流制御性能の関係を把握する必要がある．本稿では矩形波駆動を対象としたLUTに対し速度量子化誤差と電流制御性能の関係についてシミュレーションにより検討を行ったので報告する．

5-091

状態推定技術とセンサの組み合わせによるPMSM電流制御系位置センサ系フェールセーフ化の実機検証

◎堀 翔太・近藤史弥・道木慎二（名古屋大学）

PMSMは自動運転車や飛行機などの移動体への用途の拡大に伴い，安全性や耐故障性が要求されつつある。 制御の観点から故障の懸念される点を考えると，その一つにセンサ系の故障が挙げられる。 我々はその問題を，既存の物理センサに状態推定技術を組み合わせ，センサ系を冗長化することで，解決しようと考えている。 本稿では，シミュレーションにて有効性の確認されていた位置センサ系の冗長化の有効性を実機にて検証する。

5-092

永久磁石同期電動機の1 パルスモード運転における電流制御法の検討

◎中村元春・林 洋一（青山学院大学）

電圧利用率の向上やインバータ効率の向上を目的に1パルスモードでの運転が利用される場合がある。このモードでは出力電圧の大きさは変化できず，位相のみ変化させることができ，スイッチング回数が少ないため，高調波を多く含んだ電流波形となる。 本論文では，1パルスモードにおける，過渡時の応答を考慮した電流制御方法を検討し，実機による検証を行った。電圧パルスの中心で得たγ軸磁束を1／0.95倍することで基本波成分の電流を得ることができ，指令値変化後からおよそ電気角1周期，つまり6回の電圧ベクトルの操作で指令値に一致するという結果が得られ，1パルス運転時でも高速な電流制御を行うことが可能であることを確認した。

5-093

鉄損を有するPMSMの広範囲駆動のための電流指令値決定法の実機検証

◎嶋田賢作・中村直人・新中新二（神奈川大学）

永久磁石同期モータ(PMSM)の利用対象の中には，電気自動車など，ゼロ速度から定格速度以上の広範囲な駆動領域が必要なものがある。広範囲効率駆動には，電圧・電流などの制限を考慮したうえで，最小損失を達成する電流指令値が要求される。 広範囲駆動を前提に，非電圧制限下，電圧制限下において，最小損失を達成する簡易な電流指令値決定法の1つを以前提案した。同提案法は，電流ノルム，電流位相の再帰求解に基づくものであり，これによれば，最小総合損失（銅損及び鉄損）をもたらす電流指令値を容易に決定できる。 本論文では，提案の電流指令値決定法の有用性を確認すべく，実機による検証を行う。

5-094

非同期PWMにおける台形波変調方式を用いたトルク脈動低減手法の検討

○安島俊幸・古川公久・原 崇文・高岡 碧（日立製作所）・松井大和・磯部純希（日立オートモティブシステムズ）

非同期PWMにおける過変調時の電圧誤差を台形波変調方式に基づいてPWMパルス演算することで電圧誤差を低減し，トルク脈動を低減する手法について検討したので報告する

5-095

センサレス同期モータのための汎一定楕円形高周波電圧印可による応答高周波電流の解析

◎細岡 竜・村上穣視（サージュ）

同期モータの回転子位相推定法として．モータに高周波電圧を印可し，その応答たる高周波電流を用いて回転子位相を推定する高周波電圧印可法がある。本位相推定法では，主としてγ軸方向に高周波電圧を印可するものと，主としてδ軸方向に高周波電圧を印可するものがある。両高周波電圧は，数式上の対応が取られない形で定義されており，両電圧印可に対応した応答電流の解析解の対応は見通しの悪いものとなっている。 本論文では，両高周波電圧を共に表現可能な高周波電圧を提案し，同高周波電圧印可に対応した応答高周波電流の解析解を求める。

5-096

直接トルク制御を用いたインバータ方形波駆動システムにおける指令磁束による平均電流制御に関する検討

◎末藤渉太朗・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪府立大学）

埋込磁石同期モータ(IPMSM)は高効率，高出力密度なモータとして様々な製品で利用されている。電気自動車では高出力の他，車載する都合上システムの小型化も求められる。電源電圧の大きさを変化させることなくモータ出力を増加させる方法として，インバータの過変調・方形波駆動が研究されている。しかし，出力電圧の非線形化や低次高調波の発生などの問題がある。 本論文では，M-T座標上での直接トルク制御(DTC)によるIPMSM駆動システムにおいて方形波駆動を適用し，インバータの電圧利用率を向上させる。また指令磁束により間接的に平均電流制御を行う方法について，シミュレーションにより特性の検討を行う。

5-097

直流母線電流検出方式における低変調率駆動時のパルスシフト方式の提案

◎佐野壮太・佐竹 彰・古谷真一（三菱電機）

インバータの直流母線電流を検出してモータ電流を再現する直流母線電流検出法は三相のパルス幅の差を用いて各相の電流を検出するものであるが，検出幅を一定期間設ける必要がある。そのため，変調率が低いときに検出が困難になる課題があり，検出区間を確保するためにパルスシフト方式が提案されている。一方で，パルスシフト方式は変調率が非常に小さいときなどは常にパルスシフトを行う必要があるため，従来よりも電流脈動が大きくなり，かつその脈動が周期的に発生するため，うなり音が発生する。 そこで，本発表では，うなり音が発生しないようにパルスシフトを行う低変調率用のパルスシフト方式を検討した結果について報告する。

5-098

直接トルク制御を用いたIPMSM駆動システムの高速運転時に適したアンチワインドアップ制御

◎中島祐介・篠原篤志・山本吉朗（鹿児島大学）

埋込磁石同期電動機（IPMSM）の駆動システムの1つである直接トルク制御（DTC）では，鉄損を最小にする最大トルク/磁束（MTPF）制御が安定限界であるため，理想的なMTPF制御を行おうとすると不安定な挙動になるという問題がある。一方で，PI制御を用いる方式のDTCでは，過渡時に積分項が大きく増加し，不安定な挙動となる問題もある。本稿では，MTPF制御に近い高トルクを得られかつ安定したMTPF制御の近似に基づく制御の条件下において，DTCにおける過渡時のためのアンチワインドアップ制御の有効性を検証したので報告する。

5-099

46極51スロット構造を有するブラシレスDC モータの位置センサレス制御の検討

◎小山 輝・橋本直樹・森下明平（工学院大学）

ドローンなどに用いられている多極多スロットモータは，専らV/f一定制御で運用されている。同制御法は消費電力が大きいため，低電力化するためにはベクトル制御の適用が必要である。しかし回転子の位置情報を得るための位置センサが必要となり，モータ外形寸法増加等の問題が生じるため，位置センサレス制御の適用が望まれる。先行研究より，46極51スロットブラシレスDCモータを46：69とみなすことでベクトル制御が適用できる。そこで，本研究では46極51スロットモータの位置センサレス制御を目指す。本稿では46極51スロットモータを2：3構造とみなし，誘起電圧オブザーバを用いた位置センサレス制御を適用した場合の実機試験結果を報告する。

5-100

トルク脈動を利用した最大トルク制御座標系の位相測定系設計

◎山本拓也・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

筆者らはIPMSMに流れる電流をトルクに寄与する成分(t軸)と寄与しない成分(f軸)に分離できる最大トルク制御座標系(f-t軸)を提案している。f-t軸はd-q軸を任意の電流ベクトルによって決まる角度φによって回転変換した座標系であり，先行研究においてトルク脈動を利用したφの測定系を提案している。 本発表では，φを調整する制御ゲインを考慮した測定系を提案し，シミュレーションによってφが設計通りに応答することを確認したので，その結果を報告する。

5-101

周期的速度変動抑制制御への最大トルク制御座標系の適用

◎塚本 笙・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

エアコンなどの家電には小型で高出力な埋込磁石同期モータが良く用いられ，筆者らはこのモータのトルク制御に適した最大トルク制御座標系を提案している。また，埋込磁石同期モータなどで圧縮機を駆動する際に問題となるのが負荷トルク変動であり，これによる周期的な速度変動を抑制するために様々な制御法が検討されている。これらの手法に最大トルク制御座標を適用することで，速度変動を抑制するための電流，電圧を小さくする効果が見込まれる。この効果について検討し，シミュレーションで評価した。

5-102

最大トルク制御座標上におけるカスケード型ベクトル制御系の設計

◎鈴木昭義・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）・道木慎二（名古屋大学）

近年，モータの高効率・高出力化への要求からIPMSMが普及している。筆者らは，このIPMSMの制御手法の一つとして，最大トルク制御座標系(f-t軸)を用いた電流制御を提案している。f-t軸を用いることにより，トルクと電流に関して非線形性を持つIPMSMにも，電流ベクトルをトルク成分と磁束成分に分離する，誘導機等における従来の電流ベクトル制御の考え方を適用することができる。さらに，f-t軸上で電流制御を行えば，磁束とトルクの応答性を独立に設計することが可能となる。本稿ではカスケードベクトル制御の考え方に基づき，モデルに内在していた微分項の直接演算を回避し，従来の電流制御系よりも電流制御性能が改善できることを実機実験により示す。

5-103

直接トルク制御を用いたIPMSM駆動システムにおけるトルク推定法の比較検討

◎新内 魁・井上征則・森本茂雄・真田雅之（大阪府立大学）・十時詠吾（三菱電機）

埋込磁石同期モータ(IPMSM)は自動車等に幅広く用いられている。IPMSMには磁石磁束やインダクタンス分布に高調波が含まれており，トルクリプルや振動の原因となることからトルクリプルの低減が求められている。トルクリプルを低減するためにトルクを正確に推定することでトルクリプルを低減する手法がある。しかし，トルクリプル推定はモータによって有効性に差が生じやすい。本研究ではIPMSMのトルクリプル低減の制御法を構築するために，磁界解析結果を用いて各種トルク式の比較検討を行った。本報告では直接トルク制御を用いたIPMSM駆動システムにおいてシミュレーションによりトルクリプル推定特性を比較検討する。

5-104

軌跡指向形ベクトル制御法による永久磁石同期モータによる最小銅損駆動

◎杉山文哉・新中新二（神奈川大学）・細岡 竜（サージュ）

近年，高効率なモータとして永久磁石同期モータに注目が集まっている。しかし，永久磁石同期モータの使用だけで高効率が達成されるわけではない。高効率達成のためには，相応の駆動制御技術が不可欠である。実際の駆動装置においては，効率駆動に加えて，電流制限等を同時に求められることがある。これらの機能は，条件に応じ独立なアルゴリズムを切り替えることで実現可能である。著者らは，電流ノルム指令値とこの位相の生成をすることで，所望のトルクを発生しながら，最小銅損駆動を達成する軌跡指向形ベクトル制御法を提案し，数値検証を通じその理論的妥当性を確認している。本論文では，実機検証を通じて，有用性を新たに確認した。

5-105

非正弦誘起電圧を持つ永久磁石同期モータの高品質トルク制御

◎半田秀斗・新中新二（神奈川大学）

非正弦誘起電圧を持つ永久磁石同期モータは誘起電圧に起因したトルクリプルが発生する。トルクリプルは振動や騒音の原因となるため製造段階で抑えるのが理想的だが，製造コストや小型化などの問題で限界がある。よって制御によりトルクリプルを抑える手法が求められている。トルクリプル低減法は電流指令値，またはトルク指令値に補償信号を重畳する手法が一般的であり，その補償信号への追従可能な制御系が必要である。今回は，トルクリプルの正相・逆相に着目した補償信号生成法とPI制御器と高調波制御用の制御器を並列した制御系を組み合わせたトルクリプル低減法を新規提案する。

5-106

IPMSMの仮想磁束による最大トルク制御座標の推定

◎鈴木皓仁・大沼 巧（沼津工業高等専門学校）

突極型同期モータの制御に適した座標系として，著者らは最大トルク制御座標系(f-t軸)を提案している。f-t軸では電流ベクトルを磁束に寄与する成分とトルクに寄与する成分とに直交分解することができ，f-t軸の利用によってモータの制御性が向上することが期待される。f-t軸の特徴を積極的に活かすためには制御系をf-t軸で構成する必要があり，特にセンサレス制御を行う場合にはモータモデルから直接f-t軸位相を推定できれば都合が良い。本発表ではf-t軸を推定するための状態量として仮想磁束を定義し，その状態量からの位相推定精度を簡易的に評価した。

5-107

二種類のEEMFモデルを併用したPMSMの全速度域位置センサレス制御の一構成

◎二村拓未・道木慎二（名古屋大学）

近年，拡張誘起電圧(EEMF)は2つの電圧ベクトル，速度に起因するEEMF_ωと，高周波信号重畳に起因するEEMF _hの加算と再定義されている。つまり，再定義されたEEMF_ω+hの大きさは速度のみならず重畳信号にも比例し，全速度域での位置センサレス制御が可能である。 EEMF_ω+hの推定器に使用するモデルとして，一つのモデルのみを使用する手法は存在する。一方で計算機に余裕があれば，EEMF_ω，EEMF _h各々の推定に異なるモデルを使用して組み合わせることも可能であり，推定器の複雑さと性能のバランスの選択肢を多様化させることができる。しかし，加減速時に支配的となるモデルが遷移することによる速度・トルクの不安定化が懸念される。 本稿では一例としてある二つのEEMFモデルを組み合わせ，モデル遷移時の制御性能と，組み合わせによる信号重畳時のトルクリプルの低減を実機検証する。

5-108

PMSM駆動システム用電機子鎖交磁束オブザーバへの逐次最小二乗法の適用

◎篠原篤志・山本吉朗（鹿児島大学）

永久磁石同期モータの駆動法の1つである直接トルク制御では，制御性能が磁束の推定精度に依存する。磁束を推定する際に用いる磁束オブザーバでは，誘起電圧または電流とインダクタンスから推定した磁束を速度に応じて使い分ける。特に低速時は電流とインダクタンスから推定した磁束の比重が大きくなるため，磁束の正確な推定のためにはインダクタンスの正確な値が必要となる。ここで，逐次最小二乗法を用いてインダクタンスを推定することで，直接トルク制御におけるインダクタンスへの依存性を削減する方法を提案し，シミュレーションにより提案法の妥当性を確認したため，本発表にて報告する。

5-109

拡張誘起電圧モデルに基づく位置センサレス制御のためのL_d設定

◎太田和希・二村拓未・道木慎二（名古屋大学）

拡張誘起電圧モデルに基づく位置センサレス制御はモータパラメータを用いる．そのため，パラメータ設定誤差による位置センサレス制御性能への影響は盛んに研究されており，特にq軸インダクタンスの設定が重要であることがわかっている．本稿ではあまり注目されることのないd軸インダクタンスの設定誤差による位置センサレス制御性能への影響を数式，実機実験によって考察した．

5-110

フィードバック型弱め磁束制御法を利用したPMSMのインダクタンス同定

◎松本 純（中部大学）

小形，高効率，高出力といった特徴を有する永久磁石同期モータは様々な分野で幅広く利用されている。高効率や高出力といった特徴を活かすためには，モータの電気的なパラメータが必要不可欠であるが，磁気飽和現象に起因するインダクタンス変動が生じると，効率の低下や駆動可能領域が縮小するといった課題がある。このため，実際にはパラメータのファインチューニングが必須となるが，これは煩雑であることから望ましくない。 そこで，本稿では操作量飽和情報を利用したフィードバック型の弱め磁束制御法を利用した新たなインダクタンス同定法を提案し，シミュレーションにより検証したので報告する。

5-111

SynRMの高周波電圧印加法によるセンサレス駆動の実機検証

◎近藤輝朋・新中新二（神奈川大学）

近年,同期リラクタンスモータ(SynRM)の研究開発が，材質，構造の両面から盛んに行われている。本モータは回転子が電磁鋼板の軸方向積層により構成されている。本構造は低コスト，頑健で耐故障に優れる，高速回転への適正という特徴をもたらす。上述の特徴を有し，IE4相当の高効率モータが市場に出回り始めているSynRMは，永久磁石同期モータ(PMSM)や誘導モータ(IM)に代わりうる第3のモータとして，注目されている。 SynRMの特徴を活かした所期の性能を得るには，センサレスベクトル制御により駆動することが望ましい。本論文ではセンサレスベクトル制御手法の1つである，高周波電圧印加法を用いて，SynRMのセンサレスベクトル制御を行い，有用性を確認した。

5-112

DyCE原理に基づく誘導電動機の低速・回生領域における速度センサレス制御の安定化

◎岩堀巧夢（中部大学）・河村尚輝・劉 康志・残間忠直（千葉大学）・長谷川 勝（中部大学）

誘導電動機(IM)は堅牢かつ安価であり，多くの分野で採用されている。このIMのベクトル制御の速度センサレス化の要求も既に実用化しているが，従来法であるCE原理では低速・回生領域において速度同定，一次抵抗同定が不安定化する問題がある。 本稿では速度および一次抵抗の同時同定を行うが，零周波数を除く低速・回生領域における安定な速度センサレス制御の実現を目的とする。パラメータ同定法として適応磁束オブザーバを用いるが，ポポフの超安定論により制約される条件を十分な余裕をもって満たすため，DyCE原理を適用して問題解決を図る。特に，本稿では本手法の有効性を実機実験にて検証する。

5-113

産業用インバータによる高速PMSM制御

◎市川聡一朗・中村雅史・岡 利明（東芝三菱電機産業システム）

近年，鉄鋼業，製紙業などの分野に適用されている産業用インバータが，電気自動車の普及により，自動車分野の試験機器向けに広がりつつある。このような試験機器では，モータを10,000min-1以上で回転させることが求められる。本稿では，産業用インバータの従来のPRM(Permanent magnet Reluctance Motor)制御機能をベースに，弱め界磁制御を追加することにより，発生する誘起電圧の増加を抑えモータの高速回転を可能にした。試験ではPMSM2機をカップリングし，負荷側のPMSMを定格負荷トルクで動作させた状態で加減速運転を行った。試験結果から開発したインバータでPMSMを高速運転可能であることを示した。

5-114

SRモータの動作領域を拡大可能な駆動回路

◎石川竜之進・後藤博樹・船渡寛人・春名順之介（宇都宮大学）

スイッチトリラクタンスモータは，永久磁石が不要で，堅牢かつ低コストな電気自動車用モータとして期待されている。スイッチトリラクタンスモータの高速域の駆動では，高い電圧を印加する必要があるが，従来の駆動回路では電気自動車のように電源電圧に制約がある場合は，動作領域が制限させるため電源電圧の昇圧が必要である。しかし，昇圧回路は車内スペースを圧迫するため，望ましくない。本稿では外部インダクタを使用せずに電源電圧を昇圧可能な駆動回路を提案し，シミュレーションにより従来回路との比較検討を行った。その結果，中・高速回転領域において従来回路のおよそ2倍のトルクが得られ，動作範囲が拡大していることが確認できた。

5-115

磁化特性の数式モデルに基づくゼロトルクリプル下におけるSRMの電流実効値，DC電流リプル，ラジアル力リプルの低減手法

◎熊谷崇宏・伊東淳一・日下佳祐（長岡技術科学大学）

SRモータのトルクリプル低減法として，瞬時トルクを一定にする一定トルク電流波形を用いて部分的に二相通電を行う手法(1)がある。しかし，二相通電でトルク/電流比が小さい区間でトルクを補うため，電流実効値が増加する。また，トルクリプルをゼロにし，出力を一定にしたとしても，磁気エネルギーは負荷と電源を往復するため，入力電力が脈動し，DC電流にリプルが発生する。また，対向状態での電流立下りに伴うラジアル力の急峻な変化によってステータ振動が生じ，騒音，振動が発生する。本論文では，FEM解析を用いることなく，モータ電流実効値，DC電流リプル実効値，ラジアル力リプルに関する評価関数を導出し，新たな重み関数を導出することで，所望の重みに対してそれぞれを低減する手法を提案する。

5-116

ステッピングモータのハーフステップ駆動を用いた振動抑制法における慣性負荷に応じたパルスタイミング推定

○松尾健史・三浦 武・田島克文（秋田大学）

ステッピングモータは，停止時に大きく振動する問題がある。その振動抑制法の1つに，ハーフステップ駆動を用いたパルスタイミングの調整による振動抑制法がある。しかし，装着される慣性負荷の大きさが変化すると再調整が必要となる。そこで本研究では，いくつかの慣性負荷に対する最適なパルスタイミングを基に，慣性負荷の慣性モーメントの大きさに応じて適切なパルスタイミングを推定する方法を提案する。この有効性を示すため，本推定法により未知の負荷に対するパルスタイミングを推定させ，そのタイミングを用いてハーフステップ駆動を行う。結果として振動が抑制された応答が得られ，本推定法の有効性が示された。

5-117

デュアルインバータを用いた負荷電圧補償による電解コンデンサレスインバータのトルク脈動抑制法

◎西尾元紀・芳賀 仁（長岡技術科学大学）

近年，家電機器を対象に，単相PFCと電解コンデンサを用いないモータドライブシステムが研究されている。このシステムは，電源の単相交流電力を電力変換器で平滑しないで，負荷のIPMSMへ供給するもので，トルク脈動を大きく発生させる必要があり，アプリケーションが限定される。著者らはこれまでに，電解コンデンサレスインバータのトルク脈動抑制を目的に，デュアルインバータに着目した電解コンデンサレスインバータの回路構成を検討している。本稿では制御法の検討として，負荷電圧の補償によるトルク脈動抑制法を提案し，シミュレーションによってモータトルク脈動の発生源となるd軸電流脈動は97.8%，q軸電流脈動は98.2%抑制できることを確認した。

5-118

バッテリーとキャパシタを直流バスにもつデュアルインバータモータドライブのMTPA制御

◎大音慶明・野口季彦（静岡大学）・笹谷卓也・山田隆弘・風岡諒哉（デンソー）

近年，ハイブリッド車の燃費向上や自動運転技術に注目が集まる中，オープン巻線をもつPMモータを2台のインバータで駆動するデュアルインバータ方式の研究が進められている。これまで，筆者らは一方のインバータ直流バスバッテリーをキャパシタに置き換えたデュアルインバータ方式に注目し，その空間ベクトル変調法（SVM）を検討してきた。本論文では，検討回路においてPMモータのMTPA制御時にもキャパシタ電圧を一定に制御しつつモータ巻線にマルチレベル電圧波形を形成できることを実機検証により確認したので報告する。

5-119

マルチインバータ駆動モータの極数変換時の過度速度特性

◎矢野秀征・堺 和人（東洋大学）

近年，電気自動車などに使われているモータは高効率や省エネなどの高性能化が求められている。 マルチインバータモータシステムは3相インバータ回路と3相巻線を1組として，複数組で構成するモータであり，複数の3相巻線の電流を独立して制御することができる。各インバータの相順と位相を切り替えることでモータの極数を変更して高効率の可変速運転が可能になる。 本稿では，2インバータ駆動と3インバータ駆動におけるマルチインバータモータシステムの極数変換時の速度特性を制御シミュレーションにより明らかにした。また，極数変換時の極数が混在している状態のトルク低下を確認し，多相で低下量を低減できることを明らかにした。

5-120

3巻線PMSMを用いた電解コンデンサ・リアクトルレスドライブシステムの提案

○前川佐理・杉本麻梨子・横山光之（東芝 生産技術センター）・安井和也（東芝インフラシステムズ インフラシステム技術開発センター）

3組の巻線を持つ3巻線モータと，3並列化した電解コンデンサレスインバータシステムを組み合わせることで，大容量平滑コンデンサとリアクトルを削減可能な3巻線モータドライブシステムを提案し，主にモータの制御方法について検討した内容について報告する。

5-121

センサレス誘導電動機のための直接周波数形ベクトル制御法のロバスト性検証

◎中村直人・新中新二（神奈川大学）

誘導電動機のベクトル制御には，電動機の電気的パラメータが必要とされる。その中でも固定子抵抗および回転子抵抗の値は，駆動中に大きく変動することがあるため，これらの抵抗変動に対しロバストなベクトル制御法が望まれている。速度センサを利用する場合には，速度情報を用い，回転子抵抗を推定することは比較的容易であるが，センサレス誘導電動機においては，回転子抵抗の推定は容易ではない。 センサレス誘導電動機のロバストベクトル制御法として，久保田らによる適応オブザーバがある。本方法は回転子速度と回転子抵抗を同時推定し，これをオブザーバに用いるものであるが，回転子抵抗推定のためには励磁電流に交流電流を重畳する必要がある。 筆者らは先に，センサレス誘導電動機のための直接周波数形ベクトル制御法を提案した。提案法は回転子抵抗変動に対するロバスト性を備えており，交流電流等の特別な信号を用いることなく，ロバストベクトル制御が可能である。本論文は，先に提案したセンサレス誘導電動機のための直接周波数形ベクトル制御法のロバスト性を，実機試験を通じ検証する。

5-122

3レベルAT-NPCインバータの出力電圧誤差補償の検討―誘導機速度センサレスベクトル制御への適用―

◎大道哲二・須藤皓司・松本亜矢・浜崎真一・辻 峰男（長崎大学）

著者らは3レベルインバータの特徴を利用した誘導電動機エンコーダレス制御の実現に取り組んでいる。エンコーダレス制御では電圧指令値を実際の出力電圧と見なして回転子速度推定則で用いる。しかしながら，実際の出力電圧は指令値に対して誤差を有し，特に電流が0 A 近傍ではその誤差が非線形に急変する。本稿ではパルス幅変調周期あたりの出力電圧誤差の測定方法を提案し，その測定結果を報告する。さらに測定した電圧誤差をフィードフォーワード補償し，速度推定精度が改善したことを報告する。

5-123

誘導モータの状態オブザーバ形ベクトル制御

◎森田隼英・新中新二（神奈川大学）

誘導モータのベクトル制御は，回転子磁束の推定が必要である。回転子磁束の推定法としては，主に状態オブザーバ形とすべり周波数形の2種類がある。センサレス誘導モータのための状態オブザーバとしては，新中による瞬時速度推定同伴の最小次元オブザーバがある。本オブザーバは，中高速域においては良好な推定性能を発揮するが，ゼロ速度を含む低速域での応答性に問題点がある。低速域での問題点は，状態オブザーバ形ベクトル制御のオブザーバゲインに改良シグナム関数を用いることで，緩和されると期待されている。本論文では，オブザーバゲインに改良シグナム関数を用いた状態オブザーバ形ベクトル制御のシミュレーションを行い，主に低速域での応答性改善を検証する。実機実験の結果は，会場で報告する予定である。

5-124

スロット高調波を用いた誘導電動機速度センサレスベクトル制御の負荷時の速度推定

◎平山敬之・山本吉朗・篠原篤志・新地 翼（鹿児島大学）

本研究室では，誘導電動機の固定子電圧に高周波信号電圧を重畳することで固定子相電流中に強く現れるスロット高調波を用いて速度推定を行ってきた。また，固定子相電流包絡線に含まれているスロット高調波を用いた速度推定についても調べてきた。しかし，低速時には，不要な飽和高調波成分の周波数とスロット高調波の周波数が接近し，さらに，重負荷時には飽和高調波成分が増大して，スロット高調波のみの抽出が難しくなり，速度推定が困難になっていた。そこで，本稿では，これまで用いてきた固定子相電流中のスロット高調波および固定子相電流包絡線中のスロット高調波を組み合わせて利用することで，低速重負荷時における速度推定精度が向上したので報告する。

5-125

Comparison between V/f Control and Vector Control Methods of Two-phase Inverter-fed Three-phase Induction Motor Drive

◎Methsamphop Mam・白石拓也・中出智之・Ekong UfotUfot・稲森真美子（東海大学）

Over the years, much research has been conducted on a two-phase inverter as a low-cost inverter and as an emergency strategy for the conventional three-phase inverter-fed AC motor drive. In the conventional three-phase inverter-fed induction motor drive, the vector control method is known to attain better motor performance compared to the volts per hertz (V/f) control method. In this paper, a comparison between V/f control and vector control methods of two-phase inverter-fed three-phase induction motor drive is investigated using the same experimental apparatus. The experimental results show that in the two-phase inverter-fed three-phase induction motor drive, the vector control method can attain higher maximum output torque and better motor efficiency than the V/f control method drive in a similar tendency to the three-phase inverter drives.

5-126

誘導機の等価回路拡張に着目した空間高調波自励式巻線界磁形同期モータの等価回路検討

◎丸山大輔・青山真大・野口季彦（静岡大学）

本論文は空間高調波を利用した自励式巻線界磁形同期モータのロータ電流推定を目的に，誘導電動機の等価回路を拡張して当該モータに適した等価回路モデルの提案をする。特長として第2次空間高調波に同期する回転座標系に着目した等価回路モデルの導出の説明を行い，回路シミュレーションにより妥当性を検討した結果を報告する。

5-127

2相インバータの弱め界磁制御時のモータ効率改善

◎中出智之・白石拓也・エコングウフォートウフォート・稲森真美子・森本雅之（東海大学）

2相インバータは，低コスト化を目的とする以外に，電気自動車（EV）や電動パワーステアリングに搭載される3相インバータ故障時の応急運転としても考えられている。電動機を高速回転させるためには，弱め界磁制御を適用する必要がある。一般的な3相インバータの弱め界磁制御には性能向上のため多くの種類が存在するが，筆者らはそのうち一つの方法を2相インバータに適用した結果について報告した。この方法では，高速領域においてある程度の各種特性を改善することができる。さらにモータ効率の改善を行うため，今回は別の弱め界磁制御法を適用した。この方法を用いた実験結果より，出力トルクは小さいが，モータ効率の高効率領域は拡大することが明らかとなった。

5-128

ステップラップ接合された大形三相変圧器における領域分割による三次元電磁界解析の高速化

山崎克巳・◎吉岡駿平・宇都宮竜馬（千葉工業大学）

本稿では，変圧器の三次元有限要素法解析において，解析領域を分割することによって，電磁界解析の高速化を行う手法について検討する。また，提案手法を用いて，変圧器の特性改善に関する検討を試みる。

5-129

圧粉磁芯の磁気特性モデリングにおけるCauer回路とFoster回路の比較

◎渡邉直也・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

圧粉磁芯の磁気特性の周波数依存性を考慮するために， Standard Cauer回路を用いた磁気特性モデル化法が提案されている．圧粉磁芯の磁気特性は，その非線形性がそれほど強くないため，Cauer回路における初段のインダクタにのみ非線形性を持たせることにより十分な精度が得られることが知られており，後段は線形なCauer回路と見なすことができる．一方，線形なCauer回路は，等価なインピーダンスを有するFoster回路に一般的に変換できる．したがって，Cauer回路後段をFoster回路に変換し，圧粉磁芯の磁気特性モデル化法のための等価回路として使用することも可能である．そこで本稿では，Foster回路を用いた圧粉磁芯の磁気特性モデル化法について検討を行った．

5-130

異方性と渦電流を考慮した圧粉磁芯の均質化モデル

◎藤田祥伍・五十嵐 一（北海道大学）

SMCコアを用いた電磁機器の設計のためには，SMC中の渦電流を考慮した有限要素解析を行う必要があるが，表皮厚や絶縁皮膜のスケールに合わせて個々の粒子を有限要素に分割すると，未知数が極めて大きくなる．この問題を解決するために均質化有限要素法が有効である．本発表では，SMCコア中の磁性粒子中の渦電流，及び絶縁皮膜や空隙を考慮したマクロ透磁率を用いた均質化有限要素法を提案する．

5-131

応答曲面とニューラルネットワークを用いた誘導加熱装置の3次元構造最適化

◎石田智和・五十嵐 一（北海道大学）・下谷俊人・橋本英二・今成宏幸（東芝三菱電機産業システム）

現在，鉄鋼熱間圧延プラントの制御において，製品の高品質を維持するため，高精度な温度制御が必要である．この温度制御の一環として，非接触で被加熱材の局部を急速に加熱できる誘導加熱装置が用いられることがある．誘導加熱装置の加熱効率を改善するためには，渦電流解析に基づく最適設計が必要となる．しかし，誘導加熱装置は3次元的な構造を持つため，有限要素法（FEM）による渦電流解析を用いた最適設計の計算コストは非常に大きい．そこで本研究では，最適化における渦電流解析に要するコストを低減するために，FEMの代理モデルを用いる．また，加熱効率の最適化には，遺伝的アルゴリズムを用いた．代理モデルに文献[1] [2]に規定される応答曲面とニューラルネットワーク(NN)を選び，性能を比較する．

5-132

異方性鉄芯を用いたリアクトルの接合部の鉄芯構造が変位分布に及す影響

◎宮部稔久・高 炎輝・堂薗 浩・村松和弘（佐賀大学）

異方性鉄芯を用いるリアクトルでは，接合部の鉄芯構造により，鉄芯中の磁束分布が変化し，騒音の原因となる変位分布に影響を及ぼす．そこで今回，製作が容易な直方体の鉄芯のみを用いた単相リアクトルについて，異方性鉄芯のみを用いる場合と角接合部を等方性鉄芯で置き換えた場合の鉄芯の変位分布を磁界・構造併用解析法を用いて検討した．解析方法は，まず，非線形静磁界解析を行い，得られた磁束分布より電磁応力と磁歪応力による節点力を求め，構造解析を用いて変位分布を算出した．磁歪応力による変位分布から，改良モデルにすれば磁束の偏りが緩和されるため，変位を小さくできることがわかった．

5-133

異方性鉄芯を用いた三相リアクトルの鉄芯構造が鉄損に及ぼす影響

◎市丸修平・高 炎輝・堂薗 浩・村松和弘（佐賀大学）

異方性鉄芯を用いた三相リアクトルでは，その接合部の鉄芯構造により，鉄芯中の磁束分布が変化し，鉄損に影響を及ぼす．また，鉄芯中で磁束が集中すると鉄損が増加することがわかっている．そこで今回，直方体の異方性鉄芯のみを用いる構造，接合部を斜めに接続する構造，接合部に等方性鉄芯を用いる構造について，磁界解析により磁束分布と鉄損分布を算出し，その優劣を比較した．その結果,接合部を斜めに接合する構造が最も良かった．

5-134

FEM解析に基づく電力制御用可変インダクタの鉄損評価

◎関場陽一（電力計算センター）・有松健司・大日向 敬（東北電力）

配電系統の電圧変動対策として，磁束制御による可変インダクタを適用した電圧調整装置の開発が進められている。可変インダクタの磁心を積層鋼板により構成する場合，設計最適化の検討にあたっては積層方法による損失の変化等をシミュレーションにより評価できることが望ましい。そこで本研究では，FEM磁界解析に基づき鉄損を評価する手法について，実用実績と先行研究のある田形磁心による可変インダクタを対象とし基礎的検討を行った。提案手法では，磁心の飽和に伴う漏れ磁束の影響を勘案するため，磁心の積層方向磁界と面内磁界による寄与を分離して鉄損の計算を行った。計算結果は先行研究で報告された実測結果と定性的傾向が一致した。

5-135

扁平磁性粉入りソレノイドコイルの三次元非線形有限要素解析

河瀬順洋・山口 忠（岐阜大学）・○伊藤一洋・高橋政幸・池 寛子（東光）・三舩洋嗣（村田製作所）

高周波で発生する鉄心の渦電流損を低減する方法のひとつとして，磁性粉を材料とした鉄心を用いる方法がある。我々は磁性粉を規則的またはランダムに充填したソレノイドコイルの解析を行い，磁気飽和や構造不規則性などが特性に及ぼす影響を明らかにしたが，それらの解析では粒子の形状異方性の影響を考慮できていなかった。本研究では，扁平磁性粉をランダムに充填したソレノイドコイルに対してスーパーコンピュータ「京」による三次元非線形有限要素解析を行い，球体磁性粉との比較によって，粒子の形状異方性が特性に及ぼす影響を明らかにする。

5-136

積み上げ法とデローニー法を併用した三次元有限要素メッシュ生成法

山口 忠・河瀬順洋・◎石村祥太（岐阜大学）

三次元有限要素法のためのメッシュ生成法として，積み上げ法やデローニー法などの手法がある。積み上げ法は，簡単にメッシュを生成できるが，空気領域に偏平な要素を生成してしまう。デローニー法は，偏平な要素が生成されにくく，現在，メッシュ生成法として広く用いられている。 本稿では，メッシュ生成法として，積み上げ法とデローニー法の併用法を提案する。要素数，収束特性，計算時間および解析精度について検討を行い，本手法の有用性を明らかにする。

5-137

簡易永久磁石モータモデルにおけるレベルセット法と数理計画法に基づくトポロジー最適化の性能評価

○荒瀬浩平・増田 弘・早津政人・岡本吉史（法政大学）・若尾真治（早稲田大学）

様々な最適化手法のうち，設計感度を用いる数理計画法に基づいたトポロジー最適化（MP-TO）は，既成概念に捕らわれない解を導出できる．しかし，製造困難な解が得られる場合もある．一方，材料分布をレベルセット（LS）関数で模擬し，LS関数の移流に基づいて構造を更新するレベルセット法（LS-TO）は，グレイスケールの発生を境界近傍のみに制限できるため，MP-TO法から得られる構造よりも製造の容易な構造が得られる可能性が高い．本論文では，永久磁石モータモデルにおいて，MP-TO法，LS-TO法の性能比較を行ったので，その子細を報告する．

5-138

磁気回路設計におけるレベルセット法の解探索プロセスに対するEncoder-Decoderの構築

◎川俣良太・若尾真治・村田 昇（早稲田大学）・岡本吉史（法政大学）

有限要素法やそれを用いた最適化手法は非常に多くの計算時間を必要とする。また，レベルセット法等の最急勾配法を用いた最適化手法は初期値依存性があり，大域解を得るためには繰り返し最適化計算を行わなければならない。 一方，機械学習技術は近年急速に性能を伸ばし，注目を集めている。その中で畳み込みニューラルネットワークを用いた手法は画像処理分野で優秀な結果を残し，LSTM（Long Short-Term Memory）は従来法に比べ長期間の時系列データを扱えることで，様々な分野で応用されている。本研究では，CNNおよびLSTMを用いたEncoder-Decoderによって，レベルセット法による磁性体の形状最適化問題の解探索プロセスの学習とその再現を試みた。また，その再現精度と計算時間を評価した。

5-139

磁界解析に基づく磁気回路設計へのConditional Variational Auto-Encoderの活用に関する検討

○川俣良太・若尾真治・村田 昇（早稲田大学）

本稿では，磁気回路設計へのConditional Variational Auto-Encoder(CVAE)の効果的な適用法について検討する。Variational Auto-Encoder(VAE)は，データセットの特徴を効果的に獲得することができる特性と，学習の安定性から注目を集めている。VAEは適切な学習を経て潜在表現を一旦獲得してしまえば，未知の出力データを高速に推定することができる。VAEの拡張であり，条件付分布を学習できるCVAEを用いて磁気回路の形状（画像）としての特徴と目的関数である磁気エネルギー値の二つの情報を学習させ，獲得する潜在表現を用いた磁気回路の新たな最適化設計手法を提案する。提案手法により，煩雑な制約条件を課すことなく，最適化形状に対して設計者の意図を効果的に反映できる可能性がある。

5-140

非適合接続を適用した無限辺要素法による磁界解析の高速化

◎横山拓哉・若尾真治（早稲田大学）

電磁現象は無限遠方までその影響が及ぶため，電磁界解析において開領域問題の取り扱いは重要課題の1つである。開領域問題を効率的に取り扱うことができる手法として，無限辺要素法がある。無限辺要素法は多重極展開の理論に基づいた手法で，広範な空気領域の要素分割の労力を軽減し，計算負荷の削減が可能である。しかし，解析対象が複雑形状かつ大規模化した場合，有限要素領域の要素数が増加し，それに伴い無限要素の数も急増し，計算負荷は相対的に増加していく。そこで本論文では，接合境界面に非適合接続を適用した無限辺要素法を提案し，微細な要素を有する有限要素領域と接合を行うことで，解析精度を維持したまま，計算負荷の大幅な削減を実現する。

5-141

HSMAC法に基づく熱流体解析による誘導加熱機器における局所的な熱伝達率の算定

◎並木聡史・飯野智也・岡本吉史（法政大学）

電気機器駆動時の温度上昇特性を評価するため，被加熱体の表面に熱伝達境界を適用した電磁界・熱伝導連成解析が多く用いられている．しかし，熱伝達率は物質に対して，固有の値を有しておらず，様々なパラメータの影響を受ける．そのため，一定の熱伝達率を被加熱体の表面に与えると，解析精度が著しく劣化する可能性がある．局所的な熱伝達率の変化は，高精度な熱伝導解析にとって重要である．本論文では，Highly Simplified Marker and Cell（HSMAC）法を適用した熱流体解析を用いて，誘導加熱現象から生じる自然対流の挙動をシミュレートし，局所熱伝達率を算出したので，その子細を報告する．

5-142

絶縁油－PB界面におけるDC沿面放電特性

◎宮路仁崇・海永壮一朗・吉村 学・菅 健一（三菱電機）

再生可能エネルギー普及に伴う直流(DC)送配電の拡大に対し，変圧器をはじめとしたDC電力機器の開発に向けたDC絶縁特性の把握が不可欠である。DC変圧器では，抵抗率の高いプレスボード(PB)に多くの電位が分担され，PB端部での電界集中が懸念される。特に，冷却流路などPB同士が数mm離れて渡り合うPBラップ部では，PB端部の電界集中が大きいと考えられる。そこで本稿では，PBラップ部のDC沿面放電特性について検討した。その結果，PB端部におけるDC絶縁破壊電界のギャップ長依存性の傾きは，AC絶縁破壊電界と同等であることがわかった。以上より，PBラップ部における絶縁油－PB界面のDC電圧印加時の絶縁破壊電圧を概ね推定できると考えられる。

5-143

変圧器巻線の要素モデルにおける絶縁特性

◎酒井崇行・吉村智萌・岩井 良（東光高岳）

近年，変圧器は輸送質量の低減や省スペース化など，コンパクト化の要求がますます高まってきている。これらを解決するため，巻線の絶縁特性を中心に各種試験をこれまで行ってきている。しかし，材料の品質や工場の管理状態の改善により絶縁耐力が上昇していると考えられるため，定期的な基礎試験が必要であると考えている。今回，改めて変圧器巻線の要素モデル試験を実施し，試験結果と解析および理論式から絶縁特性の考察をしたので報告する。

5-144

絶縁油中のPVF線ツイストペアにおける絶縁破壊までの部分放電測定

◎松添宇一・小迫雅裕・匹田政幸・久保智洋（九州工業大学）・下村好亮・川上正剛・田中 剛（ダイヘン）

柱上変圧器に用いられているコイル巻線は，ポリビニルホルマールを絶縁被膜とした電線が用いられている。また，長期絶縁性能強化のため層間に絶縁紙が挿入されている。著者らは，製造工程の効率化のため絶縁紙を除いた絶縁構成を提案しており，今回，運転時における熱ストレスを模擬して熱劣化処理を施したポリビニルホルマール線ツイストペア試料に対して絶縁油中で絶縁寿命試験を行った。また，部分放電開始電圧以下の課電において絶縁破壊までの部分放電を取得した結果を検討した。

5-145

油入変圧器シール材の経年劣化調査（その3）

○富永英明・柳 拓也（東北電力）・佐藤 学・小西義則・長谷川真之（ユカインダストリーズ）

油入変圧器のシール材は長期間の使用により劣化が進行し，密閉性が低下すると漏油発生の可能性が高くなることから劣化様相を把握することは重要である。 そこで本研究では撤去変圧器からシール材を採取し，その劣化様相を調査した。 その結果，いずれの試料も寿命点を超過していなかったが，経年によりシール材の劣化が進行し，圧縮永久ひずみ率が増加していることを確認した。また，圧縮永久ひずみ率と引張特性には相関関係が認められ，劣化メカニズム解明の一助となる可能性が示唆された。

5-146

植物油系絶縁油における絶縁破壊時のガス発生挙動について

◎辻 泰弘・岩城 遼・上野倫幸・西川精一・辻 真名美（かんでんエンジニアリング）

変圧器の内部異常診断手法として，油中ガス分析による診断が幅広く適用されており，鉱油入変圧器については電気共同研究などにより，公的な保守管理基準が設けられている。しかし，植物油入変圧器に対する基準は国内において定められていないため，保守管理基準の確立を目的とし実験に取り組んできた。本稿では，鉱油系絶縁油及び鉱物油系絶縁油を絶縁破壊させ，油中ガス分析により分解生成生成ガスの発生挙動を比較検証した結果を報告する。

5-147

植物油系絶縁油の加熱劣化による分解生成ガス挙動

◎岩城 遼・辻 泰弘・上野倫幸・西川精一・辻 真名美（かんでんエンジニアリング）

変圧器の内部異常診断手法として，油中ガス分析による診断が幅広く適用されており，鉱油入変圧器については電気共同研究などにより，公的な保守管理基準が設けられている。しかし，植物油入変圧器に対する基準は国内において定められていないため，保守管理基準の確立を目的とし実験に取り組んできた。 本稿では，鉱油系絶縁油および植物油系絶縁油を加熱劣化させ，油中ガス分析により分解生成ガスの発生挙動を比較検証した結果を報告する。

5-148

耐熱絶縁紙の劣化特性について（その1）―絶縁油種による影響の検討―

◎久住政喜・山中 功・上野倫幸・辻 真名美・西川精一（かんでんエンジニアリング）

従来，変圧器には鉱油系絶縁油が用いられてきたが，環境への意識の高まりから，エステル系絶縁油の使用が盛んになっている。また，変圧器規格の改正以降，耐熱絶縁紙を使用した変圧器が普及し始めた。しかし，エステル系絶縁油と耐熱絶縁紙の関係に関する知見はまだ少ない。そこで本稿では，エステル系絶縁油中での耐熱絶縁紙の劣化特性とその生成物との関係を実験的に求め，これまでの変圧器診断手法の適用性も含めた検証結果を報告する。

5-149

耐熱絶縁紙の劣化特性について（その2）―劣化度推定方法の検討－

◎山中 功・久住政喜・上野倫幸・辻 真名美・西川精一（かんでんエンジニアリング）

変圧器の温度上昇限度の格上げが可能になることから，絶縁材料に耐熱絶縁紙（以下，耐熱紙）を使用する機器が増加してきた。しかし，耐熱紙は，著しく劣化しないと従来の絶縁紙の劣化指標成分であるフルフラールが検出されないという特徴がこれまでの研究で分かった。そのため，耐熱紙の劣化と関係性のある指標成分が求められている。本稿では，耐熱紙を加速劣化させた試料油を分析し，劣化指標成分を調査した。その結果から，劣化と相関性がある有効な指標成分として窒素化合物を見出した。

5-150

窒素ファインバブル付加による鉱油中のガス濃度への影響

◎荒岡信隆・高村紀充・蒲原聖也・大坪拓矢・堤 友浩・花井正広（福岡大学）

著者らは気泡中のガスを液体へ多量に溶解させる特性を持つファインバブルを絶縁油である鉱油に適用して，絶縁特性の向上や油の劣化防止などの新たな特性を付与させるための研究を進めてきた。これまでに窒素ファインバブル付加鉱油の交流絶縁破壊電圧は付加前の鉱油と同等程度であり，鉱油の絶縁特性を損ねることなく，ファインバブルによる新たな特性を付与できる可能性を明らかにしてきた。本論文ではガスクロマトグラフィーを用いて窒素ファインバブル付加鉱油の油中ガス分析を行った。その結果，窒素ファインバブルの付加により鉱油中の窒素ガス濃度が増加することが分かった。

5-151

アモルファス鉄心とパームヤシ脂肪酸エステル油の適合性評価試験

◎清水 翼・二口 恵・廣澤秀雄・和田元生・長谷川裕章（北陸電機製造）・齋藤文人・彦坂知行（富士電機）

この論文は，アモルファス鉄心とパームヤシ脂肪酸エステル(PFAE)油との適合性を評価した。 評価方法として，ASTM規格に準じ「PFAE油のみ」と「PFAE油中に熱風乾燥処理を実施したアモルファス鉄心」をSUS1.3L容器に入れ密閉し，恒温槽にて100℃で164時間の加熱を実施した。加熱終了後，試料を取り出し室温までクールダウンした後，PFAE油を油中ガス分析，酸価，絶縁破壊電圧および水分量で評価した。 また，アモルファス鉄心を用いてPFAE油を封入した，約5年間稼働中の空気密閉式変圧器から定期的に採油し，油中ガス分析，酸価，絶縁破壊電圧および水分量を測定した。 これらの2つの試験結果とも，良好な結果が得られた。

5-152

循環電流に着目した三相変圧器の故障診断手法の基礎検討

◎日俣幸彦・斎田朋樹・橋本真杜・中嶋 高・腰塚 正（東京電機大学）

系統に接続されている変圧器は，輸送中のダメージ，経年劣化，過電圧によるストレス等で故障する場合がある。変圧器は内部がブラックボックスになっているため，目視や機械的な診断によって故障を発見するのは難しい。そのため，変圧器を電気的に診断する手法として周波数応答解析（Frequency Response Analysis; FRA）が近年注目されている。しかし，FRAは現地に赴いて試験を行わなければならない他，試験を適応するタイミングが定かになっていない。 系統に接続されている電力用変圧器には鉄心の励磁特性に起因する高調波電流を還流させるためにデルタ巻線が含まれることが多い。筆者らは高調波である循環電流に着目した検討を行っている。 本論文では，三相変圧器のデルタ巻線に循環する電流に着目した健全性診断手法の構築について，実測とATP-EMTPを用いた検討を行ったのでその結果を報告する。

5-153

三相三脚鉄心変圧器の消磁についての検討（その2）

○中嶋 高・日俣幸彦・齋田朋樹・腰塚 正（東京電機大学）

従来文献では三相変圧器を消磁するには，三相個別に消磁するのがよいと論じている。しかし筆者らは平成30年電気学会全国大会において「三相三脚変圧器の消磁についての検討：No.5-146」により三相三脚鉄心でY－Δ結線変圧器の場合，一相を消磁することで三相とも消磁できることを報告した。このたびデルタ巻線がないY-Y結線変圧器の場合も，一相を消磁することで三相とも消磁できることを実験的に確認したので報告する。

5-154

変圧器用構造材の渦電流損特性

◎今盛 聡・林田広和・西條 学（富士電機）

大型変圧器では鉄心以外の部分に磁束が漏れ，効率低下や局所過熱の原因の1つとなっている。そこで，低鉄損の電磁鋼板などを用いたシールドを設置して漏れ磁束をシールドへと誘導し，構造材の磁束密度を下げることで漂遊損を低減することがある。こうしたシールドの構造や位置の最適化には磁界解析が有効であるものの，構造材やシールド材で発生する渦電流損の磁界解析による計算精度についてはあまり検証されていない。本研究では，構造材を用いた比較的簡単な形状の磁気回路を作製し，その損失の測定結果を磁界解析によって十分な精度で再現できるか検証する。また，解析精度を向上させる手法も合わせて検討する。

5-155

特高用変圧器加速劣化試験に伴う供試体変圧器の電気試験

○青山 光・小貫素彦・島田喜明（東日本旅客鉄道）

特高用変圧器の計測データから統計分析手法を用いて劣化傾向を推定するが，この手法による劣化傾向の把握の精度を検証するため，変圧器を加速劣化させる試験を実施した。加速劣化後における，統計分析手法の結果と変圧器電気試験結果の相関について報告する。

5-156

柱上変圧器の劣化評価に向けたスマートメータ情報の活用の検討

○堀 康彦・水谷嘉伸・宮嵜 悟・朱牟田善治（電力中央研究所）

現在，電力会社では，各需要家に対してスマートメータの設置が進められている。スマートメータから得られる情報は，デマンドレスポンスなどのエネルギー効率利用の支援や変圧器や低圧線，引込線の設備サイズの適正化などの設備形成支援，見守り，防犯などの新サービスの提供など活用に向けた検討が進められている。本報告では，スマートメータ情報の活用の一環として，柱上変圧器の劣化評価への適用について検討を行った。

5-157

コンデンサ形計器用変圧器の劣化評価研究

◎山本友麻（関西電力）・大谷 彰（日新電機）・妹崎慈典（中国電力）

本研究では部分放電発生の原因となるワックス生成がしやすい南方系油使用のコンデンサ形計器用変圧器を対象に除却機器を用いて劣化調査および加速劣化試験を実施し，寿命評価方法および取替基準を検討した。その結果，ワックスの発生しやすい南方系油使用のコンデンサ素子であっても100年以上の寿命を有することが分かった。また，平ガスケットの劣化については50年程度の経年で漏油の可能性があることが分かった。今回得られたデータを基にコンデンサ形計器用変圧器の適切な更新時期，保全施策の検討実施を進める。

5-158

鉱油中絶縁破壊時の発光スペクトルの時間変化特性に関する基礎検討

◎芝田拓樹・山内辰浩・大塚信也（九州工業大学）

著書らはこれまで，鉱油中絶縁破壊(BD)時の発光特性を高感度カメラと分光器を用いて詳細に検討しており，BD時の発光には，水素の輝線や炭素のC₂ラジカルに起因するスペクトルが含まれることを観測している。さらに，BD時の発光特性の時間変化を詳細に検討するために，複数の光電子増倍管および光学フィルタを取り付けた時間分解分光スペクトル装置を構築している。 本研究では，鉱油中BD時に発生する発光スペクトルの時間変化を，放電によって発生する炭化水素系の分解ガスに関係するC₂ラジカルに着目して測定し，BD直後にC₂ラジカルに透過帯域を持つフィルタで発光強度が大きくなる現象を観測した。

5-159

特高用変圧器のタンク振動に及ぼす電源周波数変動の影響

○小西義則・加藤雅道・長谷川真之（ユカインダストリーズ）・青山 光・小貫素彦（東日本旅客鉄道）・松本 聡（芝浦工業大学）

変圧器の異常診断や劣化診断の技術開発を目的に我々は変圧器タンク振動を測定解析している。これまでに我々はタンク振動に及ぼす油温，電流，電圧の影響を述べてきたが，このたび電源周波数変動がタンク振動の大きさに影響することを見出したので報告する。 本変圧器の場合，電源由来の100Hz振動の大きさは電源周波数変動の影響も受けて変化した。電源周波数の変動と100Hz振動大きさとの相関係数が異なる油温において負から正へ変化する分岐点は100Hz振動の大きさが最大になる温度と一致していた。 一方，巻線や鉄心の固有振動数は電源周波数が変動しても影響されないと考えられるので，変圧器の診断指標として適していると考えられる。

5-160

油入変圧器用プレスボードの圧縮強さの圧縮速度特性 -油浸プレスボードを用いた検討-

◎真下貴文・宮嵜 悟・水谷嘉伸（電力中央研究所）

油入変圧器の寿命決定要因の一つとして，短絡電流流入時に発生する電磁機械力で絶縁紙やプレスボード(PB)等の固体絶縁物が機械的に破損することが挙げられている。この電磁機械力は巻き線の半径方向の機械力と軸方向の機械力に大別され，近年ではこの軸方向の機械力によりスペーサーとして用いられているPBが破断した事例が報告されており，当所ではこれまでに気中で熱劣化させたPBの圧縮機械特性の圧縮速度依存性を取得してきた。 本稿では，絶縁油中で熱加速劣化させたPBを用いて，圧縮機械特性の圧縮速度依存性を取得し，評価を行った。その結果，油浸させた試料は圧縮速度が増加するにつれ圧縮強度が減少することが判明した。

5-161

パームヤシ油入負荷時タップ切換変圧器

冨田真代・伊藤 彰・宮島 極・澤田真樹・○高橋 誠（愛知電機）

近年，地球温暖化防止の観点から，環境負荷低減への意識が高まっている。変圧器についても，植物油変圧器が注目されている。当社はすでに，トップランナー変圧器として，パームヤシ脂肪酸エステル（以降，パームヤシ油）を採用したパームヤシ油入変圧器の開発を行い，製品にラインアップしている。 今回，この技術の水平展開を図り，東北電力(株)殿向けに，パームヤシ油入負荷時タップ切換変圧器（以降，パームヤシ油入LRT）を納入した。

5-162

窒素密封式変圧器の窒素ガス圧力変化検証

○大山修司・島田敬夫・五月女正樹（東光高岳）

従来の窒素密封式変圧器に対し，圧力を高くした運用を考えたときの変圧器運転状態での課通電試験を実施，油温や圧力変化による，窒素溶解および圧力安定に要する時間についての検証結果報告。

5-163

絶縁油（鉱油）中におけるDBPCの酸化スラッジ抑制効果について

◎慶野太一・山中淳平・龍岡照久（東京電力ホールディングス）・小田原史隼・大野伊知郎（東京電力パワーグリッド）

開放型機器である負荷時タップ切換装置（以下，LTC）はコンサベータを通じて絶縁油（鉱油）と空気が直接接していることから，酸化スラッジが発生しやすい。経年したLTCの油槽内に酸化スラッジが発生することによって，通電部位に堆積し，不具合をもたらす事象が発生している。 本研究では外部からの酸素遮断および酸化防止剤2,6-di-tert-butyl-p-cresol（DBPC）添加による化学反応の阻害化により鉱油中の酸化スラッジの生成抑制効果について検証を行った。特にLTCは経年機器が多いことから，経年油に対しての抑制効果に着目した。結果，経年油に対しても新油と同様に酸素遮断およびDBPC添加により酸化スラッジの抑制効果を得られた。今後はLTCへの添加方法を検討のうえ，実器への展開をはかっていく。

5-164

密閉容器内の絶縁油中アークによる気泡挙動

◎田所 兼・神足将司・大高聡也・岩田幹正（電力中央研究所）

送配電系統などで使用される電力機器には，変圧器のように内部に絶縁油を含む密閉状態の機器がある。このような機器の絶縁油中においてアークが発生した場合，急激な内部圧力上昇に伴う機器の損傷や漏油などが懸念される。当所では絶縁油を含む電力機器の耐アーク性能評価技術の確立を目指し，圧力上昇現象の解明を進めている。これまでの実験結果から，絶縁油中に発生した気泡は膨張と収縮を繰り返すことが確認できている。本稿では，液体中の単一球形気泡の膨張・収縮運動を扱うRayleigh-Plessetの方程式に気泡上部の液塊を剛体とした加速度運動を連立したKazimiらの方程式を解くことで，密閉容器内絶縁油中アークによって生じる気泡挙動を計算した結果を報告する。

5-165

275kV CVケーブル用スマート終端接続部の開発

○田渡未沙・今西 晋・稲庭康之・新井敦宏・森口至郎（昭和電線ケーブルシステム）

変圧器およびガス絶縁開閉装置とCVケーブルを接続する油中/ガス中終端接続部は接続工事の工期短縮・現地での機器ケース内に封入する絶縁媒体の処理作業削減が望まれている。この背景には，機器メーカーとケーブルメーカーの施工区分の煩雑さ，機器への異物混入のリスク，現地作業の負荷の大きさ等の工期を長期化させる要因がある。そのためプラグイン構造で，かつ大幅な縮小化を図った275kV CVケーブル用スマート終端接続部を開発した。

5-166

MRI用3本高温超伝導並列導体の電流分流の解析

◎土居祐麻・佐川慎太郎・三浦 峻・岩熊成卓・福本祐介・吉田幸市・佐藤誠樹（九州大学）・和泉輝郎（産業技術総合研究所）

本研究では，MRIに要求される磁場均一性を実現するために，素線間電流分流を均等にする手法を追求している。酸化物超伝導線材の大電流容量化するために適切な位置で転位を施すことにより，素線間のインダクタンスを均等にする必要がある。また，臨界電流および通電特性やn値がばらつき，直流運転時にも等価的に微少抵抗が存在する。そこで，マグネットの磁場分布を考慮して3素線間の電流分流を数値解析により求め，電流分流の周波数依存性，及び臨界電流値やn値のばらつきが電流分流に及ぼす影響を調べる。さらに直流通電時における電流を均等にするため，各素線の接触抵抗を調整する。

5-167

2枚バンドル導体を巻いたHTSコイルにおける交流損失の理論的評価

◎横山大貴・柁川一弘（九州大学）・淡路 智・高橋弘紀・岡田達典（東北大学）

高強度の金属基板上に成膜された希土類（RE）系高温超電導（HTS）線材は機械強度に優れており，大きな電磁力が加わる高磁界発生用マグネットのインサートコイルとして適用が検討されている。その一環として，東北大を中心に製作された25 T無冷媒超電導マグネットにおけるRE系HTSインサートを2枚のRE系線材の超電導層側同士を対向させて無絶縁で貼り合わせた後に全体を電気絶縁したバンドル導体で構成し，より高い安定性を確保する計画である。本研究では，単線を巻いた場合のHTSインサートにおける初期励磁時の交流損失と比較して，2枚バンドル導体で置き換えた場合のHTSインサートで発生する交流損失を理論的に評価した。

5-168

MgB2大容量導体を用いた超電導電力貯蔵コイルの液体ヘリウム温度における試験運転

○谷貝 剛・大久保 徹・平 萌人・高尾智明（上智大学）・槙田康博・新冨孝和（高エネルギー加速器研究機構）・平野直樹（中部電力）・駒込敏弘・塚田謙一・濱島高太郎（前川製作所）

MgB2超電導線材は，入手しやすい超電導材料として注目されている。高磁界領域では用いることができないが，MRIや電力ケーブルといった，低磁界応用への適用が近年盛んである。本グループでは，これまで再生可能エネルギーの普及による電力品質の低下に対して，電力貯蔵コイルを用いた電圧変動補償システムを提案してきた。液体水素温度よりも高い臨界温度で超電導転移するMgB2を用いると，水素利用との相乗効果が見込める。本研究では，5個のダブルパンケーキコイルを積層した30kJクラスの電力貯蔵コイル製作過程において，3個10kJのコイルを液体ヘリウム冷却条件で特性を評価する実験を行ったので，報告する。

5-169

MRI用REBCOコイルシステムにおける遮蔽電流による不正磁場の低減法(その1)：細線化と電流制御併用法の効果

◎上田聡美・伊東慶太・稲垣善太・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は9.4T級ヒト全身用MRIの開発を目指した研究を行ってきた。MRIは撮像空間において時間的・空間的に高い磁場精度が要求される。しかしコイルに適用されるREBCO線材はテープ形状をしており，励磁による遮蔽電流が顕著に誘導される。その遮蔽電流による不整磁場（以下，遮蔽電流磁場）が磁場精度を悪化させる。この遮蔽電流磁場の低減方法として，空間均一度を向上させるための細線化処理，時間的安定度を向上させることを目的としたデマグネタイゼーション法などの電流制御法がある。今回はその両手法を併用した際の遮蔽電流磁場の解析結果を報告する。

5-170

MRI用REBCOコイルシステムにおける遮蔽電流に起因する不整磁場の低減法(その2):細線化と電流制御の併用法の最適化

◎緒方隆充・稲垣善太・伊東慶太・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は9.4Tヒト全身用MRI用コイルの開発を行ってきた。MRIでは撮像空間内で，時間的・空間的に高い磁場均一性が要求される。MRI用コイルに用いるREBCO線材はテープ線材であり，テープ面に対し磁場が垂直に印加されることにより，遮蔽電流が誘導され，不整磁場が発生してしまう。この遮蔽電流磁場が磁場均一度に悪影響を与えることが問題となっている。遮蔽電流磁場の影響を低減する方法としてDemagnetization法による電流制御，線材細線化等が知られている。本研究では通電波形および細線化範囲の最適化を行い，その効果について解析評価したので，その結果を報告する。

5-171

MRI用REBCOコイルシステムにおける遮蔽電流に起因する不整磁場の低減法(その3)：ヒステリシスを利用したオーバーシュート法

◎石崎比奈子・稲垣善太・伊東慶太・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は，9.4T級ヒト全身用MRIコイルの開発を目指して研究を行ってきた。MRI用マグネットでは高い磁場安定度が求められるため，撮像空間中心の遮蔽電流磁場の時間変化を1ppm/h以下，コイルの配置による空間的な磁場の差を10ppm以下とすることを目的としてきた。しかし，遮蔽電流磁場の大きさそのものを0[G]に近づける手法の検討は不十分であったため，励磁完了時にそれを達成する手法のヒト全身用MRIコイル(図1)への適用可能性を検討した。これが達成されると，時間的安定度も空間均一度もよくなることが考えられるので，合わせて評価したので報告する。

5-172

特性劣化部分を有する無絶縁REBCOコイルの特性評価

◎濵中麻衣・市川哲理・柿本雄太・尾下 遥・金原徹郎・石山敦士（早稲田大学）・野口 総（北海道大学）

我々は，医療用加速器や高磁場MRIをターゲットとした高温超電導システムの開発を目指している。より高い磁場を発生させるためには安定して高いIcを持つ超電導線でコイルを作製しなければならないが，それにはかなりのコストがかかってしまう。そこで最近の研究では，Ic劣化を有する超電導線で無絶縁コイル（NIコイル）を作製する方法が検討されている。今回はIc劣化を有するNIコイルの振る舞いについて，数値解析に基づく評価を行ったのでその結果を報告する。

5-173

Multi-Stacked 無絶縁REBCOパンケーキコイルにおける運転温度の熱的安定性への影響評価

◎吉原優花・市川哲理・柿本雄太・尾下 遥・金原徹郎・石山敦士（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）

我々は高磁場MRI用REBCOコイルシステムの開発のため，高熱的安定化，高電流密度化，高機械強度化，高磁場化・小型化，高磁場精度化の5つの項目を全て満たすコイル化技術の研究を行っている。特に，高電流密度化と高熱的安定化は二律背反の関係にある。そこで，これらを満たすコイルとして無絶縁コイル（NIコイル）が検討されている。今回は，MRI用REBCOコイルにNIコイルを用いたときの挙動を調べるために，自己磁場かつ温度が30Kの状態でNIコイルに局所的常電導転移が生じたときの挙動について数値解析を行ったので，その結果を温度が4.2Kのときの挙動と比較しながら報告する。

5-174

無絶縁コイルを適用した超電導電力貯蔵装置における貯蔵効率と安定性の解析・評価

◎大牟礼将人・市川哲理・柿本雄太・尾下 遥・金原徹郎・石山敦士（早稲田大学）

超電導電力貯蔵装置(以下，SMES)は高効率で大電力の瞬時応答が可能であるが，貯蔵密度が極めて小さい。そこで，高電流密度化と高熱的安定化の両立を可能とする巻線方式として期待される無絶縁コイル(以下，NIコイル)をSMESに応用できれば，高電流密度化により高貯蔵密度化が可能になると考えられる。しかし，この場合は充放電時に径方向電流が流れ，ジュール損失が発生する。そこで今回は，貯蔵効率と局所的常電導転移発生時における温度上昇の層間電気抵抗への依存性を求め，NIコイルのSMESへの適用性を評価した。解析の結果，層間電気抵抗が100mΩ∙cm²程度であれば高効率を維持しながら局所的常電導転移発生時の温度上昇を抑えられることが分かった。

5-175

Y系線のMAD(最大許容欠陥長)およびMPZ(最小伝搬領域)の温度・電流依存特性

◎田口春華・鳥山飛史・高尾智明・中村一也・塚本修巳（上智大学）・古瀬充穂（産業技術総合研究所）

HTSコイルでは線の局所的欠陥および局所的な冷却不足がクエンチの原因であり，クエンチを起こしたHTSコイルを再使用するためには，損傷を受けないようにクエンチ保護を行い，運転温度または運転電流を下げて運転をする必要がある。本報告ではY系コイルについてクエンチが発生しない線の欠陥の最大長さMADおよび最小伝搬領域MPZにおける抵抗電圧V_MPZの温度・電流依存特性を求め，クエンチを起こした場合にどの程度運転電流または運転温度を下げればよいか検討した。結果から，クエンチが発生してもコイルが損傷せずにクエンチ保護ができれば，運転電流や運転温度を下げることでMADおよびV_MPZが増大し，コイルは運転を継続できることが分かった。

5-176

抵抗ショート法を用いたYBCOマグネットクエンチ保護法の模擬実験による有効性検討

◎市川拓磨・渕田佳稀・野本尭宏・鳥山飛史・高尾智明・中村一也・塚本修巳（上智大学）・古瀬充穂（産総研）

HTSマグネットコイルのクエンチ保護が実用化にあたって課題となっている。HTSマグネットのクエンチ保護は一般にdetect&dump方式による。しかし，大型のHTSマグネットではクエンチ検出電圧を小さくしても容易に熱暴走が起き損傷を受ける。また，損傷を避けるためにマグネット電流減衰時定数τ= L / R1（L: マグネットインダクタンス，R1: ダンプ抵抗）の小さくしようとしても耐電圧によりその低減に限界がある。 これに対して，我々は抵抗ショートによるクエンチ保護法を提案している。本研究では，その方法の有用性を模擬実験により検討した。

5-177

液体水素浸漬冷却MgB2レーストラックコイルの励磁実験 (I) -コイルの臨界特性について-

◎石見佳紀・松本太斗・原 真太郎・白井康之・塩津正博（京都大学）・小林弘明・成尾芳博・野中 聡・稲谷芳文（JAXA）・田中秀樹（日立製作所）

液体水素浸漬冷却超電導発電機の開発を見据え，2極MgB2レーストラックコイルを作成し，液体水素浸漬冷却下で励磁実験を行った。その結果報告を[1]と[2]で連続して行い，本稿[1]では特に，本実験で用いたレーストラックコイルの諸元，実験方法，レーストラックコイルのロードラインについて述べる。レーストラックコイルのロードラインについては，コイルで使用した線材と同じ線材を用いた短尺試験体のガスヘリウム冷却下での臨界特性と比較し，21K，23K，25K，27Kの各温度条件において，コイルの臨界点が理想とする臨界点の8~9割程度の値となっていることを示した。

5-178

液体水素浸漬冷却MgB2レーストラックコイルの励磁実験 (II) –励磁磁場とクエンチ時の考察-

◎松本太斗・石見佳樹・原 真太郎・白井康之・塩津正博（京都大学）・小林弘明・成尾芳博・野中 聡・稲谷芳文（JAXA）・田中秀樹（日立製作所）

液体水素冷却界磁超電導発電機の開発を見据え，2極MgB2レーストラックコイルを作成し励磁実験を行った．連続の発表を行い，[1]では，レーストラックコイルの諸元や実験方法，臨界特性について報告する．本稿[2]では，特にコイルクエンチ時の挙動について，計測した各部磁場やタップ電圧から考察を行う．励磁磁場やクエンチ時の熱移動などに関しては有限要素法解析を行い，それらの結果を基に実験結果の妥当性も検証した．液体水素浸漬冷却下において，レーストラックコイルはクエンチ時にホットスポットの発生や焼損は発生しなかった．ここから，液体水素の冷却能力の高さに加え，ホットスポットの発生前に素早く電圧によって，コイルのクエンチ検出が行えることが示された．

5-179

MSR-QMGⓇリングの15T着磁とクエンチ挙動

森田 充（新日鐵住金）・○淡路 智（東北大学）

酸化物超電導バルク材料（QMG）を用いたバルクマグネットの着磁特性に関して報告する。これまで，金属板との複合材料化により補強したMSR(Metal Sheet Reinforcement) –QMGによる10T着磁に関して報告してきたが，今回，MSR-QMGによる15着磁を行ったので報告する。

5-180

超伝導バルク磁石のパルス着磁における電磁軟鉄ヨークが捕捉磁場特性に及ぼす影響

○横山和哉（足利大学）・岡 徹雄（芝浦工業大学）

超伝導バルク磁石はテスラ級の強磁場を，小型な装置で発生することができ，低ランニングコストで駆動することができる。また，着磁方法のうちパルス磁化法は，汎用の装置を用いて短時間で着磁できるため，産業応用を考えた場合に有効な手法である。一方で同手法による捕捉磁場は，試料本来の性能の半分程度である。そこで，複数回着磁法のようなソフト的な改良や，ロングパルスのような装置の変更を伴うハード的な改良が提案されてきた。本研究は，ロングパルスの効果の一つである，バルク体を長い時間磁場に曝すことを目的として，バルク体を電磁軟鉄のヨークで挟む手法について，ヨークの大きさが捕捉磁場特性に及ぼす影響を調査した。

5-181

凹凸型磁場分布をもつバルク磁石による均一磁場空間の形成

○岡 徹雄・井上夏希・坂井直道・ミリアラムラリダ・村上雅人（芝浦工業大学）・比嘉和也・角田俊太（新潟大学）・横山和哉（足利大学）・高橋雅人・仲村高志（理化学研究所）

NMR分析装置のより広い実用をめざす小型NMR機器の研究が，円筒中空型の高温超電導バルク磁石を用いて進められている。この流れに沿い筆者らは，対向するバルク磁石によるNMR用磁石の開発を進めてきた。極低温への冷却による優れた時間安定性をもつバルク磁石の凸型の磁場分布を用い，NMRに必要な均一な磁場空間を得るために，強磁性体を張り付けてその磁場分布を凹型に成形した磁極を対向配置した空間内の磁場均一性を評価した。過去の研究成果からNMR信号の検出に必要な磁場均一性の目標を1500ppmとし，世界初のNMR信号を検出するための磁場均一性の評価法の確立とその達成値を評価した。

5-182

超音波信号を用いたREBCO線材の層間剥離診断法の再現性評価

◎冨塚貴大・鎌田太陽・二ノ宮 晃・野村新一（明治大学）

REBCO線材はその強い異方性から，線材長手方向と厚み方向の機械強度は大きく異なるため，線材端部に引き剥がす力が加わると，部分剥離または剥離進展による全面剥離が生じ，超電導層の破壊に伴い臨界電流が著しく損なわれる. しかし，線材内部の傷を評価する手法が確立されておらず，極低温下の通電により臨界電流を把握しなければならない. 本研究では，2つのAEセンサと超電導線材間の超音波透過信号により線材内部の状態を推定し，更に臨界電流をこの状態推定手法により室温環境下で評価することを目指している.

5-183

MgB₂線材の基礎特性評価のためのガスヘリウム冷却実験システムの構築

◎高溝玲央・寺尾 悠・大崎博之（東京大学）

MgB₂は39Kの臨界温度を有する超電導材料である。その比較的高いT_cや軽量かつ交流損失の低減の可能性から関心が集まっている。本講演では，MgB₂線材等の測定評価のために構築したガスヘリウム循環システムと測定用クライオスタットから構成されるシステムについて報告する。 本システムはガスヘリウムをGM冷凍機で冷却し循環させることで試料を伝導冷却するシステムである。ポンプ回転数により流量を制御することで冷却能力を変更すること可能である。 冷却試験の結果から本システムの最低到達温度は無負荷において16K程度であることが示され，ヒータ試験の結果から20Kにおいて数10Wオーダの冷却能力があることが確認できた。今後は短尺線材や巻線の測定を行う予定である。

5-184

新幹線の周波数変換装置のための3種類の超電導限流器方式と導入効果に関する比較検討

◎赤堀貴広・寺尾 悠・大崎博之（東京大学）

東海道新幹線では，周波数変換装置（FC）によって50 Hzから60 Hzに変換を行っている。FCには2種類あり現在回転形FCの静止形FCへの置き換えが進んでいるが，静止形FCは事故電流等の過電流への対策が必要となる。過電流への対策の一つとして超電導限流器が考えられる。本稿では，超電導限流器導入による事故電流限流効果のシミュレーションを行い，異なる3種類の限流器について定性的に比較検討を行う。 抵抗型は比較的小型で変換器も必要ないが，事故電流の限流効果が小さく限流器復帰時間が長い。アクティブ型と磁気飽和型はともに限流効果も復帰時間も十分だが，それぞれ大容量の変換器が必要，機器が大型といった欠点がある。今後さらに小型で低コストの限流器を追求していく予定である。

5-185

銅フィン付高温超伝導線で構成された抵抗型限流器の冷却特性検討

◎曽我部友輔（京都大学）・磯嶋茂樹（住友電気工業）・雨宮尚之（京都大学）

我々は銅フィン付高温超伝導線の抵抗型限流器への適用可能性について研究を行っている。銅フィンは，地絡事故発生によって発生する常伝導転移後の復帰時間を短縮する効果があるとして期待されている。本講演では，銅フィンの形状諸元が限流器の復帰時間に与える影響について検討する上で必要となる二次元クエンチ解析モデルの構築について報告し，銅フィン形状の冷却特性への影響について議論する。また，適切と思われる銅フィン形状の場合の超伝導状態での交流損失について電磁界解析によって評価する。

5-186

超電導パンケーキコイルモデルのクエンチ時における液体窒素の動的絶縁破壊特性

民部昌孝・◎森 優次・小島寛樹（名古屋大学）・礒嶋茂樹（住友電気工業）・桑田 稔（日新電機）・早川直樹（名古屋大学）

これまでに，抵抗型超電導限流器の限流動作(クエンチ)時における液体窒素(LN₂)の動的絶縁破壊特性を検討してきた．今回，超電導テープを使用した超電導パンケーキコイルモデルを用いて，クエンチ時の発生熱流束をパラメータとしたLN₂の動的絶縁破壊電界(BDE_dyn)を取得した．その結果，BDE_dynが発生熱流束の上昇に伴い静的絶縁破壊電界(BDE_sta)から著しく低下し，発生熱流束がある値を超えたところで一定になることを明らかにした．したがって，超電導テープのクエンチ時における発生熱流束を考慮することで，動的絶縁破壊特性に基づいた抵抗型超電導限流器の合理的な絶縁設計が可能であると考えられる．

5-187

JT-60SA CSモジュールにおける接地抵抗の影響による導体間電圧の評価

◎園田翔梧・那須京介・目黒博嵩・中村一也（上智大学）・村上陽之・夏目恭平・福井良磨・磯野高明（量子科学技術研究開発機構）

JT-60SA用超伝導マグネットのCSモジュールには，電源のノイズの影響により周波数成分を含む電圧が印加される。そのため，共振現象により導体間電圧が上昇してしまい，導体間絶縁が損傷してしまう可能性がある。本研究では，CSモジュールに接地抵抗を考慮にいれ，共振現象及び電圧分布を評価した。 接地抵抗を付加したターン間の共振周波数は795 kHzとなった。実機の電源では，主な周波数スペクトルは主に5 kHz以下に集中している。主な周波数は共振周波数よりも非常に小さいため，ターン間において絶縁は損傷しないことが示された。

5-188

リアクト・アンド・ワインドを指向した急熱急冷変態法Nb3Al線材のテープ導体化の検討

◎山田喬平・高尾智明（上智大学）・菊池章弘・飯島安男・瀧川博幸・土谷悦子（物質・材料研究機構）・土屋清澄・王 旭東（高エネルギー加速器研究機構）・菱沼良光・高畑一也（核融合科学研究所）

核融合炉などに必要とされる大型超電導磁石においては，NbTi導体のようなハンドリングが好ましい。しかし，Nb3Snを代表とするA15型超電導は，延性がなく脆い金属間化合物であり，わずかなひずみで特性が劣化して，さらには亀裂破壊してしまう。このような機械的に脆弱な化合物でも，Nb3Al系だけは例外的に耐ひずみ特性に優れており，長年，リアクト＆ワインド法の適用が期待されてきた。急熱急冷・変態法Nb3Al線材は，拡散法Nb3Al線材より格段に高性能であるが，これまでにリアクト＆ワインド法を指向した本格的な線材開発は行われてこなかった。本研究では，曲げひずみに対して有利なテープ形状のRHQT法Nb3Al線材を試作し，テープ化による臨界電流及び臨界電流密度の変化等を検討した。

5-189

ケーブル・イン・コンジット導体内の銅線がコイル励磁時の電流分布と発熱分布に及ぼす影響

◎阿部飛鳥・津田 理・宮城大輔・長﨑 陽（東北大学）

核融合炉用大型超電導コイルには，直径1 mm以下の超電導素線を数百本撚り合わせてコンジットに収納した，ケーブル・イン・コンジット導体(CICC)が用いられている。コイル励磁時には，変動磁場による結合電流が通電電流に加わるため，局所的に臨界電流を上回る恐れがある。また，結合電流により損失が発生し，熱的安定性に影響を与える可能性がある。これまでに，超電導線の他に銅線を加える方法が提案されているが，コイル励磁時の過渡的な熱的安定性への影響は明らかにされていない。本研究では，超電導線のみで構成される場合と，超電導線と銅線とで構成される場合の導体内におけるコイル励磁時の電流分布及び，発熱分布を解析的に検討した。

5-190

1 T級高温超電導電磁力平衡ヘリカルコイルの開発―電流負荷特性と複合曲げひずみ効果―

◎鎌田太陽・二ノ宮 晃・野村新一（明治大学）・谷貝 剛（上智大学）・中村武恒（京都大学）・力石浩孝（核融合科学研究所）

筆者らは発生する電磁力を大幅に低減可能な電磁力平衡ヘリカルコイルにREBCO線材を適用することで，超電導コイルの軽量化を目指している．但しREBCO線材には温度と磁場に加え，機械的ひずみにより臨界電流が変化する性質がある．従ってヘリカル形状に起因した複合曲げひずみが印加された状態に磁場が重畳した場合，その臨界電流がどのように変化するか，最大発生磁束密度1Tのモデルコイルを開発および励磁を通して検証することを目指している．本講演ではモデルコイルの電流負荷特性と複合曲げひずみ効果による臨界電流の変化について推計した結果を報告する．

5-191

超電導ケーブルの安全性・信頼性検討 (1) ～超電導ケーブルの安全性ガイドライン検討～

○山口博史・棚澤昌幸・三村智男（東京電力ホールディングス）・増田孝人（住友電気工業）・福島弘之（古河電気工業）・矢口広晴（前川製作所）

これまでの超電導ケーブルに関する研究や横浜市の旭変電所で実施した超電導ケーブルの実系統連系試験結果から，超電導ケーブルを実用化した場合の課題をガイドラインとしてまとめているため報告する。ガイドラインとは，実系統に超電導ケーブルを導入した場合に運転管理に関して検討すべきポイントを整理し，特に系統事故時の安全性に対して設計に反映すべきポイントを示したものである。

5-192

超電導ケーブルの安全性・信頼性の検討(2)-66kVケーブルの短絡シミュレーション-

○棚澤昌幸・山口博史・三村智男（東京電力ホールディングス）・森村俊也・増田孝人（住友電気工業）・堀田大智・我妻 洸・石山敦士（早稲田大学）

超電導ケーブルの実系統適用では，定格電流よりも大きな短絡電流がケーブルに流れる可能性がある。短絡電流により大きな発熱が生じ，液体窒素が蒸発すると，冷却システムの停止や過度な圧力上昇による破裂等を引き起こす可能性がある。事故時の挙動を把握するため，40m級超電導ケーブルシステムを用いた試験や試験結果をフィードバックさせた解析コードの開発などを実施してきた。本稿では，実規模を想定した3km級超電導ケーブルシステムにおける短絡電流解析を実施し，事故時の安全性や早期の再送電が可能となる条件などを検討した。現在まとめている超電導ケーブルの安全性に関わるガイドラインへの反映事項と併せて結果を報告する。

5-193

超電導ケーブルシステムの安全性・信頼性の検討（3） -66kV級ケーブルの地絡対策の検討-

◎南野忠彦・増田孝人（住友電気工業）・山口博史・棚澤昌幸・三村智男（東京電力ホールディングス）

超電導ケーブルの電力系統への実適用には各種事故時における安全性・信頼性が要求されており，2016年度より発足したNEDOの「電力送電用高温超電導ケーブルシステムの実用化開発」において検証を進めている。なかでも，超電導ケーブルの地絡事故に対する検討については，世界的にも検討された事例は殆どない状況である。超電導ケーブル地絡時の懸念事項として，アークの断熱管貫通よる液体窒素漏洩や液体窒素の圧力上昇による断熱管損傷等が考えられる。本プロジェクトでは，実際の地絡時に起こり得る現象を予測し，適切な保護対策を施すことを目的に三心一括型超電導ケーブルコアサンプルを用いた地絡試験を実施した。本報では，その試験結果と地絡時の対応・対策について報告する。

5-194

超電導ケーブルの安全性・信頼性の検討(4) ～275kV級超電導ケーブルの短絡・地絡事故に関する検討～

○向山晋一・福島弘之（古河電気工業）・三村智男・棚澤昌幸・山口博史（東京電力ホールディングス）

高温超電導ケーブルは，実用化のためには，基幹送電系統としての安全性・信頼性の確立が重要であり，特に不測の事故に対する安全を確保する必要がある。本発表においては，このうち電圧階級で275kVとなる超電導ケーブルについて，特に短絡事故，地絡事故等の事故時の超電導ケーブルの挙動，およびその安全対策についての検討結果について報告する。

5-195

超電導ケーブルの安全性・信頼性の検討(5) -66kVケーブルの液体窒素漏洩に関する検討-

◎森村俊也・南野忠彦・斎藤高廣・芦辺祐一・増田孝人（住友電気工業）・山口博史・棚澤昌幸・三村智男（東京電力ホールディングス）

実系統に超電導ケーブルを適用した場合の安全性・信頼性に関する検討として，サンプルを用いた地絡試験を実施してきた。試験より，地絡電流によって断熱管まで穿孔し，液体窒素が外部へ漏れる可能性が示唆された。このような事故が地下マンホール部で発生した場合，液体窒素がマンホール内に漏洩する。漏洩した液体窒素が蒸発することで圧力が上昇してマンホールの蓋が吹き飛ぶ，マンホール内が酸欠になるなど様々な現象が予想される。液体窒素漏洩時の挙動検討のため，模擬マンホール試験や解析コードの開発などを実施してきた。現在まとめている超電導ケーブルの安全性・信頼性に関わるガイドラインに反映する項目と併せて結果を報告する。

5-196

超電導ケーブルシステムの安全性・信頼性の検討（6） -66kV級ケーブル実線路運転-

○増田孝人・芦辺祐一・斎藤高廣・南野忠彦・森村俊哉・渡部充彦（住友電気工業）・山口博史・棚沢昌幸・三村智男（東京電力ホールディングス）

東京電力・旭変電所に布設した，66kV/200MVA級超電導ケーブルの2回目の実系統運転の結果について報告する。当該超電導ケーブルは，2012年～2013年に1回目の実系統運転を実施し，その安定性を示した。3年間の運転休止後，2017年3月に運転を再開。2018年4月まで実系統運転を行い，今回も問題なく運転できることを実証した。さらに，断熱管の1年間の真空特性，運転後の残存性能等について報告する。

5-197

超電導ケーブルの安全性・信頼性の検討(7) ‐超電導ケーブル冷却用ブレイトン冷凍機実証試験‐

◎下田将大・矢口広晴・星野昌幸（前川製作所）・三村智男（東京電力ホールディングス）・増田孝人（住友電気工業）

超電導ケーブルの実用化に向けて産業用冷凍機と同程度のメンテナンス間隔が必要であり，メンテナンス間隔延長が期待出来るブレイトン冷凍機を開発した。開発したブレイトン冷凍機の信頼性を評価するため，高温超電導ケーブルの冷却システムにブレイトン冷凍機を組み込み，旭変電所の実系統に連携する240m級超電導ケーブルと接続し，実証試験を実施した。実証試験の結果から，実用化への冷却システムの要求を満たす見通しを得ることができた。今回は実証試験結果を中心に報告する。

5-198

超高圧超電導ケーブルの低誘電損失化に向けたTyvek^®の電気絶縁特性の積層方法依存性

◎山上浩輝・民部昌孝・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）

超高圧レベルの超電導ケーブルでは，電気絶縁特性に加え，誘電損失の低減が課題となる．本稿では，低誘電損失合成紙Tyvek^®(ポリエチレン不織布，DuPont^TM製)に着目し，Tyvek^®をポリエチレン(PE) シートの片面あるいは両面に熱融着した2層構造のTyvek^®/PE，3層構造のTyvek^®/PE/Tyvek^®について，液体窒素(LN₂) 浸漬時の部分放電および絶縁破壊特性の積層方法依存性について検討した．その結果，Tyvek^®/PEを同方向に積層したサンプルに対し，PEシート面が向かい合うように積層したサンプルの絶縁破壊電界が向上した．このことから，対象構造が放電進展の抑制に寄与しており，Tyvek^®とPEシートとの積層方法により，超高圧超電導ケーブルにおける低誘電損失化と高絶縁耐力との両立が期待されることを示唆した．

5-199

太陽光発電からの長距離電力輸送に向けた直流超電導システムの提案と動的特性解析

○東川甲平（九州大学）・荒井純一（工学院大学）・原田克彦（九州電気専門学校）・松島 潤（東京大学）・池田久利（EPRI）・Noureddine Harid・Ahmed Al-Durra（ハリファ科学技術大学）

化石燃料枯渇への懸念や地球環境問題への配慮から，世界的に再生可能エネルギーの導入が進んでおり，特に太陽光発電の利用が急速に拡大している。一方，大規模太陽光発電には広大で安価で土地が必要となり，需要地とは離れていることが多く，効率的な長距離電力輸送の確立が鍵となる。ただし，交流ケーブルによる電力輸送には距離に限界があり，直流ケーブルによる電力輸送が不可欠となる。そこで本研究では，超電導ケーブルを用いることによる直流システムの簡略化とその動作解析について報告する。

5-200

鉄道信号用電子機器における寿命推定結果に与える収容箱内環境の影響

○藤田浩由・野村拓也・国崎愛子（鉄道総合技術研究所）・菊野孝博・市川雄太（京三製作所）

鉄道信号設備は，列車の安全・安定運行を確保するための設備として，沿線に広く導入されている。また，信号設備の高機能化および小型化に伴い，リレー制御による継電機器から電子機器への置換えが進んで久しい。一方で，電子機器は劣化傾向の把握が困難であることが多く，導入された電子機器の更新時期の適切な設定が課題となっている。 本稿では，沿線電子機器の収容箱内の環境調査結果に基づき，機器を構成する電子部品の寿命推定を行った結果について示すとともに，収容箱内環境が寿命推定結果に与える影響についての考察を示す。

5-201

地域依存性を考慮した箱内温度の一考察

◎野村拓也・藤田浩由・竜本ジョ・国崎愛子（鉄道総合技術研究所）・片野佑相・松橋真一（北海道旅客鉄道）・河野 勉（四国旅客鉄道）・前川圭祐（九州旅客鉄道）

本稿では，沿線電子機器の収容箱内の温度推定を進めるにあたり，測定条件を揃えた状態での箱内温度分布が推定に与える影響を検証した。 結果として，制御子箱サイズでは箱内の温度分布は発熱体の有無や地域に関係なく一様であった。また，発熱体が設置されていない場合は，公開気象データにより推定可能であることがわかった。また，通年にわたり箱内温度を実測しなくても箱内温度を推定できる可能性を示唆した。 今後は，サイズの異なる収容箱や日射の影響，実測に必要となる期間について検証し，温度推定の精度向上を目指す。

5-202

鉄道沿線電子機器における振動影響の一考察

◎竜本ジョ・藤田浩由・野村拓也・天野 歩（鉄道総合技術研究所）・比澤庸平（西日本旅客鉄道）・河野 勉（四国旅客鉄道）

近年，鉄道信号設備の電子化が進められているが，電子機器の劣化状態の把握および寿命予測が難しいことから，適切なタイミングでの設備保守が課題となっている。そこで，電子機器の劣化状態・寿命予測を行うために，信号設備が設置されている環境における電子機器に対するストレス要因から，特に影響度の高い要因を把握することとした。 そのために筆者らは，これまで鉄道沿線の機器設置箇所における，様々な環境調査を実施してきた。本論文では，その環境調査の一環として実施した沿線器具箱設置機器における振動測定について，様々な特徴の線区での実施結果を示す。また，過去に実施された振動測定結果との比較を行い，この振動測定結果の妥当性の検討結果についても報告する。

5-203

鉄道沿線設備の振動耐性に関する検討

◎田中新悟・田辺雅昭・三浦和人・豊田晋平（東日本旅客鉄道）

沿線に設置された配線箱の端子緩みにより信号集中監視回線等の重要回線で通信障害が発生してしまい，復旧に時間を要している。本研究では沿線において発生している振動のフィールド調査を行った。また，計算値との比較を行って軌道中心からの必要な離隔等，沿線設備の施工標準について検討した。フィールド調査の結果，日光線が他線区と比べて大きな振動加速度レベルを有しており，端子の緩みと一定の相関が見られた。また，軌道中心からの距離1.87mの離隔を確保すれば，JIS E 3014 2種に抵触しない環境を確保できることを示した。

5-204

踏切制御子の寿命評価と劣化に関する検証

◎原口悠太（東日本旅客鉄道）

当社では列車の接近，通過を検知し踏切を鳴動，停止させるセンサーとして踏切制御子を使用している。当社全体で約19,000個設置されており，安定して稼働させるため定期的に検査及び取り替えを行っている。検査は保全マニュアルをもとに1～2年周期で実施し，取り替えは状態の良し悪しに関わらず取替基準をもとに15～25年周期で実施している。しかし設備数が膨大でありコストを要している。 そこで本研究では使用環境に応じた劣化のメカニズムを解明し，適切な寿命評価を目的に検証を行う。なお踏切制御子は閉電路形（鳴動点）と開電路形（停止点）の2種類存在するが，今回は閉電路形を対象とする。

5-205

電気踏切しゃ断機の故障予兆診断に関する研究

◎森田雄一（東日本旅客鉄道）

現在，当社の信号保安設備は予防保全の考えに基づきTBMにより管理しているが，効率的なメンテナンスへの転換が課題である。本研究は電気踏切しゃ断機を対象に，劣化具合の判断手法を検討し，現状の課題に対する解決の方法を示した。具体的には，しゃ断機のべ12台について動作データを取得し，しゃ断機のしゃ断かんが上昇し停止する際の電流値が累計動作回数に反比例して低下する傾向を得られた。このことから，突入電力などの過負荷が繰り返し生じることで電気回路上の抵抗器が劣化し抵抗値が増大するという仮説に至った。本研究の結果を踏まえ，劣化具合を判断するのに有効と考えられる上昇ブレーキ時電流値をしきい値で管理する手法を提案した。

5-206

コンクリート信号機柱の強度評価法の開発

○潮見俊輔・常本瑞樹・飯島 亨・大森達也・押味良和・以倉慶子（鉄道総合技術研究所）・小野孝之・川崎直樹（東日本旅客鉄道）

コンクリート信号機柱を対象に，外観検査により認められる変状の種類と寸法から推定される曲げ強度，および柱の装柱物の種類や位置から推定される風による曲げモーメントをそれぞれ推定することで，設備毎の強度の余裕度から更新や修繕の要否，優先度を判断する手法について述べる。これまでに実施した国内の信号機柱の変状調査，強度試験の結果と，装柱状態と風荷重の関係について述べたのち，提案する強度評価の考え方と手順について述べる。

5-207

運転方向回線の絶縁監視

○長井宏和・北岡栄一・木村秀夫（西日本旅客鉄道）

運転方向回線は鉄道の単線区間において列車運転方向を設定・保持する保安装置である。運転方向回線に短絡・断線故障が発生すると駅間の運転方向を設定できず列車は駅から出発できなくなるため，回線劣化を早期に知得して故障に至る前に修繕する必要がある。劣化度合いを定常的に把握するため，運転方向回線の線間絶縁監視手法を考案した。本手法は運転方向回線の共通マイナス線であるC線と予備心線であるSP線を運転方向の上下切替と連動して切り替えることにより線間絶縁抵抗を測定・監視する手法である。実習線の単線区間にて本手法を試験した結果，運転方向を設定・保持するという機能に影響を与えることなく線間絶縁抵抗を測定し不良検知できることを確認した。

5-208

IoTを活用した鉄道信号設備のメンテナンス方法に関する研究

◎小笠原拓矢（東日本旅客鉄道）

今後，日本の生産年齢人口が減少していく中で，当社ではスマートメンテナンスの実現に向け取り組んでおり，その実現方法の一つとしてIoTを活用できないか着目した。IoT の活用方法として遠隔でデータ取得することが考えられる。本研究では，IoTを活用して遠隔で電圧値等のデータを取得することを目的とし，選定した汎用無線通信が鉄道沿線環境において活用できるか，電波特性について実地検証試験を行った。その結果から，限られた範囲ではあるが汎用無線通信を用いてデータ取得が可能であると考える。本稿では，鉄道沿線環境で実施した実地検証試験の結果について報告する。

5-209

自己分周型デジタル軌道回路の開発

◎北尾憲一・五十嵐裕孝（東海旅客鉄道）・香川卓也・久保田恭嗣（日本信号）

長大軌道回路のノイズ対策として，過去にPSK（Phase Shift Keying）方式のデジタル軌道回路を開発したが，高価になること，構成品の一つである分周器の安定供給に不安があることが新たに課題として生じた。 今回，PSK式デジタル軌道回路の送信器に，自己分周機能を追加して分周器を必要としない新型デジタル軌道回路を開発したので紹介する。

5-210

デジタル長大軌道回路への分周機能追加

○香川卓也・久保田恭嗣（日本信号）

従来のデジタル長大軌道回路ではレールによる伝送損失を軽減する為，軌道回路に流す信号周波数を低くする必要があり，電源周波数を1／2にする分周器が必要な装置であった。本研究では，自己分周形デジタル長大軌道回路を開発し，分周機能を装置に内蔵することで分周器を省略（ソフト処理で対応可能）し，低価格化及び信頼度向上を目指した。自己分周形の課題として，絶縁破壊時に隣接軌道回路の不正こう上という影響についても位相と変調コードによる対策を実施した。実際に開発した装置でフィールド試験を実施し，良好な試験データが得られたので開発結果を紹介する。

5-211

適応フィルタの軌道回路伝送への応用に関する検討

◎左 太貴・望月 寛・中村英夫（日本大学）・石川 了・佐野 実・西田賢史（京三製作所）

現在，デジタルATCシステム等で広く用いられている軌道回路は，列車が持つ特有の鉄道雑音の影響が強いことや，10kHz以上の周波数帯域で大きく減衰する低周波通過特性を持つ等の問題点がある．そこで，近年のデジタル通信で広く用いられている適応フィルタを応用する手法について明らかにした．具体的には，スペクトラム拡散によって広帯域に拡散された信号と適応フィルタを用いることで，軌道回路伝送特性の向上を図る手法を示し，計算機シミュレーションにその有用性を明らかにした．また，天候等の条件で変動する軌道回路伝送特性の推定に対しても，適応フィルタを用いて実現できることを明らかにした．

5-212

鉄道信号システムへの合理性診断機能の適用－閉そく信号機への適用－

○高野友佑・津田充昭・川野 卓（東日本旅客鉄道）

鉄道信号システムの多くは，列車の安全・安定輸送を支えるシステムである．そのため，設備監視システムにより，システムの正常稼働を監視しており，システム停止などの異常があれば，アラームを設備のメンテナンスを担当するメンテナンスセンターおよび指令センターに通知する仕組みとしている．図1に，設備監視システムの基本的な構成を示す．設備監視システムでは，列車の運行に支障するアラームの他に，事前に設定する基準値に入らない場合などシステム異常に至る前の状態などもアラームを通知することができる．しかし，設備監視システムは，装置・システム単体での正常稼働などの監視のみであり，鉄道信号システムとしての正常稼働は監視していない．近年では，従来から使用しているリレー結線により制御している信号システムを電子化する際に正常・異常状態の監視機能に加えて，システム動作の合理性診断をすることで正常と認められない動作を検出し警報する監視機能を付加している．合理性診断の導入により，鉄道輸送の安全・安定性向上が期待できる．しかし，現在は従来システムの電子化時においてのみ合理性診断を導入しており，当社において設備割合の大きい従来システムへの導入はしていない．そこで，今回，従来システムのひとつである閉そく信号機へ合理性診断を適用するシステムを提案する．

5-213

磁気センサを用いたレール破断検知方法の提案

◎佐藤尚輝・藤田吾郎（芝浦工業大学）

日本においては近年，鉄道の需要が高まっており，鉄道事業者はより良い鉄道サービスを乗客に提供することが必然になっている．鉄道サービスの一環として，各営業列車や踏切などの地上設備に無線機を設置して基地局と無線通信を行うことによって営業列車の在線位置を検知するシステムがある．このシステムを導入することによって得られる利点は2つ存在する．まず1つは列車の運行本数を増加させることが可能であるということである．他方の利点はメンテナンス業務の簡単化である．しかしながら，レール破断検知が不可能になるという欠点も存在する．そこで，新たなレール破断検知方法として，帰線電流を列車の台車に設けた磁気センサで検知する方法を提案する．

5-214

光学フィルタを用いた特殊信号発光機の明滅検知手法

◎向嶋宏記・長峯 望・野村拓也・中曽根隆太（鉄道総合技術研究所）・田中雄也・久保田裕之（東日本旅客鉄道）

鉄道においては，ATSなど主信号機の冒進を防ぐシステムが確立しており，多くの鉄道路線で導入されている。ヒューマンエラーが発生してもこれらのシステムにより列車の安全は確保される。一方で，特殊信号発光機については，ATSなどの保安装置と連動しているものが一部あるものの，多くの路線では運転士の目視によって安全が確保されている。運転士の負担軽減やヒューマンエラーの防止など，安全性向上のための運転支援技術の需要が高まっている。本研究では，特殊信号発光機の明滅を運転台に設置した単眼カメラを用いてリアルタイムに検知することで，運転士を支援するシステムの開発を目的とする。本稿では，光学フィルタを用いた特殊信号発光機の明滅検知に関する検討結果について報告する。

5-215

Convolutional Neural Networksを用いた軌道内の落下物検出

○山本大樹・望月凜平・田林精二（明電舎）

鉄道設備の保守・改良工事は，主に列車運転時間終了後から初電までの夜間に行われる．保守・改良工事で使用した工具やボルト等の部品が線路内に落ちていると事故に繋がる危険性がある．そのため，作業終了後に設備内に置き忘れなどが無いかの確認作業を行う．本研究では，エッジや濃淡パターンなど画像らしい特徴を抽出することができ，加えて特徴抽出と識別を同時に学習することが可能なConvolutional Neural Networks（CNNs）を用いた軌道内の落下物検出手法を提案する．

5-216

鉄道電力設備の雷害事象分析と雷リスク評価

○甘利 智・中村岳彦・林屋 均（東日本旅客鉄道）

鉄道電力設備は電車等の鉄道設備に電力を供給するための電線や変電所等の設備であり，鉄道の安定輸送を提供するために高い信頼性が必要となる。鉄道の安定輸送を脅かすハザードの一つとして雷害がある。本稿では鉄道電力設備について，雷害発生状況の分析とリスクマトリックスを用いて雷リスクを評価した結果を報告する。

5-217

電鉄用変電所主回路系統への雷サージ侵入時に電気設備に与える影響

○田中弘毅・武内 紳・伊東和彦・宮口浩一（西日本旅客鉄道）

筆者らは，電鉄用変電所の接地網を対象に雷サージ試験を実施し，その様相を明らかとした。雷撃は主回路へ侵入することでシリコン整流器用変圧器やシリコン整流器が損傷を受ける可能性も十分に考えられる。そこで，本稿では実運用していた変電所の老朽取替工事に合わせて使用停止した変電所を対象に主回路への雷サージ侵入を模擬したフィールド試験を実施した結果について報告する。

5-218

直流電鉄変電所における交流遮断器投入サージの信号設備への影響と伝搬経路に関する調査

◎和田 良・竹尻良夫・田口良一・武市 徹・伊東和彦・田中弘毅（西日本旅客鉄道）

変電所の受電用遮断器投入に伴い，踏切が鳴動する事象について，原因究明を実施し，受電用遮断器から踏切制御子バックアップ装置までの伝搬経路について検証した。 測定内容は，過去に事象が発生した御陵道踏切と木幡変電所の帰線引き込み箇所のレール上に仮設した踏切地上子の出力電圧，整流器用変圧器二次側交流電路の対地電圧（以下，対地電圧）と特高遮断器の筐体接地線電流，レール電位とした。対地電圧の測定は特高遮断器から発生する電流の様相を確認するために実施した。 結果，受電用遮断器から発生した105kHzを含む高周波ノイズが主にレールを経由して地上子へ伝搬し，踏切制御子バックアップ装置を動作させていることがわかった。

5-219

列車運行時のレール対地電圧を計算可能なレール対地電圧計算システムの開発

◎木村祥太・宮内 努・小熊賢司・高橋弘隆・寺村佳子（日立製作所）

短時間に列車運行時のレール対地電圧を計算するため，格子状抵抗をレール抵抗に圧縮し等価一層抵抗を作成する機能を有し，等価一層抵抗を用いた回路モデルで電車と変電所の電気回路を計算し，その結果から格子状抵抗の電位分布を計算してレール対地電圧を算出する，レール対地電圧計算システムを開発した。通勤路線を想定した計算時間評価の結果，構築したレール対地電圧計算システムの計算時間は，電車と変電所の電気回路計算に格子状抵抗を含む場合の計算時間推定値と比較して60%程度削減されており，本構成は計算時間短縮に効果があることを確認した。

5-220

Stray Current Monitoring Systemの応用技術例

○高橋弘隆・安河内 大・鈴木真聡（日立製作所 鉄道ビジネスユニット）

近年海外プロジェクトにおいては施主の要求で，IEC規格(IEC62128-2)やEN規格(EN50122-2)に規定された漏洩電流の常時監視を要求されている。これらの要求に対応するため漏洩電流による影響を短・中・長期的に計測し，駅ごとにその影響を観測，検証できるStray Current Monitoring System(以下SCMS)を開発した。 直流電気鉄道において，き電側の直流地絡事故が発生した場合，複数のTSSにて直流地絡保護が動作し，地絡点を特定するのに時間を要し列車運行に多大な影響を与えている例が多い。このような事例に対して早期に地絡点を特定するための一つの手法としてSCMSを適用した技術について事項に報告する。

5-221

VVVF制御車に適した50F保護特性（電流減衰判別形）の開発

○馬場武彦・西田康二・沖村 孝・井上 一（永楽電気）・長谷川隆博・幡本勝彦（東日本旅客鉄道）

VVVF制御車のパンタグラフが機械的要因等でトロリ線と離線し短時間で再着線した場合に生ずるフイルタコンデンサへの充電突流で，き電回路の保護装置50Fが不要動作する。この問題を解決するため，充電突流は減衰するという点に着目し，高速動作と誤不動作防止を満足するVVVF制御車に適した電流減衰判別形50F保護特性を開発した。

5-222

直流高抵抗地絡事故の実記録データおよび考察

○森本大観・樋口靖展（鉄道総合技術研究所）・伊東和彦・相原 徹・田中弘毅（西日本旅客鉄道）

直流電気鉄道の電車線設備に高抵抗地絡事故が発生してしまったが，変電所の情報計測装置によって，事故発生中のき電回線電流記録データを取得した。著者らはそのデータを分析・考察したので報告する。

5-223

時間帯毎の運行状況変化を考慮した直流き電鉄道への超電導ケーブルの導入効果の検討

◎岩月 駿・寺尾 悠・大崎博之（東京大学）・富田 優（鉄道総研）

直流き電鉄道でのき電線の電圧降下や回生失効といった課題への対策案として超電導ケーブルの導入が期待されている。これまでにも，省エネルギー効果が高いとされる運行頻度の高い時間帯において冷却損を上回る省エネルギー効果が示されてきた。本稿では1日の運行パターンを6つに分け，全ての隣接変電所間に超電導ケーブルを導入した際の各時間帯の消費エネルギーを積分することで省エネルギー効果を考察した。また，パンタ点電圧と変電所の出力電力の観点から変電所容量を考察し，超電導ケーブルによる容量削減効果について検討を行った。

5-224

鉄道変電所用直流絶縁監視装置の機能確認試験

黒石祥斗・◎西野哲也・髙市政和・武内 紳・伊東和彦（西日本旅客鉄道）・石井良介（ミドリ安全）・小島幸彦・塩見勝樹（日本電波）

筆者らは電気設備技術基準で定められた1mAの漏洩電流を検出できる装置を開発した。しかし，交流回線向けに開発したもので配電盤や各電力機器に使用されている直流回線には適用できないことから，今回は直流回線向けの絶縁監視装置を開発することにした。試作装置を使用してフィールド試験を行った結果，目標とする測定精度を満たしていることを確認した。一方，今回の試験において制御線の対地静電容量が想定していた仕様範囲を超えていた。フィールドの対地静電容量がさらに大きくなると測定精度に影響を及ぼす事が懸念されることから，今後は設備環境，運用方法等を考慮し，装置の対地静電容量に対する仕様について検討を進める予定である。

5-225

西宮変電所新設工事における切換方法の一考察

◎土井昭幸・中村悦章（西日本旅客鉄道）

当社の場合，変電所の老朽取替工事では，同敷地内で機器の更新を行うことが多い。西宮変電所は設備更新時期を迎えた芦屋変電所の機能を維持するために新設された変電所で，変電所位置が3km程度移ることから，駅負荷・信号設備に対する電圧降下の影響を事前検討することが必須であった。また，エアセクション（AS）位置が変更になるため，き電切換時には作業量及び送電試験方法についても課題があった。 本稿では，これらの課題解決による安全な切換の実現に向けて取り組んだ事例を紹介する。

5-226

静止形切替用開閉器の開放位相制御の検討

◎清水俊匡・甲斐正彦・久野村 健（東海旅客鉄道）・宮嶋宏樹（東芝インフラシステムズ）・市橋憲幸・保科俊一郎・青山文夫（東芝三菱電機産業システム）

東海道新幹線に適用される切替用開閉器の安定性向上と維持コストの低減を実現する静止形切替用開閉器は，開閉器を構成する12直列もしくは14直列のサイリスタの同時オンオフ動作が要求される。これまで，オフ動作時に一定のアノード電流が流れた状態ではサイリスタの同時動作が達成できないこと，および固定位相の開放制御等による対策が報告されている。今回，き電系統の条件により固定位相の開放制御では対処することができない事例が発生することを報告し，さらにアノード電流を直接計算する方式を提案することで，静止形切替用開閉器の運用拡大を実現する方策を報告する。

5-227

マハラノビス・タグチ（MT）法を用いた交流遮断器の状態基準保全に関する検討

◎狩野弘毅・金子昌史・松本和也（東日本旅客鉄道）

本研究では，機械学習技術を用いた交流遮断器の状態基準保全手法について検討した。解析手法として，機械学習技術の中でも多くの採用実績があるマハラノビス・タグチ法（MT法）を採用した。交流遮断器の動作時間，コンデンサ容量を測定パラメータとしてMT法による劣化診断を行った結果，マハラノビスの距離により機器の劣化状況の傾向を確認することができたが，測定値の僅かな誤差に対して，マハラノビスの距離が過大に反応している結果も散見され，異常と判断する閾値の決定には課題が残った。しかし，現状の時間基準保全を踏まえると，MT法は交流遮断器の故障の予兆を把握する手法としては有効であると考えられる。

5-228

山陽新幹線の駅舎・レール直結時における電食の可能性に関する考察

◎伊藤睦晃・豊田智広・大元輝行・城戸雅司・伊東和彦・相原 徹（西日本旅客鉄道）

レール電位抑制装置は，ホームと停車中の列車間の電位差を抑制する設備であり，山陽新幹線においては感電防止の観点から各駅に設置されている。同装置は，隣接直流電気鉄道からの迷走電流による電食を防止するために直流分を流さない装置構成となっている。 一方で，電食の恐れがない箇所については駅舎構造物とレールを直接接地としており，当社においては北陸新幹線の一部の駅において採用されている。山陽新幹線では，経年による取替時期を迎えており，直流電気鉄道までの距離が離れている駅もある。 そこで，直流電気鉄道と離れた新尾道駅において，電食の可能性を評価するための測定を実施し，その結果について考察した内容を報告する。

5-229

直流電界表示器の基礎検証

○長谷川恵太・三苫好久・甲田道明（東日本旅客鉄道）

直流電気鉄道では，変電所からき電線，トロリ線等の架線を介して電車に電気を供給している。電気を供給する架線は安全に電車の運行をするのに欠かすことが出来ない重要な設備であるため，架線の保守管理を欠かすことはできない。また，駅改良工事で架線を支持替等の施工も頻繁に行われ，変電所の架線引き出し口や大規模駅構内など多くの架線が輻輳している箇所が多くある。 架線の保守や施工を行う時は，架線を無加圧状態にしなければ，感電事故を引き起こしてしまう。そのため，き電停止を手配し，検電・接地を行ったうえで，架線を無加圧状態にして施工を行っている。しかし，先に述べたような架線が輻輳している箇所になると，全てを同時に無加圧にすることが運用上難しい。無加圧箇所と加圧箇所を確認できる補助票を作成し作業員全員に周知しているが，作業に集中してしまった際，加圧箇所の近くで作業をする環境となり，感電の危険が伴ってしまう。そこで，感電事故防止・誤接地防止を目的に，整流器で三相全波整流を行った際のリップル成分が含まれた直流電圧が架線に印加され，その架線の電界を包み込むように円筒電極にて検知することで架線の加圧状態を可視化できる直流電界表示器の基礎検証をしたので報告する。

5-230

塩害地区における電灯電力設備の保全の一考察

◎隂山大貴・小林勇二・森田 建（西日本電気テック）

本稿では塩害地区の懸垂がいしと高圧絶縁電線の腐食について調査した。懸垂がいしはがいしピン部の錆，高圧絶縁電線は支持点におけるトラッキングにより腐食を判定した。調査の結果，懸垂がいしは経年14年程度から取替が必要なものが多数見られたが，高圧絶縁電線については同年程度のものは取替が必要なものが見られず，経年24年程度から見られた。高圧絶縁電線と懸垂がいしの標準耐用寿命は同一の30年で，塩害地区に対しては標準耐用年数に環境係数を掛けて短縮する手法が今まで取られてきたが，統一した環境係数を用いる方が効率的な保全の面からは望ましく，塩害区間における懸垂がいしの寿命を延伸する方法を検討する必要がある。

5-231

がいし清掃の省力化に有効な洗浄剤の開発

◎長山健太郎・髙見雅人・黒川剛士・島田喜明（東日本旅客鉄道）・前田和也・谷口 元・神田智一（システムブレイン）

がいしは架空電線や設備を絶縁支持するために欠かせない重要な設備である。鉄道トンネル内のがいしは雨洗効果が期待できないため，夜間の保守作業間合いにて定期的に清掃しなければならない。JR東日本管内のトンネル内に設備されるがいしは約26万個あり，1～5年周期で清掃を行っている。従来の清掃工法は研磨剤を用いた磨き清掃等であり，電車線路設備メンテナンスの中でも特に労力を費やしている。そこで，がいし清掃作業の省力化を実現するため，トンネル内のがいし汚損に最適な洗浄剤を開発した。洗浄剤をがいし表面に塗布して汚損物を浮かし，水で洗い流すだけで汚損物を除去できるため，作業負担の軽減，作業時間の短縮が可能とある。

5-232

効率的ながいし清掃に向けた省水量高圧洗浄機の開発

◎上原勇希・髙見雅人・黒川剛士・島田喜明（東日本旅客鉄道）・佐伯邦人（サエキエンジニアリング）

トンネル内等，雨水が当たらない環境に設備されるがいしは，表面に堆積する粉じん等の影響により絶縁性能が低下してしまう。JR東日本では，この様な環境のがいしは定期的に清掃し絶縁性能の維持に努めているが，設備数量約26万個と多大な設備量であること，また清掃作業は手作業で作業性が極めて悪いことから，清掃作業の効率化が望まれている。そこで効率的ながいし清掃方法の確立に向け，狭あい部洗浄を目的とするがいし洗浄機を開発した。開発目標であるピン部洗浄を容易に行え，かつ使用水量を極めて少量とする装置の開発が行えた。

5-233

パンタグラフ加振に対するトロリ線種の応答差

○池田国夫（東日本旅客鉄道）

新幹線では，高速向きなトロリ線として，銅覆鋼線や析出強化銅合金線を用いている。これまで，両者は同等な高速性を有すと考えられてきたが，同等な入力（パンタグラフ押上力による加振）に対し，異なる応答（発生ひずみ量）を示す事象が生じており，また，各々で発生量の許容値も異なる。高速化と共にひずみは大きくなり，許容値に接近していくので，数種の線が混在する場合，発生量がより許容値に近づく線に注視せねばならない。応答に違いが生じるのは，主に構造の違いによると考え，簡易モデルを用いてパンタグラフ加振に対するトロリ線の応答解析を行った。その結果は，実際の走行試験の結果と同様にあり，高速化にあたり，ひずみ（疲労破断）を評価していく上での一助とできよう。

5-234

直流電車線路用亜鉛スリーブ付き懸垂がいしの磁器部破損に関する一検討

◎柴田直樹・臼木理倫・平川慎太郎（鉄道総合技術研究所）・生駒一起（東日本旅客鉄道）

直流電車線路用懸垂がいしの問題として，ピン部が局所的に腐食する電食があり，対策としてピン部に亜鉛のスリーブを取り付けた製品がある。しかし，文献によると「亜鉛スリーブ付きの懸垂がいしでも，ピン部の局部電池電流を打ち消す以上の漏れ電流が流れた際には，この保護が無効となりモルタル内のピン部も腐食する」という見解が示されており，懸垂がいし内圧上昇による磁器部の破損が考えられるが，具体的な発生事例の報告は些少である。本稿では，実設備に使用されていた亜鉛スリーブ付き懸垂がいしの等価塩分付着密度測定と解体調査を行った。

5-235

耐食性電車線支持装置の性能検証

○臼木理倫・菅原 淳・松村 周・池田遼平（鉄道総合技術研究所）・新 勇二・向井和仁（四国旅客鉄道）・山崎高広（電業）

絶縁水平パイプが初めて実用化された際，パイプの耐滑り荷重は設定されなかった。さらに，今日に至るまで，耐滑り荷重は定められてない。その後，絶縁水平パイプの耐食性を向上させた耐食性絶縁水平パイプを開発したが，その際にも，耐滑り荷重の検討は行っていない。そこで，絶縁水平パイプに対する耐滑り荷重を設定し，耐食性絶縁水平パイプを適用した耐食性電車線支持装置を開発したことを報告する。

5-236

電車線路門型装柱補強方法の検討

○山岡正英・出川定弘・加藤 洋（東日本旅客鉄道）

現在，当社では「電路設備の簡素・統合化工事（インテグレート化工事，以下インテ化という）」と呼ばれる設備の大規模更新工事を推進している。 インテ化とは，ツインシンプル架線・コンパウンド架線をき電ちょう架方式シンプル架線（当社呼称：インテグレート架線）にシステムチェンジするプロジェクトであり，首都圏の輸送量の稠密線区に対して推進している。 インテ化によって，電車線路の主要な電流経路であるき電線の位置が，ビーム上からビーム下に変わる。よって，インテ化が完了すると，各種荷重が作用した際に電柱根際モーメントが減少する。しかし，施工中においてはき電線・き電ちょう架線が同時に添架されるため，一時的に荷重が増加し電柱根際に掛かる曲げモーメントが増加する場合がある。 そこで，電柱根際に掛かる応力を，電車線路の門型装柱全体で分担するようにバランスを変更するための補強方法を考案したので，報告する。

5-237

アーク発生個所における温度・位置等の関係性検証

○加藤 洋・猿田裕司（東日本旅客鉄道）・伊藤雅利（フォトロン）・東森一範（FTR）

東北本線川口・西川口間の直線区間では2010年頃からアークの発生が報告されており，一部径間については摩耗の進行が速い。摩耗が進行している箇所については既にトロリ線に割り入れを実施している。 本検証では，高速赤外線カメラを使用してトロリ線の温度を測定・することにより，アーク発生時におけるトロリ線の温度上昇変化について確認した。 また，高速赤外線カメラの撮影結果から架線の周波数測定を行い，架線張力を推定，アーク発生の影響についても検証する。 さらに，3Dレーザースキャナを用いて電車線設備の点群データを取得した。これにより，大きな摩耗発生箇所とトロリ線の空間位置との関連性がみられるかについても検証を行った。

5-238

新幹線高速わたり線の保全に関する一考察

◎吉野太地・佐藤卓磨・大友祐一・中澤凌太・高橋由和・吉田涼馬・森田康一・寺川英克・加藤 彰・菊地和行（東日本旅客鉄道）

平成27年4月29日に東北新幹線郡山構内交差式わたり線箇所において，320km /hで本線を通過するパンタグラフが側線のトロリ線の摺面に接触し，切削を伴って摩耗が進行したことにより断線に至った。本事象を受け，東北新幹線の320 km /h走行区間において，無交差式わたり線（以下，高速わたり線）への改良を行った。改良後より行ってきた高速わたり線の架線測定結果から，温度変化等による構成変化を把握し，上下わたり線の管理値の見直しを行った。本研究では，上下わたり線箇所において見直しをおこなった管理値の妥当性を検証した。さらに，副本線わたり線箇所や特殊箇所である12番分岐器上で構成するわたり線の架線変動やトロリ線の摩耗状況について調査し，一定の傾向が得られたので，ここに報告する。

5-239

架線金具検査装置の開発

○山田創平・黒川剛士（東日本旅客鉄道）・髙野光平・島田英和・田林精二（明電舎）

電車線の検査は現在，軌陸車を使用して線路上で目視点検を行っている。この検査は至近距離検査と呼ばれ，夜間作業で一晩4人程度の作業員で実施している。しかし，将来の人手不足などに対応するため，これを代替する手法が望まれる。そこで，車両の屋根上から電車線の画像を撮影し，画像による検査が可能となる「架線金具検査装置」を開発した。また，本装置を試験車両に搭載して実際に走行しながら画像を撮影した。本稿では，装置の構成や仕組みを紹介するとともに，実際に撮影した画像を示して撮影条件による見え方の違い，これからの課題などを報告する。

5-240

電車線構造物用防鳥ネットの抗力係数測定

◎磯野達志・中村 琢・光用 剛（鉄道総合技術研究所）

鳥類の営巣防止を目的として電車線構造物に貼付する，いわゆる防鳥ネットの抗力測定試験を実施した．直結式密閉洞形態の水平単回流型風洞において，密閉洞の外側から両端支持する支持具を使用し，両端に3分力ロードセルを接続することで抗力を測定した．その結果，現在用いられている電車線構造物用防鳥ネットの抗力係数は0.32であり，同様の試験形態により測定した平板の抗力が1.27であったことから，その数値は平板の1/4程度のオーダーであることが分かった．その一方で，本ネットの素材部の断面形状を空気力学的観点により変更することで本数値を低減できることも明らかとなった．

5-241

亜鉛めっき鋼に対する塗装前素地調整の検討

○髙見雅人・黒川剛士・島田喜明（東日本旅客鉄道）・新貝昌大・竹田良太（三和テッキ）

鉄道電力設備の支持物には亜鉛めっき鋼が用いられており，設備延命の手段として塗装を行っている。塗装前には塗装面の浮きさび除去（以下，素地調整）を行っているが，素地調整の仕上げ程度を判断し難い。そこで本論文では，腐食させた亜鉛めっき鋼に研磨程度の異なる素地調整を行い，塗装をした後に促進腐食試験で塗膜表面の劣化変状を検証した。その結果，亜鉛めっき鋼支持物に適用する1回塗り塗料を用いた場合の塗膜の付着性と，塗膜の長期的な使用を期待する場合に目安となる素地調整の仕上げ程度を明らかにした。

5-242

AS複合架線構造の集電性能確認試験

◎伊東和彦・今村英樹・宮口浩一（西日本旅客鉄道）・和田祥吾・早坂高雅（鉄道総合技術研究所）

筆者らは直流電化区間のエアセクションに電車が停車することでトロリ線が断線に至る事象の対策として，AS複合架線構造を提案している。同構造の集電性能が明らかになっていないことから，シミュレーションおよび所内試験による確認を行ってきたものの，実車による性能確認については行われていない。そこで，AS複合架線構造を営業線に敷設し，実車による集電性能評価を実施し，90km/h以下において走行安全上問題ない集電性能を有していることを確認した。また，短期的にはトロリ線の摩耗へ影響がない結果を得た。

5-243

鉄道トンネル内架線支持用ステンレス製アンカーボルトの腐食に関する研究について

○中屋敷和大（東日本電気エンジニアリング）

鉄道トンネル内の架線支持に用いられているステンレス製アンカーボルトの腐食について実験を行った。 ステンレスは耐食性に優れていると言われているが，腐食が発生し設備破損が発生している。 本研究では，コンクリートに含まれるアルカリ成分による防蝕と，ステンレスの腐食原因である塩化物との関係に着目し腐食がどのような条件で発生するのか腐食促進実験を行った。 その結果，新品のコンクリートでも塩化物が存在すれば腐食が発生する可能性がある事が確認できた。 架線支持に用いられるアンカーボルトは穿孔した後に施工するため，塩分が侵入する可能性があり，環境によっても塩分付着の可能性があるため，注意を払う必要がある。

5-244

深層物体検出モデルの架線金具検査への応用

◎北澤源基・渡部勇介（明電舎）・松村 周（鉄道総合技術研究所）

現在の電気鉄道の集電方式は，レール上方に設置した架空電車線路(架線)から集電を行う「架空電車線方式」が一般的である。この方式では，架線上の金具の取り付けが不適切であると集電効率の低下や金具の破損が起こる可能性があるため，保守員による目視点検が必要であり，点検の負担が大きい。そこで我々は点検の省力化を目的として，鉄道車載カメラを利用した金具取り付け状態の遠隔検査システムの開発を行っている。その一部として，本稿では深層ニューラルネットワークを用いた物体検出モデルによる架線金具検出の結果を紹介する。実験では，6種類の架線金具に対しクラス平均97.4%の検出精度を達成し，手法の有効性を確認した。

5-245

ディープラーニングを用いた電車線路設備確認手法の検討

小原拓也・◎野本拓実・鉢路隆太郎（東日本旅客鉄道）

パンタグラフ監視装置は，駅構内のビーム上に設置されたカメラで通過列車を撮影する装置で，事故時における列車抑止区間の限定などに使用されている。しかし，本装置で撮影されるのは列車1編成ごとであり，パンタグラフ画像の抽出に人工を要していた。そこで，パンタグラフ監視装置からパンタグラフ画像のみを抽出するディープラーニングモデルを作成し，画像確認作業の高効率化を目指した。大宮電力技術センターで管理する10台のカメラを対象にしたモデルを作成したところ，高精度でパンタグラフ画像を抽出できることがわかった。またカメラ数を限定したモデルならば，列車種類が多い場合でもさらに抽出精度の向上が可能であることを示した。

5-246

き電線圧縮部の温度上昇検知に関する一考察

◎武内 紳・宮口浩一（西日本旅客鉄道）・片山信一・山川盛実・遠藤康利（三和テッキ）

き電線の温度上昇を検知するセンサーの検知手法の妥当性を検証した。検証試験の結果，最外層で局部加熱が発生した場合，温度上昇検知に時間差が生じる可能性があることが明らかとなった。しかし，アルミニウム合金の耐力が急激に低下する温度は約200℃であることから，70℃以上の温度上昇を検知することで，センサーによるき電線断線の未然防止が可能であると考えられる。

5-247

直流電気車車載エネルギー蓄積装置による集電電流ピーク値の抑制

◎髙橋昇大朗・高木 亮（工学院大学）

車載エネルギー蓄積装置は，饋電回路の抵抗による電圧降下や饋電損失，負荷不足時に所望の電力回生ブレーキ力を得られなくなる回生失効など，直流饋電システムのかかえる問題の緩和手法として期待を集めているが，具体的な制御手法やその効果について十分な知見が得られているとはいえない。本研究では，車載エネルギー蓄積装置により集電電流のピーク値を大幅に抑制し，饋電特性を改善する手法について検討した。

5-248

単線の勾配路線を想定したハイブリッド鉄道車両の制御法の検討

◎山口純平・宮武昌史（上智大学）

架線から供給される電気により走行する電化路線では，回生ブレーキや高効率な電動機の導入などにより消費エネルギーの削減が進んできた。しかしながら，日本の鉄道路線長の37.7%は，未だに電化されていない非電化路線である。そこでは，電動機と比較してエネルギー効率の低い気動車に代わり，ハイブリッド車両の適用が進みつつある。この車両では，従来の気動車では導入できなかった，制動時に運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する回生ブレーキを使用することができ，非電化路線での消費エネルギーの削減が期待されている。本研究では，ハイブリッド車両の蓄電池とエンジンのエネルギー出力分担について検討する。

5-249

蓄電池駆動列車における電力制限ブレーキの省エネルギー効果検討

◎佐藤拓哉・宮武昌史（上智大学）

架線式の電気鉄道では架線電圧が高い時に電流が絞り込まれ，回生失効が生じる。先行研究においては高速域に弱いブレーキを用いる電力制限ブレーキにより回生率が向上することが確認された。車載した蓄電池から電力を供給して走行する蓄電池駆動列車は，架線式の鉄道と比較して端子電圧の把握が容易であるため，電力制限ブレーキでより効率的に回生電力を回収できると筆者らは考え，今回シミュレーションによりその省エネルギー効果を検討した。 結果として電力制限ブレーキの省エネルギー効果は，走行時分が短いときと蓄電装置の充電率が高い時により大きな効果を発揮することが分かり，消費エネルギーは最大制動時と比べて約28%減少した。

5-250

直流電気車における回生絞り込み制御時の過電圧抑制制御系の設計法

◎川越夏樹・小林宏泰（千葉大学）・近藤圭一郎（早稲田大学）・岩崎哲也・永島 匠（小田急電鉄）・山下良範・権藤亮太（三菱電機）

直流電気鉄道では，車両駆動用インバータ入力電圧の大きさに従いトルク電流を制限する軽負荷回生制御により，負荷となる力行車の電力に合わせて回生電力を送電している。この制御でのゲインを大きくすると，高い電圧で回生することができ省エネルギー効果が向上するが，負荷急変時にはインバータ入力電圧の過電圧によりインバータの停止を招いてしまう。この問題に対し，従来の主電動機駆動インバータに内蔵されている過電圧抑制抵抗を活用して過電圧を抑制する手法が提案されているが，この手法における制御パラメータの設計法が明らかでなかった。そこで本稿では，回生時の負荷急変の中でワーストケースとされる回生負荷遮断を模擬したシミュレーションを用いて，フィルタコンデンサ電圧の上昇を抑制できる制御パラメータを設計する方法を提案する。

5-251

速度データを用いた電力量推定の精度評価

○小田篤史・徳山和男（日立製作所）・飯田隆幸・野村悠二・薗田秀樹（東日本旅客鉄道）

鉄道システムの省エネに向けて現状の消費電力量の見える化が重要である。電力量の計測は，駆動装置に設置されたセンサ情報を車両情報制御システムなどを介して収集するのが一般的である。ところがこの方法では車両情報制御システムが搭載されていない列車では電力量計測が出来ないという課題があった。本研究では簡易にデータ収集が可能なGNSSセンサーデータから電力量を推定することを目的としている。本論文は，GNSS データを用いた電力量推定の事前検討として，車両情報制御システムで収集した速度データを用いた電力量推定の精度評価を行った。電力量推定式の最適化により結果，推定電力量誤差が2%以下となった結果を報告する。

5-252

新幹線用バッテリ自走システムの開発

○加藤宏和・佐藤賢司（東海旅客鉄道）

新幹線車両の更なる安全性向上，機能向上として，自然災害等による架線停電時でも，橋梁，トンネルから脱出し，安全な場所まで走行するために，大容量バッテリ装置により自力走行するシステムを開発した．開発においては，(1)バッテリの選定や保護機能の工夫による安全性・信頼性の確保，(2)小型・軽量でシンプルなシステム構成，(3)メンテナンス等のための電源活用を考慮した．このため通常走行時は，バッテリを補助回路の静止型変換装置に繋いで充電し，バッテリによる走行時には，接触器により主変換装置の直流リンク部に繋ぎ替えて，主電動機を駆動するシステムを開発した．そして構内走行試験にて走行性能，充放電性能等，所定の性能を確認した．

5-253

鉄道車両の接地抵抗および車体・車間抵抗の実測結果

◎三木真幸・廿日出 悟（鉄道総合技術研究所）

鉄道車両の接地抵抗，車体抵抗および車間抵抗は車体地絡発生時の編成内電位・電流分布や他車帰線電流の吸い上げなどを考える際に重要なパラメータであるが，具体的な値に関する報告は従来あまりなされていない。在来線通勤形交流電車を対象とし上記の抵抗値を四端子法により測定した。接地抵抗についてはM車1両，4軸接地条件にて3.33 mΩの値が得られたほか，接地装置以外の電流経路の存在が示された。車体抵抗および車間抵抗は複数号車で測定を行い，それぞれの最小値である0.29 mΩ，0.71 mΩが真値に近いと考えられる。

5-254

編成電車の車体前後振動を抑制する空転再粘着制御方法の研究

○山下道寛（鉄道総合技術研究所）

車輪レール間の転がり摩擦を利用する鉄道車両では，安定輸送の観点から，悪天候などにより粘着係数が低下する場合でも列車加減速度を高く維持することが重要である。 電気車の空転防止機能として，主電動機回転子の速度やその加速度情報を用いてトルク制御する再粘着制御が広く採用されている。トルクの基本動作は，「引下げ」「保持」「復帰」である。これらの動作を決定するパラメータは，散水試験などを実施して，列車加速度が最大限引出せると考えられる値を経験的に求めている場合が多い。 今回，編成電車の数式モデルを用いて「列車加速度」と「乗り心地」を向上する空転再粘着制御方法の開発に向けた，また，営業車でのパラメータ設定範囲の目安を得るための取り組みについて紹介する。

5-255

建築限界支障判定装置の開発におけるレール・道床検知を用いた車体動揺補正手法

◎多田靖弘・長峯 望・遠山 喬・石井 琢・向嶋宏記・松山智彦・原田宗幸（鉄道総合技術研究所）

鉄道においては，列車運行の安全を確保するため建造物等が支障してはならない領域として，建築限界を定めている。我々は，建築限界測定の低コスト化を目的とし，測域センサを用いた建築限界支障判定装置を開発している。列車走行中は車体動揺によりレールに対する測域センサの相対位置が変動するため，動揺補正用に車体動揺値とロール角値が必要になる。本システムでは，レールの頭頂面を検知することで必要な値を算出していたが，支障物等の影響でレール頭頂面を検知できない場合がある。そこで，その補完手法として道床検知を併用した車体動揺補正を提案する。本稿では，その手法の手順，および算出したロール角の比較結果を報告する。

5-256

画像セグメンテーション法を用いた鉄道車両検査支援システムの検討

◎我妻 瞳・井山雄大・丸山智章・長洲正浩（茨城工業高等専門学校）

我々は鉄道車両の検査支援システムの開発を進めている。本研究では深層学習を用いた画像セグメンテーションが車両屋根上の異物を検出する手法として有効であるか検討した。車両模型の屋根を撮影した画像を教師画像とし，予測モデル作成した。分類は屋根と機器2種に加え，“未学習”の領域の4種類である。車両屋根上に異物がある場合には異物部分を“未学習”として分類できると仮説を立て，異物が存在する画像を入力画像として予測モデルの有効性を確認した。その結果，全体的に高い異物検出率を得ることができた。そのため，画像セグメンテーションの異物検出システムへの応用の有効性が示唆された。

5-257

沿線に形状的特徴物の少ない鉄道路線におけるLIDARの位置計測精度の検証

◎堤 雄飛・小田篤史（日立製作所）

地方路線における経営状況の悪化を背景に，工事費および保守費が莫大にかかる地上子の数を抑えつつ高精度に位置を計測する手段が求められる。高精度な位置計測手段としてLIDARが注目されており，特徴物が多い市街地では高精度に位置を計測できることが示されているものの，特徴物が少ない地方路線において計測した位置の精度は知られていない。 そこで本研究では，地方路線における実フィールド試験を通じて，LIDAR を用いて計測した位置の精度を検証した。その結果，走行距離に対する位置誤差は0.61%であり，速度計を用いた時に想定される位置誤差1%に比べて小さくなるため，従来の位置計測手段に比べて地上子の数を減らせる見込みが得られた。

5-258

埋設環境における920MHz帯無線センサーネットワークの構築

◎岩城詞也・岩澤永照・山口大介（鉄道総合技術研究所）

近年，鉄道分野においては設備状態監視に有効な周波数帯の一つとして920MHz帯を用いた無線センサーネットワークの利用が期待されている。当該周波数を鉄道に適用するためには，鉄道特有の様々な電波伝搬環境を考慮する必要があり，その一例として線路近傍の設備や土構造物では，列車の安全運行やメンテナンス等の観点から無線機を土中へ埋設することも想定される。そこで，本研究では，無線機を土中に埋設することを想定し，920MHz帯の土中埋設環境における伝送特性を把握する試験を実施し，その結果を基に試験盛土にて無線センサーネットワークを構築した。本稿では，それらの試験概要および結果について報告する。

5-259

防災情報システム冗長化における無線技術活用に関する研究

◎中山和彦・髙橋智弘・米本仁士（東日本旅客鉄道）・岩澤永照・中村一城（鉄道総合技術研究所）

防災情報システム（プレダス）は，沿線に設置した気象観測機器や災害検知システムのセンサ情報を指令等へ伝送し，気象状況などを把握して安全な列車運行を確保するシステムである。このシステムには1重系となっている箇所があり障害時には緊急での対応となる。そこでLPWAの無線技術を活用してプレダスを冗長化構成にすることで信頼度向上を目指し，鉄道環境におけるデータ伝送の検証実験を行った。その結果，駅中間に設置されている防災端局から機器室間におけるデータの送受信をLPWAにより伝送可能であることを確認した。これによりプレダスの冗長化構成にLPWAを活用することで信頼度の向上の可能性を見出すことができた。

5-260

地方交通線向け列車制御システムに用いる通信回線の特性評価

◎岩本功貴・山口大介・竹内恵一・岩澤永照・岩城詞也・中村一城（鉄道総合技術研究所）

近年，地方交通線等における，単線で駅間1閉そくの区間に導入されている列車制御システムである電子閉そくシステムの老朽化が進んでおり，システムの更新が必要となっている。そこで，駅周辺の限定したエリアのみで地上－車上間の通信を行うことで，地上設備を削減し，低コストでの実現を目指した列車制御システムが提案されている。本稿では，提案する列車制御システムへの汎用通信技術の適用を目指し，実線区に通信装置を仮設し，地上－車上間を構成する伝搬路のスループットおよび受信強度を測定した。その結果，システムの基本動作に必要な情報の伝送が可能なことを確認した。

5-261

鉄道沿線の伝送環境の変化を考慮したルーティング手法

◎岩澤永照・流王智子・羽田明生（鉄道総合技術研究所）

近年，無線センサネットワーク（WSN）の鉄道分野への適用に関する研究が進められている。鉄道における無線伝送環境は，周辺環境の変化や列車走行などにより変化する可能性がある。マルチホップ伝送を前提とした，動的なルーティング手法は，距離ベクトルベースのアルゴリズムが主流となっているため，無線伝送環境の変化によって通信が不安定になった場合においても，ホップ数を少なくする経路を選択していまい，データ到達率が低下する可能性がある。そこで本研究では，伝送履歴に基づいて，効率的にデータの転送先を切り替え，伝送環境の変化に対応するルーティング手法を提案し，シミュレーションによりその性能を確認する。

5-262

鉄道通信における診断信号重畳を用いた回線対照手法に関する研究

○米本仁士・髙橋智弘・中山和彦（東日本旅客鉄道）・竹内恵一・中村一城・山口大介・川村智輝（鉄道総合技術研究所）

東日本旅客鉄道では，安全で安定した鉄道輸送やサービス品質向上のために様々なシステムやネットワークを導入しており，これらのインフラ網の根幹を担う通信ケーブルを自社で整備している。高信頼な通信インフラ網を維持するためには，個々の回線管理が必要不可欠であるが，そのために必要な回線調査において，従来の手法では使用中（以下，現用）の回線のつながりを確認（以下，対照）する有効な手法がないという課題が存在した。そこで本研究では，現用回線に別の診断信号を重畳する対照手法について検討を行った。検証の結果，200Hzの診断信号を重畳することにより現用回線においても影響を与えることなく対照ができる可能性を示すことができた。

5-263

Bluetooth Low Energyを用いた新幹線設備データ収集システム実証試験

○田中 実・饗庭雅之・依田裕史（鉄道総合技術研究所）

Bluetooth Low Energy を用いた無線センサを監視対象の鉄道設備に設置し，近くを走行する車両に受信機を搭載することで，移動しながら効率良く監視データを収集する設備データ収集システムを開発した。動作確認のため，新幹線の駅に無線センサを設置し，通過列車でデータ収集する実証試験を行ったところ，時速255kmで温度，熱流束，三軸加速度の各データを2回受信でき，通信エリアと速度から求めた値と一致した。

5-264

地方線区における次世代列車運行管理システムに関する研究

◎石川義恭・尾形陽次・鈴木雅人・瀧川信治郎（東日本旅客鉄道）

弊社東北地方における列車運行管理システムは10～20年周期で設備更新を実施してきているが，各線区輸送密度・設備環境などの要件により様々な機能仕様や特殊性の高い設備が構築されてきた経緯がある。 列車情報の有効利用や昨今の汎用技術動向の観点から，現在の列車運行管理システムの課題を明確にし，次世代に向けた列車運行管理システムの要求仕様をシステム規模ごとに整理し，且つ，データ搬送に関する汎用技術の導入により安定稼働・信頼性を確保する仕様を整理していくことが必要であると考えており，本研究の実施状況と今後の方向性について報告するものである。

5-265

閉そく割り提案方法の構築に向けた検討

◎熊澤一将・加藤 怜・田中峻一・北野隆康（鉄道総合技術研究所）

自動閉そく区間では，信号機の現示により列車が運転されるため，信号機の位置や基数などを含めた閉そく割りによって列車の運転間隔や運転時分が大きく変化する。新路線建設や新駅開業，また駅の配線変更時には，運行計画や工事費などを考慮した閉そく割り検討が必要となる。信号保安や列車運行に関する知識を必要とする閉そく割り検討は，現在は運転設備担当者の経験に基づいて実施されており，システムによる支援が求められている。 本稿では，閉そく割り検討の流れや関連する既存研究をもとに，自動閉そく区間を対象とした閉そく割り提案アルゴリズムの構築に向けた方向性を述べる。

5-266

遅延の波及を考慮した列車の省エネルギー運転に関する研究

◎大場直樹・宮武昌史（上智大学）

鉄道の運転用電力削減手段の一つに省エネルギー運転がある。筆者らはこれまでに，先行列車に接近した際の省エネルギー運転曲線の理論的導出手法の提案と，局所的な場面でのシミュレーションを行ってきた。しかし，最適化対象の後続列車への影響や路線全体での効果の検証は実施されていなかった。本研究では実路線のダイヤを模擬して，遅延の波及を考慮した省エネルギー運転のシミュレーションを行った。結果として，筆者らの提案する最適化手法が後続列車に極端な悪影響を及ぼすことはないと確かめられた。また，余裕時分や運転時分の増加分が単純に力行時間の減少に使われるかどうかが，消費エネルギーの増減に影響することが明らかになった。

5-267

実ダイヤグラムへの適用を考慮した乗務員スケジューリング問題に対するリアクティブタブーサーチの適用

◎小久保達也・福山良和（明治大学）

乗務員スケジューリング問題（以下，CSP）とは，あらかじめ与えられた，ダイヤグラムと呼ばれる列車の運行予定に対して，必要な乗務員の勤務スケジュールを決定する問題であり，組合せ最適化問題として知られている。また，この問題は，就労上の理由により多くの制約条件が存在し，現実的には制約充足問題として解かれる。従来，CSPの研究は，数理計画法による列生成法の適用と，進化計算手法を用いた方式の2つに分けられる。本論文では，更なる解の探索領域拡大のため，実ダイヤグラムを用いた乗務員スケジューリング問題に対して，リアクティブタブーサーチ(以下，RTS)での解法を提案する

5-268

ダイヤ乱れ時の駅構内計画変更手法の基礎検討

◎加藤 怜・田中峻一・熊澤一将（鉄道総合技術研究所）

CTCの進展により，日本国内の多くの駅で信号設備は指令室で一括制御されているが，車両基地が隣接する駅など配線が複雑な箇所では，現在も駅で制御している場合がある。このような駅では，ダイヤ乱れ時には，指令から受領する本線上の変更手配に応じて，駅で構内計画を変更しなければならない。しかし，構内計画の変更は，構内配線や入換の支障関係など，様々な条件を考慮して実施する必要があるため，変更案の作成に時間を要し，結果として旅客の不便につながることがある。本稿では，駅で制御されている箇所を対象とし，ダイヤ乱れ時に指令から受領する情報をもとに，駅構内計画を変更する手法について，検討の方向性を述べる。

5-269

ディープラーニングを用いた列車前方映像からの人物検知に関する検討

○長峯 望・向嶋宏記・中曽根隆太（鉄道総合技術研究所）・酒井信弘・東家崇明・福井省三・吉村英晃（西日本旅客鉄道）

鉄道の安全性向上のために列車事故を削減することは重要である。特に，在来線において列車事故の被害軽減を目的として運転士による目視の補完や視認性の向上につながる前方監視技術が求められている1)。また，近年の人物検出手法としてカメラを用いた手法の実現性が高まっている。そこで，ホーム上のお客様の安全を確保，または，沿線での作業員の触車事故を防止するために，カメラによる画像認識技術や各種センサによるセンシング技術を活用して，誤検知を極力出さずに，線路内の人を検知し，車両衝突による人的被害を最小限に留めるための研究開発を進めている。本稿では，カメラによる線路の人物検知に関する検討について報告する。

5-270

画像認識技術およびAIによる検査処置判断の支援に関する研究

○石田秀一（東日本電気エンジニアリング）

近年，ビッグデータを活用したAI（ディープラーニング）によるデータ解析や画像判別等が注目されている。今後，鉄道信号においても高頻度に自動取得した画像データを検査に活用することが想定される為，設備の劣化状況等の不具合有無を画像データで判定するにあたり，ディープラーニングを活用できないかと考えた。本研究では，人の判断の精度を認識率として定量的に明らかにし，ディープラーニングがこの定量値を確保するのに有効な学習方法を明らかにすることを目的とした。その結果，学習は画像バリエーションを多くすることが有効であり，腐食と錆に伴う不具合有無の判定において，人の判断以上の判定能力を持つことが判明した。

5-271

旅客入出場時刻データを用いた鉄道往復利用の分析

○瀧本友晴・中挾晃介・國松武俊・辰井大祐（鉄道総合技術研究所）

鉄道において，旅客の利用区間，利用時間を詳細に把握することは，旅客のニーズに合致した列車ダイヤやの駅設備の計画のために重要である。 従来用いていた，自動改札機の時間帯別OD集計人数データでは，鉄道事業者が自社で管理する自動改札機以外を出場した旅客が捕捉できないという課題があった。 一方で近年，より詳細な旅客入出場時刻データが取得可能となってきた。そこで本研究では，このデータを活用し，旅客の鉄道往復利用を分析するとともに，上記のような，自社管轄外の改札から出場した旅客データを補間する手法を構築した。 提案手法を，実在路線の旅客データに適用し，その有効性を検証した。

5-272

自動改札機データを用いた列車の乗車人数推定手法の比較

◎中挾晃介・國松武俊・辰井大祐・瀧本友晴（鉄道総合技術研究所）

近年の情報通信技術の発展に伴い，自動改札機から旅客の入出場時刻を含む詳細な利用履歴データが収集可能となっている。我々は，実績のダイヤと旅客入出場時刻データを用いて，各旅客の列車乗継経路を推定し，その推定結果に基づいて各列車の乗車人数を推定する手法を構築した。本稿では，ある実路線を対象に，本手法による乗車人数推定結果と，目視による乗車人数調査結果との差を確認することで，有効性を検証した。従来の時間帯別OD集計人数データによる推定手法と比較することにより，提案手法は，旅客の列車選択嗜好を適切に設定することで，目視による乗車人数調査結果との差が縮小するという結論を得た。

5-273

次世代UIを用いた全席指定通勤鉄道向け出改札システムの構成に関する基礎検討

◎垣本真希・高木 亮（工学院大学）

東京圏の通勤鉄道では，最混雑時1時間平均で200 %程度の混雑が報告される路線が複数ある。超高頻度列車運行に関する著者の研究室の成果を応用すると現状の2倍程度の輸送力が実現可能であるが，それでもなお問題が残るため，超高頻度化と同時に全予約化を行うことがほぼ必須と考えられる。だが，通勤鉄道では既存の座席予約システムは手続きが煩雑で，それを用いた通勤鉄道の全予約化は難しい。しかし，可搬情報機器向けに様々な次世代のユーザインタフェース (UI) が開発されており，これらを駆使することで予約手続きの煩雑さを克服できる可能性がある。次世代UIや，それらを用いた出改札システムにおける利用方法や情報のやり取りを議論する。

5-274

直列補償型回生蓄電システムの開発とフィールド試験結果

◎野木雅之・真木康次・佐竹信彦・家入一郎（東芝インフラシステムズ）・植田 慎・引田和志（広島電鉄）

直列補償型回路を用いた定置型電気鉄道用回生蓄電システムを開発し，広島電鉄株式会社中央変電所において実証試験を行った。開発した直列補償型回路は，蓄電池と架線電圧の差分を，高周波絶縁回路を用いた第2の電源と4象限チョッパ回路を用い電圧加算することで蓄電池の充放電動作を実現している。この回路方式により，変換器は76％の設置面積低減・80％の重量の低減を実現した。実証試験では，走行中に整流器を開放させ蓄電装置で電圧を維持する無瞬断停電補償を実証した。また，蓄電池にはSCiB^TMを用いているため広いSOC範囲で運用することが可能である。そこで，特定時間帯に蓄電池のエネルギーをき電線に対し急速放電するピークカット機能の実証も行った。

5-275

バッテリーポスト化による使用電力量への影響

◎南之園弘太・橋本 慎（東日本旅客鉄道）・安河内 大・山本浩嗣（日立製作所）

JR東日本は回生電力の有効利用を目的に回生電力貯蔵装を導入している。過去の研究(1)では車両パンタ点電圧の低下を補償するためにバッテリーポスト化および蓄電池の小型化・高寿命化を目的に列車位置情報による貯蔵装置の制御方法を検討した。2017年10月から2018年7月までフィールド試験を実施し，車両位置情報による貯蔵装置の制御によって充電率（SOC）使用幅を低減することによる蓄電池の小型化の可能性（2）やワーストケースでの電圧補償効果を確認（3）することができた。本稿では，一連のフィールド試験におけるき電系統全体の使用電力量への影響について考察した。

5-276

電力貯蔵装置の動作設定値が省エネ効果に及ぼす影響に関する一考察

◎金子勝弘・三澤賢太郎・京泉 勉・川原敬治（西日本旅客鉄道）

鉄道システムの省エネルギー化を目的として，当社は野洲き電区分所へ電力貯蔵装置（Energy Storage System: ESS）を導入した。2018年8月までは導入当初の動作設定値でESSを運用していたが，回生電力がそもそも発生しない時間帯に不要な通常充電を行っていること，季節によっては充電電力量の大半が調整充電により供給されていることが確認された。 ESSの動作設定値である充放電開始電圧を変更してフィールド試験を行ったところ，変更前と比較して深夜帯における不要な通常充電が抑制され，デイタイムにおける調整充電の割合が低減されるという結果が得られたので，本内容について報告する。

5-277

列車の力学的エネルギーを活用した地上蓄電装置の充放電制御手法の検討

◎生出珠之助・小川知行・武内陽子・森本大観（鉄道総合技術研究所）

地上蓄電装置の一般的な充放電制御法では，充電開始時のSOCが高い場合に，十分に回生電力吸収を行えない可能性がある。一方，無線式列車制御システム，車両情報記録装置の導入などが進めば，列車の位置・速度などのリアルタイム情報を，蓄電装置の充放電制御に活用できると考えられる。本研究は，列車の位置・速度をリアルタイムで取得可能という条件のもとで，充電が必要となると予測されるタイミングにおいてあらかじめ開始時のSOCを低くし，かつ，適切なタイミングで充放電を行うことで，蓄電装置の稼働による省エネ効果を高める充放電制御手法の構築を目指すものである。本稿では，その基本的な考え方と，試算結果について報告する。

5-278

直流電鉄用地上設置型エネルギー蓄積装置の充放電制御へのPI制御の応用

◎仲俣友貴・高木 亮（工学院大学）

近年，直流電気鉄道において地上設置型エネルギー蓄積装置 (Stationary Energy Storage System: SESS) の導入が進んでいる。SESSの充放電制御には，一般的にその端子電圧に基づき充放電電流を決めるI-V特性制御が用いられる。しかし，その充放電開始電圧閾値などの充放電制御用電圧閾値の調整は困難な作業であることが知られている。これまで筆者らはPI制御を用いてこれらの電圧閾値を自動調整し，SOE (State of Energy) を目標値に収束させる手法を提案している。今回はその制御に，充放電電流がある電流閾値を超過している時間を制御する新たな機構を饋電特性シミュレータに追加し，シミュレーションによる評価を行った結果を報告する。

5-279

電力貯蔵装置を用いた抵抗制御車の非常走行試験

紺谷寛城・南 慎治（南海電気鉄道）・伊藤優太・福田博寿（GSユアサ）・加藤善也・○牧島信吾（東洋電機製造）

リチウムイオン電池を用いた電力貯蔵装置を用いて，抵抗制御電車の非常走行試験を実施し，橋梁部から次駅までの走行を確認した。また，非常走行結果の解析を行い，今後の非常走行が必要な状況に備えて，SOCが低下した状態でも非常走行ができるように消費電力量を抑制する運転方法を検討した。

5-280

新津駅への駅舎補助電源装置の導入

○須藤 健・星野竜也・相田悠太・清水克幸・亀田祐一（東日本旅客鉄道）・松村 寧・藤田敬喜・松本真一（三菱電機）・石倉修司（三菱電機エンジニアリング）

東日本旅客鉄道株式会社（以下，JR東日本）では地球環境保全の観点から，省エネルギー型の駅の実現に向けた取り組みである「エコステモデル駅整備」を実施している。今回，信越本線新津駅のエコステモデル駅整備において，JR東日本では初となる駅舎補助電源装置(S-EIV:Station Energy Saving Inverter)を導入したが，導入にあたり信号設備（軌道回路・踏切制御子）へ及ぼす影響の有無を信号誘導障害試験により確認した。試験の結果，長大軌道回路において帰線電流の許容値0.3Aを超過したが，短時間であり長大軌道回路で使用される2秒以上の時素リレーで許容できるため，長大軌道回路への実害は無いものと判断した。

5-281

回生電力と再生可能エネルギーを併用した鉄道沿線施設の最適運用計画

◎赤井秀行・宮武昌史（上智大学）

近年，太陽光発電等の再生可能エネルギーや蓄電池を鉄道駅に導入する取り組みが進んでいる。また，列車回生電力の一部を回収し，駅負荷で利用する装置の普及も広がっている。今後スマートシティの実現へ向けて，再生可能エネルギーや列車回生電力の利用が駅に限らない沿線施設で広がると期待される。ここで重要となるのは，こうした設備が導入された場合に，様々な制約の中でどのように設備を運用することがコスト的に最適なのかを検証することである。そこで本稿では，回生電力回収装置，太陽光発電，蓄電池を備えた仮想的な鉄道沿線施設を想定し，1日の運用コストが最小となるようなシステムの運用計画を混合整数線形計画法により導出する。

5-282

東京近郊区間におけるき電システムの回生絞込み電力量に関する分析

○佐藤栄徳・松本将卓・松崎俊太郎・青柳和弘・覺野重範・橋本 慎・小貫素彦・関島志郎（東日本旅客鉄道）

東京近郊区間(高崎線，東海道線，宇都宮線)で測定した車両の走行データを活用し，回生絞込み電力量を分析しエネルギー削減の可能性を検討した。その結果，3線区を合計すると1日あたり28.1MWhの回生絞込み電力量があり，回生電力の活用率が低い区間では，有効活用することでエネルギー削減の余地があることを示した。駅間の距離が短く変電所間隔が長い高崎線は，回生絞込み電力量が大きくなった。また東京近郊の過密区間に近づくほど回生絞込み電力量が小さくなった。回生電力の有効活用を検討する際は，線区や区間の検討が重要となる。

5-283

変換効率を考慮した回生横取りの評価

○林屋 均・中嶋 誠・松本 晃・大和久智宏（東日本旅客鉄道）・井上 一（永楽電気）

直流き電システムで実用が進む回生インバータについて，変換効率を考慮しながら，遠方の鉄道負荷で消費するか，回生インバータで駅に送電するか，その効率について相互比較を行い，変換したほうが高効率である場合について指標を与えた。

5-284

常磐線牛久き電区分所設置型RPC(Railway Power Conditioner）の導入効果検証

○佐藤尚美・薄井敏彦・井上力哉・内田正樹（東日本旅客鉄道）

JR東日本では，エネルギーの一層の効率的な利用を実現するため，スマートグリット技術を鉄道電力システムに適用している。その一端として，車両から発生する回生電力の有効活用のため，常磐線藤代変電所から土浦変電間にある牛久き電区分所に回生電力融通装置SP-RPC装置（Sectioning Post - Railway Power Conditioner）を2015年に設置した。SP-RPCは，両変電所の三相受電点の消費・回生電力をき電区分所の演算装置に情報伝送し即時制御するシステムである。導入効果として，1日あたり約7,400kWhの使いきれていない回生電力をSP-RPCを介し融通した結果となった。また，SP-RPC装置導入により受電電力量は運開前の2014年度比5%減の結果を得た。 初めて在来線交流き電区分所へSP-RPC装置を導入させるため，鉄道システムに対しICT技術と電力機器技術を組み合わせ，エネルギーの一層の効率的・効果的な利用を実現する技術であるスマートグリット技術を適用した。今後も引続き，回生電力の融通量の把握・分析を行い，導入効果の検証を進めて行くとともに，保全手法についても検証を進めていく。

5-285

鉄道用変電所内制御線のデジタル化に向けた基礎試験

◎平川慎太郎・小西武史・竹内恵一・山口大介・岩本功貴（鉄道総合技術研究所）・池上洋行（住友電気工業）

鉄道用変電所の機器制御や計測情報は従来有線によるアナログ信号で伝送している。一般にこれらの機能を実現するために必要な配線数は1変電所当たり1000本超と膨大であり，施工性や保守性に依然として課題が残る一方で，デジタル回線に改良することにより施工性・保守性・コスト低減が期待できる。本稿では，遮断器の操作連動を対象に各種通信方式による模擬回路を構成して，デジタル化に向けた基礎試験を実施した結果を報告する。

5-286

駅内配電システムの直流化に向けた券売機電源部への直流電源印加時の駆動検証

◎薗田洋平・筒井信道・仲野 淳・川原敬治（西日本旅客鉄道）・荒木紳児・松田 博（JR西日本テクシア）

駅内直流配電システムの導入費用を削減するに当たり，既存の電機設備を再用することが望ましいと考え，既使用の券売機の交直変換ユニットを対象に直流電源印加時の駆動安定性および電力変換効率を確認した。この結果，許容直流入力電圧下で安定駆動すること，および有効電力の変換効率は交流電源印加時とほぼ同等であるが，皮相電力の変換効率は交流電源印加時より大幅に改善されることを明らかにした。故に，ある一定の直流電源下で既使用の交直変換ユニットを再用できる見込みを得るとともに，皮相電力（ジュール損）低減による省エネルギーの推進や，電機設備だけでなく受変電設備や配電線の長寿命化・小型化が期待できると考えられる。