一般講演

2-001

SiC-MOSFETインバータ電源により生成した高繰り返しパルス電圧下のエナメル線ツイストペアにおける部分放電開始電圧の周波数特性

◎石見歩夢・山田楓真・大里辰希（兵庫県立大学）・石川裕卓・宮路仁崇・大竹泰智（三菱電機）・奥田貴史・中村 孝（ネクスファイ・テクノロジー）・菊池祐介（兵庫県立大学）

SiCインバータによるモータの高効率運転が注目される一方，SiCインバータの立ち上がりの速いサージ電圧がモータコイルに印加されると，部分放電が発生し，早期に絶縁破壊する危険性がある。我々はSiC-MOSFETインバータ電源をエナメル線ツイストペアにおける部分放電実験に適用してきた。本講演では単極性・両極性の繰り返しパルス電圧下（立ち上がり（1000 V時）：18 ns，繰り返し周波数：60 pps～500 kpps）の部分放電開始電圧（RPDIV）の周波数特性について調査した。その結果，単極性と両極性パルス電圧下のPDIVはほぼ等しく，両極性パルス電圧ではPDIVとRPDIVの差は小さくなることが分かり，部分放電フリーの評価において試験電圧波形の重要性が確認された。

2-002

エナメル線ツイストペアにおける繰り返しパルス電圧下の部分放電開始電圧に与えるパルス電圧波形の影響の数値解析

◎山田楓真・大里辰希（兵庫県立大学）・石川裕卓・宮路仁崇・大竹泰智（三菱電機）・菊池祐介（兵庫県立大学）

エナメル線ツイストペアに繰り返しナノ秒パルス電圧を印加した際の部分放電の模擬するため，大気圧乾燥空気下に置かれた平行平板電極の1次元モデルで誘電体バリア放電の数値シミュレーションを行った。比誘電率3.8，厚さ38μmのっ誘電体を両電極上に配置し，ギャップは40μmとした。この電極間に単極性の矩形波パルスとインパルス電圧をそれぞれ印加し，部分放電を有限要素法(COMSOL Multiphysics)で計算して比較を行った。その結果，インパルスの方が立ち下がりの逆放電が小さく，次のパルスの放電がより発生しにくいことが分かった。講演では両極性パルス電圧の場合についても議論する予定である。

2-003

スイープ電圧印加時におけるエナメル線ツイストペアのPDIV分布

◎亀井 陸・岡田 翔・上野秀樹（兵庫県立大学）・宮崎優伍・太田槙弥・溝口 晃・中島晋吾（住友電気工業）

近年，産業用モーターは高集積化，高電圧化によって部分放電が生じやすくなっているが，部分放電は抑制することが望まれる。しかし，部分放電開始電圧(PDIV)は，部分放電発生因子である初期電子によって統計的に考えた場合，正規分布となる可能性が示唆される。そこで本研究ではPDIVの広がりについて調査を行った。今回はエナメル線ツイストペアにスイープ電圧を印加し，放電電荷量100 pC以上かつ放電頻度50 pps以上の時の電圧波高値をPDIVとして測定した。それで得たデータによってヒストグラムを作成し，評価を行った。その結果，最頻値1080 Vに対して最小値とは120 V，最大値とは280 Vの差が生じた。今回の測定では，最頻値より高電圧側に広く分布する結果となった。

2-004

球対球電極系で挟んだセラミック基板におけるフッ素系液体封止材中の部分放電特性の評価

◎坂本アクバル大地・末永翔大・岡本空大・泊岩龍斗・土江基夫・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）

パワーモジュールの絶縁封止材には一般的に固体または半固体の材料が用いられる。しかし，これらの絶縁材料には，放熱性の低さや自己修復性の欠如などの課題がある。一方，液体絶縁材料を封止材に適用できれば前者の課題を克服できる可能性がある。そこで，本研究では各種絶縁液体材料の封止材への適用可能性を調査している。本報では，液体封止材として，動粘度が低く放熱性に優れる3種のフッ素系液体とエステル油に注目した。セラミックス絶縁基板を球-球電極系で挟んだ単純構造における部分放電開始電圧（partial discharge inception voltage: PDIV）への各種液体封止材の影響を調査した結果を報告する。

2-005

絶縁フィルムのイオン化エネルギーと放電遅れ時間の関係に関する検討

◎酒森貴史・宮路仁崇・大竹泰智（三菱電機）・梅本貴弘・佐藤正寛・熊田亜紀子（東京大学）

環境負荷低減の要求に対するインバータ駆動モータの適用拡大に際し，スイッチング高速化等に伴い，絶縁要求が過酷化している。特に，インバータサージにより部分放電(PD)が発生すると，絶縁破壊に至るおそれがあるため，PDの発生機構を理解することが重要である。そこで，本稿では，モータにおけるPDの発生要因である被覆樹脂からの電子放出に着目し，絶縁フィルムの統計時間遅れの実測を行い，被覆樹脂ごとに統計時間遅れが異なることを明らかにした。また，今回の実測結果と量子化学計算から得られたイオン化エネルギーを比較し，被覆樹脂のイオン化エネルギーが統計時間遅れを決定する要因の一つであると考えられる。

2-006

静電チャックの下部電極径と内部電極径の違いによる部分放電特性

◎大森康平（静岡理工科大学）・菅原大和・荒島純弥（巴川コーポレーション）・石田隆弘（静岡理工科大学）

現在半導体製造プロセスにおける生産効率を上げることを目的として，静電チャックに印加する電圧の高電圧化が検討されている。静電チャックの一部を模擬した測定用モジュールを巴川コーポレーションにて製作し，試験サンプルとした。内部電極よりアルミ電極径が大きいサンプルと，内部電極よりアルミ電極径が小さいサンプルにおいて部分放電開始電圧・放電電荷量を測定した。内部電極よりアルミ電極径が大きいサンプルと比較して，内部電極よりアルミ電極径が小さいサンプルでは部分放電開始電圧の大きな低下が確認された。電極シート内部の内部電極径は基台表面のアルミ電極径に対して小さい方が部分放電を抑制できる可能性が示唆された。

2-007

電力線搬送通信における通信速度と信号対雑音比を用いた部分放電信号の識別

◎木本涼太・Lunnetta Safura Lumba・宮川瑞輝・豊田志苑・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）

本研究ではこれまで，安価な電力線搬送通信(power line communication：PLC)とフェライトコア(ferrite core：FC)を用いた，部分放電(partial discharge: PD)監視システム(PLC-PDMS)の構築・実証を検討してきた。これまでは，比較的簡便な通信速度(PHY rate)を主に活用して信号分析してきた。本報では，PHY rateと信号対雑音比(CINR)の双方を用いてPD信号を分析することで，欠陥種同定に繋げるべく新たに検討した結果について報告する。

2-008

絶縁樹脂基板上の複数微小電極における部分放電特性によるボイド位置推定の検討

◎岡本空大・末永翔大・泊岩龍斗・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）

次世代のパワーモジュールへの開発に向けた材料・部材の絶縁信頼性評価手法は，いまだ十分に確立されていないのが現状である。この課題に対し，筆者らはこれまでに，複数の微小ボイドを含む樹脂絶縁基板における部分放電(partial discharge: PD)特性を評価し，PD発生頻度が絶縁破壊電圧と相関することを明らかにしてきた(1)。しかしながら，ボイドの大きさ・形状・数量およびPD発生箇所と，得られた電気特性の相関については依然として不明である。本報では，樹脂絶縁基板におけるボイド欠陥位置を推定することを目的として，前報と同じ樹脂絶縁基板上に多数の微小電極を設け，PD測定を実施した結果を報告する。

2-009

各種材料における部分放電劣化による浸食構造

◎中村陽央・青木裕介（三重大学）・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・伊藤大貴・大山公治・中前哲夫・前田照彦・尾崎多文（東芝産業機器システム）

本研究では，樹脂絶縁材料の部分放電（PD）による耐部分放電特性を評価し，ポリエチレンテレフタラート（PET），ポリイミド（PI），エポキシ樹脂（EP）の浸食構造の違いを比較した。模擬ボイド試料を用いて，PDエネルギーと浸食深さの関係を測定し，表面構造をSEMで観察した。結果，単位エネルギーあたりの浸食量はEP＞PET＞PIの順で大きく，浸食部の表面構造はEPは滑らかな表面，PETやPIは凹凸構造を形成した。これらの違いは，材料の結晶性や非晶質性によるPD浸食進行の特性に起因すると考えられる。

2-010

部分放電による放電活動変化の把握に基づく絶縁寿命予測

◎竹内 健・青木祐介（三重大学）・小迫雅裕・匹田政幸（九州工業大学）・伊藤大貴・大山公治・中前哲夫・前田照彦・尾崎多文（東芝産業機器システム）

高電圧機器などの絶縁体中のボイド，クラックなどで発生する部分放電(PD)によって樹脂材料の劣化が進行し絶縁破壊に至ることが知られる。我々はこれまで樹脂材料としてPETを対象として，欠陥構造を模擬した樹脂モールド球電極/PET/空間/PET/透明電極系を用いて位相分解部分放電パターン(PRPDP)と実際の放電発光画像の観察によるPD活動と樹脂表面構造との関係性を調査してきた。今回はさらなる長時間試験を行い，樹脂表面構造成長の調査をした。放電による浸食が成長し，浸食深さが樹脂厚さに至ったとき全路破壊に至ると定義して，寿命を予測する。

2-011

エポキシ樹脂中のトリー進展に伴う部分放電電荷量の変化

◎服部佑輝・村上義信・川島朋裕（豊橋技術科学大学）・宮路仁崇・澤田 亨・塩田裕基（三菱電機）

近年の電力需要の増加により，電力機器の絶縁性能の向上が求められている。電力機器の長期的絶縁性能の低下の原因として，電気トリーによる絶縁劣化が挙げられる。その電気トリーによる絶縁劣化の原因の一つにはトリー管内における部分放電現象が関与している可能性が高いとされていることから，トリー管内における部分放電現象を解明することは重要である。そこで，本研究では，トリー長さが異なるエポキシ樹脂試料を用いて，一定交流電圧下における部分放電電荷量を測定した。その実験結果から得られたトリー長さと部分放電電荷量の関係を報告する。

2-012

ツイストペアにおけるパルス電圧下の部分放電電荷量と電磁波周波数特性の相関解析

◎川上遼太・堀内淳司・岡田 翔・上野秀樹（兵庫県立大学）・宮崎優伍・太田槙弥・溝口 晃・中島晋吾（住友電気工業）

近年, 高効率化という観点から，インバータ駆動によるモータ制御が注目されている。半面, 駆動電圧に対して過電圧なサージ電圧が発生し，モータを構成する巻線間で部分放電劣化を招く可能性を持つ。そのため,単形波電圧下での部分放電による研究が行われている。しかし，サージ電圧下での部分放電現象は複雑であり，部分放電の規模を定量する指標となる電荷量の評価方法が確立されていないのが現状である。そこで今回は電荷量の評価方法として，部分放電により発生する電磁波に着目した。電磁波信号と電荷量の関係について基礎的な知見を得ることを目標とし，電磁波の周波数特性と放電電荷量の相関について検討を行ったので報告する。

2-013

22kVモールド変圧器における部分放電検出と過渡接地電圧信号の周波数成分解析

◎豊田志苑・宮川瑞輝・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）・原田芳裕・柴田輝雄・宮崎和則・二川和弘（東京電力パワーグリッド）

本報では，22 kV級CRTrにおける，過渡接地電圧信号に含まれる周波数成分と，その発現要因に関する検討結果を報告する。変圧器内部で発生した電磁波が内部構造によって共振し，150 MHz付近の周波数成分が強調され，その信号がTEVセンサによって検出されたことが示唆された。

2-014

部分放電波形から推定した伝達関数に基づく放電空間の状態推定に関する基礎検討

○川島朋裕・村田壮史朗・勝目 隼・村上義信・穂積直裕（豊橋技術科学大学）

一般的な部分放電（PD）計測では，結合コンデンサを介して流れる放電電流を，検出インピーダンスの両端に発生する電位差として検出する。このとき計測される波形は，放電点における本来のPD波形と，試料系を含めた計測系の伝達関数との畳み込みとなる。本研究では，推定した計測系の伝達関数により逆畳み込み処理することで，本来のPD波形（単峰波形）に復元した。更に，伝達関数の特徴に基づいて，絶縁系の状態推定を試みた。

2-015

各種フィルム絶縁材料の針－平板電極系における放電パルス幅および放電ピーク時間

◎欧陽高遠・隋 昊軒・植原弘明・岡本達希（関東学院大学）

高電圧電力機器内部の固体高分子絶縁材料は，長年使用されることで，さまざまなストレス要因に基づく劣化が発生する。特に，電気的ストレスは重要な劣化要因であり, 部分放電 (以降，PDと略す) による高電圧電力機器の故障や事故発生に至る可能性がある(1)。
本稿では，空隙のPD発生を模擬した針―平板電極系を使用し，PET，PENおよびPI試料における部分放電電流を計測したので，その結果を報告する。

2-016

架橋度の異なるシリコーンゴム中の放電発光と電気トリーの観察

○竹本光輝・上野碧斗・全 現九・井堀春生（愛媛大学）

電気トリーイング現象の考察は，その現象を高速度カメラによって撮影し，得らえた動画や画像を確認することで定性的になされるのが一般的である。我々はシリコーンゴム中を進展する電気トリーの放電発光を局所的にとらえ，その発光量や放電電流をもとにトリーの進展機構の考察を試みている。本研究では，架橋度の異なるシリコーンゴムに対して，局所発光とトリーの形状の同時観察をおこない，トリーの進展との関係を検討した結果を述べる。

2-017

シリコーンゴム/エポキシ樹脂2層試料中を進展する電気トリー

◎會田哲土・全 現九・井堀春生（愛媛大学）

シリコーンゴム中に発生する電気トリーは，架橋度の違いによって形状や絶縁耐力が変化する。このことを利用した，架橋度の異なるシリコーンゴムを層状に組み合わせた2層試料では，界面上に電気トリーが広がって，対向電極方向へのトリーの進展を抑制するバリア効果の発現が確認された。このバリア効果は弾性率の異なる高弾性材料と低弾性材料を組み合わせることで発現することがシミュレーションによって推察されている。そこで本研究では，高弾性材料にエポキシ樹脂，低弾性材料に低架橋シリコーンゴムを組み合わせた2層試料を作製し，バリア効果の発現について調査した結果を述べる。

2-018

電流積分法は何を測るか（その2）

○大木義路・平井直志（早稲田大学）・Baskarasethuptathi Thangabalan・田中康寛（東京都市大学）

前報に，「電圧印加中には電流積分法により空間電荷の蓄積を計測できないが，電圧印加下での測定が終了し回路を短絡した時点以後の電荷量Q(t)がゼロに戻るときの経時変化を解析することにより，試料内に蓄積された空間電荷の減衰挙動を推定することはできる。」と書いた。その詳細を既に研究会資料の形では報告しているが，電流積分法の汎用性を広く紹介するために，新しい記述を加えた上で，その骨子を再び述べる。

2-019

シリコンオイル中の針‐平板電極系のQ（x,t）測定

○福間眞澄（松江工業高等専門学校）・藤井雅之（大島商船高等専門学校）・関口洋逸（住友電気工業）

絶縁材料の電気伝導特性の測定に電流積分電荷法を利用したQ(t)メータが利用されつつある。ここでは，筆者らが製作した1次元のQ(t)メータ[Q(x,t)メータ]の測定結果を報告する。実験結果としては，シリコンオイル中の針‐平板電極に直流電圧を印加した場合の電流分布を測定した。

2-020

MEMS-PZTを用いた高温用高位置分解能空間電荷分布測定システムの開発

◎中嶋海翔・山中誠也・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）・神田健介（兵庫県立大学）

近年，電気機器の小型化に伴い，30 µm以下の薄膜絶縁材料が高温環境下で使用されている。それらの空間電荷蓄積特性評価のために，ポリマー製薄膜圧電素子を製膜し，高温・高位置分解能の空間電荷測定装置を開発してきたが，薄膜化の限界と耐熱性により，高温での薄膜絶縁材料の評価が困難であった。本研究では，耐熱温度が600℃で，薄膜化が可能なチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3: PZT)をセンサとして空間電荷分布測定装置を構築し，25µm厚の薄膜ポリイミド(polyimide: PI)フィルムを用いて140 ℃下での測定評価を実施した。その結果，直流印加直後の空間電荷波形より，分解能は2.5 µmである事が確認でき，140 ℃の高温下で25 µmという薄膜絶縁材料の空間電荷分布計測が可能となった。

2-021

パルス静電応力法における試料・電極間の音響整合の解析

◎李 曉欣・川島朋裕・村上義信（豊橋技術科学大学）・穂積直裕（穂積計測研究所）・穂積直裕（名古屋産業科学研究所）

パルス静電応力法は，空間電荷が形成する電界にパルス電界を作用させて生じる音響信号を外部に取り付けた音響センサで検出し，電荷の大きさと位置を計測する手法である。空間電荷がない試料の両側電極間にバイアス電圧を印加し，界面を音源とする信号を参照信号として電荷密度の較正を行うが，実用絶縁系では試料と電極の音響不整合による反射成分が重畳し，試料の音響伝搬パラメータの取得に誤差を伴うことがある。その補正について検討した。

2-022

交流ボイド放電特性に及ぼすインパルス・プレストレスによる残留電荷の影響

◎長谷宥里・宮崎光生・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）・三宅弘晃・田中康寛・遠藤和樹（東京都市大学）・藤井祐樹・中村勇介（東芝インフラシステムズ）・伊藤大貴・中前哲夫・大山公治（東芝産業機器システム）

これまでモールド変圧器やその絶縁紙におけるインパルス・プレストレスよる交流部分放電開始電圧（partial discharge inception voltage: PDIV）の低下現象および絶縁劣化現象について検討してきた。本稿では，インパルス部分放電電荷量，インパルス・プレストレス後の蓄積電荷量および交流部分放電特性の実験的検証を報告する。

2-023

電流積分電荷法によるDCP樹脂とエポキシ樹脂の高温環境下での絶縁性能の評価

◎池田安孝・豊澤宗真・三宅弘晃・田中康寛（東京都市大学）

DCP樹脂は硬化する前の粘度が低いなどの優れた特性を有し，高い絶縁性が確認されればパワーモジュール封止材などへ利用が期待されていることから，Q(t)法を用いて電気絶縁性を評価し，現在のパワーモジュール封止材に広く用いられているエポキシ樹脂と比較を行った。いずれの試料も50℃以下では優良な結果が得られたが，エポキシ樹脂では120℃付近で総電荷量比の顕著な増加が確認された。一方，DCP樹脂では160℃以下まで優良な結果が確認されたことから，エポキシ樹脂では高温環境下においてTg以下でも絶縁体として優良とは言えないが，DCP樹脂は140℃程度の高温環境下において絶縁材料としての利用が期待される。

2-024

陽子線繰り返し照射によるFEP内の空間電荷蓄積特性

◎阿部伎晃・森田尚斗・三宅弘晃・田中康寛・羽倉尚人（東京都市大学）

本研究では，月面環境における高エネルギー陽子の繰り返し照射が宇宙機絶縁材料FEPに与える影響を評価するため，陽子線の繰り返し照射実験を行った。2 MeVの加速エネルギーで，電流密度を3および15 nA/cm²の2種類に設定し，同一試料に2回の照射を実施。各照射間には3時間の休止状態を設け，照射中の空間電荷分布を測定した。その結果，15 nA/cm²では1回目照射終了時と2回目照射開始直後に正電荷蓄積量の増加が見られたが，3 nA/cm²では顕著な変化が確認されなかった。また，電流密度の増加に伴い電界強調が正の相関を示した。さらに，低電流密度では休止状態(3時間)が電荷蓄積特性に大きく影響を与えないことが確認された。

2-025

5kV/mm印加時における紫外線照射LDPEの電流計測

黒野正子・○光本真一（豊田工業高等専門学校）・栗本宗明（名古屋大学）・芳原新也（近畿大学）・藤井雅之（大島商船高等専門学校）・福間眞澄（松江工業高等専門学校）

電力ケーブルの電気絶縁材料としてポリエチレンが広く用いられている。また屋外に設置された電力ケーブルの絶縁部が露出している場合，紫外線がポリエチレンに絶えず照射される。薄いポリエチレンに対して紫外線は透過力が高いが，厚さが0.2mmを超えると透過率が低下していくことが報告されている。またポリ塩化ビニル(PVC)に紫外線を照射すると抵抗率が低下することも報告されている。今回は紫外線照射LDPEにおいて5kV/mm印加時の電流値を電流積分電荷法により評価した。

2-026

LDPEとXLPEの直流高電界伝導における酸化防止剤の電流抑制効果の違い

◎西原丈詞・弓達新治・尾﨑良太郎・門脇一則（愛媛大学）

本稿は，低密度ポリエチレン（LDPE）と架橋ポリエチレン（XLPE）の直流高電界における伝導特性に対する酸化防止剤の影響を比較した研究である。LDPEでは，酸化防止剤が定常電流を低下させ，スパイク電流を抑制することが確認されているが，XLPEではその効果が異なり，むしろ電荷移動を促進する可能性が示唆されている。この違いを明らかにするため，両材料に酸化防止剤を添加し，空間電荷分布と電流特性を比較した。その結果，酸化防止剤の効果がLDPEとXLPEで異なるメカニズムに基づくことが示唆された。これらを踏まえて，本研究では，絶縁材料の特性向上や信頼性向上に関する知見を提供する。

2-027

シリコーン油の絶縁特性と気泡溶解性評価

◎竹平徳崇・栗山遼太・前納 覚・北野玄武・笹森健次（三菱電機）

シリコーン油は絶縁性能や耐熱性に優れ，鉱油より難燃性が高いため，これまで車両用変圧器や固体絶縁開閉装置などの電力用機器に長年適用されてきた。今後はカーボンニュートラルの観点から，固体絶縁物内に真空バルブとシリコーン油を封入した，SF6ガスを使用しない固体絶縁開閉装置の適用が見込まれる。しかしながら，鉱油と比べシリコーン油の統計的な絶縁特性などに関する報告が少なく，絶縁信頼性向上の観点からシリコーン油の試験データの充実が望まれる。本論文ではシリコーン油の絶縁特性(水分依存性，ワイブル分布，および体積効果)と，絶縁低下の要因となり得る気泡の溶解性について報告する。

2-028

各種フッ素系液体の分子記述子と絶縁破壊強度の相関係数の調査

◎末永翔大・泊岩龍斗・岡本空大・土江基夫・河野翔也・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）

本報の目的は，フッ素系液体において絶縁破壊電圧に影響を与える分子構造上の因子を調査することである。本報では，8種のフッ素系液体の電極間隔1mmにおける絶縁破壊電圧および分子構造のSMILES表記から計算した210個の分子記述子との相関係数を求め，その調査結果について報告する。結果として，HallKierAlphaおよびFpDensityMorgan2は高い相関を示すことがわかった。このことから，比較的シンプルな分子骨格（直線的または対称性が高い）を持ち，過度に分岐・複雑化していない一方で，電子密度の偏りが強い領域を持つ分子が高いBDVを示す傾向にあると推察できた。また，フッ素系液体のBDV予測および分子構造の設計において，SMILESを用いた分子記述子の計算が有用であることが示唆された。

2-029

Investigation of Dielectric Breakdown Strength in Mechanically Prestressed Silicon Nitride

◎Hana Kim・Masayuki Hikita・Masahiro Kozako（Kyushu Institute of Technology）・Eishin Inoue・Shijie Zhu（Fukuoka Institute of Technology）

This study examines the breakdown strength of silicon nitride (Si₃N₄) under mechanical stress to clarify the influence of mechanical prestress on electrical breakdown strength. It is shown that the AC breakdown strength decreases as the maximum stress for prestressing tests increases, up to a 7% decrease in the prestressed samples. Moreover, the prestressed samples exhibit a lower shape parameter value compared to the samples without prestress. In this research, the effect is evidenced for the Si₃N₄ material, because the mechanical prestress can cause defects such as microcracks in the samples.

2-030

多面体および板状アルミナフィラー配合エポキシ複合材料の比誘電率における電場配向効果

◎羅 皓澤・篠崎圭祐・Hana Kim・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）

筆者らは高分子複合材料における熱伝導性向上とフィラーの低充填率化を目的とした研究を進めてきた。具体的なアプローチとして，電場配向を用いて高熱伝導性フィラーをエポキシ樹脂シート中に配向させ，フィラー間の橋絡を促進することで材料全体の熱伝導性を向上させる方法を検討している。本報では，電場配向の有無および最適なフィラー添加率や混合比率を明らかにするために，多面体および板状アルミナフィラーを配向させたエポキシ・アルミナ複合材の熱伝導率，比誘電率，並びに材料断面のSEM像より評価した結果について報告する。

2-031

アルミナゾル複合化ポリイミドフィルムにおける絶縁特性評価

◎米滿 稜・石田隆弘（静岡理工科大学）・中野悠作・伊野庸介・永井直文（川研ファインケミカル）

電気機器の性能向上に伴い，絶縁フィルムに対する絶縁特性をはじめとする性能向上の需要は高まっている。特に，電気機器の小型化，高電圧化が進むと共に，耐部分放電性や絶縁破壊の強さの向上が必須となり，高電圧に長時間耐えることができる素材の開発が求められている。本研究では，長期耐久性を持つ新規絶縁フィルムの開発を目指し，絶縁フィルムのフィラー剤としてアルミナゾルに焦点を当て，川研ファインケミカル株式会社と共同し実験を行った。測定試料のフィラーには表面修飾剤を変えた2種類の繊維状アルミナゾル及び，比較用の球状シリカゾルを用いて実験を行い，各種フィラーを複合化した樹脂の絶縁特性評価を行ったので報告する。

2-032

ナノフィラー充填によるポリイミドフィルムの耐トラッキング特性

◎鈴木敦久・石田隆弘（静岡理工科大学）

ポリイミド樹脂は，優れた絶縁性能を有するため絶縁材料として広く利用されている。しかし，ポリイミド樹脂にナノフィラーを添加した場合の耐トラッキング特性については明らかとなっていなかった。そこで，今回ナノフィラーを添加したポリイミド樹脂の耐トラッキング特性の評価を行ったので報告する。
測定試料は，ポリイミドフィルム（PIフィルム）とベーマイトアルミナナノフィラーを15wt%添加したポリイミドフィルム（BAフィルム）とした。測定結果から，BAフィルムはPIフィルムに比べて耐トラッキング特性が若干向上したことが明らかとなった。また，測定後の試料表面の様子からBAフィルムは深さ方向への劣化も少ないことが明らかとなった。

2-033

マテリアルリサイクル性を有する架橋ポリエチレン材料の開発（2）

◎安田陽平・山内直哉・永野幸恵（ENEOS NUC）

架橋ポリエチレン（XLPE）は耐熱変形性に加えて電気絶縁特性も優れることから，電線・ケーブルの絶縁被覆材料として広く使用されている。一方，不可逆な共有結合で架橋されるため，溶融・溶解による再成形ができず，マテリアルリサイクルが困難であった。
この課題に対して，マテリアルリサイクル可能なXLPE開発を進めており，温度応答の動的共有結合を利用した可逆架橋性XLPEを既に報告した。今回，必要なときに容易に熱可塑性樹脂を再生できる易脱架橋性を有するXLPEを新たに開発したので，その結果を報告する。
開発材は国内外ケーブル規格に対応するだけでなく，柔軟性・可とう性や耐水トリー性にも優れ，ケーブル特性の向上にも寄与できる。

2-034

直流超電導限流器動作時における液体窒素の動的絶縁破壊特性

西澤大将・◎永縄巧輔・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）

多端子直流送電システムにおいて，直流遮断器責務軽減等の観点から，超電導限流器（SFCL）による故障電流抑制効果が期待される。SFCL動作時には液体窒素（LN2）の動的絶縁破壊が発生する危険性がある。今回は直流電界下におけるLN2の動的絶縁破壊特性を取得し，多端子直流送電システムに導入されたSFCLの動的絶縁破壊電界を評価した。結果として，動的絶縁破壊電界は熱流束よりも熱量に対する依存性が高いことを確認した。さらに，多端子直流送電システムにSFCLを導入することにより，限流動作時の動的絶縁破壊を考慮したSFCLの絶縁設計によって，直流遮断器の責務軽減に寄与することが示唆された。

2-035

電極系の差異が脂環式エポキシ樹脂の交流およびインパルス絶縁破壊の強さに与える影響

◎岡田倖輝・村上義信・川島朋裕（豊橋技術科学大学）

エポキシ(EP)樹脂は絶縁材料として広く用いられているが，高温に晒されることで，絶縁劣化といった問題が生じる可能性がある。そこで，各種酸無水物硬化剤を用いた脂環式EP樹脂（EP-NMA及びEP-HHPA）を作製し，球-平板電極及びMcKeown電極系において交流，インパルス絶縁破壊試験を行った。結果として，McKeown電極系における試験では球-平板電極系におけるそれらと異なり，EP-NMA及びEP-HHPAの絶縁破壊の強さがほぼ同じとなった。球-平板電極系において発生していた部分放電がMcKeown電極系を用いたことで抑制され，絶縁破壊の強さに影響を及ぼしたと考えられる。

2-036

h-BNの配向が静電吸着法により作製したコンポジット材料の電気的・熱的特性に与える影響

◎松原瑞樹・村上義信・川島朋裕（豊橋技術科学大学）

パワーモジュール等には高い放熱性と許容できる絶縁性を持つ放熱性コンポジット絶縁材料が要求されている。本研究室では静電吸着法を用いて六方晶窒化ホウ素(h-BN)/熱可塑性ポリイミド(tpPI)コンポジット材料を開発している。本研究ではh-BNの鱗片(ab)面が試料の厚さ(熱伝導・電界方向)に対して ”斜め” に傾いた材料を作製し，電気的・熱的特性を評価した。結果として，h-BNの鱗片面が厚さ方向に対して平行に配向したものと比べ，h-BN高含有領域で熱伝導率は低下，直流絶縁破壊の強さは上昇した。これはh-BNが "斜め" に配向していることで熱伝導パス及び導電パスが長くなったためと考えられる。

2-037

静電吸着法による炭化水素系熱硬化性樹脂/配向hBNコンポジット絶縁材料の作製

◎土田和史・村上義信・川島朋裕（豊橋技術科学大学）

パワーモジュール等への適用を目指して，高放熱性と許容できる絶縁性を備えたコンポジット材料の開発が進められている。本研究では，電気的弱点となりやすい充填材の接触・凝集の抑制が期待できる静電吸着法により，炭化水素系熱硬化性樹脂(DCP)を母材，六方晶窒化ホウ素(hBN)を充填剤とするコンポジット材料を作製し，熱伝導率(λ)および直流絶縁破壊強さ(DC-Fb)を評価した。結果として，hBN含有率の増加に伴いDC-Fbは低下した。電界と垂直方向において破壊経路となりうるDCP/hBN界面が増加したため等が原因と考えられる。また，これらのことはλを低下させることを示唆しており，実験的にも同様の結果が得られた。以上より，静電吸着法によりDCP/hBNコンポジット材料を作製できることが明らかとなった。

2-038

表面が汚損したGFRPの直流長期沿面絶縁特性とその劣化現象

◎竪山智博・中村勇介・山崎顕一・濱田滉太（東芝インフラシステムズ）・浅利直紀（東芝）

高圧～特高クラスの屋内向け受配電設備として多く導入されているキュービクル式の受配電盤には，絶縁強化や支持材として絶縁性・機械特性などに優れたGFRP（ガラス繊維強化プラスチック）が広く用いられる。受配電機器の小型化・高電圧化に伴う高電界化により，GFPR沿面が汚損した状態において，トラッキングとは異なるこれまでに見られない絶縁劣化様相が観測されるようになった。本報では，GFPRの表面汚損状態における長期直流課電試験を実施しGFRPの長期沿面絶縁劣化特性について取得を行った結果について報告する。また，絶縁劣化後のGFRP表面分析結果などから本絶縁劣化機構について整理・考察を行った内容についても併せて紹介する。

2-039

セルロースナノファイバー（CNF）成形板における絶縁耐力の湿度依存性

◎木村啓韻・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）・古田 尚・奥村浩史・安食厚志（利昌工業）・山中雄太（三菱電機）・岩永拓実・岡本徹志（TMEIC）

セルロースナノファイバー(CNF)は，植物由来の低環境負荷材料として注目されており，筆者らは，CNFから構成された成形板(CNF成形板)の回転機用絶縁材料への適用を目指している。本研究では，飽和塩法を用いてCNF成形板の絶縁破壊電界(BDE)の湿度依存性を検証した。その結果，相対湿度の増加とともにBDEが低下しており，97%RHにおけるBDEは，11%RHと比較して約1/10に低下していることがわかった。これは，相対湿度の上昇とともにCNF成形板内の空隙を占める大気の絶縁耐力が低下することに加え，吸湿に伴うCNF成形板の誘電率の上昇や繊維の膨潤による空隙体積の減少によって，空隙の電界が上昇することに起因する可能性が考えられる。

2-040

パワーモジュール用シリコーンゲルにおける水分拡散特性とその評価

◎古家佑麻・梅本貴弘・佐藤正寛・熊田亜紀子（東京大学）・日高邦彦（東京電機大学）・高野 翔・早瀬悠二（富士電機）

シリコーンゲルは，その優れた電気絶縁性及び環境耐性から，パワーモジュールの封止材料として広く利用されている。しかし，シリコーンゲルは吸湿しやすく急激な温度変化により結露が生じる可能性があるため，その吸湿特性の理解が重要である。先行研究では，高温・高湿環境下におけるシリコーンゲル内部の吸湿挙動が報告されているが，シリコーンゲルと基材との境界における水分流入の挙動については十分な検討がなされていない。本稿では，ガラス面とシリコーンゲルの境界における水分拡散挙動を定量的に評価し，温度・湿度条件を変化させながら実験・解析することを目標とする。

2-041

パワーモジュールの最大電界を低減する封止材と絶縁基板の誘電率の相互効果

◎泊岩龍斗・末永翔大・岡本空大・土江基夫・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）

近年，パワーモジュール用の絶縁封止材として，エポキシ樹脂やシリコーンゲルなどが広く使用されている。しかし，これらの絶縁材料には，放熱性の低さや自己修復性の欠如などの課題がある。絶縁基板の一部の誘電率を制御することで，絶縁基板近傍の三重点の最大電界を緩和する検討がなされている(1)。一方，液体絶縁材料を封止材に適用できれば前者の課題を克服できる可能性がある。そこで，本研究では各種絶縁液体材料の封止材への適用可能性を調査している(2)。本報では，絶縁性能の評価の一環で最大電界の低減に着目し，絶縁基板と封止材の両者の比誘電率を変化した際の電界緩和効果を解析的に検証した結果を報告する。

2-042

高ガス圧ドライエア分解ガスが各種材料に及ぼす影響評価 ～オゾンの影響～

◎藤原宗一郎・本多史弥・安部淳一・三木伸介（三菱電機）

当社では，キュービクル形ガス絶縁スイッチギヤ（C-GIS）の競争力を強化するため，脱SF6ガス絶縁スイッチギヤの実現に向け，高ガス圧ドライエアの適用を検討している。高ガス圧ドライエアでは，電流開閉や内部放電等発生時に分解ガス(オゾン等)が発生し，使用されている材料を劣化させるおそれがある。本発表では，分解ガスの1つである「オゾン」が各種材料に及ぼす影響を明らかにすることを目的に，オゾン暴露試験を実施し，外観や圧縮永久歪等の特性を評価した内容について述べる。

2-043

異なる生成時間と静置時間でファインバブルを付加した菜種油の動粘度と油温の関係

○荒岡信隆（福岡大学）・本間大成・宮嵜 悟・水谷嘉伸（電力中央研究所）・高村紀充（福岡大学）

持続可能で生分解性の高い電気絶縁油として菜種油が注目されている。しかし，菜種油は鉱油に比べ動粘度が高く，単純に鉱油を菜種油に置き換えた場合，冷却性能が悪くなるという問題がある。これまでに著者らは，直径100µm未満の微細な気泡であるファインバブル（FB）付加によって電気絶縁性能を向上させる研究を継続して行っている。本稿では，FBを0～150分間生成した後に0～60分間静置した菜種油の動粘度と油温の関係を調査した。その結果，動粘度と油温の関係は静置時間に依らずに潤滑油が従うWaltherの関係式によく一致した。したがって，動粘度の変化は油温上昇に依るところが大きく，本稿の条件範囲ではFB付加が及ぼす影響が小さいことがわかった。

2-044

機械的圧力がコンデンサ用金属蒸着フィルムの蒸散特性に与える影響

◎高塚優太・村上義信・川島朋裕（豊橋技術科学大学）・松下拓未・一場悠仁・松村紀明（住友電気工業）

コンデンサ用蒸着フィルムにおける自己回復(SH)性破壊機構を解明するためには単一破壊のエネルギー量等を評価する必要がある。筆者らは，比較器等を用いて単一SHを検出する回路を構築し，直流ランプ電圧下において単一SH のみを発生できることなどを報告した。本論文ではさらに金属蒸着フィルムのSH 現象を把握するため，金属蒸着フィルムに加わる機械的圧力が単一SH における金属蒸散面積に与える影響を調査したので報告する。

2-045

SHコンデンサのヒューズサイズと動作性

◎森川泰志・前畑安志（指月電機製作所）

SHタイプのフィルムコンデンサは，故障モードがオープンモードであることが望まれる。オープンモードに寄与する特長の一つに，蒸着パターンによって付与されたヒューズがある。このヒューズは，金属を選択的にフィルムに蒸着することで形成することができる。セルフヒーリングでは回避しきれない絶縁破壊に対して，ヒューズによる絶縁破壊箇所の切り離しも合わせることで保安性を高めている。一方で，ヒューズは過剰に動作すると静電容量の低下が早期に発生するなど寿命性能に影響し，保安性と寿命性能の両立した設計が必要である。本論文ではヒューズ動作性を決める一因となるヒューズサイズと動作性の関係性を調査したのでその結果を報告する。

2-046

電動推進航空機用モータにおける流動潤滑油の絶縁破壊特性の体積効果

◎中澤尚輝・野口真平・小島寛樹（名古屋大学）・有賀信雄・卯辰清志・渡邉瞬也（シンフォニアテクノロジー）・早川直樹（名古屋大学）

筆者らは電動推進航空機用モータの高出力密度化に向けた絶縁材料として，航空機用潤滑油の適用を目指している。本稿では，潤滑油の絶縁破壊特性における水分量依存性と体積効果について検討した。高電界油体積(SOV)の小さい電極では，水分量の増加に伴い，絶縁破壊電界(BDE)が低下した一方，SOVの大きい電極では，BDEは水分量に依存せず，ほぼ一定の値となった。これは，体積効果が水分の影響よりも優勢になったためと考えられる。また，静止油と流動油のいずれもSOVに対してBDEが低下する体積効果を示した。流動油では，油流が油中不純物のブリッジ形成を抑制する効果が優勢に働いたため，体積効果のグラフの傾きが静止油よりも急峻になったと考えられる。

2-047

電動推進航空機用モータにおける潤滑油の絶縁破壊特性の温度・流量依存性

◎野口真平・中澤尚輝・小島寛樹（名古屋大学）・有賀信雄・卯辰清志・渡邉瞬也（シンフォニアテクノロジー）・早川直樹（名古屋大学）

筆者らは，電動推進航空機用モータに向けた絶縁材料として，航空機用潤滑油の適用可能性を検討している。実機モータへの適用では巻線部の冷却を兼ねるために油流が存在し，巻線部の発熱により油温が上昇する。本稿では，潤滑油の絶縁破壊電圧(BDV)の温度・流量依存性を検討した。潤滑油のBDVは流量の増加とともに静止油のBDVよりも上昇して最大値に達し，さらに流量を増加させると低下傾向を示した。低流量領域では，油中不純物が高電界部に集まるブリッジ形成現象が油流により回避され，BDVが上昇したと考えられる。一方，高流量領域では，油中不純物の通過確率が増加し，BDVが低下したと考えられる。また，低流量領域のBDVは温度上昇に伴い低下傾向を示した。これは，温度上昇に伴う絶縁油の粘度低下によりブリッジ形成が促進されたためと考えられる。

2-048

回転機絶縁システムへの適用に向けた真空加圧含浸によるセルロースナノファイバー成形板の比誘電率への影響

◎岩永拓実・岡本徹志（TMEIC）・山中雄太（三菱電機）・木村啓韻・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）・古田 尚・奥村浩史・安食厚志（利昌工業）

植物由来の低環境負荷材料として注目されるセルロースナノファイバー(CNF)を回転機の絶縁材料に適用することを目指している。CNFを圧縮成形したCNF成形板は，内部に極微小の空隙を持つので，低誘電率化と高い絶縁耐力が期待される。本報告では，真空加圧含浸プロセスに対して，比誘電率が保持できない可能性があるので，空隙率を2～10%に調整した5種類の試料を用いて，樹脂含浸性を断面観察，質量変化，比誘電率から評価した。その結果，空隙率が7%以上では，樹脂は浸透するが，比誘電率は維持され，回転機絶縁システムへの適用性を示した。

2-049

高電圧回転機向け低抵抗コロナ防止テープの寿命予測技術の適用性検討

◎安田拓実・馬渕貴裕（三菱電機）・池田竜志・岡島直輝・菊田晋介・櫻井孝幸・岡本徹志（TMEIC）

高圧回転機では，鉄心と固定子コイルとの空隙で発生する部分放電を抑制するため，主絶縁層の外層に低抵抗テープを配置している。しかしながら，低抵抗テープはボイド内部の部分放電で生成したオゾンにより酸化劣化する。本研究では，部分放電の放電電力をパラメータとしたアレニウスプロットによる劣化寿命予測技術の適用範囲を調査した。低抵抗テープの劣化寿命と放電電力には良い相関関係が見られ，アレニウスプロットから活性化エネルギーを算出し，任意温度における劣化寿命を予測した。以上のことから，劣化寿命と放電電力の相関関係は材料種類に依らず成立し，アレニウスプロットによる寿命予測技術を用いて予測できることを明らかにした。

2-050

回転電機の型巻固定子巻線における部分放電電流の伝搬特性の調査

宮崎光生・長谷宥里・◎梶山飛翔・久野 勉・匹田政幸・小迫雅裕（九州工業大学）・岩永拓実・財前昴平・井上良之・山田拓郎・岡本徹志（TMEIC）

本研究では，回転電機の絶縁診断技術の高度化を目指し，型巻固定子巻線内で発生する部分放電(PD)電流の伝搬特性を調査した。人工欠陥を設けた三相誘導電動機を用い，PD発生位置から三相端子および筐体接地線へのPD電流の向きと強度を測定しました。結果として，PD電流は発生相(W相)内で他相(U相およびV相)とは異なる経路をとり，W相接地線および筐体接地線を介して伝搬することを確認した。また，各経路での電流強度の割合を定量評価することで，主な伝搬経路を特定した。今後は周波数分析や異なる結線条件での調査を通じて，PD電流の詳細な伝搬特性を解明する予定である。

2-051

COSMO-RS理論による表面張力予測

◎川浪 樹・横山尋斗・熊田亜紀子・佐藤正寛（東京大学）

本研究では，マテリアルズ・インフォマティクス（MI）を活用し，COSMO-RS理論と機械学習モデル（Kernel Ridge Regression, KRR）を用いた表面張力の高精度予測手法を構築した。有機化合物約1200点の実験データを基盤に，温度や分子特性（表面積，ギブスの自由エネルギー，水素結合エネルギーなど）を特徴量として採用。結果として，RMSE 1.23，決定係数R² 0.974の精度を達成し，実測値との良好な一致を確認した。本手法は，実験の補完や迅速な物性予測を可能とし，新規材料の設計や化学工業分野での応用に寄与する成果を示している。

2-052

Antibacterial Efficacy of Specifically Geometric Nanostructures

◎Shu-Yun Sheu（National Tsing Hua University）・Chung-Hsiang Lin（Quantum NIL）・Kiera Lin（Purdue University）・Chao-Min Cheng（National Tsing Hua University）

This study investigates the antibacterial efficacy of various geometric nanostructures against clinically relevant pathogens, including Escherichia coli, Klebsiella pneumoniae, Pseudomonas aeruginosa, and Staphylococcus aureus. Experimental results demonstrate that specific nanostructures, such as dual-periodic H2 and micronanopillar H200, significantly inhibit bacterial growth, achieving reductions with statistical significance (p < 0.05 to p < 0.0001). Surface geometry, characterized via SEM imaging, reveals that structural uniqueness enhances bacterial interactions. The findings underscore the potential of nanostructures in developing innovative antibacterial strategies, particularly through tailored designs like dual-periodic patterns.

2-053

誘電泳動を用いた文字表示デバイスにおける粒子移動領域

◎永野丈宙・田河和真（名古屋大学）・熊澤昌宏（中部電力）・栗本宗明（名古屋大学）

電力関連機器の装置および設備点検において，交流高電圧部を検知するための検電器が使われている。電気的に検知する方式として静電容量式があるが，電池が必要である。これを改善してより利便性を高めるために，交流高電圧部にデバイスを近づけるとデバイス内の絶縁性液体中で，粒子が誘電泳動し文字を表示する電池不要の高電圧検知センサーが試作され，文字表示に成功している。本報告では，酸化チタンナノ粒子を添加したシリコーン油を透明電極間に挟んだセンサーデバイス内の粒子移動領域をシミュレーションで検証した。

2-054

液晶／配向マイクロファイバー複合体を用いた100GHz帯ミリ波リフレクトアレー

○森武 洋・井上 曜（防衛大学校）

大幅な応答改善が可能な配向マイクロファイバーと液晶を複合化した素子を用いて，反射方向を制御可能な100 GHz帯のリフレクトアレーについて検討を行った。パッチサイズを変化させ，100GHzに共振を有する条件を特定し，リフレクトアレーを作製したところ，垂直入射に対して最大±40度の反射方向を制御可能なリフレクトアレーを実現した。

2-055

ヒドロキシプロピルセルロース液晶薄膜の作製と評価

◎寺西加奈・福住来夢・宇戸禎仁（大阪工業大学）

医薬品添加剤や食品添加物として使用されているヒドロキシプロピルセルロース（Hydroxypropyl cellulose : HPC）は，水との混合でコレスティック液晶相を発現し，らせん構造による選択反射特性を持つ。本研究では，このHPC液晶の選択反射を利用したガス・イオン検出センサの開発を念頭において，安定で良配向な液晶薄膜の作製を目指している。今回はスピンコートによる薄膜の作製とその評価を行った。

2-056

バインダーコーティングSi負極によるリチウムイオンキャパシタのサイクル特性向上

◎江口卓弥・田代 光・千葉玲一・渡部仁貴（日本大学）・熊谷誠治（秋田大学）

リチウムイオンキャパシタ（LIC）はLiイオン電池と電気二重層キャパシタの中間に位置する性能であり，蓄電デバイスとして利用されている。Siは負極の活物質としてのLiイオンの吸蔵比容量が高いために高エネルギー密度のLICを実現することができる。しかし，Si系負極は充放電に伴いSiの体積膨張が生じるため，サイクル性能の向上が課題とされる。本研究では，Si負極にバインダーをコーティングすることでSi負極の機械的強度の強化を図った。バインダーコーティングしたSi負極を用いたLICのサイクル性能は未処理のものと比較してサイクル性能を改善することができた。発表では，XPS分析によるSi負極の深さ組成状態分析結果についても合わせて報告する。

2-057

LEDインジケーターによる高電圧充電部の可視化

◎池田伊吹・永井涼介・大観光徳（鳥取大学）

本研究では電力設備の感電事故防止を目的とし，高電圧充電部で発生するコロナ放電を利用し，LEDを発光させることで充電部の可視化を検討した。平行に向かい合わせた2つの電極の片方にLEDの陽極を取り付け，陰極の先端はピアノ線を伸ばし空中に浮かせた。電極間に60Hzの交流電圧を加えたところ，ピアノ線の先端からコロナ放電が発生し，LEDに電流が流れ，約2kVで発光が開始した。アーク放電は全く生じていない。5kVにおいて，室内照明下で視認できる最低輝度10cd/m2を得た。またピアノ線長の増加とともに輝度が増加した。電極からの距離が離れるほど空間の電位が下がり，コロナ放電が促進するためであると考えられる。

2-058

不定な配線幅に対する短パルス電流耐性の評価

◎三木俊裕・下田有紀・高岡英清（村田製作所）

電子部品において，小型化や高電圧・大電流対応が求められる。
金属配線に大電流を印加すると，エレクトロマイグレーションや溶断が起きることが知られている。
また部品の実装に用いるプリント基板を参考に，不定形な金属配線パターンが用いられるケースがある。
小型化の要請から微細配線化のトレンドはあるが，高電圧・大電流化のトレンドからµsの短パルス電流が加わるケースが増加しており，微細配線と電流耐性配線を両立した設計が必要である。
しかし，これまでは定形な線幅に対する電流耐性が評価されていた。
そこで，異なる線幅で組み合わせた配線を対象に，短パルス電流に対する溶断耐性をシミュレーションと実験を行い調査した。