第18回日本物理学会Jr.セッション(2022)

Jr.セッションは中高生による物理的内容を含む理科の研究発表の場で,世界物理年の2005年からスタートしました。
Jr.セッションは,毎年日本物理学会年次大会で開催しています。

宇宙

宇宙の将来はどうなるのだろうか。
宇宙が膨張している,ということはご存知ですよね。最近,宇宙の膨張が加速しているという証拠がみつかりました。宇宙の進化発展はアインシュタイン方程式によって表されます。宇宙の進化が方程式で表されてしまうこと自体驚くべきことですが,その中のパラメータによっては加速がどんどん大きくなり,ついには原子核さえもばらばらになってしまうという計算もあります(Big Rip)。でもそれは数百億年よりもっともっとずっと先のことですし,最新の測定結果ではそれほどの加速膨張は起こらないようです。宇宙の膨張が続くと遠くの銀河は遠くなり見えなくなって私たちだけの銀河系だけになるようです。
それよりもっと前の現実の問題として太陽の死があります。数十億年先には太陽はどんどん大きくなり,地球も飲み込まれてしまうということです。いやもっと前の切実な問題,地球の温暖化などがありますね。(渡邊靖志)
ブラックホールの有用性を見出すことは可能なのでしょうか。
観測衛星をブラックホールに接近させることすら未来の課題なので,もし可能であったとしても遠い未来のこととなりますが,ブラックホールの利用可能性はいくつか考えられています。数理物理学者ロジャー・ペンローズは,回転するブラックホール(カー・ブラックホールといいます)がつくるエルゴ球からエネルギーを取り出せるメカニズムを考え出しました。ペンローズ過程,あるいはペンローズ・メカニズムといいます。また,相対論研究者のキップ・ソーンはカー・ブラックホールにゴミを捨てて,回転エネルギーを得るという,ゴミ問題とエネルギー問題を一挙に解決する案を提案しています。しかし,いずれも思考実験です。なお中性子星は,強い磁場を持っていて,高速で回転(自転)しています。強い磁場を持った物体が回転すれば,電磁波を放出します(このため中性子星はパルサーとして発見されました)。これは中性子星の回転のエネルギーを取り出すことの可能性を示しています。(並木雅俊)
ブラックホールになってしまった天体はずっとそのままの運動を続けるのか。
天体(恒星)がブラックホールになっても,質量が変わらなければ,ブラックホールになる前と重力環境は同じなのですから,運動に変化はありません。例えば,突然(爆発もなく),太陽(半径約70万km)が重力崩壊して半径3kmのブラックホールになってしまっても惑星の軌道に変化はありません。もちろん,太陽からのエネルギーがなくなってしまいますので生活はできなくなってしまいますが…。
恒星の多くは2重星です。この一方の星が,星の進化の最期である超新星爆発を経て,ブラックホールになったとします。すると,もう一方の星からガスが流れ出してブラックホールに落下するという現象が起ることがあります。ガスは角運動量を持っていますので,直接落下することはなく,ブラックホールを中心とした円盤を形成することになります。この円盤を降着円盤といいます。ブラックホール候補としてあげられた白鳥座X‐1は,近接連星系の一方がブラックホールとなり,もう一方が巨星に成長した姿と考えられます。(並木雅俊)
なぜ宇宙は広がっているのか。宇宙の広がり方。
なぜ…には答えることはできませんが,どうしてこのように考えているのかには答えることができます。
エドウィン・ハッブルが宇宙膨張を唱えたのは,1929年のことです。ハッブルは,銀河までの距離(r)と銀河の赤方偏移の大きさを測定して,これらが互いに比例関係にあることを見出しました。ここでの赤方偏移とは,銀河内の元素が発する光の波長が長い方にずれることをいいます。光のドップラー効果を考えると銀河の赤方偏移の大きさは銀河の後退速度(v)と比例関係にあります。このため,v=H0rと書けます(H0をハッブル定数といいます)。このような関係が,宇宙のどこでも成り立つはずなので,宇宙が膨張していると考えたわけです。これは,アインシュタイン方程式の解となっています。
ビッグバン直後より100億年以上経た現在では,膨張の速度は衰えているのではないかと考えられていました。これを確かめるには,非常に遠方にある銀河の膨張速度を測定すればいいわけです。遠方にある銀河はその離れている分だけ過去の姿を見せてくれるからです。遠方の銀河までの距離は超新星を使いました。結果は,1998年に発表されました。何と宇宙は加速膨張しているという結果でした。このことは他の観測データからも確認されました。宇宙は加速的に広がっているのです。理論的には,アインシュタインの導入した宇宙項で説明しています。(並木雅俊)
どうして何も存在していないところから,宇宙が誕生したのかということを疑問に感じています。
どのようにして宇宙ができたのか。
車椅子の天才と知られるホーキングなどが唱えているのでよく知られているようですが,一つの学説に過ぎません。ビッグバン宇宙論は,ほとんどの科学者が本当のことと信じています。銀河の距離と後退速度の関係から知られた宇宙膨張(1929年,ハッブル)と宇宙背景放射の観測(1965年,ペンジャスとウイルソン)がこの理論を支えているからです。ビッグバン宇宙論によると,過去に遡っていくと宇宙はどんどん小さくなります。すると,最後は点になってしまうのでしょうか。宇宙はどのように誕生したのでしょうか。そのような小さな領域は量子力学により扱えるかも知れません。そんな小さな領域は絶えず揺らいでいて,物質と反物質ができたり消えたりしています。ホーキングの説は,その一つがトンネル効果により現実化して,宇宙が誕生したという説です。さらに,究極の理論の最有力候補,超弦理論によれば,半径Rの宇宙と半径1/Rの宇宙とは同等だということです。すなわち,宇宙が収縮し,究極のサイズを超えて小さくなっていく宇宙は,膨張していく宇宙と同じであるという大変奇妙で興味深い結論です。しかし,これらの理論は,まだ到底確立した理論とは言えません。(渡邊靖志,並木雅俊)
タイムマシンを作れるか。また,できるとしたらいつできるのか。
できると凄いですね。天才数学者クルト・ゲーデルがアインシュタイン方程式を回転する宇宙という条件の基で解いてその宇宙では過去への時間旅行が可能であることを示し(1948年),相対論学者キップ・ソーンがワームクホールを利用してタイムマシンが作れるという論文(1989年)をフィジカル・レビュー・レターに発表したり,それに宇宙物理学者リチャード・ゴットⅢが宇宙ひもタイムマシンを考案したりして,話題を呼びました。よく議論されているように,タイムマシンで過去に行き,過去を変えてしまうと,歴史が変わって困ったことになります。たとえば,両親となる2人が結ばれないようにしたりすると自分は生まれて来ず,この世にいないことになります。また祖父殺しのパラドックスというものもあります。このようなことが起こらないようなタイムマシンは作れるかも知れませんが,現在のところ誰も答えを知りません。ホーキングは,時間順序保護仮設を唱えて,過去への時間旅行が不可能であると論じています。
未来へ行くことは可能です。一般相対性理論によれば,重力が強いところでは,時間がゆっくり流れます。ブラックホールや中性子星の近くで(大変な重力に耐えて)しばらく過ごして戻れば,もとの世界はずっと未来の世界になっています(重力の違いによる時計の狂いは現実に観測されていて,GPS(Global Positioning Satellite)の原子時計を補正するのに使われています。補正が無いと位置を正確に予測できません)。さらに,「双子のパラドックス」はご存知だと思います。光速近い速度で宇宙旅行をして戻ってくると未来にいる自分を発見します。(渡邊靖志,並木雅俊)
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