一般講演

6-001

ガス絶縁開閉装置への異常兆候検知適用検討

◎高原 優・佐藤光馬・近野智規・矢部達也・田中将太・小田和弘・北山匡史（三菱電機）

ガス絶縁開閉装置(GIS: Gas Insulated Switchgear)の高経年化や将来的な保守人員不足に対し，電力保安のスマート化による保安レベルの維持・向上および生産性向上が求められている。そこで，保全データをリアルタイムで収集し，AI技術を活用して分析することで，従来よりも早期に設備の異常兆候を発見し，事故や故障のリスク低減，メンテナンスの省力化が期待されている。本稿では，発電プラントで適用されている異常兆候検知システムの概要とGISへ適用し，異常兆候を検知した事例について述べた。

6-002

大気中SF₆ガスの回収

宅間 董（元電力中央研究所/元京都大学/元東京電機大学）・○立松明芳（電力中央研究所）

地球温暖化の防止は現在最も重要な課題であり，そのため大気中の炭酸ガスを回収するプロジェクトが進んでいる。SF₆ガスは絶縁などに使用される有用なガスであるが，温暖化係数が23,900（炭酸ガスが1）と著しく高い。したがって大気中のSF₆を回収できれば温暖化防止に寄与するともに，SF₆を絶縁などの目的に制限なしに使用できる可能性がある。本論文では，大気中に拡散したSF₆ ガスの「風車方式」による回収方法を提案する。

6-003

浮体式洋上変電所への適用を想定したGISの疲労強度解析

○網田芳明・椎木元晴・西島 剛・岡山 仁（東芝エネルギーシステムズ）・和田良太・中川寛之（東京大学）

浮体式洋上発電の導入に伴い，浮体式洋上変電所の検討が進められている。同変電所に設置される送変電機器には，洋上特有の振動が加わるとともに，数十年の運用期間中には数百万回を超える波浪が作用すると推測される。陸上変電所では，地震に対する強度評価を行っているが，数百万回を超える繰返し振動に対しては強度評価を行った実績がない。今回，波の周期，波高，頻度のデータをもとに，ガス絶縁開閉装置(GIS)の疲労強度を構造解析により検討したので報告する。

6-004

浮体式洋上変電所への適用を想定したGISの振動下での動作試験

○岩澤正志・蒋 佳希・西島 剛・大月翔平・金谷和長・岡山 仁（東芝エネルギーシステムズ）

遠浅の海域の少ない日本では，浮体式洋上風力発電の検討が進められている。浮体式洋上変電所には，着床式と異なり浮体式特有の波の動揺が加わるため，本変電所に設置される送変電機器は，この動揺に耐える強度と動作安定性が求められる。このため今回，陸上仕様の既存の300kVガス絶縁開閉装置（GIS）を水平方向と鉛直方向に加振し，加速度が最大となるタイミングで遮断器，断路器，接地開閉器の動作試験を行い，各機器の振動による影響を評価した。試験の結果，振動条件下でも各機器が正常に動作することを確認した。

6-005

SF6ガス中金属異物から放射される部分放電電磁波の振幅値特性に異物先端形状が及ぼす影響

◎松藤拓也・環 友翔・大塚信也（九州工業大学）・羽馬洋之・井波 潔（三菱電機）・中臺洋史（東京電力ホールディングス）

筆者らは，SF6及びSF6代替ガスの絶縁特性，特に部分放電(PD)特性をガス絶縁機器診断の観点から検討してきた。機器の金属異物混入による局所的電界集中の影響でPDが生じるため，PD検出による異物検知が可能だが，異物推定には異物形状によるPD特性の相違を解明する必要がある。本研究では現行のSF6機器を対象に，先端形状の異なる針電極を用いて，SF6ガス中でPDを発生させ，放射電磁波の振幅特性を周波数帯域の異なるアンテナで同期計測を行い比較検討した。今後は自然系ガスについても検討を進めていく。

6-006

三相GISタンク径がUHF法による部分放電放射電磁波の検出特性に及ぼす影響の基礎検討

◎佐々木雄山・武富優希・大塚信也（九州工業大学）

現在，温暖化防止の観点からガス絶縁開閉装置(GIS)に使用されるSF6ガスの代替が進められている。しかし，絶縁性能を維持するために設置タンク径が増加する可能性がある。筆者らはこれまで，単相および三相GIS内を伝搬するPD放射電磁波の伝搬特性を，TEモード特性とセンサの検出帯域を考慮してFDTD解析により検討している。
本論文では，タンク径の増加がUHF法によるPD放射電磁波の検出に及ぼす影響の基礎検討として，FDTD法による解析を実施した。

6-007

ポリマー形避雷器のJEC-2374:2020対応検証

◎野中強也・小松龍矢・高田雅之・渡邉英典・戸田成是（明電舎）

近年，磁器がい管を使用した磁器がいし形避雷器から，耐震，耐汚損性能が期待されているポリマー形避雷器が採用されることが多くなっている。2020年には，避雷器規格であるJEC-2374：2020においてもポリマー形避雷器が新たに対象とされた。
当社の発変電用ポリマー形避雷器(系統電圧22～275kV用)は，2014年の開発当初から新規格を視野に設計を行っていたが，今回改めてJEC-2374:2020の検証試験を行った。その結果，強度を検証する曲げモーメント試験や耐汚損性能を検証する汚損試験など，全ての項目について性能を満足する結果が得られた。本検証により，当社発変電用ポリマー形避雷器がJEC-2374:2020に適合することを確認した。

6-008

アーク消弧過程における各高分子分解蒸気が混入したドライエアの換算電子付着係数

◎山本伊織・横水康伸・兒玉直人・大野拓也（名古屋大学）・江戸貴広（三菱電機）

SF₆代替ガスとして，CO₂ガスやN₂/O₂混合ガスに，高い電気絶縁耐力を持つC5-FKなどを添加することが検討されてきた。我々の研究プロジェクトでは，遮断器・断路器でのアーク遮断過程で形成される高温ガスを対象とし，第1段階では，HFO-1336mzz(E)などを添加した消弧ガスを検討した。
本研究の第2段階では，HFO系ガスのような非自然系ガスを無混合とする消弧ガス，すなわち自然由来ドライエアを消弧ガスとし，高分子材からの溶発蒸気が混入した高温ドライエアを検討している。本稿では，高分子材(C₃F₄O₂)_nを取り上げ，4000 K～300 KにおけるC₃F₄O₂蒸気が混入した高温ドライエアでの主たる反応生成物，次いで，例として2000 Kでの耐電界特性を述べる。

6-009

CO2+C2H5OH解離ガス混合物の粒子組成および熱力学・輸送特性

◎野口 心・山越匡葵・田中康規・中野裕介・石島達夫（金沢大学）

六フッ化硫黄(SF6)は高い絶縁能力と空気の100倍の遮断能力を持つ。しかしSF6は地球温暖化係数が25,200と非常に高いため，現在はSF6代替ガスアーク消弧方式の開発研究が進められている。主な代替ガスとしてCO2/O2/C4F7Nがあるが，PFAS問題のため，CO2/O2/C4F7Nの主要供給社である3M社は2025年末までにCO2/O2/C4F7N製造からの撤退を決定している。そこで我々はFを介さない新たな消弧原理としてC2H5OHなどの液体ミストの混合ガスをアークに吹き付けることを考えている。本稿では，ミストが混入したアークの消弧特性を明らかにする第一段階として，CO2+C2H5OH解離ガス混合物の粒子組成と熱力学・輸送特性を計算した。

6-010

小電流アーク装置によるCO₂/O₂/C₄F₇N混合ガスの熱的遮断性能評価の一検討

○田中康規・山越匡葵・野口 心・Tat Htut Aung・Saifur Rahman・中野裕介・石島達夫（金沢大学）

超高圧系統における電力用遮断器の消弧媒体として，地球温暖化係数(GWP)の大きなSF₆ガスに替わるガス・媒体が検討されている。その中で様々なガスが検討され，2010年代からおもに欧州において，CO₂をベースとしてF-ニトリル(C₄F₇N, C4-FN)を混合させた CO₂/C₄F₇NあるいはCO₂/O₂/ C₄F₇N混合ガスが提案され，現在の代替ガスの主流となっている。しかし学術的な立場から，この混合ガスの熱的遮断性能を比較した例は少ない。本報では試行ガスとしてCO₂およびCO₂/O₂/ C₄F₇N混合ガスとし，同様手法によりその熱的遮断性能を基礎検討した。

6-011

CO2/O2（30%）混合ガス0.9MPaにおける絶縁破壊特性 ―電極表面粗さの影響と絶縁コーティング効果―

○安岡孝倫・渡辺泰一・薄 拓哉・小池 徹（東芝エネルギーシステムズ）

地球環境問題への関心の高まりから，ガス絶縁開閉装置（GIS）においてもSF6フリー機器の製品開発が世界中で行われている。筆者らはSF6代替ガスとして自然由来ガス（ドライエアやCO2/O2混合ガス）に注目している。今回，70% CO2と30% O2の混合ガス（以降はCO2/O2(30%)と表記）の絶縁破壊特性を取得したので報告する。

6-012

高気圧Dry Airの準平等電界下における非標準雷波形に対する絶縁特性の実験的評価

○中臺洋史・坪井敏宏（東京電力ホールディングス）・石川夕貴（東京電力パワーグリッド）

SF6代替ガス候補の一つであるドライエアを対象に，準平等電界下で標準雷インパルスならびに非標準雷インパルスに対する絶縁性能の短時間領域での実験的な評価の報告

6-013

Influence of Slight Change in Mixing Ratio on Liquefaction Temperature and Dielectric Strength of SF6 Alternative Gas Mixtures considering Filling Gas Pressure

○Shinya Ohtsuka・Masaharu Shintake（Kyushu Institute of Technology）・Kiyoshi Inami・Hiroyuki Hama（Mitsubishi Electric）・Youji Nakadai（Tokyo Electric Power Company）

This paper describes influences of mixing ratio change of the SF₆ alternative gas mixtures on liquefaction temperature were investigated together with critical electric field strength by comparing the new fluorinated gas mixtures and natural-origin ones from the viewpoint of gas handling, taking the filling gas pressure into account.

6-014

ドライエア断路器のループ電流開閉性能評価

○小池 徹・向田彰久・白井英明（東芝エネルギーシステムズ）・尾関大輝・岩原賢太郎（中部電力パワーグリッド）

ガス絶縁開閉装置（GIS）にSF₆ガス以外の絶縁媒体を適用する場合，課題の1つとして断路器のループ電流開閉性能が挙げられる。本稿では，SF₆ガスに比べ電流開閉性能が劣るドライエアによる性能把握を目的に，簡易的な接点構造（主接点と先端に耐弧片を有するアーク接点とで構成される並切消弧方式）の断路器を使用し，種々の条件にて実施したループ電流開閉試験結果の比較評価した。試験結果より，回復電圧とアーク時間は正の相関傾向を示し，回復電圧50 V条件では開閉電流条件に依らず安定した遮断性能であることを確認した。

6-015

気中ギャップの絶縁破壊とその模擬

○腰塚 正・森 俊樹（東京電機大学）・佐々木真大・前川俊浩（東京電力ホールディングス）

雷の侵入のない地下変電所では機器の絶縁のために開閉サージの大きさを検討しておく必要がある。GIS（Gas Insulated Switchgear）はコンパクトであるため高周波の断路器再点弧サージが発生する。
近年適用されたドライエア絶縁GISでは断路器再点弧サージの電圧の立ち上がりがSF6に比べて遅いことが観測された。本論文ではドライエア断路器の再点弧を想定し，気中ギャップを閃絡させたときの放電の様相について検討した結果を報告する。

6-016

72/84kVドライエア絶縁開閉装置の開発（1）

○中内慎一朗・鍋倉航平・佐藤基宗・宮下 信・森 剛（三菱電機）

ガス絶縁開閉装置（Gas Insulated Switchgear：GIS）は，その優れた性能と特長から電力用開閉装置として広く国内外に適用されている。当社でもこれまで半世紀にわたってGISおよびガス遮断器（Gas Circuit-Breaker：GCB）の開発，製造を行ってきた。しかし，開閉装置の絶縁，遮断性能を実現しているSF6ガスは地球温暖化係数がCO2の24,300倍であり，欧州でのフッ素ガス規制法（EU573/2024）などによりSF6上市禁止を基本にした規制が進んでいる。今回，SF6ガスの代替として遮断器（Circuit-Breaker：CB）の遮断部に真空バルブ，機器の絶縁媒体としてドライエア（GWP=0）を適用し，環境負荷低減および保守点検性向上，既設GISとの機器更新性を確保した最新機種である72/84 kV ドライエア絶縁開閉装置を開発した。本稿ではその定格事項，機器構成，特長について報告する。

6-017

72/84kVドライエア絶縁開閉装置の開発（2）

○鍋倉航平・中内慎一朗・佐藤基宗・森 剛（三菱電機）

ガス絶縁開閉装置（Gas Insulated Switchgear：GIS）は，その優れた性能と特長から電力用開閉装置として広く国内外に適用されている。当社で半世紀にわたってGISおよびガス遮断器（Gas Circuit-Breaker：GCB）の開発，製造を行ってきた。しかし，絶縁ガスであるSF6ガスは地球温暖化係数がCO2の24,300倍であり，欧州でのフッ素ガス規制法（EU573/2024）などによりSF6上市禁止を基本にした規制が進んでいる。SF6ガスの代替として遮断器（Circuit-Breaker：CB）の遮断部に真空バルブ，絶縁媒体としてドライエア（GWP=0）を適用し，環境負荷低減および保守点検性向上，既設GISとの機器更新性を確保した最新機種である72/84 kV ドライエア絶縁開閉装置を開発した。本稿では，各機器の構造および開発試験状況について報告する。

6-018

ドライエア絶縁GISの断路器サージ解析の高度化

◎林 克也・佐々木真大・青木康二郎・前川俊浩（東京電力ホールディングス）・森 俊樹・腰塚 正（東京電機大学）

東京電力パワーグリッドはカーボンニュートラル推進のため，SF6ガス絶縁GISに代わるドライエア絶縁GISを導入した。ドライエアはSF6ガスに比べ絶縁性能が低く，機器がより大型となるため，運転時に発生する各種過電圧レベルを見極め，適切な絶縁仕様を決定する必要がある。そこでドライエアGISにおけるサージ現象解析の精度向上を目的とし，ドライエア絶縁GISの断路器サージの実測と解析結果の比較を行った。解析では，空気とSF6ガスの放電特性の違いに着目し，時変抵抗を用いてモデルを精緻化した。比較の結果，実測と解析のサージ立ち上がりから初波にかけての波形が一致し，時変抵抗の有効性が確認された。

6-019

420/550kV Fガスフリー単相GIBの開発

○薄 拓哉・小池 徹・アットカレンセビン（東芝エネルギーシステムズ）

欧米を中心に開閉装置向けSF₆ガスの段階的な規制が進み，SF₆フリーGISに対する市場の需要が高まっている。東芝エネルギーシステムズでは自然由来系ガスを絶縁媒体としたCO₂/O₂混合ガス（O₂ 30 %含有）を採用したGIS（CO₂/O₂-GIS）の開発を進めている中，変電所でガス使用量が多い長尺GIBを対象に，更新時のSF6ガス削減効果が大きくなること，万が一の事故時における環境リスク排除を目的とし開発した。本稿では，CO₂/O₂を用いた420/550kV GIBの開発概要について報告する。

6-020

ε/σ-FGM絶縁スペーサの乾燥空気中における直流／雷インパルス重畳フラッシオーバ特性

杉本遼次・◎木村友哉・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）

筆者らは直流ガス絶縁開閉装置や送電線路（DC-GIS/GIL）のコンパクト化や地球温暖化抑制を目的として，絶縁スペーサへの誘電率／導電率傾斜機能材料（ε/σ-FGM）の適用と実用化を目指している。これまでにも，DC-GISスペーサへのε/σ-FGMの直流電圧下における適用効果を検証してきた。今回，SF6代替ガスの一つである乾燥空気中における直流電圧下および直流／雷インパルス重畳電圧下でのε/σ-FGMの適用効果を実験的に検証した。その結果，両電圧下でε/σ-FGMスペーサの放電開始電圧は，Uniformスペーサの放電開始電圧より約10 %向上することを実験的に検証した。

6-021

低圧力環境下における乾燥空気絶縁媒体を用いた接地開閉器の誘導電流遮断特性

○唐澤安緖・加藤和也・山村健太・長竹和浩（明電舎）

近年，地球温暖化係数の高いSF6ガスの使用量削減が求められている中，環境負荷低減に向けた開閉装置の開発が進められている。当社は2005年の24 kV キュービクル形乾燥空気絶縁開閉装置（エコC-GIS）発売以来，乾燥空気を絶縁媒体とした多くの製品の開発を行っており，低圧力での運用に特徴を有している1)。当然，誘導電流開閉責務のある接地開閉器も同様に低圧力の環境下に置かれるが，乾燥空気は消弧性能がSF6よりも低いことから，それを補うための様々な工夫が必要となる。今回，固定側は永久磁石による磁気アーク駆動，可動側は吸込み式のパッファ構造を用いたハイブリッド形の接地開閉器の開発検証を行い，誘導電流遮断性能の検証を実施したので報告する。

6-022

真空中スパークコンディショニングにおけるデコンディショニング

◎上野楓真・小島寛樹（名古屋大学）・福田英昭・山村健太（明電舎）・早川直樹（名古屋大学）

真空中スパークコンディショニング過程において，電極の過剰溶融や対向電極材料の付着によって絶縁上の弱点が新たに生成される可能性がある。その弱点をその後の絶縁破壊によって除去できない場合，新たな弱点部分での絶縁破壊電界強度が低下しデコンディショニングが発生する。本稿では，コンディショニング過程での絶縁破壊電界強度と放電箇所の分布の変化に基づいて，デコンディショニングについて検討する。その結果，放電起点の集中と絶縁破壊電界強度の低下から，コンディショニング履歴のみでは判断できないデコンディショニングの検出が可能であることが示唆された。

6-023

72kVドライエア絶縁タンク形真空遮断器の経年劣化調査

○菊地徳明・内海義照・立川慎吾・鶴田豊久・長竹和浩（明電舎）・宮内 学（中国電力ネットワーク）

明電舎はSF6ガスを使用しない72kVドライエア絶縁タンク形VCBを2004年に納入し，運用が開始され20年が経過した。SF6ガス絶縁VCBの劣化調査は実施されているが，乾燥空気絶縁の実施例は多くない。今回長期使用されたドライエア絶縁VCBの状態確認を行いその健全性を確認した。主回路抵抗測定，部分放電測定，ガス分析など現地測定を実施し良好な結果であった。絶縁ガスである乾燥空気の分解ガスは検知されず劣化の兆候は認められなかった。調査対象器のVCBは引き続き運用を継続するため途中経過としての調査報告である。

6-024

電子密度計算手法を改良した粒子法＋有限体積法による真空アーク挙動計算

◎羽田達哉・田中康規・中野裕介・石島達夫（金沢大学）・山本真司・浅沼 岳・恩地俊行（富士電機）

電力用遮断器は大電流を遮断し電気設備を保護する機器であり，真空遮断器は真空アークを消弧する。本研究では，MPS法と有限体積法(FVM)をハイブリッドした新たな数値解析モデルの改良を行っている。MPS法は電子，イオンおよび中性粒子を包含する超粒子が計算点であり，MPSからFVMに変換される電子密度が粒子の存在する箇所としない箇所とで極端に異なっており，計算を不安定にしていた。本報ではFVMにおいて，電子密度を分配する範囲を9メッシュ(9-mesh model)から37メッシュ(37-mesh model)に拡張する改良を実施した。その結果，1つの粒子の周りに電子密度を多く分配すると電子密度と電流密度分布が滑らかになり，小電流真空アークの計算安定性が向上することが示唆された。

6-025

真空沿面放電に対する電極形状変更とバリア設置による沿面電界分布の影響

◎木村旺介・中野裕介・田中康規・石島達夫（金沢大学）・仲野秀作・小林将人（日立産機システム）

真空遮断器の性能向上には，真空中の沿面放電メカニズムの詳細な理解とその抑制が不可欠である。本研究では，円筒型試料内の電極形状変更と絶縁物上への突起（バリア）設置による沿面電界分布の変化が放電特性に与える影響を調査した。負極性インパルス電圧印加実験の結果，電極形状の変更により電界の垂直成分が増大し，2次電子の飛翔と沿面進展が効果的に抑制された。また，バリア設置によって2次電子の増倍と陽極到達がさらに抑制され，フラッシオーバ（FO）の進展が遅延・短縮することが確認された。本成果は，電界制御による表面放電抑制手法の有効性を実証し，真空遮断器設計の指針を提供するものである。

6-026

真空中高周波交流コンディショニングによる到達耐圧の推定

◎小名木良太・小島寛樹（名古屋大学）・飯塚伸介・小林将人（日立産機システム）・早川直樹（名古屋大学）

真空中交流コンディショニングは真空遮断器の絶縁耐圧を向上させる工業的に有用な手法の一つである。交流コンディショニングにおいては，半周期内に複数回絶縁破壊(BD)し，絶縁耐圧向上に悪影響を及ぼす多重BDが発生しうる。筆者らは，交流コンディショニングを550 Hzに高周波化することで多重BDを抑制し，絶縁耐圧が向上することを示した。本稿では，多重BDが発生しない条件をインパルスコンディショニングにより模擬し，到達耐圧を推定した。インパルスコンディショニングにより推定した到達耐圧は304 kVであり，550 Hzの高周波交流コンディショニング後の耐圧である303 kVと同程度であった。この結果は，550 Hzへの高周波化により最適周波数に近い絶縁耐圧向上効果が得られることを示唆している。

6-027

真空アーク電子密度のタルボ効果を用いた高感度測定

◎沖 蒼一郎・髙林拓海・佐藤正寛・梅本貴弘・熊田亜紀子（東京大学）

真空遮断器の大容量化には実測に基づく真空アーク放電の現象解明が必須である。しかし二次元電子密度分布は未だ十分な測定結果が得られておらず，現状の測定法では拡散モードの真空アークの電子密度測定は困難であるため高感度化が求められる。本研究では複スリット透過時のタルボ効果を適用し，電極間プラズマによる複スリット自己像の移動量を基に，二次元電子密度分布を計算した。高電子密度の領域では理論値と計算結果がよく一致し，理論値5×10¹⁹[m^-3] となる位置では計算結果が最大でも2.8倍に抑えられたことから，電子密度10¹⁹ m^-3 オーダーへの高感度化が見込まれる。一方で，濃度勾配が大きいところでは誤差が大きく，測定座標周囲での補間が必要である。

6-028

潜在拡散モデルを用いた真空アーク陰極点の画像生成

長谷川朱理・Vincent Renaldy Setyadiputra・◎根本雄介（東京工業高等専門学校）・石原のぞみ・岩尾 徹（東京都市大学）

真空下のアーク放電において真空アーク陰極点が生じる。真空アーク陰極点は，陰極から金属蒸気を発生させ高速かつ不規則に移動する。真空アーク陰極点の現象解明のためハイスピードビデオカメラと分光器を用いた実験計測が行われている。しかし，真空アーク陰極点の移動はばらつきが大きく，実験計測や数値解析による移動予測は難しい。この対策として，学習モデルや乱数シードによりばらつきを再現可能な潜在拡散モデルを用いた画像生成に着目した。潜在拡散モデルは，小さい計算負荷にて高精度な画像の生成が可能である。このため，実験画像を学習データにすることにより，真空アーク陰極点の画像生成ができるという仮説を立てた。以上より，潜在拡散モデルを用いた真空アーク陰極点の画像生成を行った。

6-029

異なる電極間距離における低電圧DCシリーズアーク検出に向けたWavelet解析

◎西山直希・岩田幹正・横水康伸・兒玉直人・中村綾花・石川航大（名古屋大学）・酒井智康・塚原正浩・宮本淳史（日東工業）

太陽光発電や洋上風力発電施設からの送配電設備ではDC技術が用いられている。しかし，断線や接触不良などにより回路が微小に開放して短ギャップのアークが発生した場合その検出は困難である。このようなアークは，DC回路において直列に発生することからDCシリーズアークと呼ばれ，火災等の原因となる。このため，DCシリーズアークの検出技術の開発が望まれている。これまでに筆者らは電極間距離の最大値が10 mmおよび5 mmのDCシリーズアーク発生実験を行い，得られた電流波形に対してWavelet変換を行うことにより，アークの発生を検出できる可能性を見出した。本報告では，実設備でも起こりうる電極間距離の最大値が0.4mmの場合の検討を行い，異なる電極間距離においてそれぞれの結果を比較・分析した。

6-030

低圧直流遮断アーク消弧過程の一部分を表現できるアークパラメータの推定方法に関する一検討

◎井戸楓真・石川結士・七原俊也・雪田和人・津坂亮博（愛知工業大学）

本稿では，直流遮断アーク放電現象の解明を目的として交流遮断アークの解析に利用されているMayrモデルの直流遮断アークへの適用可否を検討した。Mayrモデルのアークパラメータであるアーク時定数とアーク損失を推定し電流遮断過程を計算した。電流遮断過程の一部を比較的良く再現できるアークパラメータが存在することが明らかとなった。そして，アークパラメータの推定方法について検討を実施し，直流遮断アークに対してMayrグラフのアーク電力最大点近傍に接線を引くことでアークパラメータが求められる可能性があることを明らかにした。

6-031

アークシミュレーションによる低圧遮断器の高精度アーク時間推定技術

◎福田豊輝・竹松俊彦・大久保拓哉・堀田克輝（三菱電機）

低圧遮断器の効率的な設計にアークシミュレーションを活用するには，アーク時間の高精度な予測が重要である。本報告では，実遮断器における実測データを基に可動接触子の運動を詳細に模擬し，アークシミュレーションの入力として活用することで，低圧遮断器のアーク時間を計算し，その精度を評価した。その結果，アーク時間を誤差3.2%で計算可能であることを示した。これに加え，アーク電圧の計算結果では可動接触子の運動に伴い電圧が上昇した他，電流の計算結果では実測と同様にアーク電圧による限流が反映されており，電圧・電流いずれの波形も実測結果の傾向を良く再現できていることを確認した。

6-032

低電圧DC限流遮断プロセスにおける高分子材配置下でのアーク抵抗上昇要因の基礎分析

◎清水翔太・横水康伸・兒玉直人・岩田幹正・中村綾花（名古屋大学）・宮本淳史・酒井智康・塚原正浩（日東工業）

低電圧直流給配電システムの利用は，インターネットデータセンタなどの需要家において広がっている。低電圧直流給配電システムに設置される配線用遮断器は，アーク電圧・抵抗の上昇によってDCを限流し続け，ひいてはDCを遮断することが求められる。筆者らは，実験用アーク消弧装置を用いたDC限流遮断実験を行い，アーク遮断時間の短縮を検討するとともに，アーク抵抗の上昇要因の分析を進めている。本報告では，2種類の高分子材配置条件下でのDC限流プロセスおよびアーク抵抗の上昇推移を述べている。次いで，アーク抵抗上昇の主な要因を電極間距離，アーク断面積およびアーク抵抗率の観点から考察している。

6-033

銅蒸気が多量混入した高温空気の耐電界特性：各種衝突に伴う電子エネルギー損失の解析

◎五十嵐拓哉・横水康伸・兒玉直人・岩田幹正・中村綾花（名古屋大学）

電気設備では，銅 (Cu) やアルミニウム (Al) などの金属が導体材料として用いられている。これらの設備の中では，短絡故障で発生するアークにより金属材料が蒸気化し，高温の空気（N₂/O₂）中に混入することがある。そこで，電気設備の安全性を確保するため，金属蒸気混入に伴うN₂/O₂の耐電界特性の変化を詳細に検討する必要がある。
本報では，短絡故障で発生するアークにより大気圧下において多量のCu蒸気がN₂/O₂に混入した際の耐電界特性を導出した。また，耐電界特性の変化を考察するため，各種の衝突に伴う電子のエネルギー損失を分析し，耐電界特性の変化要因を考察した。その結果，非弾性衝突によるエネルギー損失の影響が大きく耐電界特性が変化すると分かった。

6-034

タンデム型誘導熱プラズマによる高温空気の絶縁破壊電圧特性の実験的評価

◎丈田宗太郎・石之腰昂弥・中野裕介・田中康規・石島達夫（金沢大学）

電流遮断直後の気中開閉器において，残留した高温ガスを介して絶縁破壊が生じる可能性があるため，高温空気の電気絶縁特性を明らかにすることが重要である。筆者らは，絶縁ガスの電気絶縁特性を実験的に評価するため，誘導熱プラズマによる高温絶縁ガスの生成法を検討している。本手法では，熱プラズマによって加熱された絶縁ガスを下流チャンバーの電極ギャップ間に安定的に供給することで，高温絶縁ガス中の絶縁破壊を生起させた。本報では，絶縁ガスとして空気(80%N₂/20%O₂)を供給し，下段コイル電力制御によるガス温度変更時の絶縁破壊電圧(BDV)を測定した。また，電極間のガス温度を電磁熱流体解析から推定した。

6-035

量子化学に基づく電子衝突断面積の理論計算：O₂およびCO₂に対する適用と精度の検討

◎兒玉直人・横水康伸・岩田幹正・中村綾花（名古屋大学）

電力保護機器に用いる低環境負荷なアーク消弧媒体や電気絶縁媒体の開発には，これらがアークで熱分解された時に生じる原子や分子に対する電子衝突断面積を高精度で考慮し，保護機器内で生じる高温ガスの特性を計算する必要がある。一方，高温ガス内の原子や分子の電子衝突断面積を実験的に得ることは難しい。そこで本研究では，電子衝突断面積の理論計算に取り組んでいる。本報告では，量子化学に基づきCO₂やO₂の分子構造を解析し，得られた電子の波動関数や分子軌道などを用いることで，弾性衝突断面積，全電離断面積，および全電子付着断面積を求めた。その結果，これらの分子に対する電子衝突断面積として妥当な計算結果が得られた。

6-036

珪砂中DC遮断過程で生じるアークの電気抵抗率の推定 ―断面形状推定への離心率の導入―

◎中村哉太・兒玉直人・竹中 湧・横水康伸・岩田幹正・中村綾花（名古屋大学）

限流ヒューズでは，DC遮断時に通電路 (Cuエレメント) の溶断に伴って生じるアークを，珪砂 (SiO₂) によって消弧する。
ゆえに，ヒューズの性能向上にはアーク抵抗r_arcを高めることが重要である。
r_arcを支配する因子として，アーク断面積S_arcおよび電気抵抗率ρ_arcが考えられる。
また，ρ_arcは，温度T_arcおよびアークの組成に依存する。
筆者らはこれまで，モデルヒューズを用いて，SiO₂アークのr_arc測定および光学姿態の観測を進め，
断面形状を正円と仮定することで，S_arc，ρ_arcおよびT_arcの過渡推移を同時推定してきた。
本報告では，推定手法の適用範囲拡大および精度の明示を目的として，
断面形状を正円ではなく楕円と仮定し，ρ_arc推定への影響を検討した。

6-037

珪砂とsilicone樹脂を併用したDC遮断過程におけるアーク抵抗と消弧後の絶縁抵抗 ―樹脂のcarbon含有量による影響―

◎竹中 湧・兒玉直人・横水康伸・中村哉太・亀島光希・岩田幹正・中村綾花（名古屋大学）

電気自動車用DC限流ヒューズでは，配電回路の高電圧化を鑑み，限流性能の向上が求められている。筆者らは，消弧材SiO₂充填空間の通電路（エレメント）周囲へsilicone材を追加適用することで，DC遮断過程で生じるアーク抵抗r_colを上昇させ，限流性能を高められることを示してきた。一方で，限流ヒューズでは，遮断後の絶縁維持も重要である。ゆえに，追加消弧材としては，絶縁抵抗R_insにすぐれた材料を用いることがのぞましい。しかし，silicone材は，基本構造に炭素（C）成分を含むことから，消弧後の炭素残留量によっては，R_insを著しく低下させる可能性がある。そこで本報では，炭素含有量M_Cが異なるsilicone樹脂を用いて珪砂中DC遮断実験を行った。実験の結果から，樹脂のM_Cによるr_colおよびR_insへの影響を検討している。

6-038

Real-Time Energy Calculation of Fuse for Commutation Control in Fuse-Semiconductor Hybrid DC Circuit Breaker

◎Songah Shin・Reon Sasaki・Wataru Ohnishi（The University of Tokyo）・Yusuke Nakano（Kanazawa University）・Naoto Kodama（Nagoya University）・Shungo Zen（Aoyama Gakuin University）・Yasushi Yamano・Yuki Inada（Saitama University）

In previous research, our team has proposed a fuse-semiconductor hybrid DC circuit breaker with the advantages of compact size and cost efficiency. This paper introduces a sequence control method that utilizes real-time fuse energy calculations in the circuit breaker. The method optimizes the current-limiting performance of the fuse based on the fuse state estimation. The experiment was conducted under conditions of 1.6 kV and 10 kA. The results demonstrated successful interruption, achieving completion at t =29.552 ms with precise estimation and calculation of fuse energy. The proposed approach effectively determines the optimal commutation time, ensuring safe and reliable operation.

6-039

SiC-MOSFETを用いたモデル低電圧DC遮断器による限流遮断プロセスの測定 ―限流抵抗2-30Ω―

◎酒井 燦・横水康伸・兒玉直人・岩田幹正・中村綾花（名古屋大学）・浦井 一（東洋大学）

SiC系MOSFET のスイッチング機能を用いた低電圧DC 遮断方法として，電気抵抗による限流機能を具備したモデル遮断器の回路構成・仕様を検討してきた。さらに，同モデル遮断器を試作し，DC 電源電圧200V 下での電流遮断および過渡的発生電圧を提示し，さらにFET 接合部の温度上昇も明らかにしてきた。筆者らは，現在200-400Vにおける同モデル遮断器によるDC限流遮断とその測定を考えている。本報告では，電源電圧を400Vに設定し，モデル遮断器による直流遮断とその過程における半導体端子間電圧の推移を述べている。

6-040

高電圧直流遮断器のユニット遮断試験時における過電圧分布の解析検討

◎赤星卓勇・稲垣卓志・寺田唯人・木村 涼・常世田 翔・亀井健次（三菱電機）

国内外で開発されている高電圧直流遮断器（以下DC-CBと記す）は，機械式あるいはパワーエレクトロニクス素子と機械式開閉器を組み合わせたハイブリッド式を含めて，同一の遮断部を複数台直列に接続した多点切り構成が一般的である。このような多点切りDC-CBの遮断性能の検証も従来からの多点切りの交流遮断器と同様に，試験設備の制約なども勘案してユニット試験が許容されている。ユニット試験を行う場合，全ユニットに所定の電圧，電流を印加する全点試験と同等のストレスを再現しえるユニット数の設定が重要となる。本稿では，一例として16ユニットが直列接続された機械式DC-CBについて，一部ユニットが遮断直後に極間短絡した場合を想定した過電圧解析を行い，発生電圧分布から実用的な試験ユニット数を検討したので報告する。

6-041

新型遮断構造における細隙効果の検証

◎河原和馬・堀田克輝・竹松俊彦・稲口 隆（三菱電機）

低圧遮断器の高遮断容量化にはアーク抵抗を高め，限流性能を向上させることが重要である。今回は新型遮断構造の改善効果の検証を目的に試験にてアークコラム抵抗を評価し，解析により細隙効果の影響を調査した。接点近傍にハの字で絶縁板を配置した提案構造では従来構造に比べ，アーク電圧が高く，電流ピークまでの平均アークコラム抵抗が約1.7倍増加した。解析では細隙効果により平均アークコラム抵抗が1.4倍向上し，アーク観測およびアーク解析いずれにおいてもアーク径が制限されていることを確認した。以上より提案構造にて，平均アークコラム抵抗を約1.7 倍向上できることを実証し，その主要因が細隙効果であることを明らかにした。

6-042

遮断器操作機構開発における駆動法検討からAI診断までの1D-CAEのプラットフォーム利用

○小川 慧・丸島 敬・齊藤暁斗・金谷和長（東芝エネルギーシステムズ）

油圧操作機構，ばね操作機構などの1D-CAE を活用した開発，1D-CAE モデルを活用したAI 診断技術開発に触れながらプラットフォームとしての利用方向性について報告する。

6-043

電流減衰過程におけるCO₂ロータリアークの印加磁束密度依存性

◎信木 慎・平山智士・坂本眞一（滋賀県立大学）

SF₆ガス遮断器より消弧性能が劣るCO₂ガス遮断器は，消弧性能を向上させる方策の一つとして外部印加磁場を利用した方式がある。これまで大電流条件で外部磁場印加中のCO₂アークについて報告されている。本研究では電流減衰過程でのCO₂ロータリアークの印加磁束密度依存性を明らかにすることを目的で，3次元非定常場で輻射・電磁流体解析を行った。異なる磁束密度条件でアークの構造変化と挙動およびアーク電圧，電気抵抗を検討した。本研究の条件では，電流減衰過程における電流零点直前の電気抵抗の値は0 Tで22 Ω，0.2 Tで26 Ω，0.5 Tで55 Ω，1 Tで118 Ωであり，印加磁束密度が大きいほど高くなる。

6-044

CO₂およびCO₂/O₂雰囲気におけるポリマーアブレーションの数値解析的検討

○中野裕介・田中康規・石島達夫（金沢大学）

本稿では，CO₂およびCO₂/O₂混合ガス雰囲気におけるポリマーアブレーションの特性を検討するため，電磁熱流体解析を実施した。空気（80%N₂/20%O₂），CO₂および70%CO₂/30%O₂混合ガスを対象とし，ノズル材PA6のアブレーションがアークに与える影響を評価した。解析の結果，いずれのガス種においても，アークプラズマが円筒内壁に接触して生成されるPA6蒸気が外部電極方向へ輸送される様子が確認された。空気中ではアークが収縮し高温化する一方，CO₂中ではアーク径が大きく，アブレーション蒸気の質量密度と径方向供給が低いことが示された。また，PA6蒸気はアーク中心で高く，周縁部で低くなる傾向を示し，軸方向輸送後に内部電極付近で滞留し排出されると推測される。

6-045

表皮効果を考慮した銅円筒導体におけるJoule発熱及び温度上昇の解析 ―電力DC機器のACによる代替試験の開発に向けて―

◎郷 侑樹・横水康伸・岩田幹正・兒玉直人・中村綾花（名古屋大学）

将来の電力系統では，高電圧DC(HVDC)開閉機器の設置増加が予想され，統一試験規格の下で性能検証が求められるが，現状では規格の制定が進んでおらず，高電圧・大電流DC試験設備も不足している。そのため，IEC規格においてDC機器の通電時温度上昇試験をACで代替することが検討されている。当研究室では，代替試験におけるAC電流値設定手法を基礎的に検討し，表皮効果を考慮して銅やアルミニウム円柱・円筒導体の電流密度分布や電気抵抗を解析してきた。本報告では銅円筒導体を対象にJoule発熱と温度分布を解析し，外表面で発熱が増大する一方，温度分布は均一であった。また，AC通電時の温度はDC通電時より高い結果となった。

6-046

量子進化的計算を用いた送電系統拡張計画

森 啓之・◎河内勇裕（明治大学）

本稿では量子進化的計算であるQuantum Predator-Prey Brain Storm Optimization（以下, QPPBSOと略記）を用いた送電系統拡張計画を提案する。近年, 分散電源が多量導入されており, 送電容量を超える電力が送電線に流れる危険性が高まっている。そのため, 将来的な発電量や電力需要の増加を見越し, 最適な配置に送電設備を拡充することが重要である。この配置を決定するための手法として進化的計算（Evolutionary Computation, 以下, ECと略記）がある。本稿では従来のECに量子コンピューティング（Quantum Computing, 以下, QCと略記）を組み合せたQPPBSOを用いる。QCは量子特有の物理現象である量子の重ね合わせを模倣し, ECの解探索を強化する。

6-047

系統網モデル化による最大流問題を用いた電力フロー最適化

○稲毛 契（東京都立産業技術高等専門学校）・佐藤光哉（電気通信大学）

本研究は送配電の系統網をグラフネットワークでモデル化し，本モデルを用いてフローのブラックボックス最適化を行うことで系統混雑を回避あるいは低減できる需要分配方法を提案する。数値シミュレーションより，提案手法を用いることで，系統網に接続する需要家の消費電力の内，EV負荷の割合が増加しても安定して電力供給が可能であることを示した。

6-048

PV予測誤差を考慮したSOC調整による蓄電池システムの運用計画法

◎岡﨑翔太・髙橋明子・重信颯人・伊藤雅一（福井大学）・足立隆之・村牧義之（北陸電力）

太陽光発電（PV）の発電量は気象条件に左右されるため，実際の発電量が予測値から大きく外れることがある。その結果，電力系統の潮流が乱れ，需給バランスの維持が難しくなる。そこで本研究では，任意の地域エリア電力需給モデルを対象とし，電力系統の潮流を平準化しつつ予測誤差を考慮したBESSの運用計画法を提案する。平準化を目的としたBESSの運用計画において，計画実行日0時における実績SOCと50%の差分および，計画実行日の予測PV電力量の2つの要素に基づいて最終SOCを調整することで，予測誤差によりSOCが上下限値に到達することを回避する。評価の結果，従来手法では9日目で潮流が乱れたが，提案手法では62日間の長期連続運用に成功した。

6-049

二点推定法に基づく確率最適潮流計算における運用制約の影響に関する基礎検討

◎細田笙太郎・山口順之（東京理科大学）

変動性再エネ電源である太陽光・風力発電の大量導入に伴い線路潮流の不確実性も増大することが想定される。既にノンファーム接続が可能ではあるが，地点ごとの出力抑制量の偏りが少ない公平な送電投資を行うためには，線路潮流の確率的な分布を把握することが不可欠である。そこで本研究では，計算量が少ないとされる二点推定法を用いた最適潮流計算に対し，将来の変動性再エネ電源の大量導入を考慮したばらつきの大きな確率変数を与えた場合の数値実験に基づく基礎的な検討を行う。

6-050

進化的計算を用いた非線形ロバスト最適化法の電力系統のパイロットバス選定への応用

○森 啓之・三輪陸人（明治大学）・Hsiao-Dong Chiang（Cornell大学）

本稿では非線形ロバスト最適化（NRO）を用いた電力系統のパイロットバス選定法を提案する。スマートグリッドにおいて電力市場は重要な役割を果たしている。その際, 電力市場の不確定性要因が存在するため, 電圧不安定性が発生するが発生する傾向がある。電圧不安定を防止対策の1つとしてパイロットバスの利用がある。その選択法として感度行列や発見的手法を用いた法が従来, 開発されて来たが, 本稿では非線形最適化問題に有効な進化的計算を用いたNRO法を提案する。

6-051

省スペースを実現した中村変電所向けMMC-STATCOMの設置効果

◎福島大史・田村裕治・千葉勇樹・張 昊・高橋宏輔（東芝エネルギーシステムズ）・濱島慎ノ介・新井卓郎（東芝インフラシステムズ）・川村 弥・水島清也（TMEIC）・港 雅広（四国電力送配電）・森川竜一（東芝インフラシステムズ）・臼木一浩（TMEIC）

再生可能エネルギーや新たな電力需要の増加に伴い，電力系統における様々な変化や課題が生じている。その対策の一例であるSTATCOM(Static Synchronous Compensator)は，高速かつ連続的な無効電力出力で電力系統の安定度を向上させることができる。東芝エネルギーシステムズ(株)は，MMC(Modular Multilevel Converter)方式を採用した新型STATCOMを開発し，四国電力送配電(株)中村変電所に納入した。本装置は，オープンデルタ変圧器を採用した省スペースな機器配置などの特長を有している。また，電力系統の安定度を向上させるPSS(Power System Stabilizer)制御機能を新規開発し，系統解析や系統連系試験などによりその有効性を確認した。

6-052

PV導入拡大系統に対応した人工知能（AI）による電圧無効電力制御の運用実績

◎浅見貫太・福澤 新・壬生賢一（中部電力パワーグリッド）

長野方面系統は，上越火力発電所の大電力を長距離に亘って送電する放射状系統であり，過渡安定度問題，電圧変動問題，分離系統周波数問題など複合的な問題が生じる。対策として，「長野方面ISCシステム」を導入し，系統の安定運用を維持してきた。しかし，近年はPV導入量の拡大に伴い，電圧変動が一層大きくなっており，従来の電圧無効電力制御方式では，適正電圧の維持が困難となるとともに，電圧調整機器の動作回数が大幅に増加するおそれがある。これを解決するべく，「AIを活用した新たな電圧無効電力制御方式」（新制御方式）を開発し，新制御方式を実装した長野方面ISCシステムを2023年5月16日に運用開始した。運用開始から1年以上が経過したため，新制御方式の実績について評価を行う。

6-053

連系系統の広域動揺周波数を用いた需要側慣性の推定手法に関する研究

◎髙野竜之介・柳澤一輝・斎藤浩海（東北大学）・伊藤直樹・宮崎裕一（東北電力ネットワーク）

近年，カーボンニュートラルの実現に向け，再生可能エネルギー電源の導入が拡大している。それに伴い既存の火力発電機などの同期電源が減少し，系統の慣性力不足が課題となりつつある。そこで系統運用時に適切な量の慣性力を確保しておくためには，運用時の系統慣性を予測・推定できる手法の確立が望まれる。
東京エリアと東北エリアの連系系統である，東日本系統の広域動揺には，0.35Hzと0.5Hz付近の振動が現れている。本稿では，EAST10機系統モデルに需要側慣性を加え，東日本エリアの連系線の実潮流に現れるような振動周波数と一致するように，需要側慣性の値を決定する手法について述べた。

6-054

直流連系線潮流と周波数の常時計測データを用いたエリア慣性の推定手法に関する検討

○川村智輝・天野博之（電力中央研究所）

系統の慣性の低下により，電源脱落時等の周波数変化率（RoCoF）が増加し，周波数安定性が低下することが懸念されている。中西地域のような系統では，電源脱落等が発生したエリアのRoCoFは系統全体の平均的なRoCoFと比較して大きくなり，そのRoCoFは当該エリアの慣性の影響を強く受ける。また，北海道エリアのように他エリアと直流連系されるエリアにおいては，電源脱落等発生時のRoCoFはエリア慣性に依存する。このため，周波数安定性を維持していくうえでは，エリアの慣性を推定することが重要となる。本稿では，北海道エリアのように他エリアと直流連系されており，かつ直流連系設備で周波数制御が常時行われている場合に対して，常時計測データを活用することでエリアの慣性を推定する手法を提案する。

6-055

周波数低下事故時計測データを用いた系統慣性等の推定手法

◎袋 慈弾・井上俊雄・小出 明（富山大学）

インバータ連系の再生可能エネルギー電源の導入拡大に伴う同期発電機の減少による系統慣性の低下は周波数安定性の低下につながるため, 系統慣性の監視は系統安定運用の確保において重要となる。本研究では, 基幹系統発電機の有効電力変化を用いて送電系統全発電機トータル慣性を推定する手法, ノード周波数と消費電力変化を用いて負荷の周波数特性と慣性を推定する手法を考案し, シミュレーションによってその推定手法の有用性を例示する。

6-056

電力系統に接続した蓄電池の運用方法が過渡安定度に与える影響

◎柳澤一輝・斎藤浩海（東北大学）・伊藤直樹・宮崎裕一（東北電力ネットワーク）

今後，電力系統に連系される再生可能エネルギー電源が増加し，それに伴い火力発電などの同期発電機が減少することによる過渡安定度の悪化が危惧されている。一方，市場取引での利益獲得などのために蓄電池が今後大量連系されると考えられる。この蓄電池を過渡安定度維持に活用できれば，調相設備などよりも低コストで過渡安定度を向上できると考えられる。本稿では2地域連系系統において，1つの地域の蓄電池を系統安定化のために運用する場合と蓄電池所有者の利益を優先する運用をした場合に過渡安定度にどのように影響を与えるのかの基本的な検討を行ったので，その結果を報告する。

6-057

Determination of Dynamic Security Region in Power Systems using the Dynamic Mode Decomposition

○Juelin Liu（Chengdu University of Information Technology）・Zhicheng Zhang・Yoshihiko Susuki（Kyoto University）

We address the problem of determining the region for large-signal stability in parameter space, referred to as the Dynamic Security Region (DSR) of a transmission system. The DSR is the region in parameter space, such as parameters of generation dispatching, where, for a given set of contingencies, the target system can maintain synchronism (i.e., does not show any loss of synchronism). The formulation of DSR depends on the setting of stability criteria. This paper introduces a method to determine the DSR using the dynamic mode decomposition-derived stability criteria and demonstrates its effectiveness.

6-058

同期機過渡現象における機械連成の影響（第3報）

髙根沢 真（日本工業大学）・○平松大典（東九州機械工業）

回転電気機械は発電機・電動機等広く用いられてきた。近年，地球温暖化問題が耳目を集める中，従来とは異なる原動機，負荷システムへ適用が見られるようになった。これまで筆者等は同期発電機のモデリンについて研究・発表を行ってきたが，ここで原動機・負荷・回転電機の連成について原点に立ち返り検討を進めてきた。筆者等は解析を中心に連成現象の検討を行っているが検証試験との比較も計画している。筆者等が目標としているのは系統を含めた連成の影響であるが，所属機関の発電機セット等による検証試験もあわせて考えている。そこで検証試験に用いる小容量機について，基本過渡現象である突発短絡について解析・検討した。

6-059

機械学習と直流法を用いた潮流計算法 －訓練データに関する検討－

◎大澤拓門・赤塚元軌（苫小牧工業高等専門学校）

近年，発電時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの導入が進んでいるが，天候等によって左右される不確実性をが与える影響を正確に把握する必要がある。
不確実性を評価するため，確率潮流計算を応用することが考えられるが計算負荷が非常に高いため，筆者らは直流法による潮流計算と機械学習を用いた潮流計算の近似的計算手法を提案している。
本稿では，機械学習の構築に使用する訓練データのサンプリング方法について検討した。具体的には，ラテン超方格サンプリングを用いた手法を提案し，その有効性を数値試算によって検証した。その結果，従来手法と比較して計算精度を向上させることが可能であることがわかった。

6-060

テブナン等価インピーダンス行列を用いた短絡容量比SCRの拡張に関する一考察

○天野博之（電力中央研究所）

太陽光・風力発電等の再エネ電源の増大に伴い，系統に並列される同期発電機が減少し，周波数，位相角，電圧等の各種安定性が低下することが懸念されている。これらのうち，電圧安定性・電圧維持能力はSystem Strengthとも呼ばれ，その指標の一つとして，テブナン等価インピーダンスや短絡容量比SCRが用いられてきた。単純なSCRでは他のインバータ等の影響は考慮されないため，SCRを改良した種々の指標が提案されている。本稿では，他のインバータ等の影響を考慮したテブナン等価インピーダンス行列をもとに拡張したSCRを考案するとともに，他の指標と比較することにより，その妥当性を示す。

6-061

長距離ケーブル系統における電気的課題―上位系統母線短絡時の電流零ミス現象―

○壹岐浩幸・三井則英（富士電機）・中村勇太（名古屋工業大学）

風力発電をはじめとする再エネ電源の導入増加により，発電設備が長距離ケーブルを介して系統に連系される長距離送電が増加している。静電容量が大きい長距離ケーブルを有する系統での電気的課題として電圧変動や電流零ミス現象(ZMP)が挙げられ，分路リアクトル(SR)を設置する必要がある。既報では，長距離ケーブルを有する系統において電圧変動対策に必要なSR容量設計方法を開発したが，ZMPを考慮しておらず，電圧変動対策に必要な最低SR容量と，ZMPを回避するための最大SR容量に乖離が生じ，別途対策が必要になる可能性がある。本発表ではその実例をシミュレーションで示すとともに，その対策例について提示する。

6-062

調整力を提供する大型水電解装置群を含む発電機起動停止計画

◎中村勇太・青木 睦（名古屋工業大学）

蓄電池をはじめとする需要家リソースを活用した需給調整力の提供が数多く検討されており，著者らもこれまで調整力提供を行う水電解装置の運用および制御に関する検討を行っている。
近年，水電解装置の大型化や並列化に向けた技術開発がなされているが，大型電解装置群が系統に連系される場合には，電力供給の安定性や経済性の観点から，発電機の需給運用に水電解装置群の出力や捻出可能な調整力といった稼働状況を組み込むことが肝要となるだろう。
本稿では，需給・周波数シミュレーションの標準解析モデルAGC30の発電機を対象に，大型水電解装置群を含む発電機起動停止計画を策定するとともに，蓄電池を含む計画と比較する。

6-063

2050年電源構成におけるスポット・需給調整同時市場の価格特性に関する基礎検討

◎五味洸斗・大石優菜・山口順之（東京理科大学）

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて再生可能エネルギー電源と水素関連技術の大量導入が想定されている。現在の需給調整市場では価格が安定しなく，その結果調整力に対する設備投資が困難となり調整力不足に繋がる。また，新しい市場としてエネルギー商品と需給調整商品を同時に約定される同時市場の導入が検討されている。本研究ではUCを用いて現在から2050年までの電源構成を条件に，同時市場を導入したときの電力スポット価格と調整力の価格を求め分析した。結果から2050年では全国で昼夜を問わず余剰電力が発生しネガティブプライスの発生が常態化する。また同時市場導入により電力スポットと調整力の価格に相関関係がみられるようになり調整力に対する設備投資への動機となることが期待できる。

6-064

現状の市場制度のもとでの将来のスポット価格

○荻本和彦・岩船由美子・今中政輝（東京大学）・東 仁・瀬川周平・和地恒久（㈱J-Powerビジネスサービス）

2050年のカーボンニュートラルに向け，二酸化炭素を運用段階でほぼ排出しない再生可能エネルギー（再エネ）と原子力の年間の発電電力量シェアは増加し，2040年には7割に近づくとされる。再エネのうち天気や時間で出力が大きく変動する太陽光発電と風力，経済性から最大出力での一定出力運転が望ましい原子力と地熱の割合が高まると，火力の発電出力ひいては運転台数が減少する。他方，時間内変動・予測誤差・最大電源脱落に備える需給調整力の必要量は増え，蓄電池など新たな供給源と従来型の集中電源がそれを供給する。
現在の市場制度においては，再生可能エネルギーの出力制御が発生する時間コマのスポット価格は0.01円/kWh（ゼロ円価格）となる。揚水の活用や火力電源の最低出力の引き下げなど対策が行われているが，ゼロ円価格の頻度は，再エネの導入増と原子力の再稼働の中で，近年増加傾向にある。
本検討では，このような状況に基づき，2030年，2040年のスポット価格の解析結果について報告する。

6-065

電力・水素システムにおける個別運用最適化の統合手法の提案

◎原 友亮・山上博康・山口順之（東京理科大学）

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて水素をエネルギーとして変換，輸送，貯蔵，消費に活用することが注目されるなかで，既存の電力ネットワークと水素システムを統合して考慮する必要がある。本研究では水素の輸入コストと電力システムに接続される水素ステーションへの輸送コストを最小化する水素システムから計算されるシャドウプライスを，発電機の燃料費と起動費が中心のコストを最小化する電力モデルに組み込むことで統合最適化を実現する。
北海道を対象としたシミュレーションではシャドウプライスを考慮した電力システムの運用最適化が行われ提案手法の妥当性を示した。また，地域ごとの最適な水素運用が明らかになり，送電線増強と水素ステーションの必要性を確認した。

6-066

直流法潮流計算を考慮した地域細分化型エネルギーシステムモデルによる日本の電源構成の検討

◎渡辺弘樹・大槻貴司（横浜国立大学）

2050年カーボンニュートラル達成に向け，再エネの大量導入やそれに伴う広域的系統整備が行われる予定である。本研究では時間的・地理的に詳細な日本エネルギーシステムモデルに，直流法潮流計算を定式化して組み込むことにより，電力系統の安定度制約を設け，制約が電源構成に与える影響を評価した。その結果，東北・東京間で過潮流となっていた送電線の潮流量が低減され，系統的安定性が高まるような結果が得られたが，潮流制約の有無に関わらずHVDC建設よりも東京等の大都市近郊でゼロエミッション火力発電の導入を増やす方がコスト面や系統安定度の面で優位となることがわかった。今後はHVDC建設が優位になるケースの検討も進めていきたい。

6-067

エリア別時刻別電力限界CO2排出原単位の推計

○岩船由美子・今中政輝・荻本和彦（東京大学）

長期的なカーボンニュートラル実現のためには，適切な指標を用いて需要家に帰属するCO2排出量を算定していく必要がある。著者らは既にエリア別時刻別平均CO2排出原単位の推計方法を提案しているが，電力部門の各種施策（省エネ，電気自動車（EV）導入，発電設備導入）を評価する際には，短期的な電源代替を考慮した限界的な評価，すなわち限界CO2排出原単位を用いるべきという指摘がある。本稿では，各一般送配電事業者のエリア需給実績データを用いて，時刻別の限界CO2排出原単位を推計する手法を提案する。

6-068

将来の電源構成に基づく東日本系統モデルを用いた慣性力の基礎的評価

◎吉川優⾐・志熊亮佑・金子曜久・諏訪 寛・矢部邦明・石井英雄・林 泰弘（早稲田大学）

再生可能エネルギー電源の大量導入に伴う系統慣性低下対策として，周波数サポート機能を有するGrid Following インバータ（GFL）やGrid Forming インバータ（GFM）の技術開発が進められている。我が国の電力系統における設備計画のためには，これらの慣性低下対策インバータの特性や導入効果を，実系統に近いモデルを用いて評価しておく必要がある。そこで本稿では，慣性低下対策インバータの詳細な評価を目的として，電気学会EAST10機系統モデルに対し，2030年を想定した電源構成に基づく再エネ導入や負荷，発電機台数を模擬した多機系の広域系統モデルを構築した。数値計算では，Frequency-Watt制御を有するGFLとDroop特性を持たせたGFMの導入効果を，慣性中心周波数の観点で比較評価する。

6-069

太陽光発電と揚水発電ハイブリッドシステムの最適運用検討

◎田村秀人・村上好樹・岩渕一徳・宮崎保幸・向 利昌・森 淳二・鎌田雄喜・松澤茂雄（東芝エネルギーシステムズ）

再生可能エネルギーの大量導入に向けて，揚水発電所の有効活用が求められている。揚水発電に隣接する太陽光（PV）と揚水発電所のハイブリッド運用を行った場合，売電収入の増加が見込まれる。今回は3台の定速ポンプ水車を持つ揚水発電所を対象に，揚水時の1台から3台運転の3点の運転点と，発電時の1台の定格50％から3台の定格出力まで連続に変化する運転を模擬した。また，揚水運転はPV出力範囲のみで行う制約を導入し，揚水発電所をPVのピークシフト運転に用いる最適運用計画問題を定式化した。PVの定格出力を変えて年間の運用計画を策定したところ，PV 出力をピークシフトするハイブリッド運用により売電収入が向上することが分かった。

6-070

前日同時市場における二次調整力を考慮した最適潮流計算に関する研究

◎永島 匠（広島大学）・久保川淳司（広島工業大学）・餘利野直人（呉工業高等専門学校）・造賀芳文・佐々木 豊（広島大学）

一般送配電事業者は，電力供給区域の周波数制御・需給バランス調整のために調整力を公募で調達している。効率的な需給運用を目指し2021年4月より，エリアを越えた広域的調整力の調達を行う「需給調整市場」が開設された。需給調整市場開設後，市場価格の不安定化や各市場の部分最適化に伴う非効率的運用が明らかとなった。これに対し電源の安定確保と市場価格高騰の抑制を目的として「同時市場」の導入とその運用方法が検討されている。本研究では，発電機起動費を考慮し二次調整力を含めた最適潮流計算を行うことで，前日同時市場における約定コストの最適化を目指す。これにより電源差替えの回避やΔkW不足の解消，費用高騰の抑制が期待できる。

6-071

マイクログリッド前日需給計画における蓄電池の運用温度制約に関する基礎的検討

◎太田 舜・佐々木 豊・小西賢治・造賀芳文・馬場秀央（広島大学）・角井弘典・河内清次（中国電力）

カーボンニュートラルの実現やレジリエンス強化の観点から，電力システムへの太陽光発電(PV)等の自然変動型の再生可能エネルギー(VRE)や定置用蓄電池(BESS)といった分散型エネルギーリソース(DER)の大量導入が進んでいる。そのため，システム運用者にはVRE発電量や需要予測データに基づく高度な需給マネージメントが要求される。関連して，地域単位でマイクログリッド(MG)化し，前日需給計画やリアルタイム需給運用などの手法が提案されている。著者らもマイクログリッド運用者(MGO)が実運用で利用可能な電力管理システム(EMS)として，需給制御マネージャを開発している。
本稿では，BESSの充放電動作による内部発熱を考慮した，MG前日需給計画について示し，BESSの動作について検討する。

6-072

再生可能エネルギーとEVを大量導入した離島におけるVPPを用いた電力供給計画に関する研究

◎上原大輔・山崎祥吾・川﨑章司（明治大学）

離島系統では，広域の電力融通が利かないことや発電所が小規模なことから調整力が不足し，再生可能エネルギーの導入が鈍化している。本研究では，再生可能エネルギー及びEVを大量導入した離島系統を仮定し，需要家側の分散型エネルギーリソースを管理，統合制御して電力需給の調整に活用するバーチャルパワープラント（VPP）の考えを用いて電力の安定供給を目指す。その際，需給バランスの調整，再生可能エネルギーの有効活用，天候の変動に伴う再生可能エネルギーの出力変動への対応，EVの有効活用などの機能を有するものを目標とし，これらの条件を満たした需給計画，発電機の起動停止計画をタブーサーチを用いて最適化し提案する。

6-073

自然変動電源出力の季節変動に対応する大規模電力貯蔵装置の運用における充放電効率および自己放電率の影響解析

◎織原 大・橋本 潤・小島宏一・難波哲哉（産業技術総合研究所）・真鍋勇介（真鍋ラボ）

再生可能エネルギー電源の出力抑制を回避し，発電余剰を有効活用する手段として電力貯蔵装置の活用が有効である。変動周期の長い季節変動を吸収するには，大規模な電力貯蔵装置による長期にわたる充放電が必要である。本研究では，季節変動対応の大規模電力貯蔵装置に適した貯蔵技術や適切な容量，最適な運用方法を明らかにすることを目的としている。本稿では，貯蔵技術によって異なる充放電効率および自己放電率が，電力貯蔵装置の最適運用に与える影響を，年間を対象とした電源起動停止計画問題によって評価した。結果として，自己放電が少ない場合は長期の運用が最適となる一方，自己放電が多い場合は短期の運用により自己放電の影響を抑制することが必要となることが分かった。

6-074

PV予測誤差を考慮した離島電力系統の最適需給計画

◎青木勝稔・勝崎友裕・重信颯人・髙橋明子・伊藤雅一（福井大学）・松田敦志・中村和平（北陸電力送配電）

日本の離島電力系統では，ディーゼル発電機(DG)によって電力供給が行われてきた。また，近年の太陽光発電（PV）システムの普及によってPVの予測誤差の影響が増加し，供給予備力の不足や需給インバランスが問題となっている。本研究では，当日にPV出力の予測を繰り返し更新し，数分ごとに発電機起動停止計画を再立案することによって，不確実性による予測誤差の影響に即時対応できるような計画手法を提案した。シミュレーションでは，最大負荷が大きい淡水化装置が稼働しても，蓄電池によってDG追加起動を要求せず，重負荷期におけるPV予測誤差の影響を最小限に抑えた。結果として，前日計画に比べて総費用を約2.2%削減できることを確認した。

6-075

蓄電を考慮した多項式型発電機の起動停止問題

◎宇田川航汰・東 剛人（宇都宮大学）

発電機起動停止問題は，再生可能エネルギーの導入量増加により火力発電の調整力低下が予測されるため，更なる厳密な解法が望まれる。先行研究では多項式発電機の起動停止問題について考察されたが，余剰電力の問題については考察されていない。そこで本稿では，余剰電力を考慮して蓄電を組み込んだ発電機の起動停止計画問題を定式化し，その解法を提案する。
電力の需給拘束，発電機の供給電力の上下限拘束・最大速度拘束を条件とした最適化問題を定義する。ただし，供給電力が正のときは発電，負のときは蓄電とする。この問題の数値実験を発電機2機と蓄電装置でシミュレーションした結果，すべての拘束条件を満たした上で蓄電装置への蓄電がおこなわれたため，蓄電を考慮した場合でも提案手法が有効であるといえる。

6-076

一次調整力偏在が負荷周波数制御（LFC）の制御仕上がりに与える影響の解析

◎浅田果穂・井上俊雄・小出 明（富山大学）

自然変動電源である再生可能エネルギーの導入拡大に伴い，系統周波数変動を抑制する負荷周波数制御（LFC）の役割が重要性を増している。LFCでは系統定数を用いるが，これは発電機および負荷周波数特性で決まる。しかし，一次調整力に依存する発電機周波数特性は電源構成や時間で変化するため，系統定数を正確に推定することは難しい。特に，再生可能エネルギーの比率が高いエリアでは一次調整力が低下し，他エリアで調整力確保の負担が増大する。本研究では，調整力の偏在がLFCの周波数制御に与える影響を4ケースで解析した。

6-077

需給運用を想定したダイナミックレーティング導入に関する一考察

○大成高顕・加瀬高弘・下尾高廣・上田隆司（東芝エネルギーシステムズ）

一般送配電事業者の需給運用（需給計画や当日の運用）における送電設備の熱容量限度の利用シーンから，ダイナミックレーティング導入にあたっての課題を整理し，系統運用者にとって負担の少ないダイナミックレーティングシステムの導入について考察した。

6-078

需要家の熱的快適性を考慮した空調機群の制御可能消費電力の推定と公平なLFC指令値の配分

◎古田雅大・斎藤浩海（東北大学）

電力系統の周波数変動を抑制する手段として，空調機の消費電力を制御する負荷制御が注目されている。しかし，空調機の消費電力を制御した場合，需要家の熱的快適性が損なわれる可能性がある。快適性の悪化や公平性の欠如は，需要家の負荷制御への協力意欲を低下させるだけでなく，負荷制御への参加拒否などといった不確実な行動を引き起こし，負荷制御の信頼性を損ねる可能性がある。
そこで本稿では，実需給時に需要家からアグリゲーターに送信されるフィードバック情報を基に，熱的快適性の制約を考慮した上で周波数制御に活用できる負荷制御量をリアルタイムで推定する方法を提案する。また，需要家間の快適性を公平に保つ指令値配分手法も提案する。

6-079

風力発電の出力制御による再エネ出力予測誤差調整力提供効果の評価

◎矢作東子・池上貴志（東京農工大学）

再生可能エネルギー（RE）は出力の不安定性や出力予測の不確実性を有しているが，REの出力予測誤差に対して，出力抑制を適切に行い，予測誤差調整力をRE電源自身が電力システムに提供することで，予測誤差の影響を緩和できる可能性がある。本研究では，太陽光・風力発電の予測誤差を分析し，予測誤差に対して風力発電が予測誤差調整力を提供する効果を電力需給解析モデルにより評価した。風力発電が予測誤差調整力を提供できることによって，燃料費とCO₂排出量が削減し，太陽光・風力発電の出力抑制率も減少することが確認できた。

6-080

大電源脱落時の系統周波数変動を模擬する慣性可変MGセットの開発

◎坂下大介・北村武尊・近藤潤次（東京理科大学）

自然変動性電源（VRE）の導入拡大による周波数変動の増大の対策として負荷制御を提案し，系統慣性を模擬するフライホイール（FW）とエンジン発電機を用いた模擬系統で有効性を実証してきた。しかし，エンジン発電機の特性から短周期変動成分が周波数に重畳され，実系統の特性を忠実に再現できなかった。また，FWが固定されており，VREの導入量の変化による系統慣性の変化を模擬できなかった。そこで，脱着可能な複数のFWとMGセットを用いた模擬系統を新たに提案し，電源脱落時の周波数過渡特性を検証した。その結果，FWの枚数に応じて周波数変化の時定数が変化し，異なる3通りの系統慣性を再現することができた。

6-081

MOベースのLFCにおける蓄電池の必要kWh容量削減のためのオーダ順設定方法

◎蟹江良美・伊勢貴洋・占部千由・加藤丈佳（名古屋大学）・山口 遼・多田 玲・山田富士宏（中部電力）

MOベースのLFCにおいてBESSを利用すると，周波数偏差は抑制できるものの，大きなkWh容量のBESSが必要になる点が課題とされていた。MOリストにおけるBESSの順位を，上げ／下げの両方向で最上位とするCase-Lに対して，BESSに必要なkWh容量を削減するため，火力機が指令値と近い値を出力できている時は火力機に優先的に指令値を配分し，BESS出力を抑制する手法を考案した。また，充電の必要性が高い時間帯で充電を促す制御も導入した。その結果，必要な時間帯で効率的にBESSを使用でき，BESSのkWh容量を削減しつつ，Case-Lと同程度に周波数の平均絶対偏差を抑制できた。

6-082

太陽光発電と蓄電装置を考慮した電動発電機の基礎検討

◎山田響生・津坂亮博・雪田和人・七原俊也（愛知工業大学）

近年，カーボンニュートラルの実現へ向けて再生可能エネルギーを利用した電源(再エネ)の導入が世界的に進められている。しかし再エネは慣性力を有しておらず，系統の電源構成の内，再エネが占める割合が増加すると系統の慣性力が低下する。この課題に対応するため，再エネから電動発電機を介して系統接続することで，再エネへ慣性力を持たせる手法が提案されている。本稿では，再エネと蓄電装置を考慮した電動発電機の基礎的実験を実施した。電動発電機が電動機側の電源を喪失した際の発電機出力電圧・周波数を計測し，慣性定数を算出することにより，電動発電機の慣性力付与効果を検証した。

6-083

相関係数とLasso回帰を用いた需要予測と需要家の特徴づけ

○松田勝弘（東北電力）・三浦輝久（電力中央研究所）

需要予測の高精度化はエネルギー分野において重要な課題である。特に, 需要家毎の消費パターンを正確に把握することはDRを効率的に実施し, 電力供給の最適化を図る上で欠かせない。これに加え, 需要家の特徴を明確にすることは個別対応やグループ分けによる施策立案に寄与し, さらなる効率化と信頼性向上が期待される。本稿では, 需要予測の際の特徴選択を用いて, 需要家の特徴を整理・理解する手法を提案する。具体的には, 相関係数を用いて特徴を絞り込み, Lasso回帰を適用することで特徴選択を行う。さらに, 選択された特徴に基づき需要家をグループ分けする。このアプローチにより需要家毎の予測精度を維持しつつ, 特徴を抽出できるかを検証する。

6-084

非周期的なパターンの電力需要予測モデルの比較

◎豊井美雪・王 維浩・梅本貴弘・佐藤正寛・熊田亜紀子（東京大学）

短期のエネルギー需要予測は，再生可能エネルギーシステムの運用最適化において重要な役割を果たすが，非周期的な消費パターンを持つ建物での研究は少ない。本研究では，東京大学の工学部13号館と地震研究所の電力需要データを用いて，ARIMAX，LSTM，LightGBM，Transformerの4つのモデルを比較した。LightGBMは外れ値への耐性や効率的な計算により最も高い精度を達成した。Transformerは時間依存性の学習に優れ，ARIMAXやLSTMよりも高い性能を示した。一方，データの適切な前処理を行わないLSTMは非周期的なパターンの学習に課題が見られた。

6-085

ANNによる翌日最大電力需要予測結果のALIMEによる説明のハイパーパラメータ調整

◎田中嵩人・福山良和（明治大学）・島崎祐一・飯坂達也（富士電機）

電力会社は，電力供給には適切な供給予備力の確保が必要であり，このためには，翌日最大電力需要予測を高精度に予測することが必須である。これまで翌日最大電力需要予測にはANNが適用されてきた。しかし，ANNは，中身がブラックボックスとなっており，予測値の説明をすることが難しい。そこで著者らはXAI 技術のALIMEによる説明を行ったがALIMEで使用されるオートエンコーダーの精度には改良の余地があり，説明精度に改良の余地があった。本論文では，著者らが開発したMCCを用いたANNによる翌日最大電力予測の予測値の説明精度向上のため，ALIMEのオートエンコーダーの中間層のニューロン数を増やし適切なニューロン数を求めた結果を報告する。

6-086

AE-AR Transformerを用いたネット需要時系列予測に関する基礎検討

○高山聡志・石亀篤司（大阪公立大学）

再生可能エネルギー導入の拡大に伴い，欧米で注目されるEaaS(Energy as a Service)は，エネルギー供給や設備投資を包括的にサービス化するモデルである。しかし，天候や需要家の多様化によりネット需要の変動が大きく，測定誤差や負荷変動などのノイズが予測を困難にする。本検討では，AE（Auto-Encoder）でノイズを除去したうえで自己回帰（AR）とTransformerの注意機構を組み合わせたAE-AR Transformerを提案する。従来手法との比較を通じ，ノイズ対応と多ステップ予測精度に関する基礎検討結果を報告する

6-087

需要家の電力消費動向の分析方法に関する基礎検討

◎相場萌香・高野浩貴・塚本 恋・浅野浩志（岐阜大学）・杉本貴文・岡 靖典・横山和弘（関西電力送配電）

配電設備は，高度経済成長期の電力消費の増加に伴って新設・増設されたため，設備更新の時期を迎えているものも多い。一方，人口動態の変化や脱炭素化に向けた取り組みなどによって，電力の消費動向は変化している。そのため，現状の設備容量を基本とした設備更新ではなく，今後の電力消費動向を踏まえて設備容量を見直すことが重要となる。著者らは，スマートメータデータを周期別変動成分に分解して分析することが，電力消費動向の把握に繋がるものと期待している。本稿では，時系列データの分析手法の一つであるSTL法を利用して，スマートメータデータを長周期変動成分（トレンド成分），季節変動成分（季節成分），残差成分（残差）に分解することを試みた結果を紹介する。

6-088

ZEB Ready基準のオフィスビルにおける逆潮流発生状況の調査と改善策の検討

◎小宮健人・清水舜太・阿部寛史・藤田吾郎（芝浦工業大学）

近年，深刻化する地球温暖化対策として温室効果ガス削減の取り組みが世界全体での課題となっている。日本では2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で46％の削減，2050年にネットゼロの達成を目指している。
このため，再生可能エネルギーの導入拡大が進められ，とりわけ太陽光発電（以降PVとする）は導入量が伸びており，2022年度末には7394万kWに達した。
また，ネットゼロを達成するための1つの手法として，ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)が挙げられる。
ZEBの段階の一つであるZEB Ready基準で建てられた北陸地域のあるオフィスビルでは，PVパネルや蓄電池，自然光を活用することで一次エネルギー消費量の収支を減らしている。しかし，意図せず逆潮流している可能性があるため，本稿では北陸地域のあるオフィスビルにおける逆潮流発生状況の調査と改善策の検討をする。

6-089

3キャンパスの月間電力使用量の季節変化の相違と広域電力供給量との関係に関する基礎検討

◎環 友翔・大塚信也・坂井太一・張 海明（九州工業大学）

筆者らはこれまで電力需要予測のために電力消費量の季節や曜日・祝祭日による変化や気温との関係を国内やモンゴルの電力会社や気象庁のデータに基づき検討している。また，シングルボードコンピュータを用いたローカルの気象条件を計測するシステムを構築している。電力会社が運用している地域を広域と定義すると，広域の電力消費量は電力会社の公開データを活用できるが，市町村あるいはキャンパスなどある特定地域のローカルな電力消費量は常に公開あるいは測定できるとは限らない，広域とローカルの電力消費量の関係や相違の関係は分からない。
そこで本研究では同一県内にある3キャンパスの2017年度から2023年度の7年間の月ごとの電力消費量を比較するとともに広域として九州電力の供給量と比較した。

6-090

電力潮流計算を連成した個人間電力取引市場シミュレーション

○富田基裕・伊藤拓真・瀬戸寿之・若杉健一・村上朝之（成蹊大学）

標準的な配電用変電所1バンクおよび高圧フィーダ7系統からなる規模の需要家群を対象とした個人間電力取引（P2P取引）についてエージェントモデルおよび電力潮流計算の連成によってシミュレートした。これまでのエージェントモデル計算では取引前に電力潮流を計算していないためにP2P取引によって発生する逆潮流を制御できていなかったが，連成計算によって潮流計算の結果を取引にフィードバックできるようにした。特に，本研究ではP2P取引市場の入札状況と電力潮流の相関を学習し，P2P取引の入札件数を制限することで逆潮流をコントロールする系統管理エージェントを実装し，市場への影響を評価した。

6-091

ブロックチェーンを用いた電力取引でのDynamic Bidding Strategyに基づく入札価格設定

◎岡本大輝・佐々木一晃・近藤潤次（東京理科大学）・小平大輔（筑波大学）

本研究では，ブロックチェーンを用いたP2P電力取引においてブラインド・シングルプライスオークション方式の適用を想定している。この方式では，約定価格が唯一に定まるために公平な取引ができるという利点があるが，約定価格よりも高い入札価格を示した売り手と安い入札価格を示した買い手は全く取引ができないという欠点がある。Smart Contract実行における処理手数料が参加料として徴収されるブロックチェーンにおいて，この欠点は参加者が取引成立せずに参加料を支払うのみになってしまう可能性があり，損失につながる。この課題に対して，Dynamic Bidding Strategyを用いた入札価格設定システムを提案した。これによって，最初の入札時における入札価格と市場の需給バランスを基に，入札価格を調整することで，取引市場における取引成立数を増加を実現した。

6-092

ブロックチェーンを用いたP2P電力取引でのソート処理のオフチェーン化による処理時間と手数料の改善

◎佐々木一晃・岡本大輝・近藤潤次（東京理科大学）・小平大輔（筑波大学）

近年，太陽光発電の普及により，電力需要が低い時間帯で余剰電力が生じる問題が顕著化している。この問題を解決する方法として，ブロックチェーンを用いたP2P電力取引が注目されている。しかし，取引処理時間やネットワーク混雑による取引手数料の高騰が実用化の障壁となっている。本研究では，ブロックチェーンを用いたP2P電力取引において，入札者情報のソート処理をオフチェーン化することで，取引処理時間および手数料の削減を目指した。シミュレーションにより，オフチェーン化による処理時間は最大85％，手数料は最大92％削減できることが確認された。一方で，透明性の低下や耐改ざん性への懸念が課題として残る。

6-093

電力市場におけるEVアグリゲータビジネスのポテンシャルの検討

◎花田隆一郎・田村 滋（明治大学）

近年の再生可能エネルギーの増加に伴って，日中の余剰電力や，出力変動を吸収する調整力の確保が課題となっている。そこでEVをV2Gを通して運用することで蓄電池としての役割が期待されている。しかし，EVは，所有者の運用によってEVバッテリーの使用可能時間や使用可能量の不確実性がある。そこで先行研究では道路交通センサスデータを分析しモデル化し，シナリオを作成した。本論文では，そのシナリオを用いて，EVのV2Gを活用し，スポット市場からの調達量と需給調整市場からの調整力の売買によってEVアグリゲータの収益を最大化させることを検討する。その中でスポット市場価格の影響，需給調整市場の有無の影響，ΔkWの使用率の影響について調査を行う。

6-094

蓄電システムを有効利用する時間前市場の裁定取引方法の検討

○岩渕一徳・久保田雅之・松澤茂雄（東芝エネルギーシステムズ）

電力系統の需給バランスを確保するために蓄電システムの必要性が高まっている。蓄電システムを有効利用するため，時間前市場の電力商品の中から各気配価格をもとに充電用の買電と放電用の売電で収入増となる複数の取引を整数計画で算出し，取引時間内に分散して逐次に入札を行う裁定取引のアルゴリズムを構築した。時間前市場のザラバ価格変化と気配値間の価格差を想定して取引シミュレーションを検討し，一例として蓄電量の制約を満たしながら昼間の電力量を充電し需要量が大きい夕方に放電する取引動作で取引収入を確保する結果を確認した。

6-095

需要家リソースを活用した需給調整市場参入により期待できる年間利益の基礎検討

◎松波翔大・福田剛久・高野浩貴・浅野浩志（岐阜大学）・宮内 肇（熊本大学）・高橋大輔・小林輝夫（エナリス）

需給調整市場は，需給調整に必要となる容量を確保するための調整力ΔkW市場と，確保した容量を実際に運用で利用するための調整力kWh市場とで構成される。これらの市場では，低圧の需要家リソースの活用について，2026年度の実現を目標に検討が進められている。著者らは，アグリゲータを兼業する小売電気事業者に着目し，自社と需給契約を結ぶ需要家のリソースを需給調整市場の三次調整力②として活用する方法について検討している。本稿では，需要家リソースを三次調整力②として取引した際に，アグリゲータを兼業する小売電気事業者と需要家が期待できる年間利益を試算した結果を報告する。

6-096

日本の電力スポット価格予測におけるLSTMモデルとCNN-LSTMモデルの比較

◎張 東尼・山口順之（東京理科大学）

本研究では，JEPXにおける日本の2023年のスポット電力市場価格データセットをサンプルとして選び，一次元CNNとLSTMを融合させたCNN-LSTMモデルを構築し，比較する。同時に単一特徴量予測と複数特徴量予測の二つの観点から，CNN-LSTMモデルのスポット電力市場価格予測における精度と適用性を検証する。

6-097

DAクラスタリングと量子進化的計算法を用いたニューラルネット電力価格予測手法

◎竹本真大・森 啓之（明治大学）・Hsiao-Dong Chiang（コーネル大学）

本稿ではDAクラスタリングと量子進化的計算法を用いたニューラルネット電力価格予測手法を提案する。電力市場における電力価格は取引における損益に大きく依存し，電力価格の高精度な予測の重要性は年々増加している。本稿では電力価格予測に用いられるニューラルネットの学習にL1ノルムを用いた量子進化的計算法を用いた学習法と教師データのクラスタリングにDAクラスタリングを用いた手法を提案する。

6-098

市場価格予測におけるアンサンブル学習に関する一検討

○石橋直人・増田達也・池川聖悟・飯坂達也（富士電機）

本稿は，市場価格予測におけるアンサンブル学習のアンサンブル方法を検討したものである。電力市場を活用した系統用蓄電池では，市場価格を予測し最適な取引計画を立案する必要がある。これに対して，著者らは，市場価格予測に関して複数の予測モデルの予測結果を統合するアンサンブル学習の検討を行ってきた。アンサンブル学習のアンサンブル方法は，複数の予測結果の傾向に応じて適切な方式が異なる。そこで，本稿では，アンサンブル学習のアンサンブル方法として，選択方式と集約方式のハイブリット方式である近傍加重平均における検討結果を示す。

6-099

デマンドレスポンスのためのJEPXスポット価格予測における収益性に基づく評価指標

◎蔡 思楠・前 匡鴻・松橋隆治（東京大学）

JEPX価格の予測は，入札戦略の最適化や運用スケジューリングなど，市場参加者のビジネス戦略プロセスにおいて不可欠である。予測結果の評価には，従来，平均二乗誤差（MSE）や決定係数などの誤差値に基づく指標が使用されている。しかし，MSEや決定係数の値が良好である予測結果が，必ずしもデマンドレスポンス（DR）にとって経済的に有利であるとは限らない。本稿では，複数地域のJEPXスポット価格予測の評価に収益性に基づく評価指標を用いることで，複数の予測結果の中でDRの経済性が最も向上する予測手法を特定することを目的とする。

6-100

電力ネットワーク制約を考慮した調整力市場の決済方法

◎加藤啓太・斎藤浩海（東北大学）

現在，日本の市場システムにおける需給運用では，供給力や調整力の不足が課題となっている。これまで著者らは，スポット市場と調整力市場の相互作用を反映した電力市場モデルを開発し，このモデルを用いた数値解析から電源の起動停止といった物理的制約が供給力や調整力の不足を引き起こすことを明らかにした。本稿では，電力ネットワークを考慮した調整力市場の決済方法を提案する。この方法では，調整力発動時に送電線の運用容量制約を満たし，かつ調整力調達費用が最小になるよう調整力を調達する。この決済方法を用いた数値解析結果から，提案した市場決済を用いることで，実需給時に送電線制約を満たす調整力の発動が可能となることが示された。

6-101

マルチエージェント型世界エネルギーシステムモデルの開発に向けた貿易エージェントの学習手法に関する検討

◎佐々木洋翔・大槻貴司（横浜国立大学）

近年，地球温暖化対策が国際的な課題となる中，エネルギー分野のCO2排出削減が急務となっている。ここでカーボンニュートラルシナリオを分析するエネルギーシステムモデルには，数理最適化を用いており国家間の関係値を考慮でできていないという課題が存在する。本研究では，数理最適化にマルチエージェントシステム(MAS)を用いて，エネルギー貿易戦略が与える影響をモデルに反映することを目的としている。MASでは，国家のグループをエージェントとし，関税・プレミア行列を操作することで発電コストを最小化する強化学習手法を採用している。現在進めているQ学習によるアプローチと，今後の展望であるDeep Q-Learning(DQN)について紹介する。

6-102

機械学習と波形補正を用いたスマートメーター計測値からPV出力と実需要への分離推定

◎高木洋羽・佐藤大地・長谷川貴巨（松尾研究所）・大福泰樹・武田峻悟・山内有倫・高橋孝樹・国藤靖彦（東京電力パワーグリッド）

昨今，再生可能エネルギーとして太陽光発電（Photovoltaics, PV）の導入が進んでいる。しかし，小規模な PV が設置された家庭では，スマートメーター（SM）が PV 出力と自家消費量を相殺した値のみを計測する。差引前の本来の値の把握が困難になる課題に対処するため，SM 計測値から PV 出力と実需要への分離推定が必要である。
本研究では，機械学習手法の一つである勾配ブースティング木による PV 出力予測モデルを開発し，その改善方法を議論する。加えて，SM 波形に対する仮定を元に分離する従来手法を事後的な補正として用いることを提案する。数値実験によって，このような手法の組み合わせが年間を通じて推定誤差をさらに抑制できることを確認した。

6-103

スマートメータデータと日射データから推定する実負荷で学習したLSTMによる実負荷予測

◎藤井海翔・飯岡大輔（中部大学）・塩山博史・張本 毅・小林友岳・伊藤 翼（九州電力送配電）

近年，カーボンニュートラルの実現に向けて再生可能エネルギーの導入が進んでおり，特に太陽光発電（以下，PV）の導入が増加している。しかし，PV出力は日射量に依存するため，その出力変動が電力需給のバランスに大きな影響を及ぼす。例えば，PVを有するマイクログリッド内で需給バランスを維持するためには，需要に合わせて蓄電池などの充放電を制御する必要がある。この場合，PV出力を考慮して数時間あるいは数日先の負荷予測が必要となる。
そこで本稿ではPVを有する需要家のスマートメータデータ(以下，SMデータ)と日射データを用いて，LSTM(Long Short-Term Memory)で実負荷予測する方法とその精度について述べる。また，複数の需要家データを集約した場合の予測精度の向上について述べる。

6-104

電圧降下緩和を目的とした需要家電圧に基づく電気自動車の自律型充電シフト手法の初期検討

◎渡邉崇史・金子曜久・石井英雄・林 泰弘（早稲田大学）・平田嘉裕（住友電気工業）

脱炭素化に向け，電気自動車（EV）の普及が推進されているが，配電系統では，充電需要の集中に起因した電圧逸脱が懸念されている。加えて，EVバッテリーの大容量化および6kW出力充電器の開発による更なる充電需要の増加が予見され，EV充電制御手法の開発が急がれている。対策として，充電時間帯のシフトやアグリゲータによる充電制御手法は数多く検討されているが，所有者の走行需要を考慮した実現に課題が残る。そこで，本稿では電圧降下緩和を目的に，需要家電圧に基づいた自律型充電シフト制御を提案する。農山村地域の1配電線モデルを対象に，EV充電シフト制御の有無や制御パラメータの違いが電圧制御性能や充電完了時間へ与える影響を評価した結果を報告する。

6-105

夜間負荷の力率を用いた発電負荷分離手法の基礎検討（その1）

◎冠城さやか・赤木 覚・石橋一成（東京電力ホールディングス）・奥村一起・前田 亮（東京電力パワーグリッド）

一般送配電事業者は，配電設備の工事のために系統切替を行い，電圧や潮流量が規定値を超えないよう管理している。しかし，太陽光発電の導入が進むことで，逆潮流と順潮流の差が拡大し，設備容量の超過や電圧逸脱のリスクが増す可能性がある。このため，切替手順が複雑化し，切替不能になることが懸念されている。対策として，発電と需要の潮流量を把握し，切替計画を策定する方法を検討中である。特に，夜間の負荷力率を利用して発電と負荷を分離する手法を模索し，センサ内蔵自動開閉器のデータを活用することを目指している。本稿では，この新手法の発電負荷分離結果と実測値の比較検証について報告する

6-106

夜間負荷力率を用いた発電負荷分離手法の基礎検討（その2） ―負荷力率・コンデンサ／分路リアクトル連系量の分析―

◎赤木 覚・冠城さやか・石橋一成（東京電力ホールディングス）・奥山一起・前田 亮（東京電力パワーグリッド）

我々は，発電と需要それぞれの潮流量を把握したうえで，切替計画を策定することを検討している。先行研究の適用を検討したところPV導入が盛んな当社エリアでは直接の適用が難しいこと，また，実運用に際してできるだけ簡易な方式とするため現状所有しているIT開閉器データのみを用いる手法が望ましいことから，夜間の負荷力率を用いて発電負荷分離する手法を検討している。年間を通して負荷力率や力率調整用コンデンサ（SC）/分路リアクトル(ShR)連系量の分散が小さければ代表値を用いるといった簡易化が図れる一方で，分散が大きい場合は季節ごとに分けるなど検討が必要になる。そこで本稿では，負荷力率，SC/ShR連系量について分析したので報告する。

6-107

PVとEVが導入された配電系統におけるトランスレスSTATCOMによる電圧補償効果の検討

◎太田拳伍・呉 国紅（東北学院大学）

近年，太陽光発電（PV）と電気自動車（EV）の普及により，配電系統における電圧変動や電力品質の低下が問題視されている。本研究では，5段MMC構成のトランスレスSTATCOMを設計し，それを用いて6.6[kV]級配電系統における電圧補償効果を検討した。そのため，PVおよびEVが接続された配電系統モデルを構築してシミュレーションを行い，その結果により，PVとEVが起因する配電系統の電圧変動は，STATCOMの適切な無効電力の供給と吸収により効果的に抑制されることが確認できた。これにより，配電系統における再生可能エネルギー発電とEV負荷の導入拡大に伴う電圧変動，電力品質低下の改善が期待される。

6-108

負荷が2地点に接続された高圧配電系統における三相電圧不平衡性の基礎検討

◎荒木竜也・横水康伸・伊藤良樹（名古屋大学）・岩月秀樹（中部電力）・吉江 学（中部電力パワーグリッド）

近年の配電系統においては，脱炭素化に向けた取り組みとして電気自動車の普及のための単相充電機器が接続され，さらに太陽光発電設備がある相間に連系されることがある。上述を代表とする背景のもと，配電系統の三相電圧の不平衡性が高まり，電力品質の低下を招いてしまう。筆者らは，過去に高圧配電系統の基本ユニットにおいて，不平衡負荷・PVSがある1 地点に接続された状況について，電圧不平衡率U_v の例と単相負荷・PVS の接続相替えによるU_v の緩和を報告してきた。次段階として，不平衡負荷・PVS が異なる2 地点に接続されたモデル系統への展開を進め，接続点における線電流，線間電圧およびUv の算出を進めている。本報告では，算出例として，配電系統の末端に三相不平衡負荷が，中間点に平衡負荷が接続されたモデル系統について，線間電圧とU_v を述べている。

6-109

末端にPV装置が導入された配電系統における各種電力の電圧・電流ベクトル図上での表現

◎青山知生・津坂亮博・雪田和人・七原俊也・松村年郎（愛知工業大学）

近年，再生可能エネルギーの利用が推進されており，太陽光発電（PV）装置の設置が増加している。PV装置からの逆潮流電力が配電系統の電圧上昇・低下を引き起こすことが知られている。また，筆者らは，太陽光発電装置(PV)が末端に接続された電力系統の定常解析手法として電圧円線図による検討を実施している。本論文では，電圧円線図上の面積が皮相電力の大きさを表現できることを明らかにした。

6-110

限定した時間断面を用いた良質解多数決による柱上変圧器接続相推定のMaximum Correntropy Criterionと最小二乗法の適用比較検証

◎髙橋 琉・福山良和（明治大学）・吉田武尊・大井章弘・神通川 亨・藤本 久（富士電機）

本論文では，計測誤差が含まれたデータに対し，限定した時間断面を用いた良質な解の多数決による柱上変圧器の接続相推定へのMaximum Correntropy Criterion（以下，MCC）と最小二乗法の適用比較検証を行った結果について報告する。比較検証の結果，計測誤差が含まれたデータに対しては，MCCを用いた方が精度が高いことが確認できた。

6-111

配電系統の状態推定に対する次世代スマートメータの最適電圧測定箇所の選定

◎吉川大智・福山良和（明治大学）・吉田武尊・大井章宏・神通川 亨・藤本 久（富士電機）

本論文では，状態推定の精度が最もよくなる次世代スマートメータの電圧測定点選定のためのBilevel Optimizationフレームワークと定式化を提案する。IEEE69母線系統に対して，1箇所の電圧測定点を選定するシミュレーションを行い，有効性を確認した。

6-112

自動力率調整器を含む配電系統における高調波発生源の推定に関する研究

◎太志太志・堀田祐希・川﨑章司（明治大学）

近年，パワーエレクトロニクス技術の進展による非線形負荷が多様化している。また，カーボンニュートラルの実現に向け，再生可能エネルギー利用電源の配電系統への系統連系台数が急激に増加している。これに伴い，配電系統の高調波が電力品質に及ぼす悪影響が懸念されている。そのため高調波の発生源を推定し，効率的に抑制機器を設置する必要がある。しかし，従来の方法では，進相コンデンサおよび直列リアクトル付進相コンデンサの系統への投入容量の切り替えを行う自動力率調整器が設置されている場合，配電系統の高調波発生源の推定が困難であった。そこで本研究では，時間帯ごとに切り替えが行われている進相コンデンサおよび直列リアクトル付進相コンデンサが存在する配電系統における高調波発生源の推定手法について提案し，シミュレーションおよび模擬系統実験設備を用いた実験により妥当性を検証した。

6-113

負荷に適した電圧振幅と波形を供給する可変配電システムの実験検証

◎知識 凜・芳賀 仁（静岡大学）・有松健司（東北電力）・伊東洋一（GSユアサ）

筆者らは需要家内の配電システムとして，負荷（需要家機器）の運転状況に応じてオンラインで配電電圧波形を調整する可変配電システムを検討している。本研究では，これまで別々で検討してきたシステムを融合し，負荷に適した電圧波形を供給しながら可変配電することによる全体での省エネルギー化を実験検証し，その結果，提案システムによって受電点電力を固定電圧から10.36%低減することを確認した。

6-114

家庭部門を対象とした分散型エネルギー資源と配電系統の統合最適化モデルに関する研究

◎大澤亮介・藤井康正・小宮山涼一（東京大学）

This study focuses on optimizing the integration and operation of distributed energy resources (DER) within residential distribution networks. Considering the growing adoption of DERs like solar panels and electric vehicles, and the expiration of Japan's feed-in tariff (FIT) scheme for surplus power, we developed a linear programming model to minimize total costs, integrating household energy supply and grid constraints. Simulations using high-resolution data demonstrated that efficient DER operation requires widespread adoption of heat pump water heaters and cost reductions in stationary batteries. These findings highlight the economic and operational potential of DERs in achieving sustainable residential energy systems.

6-115

高速改良整数型Population-Based Incremental Learningによる配電系統における電圧不平衡改善のための工事地点最適化手法の高速化検討

◎萩野良祐・福山良和（明治大学）・吉田武尊・大井章弘・神通川 亨・藤本 久（富士電機）

本論文では，配電系統の電圧不平衡改善のための工事地点最適化問題において，高速改良整数型population-based incremental learning の確率行列の更新方法を変更することで目的関数の最小値の収束を高速化させ，短い計算時間で良質な工事案を生成するための検討を行ったので報告する。

6-116

多目的動的系統構成最適化問題における系統指標間のトレードオフ関係の評価

◎SHANGHONG XIE・金子曜久・飯野 穣・林 泰弘（早稲田大学）・百川涼平・矢部啓之・直井伸也（東芝エネルギーシステムズ）

本稿では，太陽光発電の普及に伴う配電系統課題を解決するため，多目的動的系統構成最適化手法を提案した。提案手法では，系統混雑と電圧逸脱を解消する上で，配電損失，最大線路利用率，電圧幅を目的関数とし，MILPを用いた系統構成の多目的動的最適化を実現する。数値計算結果から，評価期間の1か月間で，提案手法は従来手法と比較した各指標の低減の潜在能力を確認した。また，それぞれの指標のトレードオフ関係を確認しつつ，配電損失の重み係数を大きく設定すれば，配電損失の重み係数の変化によって各指標の変化の感度が高く，配電損失だけを最小化しても，最大線路利用率も改善する示唆が得られた。

6-117

太陽光発電システムに起因する系統混雑解消を目的としたフレキシビリティと系統切替最適化

○関崎真也・小澤俊介・榊原聖也・林田智弘（広島大学）・武藤貴昭・岩田邦男（中部電力）・吉江 学・彦山和久（中部電力パワーグリッド）

太陽光発電システム (photovoltaic generation systems: PV)の系統への連系量が増加しており，送配電系統における系統混雑の問題が今後顕在化していくことが懸念される。本論文では，既設設備の増強無しに系統混雑と制約違反を解消することを目的として，フレキシビリティと系統切替の最適化を行う手法を提案する。PVの不確実性を考慮して分散型エネルギー資源の制御を行い，電圧や電流の制約を充足しつつ目的関数を最小化する。また，系統切替とフレキシビリティの最適化により，PV出力抑制量を最小化しつつ系統混雑の解消を図る。計算負荷が著しく大きい系統切替最適化問題は，制約付多目的最適化アルゴリズムを用いて求解する。

6-118

系統切替プロセス効率化と配電損失削減を目的とした配電系統構成に関する初期検討

◎清水翔馬・石井綱吉・藤本 悠・林 泰弘（早稲田大学）・内山慎距・生石光平・森 健二郎（東京電力パワーグリッド）

近年，DERの普及や需要の多様化により，配電系統内の電力潮流が複雑化し，平常時の最適な系統構成の決定が困難となっている。本研究では，配電系統構成の適切さを評価するため，「配電損失削減」と「系統切替プロセス効率化」の二つの観点に着目し，それらを定量的に評価する指標を提案する。さらに，数値シミュレーションを用いて両指標の相互関係や，一方の最適化が他方に及ぼす影響について分析を行う。これにより，配電系統運用の効率化と持続可能性の向上を目指し，複雑化する電力潮流に対応した系統構成決定の支援枠組みの構築に寄与する。

6-119

柱上変圧器の発錆傾向に関する基礎検討

◎塚本 恋・高野浩貴・浅野浩志（岐阜大学）・杉本貴史・岡 靖典・横山和弘（関西電力送配電）

配電設備の多くは高経年化が進行している。今後は，それらが一斉に修理，更新を要する時期に差し掛かるため，配電設備の保全にはこれまで以上に費用や施工力が必要になるものと予想される。一方，配電ネットワーク管理のデジタル化に伴い，多種多様なデータの蓄積が可能となっている。データには，配電設備管理者の知識や経験が反映されていることから，これらを上手に活用できれば省力化などに繋がるものと期待される。その例として，配電設備の設置基準の精緻化が挙げられる。
本稿では，柱上変圧器の発錆に影響する条件を明らかにすることを目的として，柱上変圧器の設備情報，点検記録から発錆に影響したと思われる条件を検討した結果を示す。

6-120

ガバナを模擬した一次遅れの時定数が仮想同期発電機の慣性定数および制動係数に与える影響評価

◎門田修平・三浦友史（長岡技術科学大学）

近年，再生可能エネルギーの普及が進む中，系統慣性の不足が懸念され仮想同期発電機（VSG）制御が注目されている。同期発電機は機械ガバナを有し，VSG制御系ではこれを一次遅れとして模擬する場合があるが，その時定数の影響は十分に評価されていない。そこで本稿では，ガバナの時定数がVSGの慣性および制動に与える影響を評価するため，一機無限大母線の小信号モデルから実効慣性定数および実効制動係数の式を導出し，回路シミュレーションを用いて妥当性を検証した。その結果，ガバナを模擬した一次遅れが実効的な慣性定数と制動係数を低下させることを定量的に示した。本成果は，ガバナを有する分散電源の動特性評価に資することが期待できる。

6-121

AGC30モデル改良による電力系統の慣性サポート効果評価モデル作成

◎井川優太郎・富田充朗・松原卓司・石垣彰一・日下部卓也（トヨタ自動車）

近年の電力系統への懸念事項として，①電動車保有台数増加に伴う充電集中による需給バランスの乱れ，②再エネ導入増加に伴うインバータ電源割合増加による系統慣性力不足，による電力系統安定性低下が挙げられている。①への対策として，電動車を活用した需給制御によって，需給バランスの正常化を実現できる。また，②への対策として，疑似慣性をインバータ電源に付与する技術であるGrid-Forming(GFM)制御が注目され，電力系統の安定化実現には，よりマクロな系統での電動車の需給制御とGFMインバータからの慣性力供給の影響を確認できる評価環境が必要になる。
そこで，本研究では，AGC30モデルに改良を加え，GFMインバータの電力系統へ与える影響をマクロに評価可能なシミュレーション環境を構築した。また，本研究のGFMインバータは，電動車の電池を活用，充電器側のインバータにGFM制御を適用することで電力系統に慣性力供給可能とした。

6-122

通信断絶の影響を低減する角周波数フィードバックを用いた複数台VSMインバータの協調制御

◎和泉竜太・三浦友史（長岡技術科学大学）・井川優太郎・富田充朗・松原卓司（トヨタ自動車）

仮想同期機(VSM )制御インバータを3台連系した系統において，系統擾乱時にインバータ間で電力の低周波振動が発生する問題に対し，インバータの周波数の平均値を計算しフィードバックする角周波数フィードバック制御が提案されている。しかし先行研究では，通信による遅延時間を一定とした仮定や，通信断絶が生じた際に通信断絶の影響を低減するためにフィードバックゲインをステップ的に零にすることで電力振動が生じる可能性がある問題があった。本稿ではパレート分布に従う確率分布の遅延時間を想定すると共に，通信断絶が生じた際には電力振動を抑制して通信断絶の影響を低減する手法について実験で効果を確認する。

6-123

災害時住宅地単相マイクログリッドのPV出力上限値の設定変更に関する実験的検討

◎松岡 樹・占部千由・加藤丈佳（名古屋大学）・中川雅也・藤田 悠・小林 浩（トーエネック）

自然災害等による大規模停電が増加しており，電源を地域で共同利用する住宅地マイクログリッド(MG)の構築に関心が高まっている。住宅地MGの自立運転時において，GFMモードで動作するBESSのkW容量削減のためには，夜間の電力供給量を維持しつつ，PVの出力抑制レベルを柔軟に制御することが望ましい。本研究では，EMSを用いずに出力抑制レベルを制御する方法として，GFMモードのBESSの出力履歴やSOCに応じて出力電圧の周波数を変更し，これに応じてPVの出力抑制レベルを変更することに着目した。本稿では，そのような制御手法構築の第一段階として，GFMモードのインバータ出力電圧の周波数変化に対し，PLLで検出した周波数に基づくGFLモードのインバータ出力電力設定の変更について実験的に確認した。

6-124

レベルセット法によるインバータ連系電源のモデル検査に関する一検討

◎藤森相貴・薄 良彦（京都大学）

再生可能エネルギーに用いられるインバータ連系電源(IBR)の動作検証を目的として，レベルセット法に基づくモデル検査の適用を検討する。
具体的には，Droop制御された1台のIBRに対して，過電圧ならびに事故時運転継続要件を考慮したモデル検査を行う。

6-125

DGRの直流母線電圧制御に関する研究

◎菅原壮介・鈴木隆心・草場彩乃・川﨑章司（明治大学）

再生可能エネルギーの大量導入による同期化力や調整力の低下が懸念されている。これらの課題解決策の一つとして，デジタルグリッドという新しい電力網が提案されている。デジタルグリッドとは，デジタルグリッドルーター(DGR)によって，電力供給網を分割したセルを繋ぎ，セル同士で電力を双方向に融通する仕組みである。DGRは直流母線電圧が維持されていることで正常に動作する。本研究では，DGRの直流母線電圧維持制御と自立運転制御を並列に接続し，他のセルにより直流母線電圧を維持する方法をシミュレーションにより検証する。また，直流母線電圧維持制御と系統連系制御の統合し，インバータを1台減らすことをシミュレーションにより検証する。

6-126

デジタルグリッドにおける電力安定供給に関する研究

◎牧野寛人・鈴木隆心・草場彩乃・川﨑章司（明治大学）

近年，再生可能エネルギーの導入が進められているが，需給バランスの観点から，既存の電力系統では大量導入が難しい。この課題解決のため，デジタルグリッド（DG）という電力網が提案されている。DGでは，電力系統を小さなセルに分割し，セル間をルータで直流を介して接続することで，双方向への電力の融通を可能にする。セル内の電力の過不足を他のセルとの電力融通により解消可能であるが，電力融通だけで電力の過不足を全て補うことは難しい。そこで，本稿ではセル内に蓄電池を導入し，太陽光発電で発電した電力を複数のセルへ融通し，太陽光発電の変動による電力の過不足分を蓄電池で安定化させるシステムを構築し，シミュレーションにより妥当性を検証する。

6-127

GFMインバータの有効電流抑制方式に関する一検討

◎石原浩毅・松本航輝・井上禎之・川上知之（三菱電機）

GFM (Grid Forming)インバータは電圧源に似た特性を有することから，突発的な出力電流を制限する機能が必須となる。系統連系時においては，系統事故時と比較して系統周波数の急変時に関する有効電流の抑制については，議論がまだ十分でないと考えられる。そこで本稿では系統周波数の急変時において，系統との同期を維持しながら有効電流の増加を抑制する方法を検討する。提案する有効電流抑制制御は有効軸電流検出値が閾値を超過すると動作し，指令値に追従するようPI 制御を施した後，周波数に加算する方式である。本稿ではシミュレーションで2Hz/s で系統周波数を減少させ，インバータが系統との同期を維持しながら有効電流の増加を抑制することを確認した。

6-128

簡易配電系統を用いたグリッドフォーミング変換器連系の瞬時値解析モデル構築

○吉原 徹（日立製作所）・松永俊佑（日立産機システム）・西田悠介・山内隆彦（東京電力ホールディングス）・森内映人（東京電力パワーグリッド）

再生可能エネルギー電源や蓄エネルギー装置の多くは電力変換器を介して連系されるため，従来の回転型発電機が支えてきた，系統安定性の低下が懸念されている。これに対し，電力変換器の新たな制御手法として，グリッドフォーミング(GFM)制御が注目され，様々な研究がなされている。日本は，太陽光発電を中心に再生可能エネルギー導入が進み，それらの多くは配電系統に連系している。今後，GFM制御を有する分散電源が配電系統に連系される可能性が高い。本研究では，配電系統のうち1フィーダ相当を抜き出した簡易配電系統モデルを構築し，GFM変換器連系時の解析と評価を進めている。本報告では，構築したモデルの概要と解析例を報告する。

6-129

VOC方式GFMインバータの系統故障復帰時の安定性解析に関する基礎検討

◎渡辺和樹（中部大学/三菱重工業）・飯岡大輔（中部大学）

インバータ連系電源においてはGrid Formingが議論され，その一方式であるVOC（Virtual Oscillator Control）方式GFMインバータは，系統周波数との同期を非線形自励振動子の模擬によって実現することが特徴であり，パッシブな制御方式として研究が進む。本稿では，VOC方式GFMインバータの系統故障復帰時の安定性解析について論じる。具体的には，系統故障時の運転継続性について，インバータの過電流制限を考慮した評価を行った。さらに，故障復帰時の相差角を初期条件とした軌道発散度合いについて，リヤプノフ指数を用いた評価を行うことで，定常状態への収束性について考察を行った。

6-130

出力制御下のインバータ電源による系統安定化制御

◎海藤悠志・矢神雅規（北海道科学大学）

インバータ電源（IBR）の増加に伴い，電力系統の慣性力低下が懸念される一方，余剰電力対策としてIBRの出力制御の機会が増えている。本研究では，出力制御下のIBRを瞬動予備力として活用する方法を検討した。IBR制御モデルを構築し，出力制御割合を30%，50%，70%とするケーススタディを実施した結果，ドループ制御を適用したIBRが系統事故時の周波数最下点（Nadir）の改善に寄与することを確認した。一方，出力制御割合が大きいケースでは，出力変化率が増大し収束性が低下する傾向が認められた。仮想同期発電機方式の導入がさらなる改善に有望であることを示し，今後の課題とした。

6-131

Grid-Formingインバータにおける電流制限時の電流位相角に関する一考察

◎平川遼太郎・白崎圭亮・天野博之・片岡良彦（電力中央研究所）

系統安定性の維持に貢献する一対策技術として，電圧源として動作するGrid Formingインバータ（GFM）が注目されており，海外ではGFMに求める機能・要件が規定されつつある。一方で，実運用化に向けて，実効値解析用のGFMモデルが必要となる。実効値解析でGFMの電流制限動作を模擬する方法の一つに，電流制限時に電圧源から電流源に切り替える手法が提案されているが，電流源動作時の電流位相角の変化やその算出・指定方法等は十分に議論されていない。本稿では，電流出力を制限する制御手法によって，電流制限時の電流位相角が様々なパターンを取り得ることを示し，電流源動作時の電流位相角の指定方法に関する知見を得る。

6-132

グリッドフォーミングインバータの過電流抑制の事故要件による比較

◎柳原慧太郎・藤田吾郎（芝浦工業大学/YAMABISHI）

近年，大量の再生可能エネルギーが系統に接続されている。しかし，このまま導入を進めると系統の安定性が懸念されるため，系統の安定性に寄与するグリッドフォーミングインバータを介した接続が求められている。しかし，グリッドフォーミングインバータは電圧制御型のため，インバータ保護のため過電流抑制機能が必要となる。本稿では，過電流抑制機能を持つグリッドフォーミングインバータについて，過電流が発生する原因として系統電圧が0.2 秒間0 puに低下する場合とインバータ定格電力の2倍の負荷（過負荷）が0.2 秒間接続される2つのケースをシミュレーションし比較した。どちらの場合も過電流抑制できたが，過負荷の場合のほうが事故解消後インバータ出力電圧の乱れが大きく長時間続いた。

6-133

負荷変動量と短絡容量比を考慮した系統連系インバータの動作許容範囲の基礎検討

◎劉 承洋・中島達人（東京都市大学）

二酸化炭などの温室効果ガスの増加をはじめとした環境問題への対策として，日本ではカーボンニュートラル2050が宣言され，再生可能エネルギーの導入が進んでいる。系統連系インバータは，再生可能エネルギーの発電出力を系統に送出するだけでなく，系統電圧を制御するため無効電力も出力することが多いが，近隣の負荷の変動量や，送電線の短絡容量比によってはインバータが動作許容範囲を超える場合がある。本稿では，無効電力を出力して系統電圧を制御する系統連系インバータにおいて，負荷変動量および系統短絡容量比とインバータの動作許容範囲との関係をシミュレーションにより検討した結果を報告する。

6-134

普通充電器－EV紐づけ技術の社会実装に向けた実験報告

○Hiroyuki Baba・Masaki Imanaka・Yoshiki Ishida（東京大学）・Takashi Ikegami（東京農工大学）

Mode3普通充電器は，その規格上接続関係にある充電器とEVとの紐づけができないという構造問題を抱えており，アグリゲーターによるEV充放電と電力システムの連携実現の障害となっている。これを解決する変調充電電流技術を社会実装するには接続を的確に識別できることに加え，そもそも紐づけできないケースにも対処できる必要がある。今般，そのようなケースも含めた実験を行ったので報告する。

6-135

EVを用いた仮想電力線による地域マイクログリッドの面的モデルの基礎検討

◎林田 淳（北海道立総合研究機構/北海道大学）・中島達人（東京都市大学）・原 亮一（北海道大学）

本報告では，バイオガスプラントと複数の街区間をエネルギー輸送する方法として，平常時は，既設の配電網を活用し，非常にはEVによる仮想電力線を用いる地域マイクログリッドの面的モデルを提案する。非常時のためだけの設備導入はせず平常時に活用していく，持続可能かつレジリエンスを有する地域マイクログリッドモデルである。今回，複数の街区がある地域マイクログリッドの需給マッチングの基礎的な検討として，非常時の面的なモデルで，仮想電力線として活用するためのEV運用についてシミュレーションで評価したので報告する。

6-136

EV・V2Gに関する多様な便益に関する調査

○後藤久典・高橋雅仁・田口裕史・桑垣玲子（電力中央研究所）・後藤美香（東京科学大学）

電気自動車（EV）の蓄電池を活用して電力系統の安定化を図る技術であるV2Gの事業性を高め，社会実装を進めるには，EV所有者の協力が不可欠である。そのためには，V2Gに協力するEV所有者への報酬の設計が課題である。また，EVは移動手段であり，非常時の停電対策としての活用も期待されることから，交通やまちづくりにかかわる便益も考慮することが重要と考えられる。ただし，EV所有者の協力を得る上で重要となる報酬や，交通・まちづくりの便益についての検討は少ない。そこで，本研究では，EV・V2GによりもたらされるEV所有者や交通・まちづくりに関する便益について，事例調査を通じて整理する。

6-137

V2X社会実装に向けた関与者の多様性と共創

○桑垣玲子・後藤久典・田口裕史（電力中央研究所）

本研究は，エネルギーとモビリティのセクターカップリングの研究において，EV・V2Xの社会実装に必要なステークホルダーがどのように関わり，共創していくのか，先行知見や事例調査より整理する目的で実施する。エネルギー，交通，まちづくりの観点で関わるステークホルダーを分類し，実践的・規範的に適用可能性があるステークホルダーの関わり方を，ユーザビリティ，利用者との連携やインセンティブ，行政施策としての住民参加，満足度の指標設定，責任ある研究とイノベーションの5つを抽出した。

6-138

スクールバス電動化の事業性に関する基礎検討

○高橋雅仁・後藤久典・井上智弘（電力中央研究所）

少子化に伴い，学校の統廃合が進んでおり，へき地の児童生徒の通学支援のために，スクールバスを導入する自治体が増えている。著者は，公共用車両であるスクールバスのEV・V2X化を企図し，内閣府のSIP第3期の研究プロジェクトにおいて，EVスクールバス事業の総合的事業性評価に係る調査と研究を行っている。本発表では，スクールバス電動化に関する事例を紹介するとともに，EVスクールバスの事業性評価を行うため構築している学校施設（PV，充放電器含む）の最適電力需給計画を導出するモデルと試算結果を紹介する。

6-139

スマートメータデータを用いたEV充放電と市場取引による電力コスト削減可能性の分析

○後藤美香（東京科学大学）・井上智樹（メンテル）・佐川大志（東京大学）・林 泰弘・藤本 悠（早稲田大学）

低炭素社会の実現に向けて，分散型エネルギー資源の最大限の活用が期待されている。本研究では，宇都宮市のスマートメータデータを用いて，仮想発電所の事業性評価シミュレータを開発し，EV充放電と電力市場取引の活用による，エリア内の電力コスト削減効果について検討した。ベースケースと比較対象ケースから，（1）エリア内の発電による需要の充足率や年間総コスト削減額に違いが見られること，また（2）2022年秋の参考時における売買電力量の推移では，比較対象ケースにおいて，市場単価が高いタイミングで売電がなされている箇所がいくつか確認され，それが総費用の抑制に貢献している可能性が示された。

6-140

BEV充電による余剰PV最大活用の課題と対策

○青柳 勲・ゴーテックチャン・戸村修二（豊田中央研究所）・小野裕永・小野洋平・都築温実（トヨタ自動車）・喜久里浩之・児玉安広・橋本 潤（産業技術総合研究所）

カーボンニュートラル実現の課題として，太陽光発電(以下PV)が発電した電力の余剰分(余剰PV)による配電網の混雑回避が挙げられる。対策として，BEV(Battery Electric Vehicles)等による余剰PVの充電が期待されている。しかし，現状のPVは力率一定で制御されているため，BEVで有効電力のみを充電した場合，配電線の無効電力が過多となり電圧を低下させる恐れがある。
そこで，BEVによる余剰PV充電が配電線の電圧に与える影響と，電圧変動の対策案としてBEVによる無効電力調整の効果を解析した。その結果，余剰PVをBEVで集中的に充電する場合，PVの力率が標準値でも電圧が下限値を逸脱する恐れがあることと，BEV充電の力率調整によって電圧低下を抑制できることが分かった。

6-141

リアルタイムモニタリング技術を核としたV2Xシステムの安定運用プロセスの実証

◎多奈田紘希・林田 淳（北海道立総合研究機構）・白石昇央（エナジア）

著者らは先行研究にてV2Xシステムを安定運用することを目的に，システムの管理者が遠隔地からシステム運用中の挙動を把握できるリアルタイムモニタリング技術を構築した。今回，このリアルタイムモニタリング技術を核としたV2Xシステムの安定運用が可能となるプロセスを構築し，実機で検証を行った。
その結果，V2Xシステムのエラー挙動の詳細を初めて明らかにし，解析結果を保守者ならびにV2X及び制御システムのメーカー側に共有した。これによりシステムのソフトウェア改修の対策が講じられ，ソフトウェアアップデートに伴いV2Xシステムのエラー挙動は大幅に軽減された。すなわち，今回検証した安定運用プロセスがV2Xシステムの安定運用に有用であることが実証された。

6-142

配電系統における余剰電力消費のための電気自動車の充電需要計画的持ち替え手法

○今中政輝・馬場博幸（東京大学）

太陽光発電（PV）による逆潮流が配電設備の容量を超過しうる場合，設備の増強をデマンドレスポンスや蓄電池・電気自動車（EV）などの分散エネルギー資源の需要創出により回避することが考えられている。PVの余剰電力は数時間に及ぶが，本稿が着目する個々のEVの需要創出時間はそれより短い場合が多い。数時間の需要創出には，あるEVが充電を終了する際に，代わりに別のEVの充電を開始する，充電需要の「持ち替え」が必要となる。本稿では持ち替えの方法について整理した上で，実際に2台の充電器とEVを用いて，充電開始時と充電停止時の応動時間の差を考慮したEV充電需要の持ち替えをした結果を報告する。

6-143

域内電気自動車群のアグリゲーションによる再エネ利用率向上への貢献性評価

◎森田晃世・金子曜久・広橋 亘・光岡正隆・林 泰弘（早稲田大学）・河野俊介・高口雄介・板屋伸彦（三菱電機）・鍵田昌幸（三菱電機ソフトウェア）

脱炭素社会実現に向けて，配電系統では，潮流管理やエネルギーの効率的な利用の観点で，PVの余剰電力を活用しながら，地産地消を実現する運用が望まれている。その対策としてEVが普及予見性やバッテリー容量の観点で期待されているが，走行時間の日ごと・EV ユーザーごとの違いの考慮や，EV ユーザーの走行需要を満たす SoCを確保が必要である。そこで本稿では，域内の EV 群を活用する枠組みとして，走行需要を妨げない範囲で，各 EV バッテリー容量の一部を系統運用者に予め貸し出しておき，それを系統貢献のために活用する手法を提案した。数値計算では，2フィーダエリアを対象とし，EVの成り行き充電と比較した際の提案手法による再エネ利用率向上効果を評価した。

6-144

EVステーションの待機時間を考慮した交通セクターと電力セクターのカップリングモデル

◎松浦英寿・重信颯人・髙橋明子・伊藤雅一（福井大学）

EVの普及に伴う，充電ステーション（CS）の導入拡大は局所的な電力需要の増加を引き起こし，配電系統内の電圧安定度への悪影響が懸念される。また，EVユーザーは混雑具合，電気料金，利便性などをもとに，いつ・どこでEVを充電するかの意思決定を行う。ゆえに，CSの利用箇所さらには充電待機時間に偏りが起こることも考えられる。本稿では，EVの充電需要に対する系統への悪影響緩和を考慮したCS選択最適化モデルを構築した。本モデルは混雑ゲームを用いた最適化問題として定式化される。本モデルを用いた数値実験の結果，各CSの待機台数が均一化され，平均待機時間が減少し，全EVの平均追加走行距離が削減された。これは各ユーザーの目的地に至るまでのCS選択戦略が効率化されたことを示している。

6-145

超急速充電器を用いた電動バス充放電計画における線路利用率の上昇と同時充放電現象の関係性

◎梅津 奏・石井綱吉・飯野 穣・林 泰弘（早稲田大学）・内山慎距・生石光平・森 健二郎（東京電力パワーグリッド）

わが国では脱炭素社会実現に向けて分散型電源(以下DER)の導入が推進され, 定期運行を行い, 大容量の蓄電池を搭載した電動バスが有用なDERとして注目されている。実社会では航続距離延長のため, さらなる蓄電池の大型化が見込まれ, 充電器の高出力化の検討も進んでいる。
本研究では, 先行研究における超急速充電器を用いた電動バス充放電計画において確認された同時間断面での電動バス間で生じる同時充放電回数の増加に関して整理し, 同時充放電に対して禁止制約を加えた比較検討を行うことで, 充電ステーション間の線路利用率上昇の発生要因を分析した。解析から, 充放電が行われている充電ステーションが同時間断面において別に存在することで発生する同時充放電が線路利用率上昇の要因であることが推察された。

6-146

到着/出発地点におけるEV充放電を考慮したマイクログリッド前日需給計画に関する検討

◎小西賢治・佐々木 豊・太田 舜・造賀芳文・馬場秀央（広島大学）・角井弘典・河内清次（中国電力）

近年，分散型エネルギーリソース(DER)で構成するマイクログリッド(MG)が注目されている。DERの中でも自然変動型の再生可能エネルギー(VRE)の発電量は，天候に大きく依存するため，定置用蓄電池(BESS)やEVを活用した需給運用が望まれる。これらの背景から，先行研究ではEVを活用したMGの前日需給計画法を提案したが，EVが系統接続できる地点は事業所1箇所のみでありEVの車載蓄電池を活用できる時間帯が限られていた。本稿では，MG内における，EVの充放電運用を考慮した前日需給計画法を提案する。ここでは，EV利用者である需要家の住宅地域と事業所で充放電するものして検討を実施する。

6-147

衛星と天球画像に基づく日射量・PV出力予測 ―衛星と天球画像を組み合わせた日射量予測技術開発の取り組み―

○橋本 篤（電力中央研究所）・小渕浩希・花田行弥・根本和哉・山崎将也（スカパーJSAT）・稲村直樹（バニヤンズ）

数分先から1時間先までの日射量予測の精度向上を目的とした電力中央研究所とスカパーJSAT株式会社との共同研究のプロジェクト概要，衛星画像予測の取り組み，および衛星と天球画像を組み合わせた日射量予測技術の取り組みについて紹介する。

6-148

衛星と天球画像に基づく日射量・PV出力予測 ―天球画像に基づく5分～15分先の短時間先日射量予測技術の開発―

○花田行弥・小渕浩希・根本和哉・山崎将也（スカパーJSAT）・稲村直樹（バニヤンズ）・橋本 篤（電力中央研究所）

スカパーJSAT株式会社と株式会社バニヤンズでは，天球カメラで収集する天球画像を用いて5分～15分といった短時間先の日射量を正確に予測する技術（直前予測技術）の開発を共同で行った。本稿ではこの技術の礎となった先行研究や実際の開発，および更なる高精度化を目指した技術研究について述べる。

6-149

衛星と天球画像に基づく日射量・PV出力予測 ―日射量予測サービス提供基盤の開発―

○小渕浩希・花田行弥・根本和哉・山崎将也（スカパーJSAT）・橋本 篤（電力中央研究所）・稲村直樹（バニヤンズ）

スカパーJSAT株式会社と電力中央研究所では気象衛星衛星画像と天空画像による日射量予測の開発を共同で行った。ここではその技術を適用し日射量予測結果を提供するサービス（商標名：そらみえーる）を実現するための天球画像収集デバイスおよび提供基盤の開発と，同サービスを利用する富山県氷見市の取組みについて紹介する。

6-150

メソアンサンブル予報の前日日射量予測精度の変化傾向

○大竹秀明・高松尚宏・中山俊太朗・大関 崇（産業技術総合研究所）・山口浩司（日本気象協会）

翌日の太陽光発電の出力予測のためには数値予報モデルを利用することが多い。国内では気象庁においてメソモデル（以下，MSM）の日射量予測データの公開がなされ，最近ではMSMに初期摂動を与え複数の予測を作成するメソアンサンブル予報システム（以下，MEPS）の運用もなされている。アンサンブル予報を行うことによって，MSMの不確かさや信頼度などの付加情報を得ることが可能なほか，アンサンブルの平均を取ることでMSMの予測に比べて予測精度が向上することもある。MEPSは2018年6月から運用が開始され，現在まで日々の予報業務で活用されている。本稿ではMEPSの前日日射量予測の精度の運用開始後5年分年の変化傾向について報告する。

6-151

ベンチマーク日射予報大外し事例における全球アンサンブル予報システムの誤差の分析

○高松尚宏・中山俊太朗・中島 虹・大竹秀明・大関 崇（産業技術総合研究所）・山口浩司（日本気象協会）

全国10電力エリアのベンチマーク日射予報が大きく外れる事例を対象として，全球アンサンブル予報システム（GEPS）が予報した大気鉛直層の状態をラジオゾンデ観測データと比較した。比較の結果から，ベンチマーク日射予報が大きく外れた事例のうち，全球モデル（GSM）の日射予報もまた大きく外れておりGEPSでも捕捉できない事例について，GEPSの予報した大気が，高層での湿潤バイアスおよび中層での乾燥バイアスを持つ可能性があることが示唆された。

6-152

太陽高度と積乱雲を考慮した日射量予測に関する研究

◎矢野多人・陳 瑞琪・藤原真樹・川﨑章司（明治大学）

近年，再生可能エネルギーの導入が進む中，太陽光発電（PV）の出力予測が需給バランス維持において重要視されている。従来の手法では積乱雲下での予測が不安定であった。そのため本研究では，従来の衛星画像を用いた日射量予測に加え，太陽高度と雲の種類を考慮した新たな予測手法を提案する。衛星画像のRGBデータを活用して積乱雲を判別し，気象データや雲量データを勾配ブースティングに入力することで，日射量予測モデルを構築する。明治大学生田キャンパスを対象に検証を行った結果，太陽高度と雲画像を考慮することで予測精度が向上したが，一部の実測値との誤差が課題として残った。

6-153

アンサンブル気象予報を用いた日射量予測の一検討

◎池川聖悟・石橋直人・飯坂達也（富士電機）

本稿は，アンサンブル気象予報を活用した日射量予測技術について検討したものである。太陽光発電をした電力を電力市場で売却するためには，翌日1日分の発電量を予測する必要がある。太陽光発電量は日射量に大きく依存するため，日射量の予測精度が重要となる。これまで筆者らは単一の気象予報を用いた日射量予測技術の開発を行ってきた。本稿では更なる予測精度の向上のために，アンサンブル気象予報を用いた日射量予測技術を検討した結果を示す。

6-154

地理情報システムを用いた気象予報データに基づくメガソーラの発電量予測

◎荒牧裕輔・今田善紀・中山俊太朗・佐竹昭泰（九州工業大学）・古田昭宏・鈴木直人・川崎誠司（九州電力）

再生可能エネルギーの主力電源化に向け導入されたFeed-in Premium制度の範囲で売電する場合，発電事業者は発電計画の作成・提出が必要である。そして，発電計画値と発電実績値に差が生じるとインバランス料金が発生し発電事業者はその料金を精算する責務が発生する。したがって，売電による発電収益の低下を防ぐためには発電量予測データを手に入れる必要がある。そこで本研究では気象庁から提供されている予報データと地理情報システムを用いて，発電量予測手法の確立を行っている。この論文では全球数値予報モデル(GSM)とメソ数値予報モデル(MSM)という予報データを用いたときの予測誤差の比較を行った。

6-155

PVシステムにおける地域差を考慮した壁面設置型PVパネルの発電量予測

◎清水舜太・阿部寛史・小宮健人・藤田吾郎（芝浦工業大学）

近年，二酸化炭素排出量増加により地球温暖化の対策が世界共通の課題となっている。日本でもカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進められており，2030年までに二酸化炭素排出量を2013年度比で46%削減するという目標が掲げられている。この目標に向けて，再生可能エネルギーの導入が加速している。特に太陽光発電（以降PVとする）は2012年から2020年までのPV導入量は6倍以上に増加しており，普及が顕著である。
しかし，PVの導入に伴い，課題も多く存在する。例えば，電力消費の多い都市圏において，設置面積の制限，高層建築物による発電不良などが発生し普及の妨げとなっている。
これに対して，限られたスペースの有効活用ができる壁面設置型のPVに注目した。本研究では，降雪地域における積雪や梅雨による季節的な変動などの地域差を考慮した壁面設置型PVパネルの発電量予測をした。その結果を基に効果的な過積載率の検討を行い，地域特性に応じたPV普及を目的とする。

6-156

衛星画像を利用した日射強度の相関分析に関する一考察

○安並一浩（三菱電機）

近年，太陽光発電（以下，PV）をはじめとする，再生可能エネルギー電源（以下，再エネ電源）が，電力系統に数多く連系されてきており，電力系統の不確実性が増大している。このような背景から，確率論的な供給信頼度評価の必要性が高まってきている。確率論的に供給信頼度を評価するためには，負荷だけではなく，再エネ電源の確率統計的なモデリングが必要となる。そこで，本論文では，広域の日射強度を，0.5 km四方のメッシュ単位で把握することができる，「気象衛星が撮影した雲画像を用いて推定した日射強度」を利用することで，広域における多地点間の日射強度の相互相関係数を，きめ細かく分析し，評価した。

6-157

年間日射量に基づくPVパネルの適切な過積載率の検討

○澤 敏之・山口順之（東京理科大学）

2050年のカーボンニュートラルの進展を目指して，第7次エネルギー基本計画の原案が示され，2040年に室効果ガス7割程度削減（2013年比），再エネ導入率4～5割程度，そのうちPVは23～29％程度と第6次エネルギー基本計画から導入目標が増大しており，今後更にPVの導入が促進されるものと考える。最近のPVパネル等の費用および売電価格の低下に伴って，パワーコンディショナより容量が大きいPVパネルの過積載事例が報告されている。
本報告では，収益に直接影響する年間日射量を事業者が制御することはできないため，どの程度変化するのか，更には適切な過積載率やその積載率が地域によって変化するのかを評価する。

6-158

太陽電池の低電圧側動作点及び高電圧側動作点における指令値追従性の実機検証

◎鈴木裕一・秋元 理・吉井 剣・馬場旬平（東京大学）

近年，太陽光発電の導入量増加に伴い，調整力不足が懸念される。一方，太陽光発電の導入拡大により，その出力制御の機会が増加している。そこで，出力制御中の太陽光発電から上げ調整力の供出が検討されている。調整力としては指令値追従性が高いことが望ましい。しかし，指令値追従性に関する検討は，これまで机上検討に留まっている。そこで本研究では，太陽電池の動作領域の違いによる指令値追従性の検証を実回路で行った。検証の結果，高電圧側動作点に対し低電圧側動作点を使用することによる制御上の利点を，実際に提案制御を実装した実験回路を用いた実験により明らかにした。

6-159

スポット市場からの電力調達および併設された太陽光発電による水素製造の一検討

◎須藤飛竜・占部千由・加藤丈佳（名古屋大学）

将来的に太陽光発電の大量導入が見込まれており，晴天時に相当量の余剰電力が発生すると考えられる。この余剰電力による水電解水素製造(WEHP）が期待されているが，まだ検討が必要な点が多く存在する。本研究では，第一段階としてWEHPのための安価で安定的な電力の調達方策として，スポット市場と併設されたPVからの電力調達を想定したWEHPモデルを提案した。提案モデルでは，日射量が少ない時に約定価格が安い時間帯も見られ，年間を通して平均的に，市場から一定量の電力調達が可能である。また，約定価格が0円近傍の時間帯に購入すれば，安価な電力購入と余剰電力の活用を両立できる。提案モデルにより，安価で安定的な水素製造を行うことが期待される。

6-160

太陽光発電と蓄電池導入による再エネ自給自足率の地域別考察

佐竹昭泰・天野広喜・○渡邊政幸（九州工業大学）

2050年までにカーボンニュートラルを実現させるための努力目標が設定され，グローバル企業でも「脱炭素経営」を目指す動きが活発になっており，サプライヤーに対しても同様の取り組みが要求されている。そこで，需要家を想定して，太陽光発電（PV）と蓄電池を導入したときの電力需給シミュレーションを行い，PVと蓄電池の導入に対する再エネ自給自足率を可視化し，導入コストを合わせて示すことでその利用法について検討してきた(。今回は，複数の地域における再エネ自給自足率の可視化を行ったので報告する。

6-161

深層強化学習を用いたPV-蓄電池システムの収益最適化アプローチの提案と検証

◎大曽根佑紀・小平大輔（筑波大学）

本研究では，深層強化学習を活用した新たなPV-蓄電池システムの収益最適化手法を提案する。特に，インバランス損失を報酬関数に組み込み，蓄電池運用の効率化と収益性向上を目指した制御フレームワークを構築した。本モデルでは，PV発電量，電力価格，インバランス価格を予測し，これらの予測値を基に蓄電池の最適な充放電計画を策定する。学習アルゴリズムにはProximal Policy Optimizationを採用し，シミュレーションによりその有効性を検証した。結果として，提案手法は累積報酬の収束と日次収益の改善を達成した一方で，インバランス損失やモデル予測精度の限界が収益に与える影響が確認された。今後は，モデルの改良と実機検証を通じて，実運用への適用可能性を高めることを目指す。

6-162

太陽光発電システムが均等に分散連系された配電線の電圧が適正範囲内の値となる条件

◎宮崎翔冴・山中光樹・清水洋隆（職業能力開発総合大学校）

複数のPVシステムが均等に分散して配電系統に連系され，かつ，同じ電力を出力している場合を想定し，配電線の電圧が適正範囲内の値となる条件について検討した。配電線の電圧を求めるための数値計算方法を開発した。検討の結果，PVシステムが5地点に均等に分散して連系されると，配電線の電流が連続許容電流値に達したとしても，配電線の電圧が許容変動範囲内に収まることを明らかにした。

6-163

分散型電源システムにおける予測手法と設備構成が電力需給に与える影響

◎佐藤聖史・吉田好邦（東京大学）

本研究では，公共施設の電力需給計画をシミュレーションし，予測手法とバッテリーなどの電源導入が需給結果に与える影響を分析する。具体的には，2022年東京のJEPX価格を用い，前日最適化とリアルタイム最適化の二段階で電力購入量を決定する。需要，JEPXスポット価格，PV発電量の予測には持続モデルとprophetモデルを比較し，予測精度を評価する。最適化後の実測値を基に総運転コストおよび設置コストを算出し，予測手法と電源導入が電力需給結果にどのような影響を与えるのかを分析する。

6-164

蓄電池と太陽光発電を保有する家庭における蓄電池劣化と停電防止を考慮した経済性評価

◎松原 雅・前 匡鴻・松橋隆治（東京大学）

日本のエネルギーシステムはS+3Eの達成を目指しており，需要家側の取り組みは供給側と同様に必要となっている。特に家庭部門では，蓄電池と太陽光発電を用いたエネルギーシステムが広まっている。本稿では，家庭で蓄電池と太陽光発電を導入した場合の経済性を分析する。ここでは蓄電池の劣化を考慮した最適化により，システムの寿命を伸ばしつつ投資回収年数を短くすることを図る。最適化を通じて，投資回収年数は蓄電池寿命より0.2 年短くなる。さらに停電防止効果を考える場合，投資回収年数はさらに短くなるものの，電力コストの低減に比べ1.8%ほどの効果にとどまる。

6-165

緊急時V2Hによる停電復旧計画更新・運用手法の基礎検討

◎稲垣有都・登 淳史・後藤 巧・小川理暉・益田泰輔（名城大学）・Tayjasanant Thavatchai（チュラロンコン大学）

本研究グループでは，配電線が使用できない緊急時にEVの移動できる蓄電池としての性質に注目した停電復旧手法について検討を進め，配電線が使用できる健全区間でEVを充電し，事故区間で放電しているEVと交替させる持続可能な電力供給手法を提案した。本論文では，移動による電力消費を考慮した最適化問題を定式化するとともに，PV出力の予測値に基づき計画を作成し，時々刻々と変化する実際のPV出力に合わせて実時間での運用および計画更新を同時に行う手法を提案・評価する。

6-166

電力需給解析モデルを用いた電気自動車群のデマンドレスポンス実装優先度の評価

◎槇野雄太・林 七音・池上貴志（東京農工大学）

昼間の再エネ余剰電力の発生を減らし，電力を有効活用する手段として電気自動車（EV）を用いたデマンドレスポンス（DR）が期待されている。本研究では，EVの走行パターンによって，DR実装時の需給調整ポテンシャルがどう異なるのかを明らかにすることを目的とした。電力需給解析モデルに，走行パターンでグループ化したEVモデルを追加し，EVのDR実装割合，系統用蓄電池の導入量，各発電設備の一年間の運用を最適化するモデルを開発した。一台当たりのDR実装費をパラメータとして0円から15,000円まで1,000円刻みに設定し，計算を行った。その結果，昼間の本拠滞在時間が平休日のうち，一方が長く，もう一方が短い車両はDRによる効果が高く，実装優先度が高いことが明らかになった。

6-167

DRreadyを想定したヒートポンプ給湯機の太陽光発電余剰吸収ポテンシャルの年間評価

◎上村真子・林 泰弘・金子曜久・広橋 亘・光岡正隆（早稲田大学）・河野俊介・高口雄介・板屋伸彦（三菱電機）・鍵田昌幸（三菱電機ソフトウエア）

カーボンニュートラル実現に向け，太陽光発電（PV）の導入拡大が進む中，PV余剰電力の利活用が求められている。需要家機器であるヒートポンプ給湯機は，DRready勉強会において，PV余剰吸収に向けた活用指針が議論されるなど，日中への稼働時間シフトによる余剰電力の吸収が期待されている。一方で，アグリゲータの目線では，ヒートポンプの活用によるPV余剰吸収ポテンシャルは，需要家の給湯需要にバラつきや運転効率の季節性により変化するため，その点を考慮した見積もりが必要である。本稿では，2000軒の需要家を対象に推定した熱需要データに基づき，各需要家の給湯需要のばらつきやエネルギー消費効率（COP）の季節性を考慮しつつ，PV余剰電力吸収ポテンシャルを評価した。

6-168

デマンド・レスポンスの経済価値：最小二乗モンテカルロ法によるスイング・オプションの評価

○塩澤守弘（東京電力ホールディングス）・横坂雅樹（東京電力エナジーパートナー）・山口順之（東京理科大学）

本研究では，小売価格と，卸電力価格（JEPXスポット価格）およびDRに対する報酬の合計との差異を，DRにかかるリアル・オプション（小売事業者がある特定の時間帯の電力販売量を変更できる権利，スイング・オプションともいう）のペイオフと捉え，最小二乗モンテカルロ・シミュレーション法(LSM)を適用し，その経済価値の評価を行う。リアル・オプション価値評価モデルのパラメータ（JEPXスポット価格のボラティリティ，平均回帰モデルの平均回帰水準，回帰速度など）を変化させ，リアル・オプション（スイング・オプション）価値の変化を数値実験することで，JEPX価格変動がDR契約の経済価値に与える影響を考察する。

6-169

経済性を優先したインセンティブ型デマンドレスポンスに関する基礎検討

◎福田剛久・高野浩貴・浅野浩志（岐阜大学）・大山達也・加藤 尚（東北電力）・松浦清隆・本間 隆（北海道電力）

わが国の小売電気事業者は，一般送配電事業者（T&D: Transmission and Distribution Companies）に事前に提示した需給運用計画に，30分単位で実績を一致させるように電力を供給することが義務付けられている。計画と実績にズレ（需給インバランス）を生じさせた場合は，T&Dに対してインバランス料金を事後清算することになる。本稿では，アグリゲータを兼業する小売電気事業者（RPS-AG）が，インバランス料金の清算に対してRPS-AG自身の利得増加を最大化，つまり経済性を追求するために，実施するインセンティブ型デマンドレスポンス（DR）に注目した。このDRを一年間実施する状況を想定して需要家への報酬単価を算定し，RPS-AGと需要家の利得の変化を評価した結果を報告する。

6-170

連系運用と需給調整機能を組み合わせた設備設計に関する一検討

◎見寳祐輝・高山聡志・石亀篤司（大阪公立大学）

近年，多発する自然災害への対策として，再生可能エネルギーと親和性が高く災害時のレジリエンスに優れたマイクログリッド（MG）が注目されている。MGを普及させていくためには経済性や環境性を含む様々な指標を向上させていく必要があり，著者らは複数のMGがエネルギーを融通し合うマルチマイクログリッド(MMG)や電力需給調整市場を活用したシステム設計について検討を行ってきた。本研究ではメタヒューリスティック手法の1つである NSGA2 を用いてMMGと電力需給調整を組み合わせた最適設備容量選定の検討を行い，両手法を組み合わせた設備設計の有用性を確認したのでその結果について報告する。

6-171

数理最適化ソルバーを用いたマイクログリッドの最適経済運用に関する検討

◎大川達也・呉 国紅（東北学院大学）

本論文では，再生可能エネルギー発電を主要な電力源を想定したマイクログリッドの最適経済運用手法について検討を行う。マイクログリッドの最適経済運用という複雑な計算問題に対し，数理最適化ソルバーの適用の有効性を検討した。本研究では，典型的なマイクログリッド構成を有するモデルにおける最適計算結果により，マイクログリッドの単独運転時における発電機燃料コストの最小化，また系統連系運転時における合計電気料金の最小化の2つの最適経済運用問題について，選定された数理最適化ソルバーを用いて最適計算を行い，マイクログリッド最適運用問題に対する当該手法の有効性を確認できた。

6-172

ハイブリッドマイクログリッド系統連系運用時における電圧安定化に関するシミュレーション検討

◎五十嵐隼斗・大川達也・呉 国紅・和 敬涵（東北学院大学）

近年，太陽光発電や風力発電等の発電電力量に変動性および不確定性のある再生可能エネルギー発電を安定かつ高効率に利用できるために，マイクログリッド技術が注目を浴びている。本研究では，大学にて設計・導入された「ハイブリッドマイクログリッド実験システム」を模擬したシミュレーションモデルを新規作成してシミュレーションによる検討を行い，太陽光発電と風力発電や負荷変動による直流と交流母線の電圧変動に対し，2種類の電気特性の異なる電力貯蔵装置（蓄電池とEDLC）の充放電制御およびDC-ACインバータを介した系統連系制御による交直流母線電圧の安定化効果を検証し，設計導入したマイクログリッド実験システムの有効性を確認した。近年，太陽光発電や風力発電等の発電電力量に変動性および不確定性のある再生可能エネルギー発電を安定かつ高効率に利用できるために，マイクログリッド技術が注目を浴びている。本研究では，大学にて設計・導入された「ハイブリッドマイクログリッド実験システム」を模擬したシミュレーションモデルを新規作成してシミュレーションによる検討を行い，太陽光発電と風力発電や負荷変動による直流と交流母線の電圧変動に対し，2種類の電気特性の異なる電力貯蔵装置（蓄電池とEDLC）の充放電制御およびDC-ACインバータを介した系統連系制御による交直流母線電圧の安定化効果を検証し，設計導入したマイクログリッド実験システムの有効性を確認した。

6-173

マイクログリッドの経済運用を考慮した太陽光発電システムと電力貯蔵設備の容量算出法

◎原田健登・児島健太・高野浩貴・浅野浩志・神原信志（岐阜大学）・大山達也・加藤 尚（東北電力）

著者らは，マイクログリッドの経済運用を考慮した蓄電池システムおよび水素蓄電システムの設備容量を算出する枠組みを提案してきた。しかし，この枠組みでは，太陽光発電システムの最適容量までは議論することはできなかった。太陽光発電システムは，地球温暖化防止や災害時の電力供給維持に貢献することで，マイクログリッドの構成要素として重要な役割を担う。しかし，電力貯蔵設備（蓄電池システム，水素蓄電システム）と同様に，太陽光発電システムの過剰な設置は経済性の低下を招くことになる。そこで本稿では，従来の枠組みを太陽光発電システムの容量も算出可能な形へと拡張し，数値実験を通してその妥当性を検証した結果を報告する。

6-174

水素蓄電システムの特徴に着目したマイクログリッドの最適設備容量に関する検討

◎児島健太・原田健登・高野浩貴・浅野浩志・神原信志（岐阜大学）・大山達也・加藤 尚（東北電力）

著者らは，マイクログリッドの電力貯蔵設備として，蓄電池システムと水素蓄電システムに着目し，年間経済運用を踏まえたそれぞれの最適容量を検討している。水素蓄電システムは，水電解装置，水素貯蔵装置，燃料電池の容量を個別に設定できるため，マイクログリッドの設計に新たな選択肢をもたらすものと期待している。一方で，水素蓄電システムの容量単価が蓄電池システムよりも高価であることを，水素蓄電システムの導入拡大に向けて解決すべき課題の一つとして位置付けている。本稿では，水素蓄電システムの想定容量単価を変化させて最適容量を求め，構成要素を個別に設計できるという水素蓄電システムの利点を活かすことによる効果を検討した結果を報告する。

6-175

需要家内直流マイクログリッドにおける電力潮流制御法の比較

◎杉谷真実・青木 睦（名古屋工業大学）・藤田 悠・中川雅也・小林 浩（トーエネック）

本研究では，需要家内の直流(DC)マイクログリッドにおける電力潮流制御法として，電圧制御と電流制御の比較を行った。太陽光発電(PV)，蓄電池(BT)，負荷で構成された簡易モデルを作成し，MATLAB/Simulinkを用いてシミュレーションを実施した。Case1ではPVの日射量が大きい場合，Case2ではPVの日射量がゼロの場合を想定した。電圧制御では，指令値が同一でも日射量の変化に応じた自動的なBTの充放電が確認された。一方，電流制御は配線インピーダンスの影響を受けず，制御が可能であることを示した。これらの結果を基に，DCマイクログリッドにおける各制御方法の特徴と課題を考察し，今後の制御手法改良の方向性を示した。

6-176

再エネ需給不確実性を考慮したディーゼル発電と蓄電池の離島オフグリッド運用法の検討

◎野々村孟徳・藤本 悠・石井綱吉・林 泰弘（早稲田大学）・大貫正昌・石橋一成・田中俊輔・唐澤利史（東京電力ホールディングス）

離島オフグリッド（OG）では，従来のディーゼル発電機（DG）主体の電力供給に代わり，発電コスト削減やCO2排出量抑制を目的とした太陽光発電（PV）の導入が進んでいる。しかし，需給バランスの維持には蓄電池やDGの併用が必要であり，運転計画時にはネット需要の不確実性を考慮することが不可欠である。本研究ではネット需要の同時確率分布を統計的にモデル化し，蓄電池残存容量（SOC）の推移シナリオを生成，容量制約を考慮しつつコストを最小化するDG運用計画を提案した。提案手法は代表日シミュレーションを用いて有効性を検証した。

6-177

住宅地マイクログリッドにおける太陽光発電の出力抑制に関する一検討

○加藤丈佳・松岡 樹・占部千由（名古屋大学）・中川雅也・藤田 悠・小林 浩（トーエネック）

住宅地MGでは，複数の住宅間において電力需要変動の平滑化が期待できるのに対し，PV出力変動の平滑化は限定的である。このため，住宅地MGおいて電力需給バランスを維持するために必要なBESSのkW容量は，PV出力変動によって決まると考えられる。PV出力抑制を適用することで必要なBESSのkW容量を削減できるが，夜間の電力供給のためのBESSの充電電力量が減少する。そこで本研究では，戸建住宅における電力需要およびPV出力の実測データに基づき住宅地MGの自立運転時の電力供給バランスを計算し，PV出力抑制のあり方について検討した。

6-178

マイクログリッドの技術検討のための一線地絡事故シミュレーションモデルの開発

◎堀江亮佑・中島達人（東京都市大学）・長谷川匡彦・宮本裕介（関電工）

地域マイクログリッドは，再生可能エネルギーや蓄電池を電力供給源として，災害時等に地域の重要施設への電力供給を確保する形態として，全国各地で計画が進められ，運用も開始されている。例えば，千葉県いすみ市で2023年2月に運用が開始された「いすみ市地域マイクログリッド」(1)では，防災拠点である市役所庁舎および指定避難所である中学校を含む対象エリアにおいて，災害時には電力会社の配電線から切り離した独立系統を構成し，太陽光発電と蓄電池に加え，LPガスを備蓄燃料とする発電機も稼働させることにより，レジリエントな電力供給が実現されている。
こうしたマイクログリッドでは，独立系統状態で確実に地絡事故を検出して保護動作が可能であることや，確実にブラックスタート可能であることの事前検証が必要であるが，現地据付前の諸装置と模擬線路を組み合わせた実機試験での検証には，多大な時間と労力を要する課題がある。
本稿では，実機試験に代わるシミュレーション手法を確立させて技術検討を省力化することを目指して，マイクログリッドの一線地絡事故のシミュレーションモデルを開発し，解析結果と試験結果を比較・考察したので報告する。

6-179

オフグリッドにおける需要家所有蓄電池の余力活用に関する基礎検討

◎西村修一・原 亮一・川島伸明・北 裕幸（北海道大学）・竹内雅靖・藤原基伸（日新電機）

過疎地域では人口減少に伴い電力需要が縮小し，電力設備の利用率低下や維持コスト増が課題となっている。これに対し，配電系統を上位系統から切り離したオフグリッド（OG）化により，送電線や変電設備の撤去でコスト削減が可能とされる。しかし，OG内の需要を満たすために発電設備や蓄電池を過剰導入するとコスト増加を招く問題がある。特に蓄電池は導入コストが高く，自然変動電源を主電源とする場合の課題となっているため，著者らは需要家が所有する蓄電池の余力活用に着目。本稿では，需要家蓄電池の借用を考慮したOG設備容量設計手法を提案し，モデル地域を用いて余力借用料と設備導入量・運用の関係を分析する。

6-180

山間部における低圧直流配電適用に向けた複数蓄電池の協調制御のシミュレーション

◎小川一樹・西垣安貴・岡本和馬・河内祐也・久富和郎・大野裕之（ダイヘン）・坂本拓哉・米澤憲人・岡 靖典・横山和弘・湧谷栄之（関西電力送配電）

山間部の配電線では自然災害による長時間停電への対応が課題となっており，オフグリット化等が検討されている。しかし分散電源の確保が難しいところもあり，解決策として配電線の低圧直流化を検討している。低圧では配電距離が短くなる欠点があるが，我々は蓄電池を需要家の近傍に設置し，負荷変動に応じて充放電制御することで配電距離を伸ばす手法を提案してきた。しかし従来手法では各蓄電池が非協調制御であるため，蓄電池容量を効率よく活用できていなかった。そこで本稿では，複数の蓄電池を仮想的に1つに統合し集中制御することで，蓄電池の充電状況（SOC）をバランスさせる方式を提案し，そのシミュレーション結果を報告する。

6-181

強化学習を用いた蓄電池制御アルゴリズムでの物理的制約に基づいた報酬設計

◎橋場怜央・小平大輔（筑波大学）

本研究は，需要家1軒の電力取引における蓄電池制御に焦点を当て，物理的制約を考慮した強化学習(RL)モデルの報酬設計を提案する。「Action Difference (AD)」という制約を考慮した新しい報酬設計が，RLモデルの制約を満たした行動選択に有用であることを定量的に示した。ADは単体で制約に対して有用なだけでなく，他の報酬と組み合わせても制約に対して効果を発揮した。そのため，収益の向上や損失の削減などの他の報酬と本研究で提案したADを報酬設計に組み込むことで，「制約の範囲内」で目的に合致した最適戦略を導き出すRLモデルの作成が可能となる。

6-182

系統用蓄電池事業者の収益性に関する基礎検討

○林 巨己・新井 馨・石橋直人・岡林弘樹・飯坂達也（富士電機）

現状の需給調整市場においては，活発な取引がなされているとはいい難い。この原因の一つと考えられるのが，需給調整市場取引による収益の予見性が低いことが考えられる。そこで筆者らは，公開されている各種電力価格の実績値を用いて，系統用蓄電池運用者が需給調整市場に参加した場合の収益を試算した。その結果，需給調整市場は系統用蓄電池事業者の収益に対して大きなポテンシャルを秘めていることを確認した。なお，今回試算した収益は実績値（平均約定価格）に基づくため，極端な約定価格をある程度排除している。また，価格予測誤差のない理想的な取引を行った場合の収益となる。

6-183

収益向上を目指した強化学習ベースの蓄電池制御手法の実証

◎林 弘辰（筑波大学）

本研究は，複数の通信方式や信号プロトコルに対応可能な蓄電池遠隔制御システムを構築し，収益最大化を目指した蓄電池の充放電計画を再現・実証することを目的とした。充放電計画を基に制御アルゴリズムを開発し，目標充放電計画への追従を実現した。また，複数の蓄電池メーカーやIoTサービスに対応可能な通信方式を採用した。実証実験では，蓄電池が充放電計画を正確に追従した。しかし，高SoC領域での充電挙動や通信遅延の影響等が課題となった。本研究では収益向上に向けた蓄電池制御の実現可能性を示したが，高SoC領域の制御精度向上や経年劣化への対応が課題として残る。長期的運用の試行および共通アルゴリズムの開発が必要である。

6-184

短期計画・長期計画の両方を考慮した燃料電池の最適運用に関する初期検討

◎岡本光一郎・丹野祐次郎・石井英雄・林 泰弘（早稲田大学）・島 潔・田村龍一（大林組）

近年，再生可能エネルギーの主力電源化に向け，長期的エネルギーシフトが注目されている。特に，水素貯蔵は蓄電池に見られる自己放電による残容量減少が起こらないため，長期間のエネルギー保管に適している。本研究では，短期計画と長期計画の双方を考慮したFC運転計画策定手法を提案する。具体的には，1年間の太陽光発電量と需要データを基に長期的な水素貯蔵タンクのSOC目標値を策定し，それに基づき翌日の運転計画を最適化する2段階手法を採用した。数値計算の結果，短期計画と長期計画を適切に組み合わせることで，年間電力料金を最小化できることを確認した。本手法は再生可能エネルギーの効率的利用とエネルギーコスト削減に寄与する可能性を示す。

6-185

Frequency Response of Storage Batteries Supported by SoC Balancing

◎Nikita Buchinskiy・Hiroumi Saitoh（Tohoku University）

By fiscal 2030, the share of renewable energy is projected to increase to 36%-38% of the Japanese energy mix. However, the inherent lack of storage capability in solar and wind systems limit their ability to provide reserve capacity for balancing supply-demand mismatches, necessitating the reliance on the flexibility provided by storage batteries to ensure stable operation of the power system. Given their scarcity, however, it is crucial to unlock their full potential by considering individual capacity constraints. Hence, this paper proposes a cyber-physical coordination strategy based on state-of-charge (SoC) balancing to support and extend the frequency response provision of grid-connected storage batteries.

6-186

エネルギー自立型住宅のDER容量設計：自律分散型社会を見据えた機能要件の類型化に向けて

◎進士聖夫・藤本 悠・金子奈々恵・林 泰弘（早稲田大学）・マハムドファーハン・諏訪部元樹・樋口裕二（日本電信電話）

近年，エネルギー利用機会の不平等性にまつわる問題解決の観点からエネルギージャスティスが注目されている。特に公正で均等なエネルギー分配を享受できる理念の論点として未電化地域のエネルギー利用の在り方が挙げられるが，現状，送配電の運用コスト等の制約から送配電が困難である。本研究では需要家が自給自足可能な最低限の設備容量を明確に類型化することを実現するための初期検討として，多様な需要家の機能要件の推定手法を提案する。まず需要家データの統計的傾向から容量の候補を列挙し，その後機器制約に基づく最適化により推定の妥当性を検証した。結果として，推定された複数の候補から最適化により妥当性のある候補を抽出した。

6-187

工場・事業所のカーボンニュートラル向けエネルギーマネジメントシステムの制御機能開発

◎佐藤航大・渡並洋介・村山 大・久保田雅之・竹田大輔（東芝エネルギーシステムズ）

2050 年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする方針のもと，脱炭素に向けた取組・投資やイノベーションの加速が求められている。脱炭素社会の実現には，電力需要家の省エネや高効率化に貢献するエネルギーマネジメントシステム（EMS）技術が重要となる。工場・事業所向けのEMSは，再生可能エネルギーの利用量向上に加えて，逆潮流のマネジメントや，デマンド・リスポンスへの対応を可能とする制御技術が求められる。本稿は，逆潮流をマネジメントしつつ，DR指令に従って連系線潮流の制御を可能とする制御機能を開発し，ある一条件に対して逆潮流をマネジメントしつつ DR の制御目標を達成できることを確認した評価結果について報告するものである。

6-188

確率論的スマートハウス運用モデルに関する基礎検討

◎根岸信太郎（神奈川大学）

一般に一般家庭の電力需要や熱需要の不確実性は大きい。事前に各機器の運転を決定し，コストが最小となる計画や調整力の提供計画を立てたとしても，この不確実性によって実行可能性が損なわれてしまう。小規模の需要家をある程度まとめることによって，精度の良い電力需要や給湯需要の予測を行う手法は提案されている。その一方で，HEMSで需要家側機器の制御計画を行う場合は，需要家個々の需要の不確実性をモデル化し，そのモデルを制御決定部に直接組み込むのが望ましい。
そこで本発表では，一般家庭の電力需要と熱需要が不確実な環境下における需要家側機器の運転計画を決定できる最適化モデル（スマートハウス運用モデル）および各需要の不確実性をモデリングする手法を提案する。

6-189

BEMSにおける逆強化学習の適用

○陣野良平・山根俊博（清水建設）

近年，建物等の電力設備において通信技術の発展に伴い，建物エネルギー管理システム（Building Energy Management System: BEMS）の導入が進んでいる。管理範囲にて運用ルールやデマンドレスポンス要請等を考慮し，エネルギー管理を行う。また太陽光発電設備，蓄電池や燃料電池等の発電システムを伴う場合，発電指令は，現在や将来の負荷および発電設備の稼働状況を考慮する必要がある。電力設備の運用において，深層強化学習の適用研究が盛んとなっており，主に運用計画上の複雑な最適化問題の解法として適用されている。BEMS によるエネルギー管理においてはエネルギーコストの最適化等への適用が考えられる。妥当性が確認されている既存運用を基盤とし，さらに最適化，自動化や省力化を行う必要がある。本稿では逆強化学習および強化学習を応用したエネルギーコストの最適化手法により，既存のBEMSを対象に検討を行った。既存運用を踏襲しつつも評価期間内で72%の期間にわたりエネルギーコストを削減可能との検討結果を得た。

6-190

マイクログリッドのDER群多目的最適化における需要家の公平性の評価

◎齋藤龍平・飯野 穣・石井綱吉・林 泰弘（早稲田大学）・内山慎距・生石光平・森 健二郎（東京電力パワーグリッド）

近年，太陽光発電などの再生可能エネルギーを含む分散型エネルギー資源の需要家サイドへの導入が進んでおり，電圧や電力潮流の変動増大・複雑化による電圧逸脱，配電ロスの増加など多くの問題が指摘されている。これらの問題の解決手段として，マイクログリッドによる電力の地産地消促進が期待されるが，経済性，環境性などの多目的価値同時実現が求められている。本稿では，需要家DER利用の不公平として，PV抑制量の一部需要家への集中現象に着目し，小規模マイクログリッドモデルの数値シミュレーションにより，PV抑制不公平の発生理由を明らかにし，配電系統指標を適切な範囲に保ちつつDER利用公平性を同時に改善できることを示した。

6-191

多端子HVDCシステムへの仮想同期発電機制御の実装に向けた基礎検討 ―変換器容量比を考慮した有効電力指令値配分の決定手法―

◎松岡祐希・中村綾花・岩田幹正・横水康伸・兒玉直人（名古屋大学）

多地点への大容量長距離送電が可能な多端子HVDC(High Voltage Direct Current)システムを，日本国内の地域間連系線に導入する試みが検討されている。複数の交流系統や洋上風力発電所が連系される多端子HVDCは，周波数制御時において，端子間での電力融通量や各端子の運転特性について考慮する必要があるため，周波数制御が複雑化してしまう。そこで筆者らは，各端子の運転特性と有効電力指令値配分を考慮することにより，系統に慣性力を供給するための仮想同期発電機(Virtual Synchronous Generator: VSG)制御を多端子HVDCシステムに適用する手法を提案する。変換器容量比を考慮した有効電力指令値の配分により，複数の端子からの電力融通が可能になることを確認した。

6-192

多端子直流送電システムの設備構成が異なる場合の交流系統への影響に関する基礎検討

◎中村綾花・岩田幹正・横水康伸・兒玉直人（名古屋大学）

MTDC（Multi-Terminal HVDC）システムは，直流設備構成により単極構成と双極構成に大別される。各構成は，必要となる交直変換器やケーブルの本数が異なり，設置コストや供給信頼性に差が生じる。MTDCシステム新設時には，多様な要件を総合的に考慮し，最適な設備構成を選定する必要がある。そのため，設備構成の違いが連系先の交流系統に与える影響を明らかにすることが求められる。本稿では，単極・双極システムが直流送電線上の故障時に交流系統へ及ぼす影響を比較し，その基礎的検討結果を報告する。

6-193

多端子洋上風力発電システムにおける直流送電回路事故時の過渡電気特性に関する検討

◎長南英樹・花田 凛・呉 国紅・和 敬涵（東北学院大学）

本研究では，洋上発電機として二重給電誘導発電機DFIGを想定した二つの洋上発電機群，電力変換器として3レベル変換器を使用した多端子自励式HVDC構成の洋上風力発電システムモデルを構築した上，直流送電回路事故を除去するために半導体直流遮断器を導入し，線間短絡事故が発生した際における洋上風力発電システムの過渡的安定運転特性をシミュレーションによって検討した。シミュレーション結果により，事故後に直流遮断器が正しく動作し事故を除去し，事故が起きた直流送電線及び事故が起きていない直流送電線への影響を抑制し，線間短絡事故が起きた後も系統が安定な運転状況へと回復し送電できたことを確認した。

6-194

DFIG発電機と多端子自励式HVDC送電回路構成の洋上風力システムの安定運転に関する研究

◎花田 凜・長南英樹・呉 国紅（東北学院大学）

本研究では，洋上風力システムにおける送電回路の構築および安定化制御について研究を行った。そのため，洋上風力発電機として二重給電誘導発電機DFIGを使用した二つの洋上発電機群，3レベル電力変換器，洋上側に二端子と陸上側に二端子とした多端子自励式HVDCで構成される洋上風力システムモデルを構築し，電圧制御及び電流制御系を設計してシミュレーション検討を行った。シミュレーション結果より，洋上風力発電機が正しく動作し，その電力が大きく変動した場合でも，直流送電回路の電圧が一定に維持され，各部の電流または電圧制御が正しく行われ，システム全体では正常に発電・送電が行われていることが確認できた。

6-195

周波数変動時の他励直流送電の動作

○伊与田 功（系統解析技術研究所）

電力系統における大幅な周波数変動時のパワーエレクトロニクス機器の動作について検討した。具体的には他励直流送電システムの動作について，電力中央研究所が開発した瞬時値シミュレーションプログラムXTAPの無償提供バージョンを用いて解析した。他励直流送電のモデルは同プログラムの例題として提供されているものに周波数制御機能を加えた。解析の結果，RoCoFが大きい状態が長く継続するとPLLの位相同期にずれが生じ，それを基準として発生する点弧信号が，系統位相上不適切なタイミングとなり，直流送電の動作に影響を与えることが確認された。PLLは自励変換器でも使用されているのでこの現象を考慮する必要がある。

6-196

電圧無制御型直流グリッドの定格BUS電圧が太陽光発電の利用率に与える影響

◎服部広歩・雪田和人・七原俊也・津坂亮博（愛知工業大学）

近年注目されている直流グリッドには，電源の状態に応じてBUS電圧が変動する電圧無制御方式が存在する。本研究では，この方式の直流グリッドにおいて，商用系統を用いた直流電源の設定電圧を変化させた際の電力潮流をMATLAB Simulinkで解析した。PV（太陽光発電），蓄電池，負荷を接続したモデルを用い，電源電圧を22Vから29Vに変化させた結果，BUS電圧の上昇に伴い負荷電流が増加する一方，PVの寄与が相対的に低下し，商用系統からの電力供給が増加することが確認された。このことは，電源電圧が直流グリッド内の電力分担や太陽光発電の利用率に大きく影響を与えることを示している。

6-197

バッテリを用いた自立直流給電システムにおける2自由度制御による過渡応答改善

◎菅原佳祐・三浦友史（長岡技術科学大学）

近年，分散型電源や電気自動車(EV)の普及により，直流機器が増加しているため直流マイクログリッドが注目されている。直流システムは，電力変換の効率化や周波数・位相の同期が不要といった利点を有するが，直流系統安定化には高価なバッテリが不可欠である。そこで，安価なリユースバッテリを活用し特性の異なるバッテリを並列接続しドループ制御を適用することで所望の負荷分担を実現することができる。しかし，負荷変動やドループ係数変化時に過渡的な瞬時電圧低下が発生する問題がある。今後，高品質電力供給の需要が増加すると考えられるため本稿では2自由度制御をドループ制御に適用し，過渡時の瞬時電圧低下を抑制できることをシミュレーションにより確認した。

6-198

直流配電システム実証への取組み

◎山田勇次・福野研一・和泉晃浩・園江 洋（三菱電機）

近年，温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル（CN（Carbon Neutral））の実現に向けた取り組みが世界的に加速しており，再生可能エネルギーとそれを蓄える蓄電池との親和性が高く，既存の交流配電と比べ電力変換損失の少ない直流配電システムが注目されている。
当社では，直流配電システムの実証施設を建設し，システムの安全性・信頼性の実証試験に取り組んできた。今後も実証施設を活用し，直流事業の普及促進および事業化に取り組んでいく。

6-199

直列多重変圧器を用いた双極直流送電の非選択事故遮断

◎清水雅哉・佐野憲一朗（東京科学大学）・石黒崇裕（東芝エネルギーシステムズ）・新井卓郎・窓岩尚史（東芝インフラシステムズ）

洋上風力発電設備を陸上交流系統へ連系する方法として多端子直流送電システム（直流系統）が検討されている。直流系統の送電線事故に対する保護方式の1つに,交流遮断器で事故電流を遮断する非選択事故遮断方式があるが,洋上風力発電の電源線に適用すると,交流遮断器の開路で分離された発電設備が停止するという課題がある。
そこで本研究では交流端子を短絡して事故電流を遮断しつつ,発電設備の連系に直列多重変圧器を用いることで発電設備の電圧低下を50%に抑制する方法を提案する。提案法を用いることで発電設備の交流遮断器を開く必要がなくなり,発電設備の運転継続が可能になることをシミュレーションで確認した。

6-200

JEC-2500「電力用保護継電器」部分改正の概要

杉浦秀昌（東芝エネルギーシステムズ）・金山哲也（明電舎）・○前原宏之（東芝エネルギーシステムズ）

電気規格調査会保護リレー装置標準化委員会では，令和5年3月にJEC-2500-2010「電力用保護継電器」を部分改正し，追補1を発行した。今回の部分改正は，ディジタル形保護リレーの試験合理化を目的としており，改正内容について広く周知して活用を求めるために本論文にて概要を紹介する。改正の要点は，ディジタル形保護リレーの温度特性試験及び制御電源電圧特性試験について，所定の要件を満足できれば，個別規格で規定されている温度特性試験及び制御電源電圧特性試験を省略し，動作値試験で得られた動作値で代替できるとした点である。

6-201

JEC-2501「保護継電器の電磁両立性試験」部分改正の概要

○菅野喜伊（富士電機）・杉浦秀昌（東芝エネルギーシステムズ）・金山哲也（明電舎）

JEC-2501-2010では，方形波インパルスイミュニティ試験の電圧パルス波形立ち上がり時間を1ns以内と規定している。当規定を実現するために使用してきた水銀リレーが，「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」によって2020年以降製造が禁止された。これを受けて試験器製造業者では水銀リレーを半導体スイッチに置き換えた新しい試験器を開発したが，立ち上がり時間は3ns程度になり，規定の1ns以下は実現できないとの問題提起があった。そこで電磁両立性試験追補標準特別委員会を設置し，試験器製造業者の協力も得て電圧パルス波形の立ち上がり時間を1ns以内から3ns以内に部分改正する追補1を発行したため，内容を紹介する。

6-202

CIMとIEC 61850における変電所主回路構成データの変換に関する考察

◎堂﨑隆志・漁野康紀・川﨑航太（電力中央研究所）

IEC 61850適用システムの構築においては，システム構成記述言語（SCL）をもとに，主回路構成等の情報を記述したシステム仕様記述（SSD）ファイルを作成し，システム構築を担う事業者に展開することが想定されている。この際に，一送が管理している主回路構成データをSCL形式に自動変換できれば，SSDファイルの作成における省力化が実現できる。加えて，主回路構成データが共通情報モデル（CIM）を用いて表現されていれば，CIMとIEC 61850の情報モデルの対応関係を適用できる。
しかし，両者の対応関係だけではCIMから不足なくSCL形式に変換できるとは限らないため，本稿では，CIM とIEC 61850における変電所主回路構成を表す情報モデルの違いと変換時の留意事項を明らかにする。

6-203

IEC 61850規格対応インタフェース機器の協働開発

◎山本 賢・戸井雅則（富士電機）・小島敏明（オライオンコーポレーション）・武藤公人・須永和行・篠原宗城（第一エレクトロニクス）・鮫澤真吾・齋藤慎司・北田有弥（不二電機工業）・杉田浩平（富士電機）

日本国内のデジタル変電所技術・IEC 61850通信技術の普及促進を目指し，著者らは開発協業体制（コンソ―シアム）を結成し，低い開発投資でかつ迅速にIEC 61850通信対応機器の共同開発を進めている。
本著では，コンソーシアムで開発中の製品（リモートIO，交流電気計測トランスデューサ）を紹介および今後のコンソーシアムの活動計画を紹介する

6-204

セミプロセスバスシステムを適用した保護リレーシステム

◎本郷棟大・森 貴弘・山守 渉・大澤 渉（東芝エネルギーシステムズ）・関 昌也・田村恵子・武井勝則・佐野優作（東京電力パワーグリッド）

千葉印西変電所では，保護装置は制御に必要な情報をプロセスバス経由で送受信するが，CT/VTからの電気量導入とトリップ出力は従来通りメタルケーブルを用いている。このような特徴をもつプロセスバスをセミプロセスバスシステムと呼称する。セミプロセスバスシステムを適用した保護リレーシステムは，SV受信能力や全系同期についての考慮は不要となる。さらに，電気量導入からトリップ出力はプロセスバスによる通信遅延時間の影響を受けることがないため，保護機能の信頼性や事故除去時間は従来からの要求仕様を満足できる。また，プロセスバス経由で入力する制御情報が途絶しても，電気量導入とトリップ出力は途絶しないため，可能な場合は保護を継続することができる。

6-205

IAO統合親局開発によるIAO子局のマルチベンダ化について

◎楳内翔太（中部電力パワーグリッド）・宮崎哲也・桑本 隆・能見惇也（中電シーティーアイ）

本報告では，IAO（Integrated Automatic Oscillograph）統合親局の開発を通じたIAO子局のマルチベンダ化について紹介する。従来のIAOメーカは1社独占で各事業所ごとに分散設置されており，設備更新が高コストであった。IAO親局機能をサーバへ集中化し，他メーカIAO子局を受け入れるための環境をサーバ上に構築することで，IAO子局調達コストとIAO親局更新コストの削減を実現した。このマルチベンダ化のためにサーバへ実装したオシロ波形表示高速化，グルーピング，瞬低情報算出などの一部機能について紹介する。

6-206

無次元解析と複素代数を用いた電力系統周波数計測法による系統動揺の直接検出

○関 建平（三菱電機）

電力系統の周波数を高速かつ高精度に計測するため，フーリエ変換や補間法から，対称性原理を活用する代数学および幾何学的な手法に変更し，群論や体論を試みた。その結果，プローニー解析法で間接的に系統動揺を検出するのに対し，新しい周波数計測法で直接検出することに成功した。本文では，無次元解析を用いて周波数計測問題を動揺位相計測問題に変更し，周波数変動係数を定義し，周波数偏差計算式を導出する。さらに，複素数代数構造を持つ交流N元数を構築し，対称変換操作と余弦定理を用いて周波数変動係数を算出し，電力系統周波数のスケーリング則を発見した。実測データを用いて異なる次元での周波数計測結果を比較し，位相跳躍直後の系統動揺を直接確認した。

6-207

再生可能エネルギー導入地域グリッドの実現に向けた短絡検出対策の検討

○吉山和宏（東京電力ホールディングス）

昨今，地震や台風等により大規模停電が発生し，電力インフラのレジリエンス強化の重要性が認識されている。この強化策として既存配電線を活用した地域グリッド（以下，地域MG）の構築が考えられるが，インバータベースの再生可能エネルギー（以下，再エネ）が主電源の場合は，通常系統の電源構成と異なるため，課題の洗い出しと対策の必要がある。これらの検討のため，NEDO事業にて，将来の再エネ主電源地域MG導入の円滑化に向けて検討を進めている。今回これまでの検討のうち，特に対策方式が難しいと考えられる短絡保護方式の検討内容について報告する。

6-208

市街地へのPV大量導入時におけるSVRを用いた電圧変動抑制手法の評価

◎風間裕吏（芝浦工業大学）

近年，地球温暖化対策によるCO2排出抑制として再生可能エネルギーが注目され，太陽光発電や風力発電といった分散型電源が増加し，配電系統に大きな影響を与えている。これらの分散型電源は，従来の集中型電力供給方式と異なり，発電場所が需要地に分散して存在するため，配電系統への逆潮流の発生が増加しやすく，系統内で電圧が大きく変動してしまう。このため，系統安定性確保のためにも電圧を一定の範囲内に調整しなければいけない。本稿では，SVR(Step Voltage Regulator：自動電圧調整器)を活用した一般的な市街地における電圧変動抑制を行うことを目標としシミュレーションを行った。

6-209

太陽光発電導入時の蓄電池による電圧制御の考察

◎束田悠馬（芝浦工業大学）

近年,二酸化炭素排出量増加に伴い二酸化炭素の削減目標が定められている。具体的に日本では2021年4月に2030年度において2013年に比べ温室効果ガス46%削減,2050年には完全なカーボンニュートラルを実現することを目標としている。これに伴って再生可能エネルギーの導入が進められ,その中でも太陽光発電の導入が増加している。PVの大量導入に伴い電圧の変動率が不安定になることや逆潮流といった問題が生じ,配電系統において周波数の変動や電圧変動率が不安定になるなどの問題が生じる。また電圧変動率は適正範囲(±2%以内)に収める必要がある。この問題を解決するためにSVCによる無効電力制御や蓄電池による有効電力制御がある。本稿では蓄電池モデルの作成,並びに蓄電池における有効電力制御を検証する。

6-210

異常検出線で検出される電圧値を用いた短絡点推定に関する一考察

○児玉安広（産業施術総合研究所）・植村 篤（葛尾創生電力）

配電線の故障には，電気が漏れる地絡，電線が切れる断線，電線同士が接触する短絡がある。配電線にこれらの故障が発生すると，故障点を除去し電力設備の改修が完了するまで電力供給が中断する。電力供給を早期に復旧させるためには故障点を早期に検出する手法が必要となる。
そこで，著者は，よりシンプルな方法として短絡発生時に異常検出線の配電用変電所（SS）側で測定される電圧の大きさから短絡点を推定する手法について検討を行った。本提案手法は，異常検出線で測定される電圧から短絡点を推定できる簡易な手法である。

6-211

1次元畳み込みニューラルネットワークを用いた地域独立系統の地絡検出に関する検討

◎山口優人・飯岡大輔（中部大学）

インバータ電源で構成された地域独立系統で短絡や地絡の事故が発生した場合，従来の電力系統と同様に，速やかに事故の発生を検出し，事故電流を遮断する必要がある。しかし，従来の電力系統における保護制御システムをそのまま地域独立系統に適用しても，インバータ電源からの事故電流が小さいことや，配電線の対地静電容量が小さいことなどの理由から，確実に事故を検出できない可能性がある。そこで本研究では，機械学習による異常検知の技術を保護制御システムに応用することを考え，配電系統の地絡検出に使われる地絡方向リレーの機能の一部に1次元畳み込みニューラルネットワークを適用することについて検討した。

6-212

送配電線用非接触センサー検知信号の減少率防止の検討

◎武藤壮海・雪田和人（愛知工業大学）・谷口謙悟（日本高圧電気）

電力会社の配電システムは，電柱，電線，トランスなどで構成され，広範囲に敷設されているため，障害発生時の特定が困難であるとされている。その中で電力線の電圧検知を担う送配電線用非接触センサーは，電力網の安全性を支える重要な装置である。しかし，雨や汚れがセンサー表面に付着すると電圧信号が減衰し正確な測定が困難になる問題がある。そこで本研究ではプラスチック段ボール製の簡易カバーを用い雨によるセンサー出力減衰の低減効果を検討した。